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＝気まぐれ桜よ狂イ咲ケ！＝神城心霊便利屋事件簿：五
●千年桜
神城神社の敷地内には、たくさんの桜の木が植わっている。
その中には、樹齢百年以上とも二百年とも言われている木があり、
中でも”千年桜”と言う、千年の樹齢を誇る桜の木もあると言う…のだが。
実際のところ、本当にそんなに昔から生えていたのかどうかはわからない。
ただ、神社がここに構える以前からあったことは確かだと、文献には書かれていた。
そんな桜がある場所が、春の季節に何もしないわけがない。
毎年、４月上旬から、花が散ってしまう頃まで、『お花見祭』が開催されているのだ。
今年ももちろん、毎年恒例行事として行われる…はずだったのだが。
『……咲かないな…桜』
『咲かないわね…』
『―――って言うかつぼみすらねーじゃん』
千年桜を前にして、神城便利屋の焔、未来、宇摩の三人は立ち尽くしていた。
今日はもう４月の中旬。
いつもなら、この時期になると桜は満開になっているはずだった。
それなのにどういうわけなのか…
「全滅だなんて…こんな事今まで無かったのに！」
そう、千年桜だけではなく、敷地内の桜全てが芽吹く様子すらなく、
ただ無造作にこげ茶色の木の枝だけを広げていたのだった。
別に、全国的に開花が遅いとか気候の問題と言うわけではなく、
現に神社の敷地外の桜はすでにもう薄桃の花が咲き誇り、散り始めてすらいる。
枯れているわけではなく、ただ…咲かないのだ。
まるで桜の木々が意志を持ち、自らの時間を止めているかのように。
「もう今年の花見祭は中止じゃのぉ、由紀ちゃん…」
「堺さん…そんなぁ〜！楽しみにしてたのに…どうしたらいいのー！？」
便利屋の主人、神城由紀は、頭を抱えてその場に座り込んでしまったのだった。
『そう言えばこの桜…』
『なにか思い当たることでもあるの？焔』
『いや…昔、何かをやっていたような気がするんだけど…』
『言われてみれば…そうね…何だったかしら…？』
『忘れてるくらいだから大したことねーんじゃないの』
ここで何かをしていたとすれば、式霊たち全員の記憶に残っているはずだが、
焔も未来も薄ぼんやりとしか思い出せず、宇摩はまったく覚えてすらいない。
『…ま、一回そこら咲かないくらい問題ないか』
「なに言ってるのよっ！お祭での収益が神社の運営費にもなってたのにっ！」
『ゆ、由紀…』
「時期外れでもいい…だから咲いてよっ！お願いっ！」
そういう理由からかよ、と焔は内心ツッコミを入れながらも、
しかし、なんとなくこの桜には”何か”がありそうな予感もしてしまう。
『―――仕方ない…誰かに相談してみるか…何か知ってるかもしれないし』
千年桜を見上げながら、焔はぽつりと呟いた。
●桜の精霊
神城家の部屋の中で、「お花見祭」の準備の手伝いに訪れていた天薙 撫子は、
外に出て行ったきりなかなか戻ってこない由紀達の様子を見ようと表に出る。
するとちょうどこちらに戻ってきている由紀と式霊達の、深刻そうな表情が目に入った。
「由紀ちゃん…？何かありましたの？」
「なっちゃ〜んっ！どうしよう！？」
「えっ？」
突然、由紀はがばっと撫子に抱きつき、「どうしよう」と涙目で撫子を見上げる。
しかし何の前置きもなく問われても返事のしようが無い。
困ったように焔と未来に目を向けると、二人は顔を見合わせあった後、未来が口を開く。
先ほど桜の木の下での話題を撫子に話した後、彼女に泣きついている由紀をべりっと引き剥がした。
「おっと…残念だな…とても素敵な美術画を見ていた気分だったんだけれど」
『！？』
「あら？この聞き覚えのある声は…」
引き剥がしたとたん、全員の背後から第三者の声が聞こえて全員がそちらを見る。
そこには思ったとおりの人物が、キラキラとした光と薔薇を背景に背負った西王寺 莱眞が立っていた。
