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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


闇の中で光る物

●桂
 その日アトラス編集部に一通の面白い投稿が届いた。
 それを開封し、中身を読んだ碇麗香(いかり・れいか)編集長の瞳が輝いた、様な気がしたのはその場にいた全員の感想では無かったのではなかろうか。
 それの投稿の内容は以下のようなものであった。
『前略
 初めまして私は神奈川に住んでいる田中と申します。
 最近私の住んでいる村の周りで奇妙な光る物が飛び回っているものがいるのですが、運良く写真に収める事ができたので同封します。
 何なのかさっぱり判らないのですが、兎の様にも見えるのですが、光って飛び回るウサギなんていませんよね?
 それでは用件のみですが失礼いたします。』

 そして封筒には写真が一枚同封されていた。
 そこには光るもやの様な、見方によっては兎に見えなくも無いものが写っていた。
 その手紙を見終わった時、碇は編集部の中を見渡した。
「あ、桂ちょっと来て貰える?」
 丁度仕事が無くボーっとデスクに座っていた桂(けい)に声をかける。
「あ、はいなんですか?編集長」
「これの取材に行ってきて欲しいのよ、ちょうど頼めるのはあなた位だしね」
 そう言って碇は桂に先ほどの投稿を見せるのであった。
 桂が取材の準備をしていると後ろから声がかかる。
「あ、草間興信所に手伝える人がいたら協力をお願いと頼んでおいたから、一度寄ってから現場に行くと良いわよ」
「判りました」
 そして取材の為の準備を終えた桂は編集部を後にするのであった。

●司
「うーん、この辺りかー、妙な発光現象があった場所ってのは」
 神奈川の三浦半島にある小さな漁村。
 そこに眼鏡をかけた温和そうな青年冬月司(ふゆつき・つかさ)はやってきていた。
 彼はこの村にて夜な夜な怪しい発光現象と停電があると言うネットに書かれていた噂を見て、取材の種にとこの村に訪れていた。
「それにしても特に変わったところはなさそうだけどな……。ま、調べてみるかな」
 司はそう言って、周囲の家々を周り地道に聞きまわっていった。
 その結果、変電所の周りでその発光現象はよく起っているらしい、と云う事が判った。
「ふーむ、それじゃ今日の夜にでもその発光現象のよく起る変電所の近くにでも言って見るかな?」
 そう言って、司はその村唯一の変電所があるという村の奥の方を見た。
「奥は森か……。火には気をつけないといけないかな」
 司はそう呟くとゆっくり歩き始めた。

●偶然
 桂がアトラス編集部を出ようとした丁度その時であった。モーリス・ラジアルが丁度近くに寄ったから、とアトラス編集部の扉を叩いたのは。
「あれ?桂君、どうしたんですか?そんな格好で何処かに取材ですか?」
 モーリスはひょっとしたら楽しい事を見つけたかもしれないと行った様子で興味心身に桂に問う。
「ええ、ちょっとこれから神奈川の方で起ってる発光現象について取材に行く事になったんです」
 モーリスの問いに桂が答える。
 モーリスはしばらく桂の言葉を聞いて考え込むと、何かを思い出したように『ああ』と云う様に指を振る。
「その事件なら私もネットで見ましたよ、そうですか、それの取材ですか……それは面白そう…………じゃない一人では大変でしょう。もしよければ私もお手伝いをさせていただきますよ」
「本当ですか?丁度これから草間更新所へ行って、手伝ってくれる人を探そうと思っていたところなんですよ。ここはこの通り動ける人間がボクしかいないもので」
 そう言って桂が示した先には締切り前で、まるで独楽鼠の様に動き回っている編集部の人間達の姿があった。
「なるほど、それじゃ私は車をだしますよ、それから桂君が興信所に行ってる間に調べられる事があれば私なりに調べて見ますよ」
「本当ですか?助かります、それじゃお願いできますか?」
「ええ、判りました。後から更新所の方に行きますので、桂君はそちらで待っていてください」
「判りました、ありがとうございます」
 二人は編集部の入り口でそう約束すると扉を出て別々の方向へと歩いて行った。

