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<白銀の姫・PCクエストノベル>


片翼の双子〜An oath Dream〜U



□始まり■


 呆然と・・・本当に、ただ呆然と・・・崩れた崖を見つめる。
 何の感情もわいてこない。
 本当に真っ白なココロの中。
 「この高さから落ちて、生きているはずがないわ。」 
 冷たく響く声は、甘美な絶望を含んでいた。
 「リデアっ!」
 「私達がココに来た目的は、冬弥を救う事じゃない。」
 「このまま見殺しにしろって言うのか!?」
 正論すぎるリディアの意見に、魅琴は思わず怒鳴った。
 これほど感情的に怒鳴る魅琴は初めてだった。けれど、リディアは恐れなかった。
 ただ、冷たく拒絶するかのように瞳を閉じる。
 「見殺し!?冗談言わないで!この高さから落ちて助かっていると思う!?冬弥1人の命と、夢によって殺される予定の人々の命・・どう考えたって、天秤は夢に傾く!」
 「それは・・・。」
 本来の目的を忘れ感情に走ろうとするものと、本来の目的に忠実に従おうとするもの。
 食い違う両者の意見は、一見するとどちらも正論のようだった。
 「・・冬弥が、こんな所で死ぬと思う・・?あの冬弥がっ・・!」
 「リデア・・?」
 「冬弥はそもそも・・死ぬ事が許されていない。どんなに望んだ所で、誰もそれに応えなかったじゃない!私も、魅琴もっ!!」
 「黙れっ!!!」
 ピンと張り詰めた空気が僅かに揺れ、近くの木々に止まっていた鳥が羽ばたく。
 遥か下方から聞こえてくる水の音は激しく、そして穏やかに響いてくる。
 「・・・先を急ぎましょう。こんな所で止まっていたって何にもならない。」
 「そうだな・・。」
 「行きましょう。」
 リディアが、そっと肩に触れる。
 手の温もりすらも・・今は感じられなかった。


 ----------【Another Side】----------

 上も下も右も、真っ暗な世界。
 ずっしりと重い体だけが、生きている事を教えてくれる。
 「・・はっ・・。」
 自嘲気味に零れる声が、真っ暗な空間にやけに大きく響く。
 “死にたい”と思った事など、一度もなかった。
 “殺してほしい”と願った事は、何度もあった。
 自分で死に方は知らなかった。だから、ソレを誰かに託そうとしていた。
 しかしそのたびに裏切られてきた。
 生かされてきた。
 今回の事だってそう。
 一体どうして、何のために、自分は生かされているのか・・・?
 「考え事をする時、人は一瞬だけ周りが見えなくなる。どんなに訓練をつんだ軍人でも、不意打ちを喰らってしまう時があるように・・・。」
 急に背後から声が聞こえ、思わずそちらに体制を整える。
 ズキリと鈍い痛みが全身を襲うのに、構ってはいられなかった。
 「お前は・・・」
 「貴方に、チャンスをあげる。簡単な事よ。全てが、これで丸く収まる。貴方の命も、保障してあげる。」
 「俺と取引しようって言うのか?」
 「簡単な取引よ。なにも、この世界を変えろだとか、全てを救う勇者になれだとか、そんな夢物語は託さないわ。そう、本当に簡単な事よ。そして、貴方になら出来る。」
 「聞くだけなら、きいてやろう。」
 「・・本当、本気になった怖そうな人・・・。」
 フワリと、薔薇の香りが漂う。
 それは段々と濃度を増し、むせ返るような香りを発する・・・。
 「仲間になれば良いの。私の。」
 「俺が・・か?」
 「そう、そして・・かつての仲間を、殺せば良いの。それで貴方は助かる。」
 「自分の命可愛さに、仲間を殺すようなヤツに見えるか?」
 「・・見えない。少なくとも、己のために仲間を見捨てるようなクズには・・ね。そうね、その逆じゃないかしら?仲間のために、己の命を落とすタイプ・・。」
 「俺はそんなにお人好しじゃないさ。」
 「どうかしら。」
 スっと、マッチに火が点り、恐ろしいまでの赤に支配される。
 オレンジの光の向こう、うっすらと微笑む赤のルージュ・・・。
 「私の仲間になりなさい。そして・・今までの仲良しごっこの相手は切り捨てるの。」
 「そん・・・」
 赤のルージュがそっと唇を塞ぎ、言いかけた言葉を押し返す。
 そして、そのまま赤の唇を耳元に持って行き・・・。

 『        』

 「・・・もう・・馴れ合いは終わりだ。」
 「そう。それでこそ、貴方だわ。・・・私の手で、貴方をもっと強くしてあげる。もう守るものなどないのだから・・・。」
 むせ返る薔薇の香り、揺れる赤の炎、そして、繰り返される軽い口付け。
 その合間に、そっと小さく名前を呼ぶ。
 “新しい仲間の名前”を・・・!!