「素敵なレディが三人揃っているとそれだけで周りの空気が浄化されているよ…」
「莱眞さん！どうしたんですか？！」
「今日は大河君に頼まれて作ってきた”たこ焼きパイ”を届けに来たんだよ」
なんでそんなもんを頼んでるんだ？と焔は内心ツッコミを入れる。
莱眞は手にしていたケーキの箱をその焔にひょいと手渡すと、撫子、由紀、未来の手を取り、口付けるようにして挨拶をする。
「この麗かな春の日和に…桜の花のような貴女方に出会えた事に…」
言いながら、ふと莱眞は視線を桜の木に向けて、そこにまだ花が咲いていない事に気づく。
おや？と思わず視線を由紀に向けると、由紀は思い出したのか、再び目に涙をためた。
「どうしよう？！どうしたらいいの？！」
「い、一体どうしたんだい？！そんな悲しげな顔をされてしまうと俺の心は張り裂けてしまいそうだ！」
「それが…少しばかり困ったことになっておりますの…」
「困ったこと…？」
莱眞が加わったことで、改めて先ほどの話題を今度は撫子が説明する。
とりあえず全ての話を聞き終わったところで、莱眞はふうっと自分の額に手をあてて首を左右に振り、
「花を愛でる事が出来ない事も一大事だけれど…俺にとっては由紀さんの花の顔（かんばせ）が曇ってしまう事の方が一大事だ…
この西王寺莱眞他ならぬ貴女（あなた）の為に力を尽くしましょう…！だから…もう涙はいらないよ…」
キラキラと輝く微笑を浮かべて、由紀の手を取りじっと見つめる。
「ふふっ、相変わらずですわね…西王寺様は…」
『手伝ってくれるのは嬉しいけどよ…莱眞さんも普通に言えばいいのに…』
「あら？焔さん、妬いておりますの？」
『誰が！？違うって…』
「さあ皆の衆！そうと決まれば早速行動開始だよ！まずはそうだね…ご意見番の子々さんにでも話を聞いてみよう！」
「西王寺様、子々様は便利屋の仕事で留守にしておりますの」
「そ、そうだったのかい？それなら…」
「わたくし思いますの…神社の敷地内にある桜ですから、神社に纏わる出来事で何か記されいるのではないでしょうか？」
「撫子さんの言うとおりだ！神社やこの町に関する古い資料や書籍は無いかな？」
『それだったら確か倉庫にありますよ！行ってみます？』
ならば話は早いと、未来を先頭にしてぞろぞろと全員で神社の倉庫へと向かう。
普段はあまり使う事のない倉庫だけあって、鍵を開けて中に入るとかなり埃が舞い、かび臭さが鼻についた。
とりあえず全員で分担して、倉庫内にあるあらゆる書物を片っ端から当たることにする。
表紙だけで何の本かわかるものもあれば、さっぱり謎なものもあって思いのほか骨の折れる作業になった。
しかしやがて、撫子が見つけた一冊の本にそれらしい記載を見つけて一度全員で外に出る。
明るい場所で中身を読み進めていくと、千年桜への百年の一度の『奉納祭』の事、『桜の精霊』の存在が記載されていた。
「なるほど…桜の精霊か…確かに桜には”神の座”と言う意味もある…
もしかしたらその桜の精霊の意思でこんな事になってしまっているのかもしれないね…」
「わたくしもそう思います。近年では神楽や祭の奉納は無意味だと思われる事が多いですけれど大事な事ですわ」
「ではとりあえずその”千年桜”も元へと行ってみよう…きっと美しい女性がいるに違いない…」
『そういう理由なのかっ！？』
焔にツッコミを入れられながらも、五人でぞろぞろと千年桜へと移動する。
中庭を抜けて桜の木々が集っている場所へ向かい、その中でも特に大きな一本の桜の下へ向かう。
そのふもとで立ち止まった莱眞は、ふっと笑みを浮かべて目を凝らした。
「恥ずかしがらずに出てきてくれるかい？とても美しい桜のレディ…」
霊的存在を見る事のできる莱眞の目で、桜の木を下から上へと視線を向けて調べていく。
そして一番下の木の枝を見たところで、莱眞は一人の少女と目が合った。
