コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


■素顔■




キキィーーーズズ…シャァァアアアーー!!!パパァァアアアアン!!

 車のブレーキを踏む音、スピンするタイヤ、ろくにチェーンも付けていなかった車は、降り積もる雪で、尚も降り続ける雪で足を滑らせ、車道から外れて歩道を歩く中学生に激突した。
 その学生の鍛え上げられた体でも、車の衝突などには全く歯が立たない。為す術もなく衝撃を受け、その体を放り出される。さらに車は勢いを弱めずに、スリップしたまま尚、学生の両足を砕き、その靱帯と骨を粉砕した。
 車は、それを最後にストップする。学生の両足を砕いた事で、滑り止めになったのだ。




 こうして、少年は一命を取り留めた。
 体に、重い古傷を負って…………





 少年のリハビリは長かった。何せ、両膝はほとんど砕けている。ボルト固定されているから動いてくれるが、慣れるまでは、運動神経が上々だった彼でも相当な時間が必要だった。リハビリが終わった今では何の問題もない。体育で行うようなスポーツならば、現在は普通に行う事が出来るようにまで回復している。自慢の部活で鍛えた根性との御陰だろう。
 右肘の方は、両膝と比べればまだましだったため、最初の二ヶ月程でリハビリが終了した。両膝も含めれば三ヶ月。この期間で筋力もずいぶん落ちていたため、部活に復帰出来るように、退院してすぐにトレーニングを開始した。彼は怪我をして、医師の宣告を受けても尚、それが大好きだったのだ。

 たとえもう二度と、表舞台に立てなかろうと…………






 バン!

 学友同士がぶつかり合う。汗が飛び散り、周囲の者達はそれ!やれ!とぶつかり合う二人に掛け声を掛けて気合いを入れていた。ぶつかっている二人は、それぞれが相手を倒そうと、躍起になって押し合っている。時々張り手が飛んだりするが、それでも主な勝負はぶつかり合いだった。やがて一人の後輩が「うわぁっ!」と言いながらこっちに向かって飛んできた。よほど強く投げられたのか、はたまた飛ばされただけでなく躓いてもいるのか、土俵を超えて、こちらの足下にまで来てようやく止まった。

「大丈夫か?」
「えっあ!和泉先輩!大丈夫っす!!」
「そうか、あまり無理すんなよ」
「ハイっす!」

 後輩が駆けていき、次の順番を待ちに列に戻っていった。
 その姿を見ているのは、和泉 大和(いずみ やまと)。年齢17歳で、都内の私立高校生。かつて、全国屈指の相撲取りと言われ、中学生の時の事故によって、両膝と右肘に古傷を負い、現役を引退した男である。そのためか、高校に入った今ではその事実を知る者も少なくなり、現役時に入りたかった高校の相撲部のマネージャーとして携わっていた。現在はすっかり昼行灯としてみられ、彼の本当の顔を知る者などほとんど居ない。
 大和は、後輩が駆けていくのを見てから、土俵に視線を戻す。その上では、この相撲部一番のエースの一年生が、先輩を一人投げ飛ばしている所だった。投げられている相手は旧友であり同級生の、この相撲部の部長である男である。ちょっと情けないが、これでも、一年エースが現れるまではここで一番強かった男だ。……ついでに、和泉の中学生の時からの悪友でもある。

「これまた、派手に投げられたな」

 和泉は、後ろの方で休みに入った部長に話しかけた。部長の方は溜息を吐き、「お前が現役だったらなぁ………」と嘆いた。

「何言ってんだ」
「あいつ見てるとそう思えてくるんだよ。お前に投げ飛ばされても、結構気分が良かったもんだけどな。あいつだとなんか嫌なんだ」

 部長が、苦々しげに言う。「ふーん」と、気のない風に、視線をまた土俵の上に戻した。
 土俵の上では、まだ一年エースが、同級生と上級生達を投げている。時々張り手などで押してもいる。大和から見ても、十分な逸材だろうと思えた。

