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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


三下フィーバー!

◆ 0 ◆

 三下忠雄は、今日もビクビクしながらアトラス編集部のドアをくぐっていた。
 特ダネだったはずの事件を追って入った廃ビルで巨大ネズミ(の影)に怯えて気絶して、何もしないまま時間だけが過ぎていた。つまり、なんの記事も書けていない。その報告をするために、重たい足を引きずり叱咤しながらここまで来たのだ。
 帰れば、早速碇麗香の叱責の声が飛んでくるのだろう。
 それを覚悟して、三下は先手を打った。

「もっ、申し訳ありませんんっ!」

 堂に入ったそのセリフは、アトラス編集部内に高らかと響き渡った。しかし、そのあとすぐに帰ってくると思われた碇のセリフが、いつまでたっても聞こえてこない。
「三下、もう戻ってきたの?」
「はい? ぼ、僕は昨日出かけたっきり気を失って帰ってきてませんが……?」
 掛けられた言葉の意味が分からず、あっさり自分の失敗を話す三下である。
 しかし碇はそのセリフにも反応せず、腕を組んで唸った。美しく整えられた眉をひそめる。
「あなた、双子だったかしら?」
「え、いえ、身に覚えはないです……」
 何か誤解をしているような三下の答えに嘆息し、碇は沙汰を下した。
「――今日は、ここにいなさい」
「も、申し訳ありませんっっ! ――はい?」
「たまには自分のデスクでも片付けたら? 取材はそれからよ」
 いつも通りの冷徹な声で、碇はそう指示を出した。
 三下が情けない足取りで自分の机へと向かったのを見送り、そっと自分の唇をなぞった。今自分が見たものが、疲れから来る幻覚などではないとしたら。
「ドッペルゲンガー? まさか……」

 三下は、今さっき編集部へと入って来て、碇の次なる取材を申し付けられてどたばたと出ていったはずなのだ。
 この世の中に、三下が二人いる――


◆ 1 ◆

●藍原・和馬

 藍原・和馬は、アトラス編集部の入り口で三下と――いや、三下らしき男とすれ違った。あまりに堂々とした態度で毅然と歩いていくので、それと気付くのに遅れたのだ。
「……心根でも入れ替えたか?」
 彼の情けなさは年季が入っている分そうそう直せるものではないと思われたのだが。首をひねりながら、碇のデスクへと向かう。あの机へ行けば大抵仕事がもらえるからだ。
 途中、ソファに優雅に腰掛ける女性がいた。どこかで見たことがあると記憶をたどり、昨夜のテレビに思い当たる。
「なんだかすごい女優が日本に来って言ってたな。それが何でこんな所に……」
 アトラス編集部を卑下するわけではないが、有名女優との関連性は限りなく少なそうな場所なのだ。彼女が怪奇現象ととても近いところにいるというのなら別なのだが。
 目的地に突く直前、彼はどうしてもスルー出来ない人物にぶつかった。
「……お前、何してんだ?」
「なにって、片付けです……」
「外に行ったんじゃなかったのか?」
「さ、さっき帰ってきたばかりですよ。もう一度取材に行こうとしたら、編集長がもう取材は良いから机の片付けをしろって……」
 情けない声を出しながら、文房具やら書類やらを引出しに出したり入れたりしている。片付けているようで実は何も変わっていない。
「……三下、だよな」
「そ、そうですよぅ?」
 本物か、と尋ねるより先に体が動いていた。すなわち、相手の頬をつねるという古典的確認法だ。
「い、いひゃい、いひゃいですよおぉぉ」
 どうやら本物のようだ。面の皮がはがれるということもない。
「――そっか、じゃあいいや」
「いいって、何がですかぁぁ〜……?」
 とりあえず、つねられ損の三下である。
「編集長なら、何か知ってるかな?」
 顎をさすり、フロアの奥へ構えるデスクへと歩みを進めた。


