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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


文月堂奇譚 〜刹那の刻 前編〜

●頼み事
「それで僕に何をして欲しいんですか?」
 小さな喫茶店の窓際の席で眼鏡をかけた青年が、何処かの学校の制服であろうブレザーを来た少女と向かい合い話し合っていた。
「あの……。こんな事を云うと司さんに笑われるかもしれないんですが、最近私の家の周りで買い現象が起るって噂が絶えなくてその事を調べてほしいんです。私こういう事頼れるの司さんしかいないし……」
 そう俯きながら少女は目の前にいる青年、冬月司(ふゆつき・つかさ)に話し掛ける。
「なるほど、確かに僕もその話は聞いたことが有ります。まさか雪那ちゃんの家の近くだとは思わなかったけどね」
 そう言って司は一口珈琲を口に運ぶ。
 しばらく考えた後、司は珈琲をテーブルに置くと小さく頷く。
「わかった、僕でよければ手伝うよ。僕もあの事件の後からずっと雪那ちゃんの事は気になっていたしね。元気になって退院できたとはいっても、ね」
 司はそう言って目の前の少女、逢坂雪那(あいさか・ゆきな)に優しく微笑みかけた。
「本当ですか?」
「ああ、本当だ。それで実際にはどういう事が起きているのか教えて見てもらえる?」
「ええっと、なんでも空中で光が踊ってるのを見たとか、そういう事らしいんですけど、あまり皆幻でも見たんだろうって、本気にして無いみたいなんだけど、ああいうことがあった後だから私怖くって……」
「確かにショックだったよね。大丈夫僕もいるし雪那ちゃんが怖がる事は何も無いって」
 司はそう言って雪那の頭を優しく撫でてあげる。
「まぁ、取り合えず僕は今晩、その現場に行って見るから雪那ちゃんは家に帰ってなさい。何か判ったら僕の方から連絡するか
ら」
「はい」
 そう言って二人は立ち上がり喫茶店を出て行った。

●白き炎
 その日の晩、司は雪那に話してもらった現場の近く公園のベンチで、なにか変わりが無いか待つ事にした。
 周りの気配を探りながら様子を探っていた司であったが、反対側の路地の方向から『バシッ!』という何かが弾けるような音が聞こえる。
 司が慌ててその音の聞こえた現場に向かうとそこには確かに白い炎のような物が遠くから見えた。
「あれは……っ!」
 司がその現場に着くとその炎は遠ざかって行き、次第にその輝きは消えた。
「確か……このあたりだったな」
 司が炎の消えた辺りを見渡しているとふと地面に落ちている物が目に入った。
 それは司は昼間自分の目で確かに見ていたバレッタであった。
「これは……、どういう事だ?」
 その落ちていたバレッタを拾い司はその場を後にした。
 翌日司は文月堂を訪れ昨晩あった事を店番をしていた佐伯隆美(さえき・たかみ)に相談をする。
 拾ったバレッタを見せながら、隆美に事情を説明する司。
「僕の記憶に間違いがなければ、このバレッタは雪那ちゃんがつけていたものなんだ」
「雪那ちゃんってあの事件の時の子よね?」
 不安げに隆美が司に聞く。
「ああ、だがあの事件と関係があるかは判らないけどな。取り合えずなんであそこにこのバレッタが落ちていたのか一人じゃどうしても判らなくってな。ただの偶然って可能性もあるけどな」
「確かにね。私も知り合いが来たら話とか聞いて見る事にするわ」
「よろしく頼むよ。それで、昨日は結局寝て無いんだ。奥で寝させてもらっても良いかな?」
「ええ、どうぞ、司さんっていつもそうですよね。ふらっとやってきては」
 笑いながら隆美は司を奥へ案内する。
 文月堂の店内に戻ってきた隆美は小さくため息をつく。
「厄介な事にならなければ良いけど……」