「やあ…とてもかわいいレディだね…」
『ふん！よくもまあぬけぬけと言えたもんじゃ！』
その少女は枝の上に立ち上がると、莱眞を見下ろしてそっけなく言い放った。
「貴方様が桜の精霊様ですのね…」
元々霊感のある者ばかりが集っている事もあり、すでにその姿はその場にいる全員の目にもしっかりと見えている。
桜色の着物を着て、10歳くらいの白いおかっぱ頭の桜の精霊は、見た目は優しい少女のくせにその口ぶりはキツかった。
「精霊様…どうかわたくしたちの話を聞いていただけませんか？」
『何を今更言うておる！奉納祭を忘れた人間がなにをぬかすかっ！』
「清らかな乙女よ…怒っているその顔もキュートだけれど、キミにはきっと笑顔が似合う…どうか機嫌をなおしてくれないかい？」
『おぬしらの話を聞く耳などわらわには無いわ！』
桜の精霊は仁王立ちで腕を組んで、まさに拗ねた子供のようにそっぽを向く。
莱眞と撫子は互いに顔を見合わせてもう一度声をかける。
「お願い致します、精霊様…確かに奉納祭を執り行わなかったことはわたくし達の責任です…
ですが桜の花を楽しみにしている人たちもたくさんいるのです…その人たちの為にも花を咲かせてはいただけませんでしょうか？」
桜の精霊は腕を組んで、ふよふよと浮かびながら莱眞達５人の周りを飛んでじろじろと見てまわる。
何か思いつきでもしたのか、不意にニヤリと笑うと、木の枝にひょいと飛び乗り腰掛けた。
『なかなか面白い連中じゃ…おぬしらの話、聞いてやっても良いぞ』
「ほ、本当ですか？！ありがとうございますうぅ…！」
『ただし交換条件じゃ！』
「交換条件…ですか…？」
『おぬしら今から”花見の百品料理”を用意せい。もちろん手作りで、じゃ』
『ひ、百品料理？！ってつまり…何？』
「言葉そのままに百品料理を用意するということですわね…」
『その通りじゃ。それができればわらわも桜の花を咲かせてやろう』
もっと何か”奉納祭”といったものに関係のありそうな事柄でも頼まれるのかと思いきや、
意外と普通な条件に少しばかり拍子抜け感もある。
「ふっ…しかしこれはこちらにとっては好都合だ…」
『え？莱眞さん…どうしてですか？』
「俺の本業を忘れたかい？俺の本業は”調理師”！生徒達の毎日の健康を考える学園の食堂調理師！」
「まあ！西王寺様…ホストをなさっているんじゃなかったんですのね？！」
『そう言えばそうだった気が…俺もてっきりホストだとばかり思い込んでたけど…』
「莱眞です…調理師なのにホストだと思われるとです…莱眞です……よくそう思われているようだけれど断じてホストではない！」
珍しく焔の言葉にノリツッコミをした莱眞は、どこからともなく白い割烹着を取り出してまるで戦隊もののスーツのように装着する。
「由紀さん、台所を借りるよ？古今東西ありとあらゆる料理を並べて見せよう！材料の心配はご無用！」
スチャっと携帯電話を取り出すと、莱眞は実家にコールして様々な材料を直ちに届けるように命じる。
その行動の素早さに思わず呆気にとられてしまう一同だったが…
「わ、わたくしも負けていられませんわ！お料理は得意な方ですの！」
「そうよね！なっちゃんのゴハン美味しいもん！私の苦手な和食なんて起用に作るし…」
『由紀はなんつーか、和洋共にアレだからな…和菓子しか取り得無いし…二人の邪魔しないようにじっとしてな』
「ひどっ…私だって何かしたいと思ってたのにっ…」
「え、焔さんっ！なんて事を言うんですか！由紀ちゃん、そんな事ないから…手伝って、ね？」
「なっちゃ〜ん…！」
「美しいレディが抱き合う光景を再び見る事が出来るなんて…これは俄然やる気が出てくるよ…」
西王寺家から料理の材料が届けられるまでの時間、とりあえず全員で「何を作るか」を相談し合う。
焔の言うとおり、和菓子作りはうまくても他の料理となるとからっきし駄目な由紀に和菓子を任せて、
