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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


Carnival 〜お祭りの裏話〜


 今日も今日とて自分が管理人を勤めているサイト『ゴーストネットOFF』の掲示板チェックを開始する瀬名雫。
 掲示板にはこんな書き込みがあった。

投稿者:匿名希望

 3月*日に楠木町清比良祭りが行われます。
 年男に触ることで今年一年の厄を祓おうというお祭りなのですが、本当に厄がおとされているらしいんです。
 年男をやった知り合いがこっそりと教えてくれたのですが、厄払いで神話の神様の格好をした男の子に触れると本当に身体が軽くなったそうです。
 現代に神様なんて信じられませんが、調査、お願いします。


「このお祭りに参加する人にとっては深刻だよね」
 かなりローカルな情報と悩みに、雫は言葉を漏らす。
「この人が言うように、神様が存在してるって言うのも、おかしな話よね」
 神様ではなく、そういった力を持った能力者の可能性だってある。
 沢山の怪奇現象に立ち会ってきたり、頼んだりしている雫にとって、この書き込みの事が出来るような能力者を知らなくもない。
 だが、年男を厄祓いするだけで、触った人全ての厄が落とせるなんて不思議な話しだ。
「まぁ、調べてみますか」
 雫は立ち上がると、一緒に行ってくれそうな人を探した。



【神様を調べよう】

 一つのパソコンから顔を上げ、マリオン・バーガンディが雫に向けて声をかける。
「神話の神様みたいな格好ってどんなもの?」
 突然の声に、雫のパソコンを覗き込んでいた冷泉院・蓮生が顔を上げ、
「神社で直接聞けばいいじゃないか」
 と、そんなマリオンに尤もな言葉を投げかける。そして、雫は考え込むように瞳を泳がせると、
「飛鳥時代の豪族みたいな格好だったと思うけどぉ」
 と、曖昧な言葉を返し、
「ネットで調べればいいじゃない」
 と、マリオンがパソコンの前に居る事に気がつくと、そう指をさす。そうだよね、と、マリオンは掲示板に思いついたままの質問を書き込み、返信を待つ事にした。
「さーて清比良神社行ってみよ〜」
 と、意気揚々とネットカフェを後にする雫と蓮生をマリオンは急いで追いかけた。
 やってきました清比良神社は、都内にしてはちょっと大きめの古めかしい〜…?神社。増築、改築でもしたのだろうが、見た目だけは綺麗だ。
 数人の巫女さんや宮司さんがお祭りの準備でせわしなく動き回っている。
「うわぁ」
 思わず感嘆の声を上げる雫を尻目に、蓮生は近くを通りかかった巫女さんを捕まえ、
「清比良祭りで、神の役をやる男に会いたいんだが」
「ごめんなさいね、こんな言い方していいのか分からないけど私下っ端だから」
 と、巫女は苦笑を漏らし、分からないと口にする。
「いや、ありがとう」
 答えられなくてごめんなさいね、と仕事に戻る巫女の背を見送る。蓮生は他の関係者、特に去年の事やその前からの祭りをしっていそうな人物を求めて社務所まで歩いていく。
「え?もぉ!マリオンさんも居ないし!」
 雫の事などお構い無しに行動する蓮生に、どうしたものかと反応に困っていると、その背はもう遠い。
「あたしはあたしで調べるわよぉ!」
 ぶーっと頬を膨らましてみても誰も宥めてくれない事に雫は怒るだけ無駄だとガクッと肩を落とした。

