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<東京怪談・PCゲームノベル>


文月堂奇譚 〜古書探し〜

田中裕介編

『……今はどこに在りしか判らぬこの世にただ一冊だけあるというその本……。
 その本は表紙にも中にも何も書かれていないという……。
 その本はその本を開きし者の願望をや願いを本の中で叶えるという。
 ただその本は真実にあらず、いくらその中で願いが叶おうともそれはただ夢現なり…。
 夢とはいずれ覚める物、そしてその夢の代価はいずれ払わねばならぬものなり……』


●白き本
 たまたまそれは偶然であった。
 丁度、暇つぶしに田中裕介(たなか・ゆうすけ)が古書店『文月堂』に来ていたのは。
「こんにちは」
 そう言って文月堂に入ってくると、今まで店番をしていたらしい黒髪の女性が立ち上がる。
「あ、裕介さんこんにちは、丁度良かった。ちょっと店番頼まれてもらえませんか?」
「あ、それはいいですけど……」
「本当?丁度良い所に来てくれて助かったわ」
 そう言って黒髪の女性、佐伯隆美(さえき・たかみ)は慌てる様に店の奥に消えて行った。
「やれやれ、これでも俺は一応お客なんですけどねぇ……」
 苦笑しながらも裕介は隆美のいなくなったカウンターに座ろうと歩き出す。
 そしてふと、店の奥の目立たない所に落ちている一冊の本がその目に留まる。
「おや、あんな所に落ちていたら汚れますね、拾っておきますか」
 裕介はそう言いながらその本を拾った。
 拾ったその本は一切タイトルという物が書いて無かった。
 裕介がカウンターで先ほど拾った本を開こうとしたその時隆美が奥から戻ってきた。
「ごめんなさい。ちょっと用事が出来ちゃって…」
「いえいえ、いいですよ。いつもお世話になっていますから」
「そう言ってもらえると助かります」
 二人がそんな風に話していると、文月堂の扉が開き神無木高校の制服を身に包んだ、銀髪の少女、佐伯紗霧(さえき・さぎり)が入って来た。
「ただいまー、あ、裕介さんお久しぶりです」
 裕介は紗霧の事を見ながら、手に持った本の最初のページを開いた。
 その本には全く何も書いていない白紙のページがあった。
 そして本が突然光を放ち、三人の事をその光が包んで行った。
 しばらくしてゆっくりと光が収まったその時、三人の姿はその場から消えて、裕介の持っていた本だけがその場に残されていた。

●本の中で……
 ここは人里離れた所にある洋館である。
 この洋館には二人のメイドの姉妹と館の主人である男性が住んでいた。
 二人の姉妹は幼い頃この館のある森の中で迷っていた所をこの館の主人である田中裕介に拾われたのだった。
 以来姉妹はこの館でメイドとして働き、時には励まし合い、時には叱咤しあいながらやってきたのだ。
 姉妹の名前は佐伯隆美と紗霧といった。
 そしてそんなある日の昼過ぎの事、メイド服に身を包んだ隆美と紗霧が休憩室で話し合っていた。
「お姉ちゃん裕介さんに今日の午後のお茶は持って行ったの?」
「こら!紗霧、またそんな言い方をして……。裕介さんとか言ってはダメといつも言っているでしょう?ちゃんとご主人様ってお呼びしないと……」
「またお姉ちゃんいつも堅すぎると思うよ?裕介さんは気にしないと思うよ?」
「ダメです!仮にも私達はご主人様に雇われているのですから、その主従に対して過ちが起こる様な事が起ってはならないのですから!」
 まるで幼子を諭すように隆美は紗霧に向かって話す。
 諭された紗霧は頬を膨らませて、隆美に反論をする。
「そんな事言って、お姉ちゃんだって本当はもっと親しみのある言い方をしたいって思ってるの判ってるんだから」
「え……そ、それは…」
 紗霧のその言葉に思わず隆美は言葉を続けられなくなる。
 その様子に紗霧が思わず勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
「でもお姉ちゃんには私負けないからね。裕介さんは私の物なんだから」
 紗霧のその挑戦とも取れるその言葉に隆美も負けじと声を荒げる。
「ご主人さ……いえ、裕介様はあなたには渡しません。何があっても!」
 しばし二人はお互い黙ったまま、見詰め合う。
「それじゃお姉ちゃん勝負しようよ」
「勝負?」
「うん、勝負」
「それはどういう?」
「そ、それはまだ考えてないけど……」
 しばらく二人は黙っていたが、隆美が1つの提案する。
「それじゃこうしましょう。二人で午後のお茶を裕介様に持っていって、それぞれ精一杯ご奉仕するの。それで裕介様が喜んでくれた方が裕介様の一番になる、これでどうかしら?」
「判った、それで良いよ。でも変な抜け駆けは無しだよ?お姉ちゃん。フェアに行くんだからね?」
 紗霧はそう言って思わず自分の身体と隆美の身体を見比べてしまう。
 どうしてもそこには年齢による差があるのを見て念を押すように紗霧は言う。
「判ったわ、ちゃんとメイドとしての奉仕での勝負よね、判ってるわ」
「あ、そろそろ午後のお茶の時間だね。私は向こうの部屋で準備するからおねえちゃんは向こうね?」
 言うが速いか紗霧はすでに駆け出していた。

