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<東京怪談・PCゲームノベル>


夢幻館でのホワイトデー



☆オープニング


『3月14日、ホワイトデー。貴方のために最高の日をプレゼントいたします!“沖坂 奏都”“夢宮 麗夜”“梶原 冬弥”“神崎 魅琴”の4名から1名をご指名下さい。夢幻館お勧めデートプラン、A〜Cよりお選びいただいても結構ですし、ご自身でスペシャルなプランを立てていただいても結構です。
 素敵なホワイトデーを、貴方に。  片桐 もな』



 「もぉぉぉぉぉぉぉ〜〜なぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!」
 こんな張り紙が夢幻館の前ならず、町内全体にばら撒かれてからほんの数分後、片桐 もなの自室をノックもなく開けたのは梶原 冬弥だった。
 「どーしたの?とーやっちゃん。」
 「どーしたの?じゃねぇ!おい、これはなんだ!これは!!!」
 右手には、どこかの電柱から引っぺがしてきたのか、白の紙に金の文字で華々しく飾られたアノ張り紙が握られている。
 「ホワイトデーのお誘い張り紙。」
 「そーいう事を言ってんじゃねぇ!なんだよこれ、なんだよこれ!ここはいつから夜の館になったんだよ!ホストクラブじゃねぇって、何度言ったら分かるんだ!!」
 「・・・別に、なにもスーツで遊びに行けとは言ってないでしょ?」
 「そぉ〜ゆ〜わけじゃなくってぇ〜〜!!」
 「ちなみに夢幻館がお勧めするデートプランは・・」
 「夢幻館じゃなく、お前のお勧めだろ!?しかも、デートってなんだよデートって!!」

 A:遊園地でおおはしゃぎ
 B:巨大公園でまったり
 C:夢幻館で生死の境を


 「ちょっと待て!あきらかにCはおかしいだろ!Cは!なんで生死の境を!?」
 「ここは何があるか分からないから・・・。」
 「何で目を逸らす!」
 「ちなみに格好指定も出来ます。」
 「その意味は?」
 「ない。」
 「・・・・・・・・。」
 「まぁ、冬弥ちゃんに指名が入らなかったら、あたしが指名してあげるよ〜!」
 「結構デス!」

 こんな会話がされていた時、夢幻館の外を1人の少年が通りかかった。
 金色の髪、赤い瞳、美しく整えられた顔・・・。
 「暁さん、今日はどうしました?」
 ここの総支配人、沖坂 奏都が少年の名前を呼んだ。
 そう・・彼の名前は桐生 暁。
 最近ココに良く訪れるこの少年の顔を、奏都は覚えていた。
 無論、彼の記憶力は半端ではないので・・一度会った人の顔は忘れないのだが・・。
 「ねぇねぇ奏都さん、コレって・・。」
 どこからか引っぺがしてきたアノ張り紙を、奏都の目の前に差し出す。
 「あぁ、もなさんですね。・・そう言えば、もうホワイトデーの季節ですものね〜。」
 ほのぼのと微笑む奏都は、そっと暁の髪を撫ぜると夢幻館の扉を押し開けた。
 「もなさんの部屋は・・・」
 「大丈夫、分かってるって。」
 「楽しんできてくださいね。」
 まるで父親のように優しく言う奏都に、暁は満面の笑みを向けると夢幻館の中に入って行った。



■快晴です!


 外は快晴。
 デート日和とはこの事だろう。
 夢幻館の前にムスっとした顔で佇む1人の男性・・。
 「今日一日よろしくね、冬弥ちゃんっ!」
 「あぁ。」
 彼の名前は梶原 冬弥。
 ここ、夢幻館で1,2を・・・争わないやられキャラだ。
 ・・どうして争わないのかって?答えは単純明快。そしてたった1つだ。
 “争う相手がいないのだから、争いようがない”
 有無を言わさずやられキャラ、絶対確定やられキャラなのだ。
 「それで暁ちゃん、デートプランはどれにするの!?」
 片桐 もなが、今日もチャームポイントのツインテールをぶんぶんと揺らす。
 軽やかにふわふわと舞っているのではない。ぶんぶんと、凶器よろしく振り回されているのだ。
 しかも、もなの場合ツインテールの中に危険物を隠している危険性もある。
 不用意に近づいたらトラップ発動、即死ゾーンに突入だ!になりかねない。
 「おいコラもなっ!だっから、何度デートじゃねぇっつったら理解すんだその頭はよぅ!」
 「そーだなぁ、定番のAコースでしょう!」
 「っつか、暁もノルんじゃねぇよっ!」
 「冬弥ちゃん、俺がバレンタインの時に告白したの・・忘れてるでしょう?」
 「うっ・・それは・・・。」
 しどろもどろになる冬弥に、心の中では笑いながらも・・外見上では少しだけしゅんとしたように見せかける。
 そこら辺は暁の日頃のテクニックでカバーする。
 「まぁまぁ☆そー言うのわぁ、後でじっくり聞けば良いでしょぉ〜!冬弥ちゃん、このデートが終わるまでに暁ちゃんにちゃんと答えを出してあげなね☆」
 にっこ〜りと、微笑むもなの瞳の奥・・妖しく輝く光が怖い。
 絶対に微笑んでいない奥底からは、心なしか殺意が見え隠れする。
 「わ・・かった・・。」
 「んじゃぁ、行ってらっしゃい〜!」
 ツインテールと手をぶんぶんと振り回しながら、もなが2人を見送る。
 「もなちゃんって・・」
 「アイツは根っからの二重人格で挙句ぶりっ子なんだよ。」
 そうしてそっと付け加える。
 二重人格も、ぶりっ子も、どちらも素なのだと。
 “素=作っていない”