「こんにちは。どうされましたか?」
 結婚式や御祓いの日程などを受け付けるために常駐している事務員が蓮生を出迎える。
「祭りで神の役を演じた男に会わせてもらいたい」
「神の役?」
 事務員が首を傾げると、そこへ普通にスラックスの壮年の男性が通りかかる。
「あ、松さん、祭りで神の役を演じた男って、知ってる?」
 裏方で榊を運んでいた男性は、名前を呼ばれたことで事務の方まで歩み寄ると、虚空を見つめるように瞳を泳がせ、何かを思いついたように小さく呟くと蓮生に瞳を向けた。
「上がっておいで」
 ちょうど広い玄関のようなつくりになっている社務所の事務窓口の隣に並ぶ靴箱とスリッパ。蓮生は男性に言われるままに靴を脱いで社務所へと上がりこんだ。
 社務所から渡り廊下を挟んで少し先にある本殿へと向かいながら、男性はゆっくりと口を開く。
「君はどこからその事を聞いたのかな?」
「掲示板の書き込みで」
 掲示板?と一瞬首をかしげた男性だったが、インターネットの事だと理解するや、肩をすくめるように破願して、今の世は便利だね、と口にした。
「正直な話を言うとね、私たちも詳しくは知らないのだよ」
 まるでこの神社に深く関っているかのような男性の言葉に蓮生は首を傾げる。
「あんたは何者だ?」
 むしろそっちが何者だと聞かれてもしょうがない状況で、男性はそんな蓮生の言葉にもただ笑顔を浮かべ、
「あぁ、私はこの神社の宮司だよ」
 流石にあの格好で準備をするのは大変だから、と、申し訳なさそうに答える。
「宮司なら年男が最後この神社でどうなるのか知っているんじゃないのか?」
 蓮生の尤もな質問にも、宮司は苦笑を浮かべるだけ、
「確かに、そうかもしれないが、清比良祭りはちょっと特殊でね」
 お祭りの最後、神社に到着した年男が本殿へと案内され、一度御神酒を民衆の前に晒し、本殿へと戻して扉が閉められると、年男が自分で扉を開けるまで誰も入れないという。
「だから、私たち宮司でも何も知らなかったりするんだよ」
 榊を神棚に祭って宮司は振り返り、すまないね、と口にする。
「祭りの事は分かったが、宮司は神役の男の事には触れていない」
 蓮生の言葉に、宮司は一瞬きょとんとし瞳を大きくすると、参ったなと頭をかきながら苦笑した。
「勘のいい子だね」
 宮司は蓮生の頭を撫でると、
「ゆっくり、していくといい」
 と一言云い残して社務所の方へと戻って行ってしまった。


|Д゚)人(゚Д|


 神社に来た早々に雫と蓮生から離れて神社内を放浪し始めたマリオンの目的はただ一つ。
 こういった歴史が古い神社に貯蔵されている記録。
 本を読む事が大好きなマリオンは、神社の書庫に入り込んで保存されている本をあわよくばゲット!などと考えていた。
 だが、当面の敵は、自分の方向音痴だったらしい。
 だって、広いんですもの。
 表向き社務所と本殿しか見えないのに、縦長の神社だったらしく奥に向かう度にドンドン広くなる。
「どうしたの?」
 キョロキョロと周りを確かめながら歩くマリオンに突然掛かった声。
「え…ええっと、トイレにー…」
 見つかった場合の言い訳にと考えていた理由を咄嗟に口にして振り返ると、神社には不似合いな感じの(自分もですが)中学生の男の子が立っていた。
「そうだよね、ここ広いもんね」
 へにゃっと笑った男の子は、こっちだよ、と示した先は神社の建物の中。
「お兄さん、外国の人でしょ。トイレはやっぱり和式より洋式の方がいいよね」
 男の人だから関係ないかな?なんて、一人呟いて、それでもこんな所まで入り込んでいたマリオンになんの疑問も抱かずにトイレへと案内してくれる。
 マリオンは日本の習慣である建物に入るときは靴を脱ぐ、を守って神社に上がりこみ男の子の後を素直に着いていく。
 今此処で諦めて帰ることはたやすいが、それではせっかくの書庫の本が手に入れられない。ならが、偶然振って沸いたような幸運。利用しない手はない。
「キミは神社の子、なのかな?」
「僕?まぁね、そんなところ」
 神社の組織形態も調べておけばよかったかな、などと考えつつ、神社の中を我が物顔で通り過ぎていく男の子。この神社の責任者か最高権力者の息子か何かなのだろうか。
「着いたよ」
 何時の間にやら本殿から社務所へと移動していたらしく、行き交う人の数格段に増えている。
 バリアフリーの行き届いた段差のない社務所の木の開き戸には、アルファベットで「toilet」と掘り込まれていた。
「あ…ありがとう」
 マリオンは笑顔を浮かべて答えるが、本当にトイレに案内されてしまってどうしよう…と内心では苦笑を隠せなかった。
「あぁ拓海くん。君に会いたいって子が居たよ。多分まだ本殿に居るんじゃないかな」
 そこへニコニコとマリオンにトレイを紹介している男の子に声がかかる。
「誰だろう?学校の子かなぁ」
 男の子は首をかしげ、マリオンに今度は迷わないようにね、と本殿へとかけて行った。


