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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


京都大阪旅行記


□始まりの嘘


 「た・け・ひ・こ・ちゃぁぁぁ〜ん!!」
 バンと勢い良く扉が開いて静かだった室内を揺るがす。
 夢現だった草間 武彦は、いきなりの騒音に座っていたソファーからずり落ちそうになった。
 「な・・・なんだ・・!?」
 見つめる先、小柄なツインテールの少女・・・片桐 もな(かたぎり もな)だ。
 「片桐?どうしたんだ今日は・・。」
 武彦は眉根を寄せながらそう言うと、もなをしげしげと見つめた。
 破天荒で無邪気なこの娘はたまに、銃刀法違反はどうしたと叫びたくなるほどに物騒なものを持っている時があるからだ。
 「今日は、武彦ちゃんにスペシャルプレゼントがあって来ましたぁ〜!ジャッジャーン!」
 スカートのポケットから取り出した束を机の上にバサリと放り投げる。
 「なんだこれ・・・。」
 「ホテルの宿泊券!あのねあのね!聞いて!凄いんだよ!なななんと!京都、大阪に行けちゃうのでぇす!」
 何ら脈絡のないもなの話に、武彦は盛大なため息をつくと机の上に投げられている宿泊券を取った。
 京都の民宿、大阪のホテル・・・。
 「それね、私が去年貰ったやつなんだけど、その存在すっかり忘れちゃっててー!期限が今月までだし、もったいないなーって思って!ほら、ここだったら武彦ちゃんを始め、人がいっぱい来るかなーって思って!あのね、実はもうバスも用意してるのー!!夜行バスだよ!一台チャーターしてみたのっ!」
 “チャーターしてみたの!”ではない。
 修学旅行じゃないんだからっ!
 「ほら、一台チャーターしたほうが広々、ノビノビでしょっ!」
 ・・・そういう問題でもない。
 「お金はモチロン夢幻館持ち〜!でもでも、自分のお土産代は自分で出してねっ!」
 そう言った後に“おやつは300円までよ”と付け加える。
 「ちなみに、バナナはおやつに入りませ〜ん。」
 「盛り上がっている所悪いが・・・。俺は行けないぞ?」
 「え?なんで?」
 「仕事だ。依頼が丁度入ってて・・・。」
 「え〜!つまんない〜っ!じゃぁコレ、どうすれば良いのよ〜っ!」
 ツインテールをブルンブルン揺らしながら、もながチケットを指差す。
 「あ〜・・・。ここにいりゃぁ誰か来るだろうし・・。そうだ片桐。電話使って良いぞ。電話番号が分かるヤツもいるし。」
 「本当!?わーいっ!それじゃぁ片っ端から電話かけちゃう!」
 「そうしろ〜。」
 武彦がやる気なく手を振る。
 もなはルンルンした足取りで電話の前まで来ると、受話器を上げてクルリと武彦を振り返った。
 「ねぇ、なんて言えば良いと思う?」
 「あー・・。事件があるから来いとか。」
 「う〜ん?分かったぁ。」


 『大変大変!大事件!重大事件よっ!すぐに興信所まで来て!車内宿泊もあわせて4泊になるから、それなりの用意はしてきてねっ!』


 ●片棒担いでくださいませ☆

 「そうなの!もうねぇ、とっびっきりデンジャーでワイルド☆とにかく、トロピカルな依頼なの!」
 全然意味をなさない言葉を早口でまくし立てながら、もなが電話口で両腕を振り回す。
 「そう!それでね、今夜、夢幻館まで来てね!ちなみにおやつは300円まで!バナナはおやつにはいりませぇ〜ん。お土産代くらいは持ってきてねぇ♪」
 そう言うと、ガチャリと電話を置いた。
 その様子を、不運にもこの場に来てしまっていた人物達が固唾を呑んで見つめる。
 シオン レ ハイはその日、不運にも興信所にテレビを見に来ていた。
 なんて運のない奴なのだろう。武彦はそう思っていたが、あえて口には出さなかった。
 ただでさえ可哀想なシオンなのに・・・言ってしまえば現実味を帯びた可哀想と言う単語がズーンとシオンの両肩にのしかかってしまう・・。
 しかしそれはシュライン エマとて同じ事だった。
 毎日のようにここにお手伝いに来てくれているシュラインだが、いくらなんでもこんな日くらいは休んでいれば良かったのに・・。
 この破天荒で後先考えない少女の尻拭いをするのは・・きっとシュラインだろう。
 武彦はそう思うと、心の中で合掌した。
 そしてもう1人・・たまたまこの場に来ていた狩野 宴だが・・こちらはそれほど可哀想でもなかった。なにせ宴が既に喜んでいるのだから・・・!!
 「今日も可愛い女の子を・・と思ってここに来てみれば・・早速見つけたよ、可愛い子猫ちゃん。」
 素敵男オーラ前回でもなの髪をすっと撫ぜる。
 「いや、ツインテールだから兎ちゃんかな♪」
 ニコニコと既に上機嫌の宴に、もなは飛びついた。・・宴は抱きついてきたと思っているようだが、ハタから見たらボディータックルを食らわせたに過ぎない。
 けれど宴は自分の胸に可愛いウサギちゃんが飛び込んできたと思っているのだ!・・プラス思考のその性格は、見習わなければならないものがある。
 「あのねあのね、旅行に行こうよ!ねっ☆」
 無邪気に宴に言うもな。
 “行こう”の文字を、武彦は心の中で変換した。
 『旅行に“逝こう”よ!ねっ☆』
 ・・絶体絶命の大ピンチだ・・。
 「ん?なに?兎ちゃんと4泊5日の小旅行?それはまたなんて素敵な……その話、詳しく聞かせてもらいたいな♪」
 「あのね、今日の夜、夢幻館まで来てほしいの!場所は、これねっ!」
 もなが斜めに提げた赤いポシェットから小さく折り畳まれた紙を差し出した。
 「旅行の用意はしてきてね!あとあと、お土産代は持ってきてね!」
 「うん、分かったよ。兎ちゃん。」
 宴はそう言うと、もなの頭をそっと撫ぜた。
 どう見ても小学生にしか見えないもなの身長は140cmくらいだ。宴とはかなり身長差がある・・。
 「それでね、はい、貴方にもこれっ!夢幻館への招待状!バァーイもなちゃんバージョン☆」
 もなが、興信所のテレビにかじりつくシオンに紙を差し出した。
 「今日の夜に、夢幻館に来てね〜!おやつは300円までよ〜っ。」
 もなのその一言に、シオンがバっと手を上げた。
 「ハイ!先生!おやつ代がありません・・・。」
 シオンの言葉に、もなはキョトンと小首をかしげ、ポシェットから小銭入れを取り出した。
 「ここから出して〜!ちなみに、お釣りは返すのよっ!」
 「ハイ!先生!」
 シオンが元気良く言い、嬉しそうにもなの小銭入れを開いた・・・。
 ぎっしりと詰まった1円玉5円玉100円玉500円玉、500円玉、100円玉、畳まれた1万円札、1000円札・・・。
 「せ・・先生!お札も入っているのですがっ!!」
 「それはきっと目の錯覚でぇ〜っす。それか、玩具だよぉ〜。」
 ブンブンとツインテールを振り回しながら言うもな。
 これが玩具だと言うのなら、一体何が本物のお札なのだろうか・・・。
 「先生!300円だけ頂いて、後はおかえししますっ!」
 こんな大金の入ったお財布を持って、万が一・・・いや、三が一転んでしまい、失くしてしまったら・・とても弁償できない・・。
 「うん?そ?それじゃぁこれはあたしが持っとくね〜!」
 もなは言いながら、お財布をヒラヒラとふり・・ポシェットにしまいこんだ。
 持っておくも何も、最初からもなの財布である。
 もなは次に、何も言わずにぼうっとその光景を見つめていたシュラインに近寄った。
 正確には、シュラインはぼうっとその光景を眺めていたのではない。あまりの事に、思考回路が鈍ってしまっていただけだった。
 「・・はい、貴方にもこれ!今日の夜に、夢幻館でね☆旅行にレッツラゴー!!」
 「・・あの、私は・・。」
 「だめだよぅ、一緒に行こ〜?」
 ウルウルとした瞳を向けられ、シュラインは詰まった。
 ・・どう見ても小学生にしか見えないもなを泣かしてしまった場合、とてもとても心が痛む・・。
 シュラインは彼女が16の高校生だと言う事をまだ知らない。
 「でも私は・・ね?武彦さん?」
 「いや、骨休めにでも行って来たらどうだ?」
 その言葉の裏には、シュライン以外にこのチビっ子の暴走を止めるものがいないと言う言葉が隠されている。
 ・・人に多大な迷惑をかけるこのチビっ子は、シュラインのような大人の女性がついていなければ・・それこそ、清水の舞台から飛び降りることすらしてしまいそうだ。
 「た・・武彦さんがそう言うんなら・・。」
 シュラインはそう言うと、思考を旅行モードへとチェンジした。
 数日分の食事をテキパキと作り、冷蔵庫・冷凍庫へと詰める。ギュウギュウになってしまった冷蔵庫、及び冷凍庫がシュラインの大切さを物語っている・・・。
 その合間には零と武彦に買ってきてほしいものを聞いておくのも忘れなかった。
 テキパキと進む作業を、もなが傍らでじっと見つめる。
 そして・・・その作業が終わった頃・・もなは宴とシオン、そしてシュラインに向き直った。
 「ちなみにぃ〜、みんなには事件だぁって言ってあるから、向こうに着くまでは事件に行くって事にしといてねぇ☆」
 つまりは、事件の捜査に行こうとしている真面目で純粋な方々を騙せと言う事なのだ。
 無論、一番最初にその提案をしたのは武彦であり、その提案を呑んだのはもなだ。
 そして・・不運にも興信所に集っていた面々までもが、その一連の詐欺に加担しろと言う事なのだ・・・!!
 武彦ともなが持ち上げてしまった棒は、彼ら3人も持たなくてはならない。
 「そうしないと、あたし・・泣いちゃうからっ!」
 ブリブリとそう言うもなの、瞳の奥は妖しく光り輝いていた・・・。


