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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


快楽の宴


「ねぇねぇカスミ先生」
カスミの後ろから明るい声がかけられた。
そこに立っていたのは草薙和葉。
この春から神聖都学園に赴任してきた新米の教師である。
だが。
カスミは和葉がこの上なく苦手だった。
というのも。
和葉はのっけから言った。
「資料館の中に夕方にしか現れない扉の存在って御存知ですか?」
これなのである。
カスミは怒ったように和葉に反論した。
「そんな変な扉があるわけないでしょう!」
「でも既に生徒の間では広まってますよ。」
和葉はにっこり笑った。
「それでその扉に入ると中には亡霊がいて、入った者の心の一部を食べてその者に入れ替わってこの世に戻ろうとするらしいんですって。」
「もう、いやあああ。」
カスミはとうとう泣き出してしまった。
そしてぐずぐずと言う。
「和葉さんはすぐにそんな怖いことをいうから、そのうち私学校に来られなくなってしまうわ。」
そんなカスミに和葉はため息をついた。
「あのさぁ、私達教員なんだから実態をしっかり調べなきゃいけないでしょ。」
言いつつ和葉は実はカスミの反応を楽しんでいただけなのだが。
「ま、いいや。私達で何とか調べるよ。じゃあ、そこのキミよろしく。」
和葉は頭を掻くと職員室の扉に向かって声をかけた。
するとそこからハスキーな声で返事が返ってきた。
「ん、私のことかな?フフ、ご指名いただけるとは光栄だね。美女のためなら何だって協力させていただくよ。」
瞬間。
和葉は思いっきりずざざざざっと後ろに下がっていき飛び出ていた椅子につんのめって後頭部から後ろにひっくり返った。
「ところで、そこで泣いているのは響女史かな?よしよし、大丈夫、何も怖くない怖くない…」
そう言いながら宴はカスミの後ろに回るとそっとその背中をなでた。
そのうちカスミの様子が落ち着いていく。
それを見てから宴は艶やかに笑うとすっ転んだままの和葉に声をかけた。
「どうしたのかね、草薙女史。スカートがまくれているその格好は私にとっては目の保養だけど他の男性が来たら困るんじゃないのかね?」
この言葉に和葉は慌てて態勢を立てなおした。
そして引きつった笑顔で宴に問いかける。
「えーと、もしかして狩野先生が手伝ってくださるのですか?」
「ふふ、美女のためなら私は何でもするよ。草薙女史に同行できるとは有難いね。響女史はようやく落ち着いたことだし、ゆっくりとその資料館の扉とやらを調べてみよう。」
その言葉に和葉は驚いてカスミを見るとカスミはすーすーと眠りに落ちていた。
「は、ははははは。」
和葉は引きつった笑いを立てた。
狩野宴。
この神聖都学園ではかなりの有名人である。
それも・・・・
見た目は青年。女の子が大好き。よく見れば怪しい笑顔を造りの良さで辛うじてカバーリング中。心置きなく同性愛。優しげ変態サディスト。優しげ変質リベラリスト。フェティッシュに好事家、日々狂宴。全くもって懲りることがないというろくな噂の聞かない一応女性。
できれぱ関わりたくない。
だが声をかけたのは自分である。
和葉は気を取りなおすと強かに打ちつけた後頭部を押さえながら立ち上がった。
「そうですね。では狩野先生、よろしくお願いします。」