 『マリー』


 ----------【Main Side】----------

 ただ黙々と歩く道中は、やけに重苦しい雰囲気に包まれていた。
 言葉はない。
 何を話したら良いのかも分からなかった。きっと、何も話さない事が正解なのだろう。
 「ねぇ・・あれ・・なに?」
 ふと立ち止まったリディアが、白くか細い指を向けたそこ・・真っ白なドーム状の建物が突如として現れた。
 周りを木々に囲まれた場所に、ポツリと置かれた巨大な建物は異質な雰囲気を発していた。 
 「周りに人がいるな・・。行ってみるか。」
 「えぇ。」
 やや早足になりながら、円形の建物へと近づく。それは近づくごとに大きさを増し、遠目で見たよりも遥かに巨大な印象を受ける。
 「・・コロセウム・・?」
 「なんでこんな所に?」
 首をひねるリディアと魅琴の手を背後から何者かがつかんだ。
 2人は反射的にその手を振り解き、腰にささっている柄を掴んだ。
 それを相手の喉下に・・・。
 「ひぃぃっ!!ち・・違うんです!違うんですっ!!」
 「なにが?」
 「わ・・私はただ、お願いにあがろうかと・・。」
 「この世界では人にお願いをする時に背後から腕を掴むって言う風習があるの?それならば、私達の常識を書き換えなくてはならないんだけど?」
 「あ・・あの・・。違うんです・・。」
 「んで?何の願いだ?願い事によっちゃぁ、テメェの命を引き換えにしてもらうけどな。」
 男がひぃっと息を飲み、引きつった顔で2人を見比べる。
 その光景をただ黙って見つめる。
 「魅琴。悪魔じゃないんだから。それで、何?簡潔に話してくれる?急いでるのよ、これでも。」
 「あの、私はデハームの代表責任者なのですが・・。その、今回、ダルワイブとの試合の事で・・・。」
 「ダルワイブだって!?」
 魅琴とリディアの視線がカチリと合わさる。
 そして、こちらにも視線を向ける・・・その瞳は強い光を放っている。
 「5年に1度開かれる、都市同士での戦いです。そして、今日が最終決戦です。我がデハームと、ダルワイブの・・・。」
 男はそう言うと、すっと瞳を落とした。
 「それがどうしたって言うんだ?」
 「出場予定だった選手達が・・死にました。」
 「え?」
 「正確には殺されたんです。ダルワイブの者達によって・・。」
 「そんなの卑怯じゃない!」
 「デハームの不戦勝になるだろう?」
 「いいえ、このまま行けばダルワイブの不戦勝です。」
 「何故?」
 「ダルワイブがやったと言う確固たる証拠がない。そして、選手のいなくなった私達のチームは、戦わずして負けになる。」
 「そんな・・・。」
 「ダルワイブが勝ってしまえば“アレ”がダルワイブの元へと渡ってしまう。そうすれば、世界は・・・。」
 「“アレ”とはなんだ?」
 「・・まだ言えません。けれど、貴方達が勝った時・・それをお渡しすると約束しましょう。」
 魅琴がふっと微笑む。
 それはあまりにも禍々しい微笑で、男が思わず冷や汗をかいたほどだった。
 こちらもほんの少しだけ、恐れを抱いてしまう・・・。
 「なんだか分からねぇ物のために戦うのは、俺は真っ平ゴメンだぜ。」
 「そんな・・・」
 「・・・んで?ルールはなんだ?」
 「魅琴・・。」
 「ありがとうございますっ!」
 男は深々と頭を下げた・・・。


■それぞれの思い□


 桐生 暁は、通された部屋でぼうっと窓の外を見つめていた。
 遠くに見える、山々。
 広がるパラレルワールド。
 そして・・・消えてしまった冬弥。
 ぎゅっと、拳を握り締める。
 そうする事で全ての痛みを追い出すかのように・・・。
 何も考えなければ、何も感じなければ・・・そうすれば、痛くない。
 けれどふと思う。
 もしも何も感じなかったとしたならば・・・自分は必要ないのではないかと。
 暁の心は暁そのものなのだから・・・。
 ふっと拳の力を抜く。
 必死に感情を押し殺す。
 それは自分を殺すのと一緒。
 分かってる。
 ・・・だけど今は、強くなくてはいけないから。
 強くなるためには・・今抱いている感情はイラナイから・・・。
 まるで泣くのを堪えているかのように、暁はぎゅっと唇を噛んだ。


 火宮 翔子は、椅子に座ったまま色々と考えていた。
 嫌な考えを何処かへと押しやり、良い方へと考えを持っていく。
 そうだ、冬弥は生きている・・そう簡単にくたばる事なんて、あるわけない。
 早く美麗を見つけて、冬弥を探しに行かないと・・・。
 翔子は目を瞑った。
 祈るように・・・。
 ・・・もし、死んでいたりしたら・・・ぶっ飛ばすわよ・・・。
 だから生きていて・・・。
 翔子は目を開けた。
 今は感傷に浸っている場合ではない。
 今いる部屋を見つめる。
 窓の側に暁がいる以外は、誰もいない。
 魅琴とリディアは先ほどの男に連れられてどこかへと行ってしまった。
 それにしても・・・こんな所で道草を食っている場合ではないのに・・・。
 魅琴も何を考えているのだろうか?
 しかし、もうこうなってしまったからには仕方がない。
 しっかりとダルワイブとやらがどんなヤツらなのかを見ておかないと・・・。
 翔子はそう思うと、キュっと気を引き締めた。