莱眞は主に洋食のフルコースを、撫子は和食のフルコースを担当し取り仕切ることにしたのだった。
●桜の宴
全員でただひたすら料理を作り続ける事数時間。
西王寺家の協力で、外に仮説の厨房を設置したこともあり、意外と早い時間で百品が完成した。
撫子の桜をイメージした前菜からデザートまでの和食のフルコース。
莱眞の世にも珍しい材料を使用した洋食フルコース。そして由紀の和菓子を少々。
『ほう…なかなかやるのぉ…おぬしら』
桜の精は神城家の和室に並べられたそれらを目にして、心底感心してため息を漏らす。
『おぬしらがここまでやるとは思っておらなんだ』
撫子と莱眞の前にふわりと舞い降りると、目を細めてニッコリと微笑んだ。
「キミのようにキュートなレディの為なら俺はどんな料理も用意してみせるよ…？
そうそう、届けさせた材料の中にこんなものがあったんだけれど、良かったらもらってくれるかな」
『それは銘酒”サク・ラバ”！面白い…。よし、ならばおぬしらに最後の仕事じゃ！これら全てを表に出すんじゃ』
「表？外ですか？」
『庭に花見の用意をさせておる…』
桜の精に言われて、由紀が慌てて走り、庭側に面している障子を開く。
すると、庭にゴザやシートを敷く作業をしている鈴森 鎮（すずもり しず）と、見知らぬ少女の姿がそこにあった。
「あれは鎮君…いつの間に…？」
『おぬしらが料理を用意しておる間にちょいとな…他にもまだおるわ…』
桜の精霊は何かを企んでいるような表情を浮かべた後、再び料理を運ぶように命じる。
互いに顔を見合わせた後、縁側の窓を開いて外に居る鎮達へと声をかけた。
「皆様、お疲れ様でしたわ」
「おーっ！撫子のねーちゃん！ひっさりぶりー！それから…」
「やあ！そちらの可愛いお嬢さんはどうしたんだい？そんな重い荷物を持ってはいけないよ？
この俺が変わりに運んであげよう…そう、キミの事を愛らしいと思う俺の気持ちと一緒に、ね」
「うわー、相変わらずナイスな男のシカトっぷりじゃん莱眞さん…」
ナチュラルに鎮をアウトオブ眼中にして、莱眞は少女の元に膝をついて微笑みかける。
突然のその行動に、少女…一条 深咲（いちじょう みさき）ははっきり言って戸惑うしかなかったのだが…
相手に敵意もなくむしろ好意むんむんである事だけは伝わってきて、とりあえず微笑んで応えた。
「さあ皆様、少し手伝っていただきたいんですの…用意した百品料理をすべてこちらに運びたいので」
「レディが助けを求めているんだ。断るような男はいないだろうね」
目から怪光線でも出そうな厳しい視線を莱眞に向けられて、首を横に振る男がいるはずがない。
言われるままに、室内に用意してあった数々の料理を外のシートの上へと運んでいく。
そんな作業をしているうちに…ふと莱眞が顔を上げると、見知った来客の姿。
「おや？そこに見えるは冠城さんじゃないか…それに、翼さんも…相変わらずキュートだね…？」
『あー！莱眞さんだー！来てたんですねっ♪』
現れたのは、冠城 琉人（かぶらぎ りゅうと）。翼と共ににこにこと笑いながら近づいて来る。
同行している青年は、永良 暁野（ながら あけの）。達と並んで少し遠慮がちに琉人の後をついて来ていた。
「これは一体どうしたんです？まるでお花見でも始まりそうな雰囲気ですが…」
「おーっす！その通り、お花見だぜ♪」
「これはこれは鎮くんまで…お花見？ええっ？！今からですか？！」
「そうなんだよ〜♪この料理、莱眞さんと撫子さんと由紀さん達で作ったの」
「なるほど〜…あ、あの…ところでお嬢さんは…？」
「深咲ちゃんと申しますわ。お手伝いしてくださったんですの」
琉人達が来た事で、室内に居た鎮、深咲、撫子の三人が姿を見せる。
それに続いて由紀や式霊達も現れて、気づくと全員集合となっていた。
『集まったようじゃな…』
そこへ、ふわりと千年桜の精霊が姿を見せて、便利屋の離れの屋根の上に舞い降りる。