 それほど大きくない遊園地は、その大きさ同様に人もまばらだった。
 けれど定番の乗り物や店などはしっかりと軒を連ねているらしく、小さいながらも一人前の遊園地だった。
 「懐かし〜〜っ!俺、遊園地なんて小さい頃一回来たきりだからさ。」
 冬弥からチケットを受け取り、中に入る。
 暁が懐かしそうに・・そして、どこか寂しげに微笑む。
 「あき・・・」
 しかしそれは一瞬で霧散し、満面の笑みで冬弥の腕を取った。
 「なっ・・。」
 「そいやさ〜微妙にペアルックっぽくない?」
 暁が冬弥の胸元で揺れるシルバーネックレスを指差し、自身の胸元で揺れるシルバーネックレスを指差す。
 確かに、遠めで見れば同じものに見えなくもない。
 実際に近くで見れば微妙に違っているのだが・・・。
 「ラブラブじゃん俺達〜!」
 「・・暁、不可抗力と言う言葉を知っているか?」
 「知らない〜!よっしゃ、まずはアレ乗ろ〜〜っ♪」
 「わっ・・ちょっ、ひっぱるな暁!」
 「ほら、遅いよ冬弥ちゃん!置いてっちゃうよ〜!」
 「・・わかったわかった。」
 はしゃぐ暁に小さくため息をつくと、大人しく引っ張られるがままに従う。
 「まずはコーヒーカップ〜!」
 「お前、あんなグルングルン回るの好きなのか・・?」
 「あれ?冬弥ちゃん苦手なの?」
 「苦手と言われても、苦手意識を感じるほど乗ってないからな・・。」
 「そっかぁ、それじゃぁ、勝負っ!」
 「勝負って・・おい、暁!?」
 駆け出して、コーヒーカップに乗り込む暁を追う冬弥。
 「先にダウンした方が負けね〜!」
 「あ〜ワカッタワカッタ。それで、賞品はなんだ?」
 「俺が勝ったら〜、冬弥ちゃんは俺と付き合うってどう?」
 「あぁ、ワカッタワカッタ・・・う・・うえぇぇぇっ!!!!???」
 「はい、じゃぁ決まりね〜!」
 「っちょちょちょ・・ままままっ・・・!!今のは不意打ちだろう!?」
 「でも冬弥ちゃん“ワカッタ”って言ったじゃん。男に二言はないでしょう?」
 「いや、あれは言葉の・・・」
 「俺が負けたら〜そうだなぁ。・・・しょうがない、俺をあげるよ。」
 「俺をあげるって・・待て、おい!さっきのと何ら変わりがないじゃねぇか!」
 「だぁかぁらぁ、俺が勝ったら冬弥ちゃんと付き合う、イコ〜ル対等な関係。俺が負けたら俺をあげる、イコ〜ル対等じゃない関係。」
 「・・どこが違うんだ!どこがっ!」
 「全然違うじゃん。冬弥ちゃんに俺をあげるって・・・」
 「待て待て待て!!それじゃぁ引き分けの場合はどうするんだ!?」
 「引き分け〜?それは勝負無効でしょ〜。次の乗り物にレッツゴー!」
 「よっし分かった。引き分けだ!引き分けを目指すんだ俺・・!!」
 「あっ・・なんかもう酔ってきちゃったかも・・・。」
 「まだ微塵も動いてねぇっ!!わざと負けるとかナシだかんな!」
 「仕方がない、俺を冬弥ちゃんに・・」
 「いらねぇ!酔い止めでも飲んで我慢しやがれっ!!」
 それじゃぁ勝負の意味ないじゃん。
 暁はそう思ったが口には出さないでおいた。
 あまりにも必死になる冬弥の姿が可笑しくて、面白くて・・・こみ上げてくる笑いを押し殺すのに苦労する。
 大きすぎるブザーの音が鳴り響き、ゆっくりとコーヒーカップが動き始める。
 「暁!頑張って引き分けを目指すぞ!」
 「・・勝負相手に言う台詞じゃないでしょー!」
 暁は苦笑交じりにそう言うと、テーブルを回し始めた・・・。