□察するか否か

 現実と夢、夢と現実、そして現実と現実が交錯する館、夢幻館。
 その前に止まる一台の大型バス。
 フロント上部、四角い小さな枠の中にはデカデカと『夢幻館一行様食べ歩きツアーin京都&大阪♪』・・。
 ズーン・・・。
 そして目の前でキャッキャとはしゃぐ、小さな女の子・・。
 ズズズーーーン・・・・。

 『だ ま さ れ た ・ ・ ・』

 この場でそう思ったものは、結構多そうでそうでもなかった。
 翔子、まりも、翼、金蝉、美桜はその5文字が脳内でグルグルと巡っていたのだが・・・。
 他の面々は少し変わっていた。
 暁とみそのは訳知り顔でニコニコとしているし・・シオンとシュラインと宴はそっぽを向いてしまっている。
 風太にいたっては、そんな事よりも食べ歩きの方が気になるらしく、すでに表情を緩めてしまっている。
 そして・・一番分からないのが綱。なぜかうんうんと納得顔になり・・闘志を燃やしている・・。
 「重大事件だっていうから、バイトをキャンセルして急いで来てみたら・・これのドコが重大事件なのかしら?」
 翔子が言いながら、もなの頭をグリグリとやる。
 もながくすぐったいような、なんだかわけのわからない叫びを上げながらじったばったともがく。
 その隣ではとたんに不機嫌な表情になり、イライラとタバコに手を伸ばす金蝉。
 そして更にその隣では、不機嫌な金蝉をなだめるべく、翼がフォローを入れていた。
 閉まっていたバスの扉が開き、一同は中へと進んだ。
 広いバスの中では、天井から小さなシャンデリアがおまけ程度についており、キラキラと明るい光を撒き散らす。
 「はぁ〜っい、みっなさぁ〜ん☆こぉんばぁんわぁっ!今回は夢幻館食べ歩きツアーに参加してくれて、どーもありがとっ♪」
 もながマイク片手にそう言う・・が、決して皆は食べ歩きツアーに来たわけではない。
 バスが音もなく走り出し、夜の町並みが窓の後ろに跳び退る。
 「それじゃぁ、まずは自己紹介からねっ!あたしは片桐 もな!特技はぁ・・ロケラン持って走る事・・かなぁ?」
 ロケランそれ、即ちロケットランチャー・・・。
 しかしそれを察せなかった者もいた。
 さて、その場合ロケランとは何になるのだろうか・・・?
 綱は花火だと思い・・花火を持って走るのは危険なのになぁと、ボヤっと思った。
 まぁ、ある意味巨大花火ではあるが・・ロケランの方が数倍破壊力は上だ・・。
 「それじゃぁ次は・・暁ちゃんからね!」
 もなはそう言うと、金髪赤目の美少年にマイクを手渡した。
 「お初の人もそうでない人もいるけど・・俺の名前は桐生 暁(きりゅう あき)よろしくね〜!特技は・・・あれ?なんかあったっけ・・・?」
 「暁ちゃんの事は、暁ちゃんって呼んであげてね☆」
 もながそう言い、暁の頭をぽんぽんとたたく。
 「そ〜、暁ちゃんって呼んでねっ♪」
 暁がクスクスと笑いながら、マイクをもなに手渡した。
 「はい、どーぞ♪」
 受け取ったマイクを、今度は髪の長い美少女に手渡す。
 「皆様、お初にお目にかかります。海原 みそのと申します。」
 みそのがそう言い、ペコリと丁寧に頭を下げた。
 「このたびは電話での御呼ばれ、ありがとうございます。」
 もなの方を向いて、深々と頭を下げる・・・。
 「妹達は学校で行かれませんから、わたくしが代役で参りました。」
 「そっかぁ、代理かぁ〜☆よろしくねっ!」
 「はい、片桐様。」
 みそのが穏やかに微笑みながらそう言った時・・・もながウルウルとした瞳を向けた。
 「やぁだぁっ!あたしの事は“もな”って呼んでっ!」
 「えぇっと・・それでしたら・・もな様・・でしょうか?」
 みそのの控えめな提案に、もなが満面の笑みでみそのの手を握る。
 シェイクハンドと言うわけだ・・・。
 「次は、翔子ちゃんね〜!」
 もながニコニコと微笑みながら、緑色の髪で青目の女性にマイクを差し出す。
 「初めまして。火宮 翔子と申します。今回・・色々とあっての参加になったけれど・・その、少し勘違いをしている人がいるようだから言っておくけど、これは・・・」
 「しょーっこっちゃん。」
 言いかけた翔子の袖を掴み、もながにっこりと微笑む。
 ・・無邪気な微笑みは、かえって恐ろしい。
 「翔子ちゃんは、翔子ちゃんって呼んであげてね♪それとぉ、該当する人に連絡☆気付いている人は、黙っててねー!」
 でないと、もな泣いちゃうから〜!なんて、ぶりっ子調で言っていたが・・泣くなんて可愛げのある事をするとは限らない。
 触らぬ神に祟りなし。触らぬもなに害はなし。
 次にもなからマイクを渡されたのは、金髪黒目、そばかすがチャームポイントの少年だった、
 「初めまして〜・・三春 風太って言います〜。・・あ、こっちはぁ・・まりもんです。」
 風太がスローテンポで自己紹介をした後で、隣に座っていた少年を指差す・・。
 「初めまして、水野(仮) まりもです。」
 アイドルスマイルで会釈をするまりもの腕を・・もながガシっと掴んだ。
 「え・・なに・・?」
 「あたし、まりもんちゃんの事、どっかで見た事ある!」
 そりゃ、テレビかなんかでだろう。そう思いかけたまりもは、ある1つの単語に注目した。
 “まりもんちゃん”・・それは、風太がいつも呼んでいるまりもの愛称を変化させたもの・・・。
 ってか、“まりもんちゃん”ってなんだよっ!
 心の突っ込みは、心の中の突込みであり・・もなに届く事はなかった。
 「あ〜、まりもんは・・アイドル・・?だからぁ・・。」
 「ふ〜ん。そう言えば・・あたしが小さい頃に見たかも知れない。えっと、伝説の天才俳優・・??」
 小首をかしげながらの一言に、血の気がスーッとひく。
 ・・このぶりっ子、じつはぶりぶりしているのは敵(?)を欺くためであり、本来はもっと切れるやつなのか・・!?
 そう思ったまりもの考え虚しく、もなはケロリとした顔で言ってのけた。
 「あっと、まりもんちゃんはアイドルだったねー。失敗失敗。」
 ペロリと舌を出すと、もなは風太に向き直った。
 「風太ちゃんもアイドルなのぉ?」
 「んー・・違うよ〜。俺はコンドルだからぁ。」
 違うだろっ!って言うか、鳥かよっ!
 「ふーん、そっかぁ。コンドルなんだぁ〜!凄いね〜!」
 っつか、突っ込めよ!このぶりっ子っ!
 ・・まりもの脳内突っ込みは、かなり激しく稼動していた・・・。
 次にマイクを渡されたのは、金髪の美男と美少女だった。
 美少女の方が立ち上がり、もなにニコリと微笑を向ける。
 「初めまして、僕は蒼王 翼。今回はよろしくね?」
 「うん、よろしくねぇ翼ちゃん!・・それでぇ、そっちの人はぁ?」
 翼の隣で、椅子にもたれかかる金髪の男性を指し示す。
 「ほら、金蝉!挨拶・・。」
 翼の言葉に、金蝉は迷惑そうな顔をした後で・・盛大なため息を1つだけついた。
 「ごめんね・・。こっちは桜塚 金蝉って言うんだ。」
 苦笑いをしながら、翼が金蝉を指ししめす・・。
 「金蝉・・ちゃん・・?それじゃぁ、こんちゃんだね☆」
 無邪気に言うもな、ピキリと額に血管が浮かぶ金蝉。
 そして流れる・・子狐の歌・・・。
 ぶっと、翼が噴出した。
 「・・・こんの・・チ・・・っ・・」
 「金蝉っ!大人気ないぞっ!?」
 怒りのあまり、立ち上がりそうになる金蝉を、翼が止める。
 こんな小さい子相手に本気になる事はない。というか、なってはいけない。
 全ては無邪気で可愛らしい行動じゃないか。
 翼はそんな意味を込めて、金蝉の瞳をじっと見つめた。
 面白くなさそうに、金蝉は肩をすくめてから、窓の外へと視線を移した。
 金蝉も翼も、この小さな危険物の年齢を知らないために、寛容なのだ。
 どちらもこの少女は小学生くらいだと思っているのだから・・・。
 「それじゃぁ、次は、はいっ☆」
 もなが笑顔でマイクを渡した先、茶色い髪の毛と黒い瞳の高校生くらいの男の子だ。
 「初めまして、俺は渡辺 綱って言います。今回の事件に呼んでくれて有難う。」
 綱はそう言うと、もなに頭を下げた。
 「今回の事件は、かなり厄介な物だと俺は思ってるけど・・・やっぱり、向こうに着いてから現状を把握して、それから・・・云々。」
 熱弁する綱に、一部の人は同情の眼差しを向けた。
 分かってない・・・分かってないよアンタ・・。
 食べ歩きだよ!?トロピカルだよ!?このちびっ子だよ!?
 必死の叫びも虚しく、綱の素晴らしいアイディアはドンドンと膨れていった。
 これが本当の事件なら・・かなり良い作戦なのだとは思うが・・・。
 「それじゃぁ、向こうについてからの作戦の指揮は綱ちゃんにとってもらうと言う事で☆」
 もなが可愛らしく小首をかしげながら、お願いねと念を押す。
 綱の瞳が変わる。
 本気モードに突入しているのだ・・・。
 この悪魔・・・!!
 そう、心の底から叫んだ者も、中にはいた。
 次にマイクを渡されたのは、長い黒髪が腰まである、緑色の瞳をした美少女だった。
 「あの・・初めまして・・神崎 美桜と申します・・えっと・・」
 あまりに大勢の瞳に見られて、美桜は思わず瞳を伏せた。
 ほんの少しだけ緊張してしまったのだ。
 「美桜ちゃんって言うの〜?あたしね、もなって言うのっ!」
 助け舟とばかりに、もなが声をかける。
 “あたしね、もなって言うのっ!”と大きな声で言っているが、アンタはさっき普通に自己紹介したではないか。
 しかし、思ってはいるものの誰も口には出さない。
 だからこうしてもなのオバカな発言は流されてゆく・・・。
 「もなさんですか?」
 「うん☆美桜ちゃんの好きなように呼んで♪」
 もなはニコニコと愛想の良い笑顔を見せると、右手でVサインを突き出した。
 ソレが何を意味するのかは、分からないが・・・。
 「今回、4泊5日・・みなさんと仲良くなれたらと思っています。よろしくおねがいします。」
 美桜はそう言うと、ペコリと頭を下げた。
 「それじゃぁ、次〜w」
 次にマイクを渡されたのは、黒く長い髪と青い瞳が印象的なガッチリとした体格の男性だった。
 「シオン レ ハイと申します・・えっと、ヨロシクお願いします。」
 シオンはそれだけ言うと、ペコリと頭を下げた。
 なぜソレしか言わないのか・・・シオンは恐れていたからだ。
 もし何かの弾みで、もなに“秘密よ☆”と言われている事をうっかり口に出してしまったら・・・。
 ブルブルブル・・・。
 もしかしたら、あの300円を返してくれと言われてしまうかもしれない。
 それは辛い。
 ・・・そこかよっ!!
 などとは、誰も突っ込んではくれない。
 なにせこれは全てシオンの脳内の話なのだから・・・。
 「ねぇ、シオンちゃん・・それ、なに?」
 ふっと、もながシオンの座席の隣にある馬鹿でかいバッグを見つめた。
 確か・・手荷物のほとんどはバスの下に積み込んだはずだが・・?
 「あ、これですか?」
 なぜか嬉しそうな顔で、シオンはバッグを開いた。
 バッグから覗く、ファンシーなお花ちゃん達・・・。
 何でこんな物を持っているのだろうか?そもそも、それは夜行バスの中で必要な物なのだろうか??
 「これは、お花ですっ!」
 シオンが自慢げにそう言い放った。
 そりゃ、見れば分かる。
 それを見て、ライオンだという者はいないだろう。
 「なんでお花・・?」
 「こうやって、こう作るんです。」
 シオンがくるくると、上手に花を作る。
 別に、どうやって作るのかを聞いているのではなく、なんで花を持ってきているのかを聞いているのだが・・・。
 「内職ですw」
 「そうなんだ?!うわぁ、あたし、内職って初めて見るかもっ!ねね、後でやらせてっ☆」
 「はい!どうぞっ!」
 シオンは嬉しそうに満面の笑みで頷いた。
 少しでも手伝ってくれれば嬉しいのだ。
 しかし、シオンは知らない。
 このもなと言う少女が超絶不器用だと言う事を・・・。
 その昔、バレンタインチョコレートはカカオから作るものだと思い込み、挙句湯せんの事を温かい水の事だと解釈した。
 ・・・シオンはそれを知らない・・・!!
 次にもながマイクを渡したのは、金の髪に赤の瞳をした青年だった。
 「初めまして、狩野 宴と言います。この4泊5日の旅行では・・・仲良くしてくださいね。」
 めちゃめちゃ良い男オーラを放ちつつ、一人一人の顔を見つめて微笑む。
 ・・・正確に言えば、一人一人“女の子の”顔を見つめて微笑んでいるのだ。
 男の子達は完全に素通りされている・・・。
 なんだか少し・・いや、かなり虚しい。
 「男前だけど、宴ちゃんは女の子なんだよね〜☆」
 もなはそう言うと、宴の腰に抱きついた。
 その瞬間に、宴が物凄い嬉しそうな顔でもなの頭を優しく撫ぜた。
 ついっと、もなのツインテールを触る。
 ・・・早く離れた方が・・・。
 その場にいた数人はそう思った。
 もちろん、どちらを心配しているのかは、個人の自由だったが。
 大半はもなが危ないと感じたかも知れない。
 しかしもなの性格を知っている数人は宴が危ないと感じたかも知れない。
 銃刀法違反し放題、破天荒で破壊魔、ロケランを持って走る少女が、危険物でないと言いきれるものはいないのだから・・・。
 最後にもながマイクを渡したのは、黒の髪と青の瞳の中性的な女性だった。
 勘の良い数人はすぐに察した。
 彼女こそが、この破天荒な娘を止められる・・・かも知れない人物なのだと。
 「初めまして、シュライン エマと申します。この度はこのような・・・呼んでいただいて、有難う御座います。」
 シュラインが一瞬つまり、綱の方を見・・・もなを見た。
 このようなの先は、省略だ。
 どちらの事も考えると、省略が一番利口な選択だろう。
 「色々と薬とか持って来たので、具合が悪くなったり、怪我をした場合は気軽に言ってくれれば持ってるから。」
 シュラインはそう言うと、そっと自分の隣に置いてあるバッグに目を向けた。
 その話の矛先は主にもなに向かっていた。
 「あ、そーだっ!自己紹介が終わってなかったんだ!」
 シュラインの自己紹介が終わった後で、もなはマイクを持ったまま車内を走った。
 一瞬だけ、ひやっとするが・・なんとか一番前までもなは転ばずにたどり着いた。
 「このバスを運転してくれてる人!はい、奏都ちゃん、ご挨拶っ!」
 もなはそう言うと、銀の髪に青の瞳をした・・どう贔屓目に見ても高校生にしか見えない男性にマイクを手渡した。
 しかし、こうやってバスを運転していると言う事は高校生ではないのだろう。
 と言うか、高校生でない事を祈るしかない。
 「初めまして、沖坂 奏都と申します。この度は運転手を務めさせていただきます。なにか分からない事がありましたらお気軽にお声をおかけくださいね。」
 奏都はそう言うと、にっこりと、人の良さそうな笑顔を浮かべた。
 「「「って、前見て前っ!!!!」」」
 バスは高速道路を走っており、窓の外の風景は凄まじいスピードで後方に流れている・・・。


