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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


白鏡


■獣、鏡に宿り害をなすこと

 キィ、と古びた戸が鳴いた。
 黄昏時の明かりを店内に導いた戸は、人の形をした影をもその裡へと抱き込む。
 気配に気づき、店の主が顔を上げた。カウンターから動くことなく、やってきた者へ一瞥を投げて再び視線を落とす。
「君か。丁度良かったよ」
 言いながら、蓮はたった今まで己が見つめていた物にそっと指を伸ばした。白い指が白木の箱の縁を辿り、そして中に収められた品へと静かに触れる。
「仕事を一つ、頼めないか?」
 客を手招くでもなく、蓮はただその品を見つめているままだ。古ぼけたランプの明かりのみが頼りの薄暗い中でも、白木の箱に残された封印の切れ端が目に留まった。
 まだ、新しい。
「品物自体は中世の珍しい物なんだが。少々厄介な事になっていてね」
 前の持ち主は新月の晩、「獣」に喰われたそうだよ。
 まるで歌うかの様に告げた蓮に応えてか、肌に触れる空気が一層冷えた心地になる。曰くつきのその品物を、寧ろ蓮は愛しそうな手つきで取り出した。
「ここに来てからも、新月の晩には騒がしい」
 薄闇に浮かび上がったのは、精巧な細工の手鏡だった。しかし、その表面はタールを流し込んだとでも思える程に黒く沈み、何も映し出しはしない。
「見ての通り、およそ『鏡』の役には立たない。何度直しても同じでね。どうやら、『獣』とやらには出て行ってもらう必要があるみたいなのさ。君、引き受けてくれるかい?」
 ようやく視線を鏡から離し、蓮はこちらを向いて唇を微笑みの形に引き上げた。
「何。この見事な細工を施した枠さえ無事ならそれで良いんだ。後は割れても直せばいい。よろしく頼むよ」
 幸い、新月は二日後だ。
 早く片付いていいじゃないか。
 そう言って、蓮は今度こそ笑った。