□コロセウムにて■


 魅琴とリディアが帰って来たのは、かなり時間がたってからだった。
 戻ってきた2人の表情は浮かない。
 どこか難しい顔をして、一枚の白い紙を持っている。
 「どーしたの〜?」
 暁はそう言うと、立ち上がった。
 翔子も立ち上がり、4人は部屋の中央で円になって座った。
 「とりあえず・・・選手登録はした。」
 「そう。」
 「・・・こちらが不利な事が分かったわ。」
 リディアはそう告げると、持っていた紙を2人の目の前に差し出した。
 そこには見た事もない文字が並んでいた。
 ・・・名前・・・だろうか?
 「それが相手の選手の名前だ。っつーか、まず読めねぇっつーの。」
 ドンと、両足をぶっきらぼうにテーブルの上に乗っける。
 「それで、不利な事って?」
 「紙をよく見て。」
 そうは言われても、読めないのだから仕方がない。
 けれど、リディアは“紙をよく見て”と言ったのだ。“よく読んで”ではなく・・・。
 縦に並んだわけのわからない言葉達。
 上から1、2・・・5。
 「分かった?相手は五人いるのよ。こっちは四人なのに。」
 リディアはそう言うと、盛大なため息をついた。
 「でもまぁ、いーんじゃない?ハンデハンデ。」
 暁があっけらかんと言い、紙を指で弾いた。
 紙はテーブルの上を滑り、ギリギリの所でとまる。
 「試合は第3試合まであるんだけど、まず最初に円形の檻の中でモンスターと戦うの。これは全員出場よ。」
 「制限時間内に多くのモンスターを倒した方に1ポイントが与えられるんだと。」
 「試合はポイント制よ。」
 「それで、第2試合は?」
 「チームの中から3人を選んで相手チームの出場者と1対1で戦うの。“切れない剣”で戦うらしいから、死ぬ事はないわ。せいぜい怪我する程度。」
 「相手が戦闘不能になったり、コートの外に落ちたら勝ち。んで、1ポイントだとよ。」
 そこまで言うと、魅琴とリディアは顔を見合わせた。
 何かある。
 そんな事は直ぐに分かった。
 2人の様子を見れば分かる・・・。
 「それで、最終試合は?」
 翔子の問いに、どちらもが視線を逸らす。
 リディアが口を開きかけては閉じ・・・そして再び押し黙る。
 「黙ってたってしょーがないっしょ?どーせ後で聞かされるんだし・・それより、早いうちに内容を知っておいた方が考える時間が増えて有利になるよ。」
 「・・・それもそうね。」
 暁の言葉に、リディアはきっと顔を上げた。
 その瞳には決意の色がうかがえる。
 「こちらの選んだ1人と、相手の選んだ1人とが・・命を懸けて戦うの。使う剣は、殺傷能力の高いソード。相手の息の根が止まったら、勝ち・・・。」
 「相手は、出場選手を前もって殺害するようなヤツラだ。どんな卑怯な手を使ってくるか分からねぇ。」
 「それでも、俺は戦えるよ。」
 「私も・・・。」
 暁と翔子が名乗りをあげる。
 「それは、状況を見て決めるわ。それで良い?」
 「誰が行くことになっても恨みっこ無しって事で・・・。」
 「そうね。恨んだりしないわ。」
 「随分と力強い味方がいたもんだな。」
 「本当に・・・。」
 魅琴とリディアがふわりと微笑んだ時、ノックも無しに扉が開いた。
 「デハームの出場選手はこちらに・・・。」