■何かが起こる予感・1

 クスクスと、電気の消された車内に小さな笑い声が響く。
 その合間には静かに聞こえてくる寝息・・・。
 「楽しそうですね。」
 「うん。だって、みんな面白そうな人達ばっかりなんだもん☆」
 「まったく・・ほどほどにしてくださいよ?」
 「分かってるって!・・それにしても、みんな、ぐっする寝てるね〜w」
 「・・・ご自分でなさっておいて、なにをおっしゃるやら。」
 「だって!睡眠は大切だよ〜?」
 「そう思うんでしたら、ご自分も寝たらどうです?」
 「ん〜でも、あたしは色々とやらなきゃいけない事があるから・・・ね。」
 怪しく微笑む。
 それは月明かりに照らされて、艶やかな恐怖をかもし出す。
 「桜塚さんと神崎さん以外は・・強制的に眠らせましたよね。」
 「美桜ちゃんは時差ぼけですぐに寝ちゃったし、こんちゃんもすぐ寝ちゃったけど・・他の人は元気そうだったから。」
 「だからって・・・」
 「今後の事を考えると、少しでも体力を温存してほしいって言うあたしのこの温かな思いやりが分からないのっ!?」
 やけに芝居がかった口調でそう言うと、目頭をそっと押さえた。
 ・・・わざとらしい。
 「思いやりがあるんでしたら、皆さんにこの事をおっしゃって・・・」
 「それはつまんないからダァ〜メ☆」
 はぁぁぁ。
 盛大なため息をつくと、心の中で小さく合掌した。


