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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


けっこんしたい
●オープニング【0】
 近頃、月刊アトラス編集部の碇麗香の様子が変らしい。
 そんな話が出たのは、編集部員の1人が麗香からこんなつぶやきを耳にしてしまったからである。
「……けっこん……したい……」
 その時、麗香は机の上に何か新聞か雑誌の記事らしき物がスクラップされたファイルを広げて、厳しめな表情で溜息を吐いていたという。
「そういや、最近変だよな」
 編集部員たちが寄り集まって、ひそひそと話をしている。話題はもちろん麗香のことだ。
「何か1人でこそこそ動いてるみたいだし。よく出かけたりもしてるよなー」
「ああ、そういやこうなる前に、何か若い男から電話あったっけ。山田とか、何とかいう」
「……若いツバメか?」
「待て、それは違うだろ。編集長のことだしな……ペットだろ」
「おいおい、何で話がそっちへ行くんだよ」
「とにかくだ、今結婚でもされて辞められてみろ。うちの雑誌はどうなる?」
「やっべぇよな……」
 危機感募る編集部員たち。月刊アトラスはある意味、麗香の手腕や人脈などで維持しているような所がある。仮に、麗香が居なくなってしまうとしたら――。
「誰かに調べてもらうか」
 そういう訳で、三下忠雄経由で編集部員一同より麗香の調査をこっそり頼まれたのだった。
 でも……本当に結婚を考えてるの?

●謎の男【1】
 日頃異常に運の悪い人間に、ごくごく稀に幸運が訪れることがある。この日の三下が、まさにそうであった。
「あ……編集長です」
 声をひそめ、真向かいの席に座っていた青年2人に話す三下。3人が居るのは、編集部近くのファミレス。時刻は昼食時であった。
「あれが山田とかいう奴か?」
 そっと麗香の居るレジの方へ視線を向け、青年の1人――真名神慶悟が三下に尋ねた。麗香は1人ではなかった。そばに、すらっとした長身の青年が居た。優男、という印象が強いかもしれない。
「いえ。……僕もまだ、姿も何も知りませんから」
 申し訳なさそうに答える三下。だからこそ、慶悟をはじめ色々な者に調べてもらおうとお願いしている訳で。
 ただ予想外だったのは、慶悟が三下から昼食を奢ってもらう場所に、すでに麗香たちが居たということである。案内された座席の関係上、顔を合わせることはなかったけれども。
「あれが碇麗香さん……」
 もう1人の青年、風宮駿はぼうっと麗香に見とれていた。ちなみに駿、全く別件で編集部を訪れたのだが、三下に今回の調査に来た者と勘違いされ、ついでだからとここに連れてこられたのであった。
 会計を済ませ、店を出る麗香たち。するとすかさず駿が席を立ち、店の外へと駆け出していった。
「……前に会ったことある気がするんだが」
 慶悟がぼそっとつぶやいた。駿に対しての言葉である。
「え、そうなんですか? 何でも彼、記憶喪失らしくて、それでうちの編集部を訪れたそうですよ?」
 三下の駿に対する誤解は、慶悟がファミレスに来る前に解けていた。それを聞いた慶悟は、気のせいだったかと思い直した。
「しかし、すぐに『結婚したい』と考えるのは安直ではないのか? 『血痕』と『死体』でも音は同じ、響きの言の葉は紛らわしいからな」
 そう言い、珈琲に口をつける慶悟。物騒ではあるが、月刊アトラスでは使用頻度の高い単語。あり得ない話ではないし、むしろそっちの方が可能性は高いかもしれない。
「ですから、それも含めて調べてほしくってですね……僕らが直接尋ねるのも、その、あれですし……」
 段々と、声の小さくなる三下。結婚が真実か否かどちらであっても、何かしらきつい一言が麗香からきてもおかしくはない。余計なことをするな、と言われても不思議じゃないだろう。
「まぁいい。とりあえず、各々に式神をつけておいた。報酬の約束も出来たからな」
 さすが慶悟、行動が素早い。ちなみに報酬は花見の季節らしく、酒1升がメインであった。
 そこへ、とぼとぼと駿が戻ってきた。がっくりと肩を落として意気消沈したまま、どすっと腰を降ろして大きな溜息を吐いた。
「ど、どうしたんですか?」
 三下が駿に戸惑いの視線を向けた。
「三下さん……どうやら麗香さん、結婚する意志はないみたいです」
 大きく頭を振って答える駿。まさか、直接麗香に聞いてきたというのか?
