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<東京怪談・PCゲームノベル>


NOZARUチーム助っ人召喚!

●奏で出される音
「本当に原曲のままで大丈夫? どれも、かなり個性あるから……舞台で弾くのは面倒だと思うよ?」
「大丈夫です。では、試しに一曲弾いてみましょう」
 手渡された楽譜に目を通し、宝剣・束(ほうけん・つかね)はさらりと答えた。
 傍らにあった電子オルガンに電源を入れ、軽やかにキーボードに指を走らせる。
 奏でられる軽やかな音楽に、スタッフ達は感嘆の声をもらす。
 とても初見で弾いているとは思えない。一度も間違えず弾き終え、束は満足げな表情を見せた。
「上手いね、さすがはディレクターが推薦しただけのことはあるよ」
「分かり易い楽譜ですし、最近CMで良く耳にしておりましたから。少し思ったのですが、サビの手前にある連弾の最初にトリルを入れても構わないでしょうか? その方が音の流れが派手になると思います」
「ああ、多少のアレンジなら構わないよ。舞台向けに派手にしてくれた方が盛り上がるだろうしね」
 いつもならばテープに録音しているものを流すのだが、折角演奏出来る人間がいるのだから、と今回は舞台演奏の方針でいくようだ。
 少々プレッシャーが多いかもしれない、と心配するスタッフ。
 心配はいらない、と束は笑顔で告げた。
 カチャリと扉が開き、悠桐・竜磨(ゆうどう・かずま)がスタジオに入ってきた。
 丁度よいところに来た、とスタッフは早速彼を束に紹介する。
「今回一緒にNOZARUチームとして参加してくれる竜磨君だ。竜磨君。こちら、今回キーボード兼シンガー担当の束さん」
「よろしく、束。何か困ったことがあったら俺に聞いてくれ、草間から多少はNOZARUのこと聞いてるからさ」
「よろしくお願いします」
 さりげなく握手を交わしあう2人。
 心なしか、竜磨の表情が緩んでいるようにも見えたが……まあ、気のせいと思おう。
「そういや、さっきメイクの子から聞いたんだけど、今日やるはずだった衣装合わせは明日に延期したんだっけ?」
「はい、あいにく本日はショウがロケ撮影のため、スタジオに寄れないらしいんです」
「ロケかぁ……仕事じゃ仕方ないか。俺も暇じゃないんで、まとめてやって欲しかったんだけどな」
「すみません、急な用事でしたので……」
 スタッフは申し訳なさそうに頭を下げる。
「いいさ、俺も今日遅刻したし、気楽に行こうぜ」
 カリカリしてても始まらない、と竜磨は肩をすくめて言う。
 確かに彼の言う通りだ。
 音楽はまず自分が楽しむのが一番。自分が楽しめなくて、どうして他の人を楽しませることが出来るだろうか。
「それじゃ、俺は先に戻ってますね。これのアレンジさせた楽譜を完成させておきたいですから」
「途中まで送るぜ」
「結構。1人で帰れます」
 さばさばとした口調で言い、束は颯爽(さっそう)と手を振りながら退室していった。
 その後ろ姿に目を瞬かせながらも、竜磨はにやりと口元を緩める。
「いいね、美人で気が強い。碇ディレクターみたいな人じゃねぇか」

●秘密の打ち合わせ
「ここの曲調は……少しアンダンテでいって……歌の流れからすると、ブレスが入るから、ここに音を入れて……」
 和音を確かめながら、楽譜に修正を加える束の姿を見つけ、山口・さな(やまぐち・―)がひょっこりと後ろから声を掛けてきた。
「何してるの?」
「あっ、ええと……明後日の演奏曲の調整をしてるんです」
「ふぅん……あっ、そうだ。確かキミ達って、僕達の後に演奏するんだよね。こういうのは……どう?」
 そっと耳に囁きかける、さな。
 その言葉に、束は目を瞬かせて思わず驚きの表情を見せる。
 人懐こい笑顔を見せて、さなは「面白そうでしょ」と楽しげに言った。
「確かに、演出としては面白いかもしれませんが……そちらのバンドメンバーの方は問題ないのですか?」
「うん、平気ー。視聴者を驚かすの大好きな連中だもん!」
 さなの所属するバンドチーム『imp』といえば、型破りな演出を行うことでも知られている。
 折角の申し出ということもあり、彼らの案に乗ってみることとなった。
 入念な打ち合わせを済ませ、いよいよ明日の本番を迎えるだけだ。
「どんな反応するか楽しみだね♪」
 にっこりと無邪気に笑うさなに、束は失敗しないよう頑張りましょう、と笑顔で返した。