●九音・奈津姫

 最初、この編集部では双子を雇っているのかと思ったものだ。背格好は同じでありながら、雰囲気がまるで違う。優等生と落ちこぼれというたとえが一番しっくりくるだろう。憐れ、落ちこぼれの彼のほうは取材に行くことも許されずデスク掃除を命じられたらしい。
「――九音さん、よろしいでしょうか……?」
 目の前のインタビュアーが、少し困ったような声で訊ねてきて、我に返った。そつない笑みを返し、九音・奈津姫は仕事へと頭を切り替える。
 最近、ホラー映画への出演が決まり、取材が絶えない九音であるが、とうとうオカルト雑誌の仕事が舞い込んできたのだ。本日はその打ち合わせなのである。インタビューを担当するという加藤記者は、以前から九音のファンだったとしょっぱなからカミングアウトをかまし、その後も九音の微笑み一つでくらっとなってしまい、なかなか打ち合わせは進まなかった。能力を使うまでもなく、自己暗示に掛かっているようなものだ。
 と、殺伐とした編集部には似つかわしくない、小学生くらいの少女が一直線に編集部を奥へと走り抜けていくのを目撃した。
「今のは誰かしら」
「え、今の子ですか? ときどきこっちに遊びに来る子ですよ。なんだか慌ててたようですけど……」
 記者が、どもりながらも答えた。正直、こんな打ち合わせよりもあの子のほうが気になる。首を伸ばしてみると、何やら編集長と直談判をしているようだ。
「私も、あちらの話に混ぜてもらいたいんだけれど、良いかしら?」
 九音は、にっこりと首を傾げて訊ねた。能力を発揮するかしないかのうちに、加藤記者は大きく頷いた。


●海原・みあお

 学校が終わり家路につくはずの足は、なぜか反対の方向へと歩いていた。楽しそうな予感がしていたのである。
「アトラス編集部か〜。三下元気かなっ?」
 スキップしそうな勢いでご機嫌のみあおは、ご執心中の彼とすれ違った。
「……え?」
 見なれた背広、見なれた眼鏡の人物だ。それなのに、まるで別人なのだ。顔は明るい未来でも見据えるようにきちんと前をむき、小学校の行進並みに手を振ってよどみない足取りでどこかへと向かっていく。口元にはありえないことに、自信に満ちた笑みさえ浮かべて。
 三下に異変が起こった。
「っていうか、あんなの三下じゃないよ〜」
 みあおは可愛い眉間にきゅっとしわを寄せると、アトラス編集部へとずんずん歩いていった。

「碇〜、さっき変な三下とすれ違ったよ」
「変な人?」
 アトラス編集部へ顔パスで入ってきたと思えば、美しくも怖いと恐れ崇められている碇に敬語も使わず離しかける彼女に、編集部中の人間が密かに耳を傾けた。
 話しかけられている張本人はというと、特に怒る様子もなく、かといって視線を和らげることもなく冷静に訊ねる。
「そう、へんなの。三下みたいな格好したニセモノ」
「――あなたも見たのね」
「碇も見たの〜?」
「俺も見たぜ」
 みあおの台詞に答えたのは碇ではなかった。いつのまにかそばに来ていた藍原は、ワインレッドのネクタイを指先で緩めている。
「やっぱり双子じゃなかったみたいね」
 さりげない台詞に漂う色気。世界を魅了する女優、九音もまた碇のデスクへと引き寄せられていた。