 コロセウムには、沢山の人々が詰め掛けていた。
 ギラギラと光る太陽がまぶしい。
 「制限時間は5分です。」
 周囲を鉄製の檻で囲われた中心部、4人は背中合わせになってその時が来るのをじっと待っていた。
 檻の外からは獣の息遣いが聞こえてくる。
 それらは檻の外からじっとこちらを見つめている・・・。
 「それでは・・・はじめっ!!!」
 ガタンと、四方八方から獣達が飛び出してくる。
 その瞳は血に飢えてぎらついている・・。
 まず最初にリディアが獣の方へと飛び出した。
 持っていたソードを一気に斜めに引く。
 濡れた音と共に、鮮血がリディアの頬を掠める。
 それを合図に暁も敵の中に躍り出た。
 小型のナイフで敵を右へ左へ切りつける。
 アクロバティックで、一見するとダンスを踊っているかのように見える動きだ。
 カポエラ・・・その華麗でいて残酷な舞いは、コロセウムに詰め掛けていた人々を魅了した。
 その隣では、翔子が炎の符術を使って敵を一気に焼き払っていた。
 赤い揺らめきの中で、断末魔が聞こえる。
 ゆらゆらと燃え盛る炎。
 徐々にその身体を焼き尽くし、無へと還す。
 死を告げる赤い妖精・・・。
 炎の隣では、氷の刃が舞っていた。
 魅琴の作り出す無数の氷の刃は、七色に美しく光り輝きながら、容赦なく獣達に襲いかかる。
 氷が輪になって敵を追い詰め、一気に上空から降り注ぐ。
 逃げ場はない。
 彼らに提供されているのは、死と言う場所、唯一つ・・・。
 「やめっ!!」
 その合図と共に、獣達は儚く消えた。
 サァっと、風に乗って何処かへと消え去ってゆく・・・。
 「続いて第2試合を始めます。デハームの出場選手は、次の試合に出る物以外はコートの外へ。」
 「・・・待って・・このまま直ぐに続けるの?」
 「はい。ダルワイブの選手は既に第1試合を終えて、控えていますので早くしてください。」
 なんと言う横暴さなのだろうか・・・。
 あれだけ大量のモンスターと戦っておいて、すぐに出ろだなんて・・・。
 「まず俺が行く。お前らはコートの外で後の順番を決めといてくれ。」
 魅琴はそう言うと、リディアの肩をポンと叩いた。
 「・・・分かった。行きましょう。」
 促されて、コートの外へと出る。
 「魅琴ちゃん、大丈夫なの・・・??」
 「・・大丈夫じゃなかったとしても、これからの試合は怪我をする程度よ。」
 「それで、順番はどうするの?」
 「どうしましょうか・・・。」
 「俺が行くよ。」
 暁はそう言うと、持っていたナイフを置いた。
 「レディーファーストの精神は生憎今は在庫切れでね。」
 そう言って肩をすくめる。
 「それじゃぁ、次は私が行くわ。リディアさんは休んでて。」
 「でも・・・」
 「もし、今後何かあった場合リディアさんの千里眼は絶対に必要になって行くわ。だから、ね?」
 翔子の優しい言葉に、リディアはコクリと頷いた。
 その瞬間、試合開始を告げる笛の音がコロセウムに響き渡った。
 ゆっくりと・・コートの向こうからダルワイブの選手が歩いてくる・・・。
 真っ黒なフードつきのコートを羽織って出てくる一人の屈強な男。
 その手には・・燭台・・・。
 「辛気臭せぇ姿しやがって。」
 魅琴はそう吐き捨てると、すっと持っていた刀を構えた。
 相手はブツブツ言いながら、燭台を床に置き・・ゆっくりとコートを脱いだ。
 整った顔立ちは、20代後半くらいだろうか?
 両目はドロリと力なく淀んでいる。
 「そっちが来ないんなら、こちらから行かせてもらうぞっ!」
 叫んだや否や、相手の懐へと飛び込んだ。
 速い。
 「・・・なっ・・・!!」
 それはほんの一瞬の事だった。
 魅琴の攻撃を相手がかわし、すきのあったわき腹を刀で払った。
 ほんのちょっと鈍い音がした程度の・・・。
 ゴホっと、魅琴が咳き込む。
 その口からは・・大量の鮮血・・・。
 「・・・魅琴ちゃん!!!??」
 「魅琴さんっ!!??」
 暁と翔子が思わず立ち上がる。
 魅琴はその場に膝をつき、わき腹を押さえたままゲホゲホと苦しそうに咳き込んでいる。
 ダルワイブの青年はそんな魅琴の姿を何の感情も浮かんでいない瞳でじっと見つめている。
 「そう言う事・・・なの・・・。」
 リディアは小さく呟くと、唇を噛んだ。
 「なんで・・ちょっと叩かれただけなのに・・。」
 「あちらの武器とこちらの武器は、同じではないって事ね・・・油断しすぎてたわ。」
 「魅琴ちゃん、頑張って・・・!立って・・・っ!」
 「魅琴っ!もう良い!はやくコートから降りてっ!!」
 暁とリディアが叫ぶ。
 「魅琴さんっ!!」
 ゆっくりと、魅琴が立ち上がる。
 口元についた血を拭い、ぺっと、コートの中に唾を吐く。
 「るっせぇ!外野は黙ってろ!!」
 「魅琴っ!!」
 「大人しく見てろっつーんだよっ!!!」
 魅琴の怒鳴り声がコロセウムを揺らす。
 「・・・あれ、きっと肋骨が折れてるよね・・・。」
 「口の中が切れたって程度の吐血量じゃないもの・・・。」
 「この勝負・・棄権したほうが良いわ。」
 リディアが2人に冷たく告げる。
 「こんなフェアじゃない試合をしたって何の得にもならない・・。」
 「それでも、相手の事を知る良いチャンスだよ。」
 暁が真顔でリディアの瞳を見つめる。
 重なる視線。
 歓声が響くコロセウム。
 「ようは、相手にやられなければ良いって事。違う?」
 「相手の攻撃の裏をかけば、こちらはやられないわ・・・。」
 「でも・・・」
 「リディアちゃんはさ、悔しくないの?こんな卑怯なやり方に屈するの。俺は、絶対に棄権しないよ。」
 暁の瞳がゆらめく。
 赤く、鋭く・・・。
 「私も、棄権しないわ。」
 翔子の瞳も鋭く光る。
 コロセウムの中央では、魅琴と青年が対峙していた。
 一触即発の雰囲気の中で・・・魅琴が最初に走り始めた。
 そして、相手の攻撃を避けて・・・。
 それは渾身の一撃だった。
 全ての体重を乗せた魅琴の刃は重く、青年の背をしたたかに叩く。
 ドサリ
 青年が力なくその身体をコートの中央に沈める。
 一瞬の静寂の後の歓声・・・。
 その直後に魅琴は意識を手放した。
 運ばれる、魅琴の身体を見つめながら・・暁は刀を拾い上げた。
 「お次はようっやく俺だね〜っ♪」
 さっきとは打って変わって、ヘラヘラと笑いながらコートの中央へと歩を進める。
 「暁君・・頑張って。」
 翔子の声援に、暁はヒラヒラと手を振った。
 「・・・気をつけて。」
 消え入りそうなほどに小さな声でリディアが呟く。
 「大丈夫だよ。」
 力強く、けれど優しく・・暁はそう言うとコートの中央に立ちはだかった。


