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草間武彦・捕り物帳
1.
「るんるんる〜ん♪」
今日は楽しい振込み日。
鼻歌交じりで機嫌よく食器を洗う草間零さん。
今日の振込みは、滞納していた家賃や光熱費を払い終えてもまだ余りあるほどです。
久しぶりに今日は奮発して美味しい物だしましょうか・・・などといつもにも増してにこやかな零さん。
しかし、コトは起こってしまうのです。
「あれ? お兄さんお出かけですか?」
食器を洗い終え、台所を出たところですれ違う兄妹。
「あ、あぁ。ちょっとパチ・・・いや、なんでもない」
言葉を濁し足早に去り行く兄に違和感を感じたものの、素直な零さんは鼻歌まじりに未払いの家賃や光熱費を払い込みに行こうと興信所室内へと足を踏み入れました。
そして、目撃してしまったのです。
「・・・ない!!」
机の上においておいた大切な零さんの財布から、今日下ろしてきたばかりのお金がそっくりなくなっています。
そして思い当たる犯人は・・・
「誰か兄さんを捕まえてくださいーーーーー!!」
2.証言者・初瀬日和(はつせひより) さん(16)
「零さんが奮発なさるって言うからお手伝いに来たんですが・・・」
「どうしたの!?」
零の叫びに奥で資料を片付けていたシュライン・エマはとにかく零を落ち着かせ事情を聞いた。
「よ、久しぶり〜」と門戸を叩いた門屋将太郎(かどやしょうたろう)、「どうしたんですか?」とこちらも久しぶりに草間興信所を訪れた丈峯楓香(たけみねふうか)。
そして、食材を持って現れた初瀬日和(はつせひより)と羽角悠宇(はすみゆう)にそれぞれ事情を説明した。
「草間さんが公金横領した」
そう一言、真面目な顔で言ったのは門屋。
「門屋さん、まだ決まったわけじゃ・・・」
エマは苦笑して門屋をたしなめた。
「でも、零ちゃんがちょっと目を離した隙になくなったんなら、やっぱり草間さんが怪しいよね〜・・・」
ソファに座っていた楓香は、そう言うとふむっと考え込んだ。
「零の苦労も知らないで、不届き極まりないなぁ草間さん。そーいうのよくないよなぁ」
「零さんも、皆さんも落ち着きましょう! コトに及ぶ前に取り押さえればなんとかなりますから!」
ため息まじりに言った悠宇に、日和が皆を落ち着かせようとそう言った。
「・・・そうだよね。とりあえず白黒はっきりさせなきゃいけないよね」
楓香がそう言って立ち上がった。
目は既に草間がどこに行ったのかを一生懸命考えているようだ。
「んじゃ、手っ取り早く探してお仕置きといきますか」
バキバキと指の音を鳴らしにやりと笑った門屋に、零が不安そうな顔をした。
それに気がつき、門屋は零の頭をポンポンと叩いた。
「酷いことしねぇから心配すんなって」
「お願いします・・・」
動き出した楓香と門屋にエマが声をかける。
「私は事務所で最近武彦さんが担当した依頼を調べてみるわ。もしかしたら依頼関係で必要になって持って行った・・・ということもありえるものね」
「じゃあ、俺らも草間さんとっ捕まえに行くか」
「そうね。すいませんが、零さん。食材、冷蔵庫お借りしていいですか?」
日和がそう言うと、零は「はい」と食材を受け取った。
こうして、草間捕獲班は2班に分かれることとなった・・・。
3.証言者・海原(うなばら)みなも さん(13)
「来る途中、機嫌のいい草間さんを見ましたけど・・・何かいいことあったんですか?」
門屋たちが草間を追いかけて出て行ったのとすれ違いに、興信所にいつものセーラー服で現れた海原みなもがそう聞いた。
その言葉に、シュライン・エマと零は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「まだ、武彦さんがやったと決まったわけじゃないんだけどね・・・」と簡単かつ明確にみなもに説明をするエマ。
「泥棒したんですか!? 草間さん!?」
聞き終えたみなもも驚いた顔をした。
だが、すぐに冷静になるとこう言った。
「・・・いいえ、物的証拠がない以上草間さんを疑ったりしたら悪いと思います。あたしは草間さんを信じます!」
「ありがとう、みなもちゃん。門屋さんや羽角君たちが今武彦さんの足取りを追っているから、私は事務所で色々調べようと思っていたの。手伝ってくれるかしら?」
力強く言い切ったみなもに、エマはにっこりと笑った。
みなもの素直さが、エマにはとても心強かった。