□一日目:京都

 目が覚めた時、車内には柔らかな朝日がさんさんと注いでいた。
 いつの間にか眠ってしまっていたらしいが、その記憶はない。
 掛けられた毛布の温かさだけがやけにしっとりと伝わってくる。
 「んっ・・・。」
 一番最初に目が覚めたのはシュラインだった。
 少しだけ目を擦り・・状況を把握する。
 そうだ、ここはバスの中。
 京都大阪に行く・・・。
 「おや、目が覚めましたか?」
 柔らかく聞こえたその声に、シュラインはそちらを向いた。
 奏都が穏やかな笑みを浮かべて、運転席でくつろいでいる。
 「ここは・・・。」
 窓の外の風景は制止している。
 「えぇ、少し前に京都に着いて・・もなさんは買い物に行きましたよ。そこにコンビニがあって、朝ご飯を買いに。」
 ちょんちょんと、目の前の建物を指差す。
 「ふわぁぁっ・・・あれ?もう朝・・・?」
 あくびをして、伸びをして・・・目を擦りながら辺りをキョロキョロとしているのは暁だ。
 どうも現状を上手く把握できていないのか、頭上には大きくハテナマークが浮かんでいる。
 ・・・徐々に、人々が起き始める。
 翔子が、翼が、みそのが、眠い目を擦りながら起き上がる。
 「皆さん起き始めたようですので、こちらは任せてしまっても構いませんか?」
 奏都が、運転席から立ち上がりながらシュラインに尋ねる。
 「いいけど、奏都さんは?」
 「俺はもなさんの方を・・荷物が多くなってそうですから。」
 苦笑しながら、奏都はバスを後にした。
 「あれ・・・まりもん、なんか・・・変なところにいるよ〜!大変っ!拉致かんき・・・」
 風太が起きたと思ったら・・・バタリと力なく倒れた。
 そして再び夢の中へと・・・。
 「ちょっ・・ほら、もう朝だよ!起きてっ!」
 風太の声で起きたまりもが、再び寝てしまった風太を起こしにかかる。
 ゆさゆさと、ゆさぶる腕が若干強い気がするのは、気のせいだろう・・・。
 「もう・・・朝・・ですかぁ・・?」
 ポヤァ〜ンとした感じで起き上がったのは美桜だ。
 トロリとした瞳が、段々と力を取り戻して行く・・・。
 こすこすと、目を擦り、口に手を当てて小さく欠伸をすると、美桜は窓の外の風景を見つめた。
 バスの前方にある、デジタル時計は7:43と点滅していた。
 シュラインは立ち上がると、まだ夢の中にいる面々を起こしにかかった。
 「綱君、シオンさん、起きて・・・。」
 ゆさゆさと揺さぶられて、綱が小さく伸びをしながら目を開ける。
 しかしその視線は何処を捉えるでもなく、ボウっと彷徨っている。
 「宴さん、シオンさん・・起きてっ・・。」
 「ん・・あぁ、なんと言う事だろう、女神が・・・」
 宴が、寝ぼけているんだか寝ぼけていないんだか分からない調子で目を開け、シュラインを拝む。
 シュラインはそれに苦笑いを返すと、未だに起きないシオンを起こしにかかった。
 その向かいでは、翼が金蝉の肩を叩いている。
 「ほら、金蝉!朝だぞ!」
 「んあ〜・・・。」
 凄く目つきが悪いが、翼にとってそれは日常の一部分にしか過ぎない。
 これは、睨んでいるのではない・・・。
 「シオンさんっ・・・!」
 「くぴ〜。」
 その時、勢い良く前方の扉が開いた。
 「みんな、おっはよぉぉぉ〜っwww起きたぁぁ??朝ご飯のじっかんっだよぉ〜☆」
 目覚めに聞きたくないほどに甲高く大きな声・・・。
 まだ夢現だった人々は、現実へと引き戻された。
 「・・あ・・・朝ご飯ですか・・・!?」
 あれだけ起こしても起きなかったシオンが、朝ご飯のワンフレーズで目を覚ます。
 その時シュラインは理解した。
 今後シオンを起こす時は朝ご飯と言おうと。
 例えソレが夕方だろうが夜中だろうが・・・。
 「まぁ、朝ご飯って言ってもそこのコンビニでちょちょっと買って来ただけなんだけどね〜。」
 そう言って、ほんの少しすまなそうに笑うもな。
 気がつけばお腹は結構減っていた。
 もなが、順々にパンと飲み物を手渡してゆく。
 メロンパンやフランスパン、焼そばパンやお好み焼きパン。
 色々な種類のパンがあり、好きな物を自分で取ってゆく。
 飲み物にいたっては、紅茶から烏龍茶、珈琲やオレンジジュース、果ては青汁まであった。
 随分品揃えの良いコンビニである。
 「みんなちゃんと自分のぶん取ったぁ??それじゃぁ、いっただっきまぁ〜っす☆」
 皆も口々に“いただきます”と言うと、パンにぱくつき始める。
 コンビニのわりには結構美味しい・・・。
 「えっとね、今日の予定は・・・まずお寺に行って、甘味に行って、お土産買って、あたしのお勧めスポットに行って、旅館に行くのっww」
 えらくあっさりとした予定を聞かされて、数名は脱力した。
 とにかく、主語が抜け落ちまくっている。
 どこにお寺に行って、どこの甘味に行って、どこでお土産を買うのか・・・全て大事な所がない。
 そもそも、“あたしのお勧めスポット”とは・・・。
 「あのねぇ、もなちゃん、とりあえず最初・・・どこのお寺に行くの?」
 たまりかねた翔子が、思わず問う。
 「・・・ん〜・・・京都だし、どっかそこら辺にあるでしょっ☆」
 その言葉を聞き、更に脱力する。
 主語が抜けているのではなく、主語がないのだ。
 どこどこのお寺に行って、どこどこの甘味に行ってと言った、明確なスケジュールはないのだ。
 なんてアバウトな旅行なのだろうか・・・。
 「それで、事件はいつなんだ?」
 綱が、パンを食べながら聞く。
 ・・・今の予定で分かるではないか。
 これは“遊び”なのだ、“食べ歩き”なのだ。
 事件なんてそもそも“ない”のだ・・・。
 「んっとね、明日になれば分かるよ☆とりあえず、今日は遊ぼ〜♪」
 もなの言葉に、綱が緊張をほぐす。
 ・・・明日になろうが明後日になろうが明々後日になろうが、事件なんてない・・・と、思うのだが・・・。
 「とりあえずさ、奏都ちゃん、どっか適当に車走らせて、どっかで止まろう?」
 「・・・お寺の前ですか?」
 「お寺の前ですよ。今、今日のスケジュール言ったでしょう?」
 そうは言っても、あんなザックリとしたスケジュールでは、どこに行けと言うのだろうか・・・。
 「さぁさぁ、レッツラゴーゴーっ☆」


■名もないお寺

 車で走る事、約2時間。
 着いた先は聞いた事もないお寺だった。
 『名無寺』
 「・・・奏都ちゃん、ここ、どこ?」
 「さぁ。適当に車を走らせていたら着いちゃいました。」
 あっけらかんと言う奏都の言葉に、思わずガクリと力が抜ける。
 「とりあえず、入ってみましょうよ。ね?」
 シュラインの呼びかけで、重たい腰を上げる。
 「って言うか、コレって何て読むの?“みょうむじ”??それとも“ななしでら”??」
 「・・さぁな。」
 暁の言葉に、金蝉が小首をかしげる。
 それ以外に読み方は・・・思いつかない。
 「でも、結構綺麗そうな所じゃないか。」
 翼は言いながら、そっと中を覗き込んだ。
 大きな門から中を覗くと、綺麗に石畳が敷いてあり・・それは一直線に伸びている。
 石畳の両側には大きな木が鬱蒼と覆い茂っている。
 「なんだか、お寺のわりには静かな所ですね・・・。」
 美桜はそう呟くと、そっと瞳を伏せた。
 他の面々も、耳をすませる。
 無論、美桜の言った“静かな”とは一般的に言う“静かな”とは多少違っていた。
 この場合、聞くのは音ではない。声だ・・・。
 「とても落ち着いた場所ですわ。・・・そう、本当に・・・安定している場所です。」
 みそのはそう言うと、すぅっと息を吸い込んだ。
 緑の空気が美味しい。
 木々の呼吸は、とても穏やかだ。
 「行ってみようw」
 もながそう言って、駆け出す。
 「あ、もなちゃん待って〜!ほら、まりもんも早くっ!」
 風太がまりもの腕を引っ張る。
 「うん、待って!もなちゃんっ!」
 まりももその後を追って走り出す。
 「ほら、綱君も、行こう〜!」
 暁が、綱の手を取る。
 「あ・・別に呼び捨てでいーよ。」
 「本当!?俺の事も暁って呼んでねっ☆」
 にっこりと微笑まれて、綱も思わず微笑む。
 その後ろからは、翼と金蝉がゆっくりと木々を見ながら歩いて来ていた。
 風が通り抜ける。
 ほんの少しだけ、空気が舞い、再びもとの静寂を取り戻す。
 「本当に、落ち着いた良い場所ですわ。」
 「とっても空気が綺麗。」
 「風も気持ちが良いしね。」
 みその、美桜、シュラインが和やかに話しながら歩いてくる。
 そしてその後ろからは、翔子と宴がなにやら話しながら歩いてきていた。
 「やっぱり、女の子は良いねぇ。」
 うんうんと、頷く宴に内心突っ込みを入れる。
 貴方も女性でしょーが。
 奏都は名無寺へと吸い込まれてゆく面々の後姿を見送りながら、ふと首をかしげた。
 なんだか、若干一名足りないような・・・。
 恐る恐る、バスの扉を開ける。
 ・・・無機質なバスの車内で、一箇所だけラブリーな花畑が出来上がっている。
 「シオンさん・・・。」
 「はっ!!」
 黙々と内職をするシオンは、急な呼びかけに飛び上がった。
 「あ・・・あの・・・これは・・・その・・・。」
 何か適当な言葉がないかと探すが、生憎在庫切れだ。
 「シオンさん、それは俺がやっておきますから・・どうぞ、観光してきてください。」
 奏都に言われて、シオンは立ち上がった。
 「これでも結構手先は器用なんですよ。」
 苦笑いを浮かべながら、するすると花を作ってゆく。
 ・・・上手い。
 「あの、それでは・・・」
 「いってらっしゃいませ。」
 穏やかな笑顔に見送られて、シオンは名無寺へと走って行った。


□何もないお寺

 歩けど歩けど、石畳は続いている。
 真っ直ぐに真っ直ぐに、ただただ石畳だけがずっと視界の先まで見える。
 「・・・なんだか、変じゃない?」
 「確かに、これだけ歩いても何もないって言うのは変だよな。」
 暁はそう言うと、今まで来た道を振り返った。
 そこにもずっと先まで、石畳が続いているのが見える。
 どちらも同じような道・・・。
 「なんだかここは穏やか過ぎて・・・おかしいですわ。」
 「そうですね・・。こんなに静かな場所なんて、確かに・・おかしいわ。」
 みそのと美桜がそう呟き、不安そうにきょろきょろと辺りを見渡す。
 木々木々木々。
 それ以外には何もない。
 「・・・引き換えしたほうが良いかも・・・。」
 風太の提案に、一同は頷いた。
 「何かがあるわけじゃないんだろうけど、流石に気味が悪いな。」
 翼の意見に、金蝉も同意の意を示す。
 「それじゃぁ、帰りましょうか。」
 一番後方を歩いていたシオンが、踵を返した。
 ソレに続いて一同が向きを変えた時・・・。