●出会い
 桂が草間興信所へモーリスが自宅へ車を取りに向かっている頃、神奈川の湾岸道路を一台のバイクが走っていた。
 そのバイクには二人の男女が乗っていた。
 そして、とある漁村に着くとそのバイクを運転していた男性はバイクを止める。
「すこしこの辺で、一休みして行くか?アルティオーネ?」
 ヘルメットを取りながらバイクを運転していた男性、堂島志倫(どうじま・ゆきみち)が後ろに乗っていた女性、アルティオーネ・クライゼンに声をかける。
「わたくしは大丈夫ですよ、でも志倫さんが休みたいというなら付き合いますよ」
 まさか垣間見えた海岸線の景色が綺麗だった為アルティオーネに見せたかったから、とは言い出すことができずに志倫は誤魔化すようにアルティオーネに話し掛ける。
「そうだね、ずっと走ってきたからすこし疲れたんだ、ちょっと何か飲み物でもかって来ようか?」
「あ、でしたらわたくしも一緒に行きますよ」
「そうか?それじゃ買いに行くか」
「ええ」
 ゆっくりと歩き出した志倫にアルティオーネはついて行った。 
 しばらく仲睦まじく歩いていた二人であったが小さい商店を見つけ、そこに向かって歩いて行った。
 商店で二人がジュースを買っていると一人の男性がその商店にやって来た。
「あの、すこし良いですか?この村で噂になってるという発光現象についてお聞きしたいのですが」
 その眼鏡をかけた男性、冬月司(ふゆつき・つかさ)は商店の店番をしていた女性に声をかけた。
「発光現象と言うと、変電所で起っているという発光現象の事ですか?」
「ええ、そうです。僕はそれの取材をしているフリーのライターの冬月司ともうします」
 そう言って司は店番の女性に自らの名刺を渡す。
 その司の言葉に志倫は興味を持った。
「発光現象ってなんですか?なんかこの村で起ってるんですか?」
 その志倫の言葉に司はしばらく考えたあと、ゆっくりと説明を始める。
 現在この村で起っている事件の事を。
 一通り説明を聞いた志倫とアルティオーネはその事件に興味を持った。
「司さんと言いましたか?もしよければその取材に自分達も手伝わせてもらえませんか?こう見えてもそういう事件には結構関わってきたので、何か手伝えると思うんですが」
「それは僕としては、手伝ってくれる人がいる事には嬉しいんだけど、そちらのお嬢さんはどうなんですか?」
 志倫の横にいて、そっと志倫を立てるかのように寄り添うアルティオーネに司はすこし配慮するかのように聞く。
「わたくしもすこし興味があります。それに志倫が手伝いというならわたくしも是非お手伝いさせてください。わたくしも志倫と一緒にいれば大丈夫です」
「そうですか……判りました、それじゃお二人にも是非協力をお願いします。あ、改めて自己紹介させていただきますね、フリーのライターをやっている冬月司と申します。よろしくお願いします」
 司は二人に名刺を渡しながら二人の持つ『何か』を感じていた。
『このお二人でしたらお手伝いしてもらっても平気そうですね、何か『力』を持っていられるみたいですし』
 心の中で司が考えていると志倫とアルティオーネも自らの自己紹介をする。
「自分は堂島志倫と云います、ここにはアルティオーネとツーリングの為に来たんですよ」
 志倫はそう言ってアルティオーネの事も紹介した。

