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御料理狂想曲〜モンスタープリンの来襲！？〜
●ＯＰのお・さ・ら・い
ホワイトデーも近いある日、某所で料理教室が開かれた。
だが、そこに待ち受けていたのは、１０リットルバケツで雌伏の時を過ごす、モンスタープリンだった。
果たして、彼らは無事、ホワイトデーのプレゼントを作る事が出来るのかっ！？
●甘い香りは危険の予兆
物語は、凡河内絢音から始まる。学友から、『倒れるまでプリンが食べられる会があるんだけど、行って見ない？』と誘われ、彼女は弓の練習が終わると同時に、部活仲間と共に、減った小腹を抱えて、会場へと向かっていた。
「あら？ 男の人‥‥？」
だが、会場の前には、甘いモノにあまり目がない筈の女性陣ではなく、３０代くらいの男性が、チラシを片手に、興味深そうに中を覗いていた。
「あのー。何かお困りですか？」
「わぁっ。びっくりした」
後ろから声をかけると、飛び上がらんばかりに驚く彼。
「ごめんなさい。驚かせるつもりじゃなかったんですけど」
目をぱちくりとさせるその青年に、絢音は申し訳なさそうに謝った。
「いや、僕もぼーっとしてたから。えぇと、ここは、これの会場でいいのかな？」
そう言って、絢音にチラシを差し出す彼。どうやら、この辺りの地理には、あまり詳しくないらしい。会場の名前を見ると、確かに目の前の公民館だった。
「ええ、ここですよ。部屋は‥‥あれ、同じ部屋ですね」
予定表を確認すると、絢音が目指していた部屋と、その青年が訪れようとした部屋は、どうやら同じ場所のようである。
「と言う事は、あなたもバレンタインのお返しを‥‥？」
「いえ、私達はお友達に誘われて、バケツプリンを食べに来たんです」 調理室に向かいながら、甘いもの好きなんですよねー。と、嬉しそうに告げる彼女。
「ああ、いけない。遅れちゃう。それじゃあ、また後で」
すでに、学友達は、先に行ってしまっている。あまり目立った行為は好きではない彼女、集団から遅れまいと、その男性に軽く会釈し、慌てて調理室へと入っていくのだった。
●目覚めるヲトメ
それは、庭師がエリクを口説いて、シオンさんに盛大なツッコミを食らった辺りから始まる。
「えーっ！ まだ出来てないの？」
学友からの報告に、絢音は不満そうにそう言った。
「うん‥‥。デコレーション用のクリームとか。けど、まだ固まるまで時間あるから、今から作っちゃおうと思って」
絢音の目の前に、『じゃあこれよろしくね』と言わんばかりに差し出されたのは、フルーツやら何やらの、材料である。
「えー。でも私、料理なんてしたことない‥‥」
甘いものは好きだが、本格的に作った事は、あまりない。
「大丈夫だよ。料理教室一緒みたいだし、わからない事は聞けば」
「そ、そうだねっ」
困惑していた絢音だったが、前の方で教室を開いている光景を指し示され、納得する。そして、いざとなれば、彼らにやらせてしまおうと、ちゃっかりした事を考えつつ、泡だて器を手に取った。
「ああ、酷い目に会った。おや、これは‥‥」
と、そこへ腰の辺りをさすりつつ、戻ってくるモーリス。と、彼はちょうど年頃のお嬢さんが、あーでもないこーでもないとやっているのを見て、コレはこれで美味しそうと、すぐさま営業用スマイルを浮かべた。
「何かお困りの御様子ですね
「料理教室の‥‥。えぇと、上手くクリームが泡立たなくて‥‥」
ケーキ屋さんに並ぶように、ふわふわな感じにしたいんですけどぉ。と、訴える絢音。それを見たモーリス。「ちょっと貸して下さいね」と、泡だて器を奪い取ると、手馴れた手つきで、ボウルをかき混ぜる。
「うわぁ‥‥。すごいねー」
「ざっとこんなもんです。後は、これを詰めればＯＫですよ」
絢音がいっくらやっても液体のままだったそれは、モーリスの手によって、ふわふわの固体と化していた。しっかりと泡立ったそれを、搾り出し袋に入れるよう、指示をする彼。既に出来上がっているものを詰め込むだけなら、絢音にも出来そうだ。
「こ、これくらいで良いかな‥‥」
「ええ。上出来です」
準備が整った所で、学友が「よーし。それじゃあ、プリン出すよー」と、冷蔵庫を開けている。