|Д゚)人(゚Д|


 一般人が滅多に入ることだ出来ない本殿で、蓮生はどうしたものかとただ神棚を見つめ考える。
 ゆっくりしていけと言われたのだから、ゆっくりしていった方がいいのだろう、畳の上に正座してみる。
「あれ〜?キミだれ?」
 真正面から神棚を見つめていた蓮生に、ふとかかる声。自分とそう変わらなさそうな年頃の少年がこちらを見つめていた。
「僕に会いたいって言ってたのキミ?」
 首を傾げる少年に、蓮生は視線を向けるが、蓮生が会いたいのは少年ではなく去年神の役をやったと言う男だ。
 ――男…少年。
「お前が、神の役をやった男…か?」
「神の役なんてやった覚えないよ」
 ゆっくりと本殿へと足を踏み入れ蓮生へと近づく少年に、正座をしていた蓮生も立ち上がり迎える。
「そっかぁ、キミ“神の役”をやった人を探してるんだ」
「何か知っているのか?」
 意味深な少年の言葉。
「神の役をやった人なんて今も昔も居ないよ」

 居るとすれば、神本人のみ――

 蓮生に向けられた不敵な微笑み。
「真実を知る一番の近道はきっと年男になる事だと思うけど、違うかなぁ?」
 あの向けられた一瞬の微笑みは何処吹く風、少年はまたへにゃっと力のない微笑を浮かべて首をかしげている。
「違わないな」
 少年の言っている事は正しい。だが、また来年再来年と時を重ねて蓮生が年男になれる確率など“0”に近いのではないか。
「でしょ?年男になればいいんだよ。そうすれば分かるよ」
 ニコニコと笑う少年に、
「お前はなった事があるのか?年男に」
「僕?」
 自分を指差した少年に、蓮生は頷く。
「僕はないなぁ」
 少年は蓮生の背中を押して本殿から外へと出す。
「おい、靴は社務所だ」
 無理矢理外へ出されてしまった事に多少驚いて振り返るが、本殿の扉は目の前でパタンと閉じてしまった。そして、
「あー!蓮生くんそんな所で何してるのよぉ!」
 ビクッと肩を震わせると、お賽銭箱の前で雫が蓮生を指差し叫んでいる。ふと見れば、足元には社務所で脱いだはずの靴。
 蓮生は靴を履き、本殿から境内へと下りると、雫に腕をつかまれた。
「何か分かった?」
 その顔は興味津々と言った感じの顔だ。
「俺が年男になればいいようだ」
「…それって何時の話になるの?」
「知らん」
 だったらあの匿名希望の主も自分で年男になればいいという答えを返す事になってしまう。これでは調査成功とは言えないのではないだろうか。
「答えを返す事は出来る」
「確かにそうだけどぉ」
 と、蓮生の腕を掴んだまま雫は何時ものネットカフェへと向かう道を歩く。
(マリオンさん、どうしたんだろう?)
 などと思いながら。












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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3626 / 冷泉院・蓮生 (れいぜいいん・れんしょう) / 男性 / 13歳 / 少年】
【4164 / マリオン・バーガンディ / 男性 / 275歳 / 元キュレーター・研究者・研究所所長】

【NPC / 天津拓海 / 男性 / ? / 中学生】


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■         ライター通信          ■
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 Carnival 〜お祭りの裏話〜にご参加くださりありがとうございました。ライターの紺碧です。今回は裏話という事もあり、お祭りが始まる前の神社へと赴いて頂きました。謎が解けているかどうかは…謎ですが(マテ)。
 蓮生様が今後年男になれるかどうかという可能性は確かにゼロに近いかもしれませんが、不可能ではありませんので狙ってみるのもいいかもしれません…ですが、体力が無いとダメですが(苦笑)
 それではまた、蓮生様に出会える事を祈りつつ……