コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<ホワイトデー・恋人達の物語2005>


御料理狂想曲〜モンスタープリンの来襲!?〜
●OPのお・さ・ら・い
 ホワイトデーも近いある日、某所で料理教室が開かれた。
 だが、そこに待ち受けていたのは、10リットルバケツで雌伏の時を過ごす、モンスタープリンだった。
 果たして、彼らは無事、ホワイトデーのプレゼントを作る事が出来るのかっ!?

●甘い香りは危険の予兆
 物語は、凡河内絢音から始まる。学友から、『倒れるまでプリンが食べられる会があるんだけど、行って見ない?』と誘われ、彼女は弓の練習が終わると同時に、部活仲間と共に、減った小腹を抱えて、会場へと向かっていた。
「あら? 男の人‥‥?」
 だが、会場の前には、甘いモノにあまり目がない筈の女性陣ではなく、30代くらいの男性が、チラシを片手に、興味深そうに中を覗いていた。
「あのー。何かお困りですか?」
「わぁっ。びっくりした」
 後ろから声をかけると、飛び上がらんばかりに驚く彼。
「ごめんなさい。驚かせるつもりじゃなかったんですけど」
 目をぱちくりとさせるその青年に、絢音は申し訳なさそうに謝った。
「いや、僕もぼーっとしてたから。えぇと、ここは、これの会場でいいのかな?」
 そう言って、絢音にチラシを差し出す彼。どうやら、この辺りの地理には、あまり詳しくないらしい。会場の名前を見ると、確かに目の前の公民館だった。
「ええ、ここですよ。部屋は‥‥あれ、同じ部屋ですね」
 予定表を確認すると、絢音が目指していた部屋と、その青年が訪れようとした部屋は、どうやら同じ場所のようである。
「と言う事は、あなたもバレンタインのお返しを‥‥?」
「いえ、私達はお友達に誘われて、バケツプリンを食べに来たんです」 調理室に向かいながら、甘いもの好きなんですよねー。と、嬉しそうに告げる彼女。
「ああ、いけない。遅れちゃう。それじゃあ、また後で」
 すでに、学友達は、先に行ってしまっている。あまり目立った行為は好きではない彼女、集団から遅れまいと、その男性に軽く会釈し、慌てて調理室へと入っていく。
「元気な人ですねぇ」
 なんとなく、自分の相方を思い出しながら、彼もその後へ続く。程なくして彼も、受付の設けられた調理室へとたどり着く。
「えぇと、参加費はこちらでいいんですよね?」
 こくりと頷くスタッフ。どこか人形めいたそれに、微かな違和感を感じる彼。
(まさか、こんな所で、魔皇の力なんか、使う事ないと思うけど‥‥)
 その違和感を振り払いつつ、彼はその受付にこう尋ねた。
「あのぉ、料理なんかやった事ないんですけど、そんな僕でも出来ますかね?」
「大丈夫です。うちの教室は、人間様以外の方でも、料理を楽しんでいただきましょうと言う趣旨ですから」
 事務的に答える受付。
「人間様以外って‥‥?」
「うちのお教室には、いわゆる妖怪変化魑魅魍魎、怪人モンスターの類等の方々にも、料理を楽しんでいただくと言うコンセプトで行っております」
 ああ、そう言う事ですか‥‥。そう続けて、頷く彼。納得したわけではないが、そう言う事もあるのだろう、とあっさり受け入れてしまったようだ。
「へぇ‥‥。結構人が居ますね」
 中に入ると、十人近い人数が、わいわいと料理を作っていた。よく見ると、チームごとに指導員がおり、小人数制の授業の様になっているようだ。中には、女性の姿もある。
「えぇと、僕の番号は‥‥あった」
 受付の時に割り振られた番号札に従い、調理台へ向かうと、そこには先客が居た。
「こんにちは。えぇと、同じ班ですかね?」
「‥‥そうみたいですね」
 長い銀髪を、邪魔にならないように1つにまとめた、綺麗な‥‥おそらくは男性だろう。緊張しているのか、少し冷たい話し方をする若者である。名札を見ると、エリック・レニアートンと書いてあった。
「お手柔らかにお願いしますよ。何しろ、料理なんてやった事もないもので」
 無理にアプローチを取る事もないだろう。そう考えた彼‥‥松本・太一は、そう言って挨拶を締めくくる事にする。
「むう、出遅れてしまったな」
 と、そこへまた参加者が訪れた。名札を見ると、シオン・レ・ハイと書いてある。年の頃なら40歳くらいの、渋い中年だ。同年代の参加に、ほっと胸をなでおろす太一氏。
「まだ始まったばかりですから、大丈夫ですよ」
「そうか? なら良いのだが。せっかく金払ったんだから、食って帰らんと、割に合わん」
 彼がそう言うと、シオン氏は、安心したように、近くの椅子に腰を下ろした。なんだかめりっと嫌な音がしたような気がしたが、気のせいにして、太一は自分も椅子に座る。
「やっぱり、作るものはマシュマロだの、クッキーだの、甘いものなんでしょうね」
 ヴァレンタインのお返しですから。と、何とはなしに呟く彼。
「そうだなー、それ以外に考え付かんのだが‥‥。まぁ、メニューを見てから、考えても良かろう」
 材料費なら、たんまりとあるし。と答えるシオン。その答えに怪訝そうな表情を浮かべる太一。
「ねぇ、今日って、プリンを食べる会じゃなかったっけ?」
 同じ様に疑問符を浮かべているのは、絢音だ。学友が、調理室の後ろの方で、『まだ固まらないかなー』等と言いながら、カラメルソースを作っている間、手持ち無沙汰になって周囲を見回し、ようやく状況に気付いたらしい。
「まぁ、良いんじゃない? うちら、イベント違うし」
「そりゃあそうだけど‥‥。ホワイトデーのイベントって‥‥。どうしよう‥‥。ひょっとして、場違いかも‥‥」
 悩み始めてしまう絢音。だが、学友にこう言われ、その迷いを振り払う事となる。
「プリン、食べたくない?」
「食べたい」
 即答。甘いものは、女の子に勇気と煩悩をくれるのだ。例外もいるにはいるが。
「じゃあ、良いじゃない。気にしないでおこうよ」
「そうね」
 楽しむ事は重要だ。そう思った絢音は、多少緊張しつつも、デコレーション用の生クリーム作成に挑む事にする。
 と、その時だった。