「せーの‥‥。えいっ」
逆さまに置かれたバケツを、慎重に引き上げる‥‥。
「うわぁ、本当に立ってるーーー！」
そこには、しっかりとした足取りで立つでっかいプリンの姿があった。１歳児くらいの大きさはあるだろうか。
「ばけつぷりんー！」
「しーっ！揺らすと崩れるって！」
ところが、出来るだけ振動を押さえるように通達がなされる中、異変は起きた。
「やっと出られた‥‥」
どこからとも泣く響いてくる声。
「ねぇ、今何か言った？」
「ううん。何にも‥‥」
学友の問いに、首を横に振る絢音。
「言いましたわよ。あたくしが」
「へ？」
皆が怪訝そうな表情を浮かべる中、プリンがくるりと、自動的に振り返る。
「わーーーっ！ プリンが動いたーーーー！？」
見れば、プリンの胴体に、少女マンガに出てきそうなキラキラしたお星さまたっぷりのおめめと、ぞろりとした牙が並ぶたらこ唇装備なお口が、出来上がっていた。
「へぇ、美味しそうなプリンだね。食べがいもありそうだし」
もっとも、絢音にしてみれば、幾ら目と口がついていようが、プリンはプリン。既にお玉まで用意して、とても嬉しそうである。
「って、何感心してんのよー。動いて喋ってるのよ！ アレ！」
「だって、プリンはプリンじゃない」
まくし立てる学友に、絢音は平然としてそう言った。ところが、そのセリフに、今度はプリンちゃんの方が、文句をつける。
「違いますわっ。私をただのプリンと侮るなかれ。私こそ、歌って踊れるスーパーアイドル、プリンセスプリン‥‥略してプリプリちゃんなのですわっ」
あろう事か、棒人間のような手足まで生えている。そう言うと、プリンちゃん改めプリプリちゃんは、バレリーナか何かの様に優雅に一回転して、ポーズを決めてくれた。
「ぷりん‥‥」
そんな彼女の姿に、熱すぎる視線を送る約１名。
「喋った？」
バケツから流れてきた声に、驚く学友達。
「って、驚いてないわね、絢音」
「うん。だってプリンだし」
が、プリン攻略に使命感さえ燃やしている絢音は、そんな騒ぎにも、まーーったく無関心を貫いている。て言うか、プリンしか見えていない模様。
「歌って踊れて、しかもおいしい‥‥。その上大きい‥‥」
じゅるっとよだれをすする音。その直後、バケツが跳ね上げられ、中から１０ｃｍ程度の小さな女の子が登場する。『不条理妖精』『魔性のチビッコ』こと、露樹八重ちゃんだ。
「ぷりーーーーーん！！！！」
そんな妖精八重ちゃん、どっから調達してきたのか、自分の身の丈と同じくらいの先割れスプーンを取り出すと、プリンの背後から、お命頂戴ッ！ とばかりに飛び掛る！
「きゃあっ。なにするんですのー」
つるっと体の柔らかさを生かして、避けるプリプリちゃん。中々にすばしこいようだ。
「うぬぬ、やるですね‥‥。さすがに、たまごとぎゅうにゅうがはいっているだけあるでぇす！ こうなったら、じみちによじのぼって、うえのからめるをしょくさせてもらうでぇすよ！」
びしぃっと指先を突きつけて、そう宣言する八重ちゃん。しかし、プリプリちゃんはちちちっと指（？）を振ると、ライバル心むき出しにして、こう宣言する。
「残念だったですわね！ そう簡単には食べさせてあげませんわよ！」
しかし、プリプリちゃんは、そのまま、くるりと踵を返すと、まるでどこかのゲームか何かの様に、調理台から調理台へと、華麗なジャンプを決めてみせる。
「ああっ、プリンが逃げた！ 私のぷりんーーー」
お玉もったまま、追いかける絢音。つられて調理室の中を駆けずり回っている所を見ると、やっぱり周りは見えていないようだ。
「ほーーーほほほほ！ 捕まえてごらんなさぁい！」
かくして、料理教室を舞台に、プリン争奪杯が始まった。セリフだけを見ると、海岸で彼氏と追いかけっこをしているようだが、後ろから「待ちなさぁいっ！」だの、「待つでぇす！」と、お玉やスプーンを振りかざしている所は、子供の追いかけっこである。
「負けないのでぇす！ ばれんたいんはちょこをたべほうだい、ほわいとでーはそのさんばいがえしなんでぇす！ なにがなんでもそのてっぺんのからめるをたべてしやわせになるんでぇす！」
そう叫ぶと、八重ちゃは、跳んできたプリプリちゃんを、迎え撃つかのように、しっかりとしがみつく。
