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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ハクリの森

オープニング

 草間興信所にやってきた一人の中年男性。
 その男性が言うには最近「山」を買ったらしい。
 だけど、その山では昔「大量虐殺事件」が起こりその呪いのようなモノが存在するという。
 夜中の二時頃に殺された村人が出てくるのだという。
 そして、それを見たものを憑き殺してしまうそうだ
「…村人?」
 男性の話を聞いていたところで草間武彦が怪訝そうな顔で問いかける。
「はい…大量虐殺は…一つの村の人間が全て殺されてしまったのです」
 よくもそんな山を買う気になったものだ、草間武彦は口にはしなかったが心の中で毒づいた。
「でも…あの山にはオマモリサマがいるんです」
「…オマモリサマ?」
「はい、白髪で少年の姿をしていると言われてます。村人が殺された村の名前もオマモリサマの名前を取って
ハクリの村と呼ばれていたそうです」
「ハクリの村、ねぇ?」
 その男性の依頼は亡者となってしまったマヨイビトたちの霊を沈めてほしいというものだった。
「よろしくお願いします」
 そう言って男性は頭を下げて草間興信所を出て行った。
「午前二時に現われるマヨイビトか…」

 偶然、その場に居合わせた貴方だったがその依頼をどう解決しますか?


視点⇒独楽・伊都子

 その依頼の話を聞いたのは本当に偶然だった。
 独楽・伊都子は自分の子供を捜す依頼をするために草間興信所に立ち寄った。
 だが、そこで耳にしたのは『白い少年』『ハクリ』という言葉だった。
「あの、私にその依頼を受けさせていただけませんか?」
 依頼人が帰った後に草間武彦に頼むと「知っているのか?」という短い言葉が返ってくる。
「………確証はありません…ですが…私の子供の魂かもしれないんです。その場所は何処ですか?行かせてください」
 その言葉に草間武彦は怪訝そうな表情で伊都子を見つめる。そして、短い沈黙の後に草間武彦は小さな溜め息をつき、依頼人が指示した場所を書いた紙を手渡した。
「…この場所が問題の場所だ。今回は特に危険な依頼だから自分の身が危ないと感じたから即刻戻ってきた方がいい」
 ぶっきらぼうな物言いだけれど、草間武彦が伊都子の事を心配してくれているのが分かり「分かりました」と丁寧に答えた。


 問題の山に着くまでに考えていた事がある。
 マヨイビト、依頼人は山に現われる死霊をそう呼んでいた。
 命を奪われたマヨイビトも自分と同じなのだ、と。
「…哀れな……」
 伊都子は小さく呟いた。
 自分の力では、浄化させてあげる事は多分出来ないだろう。だけど、恨みや悲しみを全て打ち砕き、魂の深淵に落としてやることはできるかもしれない。
 その判断が正しいのかは伊都子自身にも分からない、だけど他の方法が見つからない。
 でも、悪霊として留まるよりはずっといいほうだと思う、いや、そう思いたい。
「着いたよ、ここがハクリの森だ」
 タクシーの運転手に言われて、外の景色を見ると禍々しい空気が入り口からでも読める。
「ありがとうございました」
 伊都子は運転手に丁寧に礼をいい、車から降りる。
 とりあえず、村があった場所を目指して歩き始めると、奇妙な事に気がついた。歩いているのは伊都子一人のはずなのだ。だけど、聞こえるのは数人の足跡。
「……っ!」
 勢いよく伊都子が後ろを振り返る、だが視界に入ってくるのは静寂に包まれた薄暗い森のみ。
 気のせい?そう思いながら伊都子が前を向くと足音はまた着いてくる。
 しかも村に近づくたびにその足音が大きくなっているのは、きっと気のせいではないだろう。
「……ここが…ハクリの村…」
 まだ事件当時のままになっているのか、所々には血痕が見られる。
 そして、村の中央には少年の姿を模した石像が立っていた。その石像は見るものに安心感を与える、そんな感じがした。
「…ハクリ、ここに眠る…オマモリサマの正体は実際に生きた人間だったのね…」
 だったら、私の子供である可能性はない…、伊都子は淋しそうに呟いた。
『…だ、れ…?』
 石像の前で暫くの間、佇んでいると頭の中に直接声が響いてきた。ハッとして顔を上げると、僅かだが石像が光っているのが目に入った。
「……ハクリ…?」
『お姉さん、ボクの声が聞こえるんだね。おねがい、この村に囚われたまま悪霊になってしまった村人を助けて…』
「村に囚われる?」
 伊都子が少し眉を顰めて問いかけると、ハクリは悲しそうな声で答えてきた。
『ボクはこの村が大好き、村の人もボクを好きでいてくれた。だけど…小さな村は数人の強盗に滅ぼされた…ボクは何も出来なかったんだ。皆がボクを…この石像を守ってくれたというのに…』
 ハクリの話をまとめると、村人は壊されようとしている石像を自分の身すら捨てて守った、そしてその呪縛は今でも続いていて村に立ち入ろうとする人間を一人残らず呪い殺そうとしているらしい。
『ボクはもう村の人たちに安らかに眠ってほしいんだよ、だから…おねがい』
 ハクリの次の言葉を聞いて伊都子は驚きで目を見開いた。
「…え?今、何て…」
『ボクを壊して。それが唯一村人を助けられる方法なんだ』
 自らを壊す、その方法を取ることで村人のマヨイを晴らす。そうすれば確かにマヨイビトと化した村人達は助かるだろう…。
 ―……だけど。
「…それじゃあなたが助からない!その石像を拠り所としているあなたを壊すなん…石像と一緒にあなたも砕けちゃうわ…」
『それで、いいんだ。ボクが中途半端に生きながらえたいと願ったために罪のない、関係のない人を死に至らしめた。ボクが消えるのはボクの償いでもあるんだ』
 だから、おねがい。ハクリはそう呟いた。
『じゃないと、お姉さんまで死ぬ事になるよ』
 背後に耳を澄ませば、山の中で聞いた足音。しかも今度は数人なんて可愛いものではない。あきらかに十人単位だ。
『早く、おねがい』
 その時に伊都子に死の恐怖が駆け抜けた。
 まだ自分は死ぬわけにはいかない。自分の子供の魂を探すという目的が残っている。
「ごめん、なさい…」
 伊都子は小さく呟いた後、重力操作でハクリの像を破壊した。破壊した後に何か浄化されるような光が村の中に注ぎ込み、足音も聞こえなくなっていた。

 ハクリの森、ハクリの村、そこに存在していたのはオマモリサマなんて大それた存在じゃなかった。
 村人を愛し、村を愛し、村人から愛された一人の少年がいただけだった…。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

5010/独楽・伊都子/女性/999歳/ホステス

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■         ライター通信          ■
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独楽・伊都子様>

初めまして。
今回『ハクリの森』を執筆させていただきました瀬皇緋澄と申します。
納品がギリギリになって申し訳ないです^^;
『ハクリの森』はいかがだったでしょうか?
少しでも楽しんでもらえると幸いです^^
それでは、またお会いする機会がありましたらよろしくお願いします^^

                 −瀬皇緋澄