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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


=気まぐれ桜よ狂イ咲ケ!=神城心霊便利屋事件簿:五


●千年桜

 神城神社の敷地内には、たくさんの桜の木が植わっている。
その中には、樹齢百年以上とも二百年とも言われている木があり、
中でも”千年桜”と言う、千年の樹齢を誇る桜の木もあると言う…のだが。
実際のところ、本当にそんなに昔から生えていたのかどうかはわからない。
ただ、神社がここに構える以前からあったことは確かだと、文献には書かれていた。
 そんな桜がある場所が、春の季節に何もしないわけがない。
毎年、4月上旬から、花が散ってしまう頃まで、『お花見祭』が開催されているのだ。
今年ももちろん、毎年恒例行事として行われる…はずだったのだが。
『……咲かないな…桜』
『咲かないわね…』
『―――って言うかつぼみすらねーじゃん』
 千年桜を前にして、神城便利屋の焔、未来、宇摩の三人は立ち尽くしていた。
今日はもう4月の中旬。
いつもなら、この時期になると桜は満開になっているはずだった。
それなのにどういうわけなのか…
「全滅だなんて…こんな事今まで無かったのに!」
 そう、千年桜だけではなく、敷地内の桜全てが芽吹く様子すらなく、
ただ無造作にこげ茶色の木の枝だけを広げていたのだった。
別に、全国的に開花が遅いとか気候の問題と言うわけではなく、
現に神社の敷地外の桜はすでにもう薄桃の花が咲き誇り、散り始めてすらいる。
 枯れているわけではなく、ただ…咲かないのだ。
まるで桜の木々が意志を持ち、自らの時間を止めているかのように。
「もう今年の花見祭は中止じゃのぉ、由紀ちゃん…」
「堺さん…そんなぁ〜!楽しみにしてたのに…どうしたらいいのー!?」
 便利屋の主人、神城由紀は、頭を抱えてその場に座り込んでしまったのだった。
『そう言えばこの桜…』
『なにか思い当たることでもあるの?焔』
『いや…昔、何かをやっていたような気がするんだけど…』
『言われてみれば…そうね…何だったかしら…?』
『忘れてるくらいだから大したことねーんじゃないの』
 ここで何かをしていたとすれば、式霊たち全員の記憶に残っているはずだが、
焔も未来も薄ぼんやりとしか思い出せず、宇摩はまったく覚えてすらいない。
『…ま、一回そこら咲かないくらい問題ないか』
「なに言ってるのよっ!お祭での収益が神社の運営費にもなってたのにっ!」
『ゆ、由紀…』
「時期外れでもいい…だから咲いてよっ!お願いっ!」
 そういう理由からかよ、と焔は内心ツッコミを入れながらも、
しかし、なんとなくこの桜には”何か”がありそうな予感もしてしまう。
『―――仕方ない…誰かに相談してみるか…何か知ってるかもしれないし』
 千年桜を見上げながら、焔はぽつりと呟いた。