◆ 2 ◆


「この度は私どもの取材に応じてくださりありがとうございます」「いいえ、こちらこそお誘い頂いて光栄だわ。とても面白そうな雑誌を出版なさっているから、興味をひかれたの」というのは碇と九音の会話である。どちらとも迫力ある美人のため大変眼福だ、とひそかに編集部中の目がうっとりしていた。
「――それで、さっきの話に戻るんだけど」
「三下のニセモノ、ってやつだろ」
 藍原がちらりとらちのあかない片付けをしている彼を見遣った。
「だってあんなの三下じゃないよ〜」
 みあおはかわいらしく眉をひそめて訴える。
「どういうことなのかしら?」
 三下のことを知らない九音が碇に訊ねると、
「どうも、うちの部下の三下――そこでぐずぐず片付けをしてる男なんだけど、彼のそっくりさんが現れたようなの」
 額を押さえながら、碇は三下を指差した。指の先を目で追い、当人の姿を見つけた九音は思わず笑ってしまった。あそこまで生産性のない人物というのは新鮮だ。
「どっぺるげんがー、っていうやつでしょ?」
「あぁ、そいつと本人とが出会うとどっちかが死ぬって言う」
「えーっ、三下死んじゃうの?」
「本人同士が出会わなきゃ大丈夫だろう、とりあえず」
 みあおと藍原がとんとんと会話を進めていってしまう。が、九音は少し首をかしげて、
「ドッペルゲンガー? それは、本人にしか見えないんじゃなかったかしら」
「みあおは、ちゃんと見たよ〜。すっごい真面目そうな三下」
「俺も見たな。雰囲気は別人だったが、見た目は三下だった」
「悔しいけれど、私も見たわ。妙に頼り甲斐のありそうだったわね」
 碇編集長までが同意した。しかしなぜ悔しそうなのか。
「考えられることは、その1にドッペルゲンガーは他人にも見える。その2に、三下のドッペルゲンガーはいない、こっちに来たのはやっぱりそっくりさんだった、と。ほかにあるか? 3人揃って幻を見てた、なんて事はないだろうしな」
 藍原が一本ずつ指を立てて話をまとめる。
「その“さんした”って方は、こちらにいるほうが本物なのね?」
「あいつのダメさは真似しようったってそうそう出来るもんじゃないさ。したがって、こっちが本物だ」
「すごい理屈ね」
「でも言い得ているわ」
 額を押さえながら、碇ゆるゆると頭を振った。その袖をみあおが引っ張る。
「どうしたの?」
「どうなっちゃうの、三下。ニセモノと出会ったら死んじゃうの?」
 心配そうなみあおに、
「そうなる前に、にせもののほうをどうにかすれば良いんじゃないかしら」
「どうにかする、って?」
「そいつがドッペルゲンガーなら、俺が調伏してやるさ。でもまぁそのほかにも、いろいろ方法はある。まずは偽者を捕まえなくちゃな」
 楽しげに提案する藍原に、九音が茶々を入れた。
「余裕ね。心当たりでもあるのかしら? まるで答えを知っているような口ぶりだったわ」
「そうかな」
 まんざらでもなさそうな表情で答える。一気に大人の会話へと突入するかと思われたが、実あおの一言が切り崩した。
「ねぇ、ガムテープ持ってる?」
「ガムテープ? 何に使うの?」
「なかったら何かロープでもいいの」
「何に使うんだよ」
「あのね、三下を安全な場所に閉じ込めておくために使うの〜」
 ほのぼのと言うが、安全な場所に「閉じ込める」というのはいかがなものか。編集部の誰かの机の上にあったセロテープを見つけて目を輝かせるみあおに
「いや、三下は連れて行くぜ」
 異を唱えたのは藍原だ。
「どうして〜?」
 みあおは不満を隠さずにセロテープをぎゅっと握り締める。
「連れて行ったほうが早く解決しそうだからな」
「だって、もう一人と出会っちゃったら死んじゃうかもしれないんだよ〜? みあお、そんなのいやだからね! こうなったら勝負しよ!」
「へ?」
 何を言い出すんだろうこのお嬢さんは。皆の見守る中、みあおは藍原に拳を突き出した。
「じゃんけんで勝負! みあおが勝ったら三下は安全な場所に閉じ込めるんだからね〜!」

 だがしかし、じゃんけんに勝ったのは藍原であった。


◆ 3 ◆

「あ、あのぅ……どうして僕たち一緒にウィンドウショッピングしてるんですかぁ……?」
 三下の情けない声に、思わず藍原は舌打ちしてしまった。
「俺もお前と一緒にいても全然楽しくないぜ。いやぁ、奇遇だなあ?」
「で、でも、僕を外に無理やり外に連れ出したのは……」
「お前の取材の手伝いをしてやろうって言うんだよ。廃ビルにいた巨大ネズミの正体を掴むんだろ?」
「じゃ、じゃあどうしてこんな所を歩き回ってるんでしょうか……?」
「腹ごしらえとか、いろいろ必要だろ」
 口からでまかせだ。本当のところは、連絡を待っていてその間の時間稼ぎである。
「俺も出来ることなら偽者探しのほうに加わりたかったぜ……」
 ため息をついても後の祭だ。今ごろ、女性二人は三下のニセモノを探しながら楽しく本物のウィンドウショッピングを楽しんでいるに違いない。
 と、藍原の胸ポケットから軽快な音楽が流れ出した。待ちに待っていた連絡だ。
「――おう、そうか。じゃあ、打ち合わせ通り廃ビルに行くぞ。向こうで落ち合おうな。――あぁ。じゃあな」
 通話を切る時には、すっかり満面の笑みで
「さぁて三下、覚悟は決まったか?」
「か、覚悟って何のですか?」
「巨大ネズミと感動の再会に決まってんだろ。そうだ、相手が変わった顔だったりしてもビビるなよ」
 無理難題であった。