●依頼
 その頃草間興信所では月見里千里(やまなし・ちさと)が暇をもてあましていた。
 遊びに来たはいいが、特に目的があってきた訳では無かった為に時間をもてあます事になってしまったのである。
 そんな折り、興信所の扉を開いてアトラス編集部から桂がやってきた。
「あれ?桂ちゃんこんにちは、どうしたの?」
 千里は普段、草間興信所にそんなにやってくる事のない桂がやってきた事に不思議そうに聞く。
「あ、千里さんお久しぶりです。ボクは今日ちょっとここの調査員の人に協力を頼もうと思ってやって来たんですが……」
「え?そうなんですか?どんな依頼です?」
 千里の興味深々なその様子に桂は何処か楽しそうな笑みを浮かべながら興信所の中にはいる。
「ええ、判りました、それじゃちょっと資料の準備をしますから何か飲み物でもいただけないでしょうか?外はまだちょっと寒かったので」
「あ、はいちょっと待っててください、ここは珈琲だけはいつもしっかりあるんで、すぐ出来ますよ」
 そういうと千里は珈琲を入れる為に奥へと下がる。
 その様子を見ながら桂は着ていたコートを壁にあるハンガーにかけて手に持っていた鞄から編集部から持ってきた資料をテーブルの上に出す。
 そして千里が珈琲をいれて戻ってきた千里が、桂の持ってきた資料の一番上にあった写真を見て思わず目を丸くする。
「ひょっとして調査って、これの調査ですか?」
 千里はその写真を手にとってまじまじと見つめる。
「え、ええ……そうですよ。千里さんは何かこれについて知っている事があるんですか?」
「え?知っているというか、これにそっくりだなぁ、と思って……」
 千里はそう言って時分の鞄から一枚のカードを取り出してきた、それはどこのホビーショップにでも売っているカードゲームのカードであったが、確かに写真に写っている物と似ているイラストが描かれていた。
 そのカードには『サンダービースト』と名前が書かれていた。
「あ、もしこういう電気とか関わっている事に対する調査だったらあたしの知りあいにこういうのに向いている知り合いがいるんです、ちょっと誘ってみますね」
 もうすでに桂の返事など待つという事もなく自分のペースで動き始めた千里を見ながら、言葉を挟む事もできずに千里の持ってきた珈琲をすする桂の姿があった。
 千里は持っている携帯の番号を手馴れた仕草でおして電話を掛け始める。
 千里の書けた電話から向こうがとった音が聞こえ、声が聞こえてくる。

……トゥルゥ
………トゥルゥルゥ
…………ガチャ

『はい、神鳴ですが……』
「あ、ほのちゃん?あたし、千里だよ」
『あ、なんだちーちゃんだったの?何?いきなり電話なんてしてきて……』
「何でもいいからすぐ草間興信所まで来て、話はとにかくそれから!!」
『う、うん、わかった、草間興信所だね?』
 有無を言わせぬ千里の言葉に神鳴穂香(しんめい・ほのか)は電話越しにただただ頷くしか出来なかった。
 しばらく待つこと数分興信所の前に車の到着する音が聞こえたかと思うと、バタンと扉が開くと息を切らして穂香が興信所の中に入って来た。
「ちーちゃんが急いでっていうから運転手さんに急がせて慌ててやってきたんだよ。これでどうしようもない事だったら怒るからね」
 入ってくるなり穂香は千里に食って掛かろうとするが、千里はすっとそんな穂香の顔の前に先ほどの写真を
差し出す。
「これ、これの調査に行くの。相手は電気が絡んでいるって話だからほのちゃんに向いてると思って呼んだんだよ」
「え?これの?なんか凄く可愛い。これって兎なの?ちーちゃん?」
「判らないよ、判らないからこれから調査に行くんだよ。そうだよね?桂ちゃん?」
 すでに依頼主である桂の事はほったらかしで、一人で話を進めている千里の姿がそこにはあった。
 そうこうしている内に草間興信所の前に車が止まる音がして、モーリスが興信所に入って来た。
「桂君、手伝ってくれる人は見つかりました?」
 そう言ってモーリスが桂に現状を問う。
「ええ、なんとか見つかりましたよ。ここにいる千里さんと穂香さんがボク達の事を手伝ってくれるそうです」
「なんだ千里さんも手伝ってくれるんですか、そちらは初めまして、ですね?私はモーリス・ラジアルと申します。よろしくお願いします」
「は、はい、神鳴穂香ともうします。よろしくお願いします」
 紳士的なモーリスの自己紹介に、今まで千里とやりあっていた時の態度はどこへやら、『深層の令嬢』モードで穂香もモーリスに自己紹介をする。
「穂香さんですね。美しいお名前です」
「ありがとうございます」
 やんわり微笑ながら話す二人を見てこのままだと話が進まないと千里は思い二人に割って入るように話し掛ける。
「えーと、モーリスさん?ほのちゃんは私の大事な友達なんだからね?それよりも早くさっきのサンダービーストについて調べに行こうよ」
 モーリスに一つ釘を刺した後、調査に向かう事を千里は提案する。
「そうですね、穂香さんとの積もる話はまた後で、という事で外に車を止めてありますから、私が現場まで案内しますよ。一応ここに来るまでに現場の地図など調べてきましたから」
 桂に確認を取りながらモーリスは一行を外に止めてある車に案内する。
 普段はツーシーターの車に乗る事が多いモーリスだったが、今日は人数を載せるという事で大型のバンに乗って来ていた。
「それじゃ皆さん乗ってください」
 モーリスは車の扉を開け、皆を案内し自らは運転席に座りキーを回した。