■力強き者達□


 先ほど同様、試合を告げる合図を聞きながら、暁は呼吸を整えていた。
 表面上には出さない怒りが、心の中でドロドロと渦巻く。
 あんなやり方をされて怒らない方がおかしい。
 何の武器を使ったのかは知らないが・・・どちらにしろ、攻撃されない限りは大丈夫・・あとは上手く相手を倒すだけ・・・。
 ダルワイブの選手が歩いてくる。
 先ほどの青年と同じ格好・・・。
 一瞬だけ、鋭く睨みつけた後・・暁はヘラリと微笑んだ。
 「こんちわ〜☆こ〜んなにい〜天気なのに、そんなコートなんてナンセンスじゃん〜!ってか、びみょ〜にあっつくなぁ〜い??」
 ヒラヒラと手を振りながら愛想良く語りかける。
 しかし相手は表情1つ変えずにコートを脱ぐと、手に持っていた燭台を置いた。
 ドロリとした瞳が暁を捉える。
 「うわ〜、ってかさぁ、ちゃんと寝た方が良くない??なんか隈っぽいのできてるよ〜??」
 ゆらりと、相手が動き出す。
 ・・・速い。
 暁はバクテンの要領で後ろに下がった。
 「おっと〜危ない危ない〜!でも、も〜ちょっと速くないと〜♪そう・・・これくらいに・・・ねっ!」
 地面を蹴る。
 右のわき腹を狙い走りこみ・・・その直前で反転して左わき腹をしたたかに打った。
 右をガードしていた相手は急な不意打ちに反応できずに、左わき腹を強打される。
 膝を折り、蹲る相手を冷たい瞳で見下ろす。
 「・・・どうしたの!?早くとどめを・・・。」
 リディアの叫びが背後から聞こえてくる。
 暁はそちらを振り返ると、にこやかに手を振った。
 「やっほ〜☆見て見てwほら、俺ってば結構強いでしょ〜??」
 「そんなのは良いからっ・・・!!」
 必死なリディアの様子に、暁は小さく心の中で謝った。
 心配をかけてしまっているのは分かっていた。
 けれど・・・。
 「直ぐに終わると思うなよ。」
 低く小さく呟く。
 それは全て場内の歓声が消し去ってくれる・・・。
 「みんな、応援ありがとぉ〜っ☆」
 大きく手を振る。
 しかし、その瞳は笑っていなかった。
 「・・ほら、立てよ。」
 暁の言葉に、相手はゆっくりと立ち上がった。
 ゆっくりと武器を構える。
 その切っ先が暁に向く・・・。
 けれどもう力は入っていない。
 素早く動き、背中に回るとその背をしたたかに打つ。
 相手が膝を折り・・・。
 それは、残酷な光だった。
 瞳が赤く妖しく揺れる。
 抑えきれない感情が、ゆっくりと滲み出すかのように・・・。