●スーパーウルトラブレンドティー
「ふぅ今日のお茶はやけに遅いな。またどちらが持っていくかで揉めてるのかな?」
 書斎で本を読みながら裕介はそんな事を一人ごちた。
 その書斎の前では隆美と紗霧がそれぞれ自分でブレンドし、裕介が好きだと思うお茶を煎れ、そして裕介が好きだとおも割れるお茶受けをそれぞれ用意して扉の前に立っていた。
 二人は頷きあうと二人で一緒に扉を叩く。
「「ご主人様午後のお茶の時間です」」
 二人一緒にそう声を掛けると扉の中から返事が来る。
「おや?珍しいですね。二人一緒にとは。どうぞ入りなさい。開いてますから」
 裕介のその言葉に二人は再び頷く。
「「では、失礼いたします」」
 二人はそう言ってゆっくり扉を開けると中に入っていった。
「どうしたんですか?今日はなにかあったんですか?」
 二人一緒にと言う珍しい事態に裕介は思わず二人に問う。
「今日は私と紗霧がどちらがご主人様の事を判っているか、それを確かめたいと思いまして、その為にそれぞれ自分の出来る限りのお茶を別々に持ってまいりました」
 隆美はそう言うと二人はそれぞれ持っているトレーを裕介の机に置いた。
「なるほど、そういう事ですか。では俺は今日は審査役、と行った所ですか」
 裕介のその言葉に二人は頷く。
「ではそれではまず年長の隆美さんのお茶から頂くとしますか」
 そう言って裕介は隆美の入れたカップに手を伸ばす。
 ほのかなハーブの香が裕介の身体を満たす。
「ふむ……さすが隆美さん、上品なお茶ですね。美味しいですよ」
 そう言う裕介の微笑に隆美は思わず顔を赤らめる。
「わ、私のはどうですか?裕介様!」
 勢いこむ紗霧を見て苦笑しつつ紗霧の煎れたお茶のカップを裕介は手に取る。
 先ほどの隆美の煎れたお茶とは違い、何処か気が重くなるような香と色をしたお茶らしき液体がそこにはあった。
「健康に物凄くいいです。絶対美味しいですよ。名付けてスーパーウルトラブレンドティーです」
 ネーミングセンスはともかくそう無邪気に話す紗霧を見て裕介は飲まなければいけないんだと思い、その液体を一気にあおる。

……
………
…………ブフォ!!