■白美の鏡

 丁度良い、と言うよりは時間がない。雨柳凪砂(うりゅう・なぎさ)は軽く眉を寄せて考え込んだ。まず、何をすべきだろうか。
 鏡の処理を依頼された他の面々はいずれも初めて見る顔ぶれであったし、それぞれが思うままに行動する性質を持っているらしかった。事実、平松勇吏(ひらまつ・ゆうり)という名の青年はさっさと「新月の晩に改めて集合」と言い残して立ち去り、紅蘇蘭(ホン・スーラン)と名乗った妖艶な美女は意味深な笑みを残して姿を消した。
 結果、凪砂と共に店に残っているのは、まだこの街に来て日が浅いという青年、陸震(リゥ・ツェン)のみだった。慣れぬ地故にもっと詳しく話を聞きたいという彼と並び、凪砂はカウンターを挟んで蓮と向かい合っている。
「今は封じていなくて大丈夫なのか? これは」
 カウンターに置かれた白木の箱を指差した震へ頷き、蓮は一度は箱の中へ戻した鏡の縁を白い指先でなぞった。年月を経て深みを増した鏡の枠は、鈍く飴色の艶を帯びている。細かな装飾が施されたそれは、その道に詳しくない凪砂が見ても美しいと言えるものだった。
「心配ない。危険なのは新月の晩だけの様だからね。それまではこうやって、見つめていられるという訳さ」
 縁を一周させた指を口元へ当てた蓮は、不思議な笑みを浮かべて凪砂と震とを交互に見やった。
「さて、知っている限りの事なら話せると思うけど?」
「俺は『獣』の存在について聞きたい。何分、慣れぬ地なのでな。モノにも慣れぬ。確かに細工は見事なものだが、一体どうして何も映さぬ鏡と成り果てたものか」
 蓮に変わって鏡に触れ、無造作にだが優雅な手つきでそれを取り上げる。瞳を僅かに細めて感嘆の息をついた震は、凪砂にもよく見えるように鏡を持つ手をずらした。
「あたしも、この鏡がどのような経緯で蓮さんの所へ来たのかが知りたいです。この箱に施されている封印についてもお聞きしたいですし」
 黒く沈んだ鏡の表面を凪砂は見つめた。普通ならばそこに、己の顔が映るはずだ。首にあるグレイプニル共々、存在を見出すことができるはず。だが今は、闇に溶かし込まれた色しか見ることが叶わない。
「そうさね。それじゃ、順を追って話そうか。まずは、鏡の製作時期について。大雑把に中世だとは言ったけれど、もう少し絞ると13世紀頃だろうね。西洋で元々は作られた物だそうだ。日本にいつ流れてきたかは不明。判明している限りでは、最初の持ち主は明治時代にまで遡るよ。当時は、何事もなく、普通に鏡としての用を成していたらしいね」
 それが変わったのは、大正に入った頃あいからだった。
 一度、その辺りでふつりと鏡の消息が絶たれたのである。一説には盗まれたとあり、或いは持ち主の困窮の為に密かに売られたのだとも言う。
 再び記録に現れるのは、その十数年後。その時既に鏡は黒く変色しており、野犬に食われたと思しき女の死骸の傍らに転がった状態で発見された。
いかにも仔細ありげな鏡ではあったが、装飾の美しさ故に古物商が弔いに当たった僧侶に頼み込んで手に入れた事がある寺の記録に残っている。古物商は次の新月の晩に女と同じく野犬に食われて骸となり、やはり弔いにあたった僧侶は白木の箱に鏡を封印した。
 それからである。新月の晩になると、その箱がカタカタと騒ぐ様になった。
 どうやら良くないモノが憑いているらしいと、僧侶は更に厳重な封印を施して経を奉じた。そのまま行けば、いずれは浄化されていたかも知れない。
 しかし戦火に遭って寺は焼け、鏡はまたしても行方をくらましてしまう。
 戦後は持ち手を転々としながら、その肉を喰らって腹を満たしているのである。
「多分、前の持ち主で十何人目かだろうね。犠牲が出る度に黒い鏡は気味が悪いとその時々で法力僧などに封印されてはいるが、しばらくすれば上手い具合にそれを抜け出して獲物を手に入れている。それだけの魅力が、この枠にはあるのさ」
 震が掲げた鏡を指し、蓮は語り終えると唇に淡い笑みを刻んだ。
「獣の姿を見たものはいないのか?」
「あぁ、いない。死骸が全て野犬にでも食われたかの様な状態だったのと、鏡が側に落ちていたことから、どうやら棲んでいるのは獣らしいと言われているだけだ」
「では、獣ではない可能性もあると、そういうことですか?」
 大抵の獣ならば、己が身に宿る魔狼の格には敵わないだろう。獣の上下関係をはっきりさせれば、事は簡単に運ぶはずだ。
 だが、獣でないとすれば。
「まぁ、ゼロとは言えないだろうね。なにせ、はっきり見た人間が生きてない」
「新月の晩まで待て、ということか」
「そう、ですね……」
 震から鏡を受け取り、凪砂は蓮へ視線を投げた。
「これ、あたしが借りて行ってもいいですか? 鏡そのものについて、いくつか調べたいので」
「あぁ、構わないよ。枠にさえ傷がつかないよう、気をつけてくれればね」
 快く承諾した蓮に礼を述べ、凪砂は震と連れ立って店を出た。「新月の晩に」と挨拶を交わして帰路につく。
 鏡は黒く、箱の中でひっそりと息を潜めていた。


