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<東京怪談・PCゲームノベル>


消えゆく世界、残り少ない平凡な一日


「ちくしょおおおおお!!」
 カレー閣下こと、神宮寺・茂吉は叫んでいた。今にも血涙を流しそうな勢いで涙を流しながら。何故?





 世界が終わる。その言葉が、一体どれほどの人々を傷つけたのだろうか?
 ありとあらゆる情報が、終わりを予感させる。世界中で起こることが、終末へと加速させていく。
 終わり、終わり、終わり――。
 そんな言葉しか、浮かんでこないような世界。

 そしてそれは、閣下をも嘆き叫ばせた。

「もうカレー様が食べられなくなっちまうってぇのかあぁぁぁぁぁあぁ!?」

 それが、彼の叫びだった。何かおかしいけど、それはだってカレー閣下だから。



 カレー馬鹿一代。閣下の人生を銘打つなら、きっとそんな言葉だろう。
 それくらいに閣下はカレーを愛し、カレーを求め、カレーに生きていた。
 カレーに魅入られたのは一体何時だっただろうか?
 そんなことはもう忘れてしまった。それくらいにカレーだけを追い求めてきたのだ。究極のカレーを探すため、生まれ育った関西を飛び出し、今は東京に。ゆくゆくは、きっと世界中をカレーを求めて旅したことだろう。
 なのに、なのに…!
「俺はまだ全てを極めたわけじゃねぇ、それなのによぉぉぉ!」

 閣下の情熱を持ってしても、世界の終わりは防げなかった。まぁカレーへの情熱だけで、それが止められるのなら世話ないよね、なんていわれそうなものだけど、それでも閣下は本気で防ごうとして、ダメだった。
 具体的な手段を言うと。何処かの怪しい宗教団体の崇拝していた少女、彼女が本当にこの星の化身だと言うのなら、滅茶苦茶美味いカレーを食べさせて感動させれば止まるのでは?と閣下は考え、それを実行に移した。
 少女は、閣下が望んだその時に目の前に現れた。
 いきなり現れた少女に、閣下は驚きながらも、彼女に食べさせるために作ったカレーを差し出した。
 少女は、言葉もなくそれを食べる。
 もぐもぐもぐもぐ…閣下は息を呑みながらそれを見つめた。
 そして、スプーンの動きが止まる。
「…ご馳走様」
 それだけ言って、星の化身といわれる少女は消えた。
「まてぇそれだけかぁぁぁぁ!?」
 そうして、カレーの情熱で地球を救おう大作戦は失敗に終わった…。



 そうして、数日。世界の終わりは、益々加速していく。
「終わっちまうのか…なら、なら俺のするべきことは…!」
 そんなことを心の中で叫びながら、閣下は歩き始めた。





* * *



 閣下は街に出た。カレーを求めて。
 街中は荒れに荒れていた。暴徒化した住民が暴れまわり、少し前までは平和だった面影など何処にもない。
 少し見渡すだけで反吐が出る。
 しかしまぁ、彼らの気持ちも分からないではない。閣下とて、カレーがもう少しで食べられなくなると聞いたとき、荒れに荒れたのだから。
 そのせいで、彼の周りに何時もいた三人の舎弟は今はいない。時々名前で呼んだりするやつらだったけど、別に嫌なやつらではなかった。
 少し寂しい気持ちになりながら、閣下は歩いていく。



「なんじゃこりゃー!?」
 閣下は思わず絶叫した。
 閣下の目の前にあるもの、それは…。

 閉店! 閉店!! 閉店!!!
 まさに閉店の嵐!

 まさに悪夢だった。
 立ち並んでいたカレー屋は全て看板を下ろし、カレー好きの聖地と呼ばれたそこは、今や地獄と化していた。
「ば、馬鹿な…」
 がっくりと膝が折れる。これが、世界が終わるということか…!
 立ち上がれないほどの精神的ダメージを負った閣下。しかし、その瞳の色はまだ失われていなかった。
「ま、まだじゃあ…あ、あそこがある…!」
 くじけそうになる心を、何とか振るいあがらせ、閣下は立ち上がった。そして閣下は歩き始める。目指すは、あの店…!



 果たして、閣下の思い、願いどおりにそこは潰れていなかった。中からは、香辛料独特の香りが漂ってくる。
「やっぱりここは潰れとらんかったか…」
 閣下はニヤリと笑い、その戸をくぐった――。

「いらっしゃいませー…」
 店員には、かつての覇気はなかった。かつて、テレビの某チャンピオン番組でも優勝し、カレー界で脚光を浴びたこの店も、この世の中ではどうしようもないただのカレー屋。
 もうすぐ世界が消えるというのに、何で自分はこんなところで働いているのだろう?と彼は溜息をついた。
 そんな彼の前に、オーラを漂わせた男が現れた。閣下だ。
 その迫力に(893だから当たり前だけど)彼はたじろぐ。
 閣下は言った。
「メニューに載っとるカレー全部…出してこいやー!」
 その気迫、大晦日に褌一丁だった男の如く。
 店員は困る、大いに困る。いや、閣下の迫力や見た目にではなく、別の意味で。
「あの…お客様、非常に申し上げにくいのですが…」
「あぁん、なんじゃ? 俺みたいなもんにはカレー様はだせんとかぬかしよるんちゃうやろうなぁ…?」
「あ、いえ、そうではなく…」
 最初はもごもごと口を動かすだけだったが、彼は意を決して閣下に事情を伝えた。
 そして閣下は、本日何度目になるか分からない衝撃を受けることとなる!