『奉納を忘れておった事は重罪じゃ…しかし、そろそろ終わりにしようと思ってもおってな』
「終わり…ですか？奉納の祭を終わりにするということですの？ですから百品料理を…？」
『うむ。時の移ろいと共に人も変わりゆくものでな…今年は一つの賭けをしてみたんじゃ』
「賭け？！なんだよそれー！？俺等歌いまくったの意味あったのか？！」
『まあ聞けイタチっ子よ。今年花を咲かせずにいたら、どう動くかと知りたくてな…』
「…それで動いた俺たちに課題を与えてクリアする意志があるかどうか見てみたわけや…」
『そういうことじゃ…そしておぬしらは全てを成し遂げた。それでもう充分じゃ。
いつの時代も忘れてはいても必ずそれをなんとかしようとする者がいると言うことがわかっただけでな…』
「今年で終わりって事は…それじゃあ次のお祭はどうなるんです？」
『わらわはただ見守る事にする…次からは何もせずとも桜は咲く…枯れる事さえ無ければな』
「そんなの寂しい…あの、私、百年も生きられないけど…でもきっとちゃんとお祭をする人がいると思うし…」
『気にするな。元々そのつもりじゃった。だからこそおぬしらの前に姿を見せたんじゃ…
さあ！今年は盛大に花を咲かせてやろう！そしていつもより長くその全ての花を咲き誇らせてやろう…！』
桜の精霊は声を張り上げて両手を上に上げてゆっくりと開く。
淡く桃色の光がその小さな体から発せられて、光は神社の敷地全てを包み込むように広がっていった。
「暖かい光ですわね…」
「やわらかい…」
「ああっ！見ろよあっち！花が咲いてる咲いてるっ！」
鎮がひょいと庭石の上に飛び乗って、そこから見える桜の木々を指差す。
薄い桃色の花が、次から次へとつぼみを開いて花を咲かせていく…その風景はまさに圧巻だった。
『さあ皆の者…京は桜の宴じゃ！わらわと共にひと晩中歌い、食べ、飲み明かそうぞ！』
用意されていた花見の敷物の上に姿を見せる桜の精霊。
その表情は実に楽しそうな、嬉しそうなにこやかな笑顔だった。
「レディのお誘いとあっては断る理由なんて無いからね…喜んで」
「俺も腹減っててさー！すっげー美味そうな料理食わなきゃ損だしな♪」
「なんとなくそんな気がしとったんや…他にもいくつか酒用意してきて正解やったな…」
「私もみんなと一緒にお花見したいです…！すっごく楽しそう！」
「そうですわね…皆様、深咲ちゃんがいるんですからお酒の飲みすぎには注意して下さいね？」
「ならば私は深咲さんの為に美味しいお茶をご用意しましょう！」
わいわいとにぎやかに、それぞれ適当に敷物の上に自分の場所を決めて座っていく。
目の前に並んでいる数々の料理と、そしてお酒。
カラオケセットもしっかり設置されていて…まさに至れり尽くせりのお花見の宴だった。
「あ、あの…わたくし、皆さんが宜しければ奉納祭をきちんと行いたいのですがいかがでしょう？
お花見をしていただいている席で…お邪魔でなければ…」
「邪魔だなんてとんでもないですよ！構いませんよねえ、精霊さん」
『ふっ…花見だけで良いと言うておるのに、おぬしらと来たら…』
早速、暁野から酒を奪いながら飲み始めている精霊は嬉しそうに笑みを浮かべる。
撫子は今来ている桜の模様の入った着物から、巫女の衣装に着替えるために席を外す。
「由紀さんは行かないんですか？こちらの巫女さんなんですから…」
「撫子さんだけじゃなく、由紀さんも巫女さんなんだ！すごいなぁ！」
『あー、コラコラそこ！たき付けないように！撫子さんの舞の邪魔になるだけだから』
「焔くん…その言い方は感心しないねぇ？二人の女性が舞い踊る姿ほど目に優しいものはないよ？
そうそう！舞踊りで思い出したけれど、実は庶民の花見の作法の”小皿踊り”というものを覚えたんだけれど、一緒にどうだい？」
「なあなあ、小皿踊りってなに？それって美味い？」
「美味くはありませんねぇ…それはですね、こうやってお皿を手にもってここを隠すようにして…」