時刻は5時を回っていた。
夕日が地平線のかなたに沈んでいく。
「夕日が綺麗だねぇ・・・・」
そう言いながら宴は和葉の肩に手を置こうとした。
刹那。
ばしっと青白い光がして和葉の身体に張られていた膜から宴の手が弾き飛ばされた。
「今のは?」
宴の問いに和葉はにっこり笑って答えた。
「防御のために霊気の膜を張っているんです。いつ何が起こるか分かりませんから。」
宴は頭に手を置くとさも残念そうに首を落した。
「そんな、折角の美女を前に触れられないというのかい?私が一体何をしたというのかね?」
「いえいえ、これから何が起こるか分かりませんから安全のためですよ。」
和葉は慰めるように宴の背中をなでた。
霊防膜。
自分から触ることは出来るが人から触られると弾き返す和葉の能力。
和葉は心底溜息をついた。
防御していて間違いはなかったらしい。
心おきなく同性愛、優しげ変態、優しげ変質というのは間違った噂ではなかったらしい。
少なくとも同性愛の対象に見られるのはごめんである。
和葉は心の中で溜息をついた。
ある意味怪物が現れても狩野の方が数倍厄介かもしれない。
宴は資料館の扉を開けた。
夕刻ともあって資料館の中は静かだった。
和葉は目を閉じると気の流れほ感じようとした。
と。
バシッ!!
再び和葉の身体から火花が散った。
「な、何するんですか?狩野先生・・・・」
「いやあ、草薙女史・・・・いや和葉ちゃんがあんまり可愛いから触れたくてつい触れたんだよ。でも今の光の膜何だったんだろうね。」
その言葉に和葉は心底溜息をついた。
日常記憶力は昆虫並みというのも噂どおりのものらしい。
女性の名前は覚えるもののその他のことに関してはすぐに忘却する。
現に今さっきも霊防膜に触れて弾かれたくせに、もうそのことを忘れている。
和葉はにっこり笑って宴に言葉をかけた。
「今から私は資料館の怪しげな場所を探知しますからしばらく触らないで下さいね。」
そう言って再び和葉は神経を集中させた。
と。
「あそこに変な扉があるねぇ。」
宴の声と共に和葉は目を開けた。
「ドンピシャリね。私もあそこの気が乱れているのが感知できたよ。」
「行こうかね、和葉ちゃん。」
「オッケー!!」
走り出した刹那、またもや和葉の背中でばちっと静電気のような音がするのに和葉は溜息をついた。
説明するだけ無駄な気がする。
そしてその後ろで宴の残念そうな呟きが聞こえた。
「どうして私は和葉ちゃんに触れられないのだろう・・・・」
『触れんでいいわいっっ!!』
そう思ったものの。
和葉は口には出さずに走り続けた。


1階に降りると扉は消えかかろうとしていた。
それを和葉は霊気をいっぱいに高めると思いっきりの力でこじあけた。
そして宴と一緒に中へと入りこむ。
中には少女が2人存在していた。
神聖都学園の制服を着た倒れている少女と不思議な着物を着た少女が立っていた。
「あんたは誰だい!!」
すると不思議な着物を着た少女はくすりと笑った。
「私はこの世界を司る者。この子はね、自分が勉強が出来すぎて友達が出来ないのが嫌だって言うから心を食べて差し上げたの。もうすぐ元の世界に戻れるわ。」
「ふざけんな!!」
和葉は怒鳴った。
「心を食べられてまっとうに生きられるわけがないだろう!!」
と。
いつの間にか宴が倒れている少女の側にかがみこんでいた。
そして呟く。
「キミは心を食べて欲しいと願うくらいに辛い思いをしてきたんだね。大丈夫。その心を今から解放してあげるよ。」
宴は眼帯を外した。
辺りが不思議な波長で包まれる。
宴は倒れている少女を抱き上げるとその背中をゆっくりとさすった。
「大丈夫、大丈夫。」
と、世界を司る少女からすうっと1つの霊気の玉のようなものが抜け出した。
そしてその玉が倒れている少女の中に入っていく。
「何をする!!」
世界を司る少女が声を上げた。
その少女に宴はにっこり笑った。
「いやぁ、あなたもとても美しいですね。どうせなら一緒にこの快楽の渦に身を任せませんか?」
そう言って宴は更に左目にパワーを込めた。
世界を司る少女は呆然とし、それから陶酔したように宴の側に寄って来た。
宴は楽しげに笑った。
「フフ・・・・両手に花というのもいいものだねぇ・・・・」
そう言って宴は離れて見守っている和葉に声をかけた。
「和葉ちゃんも一緒にいかがかね?とても楽しい夢が見られるよ。まるでハーレムだ・・・・」
和葉はじりと後ろに下がりながら引きつった笑顔で答えた。
「い、いや遠慮しておくわ。私もまっとうな世界の人間でいたいから・・・・」
言いながら和葉は霊防膜を更に強化する。
それぐらい宴の催眠能力は強かった。
と。
宴に抱きかかえられていた少女が目を覚ました。
そしてぼんやりと宴の顔を見る。
「狩野先生・・・・?」
宴は優しく笑った。
「そうだよ。私はキミを助けたくてここまで来たんだよ。勉強ばかりで友達が出来なくて本当に辛かっただろうね。でも大丈夫。君の心は今でも十分に美しいよ。顔も心も美しいキミが心を食べられようなんて私はとても悲しいよ。さぁ、この快楽の渦に身をまかせよう!!」
辺りが更に光に包まれた。
そしてぼろぼろと世界を司る少女が崩れていく。
「世界が・・・・私の大事な世界が・・・・」
その様子に和葉は頷いた。
「なるほどな。陰の感情で作られたこの世界と陽の感情で作られた狩野先生の世界。相反するものだから陰の世界が耐えられなくなっていったのね。」
少女と共に世界が崩れていく。
「いやあああっっ!!」
世界を司る少女が叫んだ。
その断末魔の悲鳴と共に。

