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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


桜の季節

●プロローグ

 季節は桜の咲く頃を目前としていた、そんなある日。

「ほっほ、枯れ地に花を咲かせましょう」
 都市の真ん中で一陣の灰が舞い、白い煙に触れたビルや信号機や看板から次々と色鮮やかな花が咲いた。
 薄桃色のきれいな桜の花だ。
「そりゃそりゃ、都会に花を咲かせましょう、ほいっと」
 ぽん、ぽん、ぽん。
 ビルの壁面から桜の枝が現れ満開の花が咲き誇る。
 現代の東京に現れた花さかじいさんの手により、東京は次第に桜の中で包まれていった。

「――――で、それが俺に何の関係があるんだ?」
 パジャマ姿で電話を受け取った草間武彦は、憮然とした表情で問いただした。
 この花さかじいさんをどうにかしてくれとの依頼が興信所にもたらされたのだ。
「だから、ここはそんな怪奇事件の相談場所じゃない」と内心でボヤキつつ武彦は訊ね返す。
「でも、特に害はないんだろ?」
『害なら十分ありますよ! 伸びる桜の枝で交通網が麻痺したり、酔っ払いが昼間から暴れたりでもう大変なんです!』
 酔っ払いはともかく都市機能の麻痺はたしかに問題かもしれない。
 話から推測する限りでは、桜の精霊を使った仙術のようだ。
 これだけの規模で行っているとなると、相手は想像以上に高度な仙術の使い手であると予想される。
 寝癖の頭をかきながら武彦は受話器をおいた。
「さて困ったものだな‥‥」



●さくらのまち

 朝起きたら外は一面、さくらの世界だった。

 泰山府君・―(たいざんふくん・ー) は驚きで周囲を見渡す。
「な、何たる事態! 辺り一面桜と申す花だらけではないか!」
 あんぐりと口をあける。
 桜の樹に花が咲いているだけではない。
 壁に、道路に、電柱に――――街のあらゆる部分から桜の木の枝が伸びて複雑に絡みつき、満開の桜の花を咲かせていた。
 桜の森、桜の迷宮、いや、ここまでくると桜のジャングルとでもいいたくなるくらいに目の前の景色は桃色。さくらの色で染まっていた。
「これでは他の者が迷惑なだけだ。このままの状態が続けば、最悪の事態になりかねん‥‥」
 伸びた枝葉は都市機能を阻害し、一歩間違えれば犯罪にも繋がりかねないと懸念する泰山府君。
「強引にでもこの仙人の仙術を止めねば――――老人であろうと情けは無用!」


 平 代真子(たいら・よまこ)は目を覚ました。
 聴こえてくるのは小鳥の囀り。
 朝起きたら、外に桜の花が舞っているのが見えた。綺麗だと思い、外を見て、数秒、あちこちに桜が咲いているのを見て‥‥
「なんじゃこらー!?」
 と大口をあけて驚いた。
 しかし突っ立ってばかりもいられないので、なぜこういう状況になったのかと気になった代真子は原因を探そうと外に出る。
 春の風が吹く。代真子はその風には桜の灰が含まれていたのに気がつかなかった。
 飛んできた灰は代真子の腕にかかり、手から桜の花が咲く。
 しばし呆然。
「なにが起こってんじゃこらー!!?」
 またまた派手に驚く代真子であった。


 ファルス・ティレイラ(ふぁるす・てぃれいら) は珍しそうに外の風景を見つめていた。
「これ、とってもきれいなお花! 夢みたいにきれいで驚いちゃうの!」
 見渡す限り広がったさくらの海を眺めると、紫色の翼を持つ竜族の少女はにぱっとこぼれるような笑顔になった。
「私、きめたもん。さくらを咲かせるお手伝いする!」
 その風景が余りにも平和で幸せすぎたからかもしれない。
 こんな風景がずっと続いたらいいのに。
 こんな風景がもっと広がればいいのに。


