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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


水晶湖の殺戮鬼

●プロローグ

「今度の取材先はここ、今話題の『水晶湖キャンプ場』よ」

 張り切って資料を突きつけるアトラス編集長の碇麗香に、鶴来理沙は目を輝かせた。
「わーい、楽しそうな取材は大歓迎ですっ、はい!」
 しかし、ブルブルと震えながら三下忠雄は口をはさむ。受身の彼にしては珍しいことだ。
「‥‥す、水晶湖といえば、例の殺戮鬼の怪談で有名な――」
「殺戮鬼ィ!?」
 飛び跳ねる理沙に、当然でしょ、とばかりに「なに言ってるのよ」と麗香はすまして見せた。
「この水晶湖で泊まった人々は次々とアイスホッケーマスクの怪人に殺されるという惨劇の夜を繰り返す、今話題のスポットよ。ま、あくまで噂だけどね」
「そんな噂はいやすぎます!」
「問題はそこよ。実際、警察が動いているわけでもないから被害があるかはわからない。だけど、噂は確実に広がっていて水晶湖の評判はガタ落ち。だから私たちに確認をかねての取材依頼が回ってきたのよ」
「ほんとだったら惨殺されちゃうんですか?」
「だからそれを調査してほしいのよ。体をはってね」
 いやー! と必死で拒否する理沙に麗香は困ったようになだめる。
「まあまあ、こんなの噂よ噂。取材料が入って遊びにもいけるわけだし、そうだ、用心棒に三下もつけてあげるから、ね?」
「えええええ〜〜〜〜〜〜!!!! そんな話聞いてませんよ」
 聞いてない以前に、それ、役に立つんですか?

                             ○


 この時、柱の影から一人の小さな少女が話を聞いていたことを誰も知らなかった‥‥。



 ――――こうして惨劇の一夜は幕を開ける。

             場所は水晶湖、鮮血の鬼が棲む呪われた地――――。



●鮮血の夜の真実

 水晶湖は美しい水辺を森に囲まれたキャンプ場だ。
「‥‥ぷはッ」
 湖から飛沫を上げて顔を出した ロルフィーネ・ヒルデブラント(ろるふぃーね・ひるでぶらんと) は、遊泳を終えると柵にかけてあったタオルを取った。まだかすかに冷たい森の風が吹き抜ける。
 黒檀の如き黒髪、雪の如き白い肌、そして血のように赤い瞳。
 13歳ほどの幼さに見えるハーフエルフの少女だった。
 ‥‥‥‥ハーフエルフにして吸血鬼‥‥‥‥。
 体を拭きながら湖から上がり、タオルを肩にかけて美味しそうな匂いの煙を上げている方角を見つめた。


 ――――――水晶湖キャンプ場。

 殺戮鬼の出没する噂で汚染された地は沈みゆく夕日の朱色で血のように赤く染まって見え、なんとなく湖を振り返った。
 夕日の赤色を映した湖面は美しいルビーを溶かしたように輝いている。
「ロルフィーネさん! もうすぐ焼き肉できますから早く着替えてきてくださいねー!」
「えへへ、わかったよ。ボクも今、着替えてくるから♪」
 包丁を振り回しながら笑顔で呼びかける剣の女神の巫女、鶴来理沙の姿に「あの子の血、美味しそう‥‥♪」なんて物騒な感想を抱きながら(三下は野菜を切り損ねた指から盛大な血を噴き出しながら悲鳴をあげる様子がチラリと目に入ったけど、不味そうな血なのでそれは気にしない)、野外の食事場から少しはなれた横にあるコテージに入った。
 ここが今夜の宿泊場所になる。
 山の木で作られたらしい丸太組みの小屋で、内装は質素ながらも、オシャレな風情で広さもそこそこあり快適な夜をすごせそうだ。そんなコテージが丁度食事場を中心にして対を成すように二つの同じ小屋からなっていた。キャンプ場の各所にこういったコテージの対が湖畔に散在していて、それらコテージ群の中心にキャンプファイヤーなどを行えるような大き目の広場がある。それが水晶湖キャンプ場の全体図だ。
 今回のキャンプに参加した人数は総勢11名という大所帯。これを二組に分けて、二つのコテージにそれぞれ割り振られていた。
 ――――第一コテージには、神崎 美桜(かんざき・みお)、都築 亮一(つづき・りょういち)、海原 みあお(うなばら・みあお)、リィン・セルフィス(りぃん・せるふぃす)、陵 彬(みささぎ・あきら)、三下忠雄。
 ――――もう一つの第二コテージには、シリューナ・リュクテイア(しりゅーな・りゅくていあ)、五降臨 時雨(ごこうりん・しぐれ)、谷戸 和真(やと・かずま)、桐生 暁(きりゅう・あき)、鶴来理沙。