「ちょっと！ 離れなさいよぉ！」
「嫌でぇす！ からめるそーすをなめるんでぇす！」
振り落とそうとしたプリプリちゃん、勢い余って、他の料理教室の台に着地してしまう。
「プリンと女の子が振ってきたー！？」
たまったもんじゃないのは、教室の生徒さん達である。じりじりと自身を登ってくる八重ちゃに、プリプリちゃんは、痺れを切らしたように、自身の身体に手をかけた。
「冗談じゃないわ！ えい！ 切り離し投下！」
「ひゃああっ。そんなのナシでぇすーーー！」
そして、しがみついていた八重ちゃを、自身のプリンごと下に落とす。
「危ないっ」
「ありがとうでぇす‥‥」
それをダイビングキャッチしてくれる絢音ちゃん。体が大きかろうが小さかろうが、女の子のピンチを放っては置けない。
「いえいえー。あーあ、制服がプリン塗れになっちゃたよー。勿体無い」
が、その代わりに、絢音の制服が、プリンでべとべとになってしまった。それを見て、八重ちゃはきっとプリプリちゃんを睨みつける。
「たべもののくせに、たべものをそまつにするなんて、ゆるさないでぇす！ こうなったら、きょうりょくして、ぷりんを捕まえるでぇすよ！」
「ＯＫ！ まかしといて！」
なんだか意気投合してしまった２人、両側からプリンを挟み撃ちにする。
「ぜぇはぁ。と、とうとう追い詰めたでぇすよ‥‥」
「んもー。プリンなんだから、動かないでよーーー」
先割れスプーンとお玉を手に、今度こそ食してやる！ と、詰め寄る八重ちゃと絢音。
「いやですわ。麗しき殿方ならともかく、オナゴに食われるなんて、冗談ではありませんものぉ♪」
そんな２人に、プリプリちゃんは、まるで襲われかけた乙女の様に、ぷるぷると身をよじらせる。
「では、殿方であれば良いんですね？」
「えっ？」
そんな、プリン姫のピンチを救ったのは、他でもない。庭師だった。彼は、まるで貴婦人に接するかのような恭しさで、プリプリちゃんの前に膝をつくと、こう挨拶する。
「はじめまして。プリプリちゃん。ふふ、称号にたがわぬ綺麗なお肌ですね」
「そ、そんなに見つめないで下さいましぃ。照れてしまいますわ」
やっぱり、心は乙女らしく、プリンの真ん中くらいが、ぽーっとほんのり桜色と化してしまう。
「いちごぷりん‥‥」
それを見た八重ちゃん。一粒で二度美味しい‥‥と、もう１本の先割れスプーンを取り出す。
「いけませんか？」
「と、殿方だけなら‥‥」
で、プリプリちゃんのほうは、庭師の色気に当てられて、あっさりと陥落してしまった。
「ありがとうございます。では、料理には試食もアリですから、まずは君の一部を味見させていただきますね」
「ああっ。そこはダメぇ‥‥ん」
しつこいようだが、プリプリちゃんはプリンである。スプーンで突付かれて、身をよじらせているが、あくまでもプリンである。
「では、失礼して」
つまり、どう言う事かと言うと。
「きゃああっ。崩れちゃった−ーー！」
「デストローーーイ！！！」
衝撃を与えた結果、思いっきり体が崩壊してしまっていた。
「「んもーう。どうしてくれるんですのー」」
ユニゾンする二個のプリン。片方は桜色プリンで、もう片方はノーマル。このプリン、別れると増殖するらしい。
「ああ、いけませんね。ダメです。元に戻しておきましょう」
さすがに、まずいかもしれませんねーと感じたモーリス。そう言うと、自身の能力で、あーっと言う間に元のでっかいプリンに戻してしまう。
ところが。
「あれ、二段になってる」
どうやら、元に戻しすぎて、変な風に融合してしまったようだ。見れば、下はプリン色、上は桜色の、二段プリンになっている。
「それはそれで美味しそうなのでぇす！ 動かなくなったと言う事は、ぷりん食べ放題なのでぇす！」
「うん。二つの味が楽しめてお得よね！」
八重ちゃのセリフに、絢音は嬉しそうにそう言った。これでやっと、プリンが死ぬほど食べられる、と。
「ようやく終わったみたいですね」
「うむ、これで食べられるな」
今まで様子を見ていた太一とシオンさん、準備はＯＫとばかりに、そう言った。見れば、既に人数分の皿とスプーンが用意してある。
「では‥‥」
全員、スタンバイＯＫ。各自、獲物を用意して、いざ、大いなるプリン山へ。