■新月の晩に

 日没前、人気の絶えた公園に凪砂が足を運んだ時には、既に勇吏の姿がそこにあった。
「こんばんは」
「あぁ」
 短く挨拶を交わし、残りの二人が到着するのを待つ傍ら、凪砂は二日間の調査結果を思い返していた。
 結局、鏡自体は中世の品であるとの裏づけが取れたのみで、何らかの術具である気配は全くなかった。何物かが潜んでいるのは、偶然の産物であるということだ。鏡に封じられたというよりは、自ら棲みかとして選んだというのが近いだろう。
 となると、追い出すのは容易ではないかも知れない。
「ソレ、割と曰くつきな代物らしいじゃンか」
 ぽつりと勇吏が呟く。凪砂は頷いて、周囲を見回した。
「えぇ。でも、穏便に済ませられるならそうしたいですね」
「……へぇ」
 肩に担いだ木刀を軽く弾ませ、勇吏は笑った。どことなく好戦的なその笑みに、凪砂は穏便には済まないであろう予感を抱く。
 カタリと、箱が鳴った。
「しっかし、ソイツも陰険な野郎だな。コソコソ鏡なんかに隠れてる余裕があるなら姿見せろってんだ。気に喰わねェったら」
 微かな物音を聞きつけてか、勇吏は瞳を眇めて凪砂の抱える箱を見やった。木刀の先で箱を指し、罵詈雑言を浴びせ始める。制止しようとする凪砂の事など、意に介さない。
 カタ、カタ、とそれに反応するかの如く箱が鳴る。
「は! ご立腹ってヤツかよ? んなトコロで何言っても聞こえねェぞ。丁度いーや。明日の粗大ゴミにでも出してやろうか?」
 カタカタカタ。
 はっきりと分かる程に振動が増し、凪砂は慌てて箱を手放そうとした。
だが、それよりも早く勇吏の木刀の切っ先が箱に触れ、凄まじい衝撃と共に箱から何かが飛び出していた。
「きゃ……っ」
「ちッ」
 咄嗟に受身を取って事なきを得た凪砂は、少し離れた場所で同じく構えを取っている勇吏を見やった。箱は見る影も無く大破しており、鏡は見当たらない。
 そして目の前では、狼とも虎ともつかない巨大な獣が毛並みを逆立て、紅く燃える双眸をこちらに向けていた。
「やっと出やがったか。これで面白くなって来たってモンよ」
 にやり、と片頬に挑発的な笑いを浮かべ、勇吏は獣に向かって大きく踏み込んだ。
「まずは――っと!」
「平松さん!」
 外に出たばかりで体勢の整わない獣へ、前足を狙った一撃を繰り出す。話し合いで、と思っていた凪砂が止める間もない特攻だ。
「狩猟本能ってヤツが騒ぐんだよ。コイツと来たら馬鹿みてェにでかくてぶっ叩きやすいしな!」
 文字通り木刀が一閃され、右前足の関節へと過たず打ち込まれる。
 低い唸り声を上げた獣へ、勇吏は更にもう片方の前足へと続けざまに木刀を振るった。
「おや。もう始まっていたのか」
「陸さん! 鏡が……」
「鏡ならここさね。傷もないから安心おし」
 横合いからの声に凪砂は弾かれた様に其方を見た。低い声と艶のある声、双方の持ち主である二つの人影が闇の中から分離する。
 一つは陸震、そしてもう一つは紅蘇蘭であった。
「どうやら、あやつが抜け出たところで鏡に変化はないようだねぇ。陸とやら、これをどうみる?」
「さて。……あの青年の働きぶりを少し見てからですかな」
 震が顎をしゃくった方へと視線を向ければ、剣戟と獣の唸り声が地を這う様に響いてくる。勇吏の声は絶好調としか言いようのない程に高揚感に満ち溢れており、そのまま行けば一人ででも巨大な獣を叩き伏せてしまいそうに思えた。
「っらァ! 図体デカイ分だけ遅ェんだよッ!!」
 凪砂は慌てて戦闘の始まっている場所へ戻った。その後に震と蘇蘭もゆったりと続く。
 軽々と獣の攻撃を躬しては木刀を繰り出す勇吏は全くと言っていい程の無傷で、対する獣の方はあちこちに大小の傷を負っていた。中でも前足の関節付近に傷が多く、ただでさえ俊敏とは言えない獣の動きが更に鈍くなっている。
 ほぅ、と蘇蘭は感心した様に息を吐いた。
「なかなかやるじゃないの、あの小僧」
「案外早くカタが付きそうですな」
「そんな悠長なこと言ってる場合ですかっ。とにかく加勢しないと」
 のんびりと言葉を交わす異国人二人に痺れを切らし、優勢ではあるが傍観してるばかりでもいられないと凪砂は戦場へ飛び出した。