 そう、ロルフィーネの存在は本来はイレギュラーだ。
 本当ならばメンバーに入っていない彼女が混じっても誰も疑問に思わないのは、ロルフィーネの暗示能力によるものだった。誰も彼女がこの取材キャンプに同行していることを疑問とも思わず、そのまま第二コテージの住人となっていた。
 残念ながら、殺戮鬼の怪談のせいかキャンプ場はアトラス関係の宿泊メンバー以外はいないようで閑古鳥が鳴いている。ロルフィーネの目論見だと殺戮鬼の仕業に見せかけキャンプに来ている人の血をいただいちゃおうという計画だったが、そこは諦めなければならないようだ。
 殺戮鬼という存在の噂の真偽はともかく、殺戮鬼の怪談で人がこない、という話だけは本当のようだった。
「ううん、早く着替えないと焼肉あの調子じゃすぐになくなっちゃいそう」
 ‥‥焼肉がなくてもボクは血が飲めれば満足なんだけどね♪
 ロルフィーネは、手早く着替えを終えると、急ぎ足で部屋をでた。

                             ○

 なんだかんだと一行は楽しく過ごしながら深夜0時を迎えてしまった。
「あー、もう楽しいです! 麗香さんに散々怖がらせられたけど、こんなにワイワイにぎやかならきてよかった」
「でもね‥‥そろそろ殺戮鬼が登場しそうなお時間じゃない?」
 幸せそうにポテチをほおばる理沙を横目に、ロルフィーネが怖がらせるように呟くと、三下はその疑問に首をひねった。
「そそそ、そうです、お客さんが途絶えてるのは事実なのですから‥‥相応の出来事があったのではないかとも思いますが、はい――ごめんなさい」
 なんで言葉の締めで謝っているのかな三下。
 それはさておき。
 日が沈んでからロルフィーネたちはずっと噂の殺戮鬼に備えていたのだが、殺戮の起きそうな気配は「さ」の字も感じられない。
 そうなると8時頃からなんとなく場の流れで時間つぶしに始めたトランプが意外と盛り上がってしまい、このままでは単なる仲良し合宿で終わってしまいそうな雰囲気ですらある。
「――――殺戮鬼は気になるけれど、何もないならばそれでいいのかもしれないですね」
 理沙はホッと胸をなでおろす。
 噂が単なる噂にすぎないと証明されれば、またこのキャンプ場にも活気が戻ることだろう。それで一件が落着する。
 噂の殺戮鬼が見られなくて残念かもしれない、などと不謹慎な考えがよぎるくらいに安堵感を覚えてしまった。
 理沙は安心したせいだろうか、さすがにこの時間になると朝からのキャンプ疲れが出てきたのか、うとうとと瞼が重くなってきた。
 にぎやかな喧騒が、遠くに聞こえて――。
 うつら‥‥  ‥‥うつら‥‥。
 ‥‥‥‥‥‥。
 ‥‥‥‥。

 ――――――ハッ!