「『初めてお会いしますけど、出会う前から好きでした。結婚しましょう』……手を取ってそうプロポーズしたんですけど……瞬殺でした……!!」
 がばっとテーブルに伏せ、駿は肩を震わせた。あー……当たり前といえば当たり前な展開だ。慶悟も三下も呆れ顔になっていた。
「別々の方向へ歩き出したからチャンスだと思ったのに……うつろな目で断られたんですよ……!!」
 顔を伏せたままつぶやく駿。すると、不意に慶悟が眉をひそめた。
「うつろな目……?」
 何か、心に引っかかった。思案する慶悟。と、駿ががばっと顔を上げた。
「でも分かりました。俺の赤い糸は、別の人と結ばれているんですよ。今回はこんがらがってただけなんです、きっと」
 うわ、立ち直り早っ!!

●結婚? 血痕?【2】
 ほぼ同じ頃――月刊アトラス編集部。
「ええっ、麗香おねーさんがけっこーん!? ボク信じられなーい!」
「そうだったんですか? でも、麗香さんのウエディング姿は見てみたいです〜。とても綺麗なのでしょう」
「へぇ〜、碇もついに花の独身生活とサヨナラして、人生の棺桶に片足突っ込む覚悟を決めたんだぁ〜! あっ、みあおもウエディングドレスを着てきたよっ!」
 三下を取り囲み、口々に喋り出す者たち。順番に、驚きの表情をしている三春風太、麗香の花嫁姿を想像してうっとりしているシオン・レ・ハイ、そして何故か純白のウェディングドレスを身にまとった海原みあおである。
 編集部に麗香の姿はない。居るのは編集部員たちと、調査を頼まれた者たちばかりだ。まあ、割合としたら調査を頼まれた者たちの方が今は多いのだが。
「あ〜、あのぉ〜、何故私が編集長さんの調査をしなければならないのですかぁ〜?」
 取り囲まれた三下が、戸惑いの表情を浮かべつつ、きょろきょろと皆の顔を見回した。
「何言ってるの。三下くんが、調べてくれって頼んできたんでしょう?」
 不思議そうに聞き返したのはシュライン・エマである。シュラインが言うように、三下から話を聞いて皆こうしてやってきている訳で。
「そう、碇編集長の様子がおかしいから、誰か調べてくれる人は居ないかと……話を持っていったんです」
 大きく頷いたのは月刊アトラス記者の藤岡敏郎、三下の同僚だ。別の言い方をすれば、三下を経由して今回の調査を頼んできた面々に否応無しに含まれている。
「大丈夫、三下さん。心配ないね♪」
 困り顔の三下に、すっと紅茶の入ったカップを差し出した非常に肌の白い少年が居た。李如神である。
「すぐに分かるから」
 にこっと三下に微笑む如神。しかし、三下は未だ戸惑った様子。
「ですからぁ〜、何故私が調査をしなければならないのですかぁ〜? 詳しい事情をご説明願えないでしょうかぁ〜?」
「……三下壊れた?」
 怪訝な表情で、みあおが三下の顔を覗き込んだ。それに同意するかのように、つぶやく女性が1人。大和鮎である。
「ま、確かに死活問題よね。碇さんが居なくなったら速攻潰れたりして……壊れたくなる気持ちも分からないでもないかも。でもほら、可能性の1つじゃない。まだそうと決まったわけじゃないんだし」
 ぽむと三下の肩を叩く鮎。励ましてるんだか、こき下ろしてるんだか、微妙なのは気のせいだろうか。
「でも結婚かぁ……私ね、お兄ちゃんと涼おねえ様の結婚式が楽しみなの!」
 唐突に石和夏菜がそう言うと、如神の入れてくれた紅茶を口に含んでいた村上涼が、盛大に噴き出した。紅茶の水しぶきが舞った。
「ああっ、紅茶がぁっ!! わ、わ、わ、大丈夫っ?」
 慌てる如神のそばで涼が咳き込んでいた。
「ものすごく素敵だろうなあ……」
 うっとりと想像する夏菜の様子は、ポーズも含めまさしく夢見る乙女状態。そばには、顔を真っ赤にした涼が来ていた。