 閣下は一人、テーブルで頭を抱えていた。目の前にあるカレー皿には既に何もない。
 出されたカレーはこれ一杯。メニュー全てと言ったはずなのに。
 閣下は頭を抱えた。それで事態が好転することなどありえないと知りながら…。

「まことに申し上げにくいのですが…現在材料が足りず…その、カレーは普通のものだけを一杯分しか…」



「終わった…はははっ…」
 まるで何処かの燃え尽きたボクサーのごとく、その身はプランプランが揺れた。既に過去の栄光はそこにはない。
 カレーのない世界…あぁ、どうしたらいいのだろうか?
 まるで死体だった。勘違いした蠅までが飛び回る。

「HAHAHA、オニイサンカレー食べたいネー?」
「…ぁん?」
 そんな閣下の前に現れた、いかにも胡散臭い一人の男。
 頭にはターバン、妙に浅黒い肌、顔が水平にカクカク動くその様はまさにインド人!(一部表現に嘘が混じっております、これがインド人だなどと信じないようご注意ください)
 妙にカレー臭を漂わせる彼は、閣下の目の前で顔をカクカク動かしながら言った。
「ミーはカレー仙人ネー」
 …インド人なのに何故似非アメリカ人口調なのか?
 そんな素朴な疑問をよそに、彼はどんどん話を続けていく。
「そんなにカレー食べたいナラー『カレー涅槃』に案内シテアゲルネー」
 カレー涅槃…その言葉に、閣下の背中を衝撃が走る!
「So、カレー涅槃とはカレーだけに包まれた夢ノヨーナ世界…ただカレーノコトダケヲ考えられる世界ナノデスヨー」
 …いや、何処にあるんだよその世界? 思わず店員は心の中でツッコミを入れてしまう。
 まぁ、若い彼は知らないのかもしれない。涅槃という言葉の意味を。それは釈迦の死を意味し、また悟りの境地などを表す言葉でもある。
 要するに…死ねってこと?

 そんな言葉でも、閣下にとってはあまりにも魅力的な言葉である。
(いっそ…逝っちまった方がいいか…?)
 そんな思考が、閣下の中を駆け巡る。既に自殺志望者か何かな感じの勢いで。
 そんな時、閣下の目に、先ほど食べきったカレー皿が入ってきた。その瞬間に、あの感情が甦ってくる。
(そうだ…まだだ、まだ俺は…!)
「サーミーと一緒にGO TO HAEVENネー♪」
 (自称)カレー仙人が閣下の手を引っ張る。と、そのとき!
「カレー涅槃…確かに魅力的な響きだが…」
 閣下が、ゆっくりと顔を上げた。そこには、確かに光る二つの瞳!
「俺はまだ死ねねぇ!何故なら世界中のカレー様を食いつくしてねぇからだ!」

『えぇ、ボクはあの時、確かに漢気というやつを感じました。はい、ボクもこれからはあぁいう男を目指そうと思います!』(アルバイトT・O君の後の証言より)

 後に、彼がそう語るほどに、そのときの閣下は光り輝いていた。
 そう、閣下にはまだやらねばならぬことがある。この終わりかけの世界で、それでもカレーを追い求めるということが!!
「…その感情、ワスレナイヨウニスルネー」
 そんな閣下に、満足したように頷いて、カレー仙人は消えていった…。

(そうよ…まだだ、まだこの世界は終わってねぇんだ…!)
 あらためて思い出した、その気持ち。
(なら、俺はそのときまで、カレー様を追い続ける…!)
 ここに、カレー閣下の情熱が甦った!

「まぁそういうことだから…」
 閣下は、目をぎらつかせながら振り向いた。当然いるのは店員一人。
「…え゛?」
 えもいわれぬ迫力に、店員は思わず後ずさる。しかし、閣下は彼を逃がさない。
「さぁ…俺にカレー様を食わせろコラァ!!」
「ひーーーー!?」
 だから一杯だけって言ったじゃないかー!などという叫び声は、閣下によってかき消された…。





* * *



「ふはー食った食った…カレー様はやっぱ最高だな」
 結局、あの店にあったカレーほとんどを食べつくして閣下は外に出てきた。
 太陽が眩しい。少し前まで、糞ったれだと思っていた世界が、今は何か光り輝いてるように思える。
「はぁ。自棄になってた俺が恥ずかしいったらねぇな」
 そう、確かに終わりは近づいているけれど、まだ終わってはいない。
「なら、その最後の瞬間まで俺は…!」
 ただ、カレーだけを追い求めるのみ! それが漢に生まれたものの宿命よ!!

「兄貴ー!」
「待ってくださいよー!」
「茂吉さーん!」
 閣下が決意を新たに旅立とうとしたそのとき、何処かで聞いたことのある声が響いた。
 振り向けば、そこには駆け寄ってくる三つの影。
「お前ら…」
 それは勿論三人の舎弟。
「はぁはぁ…俺たちもついていきますぜ!」
「俺たちは何時までも兄貴と一緒に!」
「そう、茂吉さんと一緒に何処までも!」
 その言葉に、閣下の心が温かくなっていく。
「お前ら…えぇい、名前で呼ぶんじゃねぇ! いくぞ!!」
「「「へい!」」」
 そして閣下たちは歩き始めた。
 この世の中、まだまだカレーはある。次に目指すは…あのカレーだ!!





<END>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1747/神宮寺・茂吉(じんぐうじ・もきち)/男/36歳/カレー閣下(ヤクザ)】

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■         ライター通信          ■
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 お久しぶりです閣下(笑
 どうも、へっぽこライターEEEです、今回は発注ありがとうございました。

 まさかこのゲーノベで閣下がくるとは夢にも思わず…なんというか、一人舞い上がってしまいました(笑
 しかし、カレー愛がその命を救うことになるとは…素晴らしいです。
 カレー涅槃というのが本当にあるのなら、実はちょっと覗いてみたいと思ってしまいました(何

 では今回はこの辺りで。本当にありがとうございました。