 シュライン・エマ(しゅらいん・えま) は草間武彦からの電話を受けとった。
「んー‥‥やめさせないとね。こっちも一面桜だらけよ、武彦さん。手遅れにならなければいいのだけど」
 窓の外はすでに桜色で埋め尽くされている。
 テレビやラジオでも情報が出ていて、世間的には暖冬による桜の異常繁殖として納得されているようで、ニュースの評論家が「まだまだ植物には未知の性質があるようですね」などとのん気な解説を行っている。
『で、時間がかかるそうだが――』
「ええ、もうすぐ準備が終わるから」
『準備? 何の準備だ?』
「宴会用のお料理よ。楽しみにしていて、武彦さん」
 シュラインの前にはきれいに盛り付けされた宴会用料理(当然、武彦の好物入り)がお重に詰められていた。
「‥‥手、空いてたら武彦さん持ってね」
 シュラインの弾んだ声に武彦は「ああ‥‥」とだけ生返事を返した。


 海原 みなも(うなばら・みなも) は舞い降りる桜の花びらを手でうけた。
 桜吹雪舞う道すがら、アクシデントを予感して興信所に来てみたのだが。
「‥‥‥‥予想通りなんでしょうね」
「いらっしゃい、みなもさん。本日はどうされましたか?」
 出迎えた草間零からみなもは溜息をついてお茶を受けとった。
「アルバイトと言いますか、予想が当たっちゃいました」
「やっぱり。私はきれいだと思うんですけどね‥‥さくら」
「ですが、異常に伸びた根や枝なんかで街は大変で、難しい問題みたいですし」
「私、正直にいって今回の仕事は気が重いです」
 きれいなさくら。
 でも、桜で人々が困っている。なにより、本当に困っているのは人だけではないとみなもは思っていた。
「とは言え、このままでは桜の木が可哀想ですからね」


「これは‥‥なんて評せば、いいかな‥‥」
 丘 まと(きくおか・まと) は感慨深げに目の前の光景を見ていた。
 まとは適切な表現ではないが死人である。
 魂の流れから放り出されたのか、あるいは縛り付けられているのか‥‥。どちらにせよ、流転しない魂の持ち主、それがまとであった。
 桜はその美しさゆえに死を連想させ、死人と対で語られることも多い。
 何か感じる所でもあったのだろうか。
「桜の宴か‥‥僕も一役、買ってみても‥‥いいかも、ね」
 生と死から切り離された少年はのんびりした笑顔で歩き出した。


 仁科 星花(にしな・せいか) は女子高生にして巫女である。
 仕事としての巫女は休業中とはいえ、落ち着いた清楚なイメージといった佇まいから、巫女らしさというものは日々の生活ににじみ出てしまうものらしい。
 そして巫女に桜は良く似合うのが相場というものかもしれないが。
「ええと、何事が起こっておいでなのでしょう‥‥」
 さすがの星花もこの街を覆いかねない桜の山を前にして戸惑いを感じざる得ないようだ。一見、落ち着きは払っているように見えるが内心ではかなり動揺している。
「‥‥とりあえずお洗濯を取り込まないと‥‥あ、そんな場合じゃなくて異常の原因を調べてそれから‥‥そうです、準備に朝食をまずとらないと、そうですね、おかずはハンバーグにおしんこがいいかと‥‥あう、混乱してないよ、してないもん」
 十分に混乱していた。


 狩野 宴(かのう・えん) は美女とは何かについて考えながら陽気に釣られて散歩をしていると、はたと‥‥
「女性の美なんてねえ、考えるのではなく感じ、ただ愛でるのみだろうさ」
 との結論を得て「うむ」と満足そうに一人納得しながら歩みを止めた。
 いつの間にやら一面が桜の花で包まれている。
「ふふ、女性は桜に誘われるもの。これは好機というものかもしれないね」
 ‥‥今日の宴は女性の美を愛でるモードのようだ。桜の狂い咲きなどどこ吹く風。
 というか好機とはどういう意味なのだろう。
「ま、とりあえず様子を見にだけ行ってみようか。なんといってもこの時期、桜の下には美しい女の子が集まるからね」
 とカメラ目線で微笑む宴であった。


 雪ノ下 正風(ゆきのした・まさかぜ) は、呆然と街中で立ち尽くしていた。
 すでにとある筋の情報網から連絡を受けていて、現代に現れた花咲かじいさんの事件は知っていた。
 しかし、街の異変に圧倒されたり正義の義憤にかられているわけではなさそうだ。
「粋な事する奇特な良い人もいるもんだ。コンビニに行ってジュースとお菓子と弁当と酒を買ってお花見しようぜ」
 正風の周囲だけズッコケルように桜の花びらが滝のようにざざーと散った。
 周囲のリアクションを意に介せず感心したように桜を見上げながら頷く。そして足取り軽くスキップしながらコンビニへと向かう正風であった。