●桜の精霊

 鈴森 鎮(すずもり・しず)。497歳。ただし見た目は小学四年生のイタチっ子。
今日も元気に暇つぶしでもしようと、神城便利屋への道を歩いていた。
そろそろ花見の季節だし、お菓子でも食べながら花でも見るかなーと言う魂胆だ。
しっかりコンビニや駄菓子屋で食料も買い込んでいると言う用意周到ぶりだ。
 鼻歌交じりにランドセルをガチャガチャ鳴らして曲がり角を曲がる。
「きゃっ!」
「うわっ!?」
 そのとたん、ドンと音をたてて何かにぶつかり鎮は尻餅をつく。
きゃっと言う声が聞こえたことを考えると、自分がぶつかったのは何かではなく誰かだと気づき、
鎮は慌てて身体を起こして自分のぶつかった相手を見る。
 そこには自分と同じように尻餅をついてしまい、腰の辺りをさすっている幼い少女の姿があった。
「ご、ごめんっ!?大丈夫だった!?」
 慌てて駆け寄り助け起こす。
「はい…ありがとうございます…」
 そして鎮を見上げた少女の顔を見て…鎮はドキリと心臓の音を跳ね上げる。
『…か、可愛い…』
 それが鎮の第一印象だった。
「ごめんなさい!私、ずっと上を見てて…」
「え、いや…俺こそ前ちゃんと見てなくて…って、上?」
 上に何があるんだ?と、鎮は顔を向ける。
そこには、何も無かった。いや、正確には桜の木々が枝を伸ばしているだけで…
「ここの桜、まだ一つも花が咲いてないなぁって思って」
「ああっ!そういえば!!」
 言われて始めてその事実に気づき、鎮は驚く。
各地ではもうすでにどこの桜も咲いていて、場所によったら散り始めている所もあると言うのに…少しばかりこれは異常だ。
「私気になっちゃって…ここの神社の人にどうしたのか聞きたいなって…」
「そ、それなら俺に任せてよ!俺、ここの神社の人たちと友達だし!」
 鎮は胸を張って自慢げに答えると、その少女の手を掴んで歩き始める。
おそらく、少女は小学校低学年くらいに見えるが、年齢よりもしっかりしているような印象を受ける。
「あ、あのっ…あなたは…?」
「俺の名前は鎮!鈴森 鎮!よろしくなっ♪」
「鎮さん…ですね…!私は一条 深咲(いちじょう・みさき)です…」
 ニッと笑う鎮につられて、深咲もニッコリと微笑んだ。
そんな二人が神城神社の敷地内に入った時、桜の木の下で顔つき合わせて悩んでいる見知った者達の姿を見つける。
また何かあったのだろうかと鎮が近づいていくと、神城便利屋の戌の式霊、太郎がこちらに気づいて頭を下げた。
『いらっしゃいませ、鎮君…今日は彼女とデートですか?』
「はっ…?!ち、違うっって!何言ってんの太郎さんっ!こ、この子はさっき会ったばっかりで…」
『おーっす鎮!真っ赤になって否定するあたり、あやしいな〜!』
「って宇摩?!いやだから違うって!」
「あのぅ…鎮さんの仰っていることはホントです…私、さっきそこで会ったばかりで」
 少し躊躇いがちに、上目遣いで言う深咲を見て、どうやら事実っぽいなと太郎と宇摩は顔を見合わせる。
『それは残念』
『まあ鎮に彼女なんてまだ100年早いよなあ〜』
「だーっ!!いいだろそんな事っ!それは置いといてっ!何かあったの?」
 鎮はなんとかそっち方面から話題を変えようと早速話を切り出すことにした。
太郎と宇摩は、桜の木を見上げながら「それが…」と鎮と深咲に桜の木が咲かない事を話して聞かせる。
一通り話を聞いて、鎮はお菓子の入った袋を手に呆然と立ち尽くす。
「花見の席に花がないとはこれイカに?タコに?買い込んだ花見用団子や桜餅やお菓子の数々を花ナシで食べろと!?」
「それって凄く寂しいですよね…お花見って桜の花があるからお花見なのに…」
『そうなんだよな〜…だからどうしたもんか調べようって事になって…』
「よーっしわかった!そうとなればこの”少年探偵・鈴森 鎮”に任せろ!」
「わ〜!鎮さんって探偵さんだったんですね!」
『いや…それはちょっと違うと…』
「俺にかかれば解けない謎は無い!体は子供頭脳はイタチ!真実はいつも一つっ!」
『なりきってやがる…それで少年探偵さん、どうするんだよ?』
「ふふん…ワトソン君。こういう場合はまず物知りの子々さんに聞く!」
『子々だったら便利屋の仕事で遠出して留守だよ』
「―――えーと、今のナシ。こういう場合、”資料をあたれ”!神社にある昔の資料や史料片っ端からチェックだ!」
 なるほどねと頷きあう太郎と宇摩。少々骨の折れそうな仕事だが、一理ある。
「そうと決まれば早速倉庫にレッツゴーだ!」
「あ、あのっ!私もお手伝いしますっ!何かできる事あると思うし!」
 深咲も参加の意思を表明して、俄然やる気の出てくる鎮。
「おーっし!それじゃあ行くぞー!”鈴森少年探偵団”!」
『変わってるぞ…』
 宇摩の冷静な突っ込みも、盛り上がった鎮の耳には届くはずもないのだった。