世界は姿を消した。


気がつくとそこは資料館の壁の前だった。
「あれ?あのもう1人の可愛い子ちゃんは?」
宴がきょときょとと辺りを見回す。
和葉は腕組みしながらくすりと笑った。
「消えたよ。あんたの陽の感情にあいつの陰の感情がついていけなくなったんだ。」
すると宴はさも残念そうに叫んだ。
「そんなぁ、せっかく私のハーレムが壊れてしまうなんて何てミスをしたんだろう、私は。」
「は、ははははは・・・・」
和葉は乾いた笑い声をたてた。
どうもヤバい状況だったのを理解してなかったらしい。
和葉は眠っている少女の側に立った。
そして腕を肩に担ぎ上げる。
それに宴が声をあげた。
「その可愛い子ちゃんまでどこかに連れて行ってしまうのかい?和葉ちゃん。」
「寮に送り届けるだけですよ。」
その言葉に宴はぴたりと和葉の側に寄り添った。
「女子寮・・・・いい響きですね。行きましょうか。」
その宴の笑顔に。
和葉は乾いた笑いをたてるしかなかった。


数日後。
和葉がプリントを作っていると椅子の後ろから椅子ごといきなり抱きしめてきた者がいた。
「かーずはちゃん♪」
その顔をみて和葉はすーっと背筋が寒くなった。
そこには例の狩野宴がいた。
「ようやく和葉ちゃんに触れることができたよ。やっぱり女の子は素敵だねぇ。」
その言動に。
和葉はぴきっと青筋を立てた。
そして思いっきり宴にアッパーカットをあびせかけた。
「だーかーら、気安く人に触るなっつーの!!」
「だって和葉ちゃんガード堅いから。」
その言葉に。
和葉は思いっきり溜息をつくしかなかった。


こうしてまた宴の女性騒動の一日が始まっていった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号:4648/PC名:狩野宴/性別:女性/年齢:80歳/職業:博士・講師】

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■         ライター通信          ■
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水沢里穂です。
今回は発注頂き誠にありがとうございました。
最初は宴の設定にものすごく驚いて、おろおろしていたのですが気がつくとギャグキャラになってしまいました。
というか、かっこいい(?)宴でなくて申し訳ないです。
でも書いている方は楽しんでかけました。
気に入ってくださると幸いです。
ではまた機会があればよろしくお願いします。