 「そう言えばさ・・。」
 「あぁ?」
 「冬弥ちゃんは遊園地来た事ないの・・?」
 「ある。っつーか、毎年来てるから。どっかのチビのせいで。」
 「あ〜、もなちゃんか。好きそうだよね、遊園地。」
 「あぁ、まさに今の暁そのものな反応をするわけよ。」
 「・・マジで!?」
 「マジマジ。しかも毎回そんなような反応。キャッキャとはしゃいで、人巻き込んで、挙句最後に力尽きる。」
 「って事は、俺も最後には力尽きないと・・・。」
 「問答無用で置いていくからな。」
 「冬弥ちゃん酷いっ!!」
 「当たり前の仕打ちだ。」
 「・・も〜・・・って、そうじゃなくって、冬弥ちゃんは両親と来た事ないの?」
 「暁は・・・親と来た事あんのか?」
 「ある。昔に来た1回、それが・・・。まぁ、それだけだけどね。」
 「そうか。」
 「・・・で、冬弥ちゃんは?」
 「俺か?・・知りたい?」
 艶やかに微笑む冬弥に、思わず驚く。
 いつもはキャンキャンと騒いでやられキャラっぷりを前面に押し出している冬弥だったが、今だけはどこか余裕がある。
 「う・・あ・・・。」
 「気になるのかな〜?」
 「と・・冬弥ちゃんっ!?俺の事からかってるっしょ!?」
 「いつもの仕返しだ。俺の気持ちを思い知れ。」
 「ひっど〜。」
 「そう思うだろう?」
 冬弥は悪戯っぽく微笑むと、暁の金の髪にそっと触れた。
 「・・セクハラ?」
 「誰がお前相手にやるかっ!」
 「いや・・でも・・。」
 「はっ、たわけ。・・そうだな・・・。俺は・・親と・・・遊園地に来た事なんか・・ない。」
 「え?」
 「物心ついた時には、もう手遅れだったんだ。何もかも・・・。」
 「とーやちゃん・・・?」
 「ほら、暁。次に行くぞ。さっきのコーヒーカップは見事引き分けだった事だしな。」
 「冬弥ちゃん、最後の方はムキになってたよね。」
 「ったりめぇだ。賞品がなにせコレだもんな〜。」
 「本当はほしいくせに〜。」
 「・・・はいはい。」
 冬弥は盛大なため息をつくと、困ったような微笑を覗かせた。
 けれどその表情には少しだけ・・ほんの少しだけ、哀しさが滲んでいた。