「嫉妬か?」
「バカ言え。あいつのあの、勝った後の捨て科白とか、立ち振る舞いが気に入らんのだ。とてもスポーツマンのする事ではないぞ」
「ァ、そう言う事か」

 大和が苦笑する。それから、「まぁ、確かにな。だが、あれくらいの実力があって、まだ若いんだ。そういう奴だっているだろ」と付け加えた。

「特に、この部にあの後輩に勝てる奴がいないのが拙いんだ。このままじゃ、あいつの独壇場だぞ。……お前が現役だったらなぁ」
「それはさっきも言った。諦めろって。今の俺じゃあ、十番まで取れん」
「惜しいな……さて、と。じゃ、俺も練習に戻ろッかねぇ。マネージャー。ちゃんと記録とっとけよ」
「分かってるって」

 部長が、「ッたく、あいつに勝つには……」とブツブツ言いながら列に並んでいく。負けない限りは交替はないので、エースの一年生は、まだ勝ち残っていた。誰が相手でも自信満々で、勝つのが当たり前のように思えているようだ。

(まぁ、確かにいつかは、負ける事を教えなきゃならないだろうな。でなきゃ、本当の『敗北』を受けた時に立ち直れない)

 大和も、自分なりに考えてみる。しかし、今の自分はあくまでマネージャーである。少なくとも、誰かが自分に言ってこない限り……または本当に必要な時まで、大和は黙って、見守る事にした…………








 意外にも、大和の出番はその数日中に来た。一年エースが、「弱い奴しかいない相撲部で練習しても仕方ない」と言って、活動を無断欠席したのだ。部長は、ついに激昂した。

「お前なぁ!!テングになるのもいい加減にしろ!!」
「うっさいなぁ、弱い奴は黙ってろよ!大会で、キッチリ勝ってやっからよ!!」
「て、てめぇ!土俵に上がれ!!」
「良いぜ、勝てるってのか?」

 一年エースは、笑いながら土俵に上がった。部長と対峙し、向かい合う。その光景を大和はジッと見ていたが……

(そんなに怒ってて、勝てるわけ無いぞ)

 と、既に結果を見ていた。自分よりも強い相手を前に、平常心を欠いているのならば勝てるわけがない。案の定、呆気なくすっ飛ばされた。

「ほれほれ、どうしたんですか?部長。お腹でも痛いんですか?」
「こ、この!」
「またやってみますか?俺に勝てるッてんならやってみても良いですけど」
「くっ…………マネージャーー!!」

 突然部長が大和に向き直った。大和は内心、(やっぱりそう来るか)と思っていたので、驚きもしない。

「五番程度で良い!こいつの根性を叩き直してやれ!!」
「分かった。用意してくるから、待ってろ」

 素直に頷いて、更衣室へと向かっていく。その背後から、「オイ、あいつ相撲出来んのか?」「さぁ?でも、あいつって確か膝とか怪我してたんじゃ……」と、騒ぎ始める声が聞こえてきた。大和の実力は、部長のような旧友か、それ相応の付き合いがある者しか知らないため、ほとんど知られていない。しかし、膝などの故障とかは有名だ。誰も彼もが、あのエースを打ち倒せるとは全く思っていなかった。

(しっかし、実戦の相撲は久々だな。勘が鈍ってなきゃ良いが……)

 大和は、だんだんと広がっていく騒ぎを気にせずに、サッサと更衣室で着替えを済ませ、元の相撲部屋へと戻っていった………







 戻っていくと、そこには沢山のギャラリーが集まっていた。他の部活動の者もいる。どうやら、騒ぎを聞き付け、興味半分、怖い物見たさ半分で見に来たらしい。一年生エースは、土俵の上でニヤニヤしていた。

(何だ、格好付けてるつもりか……?目立ちたがり屋なんだな)