●心配の種
 古書店『文月堂』にていつもの様に錬金術関係の本を読もうと思ってやってきた鹿沼・デルフェス(かぬま・―)は店に入って来た所でいつ元は違う雰囲気で奥から戻って来た佐伯隆美(さえき・たかみ)をみて、デルフェスはつい声を掛けてしまう。
「あれ?隆美様、どうしたのですか?」
「あら、デルフェスさん、いらっしゃい。こんな時間に速いですね」
「ええ、ちょっと時間があったもので、今日は一日こちらで本を色々見ようと思いましてそれよりも隆美さんの方こそどうしました?少し顔色が悪いですよ」
「え?そうですか?」
 隆美は自分でも気が付かない内に少し暗い顔になっていた。
「ええ、なにか心配事があるようでしたらわたくしが話し相手くらいにはなりますわよ」
 しばらくデルフェスの事を見つめていた隆美であったが、小さくため息を一つつくとゆっくり話し始める。
 隆美から事情を聞いたデルフェスは少し考え込む様に顎に手を当てる。
「なるほど……、隆美様はあの時の事件が何か関係あると思っていらっしゃるのですね?」
「ええ、まぁ、私と司はそう見てるんだけどね」
「なるほど……でしたら、こういう事に詳しい人に話を聞いて見てはいかがでしょう?」
「そうね、それはあるかもしれないわね。こういう事になれてそうなのは皇騎君かな、ちょっと連絡して見るわね」
「ええ、それがいいかと……」
 隆美はそう言うと電話の受話器を手にとり手帳を見ながらダイヤルを回す。
『……はい、皇騎ですが』
 受話器の向こうから宮小路皇騎(みやこうじ・こうき)の声が聞こえてくる。
 隆美は電話越しに皇騎に事情を説明すると皇騎は少し考えた後、了承の意を伝えてくる。
『判りました、そういう事でしたら私にも協力できることが有りそうですね。今からそちらに向かいます』
『ええ、お願いするわ』
 そう返答をすると隆美は受話器を下ろした。
「ありがとう。助かったわデルフェスさん」
「いえ、どういたしまして」

●偶然
「今日は隆美さんいらっしゃるでしょうか?」
 そんな事を呟きつつモーリス・ラジアルは文月堂に向かって歩いていた。
 モーリスが文月堂の前にやってきた時に、丁度同じ様に本を探しに来ていた結城二三矢(ゆうき・ふみや)と店の前でばったりと出会う。
「あ、二三矢君も来たのですか」
「ええ、俺は本を探しに来たんですが、モーリスさんは?」
「私ですか?私は隆美さんの笑顔を見に来たんですよ」
 二人が店先で話していると、皇騎が走ってやってくるのが視界に入って来た。
「おや?皇騎さんどうしました?そんなに慌てて……?」
「二三矢君にモーリスさん。お二人も隆美さんあの事で呼ばれたんですか?」
「え?俺は特にそういう訳じゃ…」
「なんですって?皇騎君は隆美さんに呼ばれたんですか?」
 一瞬睨みつけたモーリスの表情に、皇騎は違う違うといったように手を振ると先ほど電話で聞いた事を二人に話す。
「……なるほどそういう事でしたか」
 一瞬ほっとした様な表情を浮かべたモーリスであったがすぐさま表情が引き締まる。
 そこへ三人の背後から声が唐突にかかる。
「あの〜、たいへんそうでちゅね。わたちでよければおてつだいさせていただけまちぇんか?」
 そう言って三人に話し掛けてきたのは幼い外見に黒いコートを着た金髪の少年であった。
「わたちはこうみえてもそういうことにはなれてまちゅし、こうやってしることになったのもうんめいだとおもうでち。そでふりあうのもたしょうのえんともいうでち、きょうりょくさせてくださいでちよ」
 その幼い言葉使いの少年、クラウレス・フィアートに三人とも毒気を抜かれ、まぁいいかという顔になる。
「もうしおくれまちたが、わたくちの名前はくらうれす・ふぃあーとともうちます。よろちくでち。それよりもいそぎのようじだったのならはやくはなしをきいたほうがいいとおもうでちよ」
 クラウレスはそう自己紹介すると外見からは想像もつかない鋭さで三人の事を促す。
「そうですね。まずは細かい話を聞いてから、それからですね」
 皇騎はそう言って文月堂の扉を開けた。

