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<東京怪談・PCゲームノベル>


文月堂奇譚 〜古書探し〜

田中裕介編

●偶然の出会い
「あーあ、ついつい買いすぎちゃったわね……」
 商店街から大きな荷物を抱えた一人の女性が古書店『文月堂』に向かって歩いていた。
 買い物袋を抱えている為に目の前が見えにくいその女性は、一人の男性が自分の前を歩いている事に気が付かなかった。
 そしてその女性、佐伯隆美(さえき・たかみ)は目の前を歩いていた田中裕介(たなか・ゆうすけ)の持っていた大きなトランクに足をぶつけてしまう。
 足をぶつけた隆美はそのままバランスを崩し、尻餅をついてしまう。
「きゃっ!!」
「あ、だ、大丈夫ですか?」
 裕介は隆美が悲鳴を聞いて慌てて振り返った。
「いたたた…」
 隆美は腰をいたそうに擦っているのを見て、裕介は心配そうに声をかけた。
「あらら、お買い物してきた物が散らばっちゃいましたね」
 道端に飛び散ってしまっている野菜などの食料品を裕介は拾い集める。
「あ、ありがとうございます……、ええっと?」
 お礼を言おうとして隆美はその男性の名前を知らない事に気が付き言葉を詰まらせる。
「あ、おれは田中裕介って云います。ひょっとして貴女は佐伯隆美さんでは?」
「え?そうですけど、どうして私の名前を?」
「いえ、何となくだったんですけど、隆美さんの妹さんの紗霧さんとはいささか面識が有りまして、今日も頼んでいた本がないか文月堂に行こうと思っていた処なんですよ」
「そ、そうだったんですか…」
「隆美さんも文月堂に戻られるんですよね?俺が荷物を半分お持ちしますよ」
「え?いいですよ、お客様にそんなこと悪いですし」
「いえいえ、女性に優しくするのは男の基本ですから」
 そう言って裕介に憎めない微笑を浮かべられて隆美は断る事ができなかった。
「それじゃ……お願いして良いですか?」
 起き上がりながら、すこし上目づかいで裕介に返事をする隆美。
「ええ、喜んで」
 裕介はそう言いながら荷物の半分を手に持つのであった。

●文月堂にて
 文月堂への道を裕介と一緒に歩きながら、疑問に思った事を隆美は裕介に聞いた。
「処で裕介さんは紗霧にどんな本を頼んでいたんですか?」
「ああ、それは服飾関係の本ですよ。俺はこう見えても服屋を営んでいて、その関係もあって昔の裁縫の本とか、洋服を紹介している本を資料として紗霧さんに頼んでいたんですよ。俺は紗霧さんの通っている神無木高校で何回かお会いしているので、その時にお願いしたんですよ」
「ああ、なるほど。でもなんでそういう事をあの子は言わないのかしら?」
「さぁ?なんででしょうね?俺には判りませんが、一人で頑張りたいっとかってあったんじゃないですか?」
 そうこう話している内に二人は文月堂の前までやってきていた。
「ただいまー」
 隆美がそう言って扉をゆっくり開けて中に入る。
 そして、裕介の事を中に入る様に誘う。
「荷物を持ってくれてありがとう。これ奥に置いて紗霧を呼んできますね。それからお礼にお茶でもお出しますね」
「あ、お構いなく」
 そう言って裕介は近くにあった椅子を自分の方に引き寄せて、そこに座って隆美が紗霧を連れてくるのを待つ事にした。
 適当に本を読みながら隆美達の事を裕介が待っていると隆美がもう一人の少女を連れてきた。
 隆美が連れてきた少女、佐伯紗霧(さえき・さぎり)は裕介に向かって小さく頭を下げる。
「こんにちは。お久しぶりです裕介さん」
「ああ、紗霧さんこんにちは、それで俺が頼んでいた本は見つかりました?」
「あ、はい、ええっと頼まれていた本は有りましたよ……、確かここに置いておいたはずなんだけど…」
 そう言って紗霧がカウンターの横にある棚をごそごそと探し始める。
 しばらく紗霧が探していると一括りにしてある本の束を山の中から見つける。
「あ、有りました!」
 紗霧は不用意にその本の束を山の中から抜き出した。
 そして、不用意に山となっている本の棚の中から本を抜き出すとどうなるか……。

……
………
…………

 『ドサドサッ!』という激しい音を立てて本が雪崩となって紗霧を襲った。
「いたたたっ……」
 本の洪水に埋もれて紗霧がその場に倒れこむのを見て裕介と隆美がこみ上げてくる笑いを必死にかみ殺そうとしていた。
「全く、いつもいつも、本を出す時は気をつけなさいって言ってるじゃない」
 仕方ないわねとでも云う様に隆美が散らばった本のかたずけをし始める。
「ほら、ぼぉっとしてないで、裕介さんにそこのお茶とその手に持ってる本を渡してきて上げなさい」
「う、うん……」
 紗霧は小さく頷くと裕介の所に本とお茶を持って行った。
「あの頼まれていた本と、その……お茶です」
 先ほどの失態を見られている為に、紗霧は何処か恥ずかしげに本とお茶を差し出す。
「あ、あの……どうぞ…」
「ああ、ありがとう、それが探しておいてもらった本かな?」
 お茶を受け取りながら裕介が紗霧に話し掛ける。
「は、はい…そうです、なかなか見つからなくって、これであっていれば良いんですけど…」
 何処か歯切れの悪い紗霧の言葉を聞きながら、裕介は受け取った本のタイトルと中身を確かめる。
 受け取った本は三冊、タイトルは『英国式服飾』『十九世紀に見る英国文化』『英国ドレス大全』というタイトルであった。
 しばらく中身を確かめていた裕介を紗霧は心配そうに見ていた。
「……ど、どうですか?それで良かったですか?」
 紗霧のその言葉にようやく思い出したかのように裕介は顔を上げて紗霧に微笑む。
「ええ、これで問題ないです。ありがとう」
「そ、そうですか……。良かったです」
「そういえばなんで隆美さんに相談しなかったんですか?」
 横目で散らかった本を片付けている隆美の事を見ながら裕介は紗霧に聞いた。
「あ、あの……それは…、いつもおねえちゃんにお世話になりっぱなしだから一人で頑張ってみようって思って…」
 そう話す紗霧の頭を裕介はポンっと優しく叩く。
「そういう事でしたか、でしたら頑張った紗霧さんにご褒美を上げましょうか」
「ご褒美…ですか?」
 きょとんとして裕介の事を見る紗霧であったが、裕介はそのまま隆美に話し掛ける。
「隆美さん良ければ、紗霧さんへのご褒美を手伝ってもらえませんか?隆美さんも出来れば御一緒に」
 そこへようやく本の片付けの終わった隆美が二人の所へやってくる。
「手伝うのは良いけど、一体?」
「ああ、たいした事じゃないですよ。ちょっと色々持ってきた物が有りまして」
 そう言って裕介は持ってきたトランクに目をやった。