「な、な、なっ……何言ってんのよ、いきなり! いきなり何を……何を言って……全く……」
 夏菜を叱る涼。が、明らかに動揺しているのは気のせいではないような。ともあれ、珍しい姿である。
「えーっ? 照れてごまかしたってちゃーんと知ってるのよ、3日前もデートしてたの!」
 暴露する夏菜。

 ――しばらくお待ちください――

「あー……こほん」
 咳払いし、涼がようやく落ち着きを取り戻した。なお、近くの椅子で夏菜がぐったりしてることは気にしないよーに。いいから、気にするな(命令形)。
「えーと、あり得ないでしょ麗香さんがけ……いやあり得なくはないわね、うん。あり得なくは」
 うんうんと頷く涼。他意はなく、単純にないことはない、と思ったのであろう。
「てか、事実関係の確認が先でしょ、その山田っての? 人類? 男?」
「人類の男……なのは間違いないでしょう」
 敏郎が涼の言葉に答えた。言い方を変えれば、それ以外はよく分からないということでもあるのだが。
「うう……分かりますお父さん……ずっと育ててきてこの日が来ると分かってても……」
 いつの間にやら、シオンが溢れ出した涙を拭っていた。想像が巡り巡って、披露宴の花束贈呈&手紙朗読の場面にまで行ってしまった模様である。というか、何でそこまで想像出来るのか、シオンさん。
「だけど……だって、家庭ってあったかくてほのぼのってしてるところでしょ? 麗香おねーさんにそんなの似合わないよぉ。もっとサツバツとしてなきゃ〜」
 首を傾げながら風太がつぶやく。あの、風太さん……それ、麗香が耳にしたらえらいことになりますぜ?
「まあ……今日日、結婚で仕事辞めないでしょう。後々、億単位で給料差が出てくるんだもの。麗香さん、そういうタイプじゃないし」
 と、シュラインが言った。確かにそうかもしれない。よっぽどでなければ、家庭でおとなしくしてるような女性ではないだろう。
「あ、僕も同意です。今時、結婚と仕事の両立は珍しくもありませんし……ですよね? だいたいそういう解釈も成り立つらしいですが、願望即決行でもないと僕は思いますし……同僚たちにもそう言ったんですけどねえ……」
 敏郎が溜息を吐いた。そう言ったにも関わらず、他の同僚たちが調査を頼んでしまった訳で……。
「とりあえず、ツバメだかペットだかいう山田って人を探さないといけないのかしら?」
 鮎が誰ともなく尋ねると、呼応するかのようにシュラインがつぶやいた。
「……記者か情報屋辺りだったりして」
「愛玩動物兼用の?」
 鮎さん、そこから少し離れてください。
「あ……ああ、記者か情報屋かもしれませんね。そのですね……『けっこんしたい』という言葉も『血痕』と『死体』だと解釈出来ますから。……最初にそう同僚には言ったんですけどねえ……僕……」
 やれやれといった様子の敏郎。どうやら編集部内での立場は、そう強い方ではない模様。ま、一旦流れが出来てしまったら、1人で食い止めるのは難しいのだし、仕方ないことだろう。
「あ、それかもきっと! その方がサツバツとしてて、麗香おねーさんにぴったりでしょう?」
 屈託ない笑顔でそう言い放つ風太。いやほんと、麗香が聞いたら(以下略)。
「そうねぇ……碇さんのことだから、その方がしっくりくるわよね」
 だから鮎さん、麗香が聞(以下略)。
「きっとどこかですごいスクープ発見しちゃったんだよ」
 と言い、風太は買っておいたクリームパンをあむっと口に含んだ。
「……血痕……死体……?」
 あ、シオンが想像の世界から戻ってきた。表情がきりりと引き締まっている。
「危険な取材をされているんでしょうか……」
「一応、その可能性もあるから、こっそり頼んだんだと思います」
 敏郎がシオンのつぶやきに答えた。結婚にしろ取材にしろ、下手に突いてご破算になる可能性がある。その時、麗香の怒りの矛先がどこに向くかというと……推して知るべし。