「既にどなたか草間さんを追っているんですね。よかった。万が一お金を持っていったのが草間さんだったら、使われてしまうかもって・・・あ! 別に疑ってるわけじゃないんですけど・・・」
言葉半分にみなもはそう言い、「それじゃ探しましょうか!」と明るく誤魔化した。
「よろしくお願いします」
零が、泣きそうな顔でエマとみなもに深々とお辞儀をした・・・。
4.証言者・シュライン・エマ さん(26)
「人助けの為かも、と、どこかで信じていたい気持ちもあったりして・・・」
ごそごそと草間の定位置である机の上、引き出し、ファイルを順番に片付けながら探し始めるエマ。
一方、みなもはというと机の横に置いてあったゴミ箱や新聞紙などを丁寧に広げて探している。
どうやら間違って紛れ込んでいるという可能性を探っているらしい。
零は・・・と見ると、記憶違いの可能性もあるかもしれないとみなもに言われ、金庫などの興信所の機密部分をくまなく探っている。
「あたし、他の部屋のゴミ箱も見てきますね」
そう言ってみなもが出て行った。
「今度は台所を調べてきます。もしかしたらあちらに持っていったのかも・・・」
語尾を濁しつつ、零は淡い期待を込めて台所へと向かった。
そして、エマはだれもいなくなった事務所内で少し考えた。
もしも・・・武彦さんが本当に取って行ったのなら・・・?
そう考えたエマは、いつか見つけた草間のへそくりを思い出した。
椅子の背もたれに向かい合い、慎重にめくると・・・
「2枚増えてる」
そこに現れた福沢さん12枚を確認すると、エマは再び椅子を元に戻した。
もしもの時は生活費ここから出してしまおう。
もし遊ぶ為に持っていったなら、ここから減るのが正しいのだものね。
誰も見ていなかったが、もし誰か見ていたらきっとこう言うだろう。
「シュラインさんは敵に回さないほうがいい」・・・と。
5.証言者・草間零 さん
「これ以上滞納したら、追い出されてしまいます・・・」
「こちらは見つかりませんでした・・・」
興信所のソファに座り、一息入れる。
興信所内のゴミ箱、雑誌、その他隅から隅まで探したらしいみなもが、ガックリとうなだれてそう言った。
「こちらも駄目でした。・・・やっぱり兄さんが・・・」
フゥッと軽くため息をついた零は、そう言ってエマの反応を待っている。
「とにかく、事務所内にないと分かった以上次の行動に出ないといけないわね」
「そうですね。零さん、草間さんが行くような場所に心当たりはありますか?」
みなもがそう聞くと、零はうーんと考え込んだ。
「パチ・・と言ってましたから、パチンコではないかと」
「パチンコ屋さん・・・」
零の言葉に、みなもはわずかに顔を曇らせた。
「武彦さん、パチンコ好きだから」
苦笑したエマに、みなもも苦笑した。
「ご近所のお店に聞き込みしつつ、行ってみましょうか」
立ち上がり、エマはみなもにそう言った。
「そうですね。もしかしたら、零さんのかわりに家賃を払いに行っているのかもしれませんしね」
うんっと力強く頷き、みなもは元気に立ち上がった。
その顔はまだ草間を信じている前向きな笑顔だった。
「それじゃ、私は待機して皆さんの連絡係になりますね。兄さんが帰ってくるかもしれませんし」
みなもの言葉に、零も少し元気を取り戻したらしくにっこりと笑ってそう言った。
「そう。それじゃ、お願い。行ってくるわね」
エマとみなもはそう言うと、興信所から出陣したのだった・・・。
6.証言者・羽角悠宇 さん(16)
「ギャンブルなんて非建設的なことのどこが楽しいんだろ?」
近所の顔なじみのタバコ屋で草間が新装開店のパチンコ屋方面に歩いていったという証言を得たエマとみなも。
2人はそのままパチンコ屋へと道をたどっていく。
と、目的のパチンコ屋前で悠宇と日和にバッタリと出くわした。
「シュラインさん。事務所の方調べ終わったんですか?」
日和が心なしか嬉しそうにエマに尋ねた。
「えぇ、みなもちゃんと零ちゃんに手伝ってもらったから・・・で、日和ちゃんと羽角君がここに居るってことは武彦さんはこの中?」
エマがそう聞くと、日和と悠宇は顔を見合わせこくんと首を縦に振った。
「今丈峯さんと門屋さんがパチンコ屋の中に・・・」
と言いかけたところで勢いよくパチンコ屋の扉が開き、問題の張本人・草間と楓香、そして健康サンダルを振りかぶりつつ門屋が走り出てきた。
「この! 大人しくしろ!!」
怒りの形相で門屋が叫ぶ!