●収録準備中
「マイクテス、テス、テス。こんなもんでどうー?」
「オーケイですー。次は高音部と低音部を下さいー」
「らじゃーっ」
 言われて、さなは手に持っていたギターの細い弦と太い弦を交互に鳴らす。
 スタッフとやり取りを交わしつつ、ギターの調子を少しづつ確かめていく。
 ライブ直前の独特の緊張感。本番に備えての最後の調整にスタッフ全員が最新の注意を込めて行っている。
 司会役である浅野・啓太(あさの・けいた)と、狩野・宴(かのう・えん)も最後の打ち合わせをしていた。
 台本の中身をお互いにチェックし合い、漏れが無いか確認をする。
 一通り終わり、一息つくために啓太は用意されていたコーヒーを宴に手渡した。
「NOZARUに司会を手伝ってもらえるいうんも、嬉しい話やね。ほんま、今日は宜しぅ頼んますよ」
「いえいえ。こちらこそ光栄というものですよ。ええ、本番がとても楽しみです」
 不敵な笑みを薄く浮かべる宴。
 自信あり気なその姿に、啓太はさすがは舞台慣れしてるお人や、と関心の声をもらす。
 無論、啓太は宴達がNOZARUの助っ人チームだということは知らない。
 別に説明する気もなかったし、芸能界にいながら、情報収集の足りない彼が悪いのだ、と宴は特に正すことも言わないでおいた。
 後で知った時の、反応が楽しみですね……
 と、うっすら笑みも浮かべながら。
「桐生・暁(きりゅう・あき)さん、こちらに来てます?」
「いや、見かけないけど……」
「おかしいですね、どこ行ったんだろう……」
 心配げに束は辺りを見回した。NOZARUのリハは終わっていたが、最後の詰めの作業でも行いたかったのだろう。
「ここにいないなら、ロビーか控室やと思うで。昼休み挟んどるしな」
「有り難うございます、そっちを探してみます。あ……お弁当来てましたよ。控室に運んでくれるそうなので、後で食べに来て下さい」
「分かった、後で頂きにいくわ」
「それでは、休憩中失礼しました」
 軽く一礼し、束はぱたぱたと駆けていく。その背を眺めながら、啓太はにんまりと微笑んだ。
「嫁さんにするなら、ああいうちゃんと周りに気ぃ使える人がええなぁ」
「……色々疲れると思いますけどね」
 楽しげな啓太に、宴は苦笑いをしながら言った。
 
●鋼の心の出演者達
 本番直前。
 舞台衣装に着替えたNOZARUメンバーは、スタッフの案内のもと、舞台裾の指定席に着席した。
 収録形式の番組のため、生ライブと違い、極度な失敗を恐れることはない。だが、それでも舞台向こうには客もいるし、演奏自体は一発撮りが殆どだ。気を引き締めて掛からないとな、とショウは皆に活を入れる。
 そんなショウの思いとは裏腹に、竜磨と暁はすっかり意気投合し、出演者の品評会を始めていた。
「なあ、あっちにいる新人の子、良い感じだと思わねぇか?」
「うーん……俺的には70点ってとこだな。服が着せられてるって感じが目立っちゃって、色気が出せきれてないのがマイナスだな。顔は合格ラインなのに勿体ないよ」
「あー……言われてみればそうだな。もう少し大人しい感じの方が似合ってそうだ」
「……おい、おまえ達。そろそろ本番なんだから、私語は慎めよ」
「分かってるって。なぁなぁ、それより……シュウはどの子が気に入ってるんだ?」
「俺はそうだなぁ……って、話を振るな!」
「はいー、そこのバンドご一行さんー。おしゃべりは禁物やでぇ」
 すかさず司会席の啓太からツッコミが入れられる。
 すでにカメラは回っていたらしく、沸き起こる笑いと向けられるカメラに、一同は苦笑いを浮かべた。
「……やれやれ……」
 呆れるように後ろに座っていた束が息を吐き出す。
 歌さえしっかり歌ってくれればいいかな、と心の中で呟きながらも、ちょっぴり先が不安になる彼女だった。
 
●品評会
 収録本番中。
 出番を待っている間、出演者達のすることと言えば、コメントを返したり、歌を聞いて反応をみせること位だ。
 大御所の歌手を除き、出演者は舞台の端に設置された椅子に座り、出番が来るまで待機している形式のため、うかつにだらけることも出来ない。
 退屈感を少しでも減らそうと、暁は傍らにいた竜磨と一緒に、出演者の点数づけで遊ぶことにした。
 先程、司会者に怒られたばかりではあるが、ばれなければ別にどうということはない。
 むしろ舞台に集中出来る分早く反応出来るだろうし、よそ見をしているよりはずっとマシだろう。
「へぇ……シンガーソングライターか。歌は上手いな、80点」
「しっかし見た目がなぁ……折角の舞台なんだからさ、もうちょっと化粧しても良いと思うな」
「メイクの仕方は舞台と日常じゃ違うからなぁ……その辺は場数踏まないと無理じゃないか?」
 さすがはホストの経験があるだけあり、見た目に関する竜磨のセンスは鋭いものがある。
 的確に良い点と悪い点をずばり告げる彼に、暁は小さく口笛をもらした。
「で。今のところ一番は?」
「そうだな……あの子、だな。おっ、次歌うみたいだ」
「では、歌唱力とダンスセンスを拝見させてもらうとしますか」
 にやりと微笑み合い、2人は再び舞台中心部へ視線を集中させた。