 グレイプニルの制御は無論外しはしない。そのままでも十分、フェンリルの“影”と同化している凪砂には並の人間には遠く及ばない格闘能力が備わっているのだ。
「平松さん加勢しま――」
 それと時を同じくしてだった。勇吏がすぅ、と息を吸い、その直後に獣へ向かって跳躍したのは。
 正に剣の軌跡が閃きとして認知される、それ程の速さで繰り出される斬撃の連打だった。
 思わず足を踏み出しかけたままその場に縫いとめられた凪砂の前で、凄まじいという以外に表現しようのない連撃が続く。荒削りな剣技はその道を極めた者の振るう技の様に舞を舞う様に、とはいかない。だが、見る者の眼を奪う様な煌きが、そこには確かに存在していた。
「ほぉ」
「これは」
 凪砂の背後で口々に感心の声が上がる。その声で我に返り、凪砂は連撃の収まる頃合を見計らって前へと出た。
「……おや?」
「どうされた?」
 ふと、蘇蘭が首を傾げた。視線は手元の鏡に注がれている。どうかしたか、と訝る震へと、蘇蘭は艶やかな仕草で顔を向ける。
「この鏡、はめ込む前に裏に何やら細工をしている様子があるさね」
「――なるほど」
 爪の先で引っかくようにして、蘇蘭は嵌めこまれていた鏡を枠から浮かせた。震にも見えるように手の位置をずらす。
「呪言……らしき者が刻まれている様ですな」
 ふむ、と顎に手を当てて思案顔の震が何かに思い当たった様子で蘇蘭を見たのと、蘇蘭が鏡を元通りにしたのとはほぼ同時だった。
「私にはこの呪言、見覚えがあるのだけれど?」
「俺も、以前どこかで聞いた覚えが」
 二人は同時に、勇吏と凪砂のいる方向へ顔を向けた。
 獣の脇で勇吏が蹲っている。そこへ振り上げられた獣の足を、凪砂が間一髪で防いだところだった。
 何故か、あれほどまでに連打を受けたはずの獣に傷が目立たなくなっている。
 木刀を構え、片膝をついた勇吏は激しい息遣いで呼吸をしている。あれ程のスピードで剣技を繰り出していたのだ、それも無理はない。
「ったく、最近ミョーに犬コロと縁があるぜ……ッ」
 しかも今対峙している方は、叩いても叩いても倒れる気配がない。
「大丈夫ですか!?」
 勇吏に代わって獣と攻防している凪砂が、迎撃の合間にちらりと勇吏を振り返る。その間にも、黒髪がなびいて凪砂の顔を一瞬覆い隠した。
「あァ。ちっとばかし、息すンのに時間食ってるだけだ。それよりソイツ、ちょっとおかしいぞ」
「えぇ。さっきから与えたダメージがかなりの速度で治癒しているようです」
 一刻も早く動ける様にならなければ凪砂の負担が増すばかりだ。木刀を握る手に力を込め、勇吏は両の足で立ち上がった。
「雨柳!」
「小僧」
 二人を呼ぶ声が飛んだのは、その瞬間だった。
 勇吏は居丈高な調子の呼び声に半ばガンを飛ばす勢いで振り向き、凪砂がちらりと視線を流す。
「その獣、いくら攻撃しても無駄だ」
「何だと……ッ!?」
 噛み付かんばかりの勢いで目を向いた勇吏へ、蘇蘭が流し目をくれて微笑した。
「逸るな、小僧。本体はこの鏡よ。その獣と鏡の間に呪言で作られた絆がある限り、ある意味でその獣は不死。――だから、今からその絆を私たちで断つ」
「雨柳と平松は、即座に攻撃できるようにしておいてくれ。おそらく、絆を断った瞬間に獣は鏡へ戻ろうとする」
 前足の一撃を受け止めて後ろへ飛びのき、凪砂は震と蘇蘭へ頷いてみせた。
 続いて反対側へ跳んだ勇吏も、半信半疑ながら了承の意を返す。
「では、蘇蘭どの」
「うむ」
 何かを察知したか、獣が突如、蘇蘭と震を視界に入れた。
 そちらへ跳躍しようと身をたわめたところを間髪入れずに両サイドから凪砂と勇吏の攻撃が見舞う。
「行くよ」
 蘇蘭は爪の先で、今度は一気に鏡を枠から引き剥がす。
 分離された枠はすぐさま震の手中へと手渡された。
「今!」
 ぽた、と蘇蘭の足元に鮮血が丸く滴り落ちる。
 蘇蘭の凛とした合図と、獣の狂おしい咆哮とは同時だった。頭を大きく一振りするなり、猛然と蘇蘭へと突進を開始する。
「破ァ!!」
「やぁ!」
 勇吏がまず跳び、間をおかずに凪砂が跳ぶ。
 二人の姿が交錯したかに見え、擦れ違う様にしてそれぞれが着地する。
 蘇蘭と震の目前で、獣が激しく身をよじり――。一際甲高い咆哮を上げたかと思うと闇へと霧散していた。


