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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


エイプリルフールの怪物

●プロローグ

「ええ、エイプリルフールの怪物よ」

 今日の話題は怪物ときたか。
 それにしても編集長・碇麗香の話はいつも唐突だと思う。
 ‥‥いや、いつも怪談や怪物なんて言ってるかもしれないけれど。
「怪物って、あの大きくて恐ろしいお化けですよね」
 アトラス編集部に遊びに来ていた剣の女神の巫女、鶴来理沙は小声で尋ねた。
「そうねえ。この怪物って言うのがそういう明確な姿を持っているとは言い難いから」
「えーと、というと‥‥」
「ズバリ! 自分のついたウソが真実になって怪物として襲いかかってくるのよ」
「ひえぇ〜!?」
 悪い予感がする。
 逃げろと理沙の脳裏で警戒シグナルがなり始めている。
「この怪物たちが上野美術館の地下に隠されて《真実倉庫》を襲撃するらしいのよ。そこの警備を兼ねて取材してきてちょうだい。」
 時すでに遅しだった。
 諦めの境地で質問する理沙。
「でも、警備するってなにをですか?」
「怪物たちは《真実倉庫》の奥に眠る、真見の鏡(まことみのかがみ)とそれに憑いた精霊を狙っているそうよ」
 もう引き受けたものとして話は進められていた。
 私一人では不安なのでまたお手伝いしてくれる人を募集しないと。

 その時、麗香が珍しい発言をした。
「今回は私も現場に出てみようかしら」
「え?」
「だって私の嘘がどんな怪物になるか見てみたいじゃない。フフフ、今から楽しみね――」
 麗香さん、心の底からワクワクしてる。
 あの、麗香さん‥‥それは趣味ですか、それともお仕事ですか‥‥? しくしく‥‥。


●エイプリルフールの怪物


 上野美術館の地下深くに存在する《真実倉庫》。

 その中で天仙―― 陸 震(リゥ・ツェン) は襲撃者を待ち構えた。
 仙人とは、古来より空を飛び、不老不死で、様々な方術・仙術を使いこなし、鬼神をも使役する存在として知られている。其の中でも最高位に属するものを天仙と云う。
 《真実倉庫》はかなりの空間を有していて、この場で戦闘を行うには充分な広さだといえるだろう。夜には照明も落ち一面が闇と化して、ところどころで光るオレンジの照明だけが唯一の灯りだ。そんな一角に《真見の鏡》は安置されていた。
 ――――厳重な封印結界を幾重にもかけられて。
「大した警戒ぶりだな。ここまで結界が張られているとは予想外だ」
「ええ、だって《真見の鏡》といえば裏の世界じゃちょっとは名の知れたお宝よ。表の世界に出せたら国宝級に指定されても不思議ではないわね。ま、仮定の話がむなしいのはどこの世界でも常識だけど」
 碇麗香の呟きに震は泰然と答える。
「此れも昔の数多ある《宝貝(パオペイ)》の一種では――危険であるならば封じなければと考える所存だが」
「そうねえ‥‥詳細については、いくつか推論は立てられるけど、やっぱり推論でしかないから無意味でしょう。論より証拠、まずは怪物退治が優先して、そこから正体を見極めましょう? 怪物退治の専門家なんでしょ。護衛の方は期待してるわよ」
「俺の専門は怪物というよりは、正確に述べるなら妖魔といわれる部類だが――まあいい。この真見の鏡は俺が守ろう」
 その時、二人の会話に別の声が小さく割り込んできた。
「え、えっと‥‥怪物の方もお願いしたいような気分ですけれど‥‥」
 横からこわごわ話しかけてきたのは、剣の女神の巫女である鶴来理沙だ。しかし、理沙は震のひと睨みされると、びくっと振るえてショーケースの影に隠れてしまった。
 コレで果たして戦力になるのだろうか、と一抹の不安を覚える。
「俺は報酬が貰えればそれでいい‥‥約束の金銭と上質の【土】だが、確かに相違ないな」
「勿論、アトラス編集長が報酬をけちっり騙したなんて言われちゃたまらないもの。その点は安心なさい」
 震には息子と娘がいるのだが、家族は家に置いてきた。プロの仕事として純粋に依頼を引き受けたのだ。
 腰に倭刀型宝貝【炎皇】を携えて震は周囲の気配を探りつづけながら、ふと今回の敵について想いを馳せた。

 ――――嘘が怪物になるという。
 虚は真をなし、真は神をなす。だが、虚よりいでし神とは偽神として人々を惑わし、真理を害する魔物と化す。
 その魔物を怪談といい、怪物といい、人々は恐れ敬い、生活から排することで生きてきた。しかし、怪物が境界を超えて世に現われる時、討伐できるものたちの出番となる。
 嘘を真実として怪物を生む。
 そんな化け物を引き寄せるこの鏡は、人間にとっての祝福か、それとも呪詛か――。