  ザァ・・・

 空気が動いた気がした。
 今まで不自然なほどに静まっていた音が、空気が、動き出す。
 「・・なに・・・?」
 「え・・?」
 1歩、2歩と歩を進めて行くうちに、驚きの色が浮かぶ。
 何時間も歩いてきた道のりが、一瞬にして縮まる。
 視界の先に・・・見慣れたバスの姿があった。
 「あんなに歩いて来たのに・・・。」
 「本当に、何もない所だったね〜☆」
 もなはそう言うと、駆け出した。
 段々と、色々な音がかえってくる。
 先ほどもなが言った言葉が頭の中でグルグルと巡る。
 “本当に、何もない所だったね”
 ・・・あの場所には本当に“何も”なかったのだ。
 バスに乗り込み、前方の時計を見やる。
 バスを降りたのが10:10だった。
 現在は10:11・・・。
 あの場所は“本当に何もなかった”のだ・・・。


■甘味所

 バスは不思議な雰囲気を引き連れながら走り出した。
 先ほどのショックからまだ立ち直っていない一同は、ボンヤリとしたまま甘味所へと入っていった。
 「いらっしゃいませ〜。」
 着物姿の美しい女性が、笑顔で頭を下げて一同を座敷へと通した。
 「こんにちは、美しい女神・・・」
 すかさず宴が話しかけようとするが、もなに腕をガシッと掴まれている。
 「お勧めは、こちらの餡蜜です。」
 ついっと、その細い指が餡蜜の写真でとまる。
 美味しそうだ・・・。
 「それと、こちらのお蕎麦も人気ですね。」
 メニューの上を、滑る。
 ランチメニューの下に、それはちょこりと載っていた。
 「セットですと、餡蜜とお蕎麦がつきますが・・・。」
 「それじゃぁ、それを人数分で。」
 「かしこまりました。」
 女性がお辞儀をして出て行ってしまう。
 「・・・決めちゃいましたけど、お蕎麦食べられない方っていらっしゃいましたか?」
 誰からも返事はない。
 「餡蜜は・・・食べれない場合は誰かしらが食べられると思いますので。」
 随分適当な話だ。
 けれどもう、そんな些細な事にはこだわらなくなってきていた。
 大体からして・・・何度も言うが、予定自体が曖昧だというところで既に何かが間違っているのだ。
 先ほどのお寺だって・・・。
 「う〜わぁ〜w超キレー!」
 いつの間にか、窓の側に立っていたもなが、感動の呟きを漏らす。
 「え・・?何が・・??」
 「ほら、こっちこっち!」
 手招きされて行く先、眼下に広がる桜並木・・・。
 薄い桃色の絨毯が、風に吹かれてサラサラと揺れる。
 桜並木の向こうには、小さな小川も見える。
 「・・本当だ、凄い綺麗・・・。」
 ポツリと、呟く。
 あまりにも幻想的な光景に思わず言葉が失われる。
 「お待たせいたしました。お蕎麦と餡蜜のセットで御座います。」
 声と共に、座敷の襖が開くまでじっと窓の外の光景に目を奪われていた・・・。


□お土産を買いに・・・

 先ほどの甘味所から見えた桜並木の道をバスで走り、そのまま郊外へと抜ける。
 繁華街を抜け、徐々に静かな町並みが窓の外に広がる。
 「皆さんの気に入ったお土産があると良いのですが・・。」
 そう言って連れてこられた場所は、簡素なお土産やさん街だった。
 落ち着いた雰囲気に、おもわずほっと安堵の息が漏れる。
 「京都って言えば・・やっぱ、生八橋だよね〜。」
 「暁もそう思うっ!?」
 暁の呟きに、いち早く反応したのは風太だった。
 「大阪っていえば食いだおれでしょ?でも、京都って言ったら八つ橋だよね?」
 「そうですよねっ!?」
 風太の言葉に、今度はシオンが反応を示す。
 「やっぱり八つ橋は全種類制覇したいよね!あとねえ、あかふくが食べたい!ね、まりもん??」
 ほんの少し離れた所で、キョロキョロと何かを探している風のまりもに、風太が近づく。
 「雀荘雀荘っと…。ぁ?八つ橋?一人で食ってろよ。つか赤福は大阪でも京都でもねえよ。」
 ボソリと呟く言葉は、もちろん風太にしか聞こえない。
 「あ、それから唐辛子もいっぱい買わなくっちゃあ。ん〜っと、そうだなぁ、10袋で・・・足りないよなぁ。やっぱ20袋・・いやいや・・。」
 「んーないっぺぇ唐辛子なんか買って何すんだ?」
 何となく聞いたまりもに、風太は悪戯っぽい微笑を見せた。
 「なんで唐辛子かって?ん〜秘密〜ww」
 「そっかぁ〜。」
 まりもはニコっと微笑んでそう言うと、何もない方向を突然指差した。
 「あっ・・・!!!」
 その場にいた全員の視線がそちらに動く。
 ・・・ごっ!!
 鈍い音が、風太の方から聞こえる。
 しかし残念ながら誰もその場面を見ているものはいなかった。
 「・・まりも君、今の何だったの?」
 「え〜っと、なんか珍しい鳥がいて〜・・あ、でもいつの間にかいなくなっちゃいましたね〜。」
 あはは〜と、ごまかし笑いを浮かべる。
 その隣ではまりもからの鉄拳制裁をまともにくらった風太が頭を抑えてもんどりうっている。
 「・・・風太・・??」
 「あ〜なんか、急に頭が痛くなったみたいで〜・・よくあるんですよ〜。ね?」
 問答無用の笑みを浮かべるまりもに、風太が仕方なく頷く。
 ・・頷くより他、何が出来ようか・・。
 「とりあえず、お土産を見に行こうっ!ね、まりもん、シオン、暁っ!」
 「そうだねっ。」
 「よっし、それじゃぁまずは八橋っ!」
 「次は限定のお菓子でもっ!」
 叫ぶなり、元気良く駆け出して行く。
 「若い子は元気ね〜。」
 シュラインが薄く微笑みながらそう言ったが、若干一名(二名)は若くはない。
 「あ、金蝉・・ちょっとあっちの店、見ても良いか?」
 「あぁ。」
 翼がそう言い、金蝉と共に1軒の和菓子屋さんへと入ってゆく。
 「それじゃぁ私達は、なにかお土産でもゆっくり見ましょうか。」
 シュラインが、残ったメンバーに目を向けた。
 「どこか入りたいお店は?」
 「わたくしは、御方と家族へお土産を・・。それとわたくし自身は珍しい衣装を買いたいですね。」
 「私もお土産を・・・。」
 「そうね〜、私は焼き物屋さんと内藤商店さんに行きたいかな。渋めの素敵な珈琲カップとか、棕櫚の箒やキセル型ブラシとか、お掃除グッズをお土産に・・・。」
 シュラインはそこで言葉を切った。
 「でもここ、内藤商店さんは・・ないわよね??」
 「もし行きたい所があるのでしたら、お送りいたしますよ。」
 奏都の言葉に、シュラインとみその、そして美桜は顔を見合わせた。
 「後、二條若狭屋の抹茶湯菓子をお土産に買いたいんだけれど・・・。」
 「えぇ。構いませんよ。」
 「それじゃぁ、荷物持ちは私が引き受けましょう。」
 宴が自らその役を買って出る。
 「もなさんは、こちらで待機で・・・宜しいですか?」
 「うん、全然いーよ〜☆奏都ちゃん達、どっちにしろ帰ってくるんでしょ?」
 「えぇ。もちろんです。」
 「あたし待ってるから、みんな行ってきていーよ〜。」
 「いや、俺も待つよ。」
 綱はそう言うと、もなの隣に並んだ。
 「1人で待たせるの、可哀想だし。」
 「・・あたしは結構平気だけど・・そうだね、やっぱり誰かいた方が楽しいし・・ありがと〜v」
 もなが満面の笑みで綱にお礼を言う。
 「私も特に買いたい物ないし、待ってるわ。」
 そう言うと、翔子も待機組みにまわることにした。
 そのココロは・・・。
 もなを1人で待たせるのは危険だが、綱と一緒に待たせるのはもっと危険だ・・・と言う事だ。
 綱が危ない・・可能性がある。
 翔子も残るという事で、一先ずシュラインは安心した。
 翔子にならこの2人を任せても大丈夫だろう。
 「それじゃぁ、行ってきます。」
 「いってらっしゃぁ〜いっ☆」
 シュライン、みその、美桜、宴を乗せたバスは、滑るようにその場から発進していった。
 「本当、二人とも残ってくれてありがと〜!実はね、1人で残るの、ちょっと寂しいな〜とか思ってたんだ〜。だから、ね?」
 ニコニコと嬉しそうに話すもなは、一見すると可愛らしい。
 「いや、だって流石にこんな小さい子置いていくわけにいかないし・・・。」
 少し恥ずかしそうに、綱はそう言うと視線を逸らした。
 あぁ・・・。
 その時翔子は気がついた。
 自分は最初から知っていたから“そう見えている”だけであって、普通は“どう見える”のかを・・・。
 「小さいって、身長??」
 「いや・・・??」
 あいたたた・・・。
 翔子は額に手を当てたくなった。
 しかし、寸前でグッと我慢する。
 「あのね、綱君。もなちゃん、これでも高校生よ。16歳。」
 「・・・えぇっ!!??」
 綱が思わず大声を上げる。
 16歳・・すなわち、綱と同じ年だ。
 綱はてっきり12歳かそこらだと思っていたのだ。
 「にゃははっ☆」
 もながニパっと笑う。
 ・・・にゃははではない。
 これは、他にも騙されている人がいるわね。
 翔子はそう思うと、盛大なため息をついた。