「あ、やっぱりそうだよね? そんな浮いた話、碇には縁がないもんね」
 みあおが、さっきまでの発言はどこへやら、一転してそんなことを言った。視線がみあおに集まる。
「さっきまで言ってたのは空想だよ? 向こうにでも置いとこ♪」
 こともなげにそうみあおが言った。
「その解釈だったら……やっぱり幽霊関係の調査?」
 小首傾げ、心配そうに如神が言う。その可能性は少なくない。ここが何の編集部かを考えれば自明である。
「……結婚だったら、式場予約するわよ」
 ぼそりと涼がつぶやく。まあ、その可能性もまだ消えてはいない訳だし……。
「あのぉ〜……結局何がどうなっているんでしょうかぁ〜」
 三下が皆に尋ねた。何を言っているんだという視線が三下に集中する。そこに――。
「あ、皆さん来られていたんですね」
 編集部の入口の方から、三下の声が聞こえてきた。振り向く一同。そこには三下と、慶悟や駿の姿があった。じゃあ、今までここに居た三下は……誰?
「あの……どちら様?」
 恐る恐るシュラインが尋ねた。
「あ〜、私はぁ〜、八坂佑作と申しますぅ〜。
突然ここに連れてこられてですねぇ〜、何が何だかよく分からないのですがぁ〜……」
 スローテンポ、のほほんとした雰囲気で話出す八坂佑作は――三下によく似ていた。ちなみに36歳、三下よりかなり年上である……。

●うつろな麗香【3】
「なるほどぉ〜、そういうことでしたかぁ〜」
 改めて事情を聞き、佑作がこくこくと頷きながら言った。
「……私のぉ〜、推理をお話しても構わないでしょうかぁ〜?」
 おや、何か閃いたものがあったらしい。異論は出なかったので、佑作は話を続けた。
「その山田さんとかいう方ですがぁ〜、ペットショップの店員さんではないでしょうかぁ〜? 編集長さん、その方のことが好きなのにぃ〜、結婚話が切り出せないだけかもしれないだけかもしれませんよぉ〜」
 ――漫画だったら、一同の頭上に大きな『?』が浮かんでいたかもしれない。
「どうしてペットショップなの?」
 きょとんとして如神が尋ねた。
「どうしてですってぇ〜? ペットのお話があったでしょうぅ〜? だからですよぉ〜。それではぁ〜、ペットショップにレッツゴーです〜」
 腰を浮かしかけた佑作だったが、一同にがしっと肩をつかまれて阻止された。いくら何でも、そんなはずはない。
「……そういえば、女史はまだ戻っていないのか」
 慶悟が編集部を見回して言った。麗香の姿は未だない。
「おかしいですね。先に店を出たのに」
 三下が首を傾げた。そして、経緯を皆に説明する。もちろん、山田かどうか分からないが、優男と麗香が会っていたことを含めて。
「……編集長さん危なくないの?」
 復活した夏菜が、神妙な表情でつぶやいた。三下や慶悟たちより先に出た麗香がまだ戻っていない。何かあったのではないかと考えるのは当然の成り行きであろう。
「そのまま取材してるんじゃないのかなぁ?」
 2個目のクリームパンを食べながら、そんな意見を出す風太。これまたあり得る話だ。
「……ひょっとして、本当はさっきのプロポーズに迷っているのかも……」
 あー、駿さん。寝言は寝て言いましょうね。
 などと言っているうちに、麗香が編集部へ戻ってきた。一瞬、緊張の空気が部屋を包んだが、それに気付くことなく麗香は自分の机の方へ向かった。
 さて、座るかなと思いきや――何故か机の上の整理を始める麗香。鮎が、結婚関係の雑誌や式場のパンフレットを抱えて近付いてゆく。
「碇さん、こんにちは」
 声をかける鮎。しかし、麗香は鮎を一瞥しただけで黙々と片付けを続ける。
「……こんにちはー?」
 もう1度、声をかけてみた。それでようやく麗香は手を止めて、雑誌の方から鮎の顔へとすぅっと視線を移した。