 その液体を口に含んだ瞬間裕介は激しくむせる
「こ、これは……」
「この館にあるありとあらゆる薬草茶をブレンドして作った特性健康ティーです。お味の方はいかがでした?」
 無邪気に答える紗霧を見て裕介は絶望の淵を見たような顔をして再び大きくむせる。
「こ、こら紗霧!ご主人様になんて物を……」
 隆美は慌てて駆け寄り裕介の背中をさする。
「俺は背中をさすってもらうよりもこちらの方が落ち着きますよ……」
 そう言って裕介は隆美の胸を激しく揉み次第たその時、どこからか冷たい声が響き渡る。

『汝は禁を犯した……汝の夢は終わりなり…』

●エピローグ
「……う…う……ん…」
 文月堂の店内。
 先ほどまで誰も居なかったはずの店内に三人の人影があった。
 そして三人とも気を失っていたが、まず最初に裕介が目を覚ました。
「あ、あれ?ここは……?俺は今まで夢を見ていたのか?」
 そう言って裕介は辺りを見渡すとメイド服を着た隆美と紗霧が椅子に倒れこむ様に気を失っていた。
 裕介は慌てて二人の事を介抱する。
「あ、あれ?私どうしてたの?」
 目を覚ました二人はしばらく呆然としていたが、辺りを見渡してここが文月堂の中だと云う事を把握した。
「夢?私は夢を見ていたのかしら?それにしてもなんて夢……」
 隆美が呟くと紗霧が慌てた様に隆美の事を指差す。
「お姉ちゃん……何?その格好?」
 そう紗霧に言われて隆美は何処か違和感を感じていた自分の着ている物と紗霧の服装を見る。
 それは先ほどまで自分が夢だと思っていた所で着ていた服と全く同じものであった。
「な…な……何よこの服は…」
 何が起きたのか判らないといった様子でメイド服を見る隆美であった。
 そして紗霧はと言うとやはり何が起きたのか判らないといった様子で戸惑っていた。
「こ、この服って……さっきのって夢じゃなかったの?」
「さっきってまさか紗霧も?」
 そして二人の間に先ほどまでの記憶が一気に鮮明なものとして頭に蘇る。
 そして血の気が引いた様になる隆美と紗霧。
 その様子を見て裕介が二人に声をかける。
「どうしました?お二人とも」
 裕介のその言葉に隆美と紗霧ははっとする。
 そして文月堂の中に悲鳴がこだまする。
「寄らないで、この変態!」
「嫌っ!来ないでっ!来ないでー!」
 紗霧は完全に裕介におびえ、隆美は裕介を変態呼ばわり。
「いやだなぁ、俺が何をしました?」
 そう言ってなおも微笑を浮かべたまま近寄る裕介に隆美は近くにあった分厚い百科事典に手を伸ばす。
 紗霧は近くにある本を手当たり次第裕介に投げつけ、隆美は冷たい表情のままその手に持った百科事典を本をそのまま裕介の頭に振り下ろした。
「消え去りなさい!この変態!」

 そして文月堂の店内には裕介の悲鳴が響き渡った。

●エピローグその2
 その後その何も書かれていない本は厳重に何重にも封印がなされ倉庫の奥深くにしまわれる事になった。
 佐伯姉妹は今後もっと本の管理はしっかりしようと云う約束がなされた。
 そして隆美と紗霧の二人はすっかりメイド服嫌いになり、裕介が文月堂にしばらく出入り禁止になったというのはまた別のお話。


Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■ 田中裕介
整理番号:1098 性別:男 年齢:18
職業:孤児院のお手伝い兼何でも屋

≪NPC≫
■ 佐伯・隆美
職業:大学生兼古本屋

■ 佐伯・紗霧
職業:高校生兼古本屋

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■         ライター通信          ■
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 どうもこん○○は、ライターの藤杜錬です。
 この度はゲームノベル『文月堂奇譚 〜古書探し〜』にご参加ありがとうございます。
 前回に引き続き、と云う事になりましたが、今回はこの様になりました。
 裕介さんはかなり酷い目にあう事になったかと思いますが、多分佐伯姉妹にもトラウマになるかと思います。
 こんな感じでしたが如何だったでしょうか?
 楽しんでいただけたら幸いです。
 それではありがとうございました。

2005.04.04.
Written by Ren Fujimori