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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


Carnival 〜思い出のあの街〜


 神聖都学園高等部職員室で、ちょっと対照的な同期の教師が二人、コーヒーを飲みながら何かを話している。
「今年もやるね、清比良祭り」
「そうね。懐かしいわね」
 まだ小学生・中学生だった頃は、毎年のように参加していたお祭り。
 感慨にふけっているのは、音楽教師の響カスミと、情報講師の都波璃亜。
 同じように楠木中学校を卒業し、神聖都学園高等部に入学した二人は、同じように神聖都学園の教師になっていた。
「ねぇ、生徒何人か連れて、お祭り参加してみない?」
 突然の璃亜の言葉にカスミはコーヒーを口に運ぶ手を止め、微笑む。
「そうね、久しぶりに良いかもね」
 そうこなくっちゃと、璃亜は清比良祭りのチラシを取り出し、掲示板へと張りに行く。

“楠木町清比良祭り 3月*日 参加希望は響まで”

「私ですか…」
「だって、私高校にいない事多いから」
 大学の講師も勤め、なおかつ研究室に籍を置き、自分の授業の時間以外は高等部に顔を出さない璃亜にカスミは苦笑をもらす。
「それなら私だって、音楽全て受け持っているのよ」
 同期の幼馴染の教員二人は、そんな会話を交わしながら参加者が来るのを待っていた。
 チラシを掲示してから数日後、一人の女性がそのチラシを眼の留める。
「お祭りですか〜。面白そうですね〜」
 よくよくチラシを読んでいくと、
「じゃぁ響先生に〜連絡して〜」
 と書かれており、女性は意気揚々と職員室へと足を運んだ。



【お祭りへ行こう】

「あら、都由さん。どうしたの?」
「あのね〜、あたしもお祭り参加したいと思って〜」
 神聖都学園の購買部を預かる鷲見条・都由は、先日見つけたチラシのとおりに響に参加希望を申し出た。
「それでね〜、そのお祭りってどんなのか聞こうと思って〜」
「都由さん出るの!?止めた方が……」
 あまりの驚きに職員室中に声が響き渡り、教頭先生のコホンという咳払いにカスミは顔を赤くして椅子に座り直した。
「ダメかしら〜?」
「ダメって事はないわ。がんばってね都由さん」
 そして、カスミはお祭りの内容を話し出す。
 毎年恒例3月に行われる清比良祭りは、年男と呼ばれる選ばれた人間に、一般人が触る事で厄を落とすというお祭り。
 年男は人の厄なんて肩代わりしたくないから逃げるし、触るほうは積もり積もった厄を払ってほしくて年男を追いかける。
 でも、年男にはちゃんと公式ルートが決まっていてそれを外れてはいけない。だから、毎年年男はいろんな人に触られてへろへろになってたりする。
 別に本当なら、年男と限定する必要は無くて、年女でも都市動物でもなんでもいいのだけど、最近のご時世を繁栄して年女にすると変な所に障る輩が増えたから、女性は選ばれなくなったらしい。
 まぁとりあえず、鬼ごっこでいうならば、追いかける鬼が通常なら1人だが、追いかける人間が1人なので逆鬼ごっこと言えるだろう。
 重症人は出ないものの、人に押しつぶされたり転んだりと多少なりとも怪我人が出るのだが、あまりの剣幕に救護班も一団が過ぎるまでは何も出来ない事が多々あるらしい。
「ん〜、怪我したら〜大変かもしれませんね〜」
 都由はそれを聞くと片手を頬にあて、マイペースにそう答える。
 カスミは最後にスタート地点が書かれたチラシのコピーを都由に渡す。
「ありがと〜響先生〜」
「お祭りで会えたらがんばりましょうね」
 今年は久しぶりに参加する事になったカスミは、あの会場がどれだけ特定の人物に出会う事が難しい事を知っている。だからそんな言い方をした。
 都由はチラシを片手に意気揚々と当日の持ち物を考える。
(でも〜)
 鬼ごっこなだけに誰かが一番になるという事はないため、今回は趣味の一人トトカルチョが出来そうにないのが少しだけ残念だった。


|Д゚)人(゚Д|


 ヒラヒラしたものではなくジャージが一番好ましいとの助言により、都由はその年齢よりも幾分かおばさんっぽい格好で楠木町までやってきた。
 参加者は一応参加申請をしなければいけないらしく、都由は本部と書かれたテントへと足を運び、年ナマモノ公式ルートとかかれた地図を手に、スタート地点に立った。
 なんとか人を掻き分け今年の年男はどんな人なのだろう?と顔を出すと、小麦色のナマモノがヤル気満々に神主さんたちから行水の儀を受けていた。
「あらあら〜。かわいらしい年男さんだ事」
 どんなごっつい男が年男なのだろうか?などと考えていた都由の予想を裏切って、振り返った小麦色はつぶらな瞳を輝かせている。
 的が小さければ触りにくいのは当たり前で、都由はどうしようかしら?などと考えつつも、とりあえずお祭りなのだし楽しまなきゃ損よねと、年ナマモノの かわうそ? が走り出すのを待った。

 さぁ今年もやってきました清比良神社恒例『清比良祭り』!!
 今年の年男…いや、年ナマモノは かわうそ? だぁ!
 皆〜準備はいいかぁ!!
 得物は持ったかぁ(ぇ)!!
 司会はご存知、天津拓海でぇす!