●相談
 文月堂に四人が入ると中には錬金術関連の本を読んでいるデルフェスと隆美が居た。
「あ、皇騎君と、モーリスさんと二三矢君も連れて来てくれたの?ありがとう」
「いえ、丁度文月堂の前で一緒になりまして。それからこのクラウレス君も協力してくれる事になりまして」
 そうクラウレスの事を皇騎は隆美達に紹介する。
「協力してくれるのは助かるわ。私は佐伯隆美というの。この店の店員よ。よろしくお願いするわね、クラウレス君」
 一行はそれぞれ自己紹介をした所で仮眠から目を覚まして司が奥からのそのそとやってくる。
「なんだか随分にぎやかだね……」
「あ、おはよう、よく眠れた?」
 隆美は起きてきた司を何処か茶化すかのように迎える。
「お陰様で良く眠れたよ。所でコレは何の騒ぎだい?」
 司に隆美たちは事情を説明をする。
「なるほど、協力してくれるのは助かるよ。僕と隆美だけじゃちょっと手が足りないかなぁ?と考えていた処だったからね」
「って、私に協力を求められても困るんだけどね。たいした事ができる訳じゃないし」
 隆美が苦笑しながら一行の事を見渡す。
「でもこれだけの人が手伝ってくれるなら、うまくいきそうね」
「そうだね……。問題はどうやるかなんだけど…」
 そこまで司が言うと今まで黙っていたデルフェスが口を挟む。
「その事なのですが、その雪那様という方と一緒にいる人と、現場を見に行く人で動いて見てはどうかと思うのですが…如何でしょうか?」
 そのデルフェスの提案に司も頷く。
「実は僕が考えていたのもソレだったんだよね。僕が現場を隆美が雪那ちゃんについていてあげるってね」
「もしそうするなら俺はこの文月堂に来て貰うのが良いと思うんだけど、どうかな?ここだったら親御さんとかに迷惑をかける事もないし」
 二三矢がそう提案すると皆の事を見渡す。
「確かにそれはあると思いますから、私もそれに賛成します。後はどう配置をするかですが…。私は現場に行ってみようと思います」
 二三矢にいち早く答えたのはモーリスであった。
「それじゃわたちもそのげんばにいってみるでちよ」
 クラウレスも行く事を提案した所で皇騎も自分の意見を述べる。
「それじゃ私は、その事件その物について調べて見る事にします。ひょっとしたら、とは思いますが例の一件が関係してるとも考えられますしね、紗霧さんが居ないのは幸いでした。隆美さん紗霧さんを今日は文月堂には帰らないようにしてもらえませんか?」
「そうね皇騎君の言うとおりかもね。紗霧にはそう伝えておくは」
 隆美は皇騎の提案を聞いて、早速皆から離れ紗霧の携帯に連絡を入れる。
「それじゃわたくしは雪那さんに事情を説明して、文月堂まで来て頂く様に話してまいりますわ」
「そうね、それが良いわね。それじゃデルフェスさんお願いできる?」
「判りました。お任せください、隆美様」
「それじゃ私も一緒にいくよ、直接聞いてみたい事あるからね」
 皇騎も何かしら考えがあるのだろうデルフェスと一緒に行く事になった。
「わたくし達は行ってまいりますね。隆美様、あとの事はよろしくお願いします」
「ええ、わかったわ」
 隆美の返事を確認すると皇騎とデルフェスの二人は文月堂を後にするのであった。