●変電所
「ここがその現場の変電所ですね……」
 アルティオーネが発光現象の噂の出ている変電所が見えた時そう呟いた。
 ここに来る途中の民家に志倫のバイクを置かせて貰いその民家で考えられる準備を志倫とアルティオーネはしてここまで司と一緒にやってきた。
 バイクから志倫持ち出したのは懐中電灯とサバイバルナイフそれから愛用のバイク用のグローブであった。
 まだ日暮れ前という事もありまだそれらしい現象は起きていなかった。
「ふぅ、やはり日暮れ前だと発光現象は起きてないようですね」
 司は周囲を見渡しながら二人に話し掛ける。
「そうだな……、今まで聞いてきた話からするとやはり夜にしか出ないんじゃないか?」
 同じ様に周囲を警戒しつつアルティオーネの事を気に掛ける志倫。
 随分と来る途中で司と志倫は打ち解けた様子だった。
「とりあえず、周囲を一回りしてきますか」
 司がそう提案する。
「そうだな、それじゃあんたは向こうから回ってくれるか?俺はこっちからアルティオーネと一緒に回って見るから」
 そういいながら志倫はアルティオーネと一緒にすでに歩き始めていた。
「判りました、大丈夫と思いますが、お二人とも一応お気をつけて」
「司さんも気をつけてください」
 司の心配する言葉にアルティオーネも司の身を案じる。
「やはりまだ何も起きないのかな?」
「そうですね……。まさか志倫さんとツーリングに来てこういう事になるとは思わなかったですよ」
 志倫とアルティオーネは周囲を見回りながら、アルティオーネは志倫に話し掛ける。
「そうだな、とんだツーリングになってしまわなければ良いけどな」
「大丈夫ですよ、わたくしは志倫さんと一緒にこうやっていられるだけで楽しいですし」
 足元に咲いている早咲きのスミレの花を屈みながら見ながら嬉しそうに話す。
 その言葉を聞いて、志倫は思わず照れて赤くなりつい空を見てしまう。
「そ、それじゃさっさと見回りを続けようか?」
 照れ隠しにそんあ事を言って屈んでいるアルティオーネに志倫はそっと手を差し出し、アルティオーネはその手を取りそのまま手を繋いだままゆっくりと歩き始めるのであった。