                             ○


 全員がそれぞれの理由でさくらに呼び寄せられる中、中華風の凛々しい武将がさくらの街を風のように駆け抜ける。
 黒髪の武将――泰山府君は舌打ちした。
「本人に悪気は無いにしろ、傍迷惑な行為は放っておけぬわ!」
 辺り一面のさくらの花の異変に怒りを覚えていた。はた迷惑にも程があろう。
 最初は地道に探していた泰山府君だが、次第にいらつきを覚えると、額の宝玉が白く輝きを放ち聖獣を召喚した。
 ――――白虎。
 その力を使い、風や動物に居場所を尋ねる。白虎の能力には万物との意思疎通能力もあるのだ。
 そうして仙人がいそうな場所を探していると、ようやくその姿を桜の海の中から見出した。
「枯れ木に花を咲かせましょう、ほっほ」
 通称としてコードネーム《花さかじいさん》と名付けられた老人は、桜の灰を撒きつつ、ひょいひょいとビルからビルへと身軽に飛び回っている。
 やはり只者ではないようだ。
 灰に触れたものは木も建物も問わずに、枝を伸ばしてきれいな桜の花をつける。都市が桜色に飲まれて、おぼれて、埋もれていく。
「いやー、たまにはこんな怪現象もありだね♪」
 いつの間にか隣に立っていた 雪ノ下正風 が、状況もわきまえずにのん気な声をあげた。
「花さかじいさんねえ‥‥。私としては老熟の仙人より麗しい木花咲耶姫にお会いしたい気分だけどね。はは」
 と、もう一方で爛漫の桜の下で優雅にワイングラスを傾けて苦笑してみせたのは狩野宴だ。
「貴様等、何処から現れおった!?」
「人を虫が沸いたようにでも表現されると気分がいいものではないが、はは、今日は幸いにも花見の席だ。非礼は気持ちよく流してあげようじゃないか」
「ま、そういうことだ。おーい! 陣取りできたから早速宴会はじめるぞー!」
 一部、同じように宴会チャンスを狙っていた人々が群れ集いあっという間にお花見会場が出来上がってしまった。
 宴と正風はお花見ギャルに囲まれドンちゃん騒ぎでウハウハだ。
「戯れに興じておる場合ではなかろう!!」
 泰山府君が怒鳴ると周囲でさらに桜の花が咲いた。
 上空から灰が降ってくる。
「‥‥これは、どこから‥‥?」
 花さかじいさんの撒いた灰ではない。
 一人の少女が、紫色の翼で大空を飛翔しながら桜の灰を撒き散らしていく。
 別世界から異空間転移してきた竜族――――ファルス・ティレイラだ。
 飛翔能力ほど灰を撒くという作業と相性がいい能力はなく、ファルスの活躍で桜の分布地域は加速するように広がっていった。
 自然を大事にという気持ちはあるが、それよりも灰を撒いて花が咲くことに対しての興味の方が強かったファルスは、灰を撒く手伝いをしていくうちに我を忘れそうになるくらい夢中になって灰撒きをしてしまっていた。
 空中から一握りの灰を撒く。灰は風に乗って広がり、殺風景なビルや街頭やアスファルトの道路から次々と枝を伸ばしてきれいな薄桃色のさくらの花を咲かせる。
 さくら色が広がるたびに、まだ咲いてない部分に咲かせたい欲求がむくむくと湧きあがってしまいもうワクワクが止められないのだ。
「そこの娘、なぜ貴様まで灰を撒いて被害を広げる!?」
「だって、楽しいんだもんっ! 私が灰を撒くだけで次々とさくらがさいちゃうんだよ? すごいよね!」
 明るく答えるファルスに泰山府君はこめかみに怒りマークを浮かばせやれやれと首を振る。
「‥‥この桜の騒動でどれだけ迷惑している人がいるか少しは考えてもよかろう。そのような道理も分からんのか?」
「でもねでもね、人間だって桜や他の植物が生きる邪魔をしてこの街を作ってるわけじゃない。なんで人間はよくてさくらはダメなの?」
「お、これはお嬢ちゃんにも一理あるねえ。確かに人間の都合ばかりで考えるのはよくない」
「そのとぉーり!」
「ええ〜い! 外野の宴会組は黙っておれ!」
 お花見で程好くできあがっている宴と正風の茶々入れに一喝で返す泰山府君。
「貴様等は何なのだ! かような一大事にお花見などおふざけにも程があろう!」
「ふむ、早速この必殺アイテムが役立つ時がきたか!」
 宴は嬉しそうに名刺を取り出すと、泰山府君に手渡して「それじゃ」と再び酒の席に戻っていく。受けとった名刺をひっくり返すと。
 『心理学博士・催眠研究家 狩野宴 あなたのココロの酒樽満たします(ハート)』
 破りたくなるような衝動を抑えながらギラリと宴会組みをにらみつける。
「‥‥全く、どちらの味方だというのだ貴様等は‥‥無責任にもほどがあろう」
 さすが武将だけあって眼力の迫力が違うが宴に正風はどこ吹く風。
「なに、簡単なことさ。どちらかと問われたなら私はこう答えよう――女性の味方だ!」
「そのとぉーり!!! 桜もいいが女性陣はもっと良いっ♪」
 とお花見の女性陣たちに飲み物を注いで回る正風。彼からワインを注がれて宴は春の眼差しで想いを馳せる。
「力の入った返答――気に入ったよ。ああ、そうだ。花より団子とはよく言ったが、団子よりも美しき花はお酌をしてくれる女性だね。そもそも女性とは――――」
「よっしゃ、カラオケ行くぜ一緒に歌う奴カモン♪」
 あらん限りの言葉で女性を褒め称え始め続ける宴に対して正風はカラオケでアニメソングを熱唱してどんちゃん騒ぎ。どちらもとりあえず楽しそうではある。
「もうよい! 貴様等は帰れ!」
 泰山府君は桜の拡大を食い止めようとする能力者たちに合流しようとしたが、よく見ると宴会の中に見た覚えのある顔がある。
「おっとと、こりゃスマンのう。若い衆や」
「酒の席で遠慮はなしだ! じいさんもグッと飲んでくれ!」
「やはり桜には酒が一番じゃワイ。ほっほ、老骨には桜を咲かせるのも一苦労でな、これが唯一の楽しみなんじゃよ」
 ‥‥それだ。
 早くソレを捕まえろ。
 楽しそうに宴会に混ざりこんでいる花さかじいさんを泰山府君は呆然と見つめた。いや、呆然としている場合ではない。
「貴様が灰を撒き散らし、多くの者に被害を被らせた仙人か。仙人の風上にもおけぬ行為を何故するのか納得いくよう説明せい!」
 捕まえようと走り出すが、ふたりの間にファルスが空から舞い降りて割って入った。
「おじいちゃんをどうするの? つかまえちゃやだ!」
「‥‥私は困っている人々を見過ごせぬ。ここは退いてくれ」
「私、きめたもん。さくらを咲かせるお手伝いするって、決めたんだもん!」
 ファルスは思い出していた。
 朝、初めてこの桜の海を見たときの気持ちを。