「おい、そこのお茶神父。何をいたいけな子供に教えとるんや…」
「お、お茶神父ですかっ？！いえ、私はそのあくまでお茶の使者でして…」
花見の宴らしく、わいわいと盛り上がりを見せ始める。
そこへ、着替えと準備を済ませた撫子が家の中からゆっくりと歩み出てくる。
「お待たせいたしました…皆様はどうぞお花見を続けてくださいませ」
『ほほう…改めてみるとなかなかの器量良しじゃなぁ…』
「なんかこの桜の精ってオヤジくせー…」
思わず鎮はぼそりと呟く。深咲がその隣で小さくくすっと笑い、鎮は「はっ」と照れ笑い。
『―――さあ、ならば再び花見の宴といこうぞ！最後の奉納祭じゃ！』
雑談で賑わっていた場が、桜の精の一声で一瞬静まる。
そして、再び盛り上がりの声をあげて、撫子も奉納の舞をするために桜の木の元へと向かう。
「ああ！そうそう…私、冠城琉人から皆さんに一つ言っておきたい事があります」
…と、不意に琉人が立ち上がり、どこからとも無くマイクを取り出す。
「おいお茶神父。それ昼間の小道具のマイクやろ…」
「うっ…ご、ごほんっ！えー、お花見とは春の楽しい行事の一つです…がっ！
お花見の席ではめを外しすぎると、他の方々の迷惑になってしまいます…
皆さんも、くれぐれも注意してちゃんと”お花見”を楽しんでください、ね」
『冠城さーん？誰に向かって話してるんですか…？』
びしっと指を指して言う琉人の視線は、誰を見るとも無く、
強いて言うならばこちら側、カメラ目線で決めポーズを向けていたのだった。
●おわり●
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【0328／天薙・撫子（あまなぎ・なでしこ）／18歳／女性／大学生（巫女）】
【2209／冠城・琉人（かぶらぎ・りゅうと）／男性／84歳（外見20代前半）／神父（悪魔狩り）】
【2320／鈴森・鎮（すずもり・しず）／男性／497歳／鎌鼬参番手】
【2337／一条・深咲（いちじょう・みさき）／女性／7歳／退魔術者】
【2401／永良・暁野（ながら・あけの）／男性／816歳／陰陽師】
【2441／西王寺・莱眞（さいおうじ・らいま）／男性／25歳／財閥後継者・調理師】
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■ ライター通信 ■
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この度は、神城便利屋の事件簿：五に参加いただきありがとうございました。
お花見の季節のエピソードでしたが、楽しんでいただけましたでしょうか？
ライター活動を休業していた後の再開の一発目と言う事もありましたので、
少し世界に入り込むのに時間がかかってしまいましたが、楽しんでいただけていたら幸いです。
今回は、選択していただいた「課題」ごとに二人一組で行動を描かせていただきました。
もし宜しければ他の皆さんの課題を覗いてみて下さいませ（＾＾）
神城便利屋では今後も色々と厄介な事件等を皆様方にお願いすることがあるかもしれませんが、
その時はまた宜しければ力になってやっていただけると嬉しいです。
＞西王寺・莱眞様
こんにちわ。物凄くお久しぶりです。
再び莱眞さんにお会いできてとても嬉しいです。
今回もまた莱眞さんらしいプレイングを拝見して、爆笑しておりました。
あれやこれやと書きつくせぬ事が多い莱眞さんはやはり素敵です。（笑）
またお会いできるのを楽しみにしております。
：：：：：安曇あずみ：：：：：
※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>
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