 勢いよく顔を上げて素早く見渡した。
 暗い、闇。
 一面にはただ真っ暗な闇しか見えない。
 みんなで集まっていた広間の電気が落ち、シン――と静まり返っていた。
「あ、起きちゃったの? みんなはもう自分の部屋に戻っていっちゃったよ♪」
 暗闇から聞こえる声に振りかえった。この声はロルフィーネの声。
「‥‥自分の部屋、ですか?」
「うん! みんな就寝につくため部屋に戻っちゃったんだ。それでボクだけ残って理沙の様子を見るからって一次解散になって‥‥気持ちよさそうに寝ていたので起こせなかったんだ♪」
 理沙は自分にかけられていた毛布に気がついた。
 チッチッチッ‥‥。
 薄暗くて視界が利かない中、時計の音だけがハッキリと聞こえた。
 チッチッチッ‥‥。
 そういえば今の時間は――
「今は夜中の2時だね。解散する事にしたのは1時くらいだもん」
 ロルフィーネの話によれば、場の勢いもあってか、殺戮鬼は単なる悪質な噂だろうと結論に達して解散の運びになったのだという。
「えへへ、なんだかこれだけ油断してしまうところに、バサー! と怪人に血を吸われちゃうのがホラー映画の相場なんだけどね♪」
 あははー、と朧な姿でロルフィーネは笑うが、正直これは笑っている場合ではないと思う。
 闇の静寂の中で2人っきりの状況。
 そう。これから殺戮ショーが開始されてもおかしくはないような雰囲気だ。
 そんな自分の考えを投げかけるが、ロルフィーネには「そうだね。吸血鬼におそわれちゃうかも♪」なんて冗談で返されてしまいとりあってもらえない。
「おかしいです。やっぱり今からでも警戒しておくべきだと思います‥‥みんなを起こしましょう」
 もどかしさと不安な予感だけが理沙の胸中を占めている。
 ぐずるロルフィーネを連れてコテージを見回る事にした。
「あれ? おかしいな‥‥電気、つかないんだけど‥‥」
 カチッ、カチッとロルフィーネが何度のスイッチを入れる音がこだまする。理沙もようやく事の異変に気がつき始めたようだ。胸中の不安が膨れあがる。
 こんなこともあろうかと用意していた懐中電灯を点けた。ロルフィーネの分とあわせて二つ、白い光が暗闇をゆがんだ真円で切り取った。
 間違いなく異変は起きている。
 正体はワカラナイが、この異常は理沙に危険なシグナルとして報せているのだ。
「もしかして‥‥これが殺戮鬼の仕業ですか‥‥?」
「さあ、わからないけど、その覚悟はした方がいいかもね♪」
 こんなおかしな状況でもロルフィーネの声は明るい。
 木造の廊下はギシギシと不気味な音を上げている。
 懐中電灯の光に不可解な光景が映った。
 一つの部屋の木でできたドアが開いた状態のままで揺れているのだ。
 中に入ろうとしたロルフィーネを理沙が止めた。体を震わせながらも目で「自分が入るから」と訴えている。
「‥‥うぅん、大丈夫?」
「はい、ロルフィーネさんはここで待っていてください‥‥二人で一度に入るのは危険ですから‥‥」
 ここは理沙の発言が正しいだろう。万が一、部屋の中に得体の知れない存在が待ち構えていたとしたなら、正体が判らない段階では二人が同時に犠牲になってしまうという可能性も十分にありうる。あるいは、入った人間だけが襲われたり、または待っている人間が不意打ちされたりという展開も否定できないが、そこまで考えると逆に恐慌に捕らわれて自滅しかねない。
 中には――――鮮血。真っ赤な部屋。
 耳をつんざくような悲鳴を上げた。
 ―――――!!!
 部屋から後ずさりした理沙が出てくると転びながら、それでも部屋の中から視線を逸らさなかった。理沙は顔を恐怖で引きつらせてロルフィーネの胸に飛び込んだ。
「どうしたの? 部屋でなにがあったの??」
「‥‥部屋が‥‥血で、真っ赤に‥‥!」
 同じ言葉を繰り返してガクガクと震えるだけの理沙。
 理沙を抱えながらロルフィーネが部屋を覗くと同時に、カッとまばゆい閃光が窓から差し込み、轟くような落雷の音が響き渡った。
 ザザザーーーーーーー‥‥。
 耳を打つような土砂降りの音。
 山の天気は変わりやすいというが、まるでこれから起こることの不吉な出来事を暗示するかのように激しい雨と落雷が水晶湖一帯を包み込む。
 窓から差し込む閃光に照らされた部屋は、ベッドを中心に壁から天井まで、一面が赤色だった。飛び散った真紅の血の色で染め上げられていた。
 この部屋はたしか二刀を背負った青年――五降臨 時雨の個室‥‥。
 ロルフィーネは鉄サビのような血の匂いに口元を抑えて部屋を出てきた。血の匂いにむせたのだろう。
 その時、怯えるように理沙が袖口を引っ張った。
「あの‥‥何か、音が聴こえない?」
「‥‥音、だね‥‥」
 確かに、聴こえる。
 耳を澄ませると、かすかにだが廊下の足音でも、雨の音でもない別の音が聴こえる。
「あっ、水の音――シャワーだ」
 案の定、音はシャワー室から聞こえていた。雨とはまた異質な水がタイルを打つ音はいつから聞こえていたのだろうと思うくらい独特の音を鳴らして響き渡る。
 奥のシャワー室にまで慎重に進み、周囲を警戒しながらたどり着くと、今度はロルフィーネが中を覗いた。
 白い異常な程のむせ返るような湯気。
 湯気を懐中電灯で照らした向こう側、一番奥のシャワー何かが、見える――――。
「―――――――!!!」
 人だ――――
 いや、あれは‥‥‥‥三下がシャワー室で倒れていた。
 シャワーのお湯と一緒に紅い液体が排水溝へと流れ落ちる。
 そして、ロルフィーネはさらに目を疑った。
 三下の体が、紅い粒子を帯び始め、次第に紅い光となって空中に溶けるように消えていくのだ‥‥。