 みあお、九音の二人は洒落たショッピングモールを気まぐれに歩いていた。九音としては、面倒な人探しは誰かに任せて自分はのんびりと街を歩いていたかったのだが、みあおのやる気に気圧されてしまったのだ。
「――でも、たちの悪いファンには会わないで済んでるわね、今のところ」
 これだけ人通りの多い道を歩いているのに、カメラ付き携帯による激写攻撃やサインを求めるおばちゃんに囲まれるなどの事態に遭わない。皆九音がその人だと気づいていないのかといえばそうでもなく、遠目に見てはキャーキャー騒いでいる程度だ。その程度の騒がれ方ならなれている九音は、その“運の良さ”に感謝した。
「あ、この帽子可愛い〜」
 みあおが近くのブティックのショーウィンドウに釘付けになる。季節を先取りした、涼しげな麦藁帽子だ。繊細な細工の造花が彩りを添えている。
「あら、似合いそうね。買ってあげましょうか?」
 同じように身をかがめてショーウィンドウを覗いた九音は、そのガラスに反射した人影にはっとした。
「みあおちゃん、あそこをあるいてるの、“さんした”って方じゃない? 藍原さんが一緒じゃないってことは、こっちが偽者ね」
「本当っ?」
 昼休みのサラリーマンに混じって、どこかへと歩いて行くのはまさしく、編集部で片付けをしていた三下と同じ格好をした男であった。
「廃ビルに向かっていくようね」
「尾行しなきゃ! あ、その前に〜……」
 みあおはカバンから携帯電話を取り出し、先ほど登録したばかりの番号へとかけた。
「あ、ニセモノみつけたよ〜。やっぱり廃ビルに行くみたい。――うん」


◆ 4 ◆

 廃ビルにつく頃には三下はすっかり及び腰で、藍原はまるで嫌がる犬を無理やり散歩に連れていっているような気持ちになっていた。けれど、ここまで連れてきてしまえばこっちのものである。
「俺が自ら手を下しても良いんだが……多分、もうこっちに来てるだろうからな」
 ぽつりと独り言を漏らしてから、三下の肩をぽんと叩く。
「ほら、行ってこい。スクープは目の前だからな」
「す、スクープですかああぁぁ……?」
「そうそう。ほら、碇編集部長に良い所見せろや」
 藍原の台詞に乗せられ、三下は一歩踏み出した。曲がり角の先から巨大な影が近づいている。いやがおうにも緊張が高まる。
「で、でも、スクープですから……待っていて下さいよ、巨大ネズミ……!」
 三下の勇気を総結集した第一歩は、そのまま固まった。
「あ………」
 声にならない悲鳴を上げ、そのまま白目をむいて倒れる。代わりに声をあげたのは
「ぼ、僕のオリジナル……どうしてここに……?」
 角から現れた人物であった。少々くたびれ気味の背広に、縁の厚いメガネをかけた、さらに言えば眼前で気絶している人物とそっくりな男である。
 階段を上りこちらへと駆けてきたみあおは、倒れている三下を見て驚き、それから呆然と立っている三下の服の裾を掴んだ。
「三下? 三下はどうなっちゃったの? 三下のせいで三下が死んじゃったの?」
「僕ですか? 僕、三下って名前なんですか? 弱そうだなあ……」
 大真面目に答える男のせいでますますその場が混乱する。
 後から落ちついた足取りで上がってきた九音が、倒れている三下を見てわずかに顔色を変えた。しかし、よくよくその姿を見て胸をなでおろす。
「大丈夫よ、みあおちゃん。彼は多分気絶しているだけね」
「そうなの〜?」
「ええ。――そうでしょう? あなたならわかるわよね?」
 九音は、藍原を見据えて微笑んだ。藍原は頭を掻くと
「まぁな。最初はドッペルゲンガーだと思ってたんだけど、お前は何者だ?」
 皆の視線が、みあおに袖を掴まれておろおろしている男へと向いた。