 ごぽっ

 まるで、固まりかけた液体の中で、泡がはじけるような音が、冷蔵庫の中から、微かに流れる。
「今、何か音がしなかったか?」
「僕も聞きましたよ」
 耳の良いシオンと、人化しているとはいえ、人の子ではなくなった太一が、それを聞きつけて、他の参加者に問うた。
「音なんかしないけど」
 が、エリクは我関せずといった風情だ。勤めている洋菓子店の影響か、鮮やかな手つきで、ホワイトチョコレートを刻んでいる。
「苺ソースも作っておいた方が良いかな」
「そうだねー」
 冷蔵庫に一番近い筈の絢音は、全く気付いておらず、学友達と、苺を火にかけていたり。表情が強張っているのは、緊張しているせいだろうか。

 ごぽぽっ

「また、鳴った‥‥」
「出てきたら、考えましょう。今は、回りも分からないようですし」
 シオンの言葉に、そう提案する太一。
 だが、甘い香りに誘われるようなその音が、危険な料理教室の序曲である事を、人々は誰も気付いちゃいないのだった。

●お返しの金額
 程よく人数が集まった所で、教える担当‥‥いわゆる『先生』が現れた。人柄と年齢性別は、卓によって様々だったが、彼らの班の担当は、まだ若い青年だった。
「って、なんでおぬしが教師役なんだ?」
 顔見知りの姿に、目を瞬かせるシオン。
「いやー、ちょっと頼まれちゃいまして」
 いつもと同じ様に、ひとあたりの良さそうな表情を浮かべて、そう答えるはモーリス・ラジアル。普段は、某財団で庭園の財務管理全般を請け負っている御仁である。
「お知り合いですか?」
「ああ、ちょっとな。しかし、おぬしが料理を出来るとはしらなんだ」
 太一にそう言われ、驚いた表情のシオン。と、彼はちちちと指をふり、こう答えてくれる。
「まぁ、伊達に何年も生きてませんから。一通りのものは、作れるんですよ」
 普段は、自分より美味しいものを作ってくれる従業員がいますから、作りませんけどね。と、付け加えつつ、モーリスは持っていたエプロンを身に着ける。流石に、料理教室でスーツ姿と言うわけにも行かないらしく、今日は動きやすそうな前開きのシャツに、チノパンとか言う、ラフな姿である。
「えぇと、それで、何を作るんですか?」
「そうですね。初心者もいるようですから、まずは軽くクッキーなんかを。大丈夫。小手先のテクニックなんか必要ありませんから、小学生でも作れます」
 まずは、材料を分量どおり計る事から始めましょう。と、プリントを渡すモーリス。それには、材料と、大雑把な作り方が印刷されている。
「何々‥‥。ホットケーキミックスで作る、チョコチップクッキー‥‥? へぇ、あれでクッキー作れるんですか」
「ええ。既に小麦粉とベーキングパウダーが入っていますから、混ぜ合わせる手間が省けて、重宝するんですよ」
 感心したような太一のセリフに、そう答えるモーリス。
「これなら、僕でも出来そうですね。帰ったら、あいつにも教えてあげよう」
 どうやら、この調子でいけば、魔皇としての力は、使わなくても済みそうだ。そう思い。太一は心なしか安心した表情で、言われた通り材料を取り分ける。
「ふむ‥‥。しかし、これではすぐ食べ終わってしまうなー。腹の足しにならん」
 自身の体躯に比べると、ずいぶんと小さく見える計量スプーン(大)で、慎重に砂糖を計りつつ、シオンはそうぼやく。
「シオンさんってば‥‥。自分で食べるわけじゃないんですから〜」