 大和は、内心苦笑しながら土俵に上がる。皆が「おおっ」と歓声を上げた。本当に大和が出来るのかどうか、怪しいと踏んでいた者がいたのだろう。まぁ、怪我の事を知っている者がほとんどだろうし、無理もない。

「先輩も大変ですなぁ。部長命令で駆り出されちゃって。同情しますよ」

 一年エースが笑いながら言う。それを聞き、部長が歯軋りしながら跳びかかろうとして……止めた。見に来ている者達の前では、何も出来ない。最悪、部の停止に繋がる。それを見越して、この一年エースは言っているのだ。
 大和は部長の方を見た。

(勝ってくれ!)
(任せろって)

 目だけで会話する。それから、改めて一年エースに向き直った。

「同情なんてしなくて良いから、さっさと始めようぜ。練習を削ってるんだしな」

 大和が言い、準備に入る。一年エースは、それを挑発と受け取ったのか、かなりムッと来ている顔になった。

「……そうですね。さっさと始めましょう」

 一年エースも準備に入り、すぐにも二人は向き直った。礼をし、腰を落とす。
 行司は、公平を喫すために顧問が勤めた。

「では、構えて構えて………はっけよーーーーーい……のこった!!」

 二人がぶつかり合い………勝負は一瞬で付いた。
 一年エースは、土俵の外で唖然としてひっくり返っている。旧友の部長を侮辱していた事もあり、ちょっと強めにしたのだが………

(やりすぎたか?)

 多少不安にもなったが、すぐにそれも掻き消えた。

「も、もう一度だ!!くそっ、油断しすぎた!!」

 肩を怒らせながら、再び土俵の上に上がってくる。大和も、顧問に「続けてください」と言って再戦を受けた。
 しかし、何度も……何度やっても、結果が覆る事は、結局無かった…………







「先輩!片付けは俺がやります!!」
「んっ?」

 大和が、部活が終わると共に片付けを始めると、真っ先に一年エースが話しかけてきた。しかも頭を下げるというモーション付き。これには、それを見ていた皆が唖然としていた。

(……こいつは伸びるな。ちゃんと分かってる)

 大和は心で思うと、その一年の肩をポンポンと叩いた。

「気持ちは嬉しいが、これは俺の仕事なんだ、気にしないでくれ」
「ですが……」
「良いから。お前等は自分が強くなる事だけを考えてろ。………良いか?全国行けばな、俺より強い奴なんてまだまだいるぞ?」

 笑顔で答えてやった。打ち拉がれるエース。今までの自分が、ただの井の中の蛙だったという事を知り、それを恥じているのだろう。だが、大和の見込んだ通り、その一年はそれからすぐに「オス!では、お先に失礼します!!」と元気に言い、相撲部屋を後にしていった。その後ろ姿をしばらくの間見つつ、片付けを終える。最後まで片付けをしていたため、もう、部屋には誰もいなくなっていた。

「あいつ、なんだか良い顔になってたな……………さて、焦らず騒がずのんびり止まらずに行こうか」

 大和は、誰もいなくなった相撲部屋で、たった一人で練習を始めた。かつての自分が行っていた練習メニューを、一通りこなしていく。
 普段の昼行灯の彼は、この時だけは真剣その物…………そして限りなく楽しそうにしているのだった………











□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
5123 和泉・大和(いずみ・やまと) 男性 17歳 高校生

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■          ライター通信         ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 初めまして、メビオス零です。まだ日が浅い私にこのようなご依頼を下さって、誠にありがとうございます。
 今回のノベルの出来は如何であったでしょうか?自分としては書きやすかったんですが………まだ不慣れなため、お気に召さない箇所もあると思います。遠慮無く指摘してやってください。
 苦情とかは、厳粛に受け止めます。でもファンレターを普通にくれたら嬉しいです。HPに掲示板とかがあるんで、そちらでも受け付けます。
 では、もし次にもお付き合い出来るような機会がありましたら、気合いを入れて書かせて頂きます!これからも、よろしければ、よろしくお願いします!(・_・)(._.)