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<白銀の姫・PCクエストノベル>


<鬼【バグ】退治>

●勇者として
 アリアンロッドの陣営。
 そこにひょんな事から所属してしまった桃太郎こと高梁秀樹は、『勇者』という職業意識で寄せられる仕事に就いていた。
 時には只のガードマン、時には重労働と……
「よく考えれば、これはおさんどんと言うのではござらぬか……」
 と、考えに至るまでに既に数日が経過していた。
 仕事をこなしては『勇者の泉』で一日の疲れを取る為に食事し、仲間の勇者達からと歓談して戻る。
 そんな日々を過ごしていた秀樹の元に、非常に珍しい……いや、本来の彼なら普通の筈の相談があった。
 何でも【東野村(とおのむら)】と呼ばれる場所にアサルトゴブリンの集団が出たというのだ。
 それも、尋常な数ではなく、地域が占拠されるには時間は掛からなかったという。
「小鬼でござるか……数も50とは……多いでござるな」
 鬼退治と聞いては、彼は無下に断る事が出来なかった。出来るだけ多くの人数を集めたいのだが、彼を含めて10人まで位が適当だろうと、この依頼を持ってきた人物は語った。
 愛刀を手に、久々の戦に武者震いを覚えながら秀樹は仲間達と共に東野村に向かうのだった。

●桃太郎さん
 東野村にたどり着いた矢先に、武藤・静は袖に隠してあったコルトガバメントを取り出して高梁・秀樹を慌てさせた。
「なんぢゃ? 妾は勇者という柄ではないのぢゃが秀樹は桃太郎ぢゃから、いわば元々勇者ぢゃし、適任ぢゃろう。しかも鬼退治とは天職としか言えぬのぉ?」
「だからといって、その様な物騒な……」
 齢11にして拳銃の銃口を舌なめずりしそうな怪しさで秀樹に迫る静に、本物の鬼退治の第一人者の腰が退けている。
「なぁに、この世界、いまいち良く判っておらぬのぢゃ。本来の陰陽の力は使えるのかどうかも不明ぢゃからのぅ?」
 それで拳銃をと、脱力した秀樹の肩をぽむぽむと叩きながら深く考えるでないと元気づけてみせる。
「まぁ、使えぬ時はと思って準備したまでの話ぢゃ。これ<銃火器>でも借りて打つとはいえ、矢張り妾の身では過ぎると思うのでな……何か言いたそうぢゃな?」
 ギロリと、ねめつける静の視線を受け流して秀樹は立ち上がる。
「いえ、何でもありませぬ。流石に鬼と聞いてはこの身が引き締まる思いがすると……」
「ふむ? 頑張るのぢゃぞ、秀樹。妾のようなか弱い乙女は前衛の援護と相場が決まっておる」
「そうでござるな」
 既に精も根も尽き果てたという声色の秀樹の肩を叩きながら続ける静。
「索敵と生存者の捜索位は手伝ってやるぞよ」
 言い切るところが素晴らしい勇者様である。
「判ったでござるよ……いざ……」
 風に流れる長髪を固く結んだ組紐を纏めながら、青年の表情が戦士に変わっていくのを見ていると、静も今置かれた身が戦場の真っ直中であることを再度認識出来た。
 だが、だからといって不思議と怖いとは思わなかった。
「このような機会、滅多にない故楽しむのぢゃ」
 フフンと、鼻で笑ってみせる静の目の前に、アサルトゴブリンの群れが彼女達≪正常なプログラム≫目がけて殺到しているのが映っていた。
「ふ。征くのじゃ秀樹! 其の力とくと見せてやるが良いのぢゃ!」
 主に日本の関西地区で用いられる必殺ハリセンを具現化させて、激励ならぬヤジを飛ばし始める静を背に、溜息を一つ吐いて秀樹はその身に鎧を纏った。
「ふむ、妾も少しは仕事をするかの?」
 敵にぶつける為ではなく、主に秀樹へのツッコミ用に作ったハリセンを片付けると、式神を召喚する呪符を具現化させて太極を描き上げる。
「出でい! 東方を守護する偉大なる竜よ! 引き裂け! 西方を駆ける勇猛なる虎よ!」
 青い輝きと白い光りが質量を持った実態を結びつつある中で、更にに枚の呪符を実体化させる。
「猛れ! 南方飛翔する大いなる翼よ! 吼えよ! 北方を守護する盤石の獣よ!」
 炎と岩が命を与えられたかのように鳴動し、巨大な姿を現すと、周囲のソースやプールデータさえ吹き飛ばす威風堂々の存在が実態としてそこに出現する。
「ほうれ、たまには役に立つところを見せてやらぬといかんぢゃろうからな、秀樹よ……ん?」
 可愛らしく眉をひそめる静の目の前で、二十数体のアサルトゴブリンの間を駆けた秀樹の両手から刃の輝きが消えた。
「静殿、これで終わったでござ……る……」
 終わった。
 何もかもが終わったことを、秀樹は振り返って見た静の怒りの形相に知った。
「おぉぉぉぉのぉぉれぇぇぇわぁぁぁ! 妾が折角召喚したこの者達を何だと心得ておるのぢゃ!」
「…………」
 答えられない。
 答えられないのは、己の行き場所を失った四神も同じ事なのか、召喚者である静の形相を見下ろしながら『困った』風にも見て取れる。
「ふふふ。ふっふふふふふ」
 アサルトゴブリンの群れよりも怖い笑みをその時見たと、後に秀樹は語る。
「行けい。秀樹を更に勇者に相応しい者に育ててやらぬとな……」
「……辞退しとうござるのだが?」
 にじり寄る四神に対した秀樹が焦る。
「問答無用!」
 巨大な四神の咆吼が、東野村に響き渡るのだった。