 その時、深夜0時を告げる鐘の音が鳴った。

                             ○

「この気配――――凄まじい殺気です!?」
 理沙が叫ぶまでもなく、震は敵の襲来を感じていた。
「まさか――、この気配‥‥!?」
 真実倉庫の高い天井を仰ぎ見る。
 黒い怪物、漆黒の魔――――
                何かがいる、

   不吉な、  邪な、

                              恐るべき存在が‥‥‥‥。

 その影は巨大な翼を有し、うねるような爬虫類地味た巨躯に禍禍しい神々しさを宿している。

「――――――これは『応龍』か」
 震は敵を理解した。
 この怪物は、彼が危険視している中国の『応龍』――翼の生えた東洋風の龍の姿をした異形ノ存在である。
 震は瞬時に体を動かしていた。
 一瞬の遅れも許されない。一部の隙も許されない。この敵に対してはあらゆる油断が死に直結してしまう。
「――――地は天に従属し天は地に創られる。汝、空を飛翔ぶにあたわず!!」
 札をかざして言霊の令を発した。刹那、巨大な重力に引かれるように龍は方術でスローモウションを見ているかのように墜ち、床に張り付けられた。墜落の衝撃で地下倉庫が激しく揺れる。
「いきなり大技を繰り出したわね――短期決戦、それほどの相手ということだわ」
 裂帛の気合が空気を切り裂く。
 震は間髪入れずに大地を振るわせるように床を蹴って自分の数倍はあろうかという巨大な龍に蹴りを入れた。鉄よりも硬いといわれる龍の体が折れ曲がるように大きくひしゃげた。子ネズミのような小動物の一撃が巨大熊が吹き飛ばしたようなシュールな光景に理沙も言葉を失う。
 しかし、応龍も負けてはいない。
 ダメージを受けたどころか反撃するようにクチから紫の火炎を噴いた。負の霊気を帯びたあらゆる存在を腐食させる魔の火炎。
「水克火! あらゆる炎は我を焼けない」
 まるでモーゼが海を割るように紫の炎が飛び込む震を避けるように分かれ、応龍の真正面に立った震は、大地に根ざした山のように腰を落とすと、溜め込んだ力を拳の一点に集中させて放出するように突きを放った。
 龍の首が弾けるようにのけぞっていく。さながら悪質な特撮映画の怪獣でも見ているかのようなありえなさで。
「勝った‥‥震さんが勝っちゃったんですか!?」
 不安と喜びの混じった表情で訊ねる理沙に、しかし、麗香は深刻な表情で戦いから目を離さなかった。
「こんなことになるなんて‥‥誤算ね」
 それは麗香に珍しく苦笑いだったのだろうか。とにかく、戦いはまだ終わっていないのだ。
「――――そういうことか」
 震は崩れ落ちた龍の内部から爆発的に膨れ上がる霊気を感じた。
 同時に、生き返ったように起き上がった龍は、魂すらも砕くような咆哮を上げてその体をさらに膨張させる。
「こ、これはどういうことなんですかっ!? 倒しちゃったと思ったのに」
「怪物は心の反映で形を得る――そういったでしょ‥‥」
 麗香にしてはどこか弱気な口調。そういえば麗香さん、今朝、めずらしく特撮の戦隊モノを見てたっけ‥‥。
 まさか!?
 驚く理沙を避けるように目を泳がせて視線を合わせない麗香。
「いいだろう。このくらいやってもらわねばな」
 地下倉庫の巨大な空間を半分以上埋めるかのような巨体にまで膨れ上がった応龍を前にして、震の心は小揺るぎもしなかった。
 深く呼気をはき、意識を風一つない湖の水面のように静寂に保ち。
 震は、倭刀型宝貝【炎皇】を構えた。
「悪しき怪物よ。この界より去れ」
 一閃。
 蚩尤の身体から出でし鉱物にて打ち出された【炎皇】の刃は、炎を帯びて巨龍を斬り裂く。
 それは優雅な舞を見ているような動作だった。
 心の反映から生まれた虚構の応龍は、一瞬にして、因果から魂の全てまでを立ち切られて、この世界から消えさてしまった。
「一応、報酬の土を上乗せさせてもらうことになりそうだが、よろしいか?」
 麗香は震の問いに対して満足そうに頷く。

 あとには、《真実倉庫》に残された真見の鏡が残されていた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【5085/陸 震(リゥ・ツェン)/男性/899歳/天仙】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、雛川 遊です。
 シナリオにご参加いただきありがとうございました。そしてノベル作成が大幅に遅れてしまい大変申しわけありませんでした。エイプリルフールの話が今はもう若葉薫る季節なんて‥‥。
 技の言葉はこちらで入れてしまいましたがイメージを外していないといいのですが。

 遅くなってしまい申し訳ありません! ご連絡いただいた件について修正させていただきました。設定の読み込みが甘く御不快な思いをさせてしまいまして本当にすみませんでした。

 それでは、あなたに剣と翼の導きがあらんことを祈りつつ。