「僕はただ……ここに馴染みたくて……」
 ぽん、と音がしそうな勢いで、男に尻尾が生えた。


◆ 5 ◆

「たぬきさんなの〜?」
 みあおの楽しげながら素っ頓狂な声ががらんとした廃ビルに響き渡った。しかし、そんな音ごときで三下が目覚める気配は全くなかった。
 正体をあらわした三下こと新米たぬきは、飽きれるほど腰を低くして3人に弁明した。
 曰く、自然が少なくなりやまで暮らすことが困難になった。そこで、東京で人間に化けて上手に生きていこうと思ったものの、人間にうまく化ける方法は誰も知らず、手探りで探すほかなかった。この廃ビルに潜んでいたのは、だれか手近な人間に化けてそこから人間の作法を習っていこうと思ったからで、三下は運悪くそのターゲットとして選ばれたのだそうである。
「性格も真似ようとしたけど、すぐに気絶しちゃうから……とりあえず街に出て、同じような格好をしてる人を見よう見真似で真似してみたんです」
「相手を間違えたようね」
 九音が同情した。
「たぬきじゃあ、調伏しようがないな」
 藍原は肩をすくめる。
「これから、どうするつもりなのかしら?」
「どうしましょう……」
 腕を組む、さん下の格好をしたたぬきだ。困った表情をしているとやや本人に似る。
「ねえ、三下以外にも化けられるの?」
「外見を真似るくらいなら、できると思いますよ。じゃあ試しに……」
 たぬきは九音をしばらく見つめていたがやがて忍術でも始めるように胸の前で手を組み、気合を込めた。次の瞬間、そこにいたのは世界的大女優、九音奈津姫であった。しかし、緊張しているのか表情が硬い。
「あら、観察眼はあるんじゃないかしら。後は雰囲気が似ていれば私の影武者になれるわ」
 その言葉を聞き、みあおは顔を輝かせた。
「ねえ、じゃあこうすればいいんだよ!」


◆ 6 ◆

「やり直しよ」
「えええええぇぇぇぇ、そんなあぁぁ……」
 三下の憐れな声のBGMには、今日も調子の良さそうなシュレッダーの作動音だ。改めて、三下は一人で十分だと思う碇部長である。
「――部長、九音奈津姫さんのインタビュー記事と一緒にこのスクープも載せてはどうでしょうか?」
 一人が碇のデスクへと数枚の写真とメモとを持ってきた。
「『大女優・九音奈津姫のそっくりさん? 繁華街に出没、双子説浮上!』ですって?」
「写真もあります! で生記者会見をしているはずの時間に、こうして買い物してるんですよ! しかもそっくりなんです! 捏造したってこんなに鮮明に撮れませんよ」
 確かに彼の言う通り、その写真には楽しげに露天の店員と話す九音の姿があった。
「……影武者、ねえ」
 碇は口元だけでそっと笑った。あの大女優からじきじきに演技の指導をしてもらったに違いない。双方が得をする。さらに、アトラス編集部にはネタをもたらしてくれた。
「ついてるわね」
「はい?」
「なんでもないわ。さぁ、こんな良いタイミング、逃すなんてアトラス編集部の記者じゃないわ。早く仕事に取り掛かりなさい!」



Fin.

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1533/藍原・和馬/男/920歳/フリーター(何でも屋)】
【4994/九音・奈津姫/女/24歳/女優・歌手】
【1415/海原・みあお/女/13歳/小学生】
(発注順)

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■         ライター通信          ■
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納品の期日を過ぎてしまい、大変申し訳ありません。
皆さんのプレイングが生かせていれば良いのですが…。
少しでもお気に召していただければ幸いです。

月村ツバサ
2005/04/07