「そうは言ってもなー。ここの所、お返し代金を稼ぐ為に、食費を軒並み削ってしまっていてなー。腹が減って仕方がない」
 苦笑する太一に、シオンはそう答えている。と、それを証明するかのように、彼の腹の虫が、盛大な主張をした。
「そんなに予算足りないんですか? お返しって、心を込めたものを渡すのでは‥‥」
 どうも話がおかしい。そう聞き返す太一。と、シオンはそれに対し、さも当然と言った表情で、こう答えた。
「え。ホワイトデーのお返しは、100倍返しが基本だと、ある方に教わったんだが、違うのか?」
「違いますよ」
 真面目に勘違いしているシオンに、太一はいったんはそうツッコミを入れた。だが、彼自身も、知り合いから聞いた話を思い起こし、こう続ける。
「いや、確かに3倍返しって、よく言われるんですが‥‥。100倍は多すぎでしょう。もし、それが本当なら、世間の男性は、とっくの昔に、首をくくる事になってます」
「ふむ‥‥。そう言うものなのか‥‥? モーリス殿」
 半信半疑のシオン。そのスジにおいては、彼ら2人よりざっと500年ほど上手の教官に、裁定をしてもらおうと、話を振ってみる。
 ところが。
「さっきから、何ベタベタ触ってんだよ」
「まぁ、いいじゃないですか」
 器用にクリームを攪拌しているエリク。その手に、自身の手を添えるふりをして、やんわりと包み込んでいる。
「別に、この程度なら、君に手取り足取り教わらなくても、出来るんだけど」
「そんな冷たい事、仰らなくても。せっかく、こうして共同作業できる様になったんですから」
 ぷいっとそっぽを向く彼に、モーリスはそう言った。見れば、バターを切り分けるその仕草が、まるで結婚式のケーキ入刀か何かのようである。もっとも、エリクの表情を見る限り、納得しているどころか、うっとおしくて仕方ないようだったが。
「余計なお世話。離してくれないかな」
「いやです☆」
 しかし、五百戦錬磨の庭師、睨まれた程度では、まーったく動じない。それどころか、耳元でこう囁いちゃったりする。
「こうして近くで見ると、やっぱり綺麗ですね‥‥」
「‥‥怒るよ」
 エリクの持っていた包丁が、生地を伸ばす麺棒に持ち返られている。
「って、何、生徒口説いておるか貴様ーーー!」
 が、その麺棒が炸裂するより前に、シオンが後頭部から盛大なツッコミをお見舞いしていた。
「おぉっと、人の恋路を邪魔しないで下さいよ。出ないと、シオンさんも食べちゃいますよ☆」
「謹んでお断り申し上げるっ」
 ちちちっと訳の分からない忠告をしたモーリス、シオンさんに投げ飛ばされて、画面内からさようなら。
「あ、星になった」
「安心しろ。この程度じゃ、かすり傷も負わん」
 すっかり他人事の太一に、シオンはそう言ってみせる。モーリスの事だ。そのうちケロッとした表情で戻ってくるに違いない。
「いや、中々盛況なようですなー。これなら、私も紹介したかいがあると言うものです」
 と、そこへ今回の料理教室の仕掛け人たる華菊屋が、姿を見せた。どうやら、材料の納入ついでに、様子を見に来たらしい。
「出たな妖怪」
「人聞きの悪い。私はただの和菓子屋でございますよ。ただちょっと、贔屓筋に、人界に属さぬ方がいらっしゃるくらいで」
 シオンにそう言われても、表情を変えずに、さらっと非常識な事をほざく彼。