■あたしのお勧めスポット

 結局、全員がもな達の元に帰って来た時には既に日が傾いていた。
 それから直ぐにバスに乗り、もなお勧めのスポットへと向かって走っていた。
 すでに日は完全に地平線の底へと沈み、辺りは夜の闇に染まっている。
 随分と長い事、バスは走っていた。
 窓の外を流れる町のネオンが鮮やかで、目に痛いほどだった。
 着いた先は1軒の古びた屋敷だった。
 なんの装飾も施されていないその屋敷からは、微かに蛍光灯の明かりが漏れている。
 「男の子達はここで待っててくれる??それじゃぁ、奏都ちゃん、後よろしくね☆」
 もなはそう言うと、女性陣だけを連れて中へと入っていった。
 残された男性陣は何をするでもなく、所在なさ気にぼうっとしていた。
 もな達が屋敷の中に入って行ってから約30分後、奏都が急に動き出した。
 「そろそろ良いでしょうね。」
 そう言って、屋敷の扉を開けた。
 がらんとした広い部屋に、散らかった帯や髪飾り・・・。
 「ついてきてください。」
 そう言うと、奏都は床に散らばった物を避けながら屋敷の中へと進んでいった。
 「さぁ、どうぞ。」
 着いた先、1つの大きな扉・・・そこが開かれた時、全員は理解した。
 ここが何の場所なのかも・・・。
 「お勧めのスポットねぇ・・・。」
 金蝉が苦々しく呟く。
 奏都は一同をその扉の中に押し込めると、そっと扉を閉めた。


 着替え終わって外に出ると、そこには誰の姿もなかった。
 確かに男性陣がここで待っていたはずなのだが・・・?
 「もなちゃん、他の人は?」
 「お着替えだよ。」
 もなはそう言うと、車に乗るように促した。
 一同はすっかり舞妓さんの姿になっていた。
 綺麗な着物に身を包み、お化粧も綺麗にして・・・髪もかつら、ないし地毛を上げている。
 「それでもな様、これから何をなさるのです?」
 「ん〜っとねぇ、ちょっといーとこに行って、ちょっといー事して、旅館に行くのっ!」
 またもや主語の欠落した台詞だった。
 ・・・しかし、流石に今度ばかりは主語が無いと言う事はないだろう。
 と言うより、そんな最悪な状況は考えたくもない。
 「おや、もなさん達・・意外と早かったんですね。」
 その言葉と共に、バスの扉が開いた。
 そこには袴を着せられた男性陣の姿があった。
 皆一様にぴしっとした服装になっており、新鮮さを与える。
 「うんうん、みんな良い感じだねっ!それじゃぁ奏都ちゃん、お願いねっ!」
 「はいはい。」
 奏都は頷くと、アクセルを踏みしめた。


□いーとこといー事

 着いた場所は、まるで夢の世界だった。
 闇夜に浮かぶ、ライトアップされた桜の木・・・それはあまりにも幻想的で、美しかった。
 風が吹き、はらりと一枚の花びらが舞う。
 そして更に一枚、更に一枚と、桜の花の雨が降る。
 「綺麗・・・。」
 「ね、いーとこでしょ?」
 もなが自慢げに言う。
 確かに、悔しいほどに良い場所だった。
 「それでは皆さん、並んで下さい。」
 奏都がそう言いながら、バスの下から何かを取り出す。
 ・・・カメラだ。
 随分高価そうなソレを、脚立の上に乗せる。
 「みんな、並んで並んで〜!」
 「いー事って、写真を撮る事だったのね・・・。」
 「こーすれば、この一瞬がずっと残るでしょ?」
 満面の笑み。
 思わずこちらも微笑む。
 「みなさん、集まってください!はい、それじゃぁ行きますよ・・・はい、チーズ。」

  カシャ

 「それじゃぁ、もう一枚。はい、笑ってください・・・はい、チーズ。」

  カシャ

 「奏都さんも写りましょう??」
 「そーだよ、写ろ〜!」
 「それじゃぁ、タイマーで撮りましょう。・・・行きますよ・・・。」

 ジー・・・・カシャ

 思い出のページに綴られる、この日の光景。
 けれどそれは色褪せてゆくものでもある。
 時が、淡くぼかしてゆくこの瞬間を・・・せめて永遠に閉じ込めておきたい。
 写真はずっと残る物だから・・・。


■旅館にて

 旅館について直ぐに、一行はまずお風呂へと向かった。
 混浴・・・なわけはなく、男女はキッチリとわかれていたが・・・。

 それでは、ほんの少しだけお風呂場での皆様のセクシー(?)な光景を・・・。


 まずは男湯
 「いっい湯だな〜あははん♪」
 陽気に歌っているのは暁だ。
 湯船の中をバシャバシャと泳ぎまくっている。
 しかもクロール・・・。
 水が飛びまくりだ。
 それに便乗して泳いでいるのはシオンだ。
 しかしこちらは平泳ぎなので、水は飛ばない。
 「・・・おい、ここは風呂場だぞ・・。」
 そう言って頭を抱えるのは金蝉だ。
 「まぁ、仕方ないじゃないですか。」
 人の良い笑顔で身体を洗っているのはまりもだ。
 その隣では身体を洗い終わった風太が・・・今、水の中に飛び込み、猛烈な勢いでバタフライをしている。
 ・・・クロールよりも凄まじい惨状だ。
 「まぁ、元気が良くていーじゃん。」
 ほんの少し、大人の意見を述べた綱だったが・・・その数秒後には子供と化していた。
 「綱・・覚悟っ!」
 ばしゃっと、大人の笑顔に水がかかる。
 暁が両手で水をかけたのだ。
 「・・・あきぃぃぃぃ〜〜〜〜!!??」
 仕返しとばかりに、綱も水を掛け返す。
 「なになに、ボクも混ぜて〜!」
 それに風太も参戦し・・・いつの間にかその真ん中にはシオンがいて、集中攻撃をされている。
 ・・・本当に、何時の間にシオン狙いになったのだろうか。
 「あはは、本当、みんな元気良いなぁ〜。」
 そう言うまりもの横顔に、今度は風太が水をかけた。
 「・・・あはは、本当、みんな、元気良いなぁ〜。」
 心なしかその額には血管が浮いているように見える・・・。
 「なんで風呂入るだけでこんなに騒がしいんだ・・。」
 金蝉は大きなため息をついた。


 そして女湯
 「気持ち良い〜!」
 「温かいですね〜。」
 「やっぱり、露天風呂はいーわねぇ〜。」
 「星が綺麗ですね・・・。」
 そんな声を聞きながら、宴は悶々としていた。
 「とりあえず、宴ちゃんはここで待っててね☆」
 と、もなに笑顔で言われて・・・仕方なくここで待っているのだ。
 ここ=脱衣所で
 なぜ宴が締め出されたのかと言えば・・・無論、言わなくても察する事は出来るだろう。
 一言で言ってしまえば“危険”だからだ。
 それは、女性達が危険なのか、宴が危険なのかは分からないが・・・。
 でも、少しくらい・・・。
 そう思い、そうっとガラス戸に近づく。
 曇っていてそこからでは中は見えないが、少しあければ・・・。
 カラカラカラ・・・
 微かな音を立ててスライドした扉の中から、水が飛び出してきた。
 「宴ちゃんは待っててって言ったでしょ〜。」
 「・・・ハイ。」
 宴は素直に頷くと、扉を閉めた・・・。


 こうしてセクシー(?)な入浴シーンは終わりを告げる・・・。


 部屋では各々が好きな事をしていた。
 暁の鞄から飛び出してくる玩具や食べ物は、少なからず役に立った。
 ・・・事件と聞いて集まった面々のはずなのに・・・。
 「あ、そうだwじゃ〜ん!このパジャマどう?初お披露目〜♪」
 暁がそう言い、オニューのパジャマで話を盛り上げる。
 その少し向こうでは金蝉と翼が、浴衣姿のままで窓を開けて涼んでいた。
 微かに冷たい風が、火照った体には気持ち良い。
 「なんか・・・トランプもいーけどさぁ、もうちょっと楽しい遊びがしたいね〜。」
 「楽しい?」
 「そう、もっと、身体を動かしたりする・・・。」
 「「枕投げ!」」
 暁と美桜の声が合わさる。
 「そうだよ!枕投げ!いーねっ!」
 もながすっくと立ち上がり、ニヤリと微笑んだ。
 「すみませ〜ん、お布団を敷きに参りました〜。」
 ナイスなタイミングで、扉が開く。
 「あ、どうもありがとうござい・・・」
 その場にいた全員がフリーズした。
 三つ指を突いて畏まっているその姿は・・・。
 「「「シオンさんっ!?」」」
 「何してるんですかっ!?」
 「あの、アルバイトを・・・。」
 シオンはそう言うと、テキパキと布団を敷き始めた。
 それにしても無駄のない動きだ・・。
 「なんでアルバイト・・・。」
 こんな所まで来て、わざわざやらなくてはならないほどの事なのだろうか??
 「それでは、また後ほど。」
 それだけ言うとシオンは襖の向こうへと消えて行ってしまった・・・。
 「な・・・なんだったの・・・?」
 「とりあえず、枕も揃った事だし・・・。」
 「レッツ枕投げターイムっ!」
 「敵味方は?」
 「適当に!」
 そう言うと、部屋の中を枕が飛び交い始めた。
 「おやおや・・・元気の良い事で。」
 奏都はそう言うと、枕投げが行われている場所から少し離れた所で腰を下ろした。
 枕投げに参加しない人々は、この隅っこで小さな宴会を開いている。
 「お酒なら沢山あるからね。」
 宴はそう言うと、次々に能力でお酒を沸かし始めた。
 「未成年のお嬢さんには、アルコール度1%未満のものを・・・。」
 薄ピンク色のお酒の入ったグラスを、翼に渡す。
 「ありがとう。」
 翼は礼を言うと、一口だけ口に含んだ。
 甘い香りが口いっぱいに広がり、ほんの少しだけココロを温かくさせる。
 和やかな宴会の隣では、壮絶なバトルが繰り広げられていた。
 投げて取って、避けて投げて投げて・・・。
 そして、まりもは宴会を視界の端に止めながら、そっと思っていた。
 『呑みてぇなぁ・・』と。