●召喚!
「まぁそういうことでしたら…仕方ないですよね」
 いそいそと、東野村の一角に立った上月・美笑は左腕に装着したデュエルグラブに55枚のデッキと召喚するヴィジョンを入れて立った。
「さぁ、私のデッキの調整役……もとい! 不埒にもこの地を荒らすアサルトゴブリンさん達は何処です!」
 誰かが聞いたら、アサルトゴブリンさんは無いだろうという指摘が上がりそうなのだが、美笑は気にしない。
 どちらかといえば、アサルトゴブリンさん一杯って言うことは、≪群れ出るヤギ≫と一緒で【x/x/x】なのかしら? という、実に彼女らしい疑問で一杯だったのだ。
「来ましたね。線香を上げたんですから、容赦は無しですよ!」
 手札に4枚のカードを持った状態から、二枚を引き出して見ると、既に勝利への布石が整っている。
「≪熟考≫! 2枚を戻して、手札から一枚切って≪ゴーレム工房≫をセット! ≪竹鎧≫2体を召喚! ≪竹鎧≫でアサルトゴブリン2体に攻撃!」
 ゴーレム魔法で生み出されたサント大陸の不思議、竹を素材としたゴーレムの勇が猛然と速度を増してアサルトゴブリン2体に襲いかかる。
 巨大な薙刀がアサルトゴブリンを一刀両断して、先頭にいた2体の爆発で続く後陣が遅れを取る形になった。
「≪ダイヤモンドダスト≫を展開して≪バジリスクの瞳≫を置いて、私のターンは終了です」
 手札全てを失っても、余裕の表情の美笑。
 既に次のターンに手に入るカードは判っているからだ。
 アサルトゴブリンの群れはゆっくりと彼女に近付くのだが、あっさりと≪竹鎧≫によってその侵攻を阻まれ、展開されたエレメンタルフィールドによって≪竹鎧≫には傷一つ付いていない。
 そして、何やら巨大な砲台が相手に置かれたのを見て、美笑は軽く眉を寄せる。
「成る程、では手元には是非あれが……いえ、まだ早いですかね?」
 美笑の番になり、≪バジリスクの瞳≫を破壊したことで美笑は手札を補強して≪霧のヴェール≫を形成した。
「更に私は≪フロストウルフ≫を召喚! ≪竹鎧≫でアサルトゴブリンに攻撃! その後に≪フロストウルフ≫で攻撃!」
 2体の竹鎧が突き進み、その合間からフロストウルフがアサルトゴブリンの喉笛を噛み千切る。
「凍結より先に消えてしまいましたか……念の為にもう一枚≪バジリスクの瞳≫を設置して私のターンは終了です」
 完全な鬼引きだった。
 続く敵の攻撃も竹鎧とフロストウルフが完全に防ぎきり、美笑は≪深淵の宝物庫≫と≪フロストウルフ≫を展開した時点で敵の数を改めて確認し、アサルトゴブリンが逃げ出すかどうかをじっと見定めるように見つめた。
「……逃げないんですね。判りました。≪竹鎧≫2体でアサルトゴブリンを撃破! ≪フロストウルフ≫2体で敵に攻撃!」
 キャンサーの聖獣である≪銀の乙女・ローズマリー≫の効果で、≪竹鎧≫と≪フロストウルフ≫の動きは俊敏になり、確実に敵を屠っていく。
 最終兵器に取って置きの準備をしておいた≪フリーズフィールド≫と≪ミスティドラゴン≫の登場を待たずして、アサルトゴブリンの群れは壊滅状態に陥っていったのだった。
「さて、これで完璧ですよね?」
 周囲を見渡しながら、巨大な≪竹鎧≫と≪フロストウルフ≫に護られて立つ美笑がデュエルグラブを外すと、召喚獣と聖獣達が光となって消えて行く。
「今回は鬼引きだったのと、敵の速度が問題外だったわよね……」
 アサルトゴブリンの砲台が≪フレイムエレメンタルキャノン≫だったら等と、美笑なりに研究は尽きないのか、長い裾のドレスが風に巻き上がるのを気にしながら、それでもデッキの中身をサイドボードの15枚と見比べながら歩き出すのだった。

●遠野村というフィールド
 それぞれの担当地区を制して東野村にたどり着いた者達は東野村の住人、NPC達と遭遇して違和感に襲われた。
「……日常を送っている者が居ると思えば、あのアサルトゴブリン達を恐れているって言うNPCも居たわね」
 シュライン・エマが首を捻りながら言うと、武藤・静もうむと頷いて変じゃなと上月・美笑を促している。
「そういえば、変ですよね。<統一されていない>って言うんでしょうか?」
「そうだね。これでは、まるであのアサルトゴブリンの襲撃も予めイベントに組み込まれていたように思えてしまうよ」
 モーリス・ラジアルの言葉に、皆もその点が気になっているという風に顔を見合わせる。
「でも、ここでこれ以上の情報が得られるとは思えないんだけれど?」
 あくまでも冷静に綾和泉・汐耶が続けて言う。
 それは確実な、そして目に見える真実だった。
「……崩壊していく……」
 今、彼等の目の前で東野村を飲み込もうとする破壊の波が押し寄せていた。
 現実世界ではあり得ない、プログラム消滅によるフィールドの崩壊。
 それは電脳世界での消滅を意味している。
「何かに気付いてしまった、それがまるで気にくわないといった感じの消し方ね……」
 シュラインが悔しげに歯噛みする。
 何かが、そこにあったのかも知れないのだ。
 だが、既にその≪何か≫を得る機会はないだろう。
 崩壊して行く東野村の景色を、最後まで見送ってから現実世界からの≪勇者≫達は帰途に就くのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3205/武藤・静/女/11歳】
【3001/上月・美笑/女/14歳】