 一歩も動けない停止した時間の感覚の中、三下はいつも間にか消えてしまった。まるで今までそこで倒れていたことが全て夢であったかのように。

 しかし、いまだ床のタイルを流れ続けている紅い血だけがこの光景を夢ではないと教えている。

 改めて理沙は戦慄を覚えた。

 ――――得体の知れない怪物の魔手はすぐそこまで迫っている。
「ど‥‥どうしましょう‥‥ロルフィーネさん」
「たしか、この小屋は地下室で発電されていたと思うからそこにいこうよ? この暗闇の中じゃ危険だから」
 腕にしがみつく理沙を連れて、ロルフィーネは頼りない懐中電灯の明かりだけで地下室への入り口を探した。
 入り口はコテージの一番奥にあった。下への階段をゆっくり通りで埃っぽい地下に向かう。階段を降りきると、すぐ目の前には二つの扉があり、とりあえず右側の扉をゆっくりと開けていく。
 ちょうつがいが軋みを上げながら開いていく木の扉はさらなる闇の入り口を見せた。
「誰か――いる?」
 背中から覗き見るように理沙がささやく。たしかに、何か激しい気配がある。

 古書店主にして祓い屋が何かと対峙していた。

 相手は、闇に浮かぶ白いアイスホッケーのマスクだけがくっきりとわかった。地下の闇に浮かぶ白いマスクに細身の青年は全神経を集中させている。戦っているのだ。
 赤い瞳の祓い屋が動いた。
 闇だからこそハッキリとは分からないが攻撃を放ったのだ。しかし、白いアイスホッケーマスクの怪人はドス! ドス! ドス! と攻撃を受けるたびに激しく体を揺らしながらも、一向に倒れる気配を見せない。あえていうなら、ダメージを負っている様子すら見えなかった。
 ――――不死身、そんな単語が理沙の脳裏に浮かんだ。攻撃を受けながらマスクの怪物は一歩ずつ近づき、手に握った無骨な手斧を振り上げ、軽々と振り下ろした。理沙は闇に飛び散る鮮血から目をそむけて即座に地下室を出ると後ろ手にドアを閉めた。
 同時に、ドン! という激しい振動と共に扉から怪物の手斧の刃が一部飛び出した。《ヤツ》がこちらに気づいたのだ。
 すぐ隣の扉に逃げ込むべきか階段を上がって地上に出るべきか‥‥。
 ――――理沙は迷わず階段を駆け上がった。
「やった! 外まで出られそ――」
 振り返った瞬間、ロルフィーネの頭に無骨な手斧が振り下ろされた。
 理沙の顔に鮮血がかかる。
 血の臭い――
 むせ返るように芳醇な鮮血の味――。
 崩れ落ちるロルフィーネの背後から手斧を構えた殺戮鬼が闇から浮かび上がってくる。
 忌まわしいアイスホッケーのマスクをつけた怪物――――殺戮鬼。
 ピカッ。
 雷光が窓から差し込みマスクの怪物を照らし出した。
 その姿は、桐生 暁に見えた。

 雷光、血、紅、鮮血、死、死、死、死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死―――――

 理沙は、意識を失った。


 くたっと倒れる理沙を誰かが支える。
「残念だったね。ボクに普通の武器は効かないから」
 ロルフィーネは無傷でその場に立っていた。
 吸血鬼はすでに見切っている。
 怪人の本当の姿は、この目の前のアイスホッケーの怪人ではなく、その背後にあるのだと。
 アイスホッケーマスクの男を無視して、彼から延びる壁に映った影に手を伸ばし、腕をその中に突き立てる。乱暴に中から“怪人”を引きずり出した。これが殺戮鬼の怪人。
 影縛りで怪人の動きを封じてレイピアで深々と貫いていく。