 銃を構えるとき、なるべく水平に持たなければならない。
 3点が一直線上に並んだ時、始めて引き金を引く。
 その時も反動でぶれてはいけない。
 そうすると弾は思いも寄らない方向に飛んでゆく。
 暁はすぅっと目を細めると、目の前の的に向かって引き金を引いた。
 乾いた音が辺り一帯に木霊して、何も知らずにその場に座っていたクマを地にねじ伏せた。
 「はいはいは〜い、お兄さん、ぬいぐるみをどぉぞぉ〜!」
 グラマーな美女が、元気良く右手を天に突き上げた後で暁に小さなクマのぬいぐるみを手渡す。
 赤いリボンが可愛らしいクマサンだ。
 そう、ここは射的場。
 真剣な面持ちで銃を片手に目の前の敵・・主にぬいぐるみだが・・を落としてゆく暁と、その光景を黙って見守る冬弥。
 時折上がる歓声の主役は暁だった。
 決してはずさないその弾は、まるで意思を持っているかのように敵に襲い掛かる・・!
 ・・・モチロン、弾はゴムで出来ているのだが・・。
 「冬弥〜!見てた〜?俺の射的の腕前wほら、ぬいぐるみGET☆」
 両手にいっぱいぬいぐるみを持った暁が、満面の笑みで冬弥の元へと走り寄る。
 「んあぁ?見てた見てた。・・っつーか、その両手の可愛いものグッズを見りゃぁどんなだったかなんて直ぐ分かるっつーの。」
 「俺ってばてぇ〜んさ〜い!」
 「あーハイハイ、天才天才。」
 適当にそう言った後でちょこっと思う。
 “天才”ではなく“天災”だと・・・。
 「あ、冬弥ちゃん、今よからぬ事を思ったでしょ〜!」
 「う・・な・・なんだそれー!」
 から笑いをして見せるものの、ぎこちない話し方が全てを肯定している。
 暁は苦笑すると、冬弥に羊のぬいぐるみを差し出した。
 「冬弥ちゃんには〜、これをあげる!」
 「羊・・?」
 「そうそう、夢幻館のやられキャラ、その名もひつ・・」
 ゴスっと鈍い音がして、暁の頭に冬弥の拳が落とされる。
 「いったぁ〜!暴力反対っ!」
 「やられキャラとか言うな、ヤ・ラ・レ・キャ・ラ・と・かっ!」
 言いながら頭を拳骨でグリグリと締め上げる。
 「いたいってば〜!」
 「羊とか言わないか?やられキャラとか、ヘタレとか言わないかっ!?」
 ・・ヘタレは言っていない。
 一体誰に言われたのだろうか・・?
 ゆるっと想像をめぐらせようとした暁だったが、段々と増してくる力に、両手を上げた。
 「わかった!降参〜!わかったってば〜!」
 「よぉっし、それじゃぁ俺はこれを貰おう。」
 冬弥はそう言うと、ひょいと暁の手から狼のぬいぐるみを取った。
 「え・・?」
 「お前はこれが似合いだ。」
 そうして差し出される、うさぎのぬいぐるみ・・。
 「これはもなちゃんのが・・」
 「バッカ、お前アイツのみょうちきりんな本性見ただろう!?天然二重人格、天然ぶりっ子!!あいつはもっとこう・・黒いヤツが良いんだ!悪魔とか、魔王とか、大魔王使いとか、ケルベロスとか・・・」
 「・・大魔王使い・・?ってか、子供用のだもん。そんなのないよ・・。」
 「それじゃぁライオンとか、オプションとして口から血が出てる版とか、あと・・」
 「だから冬弥ちゃん、これ、子供用のだってば。」
 そんな恐ろしいオプションは付いていない。
 「とにかく、お前はそれが良いんだよ。」
 「でもさぁ〜俺ってウサギって柄?」
 「・・・うさぎは、寂しいと死ぬって言うしな。」
 「え・・?」
 サァっと、一陣の風が駆け抜ける。
 2人の間を心地良く、風が舞う。
 「・・・なんてな。」
 「からかったでしょう。」
 「バーカ。最近はやられっぱなしだったからな、ちょっとは挽回しとかないと・・。」
 「冬弥ちゃんのくせに。」
 「はいはい。」
 冬弥はクシャっと暁の髪を撫ぜると立ち上がった。
 「ねぇ、冬弥ちゃん、俺アイス食べたい。」
 「・・は?アイス?」
 なんら脈絡のない言葉に、冬弥が眉根を寄せる。
 「俺アイス食べた〜〜っい!買ってよ、冬弥ちゃん!」
 「あぁ!?だから、なんでいきなりアイスなんだよ!?」
 「だって俺、甘いもの好きだし・・。」
 「そりゃ初耳だ。・・今度もなと甘いものの話でもしろ。あいつも甘いもの大好きだからな。」
 「あ、なんかそんな感じかも。」
 「んで、何が食いたいんだ?」
 「ん〜。甘ければ何でも。冬弥ちゃんの見立てで構わないよ〜。」
 「それじゃぁ納豆シェイクバニラアイスを・・。」
 「そういう微妙なのはなしっ!」
 「わぁったよ。そんかわし、大人しくそこで待ってろよ。」
 「は〜い。」
 暁は元気良く返事をすると、少しだけ俯いた。
 うさぎのぬいぐるみが、つぶらな瞳で暁を見つめている。
 「うさぎなんて・・・可愛いものじゃ・・ないのに・・。買いかぶり過ぎだよ、冬弥は・・・。」
 小さく自嘲気味にクスっと笑い声を上げると、キュっとうさぎのぬいぐるみを抱きしめた。