 手のあいている式霊も引き連れて、資料倉庫をあさる事一時間。
深咲の見ていた文献から、『奉納祭』の記載を見つけて、「これだ!」と一同は声をそろえる。
100年に一度のお祭を滞っていた事がおそらく原因だろうと。
そう言えば、100年前に何かをしていたような気がする鎮だったが…ぶっちゃけほとんど憶えていない。
「…とは言え…具体的にどうすればいいのかまでは書いてないなあ」
「それじゃあ桜の中の人にお話を聞いてみればいいんですよ!」
「聞く?聞くって桜に直接?」
「はい!」
 深咲はにこにこと微笑み、資料庫を出て千年桜の元へと向かう。
鎮と太郎と宇摩もその後をぞろぞろとついていく。残りの式霊達は後片付けだ。
 深咲は千年桜の元へ行くと、その周囲をちょこちょこと動き回って様子を窺ってみる。
「桜の中の人ってどこにいるのかなあ…桜の中の人の寂しいのかもしれないし…お話してみなきゃ」
 見た目にはどこにも桜の精霊の存在は感じられず、試しにそっと木の幹に手を触れて目を閉じた。
「桜の精霊さん…えっと…どうしたらお花を咲かせてくれますか?」
 純粋な深咲の心からの問いかけ。
鎮も思わずその隣に立ち、木の幹にそっと触れてみる。
「うわっ!?」
 その鎮の手を、木の幹の中からにゅっと突き出た小さな細い手が掴む。
思わずのけぞって転びそうになった鎮を、ちょうど後ろに立っていた太郎が支え止めた。
視線を木に向けると、幹からゆっくりと一人の女の子が姿を見せる。
『ぬしら今更来て何の用じゃ!』
『あ、あなたが桜の精霊…?』
『遅い!遅すぎるわこのボンクラ!』
桜色の着物を着て、10歳くらいの白いおかっぱ頭の桜の精霊は、見た目は優しい少女のくせにその口ぶりはキツイ。
「ぼ…ボンクラ?!」
『今更やってきて花を咲かせてくれとは随分と勝手な話じゃとは思わぬか?』
「あの…桜の精霊さん…ですよね?ごめんなさい!でも私たち、百年も生きていないから…わからなかったんです!」
『―――確かに人の子にあらば百年も生きる事は出来ぬだろうが…』
 桜の精霊は腕を組みながら、鎮や太郎をじろじろと見てまわる。
要するに、人にあらざる者の事はさすがにお見通しらしく、ふーっと小さくため息をついた。
『まあ良いわ…どうしてもと言うのならば、咲かせてやっても良い』
「ほんとか?!さっすが!話がわかる!」
「わー!ありがとうございますっ!」
『待て。焦るな。それはこれからわらわが出す条件を満たせばの話じゃ』
「えー…条件出すのかよー!?」
『当たり前じゃ!奉納祭を忘れていた者がなにをぬかすかっ!』
 桜の精霊は腕を組んで一喝すると、ふよふよと浮かびながら木の枝にひょいと飛び乗り腰掛けた。
『わらわが出す条件は一つ!”カラオケでわらわと十曲勝負じゃ!”』
「―――は?」
『か、カラオケ?今、カラオケつった?』
『その通りカラオケじゃ!十曲歌って合計得点がわらわより上ならば咲かせてやろう!』
 もっと何か”奉納祭”といったものに関係のありそうな事柄でも頼まれるのかと思いきや、
意外と普通な条件に少しばかり拍子抜け感もある。
しかし、それなら意外とやり易いかもしれないと…鎮と深咲、太郎と宇摩は早速、
神城便利屋に置いてある通信カラオケのセットを引っ張り出してセッティングを開始したのだった。



