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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


【ロスト・キングダム】鬼火ノ巻

投稿者:MTB
青梅市の山ん中に探検に行った連中が行方不明になった話知ってる?

投稿者:名無し
あれって青梅市だったのか。大学生3人のグループだって聞いた。

投稿者:MTB
連中、神聖都大の学生でさ。
知り合いの知り合いで、前の日にツレに行き先話してたから
場所わかっちまったの。

投稿者:名無し
詳しく

投稿者:MTB
×月×日に行ってみようかなーとか思ってんだけど、
一緒に来たいやついない?
山奥に、廃屋が並んでてさ……そこって昔は村だったんだけど
なにかあって今はなくなっちまったんだって。地図にも載ってないらしいぜ。

投稿者:通りすがり
「杉沢村」かよw!

投稿者:MTB
まあまあ。実際、何かあるかどうかは、行ってみりゃわかるじゃん?

■地図から消えた村

「いやあ、車を持ってる人がいて助かったよ」
 ハンドルネーム「MTB」氏は、本名を牧田政行といい、神聖都学園大学の二回生だった。見たところ、どこにでもいるような、何の変哲もない青年である。
「しかも左ハンドルじゃん! 凄いや」
「大したことないのです。さ、乗ってください」
 マリオン・バーガーンディが用意したのは、クラシックなスポーツカーだった。大きくはないが、4人なら充分乗れるし、これは特に走りが気に入っている一台だった(そう、彼の所有する車は一台だけではない)。
「お荷物、持ちましょーか?」
 桐生暁は、同行者中の唯一の女性――三雲冴波に声をかけた。
「結構よ、これくらい。……それってナンパ?」
「まさか。綺麗な人に親切にするのは当然でしょ」
 金髪の高校生は笑った。少年らしい屈託のない笑みのようでいて、しかし、瞳の奥になにか含みを持った笑顔だった。
「好意だけありがたく頂戴しておくわ」
 冴波はするりとかわして、バックシートに滑り込む。暁がそのあとに続いた。
「トランクに積みますか? みなさん、ずいぶん、大荷物なのです」
 マリオンが首を傾げた。
「まあ、山歩きだからねえ。マリオンさんは軽装だね?」
「必要なものは全部ここです」
 といってデジカメを示した。MTBこと牧田は、意味をはかりかねて、目をしばたいた。
「さあ、それでは出発しましょう」
 マリオンは運転席に坐ると、色眼鏡をかけた。
「場所、わかってるね? 途中まで山道だけど……」
 助手席の牧田が地図を出そうとするよりも早く――
 マリオンが思い切りアクセルを踏んだ。
「峠を攻めるのは久しぶりなのです」
 車は、制限速度のおよそ二倍のスピードを出して、目的地へと、文字通り飛ぶように向かうのだった。

「スレッドを見たけど……ずいぶん曖昧な話なのね」
 冴波が言った。
「本当に見つけられるの?」
「んー、連中が山に入った地点は間違いなくわかるから……もともと村があった場所なんだし、そんなに山奥過ぎることもないでしょ」
「いやよ。山の中で迷子だなんて」
「ああいう場所は迷うのがあたりまえなんです」
 ハンドルを切りながら、マリオンが口を挟んだ。
「たまには冒険もよいと思うのです」
「……」
 緊張感のないマリオンに、冴波は息をつきながら、前髪をかきあげた。見た目では彼女が一行の最年長なので、なにか責任のようなものを感じているのかもしれなかった。
「で。いなくなったコたちの手がかりはまったくないわけ?」
「そうなんスよね〜」
「……バカだよね。だからやめとけって言ったのに」
 ふいに、暁が言った。
「え……」
「いや……実はちょっち知合いでね」
「そうなの?」
 冴波が驚いて、少年を見つめた。
「もしかして、写真か何かある?」
「あるかもね」
 暁は、ごそごそとリュックを探した。
「お」
「あった?」
「リンゴ食べる?」
 しかし出てきたのは、赤い果物だった。
「……」
「果物ナイフもあるよ、剥いたげよっか? あ、チョコレートも出てきた」
 冴波はため息をつくしかなかった。
(ひとりで行くんだったわ)
 車の窓から、目指す山の稜線が見えてくる。
 今頃あの空を、彼女が使役する存在が飛んでいるはずだ。