●集合
 志倫達と司が変電所を一周してきて再び合流した頃一台のバンが変電所の近くに止まった。
 バンからは桂たち一行がゆっくりと出てきたのを見て司と志倫がおや?という顔をしてそちらを見た。
「あれ?千里さんじゃないですか、どうしたんですか?」
 以前大阪で一緒になった事のある千里の姿を見て志倫が声を掛ける。
「そういう志倫ちゃんこそどうしたのこんな所で……」
「いや俺達はそこにいる司さんの手伝いでちょっとね」
 そう言って志倫は司を指す。
 その司はというとモーリスと桂とで発光現象についての意見を交換していた。
「やっぱりアトラス編集部でも調べようとしてましたか、残念、僕がこれから売り込みに行こうと思っていたのに」
「まぁ、共同作業って事で行きましょうよ。ボクからも司さんとの共同でっていう風に碇編集長に話してみますから、昨日今日の付き合いじゃないですしね」
「そう言ってもらえると助かるよ。所で、この発光現象はやはりただの放電現象とは違うみたいだね」
「あ、やっぱりそうですか?」
「ええ、ボクと志倫君とで周りを一通り調べてみましたが、何かしらおかしい所は無かった様に見えたので、変電徐に何かしらの問題で、と言う訳ではないみたいです」
「そうですか、私は変電所の調子が悪くての放電現象だと思ってたのですが……」
 モーリスが自らの考えていた事が違っていたようだという事の裏ずけをきいて残念そうにする。
「それじゃやっぱり雷ウサギさんの仕業なんですか?」
「サンダービーストだってばほのちゃん」
 どうやらただの放電現象ではないらしいというのを聞いて穂香が俄然やる気のある声で司に聞くがすかさず千里がそれに突っ込みを入れる。
「サンダービースト……ですか?」
 千里の言った「サンダービースト」という聞きなれぬ言葉にアルティオーネが問い返す。
「あ、うん桂ちゃんが持ってきた放電現象が写った写真にそれらしい影が写っていたんだ。日本だと雷獣っていう名前で呼ばれている物の怪だよ。姿はこれそっくり」
 千里は持ってきていたカードゲームのカードを志倫とアルティオーネに見せる。
「随分可愛い姿の物の怪なんだな」
「まるでウサギそっくりですね」
 二人は興味津々と云った様子で写真を覗きこむ。
「雷獣ですか。なるほどそれなら納得がいきますね」
 司が納得云った様に頷く。
「どういう事ですか?」
 桂が不思議そうに司に聞く。
「ああ、雷獣は古来雷食いとも言われていて電気を食べている物の怪なんですよ。だからきっとこの変電所に電気を食べに来ていたんじゃないかと思うんですよ。それがこの放電現象の正体なんではないかとって事ですよ」
「なるほど」
「それだったら、ここじゃなくてもその放電現象の正体は突き止められるはずだよね?強い電気があれば」
 どこか企むかの様に含んで云うと千里は穂香を見る。
 その千里の視線から一瞬ぞっと寒気を感じた穂香はすこし乾いたような声で千里に聞き返す。
「ひょっとして……まさかちーちゃんその電気って……」
「うん、そのまさかだよ。ほのちゃんに雷獣に来て貰う為の餌になってもらおうかな?って」
「………」
 黙りこんだ穂香を見て不思議そうにアルティオーネが千里に聞く。
「穂香さんはどうしたんですか?急に黙り込んでしまいましたが……」
「あーほのちゃんはねー、電気を発生できる事ができる体質なんだよ。だからそれで雷獣をおびき出せるんじゃないか?と思って」
「ああ、なるほどそういう訳か……」
 穂香が黙った理由をなんとなく察した志倫が言葉を濁した。

●闇の中の輝き
 一行は火事の危険のある変電所の近くを避け、浜辺に一行はモーリスの車で移動した。
「ここなら火事の心配もないですからね」
 そうモーリス言って皆を車から降ろす。
「それにしても本当にやるんですか?」
 何処か不安げにしている穂香の背中をぽんと千里が叩く。
「大丈夫大丈夫!ほのちゃんならきっとできるって」
「そういう意味じゃないんだけど……」
「それじゃ頑張って、応援してるから」
 そうはたから聞いてると無責任とも取れなくもない発言をすると千里は我先にと穂香から離れて近くにあった岩の陰に隠れた。
 その千里を見て他の一行も口々に頑張って、というと穂香から距離をとった。