「俺が何をしたってんだ!」
必死に逃げる草間!
「お金返しなさいよ〜!!」
そして、食い下がる楓香!
しかしながら腐っても興信所所長。
逃げ足は天下一品で、中々その距離は縮まらない。
「く、草間さん!」
みなもが慌てて呼び止めようとしたが、草間にその声は届いていない。
偶然を装って呼び止めようと思ったが、ここまでエキサイトしていてはきっと捕まらないだろう。
エマはそう思って考え込んだ。
「しょうがねーなー」
そう言って悠宇が小さく体を揺らした。
同時に日和も何か言っていたようだ。
そしてその直後、小さな竜巻が2つ、草間の進行方向へと走っていく。
草間はそれに足を取られ、そして・・・
パッコーーーーーン!!!!
門屋の健康サンダルが脳天に炸裂したのであった・・・。
7.証言者・門屋将太郎 さん(28)
「お前が悪いっ!!」
「違うって! 俺は単に零の代りに家賃を払いに行こうと・・・」
「何も聞いてないうちから、どうしてそんな謝罪の言葉が出るのかしら?」
捕まえ連行する道中、草間はそんな言い訳を延々としていた。
それに対し、呆れるやら怒れるやら反応は人様々であった。
エマが携帯で零と連絡を取り、草間から奪還したお金はその足で家賃や光熱費などの振込みしていくこととなった。
「俺は無実だ〜!!」
「皆さん、ご協力ありがとうございました。無事に家賃も支払えましたし、事務所を追い出されなくてすみました」
深々と礼をし、顔を上げた零の顔は晴れやかで爽やかだった。
一同を待っていた零は、どうぞと奥の和室へと一同を招いた。
そこには色とりどり、和洋折衷の料理が並べてあった。
「うっわ〜!! すっごおおおぉい!!」
楓香がキラキラとした目で料理を眺めつつ手近な座布団へと陣取った。
「ほんのお礼です。いつも皆さんにはお世話になりっぱなしなので。あ、初瀬さんが持ってきてくださった材料も使わせていただきました」
日和に深々と礼をする零に、日和も深々と礼をする。
「お! 焼き魚に筑前煮か。いい選択だな」
門屋が嬉しそうに座布団の上に胡坐をかいた。
「麻婆豆腐にシュウマイ、春巻きに餃子・・・白いご飯によく合うよな。うまそ〜」
「あ、零さん、おいしそうに作ってくださってる」
ニコニコと和やかに座る悠宇と日和。
「みなもちゃんも座りましょう」
エマがそう促すと、みなもはちょっとためらったあと「はい」と素直にエマの隣に座った。
「デザートには苺のミルフィーユやタルトもありますから」
いそいそとお茶を用意しながら零が言う。
・・・と。
「あの〜・・・俺の場所は?」
声が、あまりにも明るく悪びれもせずに聞こえた。
その声の主に一瞬静寂が訪れ、そして一斉に痛い視線が集中する。
「武彦さんはダメよ」
その声と共に、シュルシュルと小さくなっていく草間。
笑い声と共に、草間興信所の小さな宴会が始まった。
あとでおにぎり位は作ってあげましょうか。
エマは、そう思いながら今は草間を懲らしめておくことにしたのだった・・・。
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■□ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) □■
0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1522 / 門屋・将太郎 / 男 / 28 / 臨床心理士
1252 / 海原・みなも / 女 / 13 / 中学生
3525 / 羽角・悠宇 / 男 / 16 / 高校生
3524 / 初瀬・日和 / 女 / 16 / 高校生
2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 15 / 高校生
■□ ライター通信 □■
シュライン・エマ様
この度は『草間武彦・捕り物帳』へのご参加ありがとうございました。
本編は草間氏の未遂事件として解決しました。皆様のおかげです。(^^)
プレイングの『何気なく近づいて・・・』というのが入れられなくて実は悔しいです。
しかし、エマ様は毎回色々なところに気がついておられて大人な対応・・・さすがだと思います。
それでは、またお会いできることを楽しみにしております。
とーいでした。
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