●説明
「それじゃまだ時間はある事ですし、そのバレッタを見せていただけないすか?」
 モーリスが司に話し掛ける。
「ああ、判った。ちょっと待っててくれ」
 司は机の引き出しからハンカチに来るんだバレットを取り出し、テーブルの上においた。
「なるほど、これですか……。これは間違いなく雪那さんの物なんですね?」
「そういえば、なんでこれが雪那さんのものだってわかったんですか?」
 モーリスと二三矢が司に問う。
「ああ、そういえばその日に彼女と会っていたって事は言って無かったか?」
「ええ聞いてないですよ」
「僕はあの事件の後、彼女の事が心配だったんで何回か会っていたんですよ。でその経緯もあって今回の事件について相談を受けていて、その日の晩に現場に居たら、現場にそれが落ちていたって訳です」
「なるほど……、でもそれだけじゃ彼女の物って確証は無いわけですよね?」
「まぁ、そうなんだけどね、勘見たいなものみたいな物だけど、彼女の物だって思ったんだよ」
「ふむ……」
 司の説明にモーリスが考え込むとクラウレスが疑問に思った事を口にする。
「さっきから「あのじけんのあと」っていってるでちがまえになにかあったんでちか?」
 そのクラウレスに質問に隆美が答える。
「ああ、そういえばちゃんと説明していなかったわね。前に私達はとある狂いかけた精霊との事件に巻き込まれた事があるのよ。で、その時に今回の雪那さんも関わっていたのよ。」
 そう言ってクラウレスに隆美は以前の事件の事を説明する。
「なるほど、それであなちゃたちはそのじけんとこんかいのいっけんがかんけいしてるとおもったんでちね?」
「そういう事よ」
 隆美の説明にクラウレスは納得した。
「それじゃちょっと私はそのバレッタを見せていただきますね」
 モーリスがそう言ってバレッタに手を伸ばす。
「ああ、特に変わった事のない普通のバレッタだったよ」
 そのモーリスをみて、司が説明をする。
「見る人間が違えば、見えるところも違いますし、年の為をと思いましてね」
 そう言ってモーリスはバレッタを調べるが司の言った通り特に変わったところは無い様だった。
『やはりただのバレッタの様ですね、これとの因果性は薄い、か……』
 一通りバレッタの事を見るとモーリスはバレッタを元の場所に戻す。
「と、云ってもこう状況が読めないんじゃ意見も出ないですよね」
「そうですよね。こういうときはやすむのがいいでちよ。これからうごくことをかんがえれば、やすんでおくのもひつようでち」
 クラウレスのその言葉に隆美が答える。
「そうね、クラウレス君の言う通りね、それじゃ何か飲み物でも入れてくるわ」
 そう言って立ち上がる隆美にクラウレスが声をかける。
「あ、わたちもてつだうでちよ」
 そう言って隆美の後についていくクラウレスであった。
 奥にある台所にて珈琲を煎れている隆美に小声でクラウレスが話し掛ける。
「あの……、なにかあまいものないでちか?」
「甘い物?」
「ちょっとりゆうがあってあまいものをとりたいのでちよ」
 その言葉に何かあるんだな、と感じた隆美はしばらく考えると冷蔵庫からチーズケーキを取り出す。
「これ、一つしかないから皆には内緒ね?」
 そう言って、そのチーズケーキをクラウレスにあげるのであった。