 「ねねー冬弥ちゃん、デートと言えば最後は観覧車だよね!?」
 ストロベリーアイスを片手に、満面の笑みで冬弥を見上げる暁。
 「・・デートならな。」
 “デート”の部分をやけに強調した冬弥が、カシスのアイスを一口だけ口に入れる。
 暁はコーン、冬弥はカップ。
 何故そうしたのかは分からないが・・・。
 「ねぇ、冬弥ちゃんのそれってなに?」
 「カシス。言っておくが、別段甘くないぞ?」
 「一口頂戴。」
 「ほら。」
 真っ白なプラスチックのスプーンに、こんもりとアイスをすくう。
 そして、暁の小さくあいた口に放り込み・・・。
 「あ、でもほんのりと甘いかも・・。」
 「暁の方が甘いだろう?」
 「食べる?」
 「・・・どーせ『間接キス〜!』とかって言う気だろう?その手には乗らないからなっ。」
 「でも、すでに間接キスじゃん。」
 冬弥が一瞬だけ動きを止め、その後でガタリと崩れ落ちた。
 その顔には『そうだった』と言う言葉が浮かび上がっている。
 「冬弥ちゃんのお間抜けさん。」
 「ルッセー。」
 「それで、どうせ間接キスなんだから・・食べる?」
 「ん・・?あぁ。」
 冬弥が暁の差し出したアイスをゆっくりと口元に運ぶ。
 「・・甘い・・。」
 「うん、苺だからね。」
 「・・どんな理由だよ。いや、でもまぁ・・なんかお前に合ってるわ。」
 「苺が?」
 「お子様っぽい所が。」
 暁は、むぅっとむくれると冬弥の腕に抱きついた。
 「おわっ!おま・・アイスっ!!」
 「だぁ〜いじょうぶ。」
 「お前が大丈夫でも、俺の服が危険だったんだよ・・。」
 「それよかさぁ、冬弥ちゃん。観覧車〜!」
 「だぁっからぁ、どーしてヤロー同士で観覧車なんかゆったり乗ってなきゃなんねーんだよ。」
 「一応これはデートだから?」
 「デートじゃねぇ!っつーか、語尾が疑問系な時点でおかしいだろう!」
 「とにかく、観覧車!観覧車〜!!」
 「あ〜も〜・・わぁったよ。」
 冬弥は盛大にため息をつくと、なすがままに流された。
 「そう言えば、もなもいっつもストロベリーだったな。」
 「それで・・冬弥ちゃんはカシスなんでしょう?もなちゃんはストロベリーのコーン。冬弥ちゃんはカシスのカップ。」
 「気付いてたのか?」
 「ううん、もなちゃんがいつもストロベリーだったって聞いて、もしかしたらと思っただけ。」
 「お前はもなに似てるようで似てないよな。」
 「俺ともなちゃんって、どこか似てる所・・ある?」
 「その破天荒な性格が激似。ただ、もなは暁ほど繊細じゃない。」
 「はは、酷ぇ〜。もなちゃんが聞いたら怒るぞ〜!それに・・俺は、繊細じゃないよ。」
 「どうだか。」
 冬弥のまるで全てを見透かしたような言葉に、暁はキュっと唇を噛んだ。
 言いようのない感情が、暁の中で混じりあい、膨らみ、蠢く。