■凶鏡、祓えにより白鏡と成る

「終わったか……?」
「うむ」
 誰にともつかない勇吏の呟きに応じ、蘇蘭は胸の前に掲げていた手を上へ向けて広げた。血の滴るその掌には、握りつぶされて粉々になった黒い鏡が乗せられている。
「少々手荒な方法だったけれど、鏡ごと捻り潰してあげたわ」
 そう言って、痛みなど感じていないかの如く笑んだ蘇蘭の唇は血と同じ様に紅い。
「枠はこちらに。もちろん、無傷だ。これは雨柳、あなたが持っているといい」
 震に差し出された枠を受け取り、雨柳はそこに何も嵌っていないことを確認した。枠は震の言う通り無傷である。鏡は新しい物を誂えればいいだろう。
「過激なネーチャンだな」
 木刀を肩に担いだ勇吏の言葉は、十二分に感嘆の意味のこもったものだった。その言を受けて蘇蘭は笑みを艶然としたものへと変じる。
「褒め言葉、有難く受け取っておくとするわ」
「手当てをしましょう、蘇蘭どの」
 手ぶらになった震が、細心の手つきで蘇蘭の手から鏡の破片を取り除く。今はただ黒い破片となったそれを、丁寧に袋へ落とし込む。
「一応、蓮どのへ返した方がいいでしょうな」
「まぁ一応、ね」
 蘇蘭の頷きに頷きを返しながら、震は血まみれの掌に己のそれを重ねた。そうしておいて、そっとその手を撫でるように動かしていく。
 重なっていた手が離れる頃には、蘇蘭の皮膚には傷一つ見当たらなくなっていた。
「どうして、あの鏡と獣の絆を見抜いたんですか?」
 その光景をぼんやりと眺めていた凪砂は、ふと首を傾げた。
 凪砂が調べてもわからなかった事柄だ。何故この二人はあの戦いの場においてその事実に思い当たることが出来たのか。
「大した事じゃないわ。長く生きてると、色々な物を見聞きする。それだけの事さね」
 蘇蘭の言葉に震もまた短く同意する。
 彼らが一体どれほどの時を過ごしてきたのか、凪砂にも勇吏にも、想像だに出来ないことだった。
「ま、何はともあれカタはついたんだ。さっさと引き上げようぜ」
 見上げた先には月はなく、漆黒の空ばかりが広がっていた。




■終幕


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1847/雨柳・凪砂(うりゅう・なぎさ)/女性/24歳/好事家(自称)
4483/平松・勇吏(ひらまつ・ゆうり)/男性/22歳/大学生
0908/紅・蘇蘭(ホン・スーラン)/女性/999歳/骨董店主
5085/陸・震(リゥ・ツェン)/男性/899歳/天仙

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、はじめまして。ライターの神月です。
この度は「白鏡」に参加くださりありがとうございました。
やはり〆切近くの仕上げになってしまったりしつつ……。
今回は初めて参加下さる方が多く、それぞれに大変個性的な方の集まりで、どう配分するかに非常に悩みました。
結果、雨柳さま&平松さまには前線を、紅さま&陸さまには後方でカギとなる支援行動を、という風に振り分けさせていただきました。
後者のお二方は何となく謎っぽい人物に描いてしまいましたが、いい意味でのスパイスになっていればと思います。
ちなみに、今回は全員の方が同じ文章になっております。

それでは、皆様の今後のご活躍を祈って。
またどこかでお会いできれば嬉しく思います。


神月叶 拝