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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


草間武彦・捕り物帳

1.
「るんるんる〜ん♪」

今日は楽しい振込み日。
鼻歌交じりで機嫌よく食器を洗う草間零さん。
今日の振込みは、滞納していた家賃や光熱費を払い終えてもまだ余りあるほどです。
久しぶりに今日は奮発して美味しい物だしましょうか・・・などといつもにも増してにこやかな零さん。
しかし、コトは起こってしまうのです。

「あれ? お兄さんお出かけですか?」
食器を洗い終え、台所を出たところですれ違う兄妹。
「あ、あぁ。ちょっとパチ・・・いや、なんでもない」
言葉を濁し足早に去り行く兄に違和感を感じたものの、素直な零さんは鼻歌まじりに未払いの家賃や光熱費を払い込みに行こうと興信所室内へと足を踏み入れました。
そして、目撃してしまったのです。

「・・・ない!!」

机の上においておいた大切な零さんの財布から、今日下ろしてきたばかりのお金がそっくりなくなっています。
そして思い当たる犯人は・・・

「誰か兄さんを捕まえてくださいーーーーー!!」


2.証言者・初瀬日和(はつせひより) さん(16)
「零さんが奮発なさるって言うからお手伝いに来たんですが・・・」

学校帰りに久しぶりに顔出してみよっかな〜♪

丈峯楓香(たけみねふうか)はそんな思いつきから久しぶりに草間興信所に足を向けた。
だが、久しぶりに来た草間興信所は、やけにドンヨリとしていた。
泣きそうな零に、考え込む事務員シュライン・エマ、そして着流し白衣の門屋将太郎(かどやしょうたろう)。

「ど、どうしたんですか?」

考え込む一同に、楓香はおもわず小声でそう聞いていた。
「兄さんが、下ろしたてのお金と共に消えたんです」
困り顔の零が楓香にそういって、コトの経緯を教えてくれた。
「マ、マジで!?」

そこまでアクドイ人だったなんて!
それならもっといっぱい、せしめとくんだった!

楓香は驚き、ソファに座ると色々と今までの草間の姿が走馬灯の様に思い出された。
その思い出の草間は、どれもこれもがなぜか悪人顔で思い出された。
と、再び興信所のドアが開いた。
そこには食材を持ってやってきた羽角悠宇(はすみゆう)と初瀬日和(はつせひより)がいた。
2人とも、楓香と同じように興信所の雰囲気に違和感を感じオロオロとしている。
そんな悠宇と日和に門屋は言い放った。

「草間さんが公金横領した」

「門屋さん、まだ決まったわけじゃ・・・」
門屋をたしなめたエマも、しかしその顔はやはり疑いを持っている顔だった。
「でも、零ちゃんがちょっと目を離した隙になくなったんなら、やっぱり草間さんが怪しいよね〜・・・」
ソファに座った楓香は、そう言うとふむっと考え込んだ。
「零の苦労も知らないで、不届き極まりないなぁ草間さん。そーいうのよくないよなぁ」
「零さんも、皆さんも落ち着きましょう! コトに及ぶ前に取り押さえればなんとかなりますから!」
ため息まじりに言った悠宇に、日和が皆を落ち着かせようとそう言った。
「・・・そうだよね。とりあえず白黒はっきりさせなきゃいけないよね」
楓香がそう言って立ち上がった。
目は既に草間がどこに行ったのかを一生懸命考えている。
「んじゃ、手っ取り早く探してお仕置きといきますか」
バキバキと指の音を鳴らしにやりと笑った門屋に、零が不安そうな顔をした。
それに気がつき、門屋は零の頭をポンポンと叩いた。
「酷いことしねぇから心配すんなって」
「お願いします・・・」
動き出した楓香と門屋にエマが声をかける。
「私は事務所で最近武彦さんが担当した依頼を調べてみるわ。もしかしたら依頼関係で必要になって持って行った・・・ということもありえるものね」

「じゃあ、俺らも草間さんとっ捕まえに行くか」
「そうね。すいませんが、零さん。食材、冷蔵庫お借りしていいですか?」
日和がそう言うと、零は「はい」と食材を受け取った。

