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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


<不死者>来襲
○序
 東京、深夜12時。
 国籍不明のその戦闘機は自衛隊の防衛網をかいくぐり、東京上空で撃墜された。戦闘機の墜落で犠牲になったのは都民数十人。
 パイロットは撃墜の爆発・炎上で一切のダメージを負わず、黒いコートに黒ずくめの服装で地上に降り立ち、高らかに告げた。
「これからゲームを始める!」
 拡声器を使用していないのにその声は東京全住民の頭に響いた。
「私は<不死者>だ。死にたくても死ねない……そんな体にされてもう1200年近く生きている。
 これから夜明けまで、私は出会った人間を片っ端からナイフで刺殺していく! 私を殺せればお前達の勝ちだ!
 ……念のため言っておくが東京都民は東京から<出られないようにした>
 日が昇れば私は自衛隊の戦闘機を奪い、他国で同じことを繰り返すだろう……。以上だ」
 男の声はそこで終わった。
「<奴>が来たわね……」
 高峰沙耶は小さく呟いた。
「この東京が、人類が試されている。フフ、人々のお手並み拝見といこうかしら?」
 高峰沙耶は最後まで目を閉じたままだった。

○狂気・凶器・狂喜
 渋谷センター街、深夜12時過ぎ。
「なんだったんだ? 今の声」
「どっかのイカレタ馬鹿が有名になりたかっただけだろ。あれだ、愉快犯って奴だ」
 人々は<奴>――男の狂気と凶器を知らなかった。
 突如、耳をつんざく女性の悲鳴がセンター街に響いた。立て続けに2人、3人、4人。4人目の悲鳴は男性のものだったようだ。
 つまり男は無差別に人々に襲い掛かっていた。
「なんだよあれ!?」
「ナイフ……じゃない! メスだ! 外科手術用のメスだ!」
 誰かの問いに誰かが答えた。答えたのは外科医か医学部の大学生か。そう言っている間にも悲鳴は加速度的に増えている。
「逃げろ!」
「警察を呼べ!」
 センター街にいた人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。しかし<奴>――男の運動能力は半端ではなかった。10メートル以上の跳躍。
 逃げ道を塞いだ男は一気に人々の列を駆け抜けた。数秒遅れて10数人の人々は首から鮮血を吹き出してバタバタと倒れた。
 恐ろしい速さのメスさばき。辺り一帯の人々を血の海に沈めた「金髪の」男は両手に持ったメスを舐め、狂喜の笑みを浮かべた。
 年齢は30代半ばに見えるが「1200年近く生きている」と言ったのはどういうことか。そして――
 金髪の男は一体何者なのか?

「あー、ちょっと来るの遅かったかな?」
「仕方ないでしょう。レースを控えて、もうベッドに入っていたF1レーサー。誰も翼を責めませんわ。どうせこの事件も新聞には載りませんし」
「ま、ね。もしも新聞に載ったらこんな時間に僕達が一緒にいたこと、つまりキミと僕が同じベッドにいたことが……もがが」
 茉夕良が翼の口に両手を押し当てた。
「そーゆーことは言ってはなりません!」
 金髪男は場違いの雰囲気の2人――剣を背負った1人とヴァイオリンを持った1人を見つめて、やがてゆっくりと口を開いた。

○蒼王翼/皇茉夕良
「なんだお前ら、私は伝えたハズだぞ!? 片っ端から殺していくと! 子供でも容赦はしない!」
「“子供”ですって!」
 茉夕良は少し拗ねたように言った。
 翼は金髪男と茉夕良を交互に見つめ、
「キミ……いや、あなた、いや……おじさん」
 男の呼び方に少々手間取った。
「おじさん、これだけの人々を殺して後悔しているというのなら警察まで送りますが……あなた一体何者ですか? 僕の頭にも響いた声。普通の人間とは思えませんが」
 金髪男は一呼吸だけ間を置いて、
「……知る必要はない。お前らもあと5秒の命だ」
 言って2人に襲い掛かった。渋谷センター街内、お互いの距離は約20メートル。金髪男は高さ約10メートル跳躍し、月光を背にした。
 その光で一瞬反応が遅れた翼と茉夕良。翼はとっさに「下がって」と茉夕良に告げたが、茉夕良は「挟撃するわ!」と前方に走った。
 翼は背後から剣を抜刀した。空間すら断ち切る「神剣」。しかし金髪男のメスさばきも尋常ならざる速さだった。翼の目の前に着陸した時点で、翼が袈裟懸けに金髪男を「斬りかけた」と同時に金髪男は翼の頸動脈を切り裂いていた。
「痛っ!!」
 切れた頸動脈から吹き出る鮮血。翼は膝をついた。
「翼!?」
 慌てて駆け寄る茉夕良。翼がダメージを負う等とは想像もしていなかった。挟撃どころではない、この金髪男はとんでもない能力を秘めている。
 袈裟懸けに斬りかけられた金髪男の体は「シュウ……」と音を立てて再生していき、余裕の表情でせせら笑った。
「あとはお前ひとりか……。しかし警官隊が現れないのはどういうことか?」
「固有異界です……おじさんがセンター街から出られないように、と、誰もセンター街に入って来られないようにしました」
 そう言って翼は立ち上がった。もう頸動脈の出血は止まっている。翼の持つ肉体再生能力――。
「お、お前……何故立っていられる!? 再生能力? お前もヴァンパイアか!?」
 茉夕良があきれて言った。
「あらあら、あっさり正体バラしちゃって。あなた脳みそも筋肉で出来てるのかしら? 
『お前もヴァンパイアか』って。あんたヴァンパイアだったの。正体も分かって罪を償う気持ちもないのなら、後は死、あるのみですわ」
 穏やかに告げた茉夕良はストラディバリを手に、優雅にレクイエムを弾き始めた。
 と同時に金髪男がひざまずき、頭を抱えて苦しみだした。
「な、なんだこの曲は! その音をとめろ!!」
 茉夕良は曲を奏でながら平然と恐ろしいことを言ってのけた。
「今、あなたの脳の水分を操って沸騰させています。知能がなくなって何も考えられなくなります。あと数十秒で」
 それを聞き、翼は瞬時に剣を振るった。男の両足は切断され地面に倒れて絶叫した。
「その音を止めろぉおおお!!」
 茉夕良の静かなレクイエムが終わったとき、男は白目を剥いてケイレンしていた。決着はついた。