●訪問
 そしてその頃雪那の家に向かったデルフェスと皇騎の二人は、雪那の家の前まで来ていた、呼び鈴を押ししばらく待つとワンピースに身を包んだ雪那本人が玄関から出てくる。
「どうもお久しぶりです。と云っても私たちの事を覚えているかは判らないですけど」
 皇騎のその説明に最初は不思議そうな顔をした雪那であったが、ようやく言いたい事を理解したのか深々とお辞儀をする。
「その節はお世話になりました。あのひょっとして司さんから何か?」
「ええ、司様から少し言伝を頼まれまして」
 デルフェスが雪那の疑問に答えている間に皇騎は雪那の事を観察していた。
『特に後遺症とかの霊的なものは感じない、か……。けど念には念を入れる必要が有りますしね』
 皇騎は雪那からは見えないように後ろ手で印を組むと、雪那にそっと霊的な探知機を雪那の身体に纏わせる。
『こうしておけば、大丈夫ですかね』
 皇騎がそうしている間にデルフェスと雪那の話は終わっていたようだった。
「雪那様も納得した様で、これから文月堂に行く準備をしてくるそうです」
 そう言って、再び家の中に戻っていく雪那を見ながらデルフェスが皇騎に説明をする。
「そうか、で彼女に何か変わった点とかはあった?」
「いえ、話している限りでは特にそういう事は感じませんでした。文月堂へ向かう間にももう少し色々聞いてみようとは思いますけど」
「そうか、私も特に何かこれと言ったものは感じなかった。後遺症とかそういう事ではないといいんだけど……」
「そうだといいですわね」
 デルフェスは願うかのようにそう呟くと、雪那の消えて行った扉を見つめる。
 しばらくして、ボストンバッグに身の回りの物を入れて戻って来た雪那が姿を見せる。
「お母さんには今日は友達の所で泊りがけで勉強してくる事になってるって説明してきたから……」
「そういう事なら大丈夫そうですね」
 案外しっかりしてるもんだと皇騎は思う。
「それじゃよろしくお願いします」
 二人を見てあらためて雪奈は頭を下げるのであった。

●雪那
 文月堂への帰り道、デルフェスは疑問に思っていた事をいくつか雪那に質問していた。
「雪那様は先日バレッタをなくされませんでした?」
「え?どうしてそれを知っているんですか?」
 驚いた表情でデルフェスを見つめる雪那を見てデルフェスは不思議に思う。
『もし雪那様が現場でアレを落としたというのなら隠そうとするはず……、素直に認めるのは何かあるのかしら?』
 そんな風にデルフェスが考えていると、雪那の方から話し掛けてくる。
「あのバレッタは凄くお気に入りだったんですけど、気が付いたらいつの間にか何処かに落としちゃってたみたいでずっと探していたんですよ」
「あの、つかぬ事をお伺いしますが、そのバレッタを落とされたのは司様と会われた日の夜、で宜しいのですか?」
「ええ、そうです」
「その日の晩、不審な人物に襲われた、とかそういう事は…?」
「いえ、全然そんな事はありませんけど……どうしたんですか?」
 その不思議そうに聞き返す雪那を見てデルフェスはますます判らなくなる。
「いえ……どうして失くされたのかと思いまして……」
 犯人が雪那であるのではないか?という言葉を飲み込み、違う質問をデルフェスはする。
 雪那は顎に人差し指を当てて一生懸命何かを思い出そうとするように考え込むが、しばらくして照れ笑いを浮かべる。
「それがどうしても思い出せないんですよ。今朝も学校に行く前に早起きしてゆっくり昨日行った所探したんだけど、見つからなくって……」
「そうなのですか……」
 デルフェスはこれ以上は皆と相談してからに良いだろうと思い口をつぐんだ。
 二人の前に文月堂は目の前に来ていた。