こうして、草間捕獲班は2班に分かれることとなった。


3.証言者・丈峯楓香 さん(15)
「パチ・・・っていうのはやっぱりパチンコ屋の事かな?」

興信所を出た門屋、楓香、悠宇、日和は頭を付き合わせた。
「きっとまず缶コーヒーを買いに走ってると思うんですよね。草間さん、コーヒー好きですし」
日和がそう言った。
「タバコ屋も行くんじゃねーかな。下ろしたての金なら、まず細かくする為になんか買ったほうが楽だからさ」
「そのあとは定番のパチンコだな。パチンコ大好きらしいからな」
悠宇の言葉に頷きつつ、門屋はそう言った。
「でも、どこのパチンコ屋かな? うちの父さんは駅前のとかよく行くらしいけど・・・う〜零ちゃんに聞いてくればよかった!」
地団駄を踏む楓香に門屋はひとつ提案をした。

「じゃあ、二手に分かれたほうが早いかもな? 被疑者確保は早い方がいい」

すっかり犯人扱いの草間。
しかし、この中にそれに対して異議を唱える者はいない。
「じゃあ私と悠宇君でこちら方面を回りますね」
そう言った日和に、楓香が元気に答えた。
「じゃあ、門屋さんとあたしはあっち行きますね!」

そしてさらに2班に分かれての捜索となったのである・・・。


4.証言者・草間武彦 さん
「俺は独身貴族だ」

門屋と楓香はしらみつぶしに手近なパチンコ屋から当たっていった。
方法は? と言うと・・・。

「お父さんを探しているんです! 草間武彦っていうんです!!」

楓香のその一言で、店員が慌てて店内アナウンスを流してくれた。
「ここにもいないかぁ〜・・・」
楓香はチッと舌打ちして次の店でも同じ手口を使う。
「最近の娘は怖いもの知らずっちゅーか・・・」
「んふふ〜。いいでしょ〜♪」
門屋のその言葉に、楓香は自慢げに楽しそうに笑った。

そうして、数件回ったが中々草間のいるパチンコ屋に当たらない。
「・・・いないね〜・・・」
肩を落として歩く楓香。
春は近いというのに、吹きつける風は心なしか寒い。
「一旦、あいつらと合流するか?」
「そうだね。あっちで見つかってるかもしれないし」
そうして、門屋と楓香は悠宇や日和と別れた場所へと歩き出した。

「あ、いいところに来た! こっちこっち!!」
別れた場所近くまで来たところで、手を振っている悠宇の姿が目に入った。
「どうした!?」
門屋が慌てて駆け寄ると、人差し指でパチンコ屋を指差した日和が「あの中に居ます」と小さな声でささやいた。
「入って行くのを日和が見たから、間違いない。後ちょっと早かったら入る前に押さえられたんだけど・・・」
語尾を濁した悠宇に、門屋はピンときた。
「・・・そっか。おまえら高校生だもんな。入ったらまずいな。わかった。俺がちょっくらいって来る」
「お願いします。私と悠宇君は外で待ってますね」
日和が申し訳なさそうにそう言った。
「あ、あたしも行く〜! 全然平気でしょ、あたしなら♪」
「そういやおまえも高校生じゃなかったか?」

パチンコ屋に入る門屋と楓香はそんな軽口をたたきつつ、いよいよ犯人確保を目の前にしたのだった・・・。


5.証言者・羽角悠宇(はすみゆう) さん(16)
「ギャンブルなんて非建設的なことのどこが楽しいんだろ?」

店内に入ると早速楓香が先ほどまでの手口で店員に店内放送をするようにと掛け合った。
門屋は退路を断つ様に入り口付近へと移動した。

『草間武彦様〜草間武彦様〜。草間楓香さんがお待ちですので至急カウンターまでお越しください』

「・・・」
楓香の顔に緊張が走る。
門屋は視線を縦横無尽に走らせ、草間の姿をいち早くキャッチしようとした。
「・・・誰だ? 草間楓香なんて知り合いは・・・」
聞き覚えのない声が、確かに聞こえた。
「門屋さん! 居た!!」
「おぅ!!」

「!?」

いきなり目の前に躍り出た門屋に、瞬間怯んだものの草間は機敏に方向を変えて走り出した。
楓香は能力を使う暇も無く、草間を追いかけることにした。
「ち! 待て!!」
「い、いつのまに健康サンダル脱いだんですか!?」
「気にするな! 今は犯人捕獲が優先だ!」
手に持っていた健康サンダルを楓香がつっこんだにも関わらず、草間を追いかけ門屋はパチンコ屋の外へと。
楓香もそれに倣ってパチンコ屋の外へと走り出た。

「この! 大人しくしろ!!」
怒りの形相で門屋が叫ぶ!
「俺が何をしたってんだ!」
必死に逃げる草間!
「お金返しなさいよ〜!!」
そして、食い下がる楓香!