 カラオケ対決は、桜の精VS鎮チーム四人。
桜の精は一人で十曲を、鎮チームは四人で十曲を歌い、合計点数が上だった方が勝ち。
ただそれだけでは面白くないと、桜の精が最高得点が出た場合はそこで終了と言う条件をつけた。
「一番、鈴森 鎮…ポルノの”メリッサ”行きまっす!」
 いきなりアップテンポな歌で口火を切った鎮。ノリノリでマイクを持って、気持ちよく歌い上げる。
桜の精霊はかなり歌が好きらしく、音楽に合わせて身体を動かしていたりする。
「それじゃあ二番手…一条 深咲…歌います…私もすごく歌が大好きだから…」
 少し恥ずかしそうにしながら深咲が歌ったのは、さくら(独唱)。
幼い女の子とは思えぬほどの歌声で、深く広く…桜が舞い散るような情景を思い起こさせる歌声が広がる。
自らもゆったりと舞うような振りをつけている姿を見ていると、自然と世界に引き込まれていく。
それが彼女の持って生まれた才能と言うか、カリスマ性と言うか…。
『なかなかやりおる…ならば次はおぬし、ワン公』
『わっ…ワン公…っ!?』
「わははははっ!太郎さんワン公だってワン公っ!」
『鎮君、キミって人は…いえ、いいです!僕もカラオケ好きのはしくれ…歌で勝負しましょう』
 桜の精霊にワン公と呼ばれた上に鎮にまでウケて笑われた太郎は悔しさを歌にぶつける。
自分の十八番でもあるGLAYの曲から、”誘惑”を選曲する。
「うわっ!無茶苦茶なりきってるじゃん…!い、意外だな…大人しい感じの人なのに…」
「ホント…でもすっごく気持ちがこもっていて…素敵な歌声…」
「そ、そうかな…うん、確かにそうかも」
「歌ってね勝ち負けとかじゃなくって楽しむものだと思うの。あ、今は勝負が大事ってわかってるよ?
でもね、やっぱり…歌っている人が凄く楽しくて気持ちがこもっているのがいいなって…」
 深咲は音楽にあわせてリズムを取りながら、本当に楽しそうな笑顔で言う。
鎮もその笑顔を見ているとなんだか気持ちが和んできて、勝負はどうでもいいかもと言う気分にさえなった。
 その後も、鎮はガンダムソングをひたすら歌いテンションを上げ、
太郎も負けじとGLAYのオンパレード。深咲はマイペースに自分の好きな歌を歌い上げて、
桜の精は楽しげにそれらを見ながら自らも自慢の喉を披露する。
 そんな中、あまり歌は得意ではない宇摩は完全に観客に徹することになったのだった。