□何かが起こる予感・2

 「ついに明日だね。」
 小さく放たれたその言葉は、頼りなさ気に夜の闇に溶けた。
 「そうですね。皆さん、今日もぐっすりとお休みですが・・・。」
 「言っとくけど、今日のこれはあたしのせいじゃないからね??」
 「解ってますよ。みなさんお疲れのようでしたし・・・。」
 「すぐ寝ちゃったもんね〜。」
 クスクスと、小さく微笑む。
 その声の合間には、静かな寝息が聞こえてくる。
 「なにせ“とっびっきりデンジャーでワイルド☆とにかく、トロピカルな依頼”なんだから・・・。」
 すぅっと、瞳を細める。
 唇の端をくいっと持ち上げ、髪の毛を肩から滑らせる。
 「全ては明日のお・た・の・し・み♪」
 「・・・全然楽しくはないと思いますけどね。」
 「でも、みんな依頼で集まってきたんだし・・・ね?」
 クスクスと、笑う。
 その声は静かに闇に溶ける。
 「明日まで、ゆっくりお休みなさい・・・。」


■二日目:大阪

 目が覚めた時、一同は思わず驚いた。
 部屋の隅に作られた、ダンボールの囲い・・・。
 その側面には、蛍光ペンで思いっきり『シオンのお部屋』と書かれている。
 「シオンさん・・・?」
 美桜の呼びかけに、シオンは応えない。
 まるで捨て猫のようにダンボールハウスの中央で丸まって寝ている。
 「・・・シオンさん、朝ごはんですよ。」
 シュラインがそう言った瞬間、シオンががばっと起き上がった。
 そしてキョロキョロと辺りを見回す・・・。
 「・・・何してるんですか・・?」
 「あの・・・なんだか普通のお布団で寝るのが・・・」
 もごもごと口ごもる。
 そんなこんなで二日目はゆるやかにスタートした。


□自由行動は午前中までです

 バスはその日も軽快に街中を走っていた。
 本日は京都から出て、大阪に行く予定だ。
 大阪で1泊して・・そして、明日の夕方には東京に帰る。
 今日が最後の旅行日だった。
 「今日の予定は・・・大阪観光!それで、昼から旅館に行くんだけど・・・そこでね、あたしのスペシャル企画が待ってるからっ☆」
 もなはそう言うと、にっこりと微笑んでトレードマークのツインテールを揺らした。
 遠心力でツインテールがブンブンと宙を切る。
 何度聞いても、その音はしっとりとした重さを含んでいる。
 「スペシャル企画って?」
 「う〜ん・・・ひ・み・つ☆」
 軽くウインクをする。
 ・・・なんだか嫌な予感がする。
 けれどあえてそれは考えない事にした。
 折角の旅行、折角の大阪!
 わぁおっ!素敵っ!!
 ・・・しかし残念ながらそんな気分になれる者は1人もいなかった。


 バスは大阪の繁華街で止まった。
 賑わう街中からは、大阪特有の雰囲気が滲み出していた。
 人々が集まる場所では賑やかな大阪弁が花開いている。
 「俺はやらなくてはならない事があるんで、バスの方にいますが・・皆さんは大阪を満喫してきてくださいね。」
 一行を送り出す時、奏都が笑顔でそう言って手を振った。
 その笑顔がやけに薄っぺらい気がしたのは・・・気のせいと言う事にしておこう。
 「まずは、大阪と言ったらたこ焼きっ!」
 「たっこたこ〜♪」
 暁の言葉に、風太が意味不明な歌を急に歌い出す。
 「美味しいたこ♪嬉しいたこ♪綺麗なたこ♪たっこたこたこ〜たっこたこたこ〜♪」
 それに続いてシオンも歌いだす。
 「正義の味方の登場だぁっ♪」
 「ソレ行け僕らのたっこたこまん♪」
 「いえいえいえい〜うぉぅうぉぅうぉ〜♪」
 ・・・その歌詞には何か意味があるのだろうか・・・。
 シオンと風太が熱唱している横では、まりもがどこか遠くを見つめていた。
 そう、どこか・・・すっごーい遠くを・・・。
 しばらく歩いていると、たこ焼きの屋台があった。
 小麦色に日焼けをした整った顔立ちの男の人が一生懸命たこ焼きを焼いている。
 「金蝉も食べるだろう?」
 「あぁ。」
 翼が買いに行こうとしたのを、金蝉は止めると、自ら買いに行った。
 なんだかんだ言っても、こう言う所で優しいのだ。
 翼はほんの少しだけ、緩んでしまいそうになる頬を引き締めた。
 「ほら。」
 白いビニール袋に入ったたこ焼きを、翼に手渡す。
 「あぁ、ありが・・・って金蝉、2つしか買ってこなかったのか?」
 「・・・そんなに沢山食べるのか・・・?」
 少し呆れたような瞳を向ける金蝉に、翼ははぁっとため息をついた。
 「違う。みんなの分は買ってこなかったのかって聞いてるんだよ。」
 「・・・あぁ、忘れてた。」
 金蝉はあっけらかんとそう言うと、たこ焼きをぱくつき始めた。
 まったく、こう言うところが少し抜けているのだから・・・。
 「俺がまとめて買って来ちゃうよ・・・。」
 暁がそう言い、ジーパンのポケットにねじ込んである財布を取り出した。
 「みんなも食べるっしょ?」
 「うん!食べる〜!」
 「はい!食べますっ!」
 一番元気の良い返事をしたのは・・・風太とシオンだった。
 「あ・・・あの、お金・・・。」
 美桜が言いながら、肩からかけたポシェットの中を漁る。
 「あ、いーよいーよ。俺のおごり☆」
 「え・・でも・・。」
 「俺、こーゆーの得意だから♪」
 暁はそう言って微笑むと、屋台へと駆け出して行った。
 「・・屋台でたこ焼きを買うのが得意なんでしょうか・・。」
 「い・・いや、多分違うと思うわよ。」
 美桜の可愛らしい発言に、思わずシュラインが突っ込む。
 「おにーさん、たこ焼き頂戴〜!」
 「あいよ。」
 「たこ焼き11個ねwってか、おにーさんカッコイイよね〜!俺らね、今日旅行でこっちに来ててね〜・・・。」
 暁と屋台のお兄さんが楽しそうに何かを話している。
 「・・なんか、意気投合しているような気がするんだけど・・。」
 翔子がポツリと呟く。
 確かに、周りから見たら2人は最初からの知り合いのように見える。
 しばらくしてから、暁は両手いっぱいにたこ焼きの袋を持って帰ってきた。
 「値引きしてもらっちゃった挙句、おまけまでしてもらっちゃった☆」
 「・・・あぁ、得意ってこの事ですか・・。」
 納得した様子でコクリと1つだけ頷く。
 「美桜ちゃん、はい、どーぞ。」
 「ありがとう・・・。」
 ふわりと、柔らかく微笑むと美桜はたこ焼きを口の中に放り込んだ。
 温かく、柔らかい。
 「・・・美味しい・・。」
 「本当、美味しい。」
 思わず頬が緩む。
 「・・・ひっく・・・おい・・・美味しい・・・ですっ・・・。」
 振り向いた先、シオンが涙を流しながらたこ焼きをぱくついている。
 ・・・そんなに美味しいのだろうか。
 「やっぱりたこ焼きは美味しいね〜!なにせ正義の味方だからねっ!」
 「・・ハハ、ソーダネ・・・。」
 まりもはぎこちなく頷くと、小さくため息をついた。