しかしながら腐っても興信所所長。
逃げ足は天下一品で、中々その距離は縮まらない。
「く、草間さん!」
いつのまに来たのか、海原(うなばら)みなもが慌てて呼び止めようとしたが、草間にその声は届いていない。
その隣にはやはりいつ来たのかエマの姿も見える。
「しょうがねーなー」
悠宇がそう言って小さく体を揺らした。
同時に日和も何か言っていたようだ。
そしてその直後、小さな竜巻が2つ、草間の進行方向へと走っていく。
草間はそれに足を取られ、そして・・・

パッコーーーーーン!!!!

門屋の健康サンダルが脳天に炸裂したのであった・・・。


6.証言者・門屋将太郎 さん(28)
「お前が悪いっ!!」

「違うって! 俺は単に零の代りに家賃を払いに行こうと・・・」
「そんな人がどうしてパチンコ屋さんにいるのよ〜? 大人のクセに往生際ワル〜!」
捕まえ連行する道中、草間はそんな言い訳を延々としていた。
それに対し、呆れるやら怒れるやら反応は人様々であった。
エマが携帯で零と連絡を取り、草間から奪還したお金はその足で家賃や光熱費などの振込みしていくこととなった。
「俺は無実だ〜!!」

「皆さん、ご協力ありがとうございました。無事に家賃も支払えましたし、事務所を追い出されなくてすみました」
深々と礼をし、顔を上げた零の顔は晴れやかで爽やかだった。
一同を待っていた零は、どうぞと奥の和室へと一同を招いた。

そこには色とりどり、和洋折衷の料理が並べてあった。

「うっわ〜!! すっごおおおぉい!!」
楓香がキラキラとした目で料理を眺めつつ手近な座布団へと陣取った。
楓香の好きな焼肉や、お団子も並べられている。
「ほんのお礼です。いつも皆さんにはお世話になりっぱなしなので。あ、初瀬さんが持ってきてくださった材料も使わせていただきました」
日和に深々と礼をする零に、日和も深々と礼をする。
「お! 焼き魚に筑前煮か。いい選択だな」
門屋が嬉しそうに座布団の上に胡坐をかいた。
「麻婆豆腐にシュウマイ、春巻きに餃子・・・白いご飯によく合うよな。うまそ〜」
「あ、零さん、おいしそうに作ってくださってる」
ニコニコと和やかに座る悠宇と日和。
「みなもちゃんも座りましょう」
エマがそう促すと、みなもはちょっとためらったあと「はい」と素直にエマの隣に座った。
「デザートには苺のミルフィーユやタルトもありますから」
いそいそとお茶を用意しながら零が言う。
・・・と。

「あの〜・・・俺の場所は?」

声が、あまりにも明るく悪びれもせずに聞こえた。
その声の主に一瞬静寂が訪れ、そして一斉に痛い視線が集中する。

「草間さんはナシ!!!」

その声と共に、シュルシュルと小さくなっていく草間。
笑い声と共に、草間興信所の小さな宴会が始まった。

情けは人のためならずよね〜♪
これで草間さんも懲りるはず! 正義は勝つ!!

モグモグと焼肉を頬張りながら、楓香はそんなコトを考えていた・・・。


−−−−−−

■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

1522 / 門屋・将太郎 / 男 / 28 / 臨床心理士

1252 / 海原・みなも / 女 / 13 / 中学生

3525 / 羽角・悠宇 / 男 / 16 / 高校生

3524 / 初瀬・日和 / 女 / 16 / 高校生

2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 15 / 高校生


■□     ライター通信      □■
丈峯楓香様

お久しぶりです。
この度は『草間武彦・捕り物帳』へのご参加ありがとうございました。
本編は草間氏の未遂事件として解決しました。皆様のおかげです。(^^)
娘を名乗っての呼び出し、大胆かつ実に効果的でしたね。書いてて楽しかったです。
能力を出せなかったのは残念でしたが、少しでもお楽しみいただければ幸いです。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
とーいでした。