●現場
 文月堂に戻って来たデルフェスと雪那を出迎えた一行は日も暮れた事も有り、当初の予定通り現場に向かう組と文月堂にて雪那といる組に分かれる事になった。
「それじゃそろそろ出かける準備をしますか」
 モーリスが立ち上がり、クラウレスと司の事を促す。
「もうそんなじかんでちか?たちかにはやくいってしらべるのはいいとおもうでちよ」」
 クラウレスがモーリスの案に賛成をする。
「それじゃ行きますか。隆美さん雪那さんの事お願いしますね」
「ええ、みんなも気をつけてね?」
「わたちたちをしんぢてまっていてくだちゃい」
「では行ってきますね」
 三者三様の挨拶をし、三人は文月堂を出ていった。
 しばらく歩き昨晩、司が炎を見た場所へ三人はたどり着く。
「ここでちか……。そのほのおのみえたばしょというのは…、まだあらわれていないようでちね」
 そう言ってクラウレスは周囲を確かめる。
「そうですね……。今の所異変は内容に感じられます。さてこれからどうしますか……」
 モーリスも周囲を確かめながらクラウレスに答える。
「それについてわたちにあいであがあるのでちが」
 クラウレスが自分の考えていた案を二人に話す。
「こうやってひとつにかたまってみはっていてもしかたないとおもうでちゅよ。だからおもてでみはるひととかくれてみはるひとでわかれるといいとおもうでちゅ」
 クラウレスの案に二人はなるほど、と頷く。
「確かにそれはいいアイデアですね。それでいきましょう」
 辺りを見ていた司がクラウレスの案に賛成をする。
「わたしはからだがちいさいのでかくれるのにむいているとおもうでち。だからかくれるやくはわたちがむいてるとおもうでち」
 クラウレスはそう言って自ら名乗り出る。
「なるほど、そうですね。それで私もいいと思いますよ。それから、一つ気にかかっている事があるのですが」
 モーリスがクラウレスの提案に賛成しつつ皆に話しにくそうに切り出す。
「それは……ひょっとしてゆきなさんのことでちゅか?」
「クラウレス君も同じに感じていましたか」
 モーリスの言葉にクラウレスが頷く。
「皆意見は一致しているみたいですね。僕もあまり考えたくはないけれど、そう考えていました」
 司も二人の言わんとしている事を判っていると話す。
「でもだからと言ってどうします?」
 モーリスが自分達の考えている通り炎の正体が雪那であるならここには現れないかもしれないと思い皆に問う。
「じかんをきめてどこかでみきりをつけるしかないのではないでちゅか?」
「それはいいかもしれないですね、判りました。十一時までここで見張っていて、特に何も無かったら振ったりは文月堂まで戻ってください、その後は僕がここで一人で見張りますから」
 司がクラウレスの提案に修正を加えて決着をつけそれぞれが配置につく事になった。