 その風景が余りにも平和で幸せすぎたからかもしれない。
 こんな風景がずっと続いたらいいのに。
 こんな風景がもっと広がればいいのに。

 その時、ファルスをさらに守るように二つの影がたちはだかる。
「悪いね。私は何よりも女性の味方なのだよ」
「ああ、こんな子見捨てちゃ寝覚めが悪いもんな。男としてはな」
 宴と正風は互いにニヤリと笑いあった。
「所で一つ聞きたいのだが」
 正風が隣の宴に声をかけた。
「なんだ?」
「アニソンを歌っていて気になったんだけどな、限界ファイトを叩きつけたなら例え傷つこうとも構わないと思うか? 俺は男のロマンだと思うが」
「頼むからそういう危険なネタにこの私を巻き込まないで欲しいね」
 かなり酔いが回っているようでもある。
「こんな時にまでふざけるな。この桜でどれだけ人々が迷惑していのかを考えよ! 何故にこのような狼藉を致す!?」
「まあそう怒らないでくれ。つまりこの場は三対一なのだから、キミも男らしく身を引いてみてはどうかと思うのだよ、この私はね。女性の味方としての心からの忠告だよ」
 王子様スマイルで語りかける宴に、泰山府君は怪訝な表情を見せると、何かに思い当たり、心底から嘆くように呟いた。