「それはただの和菓子屋って言わないんじゃ‥‥」
「さぁ、どうでございましょうなぁ。私どもは、商売の幅を広めたいと思っておりますだけですから」
 美味しい菓子を食したい方に、妖怪変化魑魅魍魎人外魔境の区別はありませんから。と、セリフだけはご立派なのだが、その口元に浮かぶ企み笑顔を見ると、どこまで信用が置けるか、わかったもんじゃない。
「まったく。バレンタインの次は、ホワイトデーか。日本の菓子屋の商魂たくましさは、ある意味尊敬に値するよね」
 そんな彼を、見下すかのようにそう言うエリク。しかし、華菊屋はそんなセリフにも、表情を変えないまま、「お褒めに預かり、光栄にございます」と軽く頭を垂れている。
「シオンさん。嫌味にしか聞こえないのは、気のせいですかね?」
「妖怪相手にしているから、その分、ツラの皮が厚いんだろう」
 太一の問いに、シオンは平然とそう言った。この程度でいちいち驚いてなどいられないと言ったところだろうか。
「で、その妖怪商人さんが、何の用?」
「おやおや、そう厳しい表情をしては、せっかくの美人が台無しでございますよ。そうですなぁ‥‥。お望みとあらば、人の世では、手に入らぬ材料も、調達して参りますが‥‥」
 訂正。様子を見に来たのではなく、隙あらば、商売のタネにしようとして、ここに来たようだ。
「僕が作るのは、殺人料理じゃないんだけど」
「私は、食せる物しか作りませぬよ」
 何しろ、妖怪相手に菓子を卸している相手である。下手に要求したら、一発昇天とか言う危険な物体を送りつけられかねない。
「だったら、用意して欲しいものがあるんだが」
 だが、シオンはそれでもそう言った。太一が「シオンさん‥‥?」と、怪訝そうに首をかしげていると、彼はこう続ける。
「こんなちっぽけなクッキーではなく、等身大の像が出来るくらいの材料と、オーブン。それくらいは、朝飯前だろう?」
 これじゃあ、腹の足しにもならん。と、焼きたてのクッキーを放り込みつつ、である。と、華菊屋はまってましたと言わんばかりの表情で、こう答えた。
「もちろんです。が、それなりに御金子もかかりますよ?」
「金ならある!」
 どすんっと、調理台の上に置かれたのは、1万円札の束。
「ほほぅ‥‥。ずいぶんと貯め込みましたなぁ‥‥。では、2時間ほどお待ち下さい。御用意いたします故」
 それを見て、満足そうな華菊屋は、『お代は後払いでけっこうですよ』と言い残し、調理室を後にする。
「では、その間、僕は普通にクッキー作ってますよ。これだけあれば、それなりに可愛いものが出来そうですしね」
 どうやら、まだお返し作りに勤しんでいても良いようだ。そう思った太一は、何故か用意されていたラッピング用品を手に取り、普段世話になっている逢魔へ、感謝のプレゼントを用意すべく、せっせと細かい作業に勤しむのであった。
 と。
「良いにおい‥‥」
「どうやら、向こうのお嬢さん達も、プリンが出来上がったようだな」
 気がつけば、後ろのほうから、出来上がったプリンの、あまったるいにおいが流れてくる。
「あ、良かったら一緒に食べません? 私達だけじゃ、食べきれませんし」
「喜んで」
 絢音のお誘いに、シオンは即答すると、目にも止まらぬ速さで、女生徒達の間に陣取ってしまう。
「‥‥飢えてたね。あれ」
 エリクが呆れたようにそう言った。どうやら、シオンは、相当食費を削っているらしい。と。