 歓声が上がる。
 無傷の暁がこちらにゆっくりと帰ってくる。
 その顔はヘラヘラと笑っている・・・。
 「次はしょーこさんね〜♪頑張ってねw」
 「・・・えぇ。」
 何かを言いかけた翔子は、思いとどまって口を閉ざした。
 先ほどの試合について聞きたかったのだが・・・今は時間がない。
 相手の選手がもう入ってきている。
 「頑張って・・・。」
 リディアも特に何を言うでもなく暁を迎え入れ、翔子を優しく送り出す。
 「・・勝って帰ってくるわ。」
 翔子は頼もしくそう言うと、コートの中へ歩んだ。
 歓声が、一際大きくなる。
 “赤の妖精”そのフレーズが一番大きく耳に聞こえてくる。
 けれども、この試合で炎を使うのは厳禁。
 あくまでこの刀のみの勝負・・・。
 翔子はすぅっと息を吸い込んだ。
 数秒、息を止める。
 鼓動が直ぐ耳の近くで聞こえてくる。
 息を吐き出す。
 全ての雑念を意識の外に追い払う・・・。
 試合を告げる合図。
 翔子は真っ直ぐに相手の瞳を見た。
 普通の人ならば、瞳を見れば考えている事の大抵は分かる。
 どちらに向かってくるのか、どうやって向かってくるのか・・・。
 瞳は言葉と同じくらい多くの物事を翔子に教えてくれる。
 けれどダルワイブの青年の瞳は濁っていた。
 何も見ていない瞳はドロドロとしていて、瞳の奥を覗き込もうとすればするほど、こちらの考えが読まれているのではと言う気になってくる。
 相手が地面を蹴る。
 ・・・速い。
 それを寸での所でかわし、振り向きざまに軽くその頭を打つ。
 相手がよろける。
 翔子は間合いを取った。
 ゆっくりと相手が起き上がり・・すぐに地面を蹴る。
 それをかわし、今度はこちらから攻撃を仕掛ける。
 ヒット&アウェイ。
 翔子はそれを得意としていた。
 相手につかまるかつかまらないかのギリギリで避け、不意打ちを食らわせる。
 試合は翔子の有利に動いていた。
 絶対的な強さではなかったにしろ、ジワジワと相手は翔子の戦法にはまり、体力を削ってゆく。
 チャンスを生かすも殺すも、その人次第。
 実力と勘・・・そして運。
 翔子はきちんと、相手の隙・・すなわち、チャンスを掴み取ると一気に畳み掛けた。
 相手が力を失い、崩れ落ちる。
 歓声が大きくなり、コロセウムを揺るがす。


□第3試合■


 生還した翔子を、温かく迎え入れる。
 なんら危なげのない試合運びに、翔子の今までの経験が見え隠れする。
 「上手い戦法だな。」
 そう声をかけたのは魅琴だった。
 わき腹には包帯が巻かれ、上半身は上着を羽織っただけの姿だった。
 「魅琴さん・・・。」
 「折れてるだけで、別に命に別状はねーよ。」
 肩をすくめ、ドサリと椅子に座る。
 「魅琴ちゃん・・・。」
 暁が思わず魅琴に抱きつく。
 「いぃって〜・・・てめぇあきぃっ!熱烈歓迎は嬉しいけど、傷を抉るようなことすんな!」
 「でも本当、魅琴さん・・・良かった・・・。」
 翔子はそう言うと、そっと魅琴の手に触れた。
 温かな体温が、安心感を与えてくれる・・・。
 「んで、とうとう第3試合か。どうする?誰が行く?」
 「・・・私しかいないでしょ?私はまだ出てないもの。」
 リディアはそう呟くと、すっと立ち上がった。
 壁にかかっているソードを取る。
 「リデア・・・。」
 「あ、相手が出てきたよ。」
 暁の言葉に、一同はコートに注目した。


 ----------【Another Side】----------

 「なんで・・・。」
 その言葉は、コロセウムの歓声にかき消された。
 沢山のモンスターたちに囲まれながら戦う姿は、馴染み深いものだった。
 踊る鮮血、舞う炎、そして降り注ぐ氷・・・。
 「なんで・・・っ・・・。」
 ガンと、壁を殴る。
 けれどその場にいる誰もこちらを振り向かない。
 彼らは・・洗脳されているから・・・。
 ただ戦うためだけに作り出されたモノだから・・・。
 ぎゅっと唇をかみ締める。
 それでも・・・カレはソードを握り締めた。
 ずっしりとした重さは、それが玩具なんかではない事をそっと告げていた。
 第1試合が終わり、直ぐに第2試合が始まる。
 フェアじゃない戦い。
 こちらの武器は特殊な魔法がかかっている。
 ・・・反吐が出る。
 それでも・・・負けはしない事は分かっていた。
 ただの戦う兵器ごときに負けるような連中ではない。
 ちゃんと心を持っている連中なのだから・・・。
 ちゃちな魔法なんかよりも、心の方が断然に強い事を知っていたから・・・。
 試合が進む。
 カレの予想通り、こちらの面々は再起不能で戻ってくる。
 そして・・・第3試合の開始を告げる音が響く・・・。
 黒いコートは視界を著しく遮る。
 歓声に包まれながら、カレはコートの中央に悠々と立ちはだかった。


 ----------【Main Side】----------

 相手の選手が出てきた時、ふっと懐かしい感情を覚えた。
 それは、言葉に上手くできるようなものではなかったけれども・・・。
 黒いコートで顔は隠れている。
 「・・あっ・・・。」
 リディアが小さな声を漏らす。
 ゆっくりと、コートを脱ぎ捨て・・・顔が・・・。
 「冬弥・・・。」
 誰がそう呟いたのかはわからない。
 自分だったかもしれない。あるいは他の誰かだったのかも知れない。
 コロセウムが揺れる。
 美しい男性・・・整った顔立ちに、会場が狂喜乱舞する。
 「嘘・・・。・・・嘘だって・・・」
 リディアの呟きは、虚空に消えた。
 “嘘だって誰か言って・・・”
 けれど目の前の光景は絶対的な真実を語っている。
 嘘なんかじゃない。これは、現実なのだから・・・。