 観覧車の前はそれなりに人が並んでいた。
 夕方・・。
 オレンジ色と紫色、夜の気配を引き連れながら段々と暮れなずむ空は美しいコントラストを作り出していた。
 「しっかし、見事にカップルと親子連ればっか・・。」
 「俺達だってカップルじゃぁ〜ん。」
 「・・・お前は良いな。その超プラス思考型の細胞が俺に一つでもあれば・・・。」
 「なにそれ!嫌味!?嫌味なの!?」
 「・・褒めてんだよ、一応。俺の精一杯を尽くして。」
 「冬弥ちゃんの精一杯って・・」
 “湯飲みくらいの大きさなんだね”と言おうとした時、係りの人が暁と冬弥を手招きした。
 「はい、次のカップ・・・」
 暁と冬弥を見て、フリーズする。
 おそらく『はい、次のカップルさん』と茶化し調子で言おうとしていたのだろう。
 しかし残念な事にどちらも男性だった。
 今日何度目とも知れぬ盛大なため息をつく冬弥の腕を、暁が取る。
 そしてしっかりと組み・・・。
 「ぬわっ!暁!?」
 「冬弥ぁ〜、早く乗らないと行っちゃうよぉ〜。」
 「その猫なで声ヤメロ!お前っ・・・!!」
 「はい、それじゃぁカップルさんどうぞ〜。」
 「カップルじゃねぇ!」
 「は〜い、んも〜、冬弥ったら照れちゃって〜!」
 「照れてんじゃねぇ!察しろ、この口調で、表情で!」
 「やっぱり照れちゃって〜。」
 「だぁかぁらぁ、どうしてお前はそう言う・・・」
 「さぁさぁ、痴話喧嘩は中でやってください。はいはい、ダンナさんも入って入って。」
 「痴話喧嘩じゃ・・ってか、ダンナってなんだよダンナって!!」
 抗議する冬弥を中に押入れ、ガシャリと扉を閉める。
 「・・・あぁぁぁ〜〜〜きぃぃぃ〜〜〜〜!!」
 「なぁに?ダァリン?」
 「ダーリンはやめろ、ダーリンは!!」
 「俺の・・じゃない、あたしの事はぁ、ハニーって呼んでね☆」
 「キモチワルイ・・。」
 「ひっでぇ〜。俺の捨て身の・・」
 「日常茶飯事だろう。」
 スパっと言い放つ冬弥に、暁がむぅっとむくれる。
 「ほら外見てみろよ。」
 指し示す方角、夕日が地平線に没しようとしている。
 徐々に徐々に飲み込まれてゆく夕日は、段々と明るさを失って行く・・・。
 「キレー・・。」
 「あぁ。ちなみに、もなが観覧車乗った時になんて言ったか、知りたいか?」
 「何て言ったの?」
 「“うわぁ〜!人がゴミみたいに見えるねぇ〜!”」
 夕日よりも、人のほうが気になるのだ。
 それにしてもゴミとは・・いささか酷い表現である。
 「あは、もなちゃんらしいや。」
 「鬼だな、アイツは。」
 ふっと微笑むと、冬弥は暁の隣に座った。
 「・・なに?急に隣に座って。・・もしかして、やっぱりダ・・」
 「ちげぇっ!ったく、なんだってお前は・・。」
 はぁぁぁ〜っと、長いため息を吐き出す。
 「暁・・俺、お前に言いたい事があるんだ。」
 「なに・」
 急に真剣になった冬弥の横顔を、オレンジの夕日が照らす。
 暮れなずむ空、たった2人きりの観覧車。
 恋人同士だったならば願ってもないシチュエーションだ。
 「俺、考えてたんだ。今日・・ずっと。」
 「何を?」
 「あのさ・・・。」
 真剣な顔をしながら、冬弥が暁の肩をがしっと掴む。
 「え・・?」
 直ぐ目の前にある顔は真剣そのものだった。
 思わず言葉を忘れて見入ってしまう。
 「俺・・・。」

 「やっぱり暁の事、なんて言うか〜その〜・・友達っつーか、その〜あ〜・・・。とにかく、お前が思ってるような気持ちじゃないって言うか、ほら、なんて言うんだ?その〜でも、俺はお前とこのままが良いって言うか、あ、でもそれだと暁ちゃんが可哀想ってもなに言われるし・・。今日中に答えを出せって言ってたけど、こんな答えしか見つからなくって・・・。」

 早口でまくし立てる冬弥に、思わずポカンとした顔を向ける。
 「あぁっ、だから、決して、決してお前の事が嫌いとかじゃなくて、いや、むしろ好きだし。でも、その好きって言うのが暁の好きとは微妙に違ってて・・。」
 「冬弥ちゃん、もしかして・・今日ずっとそれを考えてたの・・?」
 「あぁ・・。なんて言うか、暁の扱いが分からないって言うか・・。一応、なんて言うか・・その〜・・デートって言う名目ってか・・あ〜・・。」
 「デート・・?ずっと否定してたじゃん、冬弥ちゃん。」
 「そりゃぁ、デートって言うのには抵抗があるし・・。でも、もなからはキツク言われてたし、お前の気持ちを考えると粗野にはできないし・・。だから、俺がなんてーか、エスコートしないといけないとかって、もなに散々言われるし・・。ったく、俺がエスコートってがらかっつーの。」
 冬弥はそう言うと、プイとそっぽを向いた。
 その顔が赤いのは、夕日に照らされているからではない。
 「なんか、お前の様子もおかしいし・・。その、告白の、返事・・を、待ってるから・・とか、あと、俺がいっつもデートとか、好きとかって言ってたのを蔑ろにしてたからかも知れない・・とか、色々・・考えたり・・・。」
 しどろもどろに話す冬弥に思わず苦笑する。
 「冬弥ちゃんってさぁ〜。」
 「・・あぁ?」
 やっぱり面白いよね。
 そう言おうとして、暁は言葉を飲み込んだ。
 その代わり、腕に抱きつく。
 「な・・・っ。」
 「俺、待ってるから!冬弥が俺の方に振り向いてくれるまで・・待ってるから!」
 やけに演技がかった口調で言ってのける。
 瞳はウルウル、いたいけな少年の瞳だ。
 「いや・・だからっ・・。」
 「俺、冬弥ちゃんの事大好きだし☆」
 「だからぁ・・。どーしてお前はそう、もなみたいな・・・。」
 「好きだからでしょう?少なくとも、嫌いだったら言わないって。」
 「そう言う事は言わなくても良いんだよ。」
 「言わなくちゃ、言葉にしなくちゃ伝わらない事だってあるじゃん。」
 「・・まぁな。」
 観覧車が段々地面に近くなる。
 最初に冬弥が出て、暁に手を差し伸べる。
 そして、小声で小さく伝える・・。
 『俺も、好きだよ。』
 顔を真っ赤にしながら言った台詞に、暁がポケっとした顔で冬弥を見つめる。
 「こ・・言葉にしないと伝わらないんだろう?言っておくけど、今のは友人としてであって、別に深い意味は・・・。」
 分かってるよ、そんな事は。
 暁は小さく微笑むと、冬弥に飛びついた。