……
………
…………

 穂香は周りから人がいなくなってしまうと諦めた様にため息を一つつく。
「はぁ、穂香が餌っていうのは何となく釈然としないけど、仕方ないのかなぁ……」
 穂香はそう言って両腕を天に向かって突き上げる。
 穂香が念を込め力を掛けると穂香の突き上げた腕から、パチパチと輝きが走り変電所の発生する電気量よりも強いギガワットクラスの電気が周囲を明るく昼間のように照らし出す。
 思わず志倫はアルティオーネの上に覆い被さる様にして庇い、司と桂とモーリスも思わず顔を背けてしまう。
 千里だけはこうなる事が判っていた為に岩陰にしっかり隠れていた。
 しばらくしてその穂香に向けて、山間部から一条の光が家々の屋根伝いに飛び跳ねるように真っ直ぐに穂香に向かってやってきた。
 その姿は間違いなく、先ほどの写真やカードに写っていたり描かれていた様な光るウサギみたいな姿をしていた。
 そのウサギのような姿をした物の怪はまっしぐらに穂香の輝く腕を突進し、そのまま穂香の腕にしがみついた。
 しばらく穂香の輝く腕にしがみついていたその輝く物の怪は徐々に穂香の腕から輝きを奪って行った。
 その様子をただ一行呆然と見守る事しかできなかった。
 徐々に輝きを物の怪に奪われて、辺りも暗くなり始めた頃、アルティオーネを押し倒す形で護っていた志倫は、ふと自らの姿勢に気が付く。
「う、うわっ!ご、ごめんなっ」
 そう言って慌てて立ち上がる志倫。
 「え、ええ、わたくしの方こそ護ってくれてありがとう……。それよりもどうなったの?よく判らないんだけど」
 よく事情が飲み込めてないアルティオーネに志倫が説明しようとした処にモーリスが横から説明を始める。
「穂香さんが放電を始めたら、あの物の怪がやってきたんですよ。どうやら穂香さんの電気を食べているみたいですね。だからこうやって暗くなってきたわけですが……」
「それ、俺の台詞……」
 言おうと思った事を全てモーリスに言われてしまいつい志倫はモーリスに抗議をする。
「それよりもこれからが本番だと思いますよ。穂香さんの電気を食べた後、逃げられたらどうしようもないですから」
「そ、そうですね」
 ついついモーリスに言いくるめられてしまう志倫であった。

●雷獣
 しばらくして輝きが収まったあと物の怪は穂香の腕を降りて地面にぽてっと落ちてきた。
 そのまま何処かへ逃げるかと思ったらまるで満足とでもいうかの様にその場に丸まってしまう。
「可愛いっ!」
 その姿を見て穂香は思わず抱きしめてしまう。
 岩陰からそろそろ出てきた千里はなにやら怪しげなヘッドセットをいつの間にやら頭につけて穂香のの腕の中で満足そうにしている物の怪に話を始める。
「ねぇ、君は誰?なんでこんな所にいるの?」
 千里のその言葉に物の怪は満足そうな、ただし千里以外には判らないテレパシーのようなもので答える。
「ボクは君達の言葉で言えば雷獣。ここにいるのは美味しそうだ電気があったからだよ」
「そういう事じゃなくてなんでこんな人里にいるか?って事なの」
 千里がまるで一人で喋ってるような様子に周りにいる面々は警戒を解かずに不思議そうな表情で見守っていた。
 そんな様子に気がついたのか千里は皆を手招きした。
 千里の手招きに皆一斉に穂香の周りに歩き出す。
「今、私がこの子とヘッドセットで話していたんだよ」
「そんな事ができるのか?」
 思わず志倫が声を上げる。
「え、ええ、このヘッドセットは特別製でこの子の何となく思ってる事を理解できるようにするっていう優れものなんだ」
 まさか自らの力で作り出したとは言えずに誤魔化す千里であった。
 そして千里が雷獣の言葉を翻訳するとこの雷獣は山の中で落ちてくる雷などを食べて暮らしていたが、避雷針などが様々な所に立てられたりした為に食べるものに困り人里に下りてきた、という事であった。
「かわいそうですね」
 アルティオーネが思わず呟く。
「ねぇ、ちーちゃん、この子に私の所に来ないって聞いて見てもらえないかな?」
「え?」
 穂香のその提案に思わず千里は聞き返す。
「私ならこの子に電気を食べさせて上げられるし、何よりもこんなに可愛いんだもの、可愛そうなのは耐えられないよ」
「確かに穂香さんなら電気を食べさせて上げられる事ができますね」
 モーリスもその意見に賛同する。
 千里はそれを雷獣に聞く虎移住からは嬉しそうに「行きたい」と言った。
 その瞬間千里のヘッドセットは力を使い果たしたのかすっと姿を消した。