「「「「「「いっただきまぁーーーーす！！」」」」」」
掛け声と共に、調理室内に、甘ったるい香りが充満するのだった。
●別腹発動承認
１時間後。
「こんなに弄ばれちゃったの、生まれて初めて‥‥☆」
すっかり食い荒らされて、残骸になってしまっても、まだ喋っているプリプリちゃん。
「ごちそうさまでぇす」
大きなお皿の中で、お腹をぱんぱんに膨らませた八重ちゃ。満足そうにカラメルの海で泳いでいる。
「モーリス様☆ 初めてなんですから、責任とって下さいね？」
「残念ながら、そうは行きませんよ。私は、君が真実の相手が現れるまでの、通りすがりの相手ですから‥‥」
で、その捕獲したモーリスはと言うと、プリン相手に、プレイボーイっぷり全開なセリフをのたまっている。
「お待たせいたしました。おや？ いったいどうなさったのですか？」
と、そこへ華菊屋が戻ってきた。見れば、絢音と八重ちゃが、ひっくり返っている。
「うーんうーん。こんなに美味しいぷりんが、好きなだけ食べられるなんて、幸せ‥‥」
「ただの食べすぎだよ。毒は入ってないようだし」
軽く診断していたエリク。しばらく休んでいたら治るよ。と、絢音にそう言った。
「おやおや。では消化薬でも御用意いたしましょうか？」
「却下。内蔵までとけそうだし」
華菊屋の申し出を、エリクはきっぱりと断った。いや、治す事は出来そうではあるのだが、これ以上余計なトラブルを増やす事もないだろうと、そう思っての事らしい。
「で、物は用意出来たのか？」
「はい。外に組み立て終わっておりますよ」
見れば、窓の外には、見慣れない建物が立っている。
「なんだか、和風建築な感じですね」
確かにオーブンなんだが。外装はまるでどこかの茶室だ。
「ふむ。大きさ的には充分だな」
シオンがそう言った。皆がプリント格闘している間に、等身大クッキーの種を作りえていたらしい。後は、焼くだけである。
「はい。では皆様、お口直しに、当店の菓子はいかがでしょう？ ついでにお茶も用意させていただきますが」
洋菓子も良いですが、和菓子もまたおつなものですよ？ と、そう勧める華菊屋。
「お菓子たびるーーーー！」
「私もーーー！」
現金なもので、今までもう食べれないだのとひっくり返っていた八重ちゃと絢音、それを聞いた瞬間に復活している。どうやら、『甘いものは別腹』機能が、発動承認されてしまった模様。
「そちら様は、どうなされます？」
「ど、どうしてもと言うなら、食べても良いよ。ま、まぁいつもと違う文化に触れて見るのも、良いかなと思うし」
そっぽを向きながら、そう答えるエリク。本当は、東洋の菓子に興味津々で、着物までしっかり着込んでいたりするのだが、まだまだ信用のならない相手に、本心を見せたくはないらしい。
「その割には、完璧な衣装ですね。よく似合ってますよ」
「う、うるさいっ」
モーリスに突っ込まれ、エリクの両頬に照れた様に朱がさす。
「青春だなー」
「いやぁ、若いと言うのは、いいものですねー」
そんな若人達の姿を見て、おっさん組のシオンと太一は、微笑ましそうに茶をすするのであった。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
1009／露樹・八重 （つゆき・やえ）／女の子／相応／妖精さん
3261／エリック・レニアートン／殿方／２７／洋菓子店給仕
3356／シオン・レ・ハイ／男性／４２／食いしん坊な貧乏人
3852／凡河内・絢音 （おおしこうち・あやね）女の子／１７／ぢょしこおせい
w3a176maoh／松本・太一／男性／３５／ごく普通の青中年
2318／モーリス・ラジアル／殿方／500とちょっと／庭師
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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プリンしか見えていない絢音ちゃんにかかれば、動くプリンも妖精も、どうと言う事はないのです！（違）
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