●共演
「さて、次は今週でオリコン連続10週目の3位を飾る、『imp』の登場です」
 優雅な動作で宴の手が舞台奥を指差した。
 カメラが切り替わると同時に、スモークが吹き上がる。
 スモークがゆっくりと流れていくと同時に、スポットライトの光の帯の中に佇む彼らが見え始め、テンポの高いギター音が鳴り響いた。
「……あれ、後ろにいるのNOZARUじゃない?」
 客席のひとりがそう告げた。
 ベーシストである、さなの後ろでキーボードを弾く束、バックダンサーに紛れて華麗に踊る竜磨と暁。そして、さりげなくボーカルの傍らに立ち、唄を歌う宴の姿が見える。

 2曲目の途中から音の中に別の調子が混ざり、徐々に切り替わり始めた。
 束とさなが同時に力強く音を響かせる。
 途端に音楽がピアノ主体の少し滑らかな音色に切り替わった。
 NOZARUの最新曲、「Mellow Dream」である。
 メインボーカリストとシュウが手を打ち鳴らし合い、その場を交代した。
 さなもプレシジョンタイプのベースから、ジャズベースタイプのものに持ち替えて、中音部のリズムをサポートし始める。
 サビの部分に突入したと供に、暁が観客席へとダイブした。
 沸き起こる歓声に笑顔で応え、暁は体全体をバネのように弾かせ歌と踊りを披露させる。
「暁、そろそろ戻れ。ラスト行くぞ」
 隠しイヤホンからメンバーの声が聞こえる。
 名残惜しそうに、ステップを踏みつつ、暁はくるりとバック転で舞台へ飛び乗った。
「……やるな……」
 人並みはずれた運動能力とダンスセンスに竜磨のライバル心が刺激される。
「……あまり派手なのは禁止ですよ」
 様子を察したのか、すかさず宴が釘をさした。
 
 ラストの音が鳴らされると、舞台が一気に暗転する。
 一斉に湧き上がる拍手。
 拍手の洪水を浴びながら、演奏者達は舞台裾へと戻っていった。
 
●司会者のつぶやき
「お疲れさん、楽しませてもろうたで。impの次がNOZARUっちゅーのは聞いとったけど、まさかあないな風に切り替わるなんて思わんかったから、びっくりさせられてもーたわ。いきなり宴が消えたん時は、事件かいなっ、思うたけどな」
「途中で抜け出して申し訳なかったですね」
 少し肩をすくめて宴は言う。
 演出上仕方ないこととはいえ、啓太に負担をかけさせてしまったのは事実だ。
 楽しんで貰えたのであれば、こちらとしても報われる。
「おーい、司会者さん達。ビデオチェック始めるよー」
「おっ。早よ行かんと見られんようになるで。さっさと行って良い場所を確保せんとな」
 あわてて駆け出す啓太。
 最後まで慌ただしいですね……と一つ息を吐き出し。
 宴は優雅にその後をついていった。
 
 終わり
 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/ PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 2133/悠桐・竜磨/男性/20/大学生/ホスト
 2640/山口・さな/男性/32/「imp」のベーシストSana
 4648/狩野・ 宴/女性/80/博士/講師
 4782/桐生・ 暁/男性/17/高校生アルバイター、トランスのギター担当
 4878/宝剣・ 束/女性/20/神聖都・夜間部の2年生
                  
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■         ライター通信          ■
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 この度は、NOZARU助っ人出演有り難うございました。
 
 書く側の知識がN●Kスタジオ&某声優コンサートぐらいしかないので、描写的に怪しい面もありますが、多少はご容赦願います(最初にいうことはそれかよ)
 
 さて。
 無事に収録も終わり、舞台は成功に終わりました。
 これも卓越した技術を持った皆様のご協力あっての結果と思います。
 碇ディレクターも満足されていることと思われます。
 ご協力有り難うございました。
 
 今回、1つの物語の流れを重視して、個別風味のも共通風味のもごっちゃにしております。
 それぞれの特技と思われる点を中心にさせていただきました。
 
 
 それでは、また次回放映にてお会い出来ますことを楽しみにしております。
 
 文章担当:谷口舞