 大阪に来たなら行っておいて損はない場所。
 もしそんなランキングがあったならば、多分通天閣は入っているだろう。
 「うわぁ〜綺麗〜!」
 通天閣の展望台から、眼下に広がる大阪の景色を見つめる。
 「本当に・・綺麗だな・・・。」
 暁はそう言うと、ガラスに手をあてた。
 「遠くが少し霞んで見えて・・・淡くって・・・。」
 「そう、まるで可愛いお嬢さんのようだね。」
 美桜の手を取りながら、宴がそう言った。
 しかしその褒め言葉はいまいちだった。
 ・・・霞んで見えて、淡い。それが貴方のようだと言われても、なんだか貴方は全体的に薄いですねと言われているようだ。
 「本当、毎度思うけど・・高いところからこうやって見下ろすと、なんかゴミみたいに見えるよね。」
 もなはそう言うと、綱の腕を取った。
 「ほらほら、綱ちゃんも見て☆ほら、ごみっぽいでしょ〜ww」
 「いや、ごみっぽいって・・それよりさぁ、今日の事件の事だけど・・」
 「あ、あれ嘘。」
 あっさりキッパリぱっさり、もなは切り捨てた。
 綱の頭上に大きくハテナマークが浮かぶ。
 更には点滅し始める。
 そして更に更に回転し始める。
 「・・・え?嘘??」
 「うん。夢幻館食い倒れツアーって書いてあったでしょ?」
 バスの右上にかかっていたアレだ。
 それにしても、食い倒れツアーと言うほどものは食べていないが・・・。
 「そう言う事も、たまにはありますわ。」
 みそのが思わずフォローする。
 が、そのフォローは若干ずれている。
 混乱する綱の肩を、暁がぽんと叩く。
 同情・・・と言うよりは、頬がほんの少し笑っている。
 「え・・・。」
 「あたしが、みんなと旅行に行きたかったから・・・怒った?」
 もなが“かーいらしく”小首をかしげて見せる。
 「いや・・・事件がないなら、それはそれで・・・。」
 「ボクは、楽しかったけどね〜。ほら、色々お土産買えたし・・・。」
 風太はそう言うと、もなに向かって右手を差し出した。
 「誘ってくれてありがとう、もな。」
 もながその右手を取る。
 「来てくれて有難う。」
 「私も、うさぎちゃん達とこんな素敵な旅行に来られて嬉しいよ。」
 宴はそう言うと、ひょいともなを抱き上げた。
 ちびっ子なだけあって随分と軽い。
 「あたしも・・宴ちゃんと旅行が出来て嬉しかったよ。」
 もなはそう言うと、宴に抱きついた。
 ・・・思わず鼻血が噴出しそうになるのを必死で堪える。
 「私もお金がたまりましたし。」
 シオンはそう言うと、一枚の封筒を取り出した。
 京都でのアルバイト分なのだろう。大切に大切に再びポケットにしまう。
 「ここは色々な神様がいらっしゃって、とても充実した日々が過ごせましたわ。」
 みそのがそう言い、にっこりともなに微笑んだ。
 「僕も楽しかったよ。」
 「ありがとうw」
 もなはつっと宴から降りると、まりもの手をとった。
 「何だかんだ言って、結構ゆっくり出来たしね。」
 「・・まぁな。」
 翼の言葉に、金蝉が渋々ながらも頷く。
 まったく、素直じゃないんだから。
 翼はそう思うと、ほんの少しだけ微笑んだ。
 「確かに・・楽しかったわ。結構羽休めもできたし。」
 「特別大きな問題も起きなかったしね。」
 翔子とシュラインが顔を見合わせて、ほっとした笑顔を見せた。
 「俺ももなちゃんと遊べて楽しかったよ。また機会があったら来ようねw」
 暁の言葉に、もなが抱きつく。
 「ありがとう暁ちゃん!」
 「私・・こんなに大勢の人と一緒に旅行した事がなくて・・・すっごく、楽しかった・・・。」
 美桜が恥ずかしそうにそう言い、にっこりと満面の笑みを見せる。
 「ありがとう、呼んでくれて。」
 「美桜ちゃん・・・ありがとう☆あたしも、美桜ちゃんと一緒に遊べて楽しかったよw」
 もなが笑顔で美桜の手を取る。
 「綱ちゃんも、ありがとう。・・・騙してて、ゴメンネ??」
 本当にすまなそうに謝るもなの頭を、綱はぽんと撫ぜた。
 「俺も何だかんだで楽しかったからな〜。」
 和やかな雰囲気が通天閣内に流れる。
 「・・・ありがとう!みんな、大好きっ☆」
 もながそう言ってみんなに飛びついた時・・・その背後からすっと近寄る影があった。
 「なんだかもう旅行が終わりのような雰囲気ですが・・・まだまだ続きますよ〜。」
 ゆっくりとした足取りで、相変わらず薄っぺらい微笑を浮かべながら近づいてくるのは奏都だ。
 「あれ?奏都さん・・?」
 「みなさんが遅いのでお迎えにあがりました。」
 時計を見ると、既に12時を過ぎている。
 「あ、いっけない・・・みんな、バスに乗って☆」
 もなの言葉で、一行は天守閣を後にした。
 そして・・・それが楽しい時間の終わりだった。


■とっびっきりデンジャーでワイルド☆でトロピカルな事件

 バスはどこかへ向けて走っていた。
 なんだか悶々とする車内。
 そして何故だか感じる嫌な予感。
 それは、奏都の薄っぺらい笑顔からも感じるし、もなの満面の笑みからも感じた。
 なんか・・・ありそうな・・・。
 バスは閑静な住宅街を抜けていく。
 車内の会話は段々と少なくなり、最後は無言で皆が窓の外の風景を見つめていた。
 「もーすぐで着くからね〜☆」
 「ねぇ、もなちゃん・・これ、どこに向かってるの?」
 「旅館だよ。」
 シュラインの問いに、えらくあっさりともなは答えた。
 なんだ、旅館に行くのか。
 ほっとしたのもつかの間、もなが艶っぽい微笑で一同を見つめた。
 「ねぇ、今回・・・なんでここにみんなが集まったのか、覚えてる?」
 ゾク・・・
 背筋が凍る。
 「なんでって、食い倒れツアーでしょう?」
 風太の答えに、もなはにっこりと微笑んだ。
 「そーだけどぉ、あたし・・なんて皆に連絡入れたっけ?」
 「事件があるって。」
 「そーww」
 綱の言葉に、もなはこくりと頷いた。
 「でもそれは・・さっきも言ってたけど、嘘で・・本当はみんなと旅行したいだけだったって・・。」
 そう、もな自身が天守閣で言っていたではないか。
 「そーだったっけぇ・・・?」
 瞳を細めて、もなは一人一人の顔を見つめた。
 ・・・なんだか嫌な予感がする。
 なんだかとっても嫌な予感がする・・・。
 「着きましたよ。紅翆旅館です。」
 奏都の言葉に、何人かは全てを悟った。
 紅翆旅館・・・それは、心霊スポットとして有名な・・・。
 「さぁ、これからが今回の旅の目的!とびっきりデンジャーでワイルド☆とにかくトロピカルな事件を解決しに行きましょう〜!」
 元気良くもなが言った瞬間、奏都がバスの扉を開けた。
 そこから感じる・・・気配気配気配・・・。
 「今回は成仏できない霊さん達に沢山集まっていただきました!さぁ、みなさんで力をあわせて霊さん達を成仏させてあげましょう!」
 やけに説明的な言葉に、思わず力が抜ける。
 窓の外から見える、霊霊霊霊霊・・・・。
 それは順序良く一列に並んで待機していた。
 「ちなみに、実力行使は不可だからねw」
 楽しかった旅行は、一気にお仕事へと変わってしまった。
 しかも結構忍耐力を必要とする・・・。


□帰りの車内で・・・

 帰りのバスの中は静かだった。
 小さな寝息以外は、バスが風を切る音しか聞こえなかった。
 「みなさん、よく寝てらっしゃいますね。」
 「そりゃぁね〜。徹夜で霊達の相手してたんだもの。疲れるって。」
 「まったく・・・。」
 奏都は呆れたようにため息をつくと、ミラー越しに車内の様子をうかがった。
 「最後の最後でどんでん返しがあるって、結構おもしろいじゃない。」
 「それは貴方だけです。」
 ピシャリと、言い放つ。
 しかしもなは全然その言葉を気にした風でもなく、とてとてと奏都の側から離れて寝入っている一同のもとへと歩んだ。
 「・・ごめんね、でも、楽しかったよ。ありがとう・・・大好きっ。」
 そう言うと、もなは・・・。


 ●後日談

 「郵便です〜。」
 シュラインは、小包を受け取ると、扉を閉めた。
 誰からだろう?
 宛名は・・・片桐 もなとなっている。
 ふっとよぎる、あの時の思い出・・・。
 ・・・思わず視線が明後日の方向を向いてしまう。
 それにしても、なんだろう。
 シュラインはそう思うと、小包を開いた。
 それはアルバムだった。
 真っ白な表紙には中央に大きな桜の絵が描かれてある。
 ぺらりと裏返すと、【Forever】と金色の文字で書かれている。
 永遠に・・・。
 シュラインは、そっとアルバムを開いた。
 袴と舞妓さんの姿で桜の下で撮った時の写真。
 枕投げ大会の時の写真。
 通天閣での写真。
 何時の間にこんなに沢山撮ったのだろうか?
 シュラインは思わず微笑んだ。
 その時、ハラリと何かが落ちた。
 裏返しになった・・・写真?
 貼り忘れた物だろうか?
 しゃがんで、拾い上げる。
 ペラリと・・表に返す。
 「・・・何時の間に・・・。」
 そこにはすやすやと眠るシュラインの寝顔が写し出されていた。
 そして、写真の右隅には独特の丸い文字でこう書かれていた。

  『ありがとう』


     〈END〉


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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  4782/桐生 暁/男性/17歳/高校生アルバイター、トランスのギター担当

  1388/海原 みその/女性/13歳/深淵の巫女

  3974/火宮 翔子/女性/23歳/ハンター

  2164/三春 風太/男性/17歳/高校生

  4691/水野(仮) まりも/男性/15歳/MAMAP所属アイドル

  2863/蒼王 翼/女性/16歳/F1レーサー 闇の皇女

  2916/桜塚 金蝉/男性/21歳/陰陽師

  1761/渡辺 綱/男性/16歳/神明高校二年生(渡辺家当主)

  0413/神崎 美桜/女性/17歳/高校生

  3356/シオン レ ハイ/男性/42歳/びんぼーにん+高校生?+α

  4648/狩野 宴/女性/80歳/博士/講師

  0086/シュライン エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員


  NPC/片桐 もな/女性/16歳/現実世界の案内人兼ガンナー
NPC/沖坂 奏都/男性/23歳/夢幻館の支配人


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 ■         ライター通信          ■
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 この度は『京都大阪旅行記』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。

  この度はこちらの諸事情により、納品が大変遅れまして、心よりお詫び申し上げます。


    シュライン エマ様

  プレイング重視の形で今回は執筆いたしましたが・・・。
  如何でしたでしょうか??
  流れ的にはほとんどがコメディーでしたが・・・少しでも楽しんで読んでいただけたらと思います。 


  それでは、またどこかでお逢いいたしましたらよろしくお願いいたします。