□恋の結末


 「おっかえりぃ〜!暁ちゃんに冬弥ちゃん!」
 「ただいま。」
 「あれあれぇ〜?心なしか冬弥ちゃんの顔が赤い気がするんだけど〜?」
 「るっせー、なんでもねぇっ!!」
 「それでぇ、なにがあったのぉ?暁ちゃん?」
 「いやぁ〜実は・・」
 「違うったら違うっ!暁!お前は勘違いをしているっ!」
 「いや、まだ何も言ってないんだけど・・。」
 「んもぉ、冬弥ちゃんうるっさいよー!!あたしは、暁ちゃんと話してるんだから!」
 「ここで釘を刺しとかないと、暁はある事ない事言い出しそうで・・。」
 「俺って信用ないね。」
 「銀行だったら潰れちゃうね〜。」
 暁の言葉を受けて、もながアハっ☆と笑い声を上げる。
 「んでぇ、何があったのかなぁ〜?暁ちゃぁ〜ん?」
 「うん、あのねぇもなちゃん。実は・・・。」
 「わーわーっ!!ヤメロ!違うんだ!誤解だぁっ!!!」

 『冬弥に告白されちゃった。』

 「だから、それは誤解だと何度も・・・」
 「えぇぇぇぇぇっ!!!!???冬弥ちゃんに告白されたのぉ〜?」
 「そうそう『俺も、好きだよ』って!」
 「うそうそ!どこでぇ!?」
 「観覧車を降りた所〜。」
 「だぁかぁらぁ、それは誤解だっ!!俺は友人としてだな・・・」
 「いやぁん!なんか、冬弥ちゃんってばお茶目さん!」
 「だから、人の話を・・・」
 「やっぱ、観覧車の中よりも観覧車を降りた時に言われる方が良いよね〜!観覧車の中だと、もうありきたりって言うか〜。」
 「だよね、だよね〜!」
 「だっから!!テメェラで盛り上がんな!違うって何度も・・」
 「これからは色々と障害があるだろうけど、あたしは2人の味方だよ!」
 「もなちゃん・・。心の友よ!」
 ひっしと堅く手を握り合う暁ともなに、冬弥は地団太を踏むとその場のものに八つ当たりをし始めた。
 ・・なんて大人気ない・・。
 「と〜やっちゃ〜ん。そんなにゲスゲス蹴ったら、ソファーが可哀想でしょ〜?」
 暁は不敵な微笑をたたえると、つつーっと冬弥に擦り寄った。
 「蹴るんなら〜、ハニーである俺・・」
 「ヤメロっ!俺は、そういう意味で言ったんじゃ・・・あ〜〜〜も〜〜〜イヤ〜!!!だぁれぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
 「・・何の騒ぎですか?」
 カチャリと扉が開き、少々不機嫌顔の夢宮 麗夜が顔を覗かせる。
 いつもニコニコと微笑んでいる麗夜にしては珍しい表情だった。
 「あのねあのね、聞いて聞いて!冬弥ちゃんがね、暁ちゃんの告白したんだって〜!!」
 「へぇ〜。」
 「だからね、これからは暁ちゃんは桐生じゃなくって、梶原に・・」
 「ならねぇっ!!だっから、どーしてそう、話が飛びまくるんだよ!留まれ!地から離れるな!!」
 「それはそれは、おめでとう御座います。式には呼んでくださいね。美麗ともども、参列させていただきます。」
 麗夜はそう言うと、暁に向かって丁寧に頭を下げた。
 「だっからぁ、どーして麗夜まで・・っ!!誰か、俺の味方は!?」
 「全員、冬弥ちゃんの味方だよ!」
 「そーそー、みんなで俺達の事祝福してくれてるんだからさぁ、ここは意地を張ってないで・・」
 「意地じゃねぇ!だれか、日本語の通じるやつ!!!」
 この館に、日本語が通じない人はいなかったが・・残念ながら冬弥の言葉が通じる人もいなかった。
 「それじゃぁ、冬弥ちゃん、今夜は俺達のお祝いパーティーって事で・・」
 「何を祝うんだ!なにをっ!!俺はそう言う意味で好きって言ったんじゃ・・。」
 「でも、好きとは言ったんでしょう?暁さんに。」
 麗夜がスパっと冬弥を切る。
 「麗夜ちゃん、今日はなんだか不機嫌さんだねぇ〜。」
 「今さっきまで寝ていたからでしょう。」
 「それじゃぁ冬弥ちゃん!俺、奏都さんに言ってくるよ。今日はパーティーだって!」
 「いや、ちょっ・・・待っ・・・。」
 暁は鼻歌を歌いながらその場を後にした。
 「待てぇぇぇぇ!!あきぃぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜!!!!」