「……こんにちは。片付けしてるから、邪魔しないでね……」
 麗香はそれだけ言い、また手を動かし始める。そこへ敏郎がやってきた。
「あの、編集長」
「……何かしら」
「何か……事件でも追ってるのでしょうか? 以前、血痕がどうとか仰ってたようでしたので……その……」
 単刀直入に尋ねる敏郎。だが、麗香は首を横に振った。
「……何もないわ。そっちこそ、自分の仕事をやりなさい」
「ですが……」
「……編集長の言うことが聞けないの?」
 麗香が敏郎を睨んだ。が、どことなく目がうつろのような気がする。とはいえ、それ以上食い下がることも出来ず、敏郎は引き下がった。
(何だかいつもと少し、様子が違いますね)
 いつの間にかシオンは、麗香の机の近くに段ボール箱(シオン曰く『My机』らしい)を置いて、麗香の観察メモを手帳に記していた。……何やら単語が散文的に書かれているだけのような気もするけれど。
 麗香はそんなシオンを気にする様子もなく、片付けを終えると皆に聞こえるようにこう言った。
「……ごめんなさい、体調が優れないから今日はもう帰るわね。後は……よろしくね」
 言うが早いか、麗香はさっさと編集部を出ていった。
 直後、後を追うように如神が編集部を飛び出してゆく。シオンも三下を呼んで、一緒に出ていった。
「ふ……分かったわ」
 涼が不敵な笑みを浮かべた。
「体調不良は早退の口実! これからデートに違いないわ!! これは追わないと……」
 勝手に決め付ける涼。そして、少し遅れて編集部を出ていった。
「あっ、涼おねえ様!」
 パタパタと夏菜も飛び出してゆく。これで都合5人が麗香を追いかけていったことになる。
「んー……どう考えても様子が変よね、麗香さん」
 思案顔のシュライン。
「ですからぁ〜、ペットショップのことが気になってぇ〜」
 ペットショップから離れましょうよ、佑作さん。
「変よね。雑誌やパンフレットにも、全く反応しないし」
 じっと雑誌を見つめる鮎。いくら何でも、ああまで反応がないものだろうか?
「……山田の素性を探るべきかもしれない、か」
 慶悟はぽつりつぶやいたかと思うと、そのまま編集部を出ていった。駿もそれについてゆく。
「机……調べても大丈夫かしら?」
 シュラインが敏郎に確認する。敏郎は自らの責任でGOサインを出した。

●机の中にある物は【4A】
 そのまま編集部に残ったシュライン、鮎、敏郎、風太、みあお、佑作たち6人は、麗香の机の中を調べてみた。名刺やらファイルやら出てくるが、出てきた名刺の中には山田という名前の物は含まれていなかった。
「ペットショップの方の名刺もないですねぇ〜」
 佑作さん、だからそこから離れ(以下略)。
「きっと何か見付かると、みあおは思うけどなぁ〜」
 ファイルを開きながら、普段着に着替えを済ませていたみあおが皆に言う。その途端、風太が『あっ』と短く叫んだ。
「えーと、これかなぁ?」
 風太の所へ、皆が集まった。それは複数の記事を張り付けたページであった。
「……あ、この事件知ってる。」
 鮎が小声で言った。それは裸の女性の遺体が、近郊の森や山や公園で発見された事件。腹部をZ字に切り裂かれている手口などから、同一犯の犯行と目されている一連の事件――そのスクラップであった。
「20代から30代の女性が狙われているのね。古いのだと3年ちょっと前の記事、で、一番新しい記事は……」
「3ヶ月ほど前ですね、この記事です」
 シュラインがスクラップの中で一番新しい記事を探していると、敏郎が先に見付けて教えてくれた。
「現場には、遺体の他に大きな血痕も残っていたことから……」
 記事を読む敏郎。『血痕』、そして『死体』……ひょっとして、麗香のつぶやきはこれのことか?