●エピローグ
「やれやれ、これでこの事件は終わり、かな?まさかこんな物の怪の仕業とは思わなかったなぁ」
 志倫がアルティオーネに話し掛ける。
「そうですね、でもわたくしは結構ドキドキできて楽しかったですよ」
「そうか?なら良かったんだけど」
「ええ」
 微笑むアルティオーネを見てつい先ほど護る為とはいえ押し倒す事になってしまった事を思い出し志倫はぼっと顔を赤らめる。
「お、おれはバイクの所に戻ってるわ。司さん、今日の記事楽しみにしてますよ」
 慌ててその場から逃げるように歩き出した志倫をキョトンとした顔で見つけ見ていたアルティオーネだったが、慌てて、志倫の事を追いかけて行った。
「わたくしも一緒に行きますよ、志倫さん!」
 そして慌てて駆け寄って行ったアルティオーネは志倫の腕を嬉しそうに取るのであった。

●エピローグその2
 その次の月の月間アトラスには『謎の発光現象はプラズマが原因だった!』という謎の見出しの付いた書き手不明の記事が小さく乗っていたというのはまた別の話である。


Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■ モーリス・ラジアル
整理番号:2318 性別:男 年齢:527
職業:ガードナー・医師・調律者

■ 月見里・千里
整理番号:0165 性別:女 年齢:16
職業:女子高校生

■ 神鳴・穂香
整理番号:4752 性別:女 年齢:16
職業:都内某所のお嬢様学校に通ってる女子高生

■ 堂島・志倫
整理番号:3312 性別:男 年齢:22
職業:大学生・剣術士

■ アルティオーネ・クライゼン
整理番号:3313 性別:女 年齢:20
職業:大学生・タレント

≪NPC≫
■ 冬月・司
職業:フリーライター

■ 桂
職業:アトラス編集部アルバイト


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■         ライター通信          ■
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 どうもはじめまして、ライターの藤杜錬です。
 この度はアトラス依頼『闇の中で光る物』にご参加ありがとうございます。
 この度は納品が遅くなり申し訳ありませんでした

●堂島志倫様
 この度は初参加ありがとうございます
 今回はアルティオーネさんと御一緒という事もありお二人の微妙な関係を描ければ、と思いましたが如何だったでしょうか?
 二人の大人だけれど何処か大人な関係になりきれていないような感じを描けてれば幸いです。
 すこしでも楽しんでいただけたら幸いです。

●アルティオーネ・クライゼン様
 この度は初参加ありがとうございます。
 志倫さんとの関係をうまく描けていれば幸いです。
 これからのお二人の関係がどうなって行くのか気になります。
 それでは少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

 まだ季節の変わり目という事もありたい超など崩されぬようお気をつけください。
 それでは最後になりましたが、本当にご参加ありがとうございました。

2005.03.18.
Written by Ren Fujimori