●桜の宴

『結果発表しまーす…合計得点は…チーム鎮860点!そして桜の精さんは…820点!』
「おっしゃあ!勝ったぜ”鈴森少年合唱団”っ!」
『いや、だからまた名前変わってるって…』
『うぬ…おのれ…ちと前半のノリに押されて体力を消耗しすぎたわ…』
「俺の作戦勝ちだな♪名付けて前半ノリノリ後半省エネ作戦!」
 嬉しそうにガッツポーズをとる鎮。
ちなみに、ラストを飾ったのはこの鎮がしんみりと歌った”桜坂”だった。
『仕方ない…勝負は勝負じゃ。ぬしらの言うように花を咲かせてやろう』
「桜の精霊さん…歌、とっても綺麗で楽しかったです…」
「演歌ばっかりだったけどな…」
『何を言うかイタチっ子!演歌は日本の心ぞ!?』
 ぼそっと呟いた鎮の言葉に、桜の精霊は厳しい声で反論する。
せっかく勝負で勝てたのに、こんなところで機嫌を損ねてしまっては元も子もない。
慌ててフォローする太郎と宇摩。桜の精霊はジトっとした目を向けていたがすぐに笑みを浮かべ。
『まあ良い。わらわも楽しかった。すぐにでも花を咲かせてやりたいところじゃが…
これからすこしばかりおぬしらにやってもらいたいことがある』
「やってもらいたいこと?」
『そこの庭に、花見の宴の用意をして欲しいのじゃ』
 鎮達は顔を見合わせて言葉の意味を考える。
それはつまり、この場で花見の席を設けろということで…
「なんかよくわかんねーけど…まあ、いっちょやるかー!」
『そうですね…とりあえず敷物や飲み物やカラオケセットの設置でしょうか…』
「うわあ〜お花見できるんですね!嬉しいな〜♪」
『じゃあ倉庫とか行ってみるか…』
 一致団結した鎮達が、レジャーマットやゴザやじゅうたんや、
ありとあらゆる敷物をかき集めて中庭に敷いて用意をしていると、いつから来ていたのか、
神城家の中から、西王寺 莱眞(さいおうじ らいま)と天薙 撫子(あまなぎ なでしこ)の二人が姿を見せる。
 二人とも、今までずっと台所で料理仕事をしていたらしくそれぞれ割烹着を着たままだった。
「皆様、お疲れ様でしたわ」
「おーっ!撫子のねーちゃん!ひっさりぶりー!それから…」
「やあ!そちらの可愛いお嬢さんはどうしたんだい?そんな重い荷物を持ってはいけないよ?
この俺が変わりに運んであげよう…そう、キミの事を愛らしいと思う俺の気持ちと一緒に、ね」
「うわー、相変わらずナイスな男のシカトっぷりじゃん莱眞さん…」
 ナチュラルに鎮をアウトオブ眼中にして、莱眞は深咲の元に膝をついて微笑みかける。
突然のその行動に、深咲ははっきり言って戸惑うしかなかったのだが…
相手に敵意もなくむしろ好意むんむんである事だけは伝わってきて、とりあえず微笑んで応えた。
「さあ皆様、少し手伝っていただきたいんですの…用意した百品料理をすべてこちらに運びたいので」
「レディが助けを求めているんだ。断るような男はいないだろうね」
 目から怪光線でも出そうな厳しい視線を莱眞に向けられて、首を横に振る男がいるはずがない。
言われるままに、室内に用意してあった数々の料理を外のシートの上へと運んでいく。
そんな作業をしているうちに…ふと莱眞が顔を上げると、見知った来客の姿。
「おや?そこに見えるは冠城さんじゃないか…それに、翼さんも…相変わらずキュートだね…?」
『あー!莱眞さんだー!来てたんですねっ♪』
 現れたのは、冠城 琉人(かぶらぎ りゅうと)。翼と共ににこにこと笑いながら近づいて来る。
同行している青年は、永良 暁野(ながら あけの)。達と並んで少し遠慮がちに琉人の後をついて来ていた。
「これは一体どうしたんです?まるでお花見でも始まりそうな雰囲気ですが…」
「おーっす!その通り、お花見だぜ♪」
「これはこれは鎮くんまで…お花見?ええっ?!今からですか?!」
「そうなんだよ〜♪この料理、莱眞さんと撫子と由紀さん達で作ったの」
「なるほど〜…あ、あの…ところでお嬢さんは…?」
「深咲ちゃんと申しますわ。お手伝いしてくださったんですの」
 琉人達が来た事で、室内に居た鎮、深咲、撫子の三人が姿を見せる。
それに続いて由紀や式霊達も現れて、気づくと全員集合となっていた。
『集まったようじゃな…』
 そこへ、ふわりと千年桜の精霊が姿を見せて、便利屋の離れの屋根の上に舞い降りる。
『奉納を忘れておった事は重罪じゃ…しかし、そろそろ終わりにしようと思ってもおってな』
「終わり…ですか?奉納の祭を終わりにするということですの?ですから百品料理を…?」
『うむ。時の移ろいと共に人も変わりゆくものでな…今年は一つの賭けをしてみたんじゃ』
「賭け?!なんだよそれー!?俺等歌いまくったの意味あったのか?!」
『まあ聞けイタチっ子よ。今年花を咲かせずにいたら、どう動くかと知りたくてな…』
「…それで動いた俺たちに課題を与えてクリアする意志があるかどうか見てみたわけや…」