「ねえ、怪人の血って美味しいのかな?」

 手斧を掴んで、ホッケーマスクに振り下ろした少女は、噴出す鮮血を嚥下して夢見るように赤いシャワーを浴びた。
 これから彼女の“食事”が始まる――――。



●エピローグ

「ご苦労様。大体あらましは分かったわ」
 アトラス編集部のデスクに腰掛けて麗香はニッコリと微笑んだ。
 陽光の差し込む中、まるであの殺戮の一夜が嘘のようだ。
 あの日、水晶湖に泊まりに行ったメンバーもこうして全員が無事にそろっている‥‥。
「つまり、そのアイスホッケーの殺戮鬼は、可能性世界の流れの隙間に潜む悪魔ね。闇の呪い‥‥《可能性世界の魔物》といわれるものよ」
「《可能性世界の魔物》?」
 聞きなれない単語だ。
「どういえばいいかしらね。俗にいうパラレルワールドや異次元世界とでも言えばいいのかしら。私たちの世界は大きな流れの中で造られていて、大きな流れの可能性の隙間に時々常識から外れたありえない可能性の世界もひょっこり顔を出すことがあるのよ。そんなマイナーな世界の住人なのね、アレは」
 ロルフィーネは、怪人をご飯として食べてることなんて御くびにも出さず、まるで他人事のように訊ねた。
「ええと、夢のようなものだって理解すればいいのかな?」

 それはそれで不思議だ。
 血の味はちゃんとおぼえているのに。
 あのおいしい、おいしい赤い味は――――

「まあ夢といえば夢よね。こちらからすれば悪い夢だし、‥‥向こうからは、今の私たちが夢で、今も惨劇の夜が続いている世界こそが真実かもしれないわねぇ」
 からかうように麗香は意地悪な表情を見せた。
「とまあ、そういうわけであのキャンプ場は《殺戮ホラー体験のできるキャンプ場》として売り込むことで決着がついたので一応教えておこうと思って。ドリームシーカーという専門の案内人をつけて、安全に殺戮鬼とのスリルな一夜を過ごしてみようって企画になったのよ」
 何だか、呆然。
 そして歓喜。
 だって、何度もあの夜を繰り返せるというなら‥‥。

 ――――また、誰にもはばかることなく“ご飯”が食べられるのだ。

 と、そんなことを考えているとは露知らず、麗香はいやぁ〜な笑みを向けてきた。
「――で、物は相談だけれど、この案内人のバイトを引き受けてみる気はあるかしら?」
 ‥‥この編集長は殺戮鬼よりもステキな血の持ち主かもしれない‥‥。
 ロルフィーネはうっとりと麗香の話に聞き入った。



 吸血鬼の少女は儚げな白い花のように嗤う。
「‥‥はぁ、ただご飯食べるだけなのに、何でこんな気を使わなくちゃいけないのかな?」


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【4936/ロルフィーネ・ヒルデブラント(ろるふぃーね・ひるでぶらんと)/女性/183歳/吸血魔導士・ヒルデブラント第十二夫人】
【0413/神崎 美桜(かんざき・みお)/女性/17歳/高校生】
【0622/都築 亮一(つづき・りょういち)/男性/24歳/退魔師】
【1415/海原 みあお(うなばら・みあお)/女性/13歳/小学生】
【1564/五降臨 時雨(ごこうりん・しぐれ)/男性/25歳/殺し屋(?)】
【1712/陵 彬(みささぎ・あきら)/男性/19歳/大学生】
【3785/シリューナ・リュクテイア(しりゅーな・りゅくていあ)/女性/212歳/魔法薬屋】
【4221/リィン・セルフィス(りぃん・せるふぃす)/男性/27歳/ハンター】
【4757/谷戸 和真(やと・かずま)/男性/19歳/古書店・誘蛾灯店主兼祓い屋】
【4782/桐生 暁(きりゅう・あき)/男性/17歳/高校生アルバイター、トランスのギター担当】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、雛川 遊です。
 シナリオにご参加いただきありがとうございました。そして、ノベル作成の遅延が続いてしまいご参加いただいた皆様にほご迷惑をお掛けしております。
 スランプと言ってしまうのもなんですが、いわゆる執筆できないような状況に陥ってしまっていてこのような事態になってしまい本当に申し訳ありませんでした。

 それでは、あなたに剣と翼の導きがあらんことを祈りつつ。