■アナタはテキ□ 【桐生 暁編】

 コートの中央に立ちはだかる姿に、暁の心はすぅっと冷めて行った。
 死んだと思っていた人。
 会いたいとさえ思った人。
 こんな形での再開なんて・・・。
 ・・・でも、生きていた。
 様々な感情が混じりあい、溶け合い、そして何処かへと流れていく。
 リディアがぺたんとその場に崩れ落ちた。
 ソードがカツリと重たい音を響かせる。
 「なんで・・・冬弥さん・・・。」
 翔子の驚ききった声が、直ぐ後ろで聞こえてくる。
 誰も何も言わない、微動だにしない。
 時は流れてゆく、ゆっくりと、そして残酷に・・。
 暁はふっと微笑むと、リディアが落としたソードを拾った。
 「ねぇ、リディアちゃん行かないの?もたもたしてるなら俺行くけど?」
 待たせたら悪いじゃんと、小さく付け加える。
 「暁・・これは・・・」
 「命を賭けた戦いでしょ?スリルあって良いジャン?俺行くよ?」
 「相手は冬弥なのよ?」
 リディアの声が震える。
 泣いているのかと思い、顔を見つめる。
 けれどその瞳は凍ったまま、潤んではいない。
 「何言ってんの?俺にとっては最近ちょっと知り合っただけの“ただの知り合い”でしょ?」
 暁はそう言うと、薄く微笑んだ。
 それがどんな意味を含んだ微笑なのかは、誰にも分からない。
 もちろん、暁にさえも・・・。
 「・・ダメよ・・・本気になられたら、誰も敵わない・・・。」
 「それでも行くしかないっしょ?それに、俺はそう簡単に殺られないよ。」
 すっと、鞘からソードを抜く。
 キラリと光を反射して艶かしく輝く。
 暁は鞘をリディアの胸に押し付けた。
 「帰ってくるから・・・。」
 「デハーム側の選手は早くコートに入ってください!早く来ない場合は棄権と・・・」
 「ちょっと待った。」
 その言葉を遮ったのは、冬弥だった。
 「あれ、俺のちょっとした知り合いなんだけど、話、良いか?」
 「でも・・・」
 「なんもしねぇよ。」
 冬弥はそう言って、ソードをコートの中心に置いてこちらに歩いてくる。
 緊張する空気。
 すぐ・・手を伸ばせば触れる位置に、冬弥は立っていた。
 「よぉ。まさかこんなとこで会うとは思わなかったけどな。」
 「・・・敵に寝返ったか?臆病者が。」
 魅琴が苦々しく吐き捨てる。
 「寝返った事は否定しないさ。けどな、臆病者って言われるいわれはねぇな。」
 「冬弥さん・・どうして・・・??」
 「どうしてって言われてもな〜。なんて〜の?成り行き?」
 「成り行きって・・・私達、仲間じゃない!夢幻館で・・・」
 「けどここは夢幻館じゃねぇ。」
 リディアの訴えを、切って捨てる。
 苦々しい表情で・・けれどそれは見ようによっては酷く殺気立った様子で・・・。
 「状況が変われば、立場も変わるんだよ。昔がどうであろうと、今は敵だ。」
 きっぱりと言い放つ。
 その言葉は酷く事務的で・・・。

 「馴れ合いの時代は終わったんだよ。」
 
 歓声が、耳に痛い。
 手を伸ばせば触れ合える位置にいるのに、酷く遠い。
 「もう、戻れないのか?」
 魅琴の言葉に、冬弥はただ薄く微笑んだ。
 それは冷たい拒絶・・。
 「それで、誰が俺の相手をするんだ?」
 冬弥の視線が暁で止まる。
 抜かれた切っ先を見て、ほんの少し複雑な表情を浮かべる。
 「戦えるのか?俺と?」
 「俺がやらなきゃ、一体誰が出来るって言うの?」
 「・・・殺れるのか?お前に・・・??」
 暁はそっと瞳を閉じた。
 浮かんでくる様々な思い出を、そっと、押しやる。
 「正直、さっきまで迷ってたんだ。でも、敵って分かったからには、やれるよ。例え冬弥でも。」
 もう、迷いはない。
 静かにそう告げる。
 「言っておくが、容赦はしねーからな。」
 「してもらおうと思ってないよ。」
 その答えに満足したのか、冬弥は背を向けて歩き始めた。
 歓声の中へと・・・。
 「どうして・・・。」
 「どうしてなんて、言ってる場合じゃないでしょ?リディアちゃん。これは現実だよ。」
 「なにか、考えている事でもあるのかしら・・・。」
 翔子の呟きに、暁は首をひねった。
 もしそうだとしても、今は敵。
 それだけは変えられない事実。
 「“心”なんて、変わっていくものだよ。」
 「それでも、切っても切れないもので繋がってるって・・信じてるから。」
 リディアの声は祈るようだった。
 「・・・お願い、信じさせて。」
 暁はそっとリディアの頭を撫ぜると、踏み出した。
 「おい、戦えるか?この状況下で・・。一歩間違えれば、即死だぞ?」
 その背に魅琴が声をかける。
 何か言おうとして・・・それでも言葉は浮かんでこなかった。
 ただ、振り向かない事だけが唯一の答えだった。