 颯爽とママチャリで現れた中学生くらいの男の子のマイクによって、町中のスピーカーからお祭り開始の呼び声が響く。
「始まるのね〜」
 街の人の声援を一気に受けながら、運動会の銃声と共にお祭りは開始した。
 ジョギング宜しく走り出した都由の横をとんでもない速さで駆け抜けていく街の人達。
「あらあら〜」
 そんな人達の背にかかれている文字、楠木町カラオケ同好会。
カラオケ同好会の面々は出水川から駆け出した かわうそ? に群がっている。そんな肉の塊に都由が加われるはずも無くその光景を見守っていると、難なく同好会一同の足の隙間をすり抜けて かわうそ? はまた走り出していた。
「器用ね〜」
 一切の着衣の乱れも無く かわうそ? は隣で暴走している拓海のママチャリと同等の速度で走り抜けていく。
「うーん、追いつけるかしら〜」
 やっぱり自分の速度は変える事無く都由は規則正しいジョギングでその後を追いかけた。
 そんな中でも町内包装で拓海の軽快なアナウンスが聞こえてくる。これだけでも結構楽しめるといったもの。
「あら〜?」
 ふと、公式ルートから外れた一般の人用に用意されている出店に都由は瞳を奪われる。
「懐かしいわ〜鼈甲飴ね〜」
 とっとっと〜と出店に近づくと、出店のおじさんが細い飴で割り箸を軸にいろいろな飴細工を作っていく。昔はこの飴で作られた細工が綺麗でなかなか食べれなかったものだ。
「一ついただくわ〜」
 これもまたお祭りの醍醐味だと都由は鼈甲飴を買い、やっぱり綺麗な細工だわ〜と思いながら飴を舐める。
 口の中に広がる懐かしい味。
 ざらめをそのまま溶かしただけの甘いだけのなんの味もない飴。だけど、とても懐かしい気持ちになる。
 やっぱりお祭りだけに提灯がつるされた出店通りをフラフラと歩いていると、昔からある懐かしいものも、最近になって増えてきた新しいもの、いろいろな出店が並んでいた。
 第一出店通りを抜けると、かわうそ? が大通りを駆け抜けていった。
「公式ルートはこの周りを通ってたのね〜」
 鼈甲飴を舐め終わった都由は軸として使用されていた割り箸をゴミ箱に捨てると、かわうそ? を追いかける一団に加わる。
 やはり走る足音はかなりの騒音で、この一団がパニックに陥るような事があれば一大惨事となるだろう。
「通常ご参加の方は危険ですからこちらには入らないようにしてくださーい」
 などと赤棒を振っている公務員さんを横目で見ながら大変どわ〜などと思っていると、道路整理の公務員さんの一人が かわうそ? に蹴られ、拓海のママチャリに引かれていった。
 遠く拓海のアナウンスが聞こえる中、都由は駆け寄ると、
「大丈夫ですか〜?」
「はひ…大丈夫でふ……」
 と、鼻を押さえて起き上がった公務員さんに絆創膏を一つ手渡して、また都由は一団の後を追いかけていった。
 だが、途中で年ナマモノは中学校の屋上へとママチャリと共に駆け上がり、都由を含めた参加者一同はその光景をただ見つめるしかなかった。
 かわうそ? さんは居ないのだから、と都由は持参したお茶に一人舌鼓を打つ。
「も〜本当に、ハードなんだからぁ」
 二十歳くらいの中華っぽい格好をした女の子が、ふーっと息を吐きながら歩いていく。
「貴女もお茶いかが〜?」
「あ、ありがとうございます」
 女の子は都由の手からお茶を受け取ると、プハーっと一気に飲み干して、
「ありがとう!あたしが働いてるお店が、出店出してるんだ。お祭りが終わったらお礼に何かあげるね」
 女の子は都由に出店の名前を告げてまた走っていく。
 その数秒後、しばし消えていた拓海のアナウンスがまた高らかと響き渡った。


|Д゚)人(゚Д|


 商店街から清比良神社までは一直線だが、年男が神社に着いたら此処がメインのお祭り会場になるため、脇には沢山の出店が並んでいた。
 現在はこの一大鬼ごっこの為に、お店は開かれていない。
 都由は先ほどの女の子の出店は何処だろう?などと出店見聞を兼ねて軽い足取りで走る。
 どんどんと清比良神社の鳥居が大きくなり、結局都由は かわうそ? に触る事無く厄落としは終わってしまった。
「参加者の方は甘酒をどうぞ〜」
 神社の敷地内に作られたテントでおまたを振りながら大声をあげている巫女服の中学生くらいの女の子。
「甘酒いただこうかしら〜」
 都由は巫女さんから甘酒の紙コップを受け取った。
 結局余りの人の多さに、カスミに出会う事は無かったけれど、コレはコレで運動不足解消にもなるし、楽しいしと、都由は来年はどうしようかしら、などと考えて、あの女の子の出店まで行くと、袋一杯の駄菓子を貰ってしまった。
 こうして都由の清比良祭りは終わったのだった。








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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3107 / 鷲見条・都由 (すみじょう・つゆ) / 女性 / 32歳 / 購買のおばちゃん】

【NPC / かわうそ? / 無性別 / ? / かわうそ?】
【NPC / 天津拓海(あまつたくみ) / 男性 / ? / 中学生】


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■         ライター通信          ■
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 Carnival 〜思い出のあの街〜にご参加いただきありがとうございました。ライターの紺碧です。
 都由様は かわうそ? に触ることよりもお祭り全体を楽しみたいといった感がありましたので、あえてNPCとの絡みを押さえさせていただき、お祭り全体に参加できるよう書かさせていただきました。
 それではまた、都由様に出会える事を祈って……