「山田って人……もしかして、この事件の関係者じゃないの? だとしたら、あれこれ辻褄が合ってきそうな気が」
 シュラインはそう言うと、携帯電話を取り出してどこかに電話をかけ始めた――。

●追求【5】
 都内某所、森のある公園。日もすっかり暮れたその場所に、女性を抱えて歩く男の姿があった。女性は麗香、そして男は麗香と会っていた……山田と言われる男。
 麗香を抱えた男は、人気のない森の奥に来ると、麗香を地面の上に転がした。その衝撃に、麗香が目覚める気配はなかった。
 不敵な笑みを浮かべる男。そして、懐からナイフを取り出すと、転がっている麗香の腹部目がけてそれを振り降ろそうと――。
「うっ!!」
 まさにその瞬間だった。複数のフラッシュが焚かれ、男がまぶしさに呻いたのは。
「……すみません、うちの編集長をどうされるおつもりですか」
 木の陰から、カメラを構えた敏郎がずいと現れる。それと同時に、各々カメラを手にしたシオンやみあおも姿を現した。
「なっ……!」
 絶句する男。この場に居るのは3人だけでない。他の者たちも、わらわらと姿を現した。
「……悪趣味だわ。自分の彼女を殺した場所で、また人を殺そうとするなんて」
 深い溜息を吐き、シュラインが男に言う。3ヶ月ほど前、ここで裸の女性の遺体が発見された。その被害者の彼氏がこの男であることを、シュラインは知り合いの女性刑事に調べてもらったのだ。
「聞いたわよ。他にも色々と疑いがあるんですって? ねえ、これ逃げる所を倒しても正当防衛よね?」
 涼が金属バットをくるくると回しながら言う。
「襲われたら正当防衛じゃないかしら?」
 さらりと答える鮎。いや、それはどうなんだろう……。
「え〜、おとなしくペットショップを営まれていればよかったのですけどぉ〜」
 佑作さん、だから(以下略)。
「もう逃げられないの、観念するの!」
 夏菜がびしっと男を指差して言った。すると、途端に男は笑い出した。
「は……はははははははっ! 馬鹿か、お前らはっ! こっちには人質が居るんだぞ! いつでもこいつを殺すことが出来るんだぞ、俺は!!」
「……そんなの無理だと思うけどなぁ」
 ぼそりと、哀し気な視線を男に向けて風太がつぶやいた。
「何だと!! これでもか!!!」
 激高する男。手にしたナイフを振り降ろしたが――。
「……え……」
 男は我が目を疑った。ナイフが突き刺したのは、麗香の身体などではなく、1枚の霊符であった。
「残念でした〜♪」
 Vサインをしながら言う如神。実は男がトイレに立った隙に、シオンと協力して麗香本人と麗香に変化させた式神と入れ替えたのである。
「麗香さんは今、編集部でゆっくり眠っていますよ。催眠術ではなく」
 きっぱりとシオンが男に言った。喫茶店から麗香を連れ出し、そのまま編集部へ向かったのだった。
「碇も運がよくなったからね〜」
 くすっとみあおが笑う。確かに……そうだろう。
「く……くく……何が起こったか知らないが、まあいい。ナイフで紙を突いて、罪に問われることはないんだからな……! それはお前らが証人だ!! それに、証拠もなしに人のことを殺人犯呼ばわりしやがって……!!」
 男がぐるりと皆を見回し、睨み付けた。疑わしきは罰せず、証拠がなければどうにもならないのがこの国である。男の言うことは間違っていなかった。だが。
「証拠ならここにある」
 そう言って、慶悟が姿を現した。手には複数の透明のビニール袋が。中には、血のついたワンピースやマフラーやらが――。
「自宅で後生大事に抱えているとはな……」
 冷ややかな視線を男に向ける慶悟。そこへ駿がやってきた。
「すぐに警察が来てくれるそうです」
 遠くから、サイレンの音が近付いてきた。男は、無言で膝から崩れ落ちた……。

●後日談【6】
「恋人の幽霊が現れて自分に訴えかけるって、言ったのよ。最初は」
 後日、男の催眠術の影響下から逃れた麗香が語った所によると、男が近付いてきたきっかけはそうだったらしい。