『そういうことじゃ…そしておぬしらは全てを成し遂げた。それでもう充分じゃ。
いつの時代も忘れてはいても必ずそれをなんとかしようとする者がいると言うことがわかっただけでな…』
「今年で終わりって事は…それじゃあ次のお祭はどうなるんです?」
『わらわはただ見守る事にする…次からは何もせずとも桜は咲く…枯れる事さえ無ければな』
「そんなの寂しい…あの、私、百年も生きられないけど…でもきっとちゃんとお祭をする人がいると思うし…」
『気にするな。元々そのつもりじゃった。だからこそおぬしらの前に姿を見せたんじゃ…
さあ!今年は盛大に花を咲かせてやろう!そしていつもより長くその全ての花を咲き誇らせてやろう…!』
 桜の精霊は声を張り上げて両手を上に上げてゆっくりと開く。
淡く桃色の光がその小さな体から発せられて、光は神社の敷地全てを包み込むように広がっていった。
「暖かい光ですわね…」
「やわらかい…」
「ああっ!見ろよあっち!花が咲いてる咲いてるっ!」
 鎮がひょいと庭石の上に飛び乗って、そこから見える桜の木々を指差す。
薄い桃色の花が、次から次へとつぼみを開いて花を咲かせていく…その風景はまさに圧巻だった。
『さあ皆の者…京は桜の宴じゃ!わらわと共にひと晩中歌い、食べ、飲み明かそうぞ!』
 用意されていた花見の敷物の上に姿を見せる桜の精霊。
その表情は実に楽しそうな、嬉しそうなにこやかな笑顔だった。
「レディのお誘いとあっては断る理由なんて無いからね…喜んで」
「俺も腹減っててさー!すっげー美味そうな料理食わなきゃ損だしな♪」
「なんとなくそんな気がしとったんや…他にもいくつか酒用意してきて正解やったな…」
「私もみんなと一緒にお花見したいです…!すっごく楽しそう!」
「そうですわね…皆様、深咲ちゃんがいるんですからお酒の飲みすぎには注意して下さいね?」
「ならば私は深咲さんの為に美味しいお茶をご用意しましょう!」
 わいわいとにぎやかに、それぞれ適当に敷物の上に自分の場所を決めて座っていく。
目の前に並んでいる数々の料理と、そしてお酒。
カラオケセットもしっかり設置されていて…まさに至れり尽くせりのお花見の宴だった。
「あ、あの…わたくし、皆さんが宜しければ奉納祭をきちんと行いたいのですがいかがでしょう?
お花見をしていただいている席で…お邪魔でなければ…」
「邪魔だなんてとんでもないですよ!構いませんよねえ、精霊さん」
『ふっ…花見だけで良いと言うておるのに、おぬしらと来たら…』
 早速、暁野から酒を奪いながら飲み始めている精霊は嬉しそうに笑みを浮かべる。
撫子は今来ている桜の模様の入った着物から、巫女の衣装に着替えるために席を外す。
「由紀さんは行かないんですか?こちらの巫女さんなんですから…」
「撫子さんだけじゃなく、由紀さんも巫女さんなんだ!すごいなぁ!」
『あー、コラコラそこ!たき付けないように!撫子さんの舞の邪魔になるだけだから』
「焔くん…その言い方は感心しないねぇ?二人の女性が舞い踊る姿ほど目に優しいものはないよ?
そうそう!舞踊りで思い出したけれど、実は庶民の花見の作法の”小皿踊り”というものを覚えたんだけれど、一緒にどうだい?」
「なあなあ、小皿踊りってなに?それって美味い?」
「美味くはありませんねぇ…それはですね、こうやってお皿を手にもってここを隠すようにして…」
「おい、そこのお茶神父。何をいたいけな子供に教えとるんや…」
「お、お茶神父ですかっ?!いえ、私はそのあくまでお茶の使者でして…」
 花見の宴らしく、わいわいと盛り上がりを見せ始める。
そこへ、着替えと準備を済ませた撫子が家の中からゆっくりと歩み出てくる。
「お待たせいたしました…皆様はどうぞお花見を続けてくださいませ」
『ほほう…改めてみるとなかなかの器量良しじゃなぁ…』
「なんかこの桜の精ってオヤジくせー…」
 思わず鎮はぼそりと呟く。深咲がその隣で小さくくすっと笑い、鎮は「はっ」と照れ笑い。
『―――さあ、ならば再び花見の宴といこうぞ!最後の奉納祭じゃ!』
 雑談で賑わっていた場が、桜の精の一声で一瞬静まる。
そして、再び盛り上がりの声をあげて、撫子も奉納の舞をするために桜の木の元へと向かう。
「ああ!そうそう…私、冠城琉人から皆さんに一つ言っておきたい事があります」
 …と、不意に琉人が立ち上がり、どこからとも無くマイクを取り出す。
「おいお茶神父。それ昼間の小道具のマイクやろ…」
「うっ…ご、ごほんっ!えー、お花見とは春の楽しい行事の一つです…がっ!
お花見の席ではめを外しすぎると、他の方々の迷惑になってしまいます…
皆さんも、くれぐれも注意してちゃんと”お花見”を楽しんでください、ね」
『冠城さーん?誰に向かって話してるんですか…?』
 びしっと指を指して言う琉人の視線は、誰を見るとも無く、
強いて言うならばこちら側、カメラ目線で決めポーズを向けていたのだった。