「あー、そういえば、大正か、昭和のはじめ頃まではあったかもしらんねぇ。私の親の親の代の話で……記録も……難しいですなァ」
 役所の男はそんなことを言った。
 マリオンの提案で、山に入る前に、目指す廃村についての情報をできるだけ集めようということになったのだ。
「村があったことは事実なんですね?」
 冴波が確かめた。
「でもどうして廃村になったのかしら」
「さあ……わかりませんけど、そんな村、地方では珍しくもないでしょう。過疎というやつですよ」
「過疎……って、ここは一応、東京都でしょ」
 冴波の指摘に、役所の男が笑う。
「東京都ったってあなた、まわりを見てごらんなさいよ。あんたたちみたいな若いもんはみんな、二十三区に出ちまいますわな。誰が好きこのんで、あんな山の中に残りますか」
「村にあった家の跡とかは、残っているんですか?」
「多少はあるみたいだねえ。困るんですよ。廃墟探検っていうの? 最近はそれで、勝手に山に入る連中が多くてねえ」
 言外に疑いをにじませて、職員が、一同をじろじろと見回しはじめたので、かれらは役場を辞した。
「『杉沢村』みたいだ、ってレスがついていたのです」
 再び車に乗り込みながら、マリオンが口を開いた。
「すこし調べてみました。『杉沢村』って都市伝説だったのですね」
「そうそう。“地図から消えた村”の噂」
「あれは……津山事件がもとになった創作なんでしょ?」
「津山事件って?」
 暁が訊ねた。
「津山の村で、頭のヘンな男が、一晩に村人を三十人も殺しちゃった話」
「わは、そりゃクールだ」
「問題の村がどうして消えたのかが気になってるのよ」
 冴波は眉をくもらせた。
「過疎だなんていうけど……どうもひっかかってね」
「行ってみればわかるのです。急ぎましょう」
「って、これ以上……? ぅわあああああ」
 再び、アクセルが全開になった。

■山中の怪屋

 背の高い樹々の枝葉が日光を遮り、あたりはうす暗く、地面は湿っていた。
「なんか、こんな感じのとこ、前にも来たな……」
 と暁。草間興信所の依頼で、奥多摩に出掛けたときのことを思い出しているのだ。
 地図を持っている牧田が先導し、そのあとを暁、そして好奇心に輝いた瞳できょろきょろしながらのマリオン、そして冴波がつづく。
 ふいに、樹木がとぎれた。
「あ――」
 忽然とあらわれたそれは、かつては家屋だったのだろう。
 ほとんど今にも崩れんばかりの、しかしあきらかに人の手による木造の建物だ。割れ残ったガラス窓も見える。
「本当にあった。ここに村があったんだ」
 牧田が歓声をあげて駆け寄った。
「ここまでは、迷うような道でもなかったね」
 暁が言った。
「あいつらもたぶんここまでは来れたはずだ。それから……ここで何かがあったっていうのか?」
 牧田の後につづき、割れた窓から廃屋の中をのぞきこむ。屋根の一部が落ち、かつては畳敷だった床もほとんど腐りはてているようだった。
「役所のおっさん、大正か昭和のはじめなんて言ってたけど、それは言い過ぎだ。いくらなんでももうすこし新しいよ」
 牧田は自分のデジカメで写真を撮りまくっている。あとでゴーストネットにアップするつもりのようだ。
 冴波は、わざとすこし距離を置いてついていった。
 ひんやりした山の空気、緑の匂いを吸い込みながら、彼女は意識を研ぎすませた。
(さあ、何かある?)
 風に語りかけた。
 先行して放たれていた見えざる精霊たちが、山を駆けめぐったすえに、冴波のもとに戻ってくる。
 点在する廃屋。かつては畑だったらしい土地。この山の斜面に、かつてはわずかばかりとはいえ人が住んでいた痕跡がみとめられた。だが、冴波が探したいのはそんなものではない。最近、ここを訪れたものたちの行方なのだ。
「いないわ」
 冴波は言った。
「この山の、どこにもいない」
「えっ?」 
「人の気配がないのよ」
「それって……」
 暁がいいかけたとき、
「こっちに来てくださーい」
 マリオンが呼ばわる声が聞こえた。