 そして。
「ようやく終わったみたいですね」
「うむ、これで食べられるな」
 暴れるプリンをようやく鎮め終わったのを見て、太一とシオンさんは、準備はOKとばかりに、そう言った。見れば、既に人数分の皿とスプーンが用意してある。
「では‥‥」
 全員、スタンバイOK。各自、獲物を用意して、いざ、大いなるプリン山へ。
「「「「「「いっただきまぁーーーーす!!」」」」」」
 掛け声と共に、調理室内に、甘ったるい香りが充満するのだった。

●別腹発動承認
 1時間後。
「こんなに弄ばれちゃったの、生まれて初めて‥‥☆」
 すっかり食い荒らされて、残骸になってしまっても、まだ喋っているプリプリちゃん。
「ごちそうさまでぇす」
 大きなお皿の中で、お腹をぱんぱんに膨らませた八重ちゃ。満足そうにカラメルの海で泳いでいる。
「モーリス様☆ 初めてなんですから、責任とって下さいね?」
「残念ながら、そうは行きませんよ。私は、君が真実の相手が現れるまでの、通りすがりの相手ですから‥‥」
 で、その捕獲したモーリスはと言うと、プリン相手に、プレイボーイっぷり全開なセリフをのたまっている。
「お待たせいたしました。おや? いったいどうなさったのですか?」
 と、そこへ華菊屋が戻ってきた。見れば、絢音と八重ちゃが、ひっくり返っている。
「うーんうーん。こんなに美味しいぷりんが、好きなだけ食べられるなんて、幸せ‥‥」
「ただの食べすぎだよ。毒は入ってないようだし」
 軽く診断していたエリク。しばらく休んでいたら治るよ。と、絢音にそう言った。
「おやおや。では消化薬でも御用意いたしましょうか?」
「却下。内蔵までとけそうだし」
 華菊屋の申し出を、エリクはきっぱりと断った。いや、治す事は出来そうではあるのだが、これ以上余計なトラブルを増やす事もないだろうと、そう思っての事らしい。
「で、物は用意出来たのか?」
「はい。外に組み立て終わっておりますよ」
 見れば、窓の外には、見慣れない建物が立っている。
「なんだか、和風建築な感じですね」
 確かにオーブンなんだが。外装はまるでどこかの茶室だ。
「ふむ。大きさ的には充分だな」
 シオンがそう言った。皆がプリント格闘している間に、等身大クッキーの種を作りえていたらしい。後は、焼くだけである。
「はい。では皆様、お口直しに、当店の菓子はいかがでしょう? ついでにお茶も用意させていただきますが」
 洋菓子も良いですが、和菓子もまたおつなものですよ? と、そう勧める華菊屋。
「お菓子たびるーーーー!」
「私もーーー!」
 現金なもので、今までもう食べれないだのとひっくり返っていた八重ちゃと絢音、それを聞いた瞬間に復活している。どうやら、『甘いものは別腹』機能が、発動承認されてしまった模様。
「そちら様は、どうなされます?」
「ど、どうしてもと言うなら、食べても良いよ。ま、まぁいつもと違う文化に触れて見るのも、良いかなと思うし」
 そっぽを向きながら、そう答えるエリク。本当は、東洋の菓子に興味津々で、着物までしっかり着込んでいたりするのだが、まだまだ信用のならない相手に、本心を見せたくはないらしい。
「その割には、完璧な衣装ですね。よく似合ってますよ」
「う、うるさいっ」
 モーリスに突っ込まれ、エリクの両頬に照れた様に朱がさす。
「青春だなー」
「いやぁ、若いと言うのは、いいものですねー」
 そんな若人達の姿を見て、おっさん組のシオンと太一は、微笑ましそうに茶をすするのであった。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1009/露樹・八重 (つゆき・やえ)/女の子/相応/妖精さん
3261/エリック・レニアートン/殿方/27/洋菓子店給仕
3356/シオン・レ・ハイ/男性/42/食いしん坊な貧乏人
3852/凡河内・絢音 (おおしこうち・あやね)女の子/17/ぢょしこおせい
w3a176maoh/松本・太一/男性/35/ごく普通の青中年
2318/モーリス・ラジアル/殿方/500とちょっと/庭師

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 ちょうど、『綺麗な人大好き』と公言している人にひっかかって、口説かれました。まぁ、なびかなかったって事で。