 ★おまけ

 「とーやちゃん?そんな所にいたら食事が冷めちゃうよ〜?いらないの〜?」
 「・・いい。」
 「折角さぁ、奏都さんが用意してくれた食事だよぉ?ほらほら、美味しそうじゃん!」
 「・・いらない。」
 「そ?それじゃぁ俺が食べちゃうよ〜?」
 「・・・・。」
 (モクモクモクモク・・・)
 「・・あのさぁ、冬弥ちゃん・・?」
 「・・なに。」
 「そう、隅っこの方で体育座りされると、ちょっと・・落ち着かないんだけど。」
 「俺は落ち着く。」
 「いや、そうじゃなくって・・。ってか、せめてこっち向こうよ、な?壁の方向いて体育座りされると、なんか・・心苦しいって言うか・・。」
 (クルンと、暁の方を向く)
 「で、その死んだ魚みたいな表情は・・」
 「俺は魚じゃないもん。」
 「(もんって・・。)もとさぁ、こう・・華やかな顔しようよ、折角のお祝いなんだし。」
 「(ピクっ)お祝い・・?」
 「そうそう、折角奏都さんが用意してくれた部屋なんだからさぁ〜・・」
 「なんで・・なんで暁とこんな変な部屋に一緒にいなきゃなんないんだ!?あぁっ!?なんだここは!密室殺人事件でもおっぱじめる気か!?犯人は俺か暁!被害者は俺か暁!視聴率最低代の1回限りでのロードショウかぁ!?」
 「と・・とーやちゃん・・?」
 「なんだよこの部屋は!なんで真っピンクなんだよ!何時の間に作ったんだよ!ってか、こんな部屋、いつ使う予定があって作ったんだ!?」
 「(多分、こんな時のためだと思うけど・・・。)」
 「しかもこの部屋暖房機器がねぇっ!!寒いんだよ!寒いんだよ!寒いんだよ〜〜〜〜っ!!!」
 「そんなに寒いんだったら・・。(冬弥にすりよって抱きつく)こうすればほら、寒くないでしょう?」
 「ヤメっ・・ヤメロってか、顔を近づけるな!顔をっ!!・・顔・・かおっ・・・。(バタリと倒れこむ)」
 「えぇっ!?冬弥ちゃん!?冬弥ちゃ〜ん!?」


  〈END〉


 奏都「冬弥さんは、顔を極端に近づけられると倒れてしまうのですよ。」
 もな「恥ずかしさの極致になっちゃうみたいだねぇ〜。」
 


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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  4782/桐生 暁/男性/17歳/高校生アルバイター、トランスのギター担当

  NPC/梶原 冬弥/男性/19歳/夢の世界の案内人兼ボディーガード

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 ■         ライター通信          ■
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 何時も有難う御座います、この度は『夢幻館でのホワイトデー』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました!
 今回はデートと言う事で、うやむやになってしまっていたバレンタインデーでのお返しの言葉をノベルの核にしながら執筆いたしました。
 途中、最近やられっぱなしの冬弥が無駄な抵抗を見せ、暁様をからかったりしていましたが・・結局最後はヤラレで終わっております。
 シリアスとコメディーが上手く交じり合っていればと思います。


 それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。