●文月堂にて
 その頃、結界の張られた文月堂では雪那と一緒にデルフェス、二三矢、隆美の三人が待機していた。
 待っている間にデルフェスは隆美に協力してもらい、そっと雪那の魔力を確かめたりもしたが特に普通の人間と変わった所はなくいたって普通の人間であると云う事が判っただけであった。
「それでこのバレッタは雪那さんのもので間違いないんですね?」
 念を押す様に雪那に二三矢は確認する。
「ええ、間違いないです」
 ぎゅっとバレッタを抱きしめている雪那を見て皆がほっとした気持ちになる。
 雪那が文月堂にやってくる前に二三矢は、今回の現象がポルターガイスト現象なのではないか?と思い隆美に女の子同士何か心配事があるようなら相談に乗ってあげてもらえないか?と話していた為に、隆美とデルフェスがそれとなく雪那に最近何か心配な事がないか?と云う事を聞いたりもして見たが特にはないという事でが判っただけであった。
 そしてそうこうしている内に雪那の家の周りで彼女についての事などを聞いて来ていた皇騎が文月堂に戻って来た。
「どうにもこうにも何の手がかりも無しです。特に雪那さんに関する事で変な噂とかは無かったですね」
 雪那に聞こえない様に小声で他の人間に皇騎は説明する。
「と、なると後は現場に行った司さん達が頼りという事になりますね」
 二三矢が万策尽きたといった様子で時計を見る。
 丁度時計は十一時を指した所であった。
 それからしばらくして文月堂の前で物音がした。
 雪那が弾かれる様に外へ向かっていった。
 文月堂の前にはモーリスとクラウレスが戻ってきていたが二人とも落胆の色を隠していなかった。
「あの……どうだったんですか?」
 雪那は二人にどうだったのかを聞く。
 雪那に続いて文月堂の中にいた面々も外に出てくる。
「向こうはどうだったんですか?」
「わたくし達の方は全然変わった事は起らなかったのですが、モーリス様たちの方はいかがでした?」
 二三矢が向こうがどうなったのかを質問しデルフェスが自分達がどうだったのかを話し始める。
 モーリスとクラウレスは矢継ぎ早に口にされる言葉に少し待ってくれと制してから話し始める。
「どうもこうも、何も起きませんでしたよ。今は司さんが引き続いて様子見してますが…」
 口にし難そうにモーリスが説明をする。
「わたちたちがさんにんでしっかり見張っていたのでみおとしはないとおもうのでちゅよ」
 自らは闇に溶け込む事で、周囲に見られることなく見張っていたクラウレスがその時の様子を説明をする。
 しかし言葉使いが何処かたどたどしい為に、異様に手間がかかってしまうのは仕方ないだろう。
 そうこうしている内に雪那のしている腕時計が午前零時を指し示したその時であった。
 雪那が急に笑い始める。
「くすくす……、ありがとう結界から出してくれて。ようやく私を『表』に出してくれて……」
 そう笑いながら話す雪那の口調は今までのものとは明らかに違っていた。
「やはりあなたがはんにんでちたか!!」
 クラウレスがモーリスと共に身構える。
「雪那さんに何をしました?事と次第によっては……」
 皇騎と二三矢も驚きを隠せないといった様子であったが身構える。
「雪那?違うわ私は刹那(せつな)よ。雪那とは違うもう一人の私。でも私が出てくる事ができたのはあの力のお陰だけどね」
 そう話す雪那を見てデルフェスは皆に叫ぶ。
「雪那様から特別な力は感じられません、雪那様本人がああなったとしか思えません」
 デルフェスのその言葉に皆の動きが一瞬止まる。
「そうよ、私はもう一人の私だと言ったでしょ?雪那は私であり私は雪那なのよ」
 そういいながら刹那は隆美にそっと手をあてる。
 刹那の手の先から白い輝きがほとばしると二人はくず落ちる。
「隆美さんっ!」
 一瞬皆が隆美に気を取られた瞬間、隆美のいた所をすり抜け刹那は駆け抜けていた。
「でもそろそろ雪那と私の立場が変わっていい頃だと思うの、だって私も雪那だから」
 そう言いながら一瞬皆に見せた刹那の表情は何処か寂しげであった。
 そして刹那の姿はそのまま闇に消えていった。

●刹那
 刹那の消えて行った闇の中を一行は見守るしかできなかった。
 そこへ司が戻ってくる。
「やっぱりわたちたちのよそうどおりだったでちゅよ」
 クラウレスが自分達の予想があっていた事を悔しそうに話す。
「やっぱりそうだったんですか。雪那さんに何か取り付いていたとか?」
 司が皆に説明を求める。
「雪那様は自分の事を『刹那』と名乗っておりました。私は雪那様の身体から特別な魔力などは感じる事はできなかったので考えられる事は雪那様の中にもう一人の人格ができてしまったとしか…」
「彼女の中にこうしたいと思っていた彼女がいて『刹那』って人格を生み出してしまったって事なのかな?」
「そういう事かもしれないですね…」
 二三矢が自分が考えていた事が当り、モーリスも自らが『癒す』存在であるのに気づききれなかった事に揃って悔しがる。
「問題はこれから彼女をどうするか、よね。二重人格と云う事なら無理に直すと言う訳にもいかないと思うし…」
 隆美が今後の事をどうするか皆に問う。
「そうですね、下手な事をすれば雪那さんがどうにかなる可能性も有りますし。それに新しい人格というものは子供みたいなものですから無理やりというのは私もどうかと思います」
 隆美の心配をモーリスが明確に代弁する。
「でもとにかくかのじょのことをさがすのがせんけつでちゅよね」
 クラウレスはどうやって探すかをすぐに思案し始める。
「その点なら大丈夫です。私が探索するための印を彼女に纏わせておきましたので、魔力を感じられるなら見つける事はできると思います」
「とりあえず、皆一端休みましょう。どうするかはこれから対策を練ってもなんとかなると思うし」
 隆美が皆にそう促し一度文月堂に皆戻って行く。
 刹那の浮かべた寂しそうな笑みが皆の脳裏から離れる事は無かった


To Be Continued...