●おわり●



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0328/天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)/18歳/女性/大学生(巫女)】
【2209/冠城・琉人(かぶらぎ・りゅうと)/男性/84歳(外見20代前半)/神父(悪魔狩り)】
【2320/鈴森・鎮(すずもり・しず)/男性/497歳/鎌鼬参番手】
【2337/一条・深咲(いちじょう・みさき)/女性/7歳/退魔術者】
【2401/永良・暁野(ながら・あけの)/男性/816歳/陰陽師】
【2441/西王寺・莱眞(さいおうじ・らいま)/男性/25歳/財閥後継者・調理師】


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■         ライター通信          ■
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 この度は、神城便利屋の事件簿:五に参加いただきありがとうございました。
お花見の季節のエピソードでしたが、楽しんでいただけましたでしょうか?
ライター活動を休業していた後の再開の一発目と言う事もありましたので、
少し世界に入り込むのに時間がかかってしまいましたが、楽しんでいただけていたら幸いです。
今回は、選択していただいた「課題」ごとに二人一組で行動を描かせていただきました。
 もし宜しければ他の皆さんの課題を覗いてみて下さいませ(^^)

 神城便利屋では今後も色々と厄介な事件等を皆様方にお願いすることがあるかもしれませんが、
その時はまた宜しければ力になってやっていただけると嬉しいです。

>鈴森・鎮様
神城便利屋ではお久しぶりでございます。
今回は年齢の近い一条様と淡い青春の一幕…のような形で描かせていただきました。
式霊とのやりとりやカラオケ勝負やら、書いていて楽しかったです。
またお会いできるのを楽しみにしておりますv

:::::安曇あずみ:::::

※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>