「これ……」
 声に導かれて集まった一同は、マリオンが、大きな家の前で立ち尽くしているのを見た。
「歩き回っていたら見つけたのです」
 古そうな日本家屋である。屋根はなんと茅葺きだ。平家だが大きさはそこそこある。だが、異様なのは……
「ちょっと待って。この家……新しいわ」
「廃屋には見えないねぇ」
 そう、他の家々(の跡、といったほうがふさわしい)とはあきらかに一線を画している。
「まさか住人が?」
「人の気配はないけど……」
「調べてみればわかるのです」
 マリオンが、止める間もなく、がらりと戸を開ける。
「ごめんくださーい。どなたかいらっしゃいませんかー?」
 そしてずかずかとあがりこんでいく。
「あっ、マリオンさん、土足だよ」
 牧田があわてたが、
「いいんじゃないの。どう考えても空家だよ。こんなところで生活できっこないもの」
 と暁が続く。
「けど、誰かが最近まで使ってたのは間違いないね」
「……」
 冴波が、最後から油断なく足を踏み入れる。
 中は、一見、どうということはない田舎の家といった感じだった。だが……
(おかしいわ)
 なにがどうとは指摘できない。だが、ここに突然、こんな家があるということ自体が、何かおかしい。
(さっき、あの子たちに調べさせたとき……こんな目立つものが見つからないなんて……)
 床にも、畳にも、埃が積もっていない。
 しかし、家の中は深閑としている。
 だが。
「おいッ!」
 叫んだのは牧田だったか。
「こ、これ!」
「あ!」
 広い畳敷の部屋にあるものを見て、かれらは息を呑んだ。
「やっぱり、ここへ来たんだ!」
 暁が駆け寄る。
「間違いない、あいつらのだ。でも……」
「中身がありませんね」
 マリオンが言った言葉の、なんと不吉なひびきをもつことか。
 そこには、三人ぶんの、人の衣服、そして荷物が……畳の上に捨て置かれていた。いや、というよりも――まるでそこで人が倒れ、その身体だけが溶けて消えたとでもいうように、服も靴も、人が身につけていたときそのままの配置と格好で置かれていたのである。
「なにが起こったっていうの……」
 よく調べようと、冴波が近寄る。だがそのとき。
「!」
 はじかれたように、彼女が見たのは、部屋の一方を仕切る障子だった。つられて、一同の視線もそこへ導かれる。
 そこに――ひとりの人間のシルエットが透けていた。障子の向こうに誰かいる!
「誰!」
 大人の、おそらく男と思われる影だった。
『ここに来てはいけない』
 その影が言った。
『禁を破ったものは、そのものたちのように、殺されねばならない』
「へえ……。じゃあ殺っちゃったのか……おまえが」
 暁の目が、すっと刃物のように細められた。その口元にはあいかわらず、皮肉めいた笑みが浮かんではいたが、眼光は冷たかった。
『それがわれわれの掟だ。山はわれわれの土地なのだから』
「こ……ここは今は……国有地だって……」
 不気味な雰囲気に押されながらも、牧田が言った。
 すると――
 げらげらと、笑い声があたりを取り囲んだ。どこから聞こえてくるのか、相当数の人間の笑い声が聞こえるのだ。
『国だと』
『国が何だというのだ』
『おまえたちの国は何も知らない』
『この島の土地に住むのが自分たちだけだと信じて疑わない』
『だがそうではないのだ』
『山には山に棲むものがいる』
『里を治めるだけの国が』
『山を御しきれるものか』
 きっ、と冴波は影をにらみつけた。
「何者なの。姿を見せなさい!」
 ごう、と風が彼女の意志に応えた。

■風の彼方に

 ばん、と音を立てて障子が開いた。
 だが……そこには何者の姿もない。そして――

 ザ、ザ、ザ、ザ、ザ――

 風だ。
 強い風。
 障子が外れた。そして畳がめくれあがる。
 柱が傾き、屋根が外れ……まるで組み立てられていただけの紙細工が、ぱたぱたとくずれるように、家が解体してゆく!
「何なの!」
 冴波が風に命じる。はげしくうずまく気流が、彼女たちを護った。障子や畳や、壁板に直撃されることこそ免れたが、見る間に家は突風に吹き飛ばされてゆく。

 ザ、ザ、ザ、ザ、ザ――

 家がなくなってしまえば、そこに広がるのは山ばかり。
 そして、樹々のあいだの、木陰の中に……、ぽつぽつと、火が灯るのを、かれらは見た。
 ゆらゆらゆれる鬼火の群れ――。そして、どこか遠くから響いてくるやまびこの声。