「所でだ、どうでもいいことだが一つだけ訂正しておかねばならんことがある。――私は女だ」

 ‥‥‥‥。
 えーと。
 今、この武将は何を言ったのだろう?
「はは。私は、基本的に女性はちゃん付けで呼ぶのだが」
「‥‥‥‥」
「つまり、泰山府君ちゃん?」
「ちゃん付けいたすな」
 ‥‥‥‥。
 気まずい。
 これは、すごく気まずい空気だ。
「はは、私もすっかり酔いが回ったとみえる。私が女性を見誤るなどと‥‥これも桜の魔力だろうか。恐ろしいことだね」
 ポンと手を打って軽やかに自己嫌悪する宴。
「桜は美しいから広めることに反対はしないが、しかし、刹那の咲くからこそ桜が美しくあるのもまた真実」
「ええい、何が言いたい!」
「つまり中立を宣言させて貰うよ」
 前言を翻した宴はさらりといってのけた。
 たとえ敵方でも女性に大しては優しく甘い。それが狩野宴である。

 仙人はこれまでの能力者たちの言葉を反芻するように黙っていた。
「‥‥あ、桜の花が‥‥!?」
 都市の桜は徐々に、少しずつ消滅していた。
 まるで蜃気楼が消えていくように。
「桜はいつか散ってしまう。だからのう、永遠に桜を咲かせておきたかったんじゃ」
 老人は遠い目をしてさくらの海を見上げた。
 目をつぶること数秒、
「じゃが、ぬしたちの気持ちはようわかった。ワシもすぎたるところがあったようじゃわい。‥‥ほっほ、この年になるとおセンチになっていかんわい。年寄りの我侭な戯言につき合わせてしもうた。ほんにスマンことをしたと思う」
 せつなの美しさを残して短い命を散らせる桜。
 毎年、瞬間の美を撒き続けてきた仙人はそれが寂しくて仕方がなかった。だから、夢を見たのだ。さくらが永遠に咲き続けるという日がずっと続くそんな夢を。
 でも、仙人は夢から覚めたのかもしれない。
 淋しそうに老人は白ひげをなでた。
「今日はいい夢を見させてもろうた。世話になったのう、若い衆や」
 弾けるように仙人は一瞬で桜の花びらへと変わった。はなびらは春の突風にのり天高くどこまでも舞い上がっていく。
 泣きながらファルスは消える仙人を見守っていると、誰かが隣に並んだ気配がした。
 泰山府君は彼女の隣に並ぶと、少女にだけに聞こえるような声でそっと言った。
「‥‥花を咲かせて綺麗にしたかったという理由であれば許そうと思っていたのだ」
 ファルスは涙を拭きながら笑顔で「うん」とだけ答えた。


 仙人が消えた場所には一本の桜の木が残されている。誰もが何とはなしにその木を見上げる。
 木には満開のさくらが咲いていた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま)/26歳/女性/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0391/雪ノ下 正風(ゆきのした・まさかぜ)/22歳/男性/オカルト作家】
【1252/海原 みなも(うなばら・みなも)/13歳 性別 女性 中学生】
【3415/泰山府君・―(たいざんふくん・ー)/999歳/女性/退魔宝刀守護神】
【4241/平 代真子(たいら・よまこ)/17歳/女性/高校生】
【3733/ファルス・ティレイラ(ふぁるす・てぃれいら)/15歳/女性/フリーター(なんでも屋)】
【4648/狩野 宴(かのう・えん)/80歳 性別 女性 博士/講師】
【5005/菊丘 まと(きくおか・まと)/428歳 性別 男性 死人】
【5020/仁科 星花(にしな・せいか)/16歳/女性/高校生兼巫女】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、雛川 遊です。
 シナリオにご参加いただきありがとうございました。そして‥‥
 遅延に遅延を重ねてしまい申し訳ありませんでしたありませんでしたー! と平謝りに土下座しつつお詫びを入れさせていただきます!
 スランプと一言でいってしまうのは無責任の極みではありますが、いくつ物出来事が重なったそのせいか俗に言う書けなく状態に陥ってしまい、自分の不甲斐なさを責めるばかりの昨今です。本当にごめんなさい。
 ‥‥にしても、せめてお花見の時期には‥‥間に合わせたかったです‥‥。


 雛川は異界《剣と翼の失われし詩篇》も開いてます。興味をもたれた方は一度遊びに来てください。更新は遅れるかもしれませんが‥‥。
 また、宣伝になりますが『白銀の姫』でもシナリオを始めました。よろしかったらこちらも覗いてみてください。

 それでは、あなたに剣と翼の導きがあらんことを祈りつつ。