 それで極秘に調べてほしいなどと言われ、麗香が事前調査してみた所、3ヶ月前の事件で恋人が遺体として発見されたことが事実だと分かり、詳しく話を聞くようになったのだという。
「……この辺りから、ちょっと記憶が怪しいんだけど……」
 と麗香が言うことから察するに、男が催眠術を使い始めたのがその辺りのようだ。それで何度も会うことを繰り返し……。
 つまり、調査を頼んだ時点ではデッドライン間近だったという訳だ。もしこれが1日でも遅れていたのなら、麗香が新たな犠牲者となっていたことだろう。危うい所で、一同は男の犯罪を阻止したのであった。
 ……蛇足ながら、男のことについても触れておこう。男は、一連の事件全ての容疑を認めたらしい。証拠もあり、逃れられないと観念したようだ。
 そして、聞く所によると男は夜な夜なうなされているという。幽霊が自分を襲ってくるなどと寝言を言いながら――。

【けっこんしたい 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0381 / 村上・涼(むらかみ・りょう)
                    / 女 / 22 / 学生 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0921 / 石和・夏菜(いさわ・かな)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 1120 / 李・如神(りー・るーしぇん)
               / 男 / 13 / 中学生&呪禁官 】
【 1415 / 海原・みあお(うなばら・みあお)
                   / 女 / 6? / 小学生 】
【 2164 / 三春・風太(みはる・ふうた)
                   / 男 / 17 / 高校生 】
【 2975 / 藤岡・敏郎(ふじおか・としろう)
    / 男 / 24 / 月刊アトラス記者 キャプテンブレイブ 】
【 2980 / 風宮・駿(かざみや・しゅん)
     / 男 / 23 / 記憶喪失中 ソニックライダー(?) 】
【 3356 / シオン・レ・ハイ(しおん・れ・はい)
          / 男 / 42 / びんぼーにん(食住)+α 】
【 3580 / 大和・鮎(やまと・あゆ)
                    / 女 / 21 / OL 】
【 4238 / 八坂・佑作(やさか・ゆうさく)
              / 男 / 36 / 低レベル専業主夫 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全8場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせさせてしまい申し訳ありませんでした。ここに、碇麗香にまつわる『けっこん』話をお届けいたします。オープニングからすると、こういう結末は意外だったでしょうか? それとも思った通りだったでしょうか?
・実の所、依頼公開時には『危険度:3?』などと書いていた訳ですが、実質危険度は5だったかと思います。皆さんが危険なのではなく、麗香が危険という意味で。プレイング次第では、洒落にならない展開になる可能性もありましたけど、そちらには行かなかったのはさすがというべきでしょうね。犯人の性格などについて、あれこれと言うのは控えておきます。ご想像通りのような気がしますけれど。
・それはそれとして、ほとんどの方が『血痕』『死体』と考えられたのは……簡単すぎましたかね?
・三春風太さん、3度目のご参加ありがとうございます。えーと、一連の発言は麗香の耳には全く入っていませんから安心してください。入ってたら、えらいことになっていたのではないかなーと。あと、大変遅くなりましたがファンレターどうもありがとうございました。多謝。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。