「おーーーーーーい」
「おーーーーーーい」
「おーーーーーーい」

「やつらなのか……」
 暁が言った。
「面白い!」
 彼の手の中で、果物ナイフが光る。
「出てきなよ!」
 風に逆らって駆け出した。
「暁くん!」
 冴波が呼んだが、少年は聞く耳を持たない。
 がばっ、と、ふいに、足元の、腐葉土の中から、飛び出してくる影があった。暁に襲いかかろうとする。ナイフの切っ先が閃いた。
「もう!」
 冴波もまた、風に乗って跳んだ。
 土中からあらわれたのは黒装束の、小柄な人間だと知れた。顔も覆面のようなものでおおっているが、目ばかりがぎらぎらと輝き、そして――
(首輪?)
 そう、首には首輪のようなものが嵌っている。
 空を切ったかれらの手には、金属製の爪のような武器が備わっていた。
 ひらり、とそれをかわして、暁はナイフで突いていったが、敵もまたすばしこく、ぱっと飛びのいて攻撃を受けない。
「へっ、やるじゃない?」
 へらへらと笑った。
『無益なことはやめろ』
 またあの声だった。
『しきたり通り、ひとつだけ、授けものをする。それを持って――』

「山から降りろーーーーーー」
「山から降りろーーーーーー」
「山から降りろーーーーーー」

 不思議な声が唱和した。
『退けい!』
 そして、怪鳥が啼くような奇怪な音。土中からあらわれた黒装束たちが、再び地面の下へと消えてゆく。
「待てよッ」
 暁が追い縋るのも構わず――
 鬼火もひとつ、またひとつと消えてゆく。

「山から降りろーーーーーー」
「山から降りろーーーーーー」
「山から降りろーーーーーー」

 風が強まる。目が開けていられないほどに。だんだんと、声が遠ざかっていくのを、聞いているより他はなかった。


 すべてが収まったとき、そこには、家があった痕跡はまったく残っていなかった。
 だが、それが白昼夢ではなかったことは、互いの顔を見てみればわかる。
「あ、これ!」
 マリオンが木の葉の積もった土の上から、それを広い上げた。
 それは、ビデオカメラだった。
「あいつらのだ」
 と暁。
「テープは!?」
 牧田が色めく。マリオンがあらためると、中には一本の、テープが入っているようだった。
「やった、これを観てみれば、手がかりがわかるかもしれない」
「何の手がかりよ」
 冷ややかに、冴波が言った。
「何って、だから……」
「その子たちはもう生きていないんでしょ。かれらはこの山に入って、さっきの連中に会ったんだわ」
「何者なんでしょうね」
 マリオンは興味深げだ。
「それも写っているかもしれませんね」

 *

 後日、ゴーストネットを通じてアップロードされた、「消えた大学生たちの最後のテープ」は、ちょっとした物議をかもした。
 結論からいうと、大したものは写っていなかった。
 ただかれらが、山中に分け入るところから、山の中でキャンプ中に、あやしい物音を聞くところまでが録画されているに過ぎなかった。
「おい、なにか声が聞こえなかった?」
 最後のパートは、テントの中での、そんなやりとりから始まっている。
「ちょっと外見てみろよ」
「おい! あれ!!」
 外は真っ暗だ。
 だが、その中に、遠くゆらゆらと揺れる火が見える。
「誰かいるのか?」
「しっ。また聞こえる」
 樹々のざわめき。風の唸り。そして、人の声のようなもの。
「近付いてくるぞ」
 ザ、ザ、ザ、ザ、ザ――

「あ、あれを見ろ!」
「なんだあれ!」
「う、うわあああああーーーーーー」

 ブツン、

 ザ――――――――――――――――。
 

(鬼火ノ巻・了)

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【4164/マリオン・バーガンディ/男/275歳/元キュレーター・研究者・研究所所長】
【4424/三雲・冴波/女/27歳/事務員】
【4782/桐生・暁/男/17歳/高校生アルバイター、トランスのギター担当】

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■         ライター通信          ■
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大変お待たせいたしました。
『【ロスト・キングダム】鬼火ノ巻』をお届けします。
リッキー2号「ロスト・キングダム」の世界へようこそ。
こちらはゴーストネットを通じて垣間見た、本作のプロローグとなります。
そして、後へとつながる情報や伏線が見え隠れしております。

>マリオン・バーガンディさま
依頼でははじめてのご参加、ありがとうございます。マリオンさんの旺盛な好奇心にかなう冒険であればよかったのですが。移動はマリオンさんの車で、ということになりましたが、山道では安全運転をオススメします(笑)。

>三雲・冴波さま
はじめてのご参加、ありがとうございます。立場的、能力的に、チームを導いていただくような格好になってしまいました。それだけにクールな面が強調された描写になってしまっております。

>桐生・暁さま
またのご参加、ありがとうございます。どうも『木霊ノ巻』に続いて、こちらでも「寸止め」な感じがしてしまっているのが申し訳ないです。少年マンガ的にいいますと「たたかいはこれからだ」的なところでして……。

それでは、機会がありましたら、今後ともおつきあいいただければさいわいです。
ご参加ありがとうございました。