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■ 鹿沼・デルフェス
整理番号:2181 性別:女 年齢:463
職業:アンティークショップ・レンの店員

■ 宮小路・皇騎
整理番号:0461 性別:男 年齢:20
職業:大学生(財閥御曹司・陰陽師)

■ クラウレス・フィアート
整理番号:4984 性別:男 年齢:102
職業:【生業】奇術師 【本業】暗黒騎士

■ モーリス・ラジアル
整理番号:2318 性別:男 年齢:527
職業:ガードナー・医師・調和者

■ 結城・二三矢
整理番号:1247 性別:男 年齢:15
職業:神聖都学園高等部学生

≪NPC≫
■ 佐伯・隆美
職業:大学生兼古本屋

■ 冬月・司
職業:フリーライター

■ 逢坂・雪那
職業:高校生

■ 逢坂・刹那
職業:???


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■         ライター通信          ■
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 どうもこんにちは、もしくは初めましてライターの藤杜錬です
 この度は『刹那の刻』に御参加いただきありがとうございます。
 今回の依頼はプレイングの結果連続物となりました。
 タイトルの『刹那(せつな)』はNPCの『雪那(ゆきな)』の読み替えの変換というヒントを出していたので、刹那の時間という意味で、二重人格というヒントだったのですがそこをついてきた人がいなかったのでこういう結果となりました。
 次の後編が解決編となります。
 もし宜しければご参加ください。

●鹿沼デルフェス様
 いつもご参加ありがとうございます。
 今回はこの様になりました。
 事件そのものはまだ解決しておりませんが、如何だったでしょうか?
 方向性としては合っていましたが、あと一歩という感じでした。
 楽しんでいただけたら幸いです。

●宮小路皇騎様
 いつもご参加ありがとうございます。
 今回はこの様になりました。
 事件そのものはまだ解決しておりませんが、如何だったでしょうか?
 次回の後編は今回掛けて頂いた『印』が役に立つ事になると思います。

●クラウレス・フィアート様
 初めてのご依頼ありがとうございます。
 キャラクター的に結構奥が深そうな感じでしたので、うまく描けてるか心配ではあるのですが、如何だったでしょうか?
 かなりプレイングの方向性はあっていたので、状況さえ整っていたら、と思いました。
 プレイングの書き方ですが、プレイングの書き方を参考にしていただけた様で嬉しかったです。
 あれはあくまでも一例ですので、今後もっと自分にあった書き方が見つかると良いですね、主旨さえ伝わっていればいいと思うので、これから頑張ってください。
 楽しんでいただけたら幸いです。
 もし宜しければ後編もお願いいたします。

●モーリス・ラジアル様
 いつもご参加ありがとうございます。
 今回はこの様になりました。
 事件そのものはまだ解決しておりませんが、如何だったでしょうか?
 楽しんでいただけたら幸いです。

●結城二三矢様
 いつもご参加ありがとうございます。
 今回はこの様になりました。
 事件そのものはまだ解決しておりませんが、如何だったでしょうか?
 着眼点は良かったのですが、あと一歩でした。
 楽しんでいただけたら幸いです。

 全体的にあと一歩だっただけに少し残念ではありますが、解決は後編に持ち越しという事になりました。
 続編は5月中旬までには出す予定でいます。
 異界『文月堂』にて告知をしますので、そちらも確認していただけたら幸いです。
 皆様に何か残すことができれば幸いです。
 それでは皆様、本当にご参加ありがとうございました。

2005.04.11.
Written by Ren Fujimori