●トランクの中身
 裕介の持ってきたもの、それは洋服であった。
 なんで今あに沢山の女性物の洋服を持ち歩いているのか?といわれると不思議でしかないのだが、トランクには一杯の女性物の洋服や下着が入っていた。
「是非これを着て見てください、サイズはお二人にぴったりだと思いますから。それは俺が保障します」
 どうして二人にぴったりのサイズだと言い切れるのかも不思議ではあったが、裕介に取ってはそれが普通の様であった。
 しばらくそのトランクの中を見ていた隆美と紗霧であった。
 紗霧はトランクの中は行っている可愛いワンピースに目を奪われていたが、隆美はかなり大人っぽいいわゆる大人っぽい黒い下着を見つけ少し呆れた様に裕介に話し掛ける。
「なんでこんなのまで入ってるの?」
「あ、それは隆美さんに似合うと思いますよ、服はそうですね……、これなんか合うと思いますよ。紗霧さんにはこっちなんて良いと思いますよ」
 殆ど押し売りにも取れるような勢いで二人に持ってきた服を勧める裕介。
「さぁ、折角ですから着て見てくださいよ。似合うのは保障しますから」
「そ、そうね……」
 隆美が頷くのを見て裕介は嬉しそうにする。
「紗霧さんも喜んでるみたいですし、俺は向こうに行ってますから是非着て見てください。着替えたら呼んでくださいね」
 そう言って裕介は文月堂の店の方へと歩いて行った。
「それにしても……、派手な下着……」
 先ほどの下着を目の前で広げて思わず呟く隆美。
 そこへいつの間に戻ってきたのか裕介がひょいと扉から顔を覗かせる。
「あ、さっきの下着はちゃんとつけてくださいね?セットで似合うようにコーディネートしましたから」
 唐突に聞こえた声に隆美はぽっと顔を赤らめて慌てて下着を隠す。
「わ、判ったから、いきなり出てこないでください!」
 隆美は思わず声を荒げてしまう。
「お姉ちゃん本当にそれ履くの?」
 紗霧が思わず隆美に聞いてしまう。
「着なくちゃいけないみたいね」
 隆美のその言葉に満足したのか裕介はまた文月堂の店内に戻って行った
「それじゃ楽しみにしてますから、向こうで本を読んでますね。あ、店番はやっておきますからご心配なく」
 そう言って何処か楽しそうに裕介は店にもどって行った。

……
………
…………

 しばらくして二人はコーディネイトされた服を着終わる。
 隆美が太もものかなり上の所まで大きくスリットの入ったタイトスカートにシャツにジャケット、一見するとスーツの様にも見えなくもないが、仕事着とは違う何処か艶っぽさがあった。
 紗霧の方は黒いフリルの沢山付いたワンピースでいわゆるゴシック風といわれるものであった。
 隆美が文月堂にいる裕介に声をかけようとした所に扉が開いた。
「そろそろ着替え終わったころかな?と思いまして」
 自らが服屋をやっている勘か、着替え終わった丁度の所に裕介はやってきた。
「やっぱりお二人ともよく似合ってますよ」
「そうですか?なんか嬉しい」
 裕介のその言葉に素直に喜ぶ紗霧であったが、隆美は何処か訝しげにしていた。
「どうしました?隆美さんもよく似合ってますよ?」
「本当、あつらえた様にぴったりなんだけど、どうしてかしら?」
「それは秘密ですよ」
 何処か楽しそうにしている裕介であった。
 そしてその後しばらく隆美と差あ霧の二人は裕介の持ってきた服をとっかえひっかえ着る事になるのであった。
 紗霧は様々な服が着る事ができて始終嬉しそうであったが、隆美は何処か遠いところを見る事があったというのはまた別の話である。


Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■ 田中裕介
整理番号:1098 性別:男 年齢:18
職業:孤児院のお手伝い兼何でも屋

≪NPC≫
■ 佐伯・隆美
職業:大学生兼古本屋

■ 佐伯・紗霧
職業:高校生兼古本屋

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■         ライター通信          ■
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 どうも初めまして、ライターの藤杜錬です。
 この度はゲームノベル『文月堂奇譚 〜古書探し〜』にご参加ありがとうございます。
 裕介さんの飄飄とした処を上手く表現できていれば良いのですが、如何だったでしょうか?
 楽しんでいただけたら幸いです。
 それではありがとうございました。

2005.04.01.
Written by Ren Fujimori