□始まる 戦い■ 【桐生 暁編】

 わぁっと、大きくなる歓声。
 どちらも目を見張るばかりの美少年・・それが、今から命がけの戦いを繰り広げる。
 会場のボルテージが上がる。
 熱気が、凄まじい勢いで襲い掛かってくる。
 「あ〜あ、こんなことろで冬弥ちゃんと本気の勝負をする事になるとは思わなかったな〜。」
 「・・俺が勝ったら、お前は俺のものになる。お前が勝ったら、俺達は付き合う・・・だったか?」
 「どっちかが勝ったら、どっちかが死ぬんでしょ?」
 暁は冷たく言い放つと、すっとソードの切っ先を冬弥に向けた。
 試合開始の合図が無常にも響き渡る。
 冬弥が動き始める。
 先ほどまでの人達とは違う、圧倒的な強さ・・・。
 暁は冬弥の繰り出した切っ先を避けると、高く跳躍して冬弥を飛び越え、背後に回った。
 ソードを振りぬく。
 けれどそれは、冬弥のソードにあたってキーンと甲高い音を立てる。
 片手をついて、バクテンの要領で後ろに下がる。
 間合いが広がる。
 「・・流石冬弥ちゃん。強いね。」
 微笑みながらも、その瞳は笑っていない。
 「それはこっちの台詞だろ?」
 間合いが詰まる。
 金属がぶつかり合う、独特の音が会場内に響き渡る。
 一進一退の攻防。
 ほんの一瞬の隙で、勝負は決まる・・・。
 暁が冬弥の切っ先を払う。
 ・・その瞬間、冬弥がバランスを崩した。
 軸足が滑ったのだ。
 一瞬だけ、右側が隙だらけになる。
 ・・・チャンスだ・・・。
 暁はそう思い、一気に走りこみ・・・

 ふっと、その心に1つの言葉が蘇った。
 それは本当に他愛もない日常会話のワンフレーズで、思い出した途端に忘れてしまうほど他愛もないもので・・・。
 けれどそれを誰が言ったのかははっきりとしていた。
 冬弥の、声・・・。
 堰を切ったように溢れ出す、様々な思い出のシーン。
 感情が押し寄せる。

 判断が鈍る。
 動きが遅れる・・・躊躇いがちに出された切っ先は、冬弥の切っ先になんなく払われる。

 ドクン

 心臓が高鳴る。
 “・・・殺せない・・・”
 今までは誰であっても殺せた筈なのに・・・?
 どうして・・・?

 冬弥の刃が容赦なく暁に襲い掛かる。
 それをかわす。
 もう、暁から攻撃することは出来なかった。
 なんでだかは分からない・・・けれど、手に持ったそれは攻撃の物ではなく、自分を守る物に変わってしまっていた。
 攻撃をかわす。
 間合いを取る。
 混乱する頭・・・。
 その時だった。
 ふっと、冬弥が柔らかく笑ったのは・・・。
 それはいつもの冬弥の微笑だった。
 「時間だ・・・」
 「え・・・?」
 ききかえそうとしたその瞬間だった。
 巨大な爆発音が何処からか響き、コロセウム全体が揺れる。
 「なっ・・・。」
 振り向いた暁の視界の端に、リディア達の姿が映った。
 しかしそれは、上から降ってきた瓦礫によって覆われてしまう。
 叫び声が聞こえ、コロセウムが崩れてゆく・・・。
 「あき!何ぼさっとしてんだ!こっちだ・・・!!」
 冬弥が乱暴に暁の腕を掴み、1つだけ大きく開いている扉に向かって走り始めた。
 そっちに行っても良いのか・・・?
 迷いが生じた。けれども、すぐにそれは消えた。
 「・・・お前が相手で良かった。魅琴やリディアの場合、容赦なさそうだからな。」
 そう言って、微かに微笑む。
 「冬弥ちゃん・・なんで・・・??」
 「敵を欺くにはまずは味方からって、小学校の時に習わなかったか?」
 ・・・そんな事を教える小学校は嫌だ・・・。
 「後で説明してやるから、とにかく今は走れ!」
 その言葉に、暁は全ての考えを消し去ると、とにかく光りに向かって走り始めた。
 「また、引き分けだな。」
 「・・・うん。」
 暁は頷くと、ほっと、小さく微笑んだ・・・。


     〈END〉 


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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  4782/桐生 暁/男性/17歳/高校生アルバイター、トランスのギター担当

  3974/火宮 翔子/女性/23歳/ハンター


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 ■         ライター通信          ■
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  この度は『白銀の姫』“片翼の双子〜An oath Dream〜U”にご参加いただき有難う御座いました!
  そして、いつもいつもお世話になっております。(ペコリ)
 
  この度はこちらの諸事情により、納品が大変遅れまして、心よりお詫び申し上げます。


 桐生 暁様

  何時も有難う御座います。そして、今回もご参加いただき有難う御座いました。
  物語は急展開をむかえましたが・・・如何でしたでしょうか?
  私の予定では片翼の双子〜An oath Dream〜はあと2回で終了の予定です。
  もしよろしければ、最後までお付き合い願えればと思います。


   それでは、またお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。
      “amerial-ghoden”