○正体
「なん……だ、お前ら……。人間……か?」
 男はまだ生きていた。脳が破壊されてもまだ喋ることが出来る。何かわけありのようだ。
「れっきとした人間よ! ね、翼!」
「……」
 翼は即答出来なかった。自分の出生の秘密は茉夕良に全て教えている訳ではない。
「翼?」
 訝しむ茉夕良から目を逸らし、翼は男に尋ねた。
「あなたはここで死にます。ご家族に伝えることなどあれば伺っておきますが」
 男は血と共に言葉を吐きだした。
「私に……家族はいない……。ハハ、ヴァンパイアのお気に入りの処女を殺して、その恨みを買ってヴァンパイアにされ……1200年近く。ようやく……死ねるか、ありがとよ。ゲームは私の負けだが、楽になったぜ……」
「あなたは只のヴァンパイアではありませんね?」
 翼の“血が”告げていた。ヴァンパイアの神祖の血を受け継ぐ者の直感だった。
「……」
 男は何も答えない。
「言いたくなければ、それも結構」
 翼はとどめに心臓を剣で突いた。溢れる鮮血。脳も心臓も破壊され、もうあと数秒でこのヴァンパイは死ぬ。
「……19世紀のロンドンでは……私は……こう……呼ばれた。ジャック・ザ・リッ――……」
 男はガクリとのけぞり、死体となった。
「……こいつ最期にとんでもないこと言わなかった? あの“切り裂きジャック”? 私達とんでもない偉業を達成したんじゃない?」
「いや……」
 翼はかぶりを振った。
「こんなバケモノの死より、僕としてはライバルの死が悲しいね」
「セナ? もう何年も前の話じゃない!」
「あれほどの人物はなかなか現れないってことさ」
「フフッ……気障ね! ここの、センター街の後始末はどうしましょう?」
 2人は口を揃えて言った。
「IO2!」
 IO2(International OccultCriminal Investigator Organization)
 怪奇現象や超常能力者が民間に影響を及ぼさないように監視し、事件が起ころうとしているならばそれを未然に防ぐ超国家的組織。時に大事になる事件が、決して一般的にならないのは彼らの努力の結果である。
「ま、IO2のお陰で新聞沙汰にはならないってことで。僕は寝直すよ。キミはどうする?」
 問われて茉夕良は頬を染めた。
「どうするって、もう電車も動いてないし……」
「ん? じゃあどうするの?」
「もう! 分かってるくせに! 私が今日寝るベッドはひとつしかありません!」
「ゴメンゴメン。じゃあ行こうか」
「はい……」
 茉夕良は翼の出した手をギュッと握り、2人の姿はセンター街から消えていった。

○高峰沙耶の呟き
「とんでもない若者がいるのね……この東京には」
 高峰沙耶は呟いた。
「また、新たなデータが取れたわ。でも死者は出さない方が良い。また何かあれば……私が直接赴こうかしら? フフ……」
 やはり高峰沙耶は目を閉じたままだった――。


おわり。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2863/蒼王・翼(そうおう・つばさ)/女性/16才/F1レーサー 闇の皇女
4788/皇・茉夕良(すめらぎ・まゆら)/女性/16才/ヴィルトゥオーソ・ヴァイオリニスト

NPC 高峰・沙耶(たかみね・さや)

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■         ライター通信          ■
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OMC処女作其の2、皇茉夕良ver.です。発注ありがとうございました! 
作者の好みにより多少百合っぽくなりましたが……そこは寛容の心で許すのですよ。
今後とも宜しくお願いします!
作者 RAI