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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Baby→A 〜capter 2〜


■オープニング■


「寒い……」
 佐倉マナトは草間興信所のソファに座り両腕で自分の身体を抱きしめるようにして呟いた。
「それは何か、ウチの事務所にケチを付けてると、そう言うことなのか?」
 三十路も過ぎたいい大人が未成年の一般大学生に因縁をつけるチンピラの如く言い返す。確かに経済的に潤っているとはお世辞にも言いがたいこの事務所は室内にもかかわらず夏はポンコツクーラーでより暑く、冬は灯油代を軽減している為なのかより寒い。
「最近は灯油も高いんですからね」
などと、零は気にする様子もなくそう言った。
「いや、そういうんじゃなくて。身も心も寒いなと」
「俺なんぞ、身と心だけじゃなくて懐も寒い」
 しつこいようだが、いい大人がそんなことを10歳以上違う学生に威張ってどうするという感じなのだが、まぁ、事実といえば事実なので反論のしようもない。
「お前なんか、生活費を親に出してもらっている扶養家族の分際だろうが」
 しごくまともなことを草間は言ったが、
「でも、コブ付なんですよ」
というマナトの反論にちらりと視線を横に向けた。
1人がけのマナトの隣には篭に入った赤ん坊が心地よさそうな寝息をたて指をしゃぶりながら熟睡している。
 一見普通の赤ん坊なのだが、実はこの赤ん坊ただのヒト科に属する赤ん坊ではなく、天使の卵であるのだ。
 偶然公園でそんなものを拾ったマナトは何故かこの赤ん坊の保護者を否応なく引き受けさせられたという気の毒な青年だった。
「しかし、全然育ってないな、この赤ん坊」
 未だに乳児そのままの赤ん坊を見て草間はそう言った。
「そりゃあ、ご飯代はかかりませんけど……でも、おむつ代とかおむつ代とかおむつ代とか……」
 何が楽しくてまだ十代のみそらで男やもめの気分を味あわなければいけないのか。
 それに、もう暫くしたら春休みも終わってしまう。
 日中、この赤ん坊をどうすればいいのか……マナトの悩みは尽きなかった。
「さっさと成長させるしかないんじゃないか」
「さっさと成長させるって、どうやってですか」
 マナトが尋ねると、草間はにやりと笑う。
「他人の恋愛事にかかわれば成長するんだろう」
 そう言って草間は何枚かの調査依頼をマナトに差し出した。
 紙にはタイトルであろう1枚目に『素行調査』と印字されている。
「どっかの金持ちのボンボンがなそこいらの姉ちゃんを見初めたらしいんだよ。んで、その過保護な保護者からの依頼だ」


■■■■■


「やっほー草間っち!今日も楽しくビンボーしてる〜?」
 明るい声で飛び込んでくるなり草間に抱きついた金髪に耳にピアス代わりのごついカフスをした少年、桐生暁(きりゅう・あき)は事務所内の微妙な雰囲気に首をかしげた。
 ソファに並んで座っているマナトと草間、その正面には実質この興信所を取り仕切っているといっても過言ではないが名目はただの興信所事務員であるはずのシュライン・エマ(しゅらいん・えま)、そしてシュラインより少し年下だろうが若い見た目とは裏腹にどこか迫力のある女性、海原みたま(うなばら・みたま)が座っている。
「ん? なになに? 何で怒られてるの、あの2人」
 暁は空いている事務椅子に足を組んで座っている真名神慶悟(まながみ・けいご)に小声で尋ねる。慶悟はお説教モードの2人の女性の迫力に余計な口を挟んでとばっちりを恐れてなのかただ笑っているだけだった。
 だが、
「身と懐が寒いって言うのはわかるけれど、心も寒いって言うのはなんだかちょっと失礼じゃないかしら、武彦さん?」
 あくまでにっこり笑顔で、しかしその実、目は全く笑っていないままのシュラインはどの口がそんなことを言ったのかしらとばかりに草間のほっぺをむにっと引っ張る。
「っ!」
 むにっという言葉は柔らかだが綺麗に整った爪が密かに頬に食い込んでいるのはご愛嬌なのだろうか。思わず洩れそうになった声を草間は飲み込んだ。
「心が寒いと言うより寂しくなったわ」
と、シュラインは彼女にしては珍しくむっとした表情をしている。
 そんな痴話げんかの様相を呈している隣では、
「娘に聞いて来て見たんだけど、天使の赤ん坊ねぇ」
と言いながらみたまは零が抱いている赤ん坊を見、そして視線を戻して、
「マナトって言ったっけ? 名前も付けないで育てていたなんてどういうつもり?」
と厳しい目を向ける。
「命名するのは親の義務であり権利でもあり幸せでもあるのよ」
「いぇ、だから、親というかなんというか……」
 マナトはそう弁解するが、みたまはバンと平手で机を軽く叩いた。
「あんたにとって望んでいなくても、名前を呼んでもらえるってのは子供にとっては必要とされているって事なんだから絶対に名前はつけなきゃ」
 愛情不足だと思ったからこの子も育ってないんじゃないの?と言うみたまのお説教にマナトはぐうの音も出ない。
「……なるほど、相当やられてるねぇ」
 しばらく見物していた暁が慶悟の笑いに同意する。
 慶悟のように笑いを堪えられずにけらけらと声をあげて笑い出した暁の声で、我に返ったのか、シュラインは軽く咳払いすると、
「ともあれ身は温かい飲み物で暖まってもらいましょう」
 零ちゃん手伝ってくれる?と声をかけられた零は、
「はい。あ、どなたか赤ちゃん抱っこしてていただけませんか?」
と見回したが草間と慶悟が首を振っている。
「あ、俺持つよ」
 零は立候補した暁に赤ん坊を渡してシュラインの後について給湯室へと向かった。
 経験などモチロンないだろうが暁は上手く赤ん坊を抱っこしている。草間、マナト、慶悟の3人が初めてこの赤ん坊を抱いた時とは大違いだ。
「でもさー、悪魔がダメって誰が決めたんだろうね。天使か悪魔……ねぇ」
 暁は赤ん坊を眺めながらそう呟く。
 人数分のコーヒーを入れて戻って来たシュラインと零がそれぞれにコーヒーを配り終わりようやく人心地つく。
「まぁ、でも赤ん坊が元気そうで安心したわ。マナト君もそんなにおむつ代がかかるなら紙を止めれば良いんじゃないの? なんなら布オムツ縫ってあげるわよ」
 暁が抱っこしている赤ん坊の頬を撫でながらシュラインはそう言ったが、
「でも、オムツだけじゃなくて、実際このままの状態だと大学がはじまってからどうすれば良いのか困ってるんで……確かに草間さんが言うように『成長させる』のが1番なんですよね」
 あいにく少し肩を落とした姿を気の毒に思うような面子はここには居なかった。
「ま、今回はとりあえずオムツが外れるくらいに育てば問題ないわけね。武彦さん、素行調査だけれど、見初めただけで付き合ってるわけじゃなかったわよね?」
 草間は依頼主から知り得た情報をまとめた物を渡す。
 そこには依頼主の息子の情報。そして肝心の調査対象となる女性の名前、住所などの情報が記されている。
「素行調査か。要するに、息子の惚れた相手の血筋やら家柄が気になるんでしょ。お馬さんかってーの」
 見た目とは裏腹に少し乱暴にそう言い放つとみたまは溜息を吐いたが、
「そうは言っても、ま、愛だけ邪道にもならないことも世の中には多々あるしね。お坊ちゃまがそこら辺をちゃんと理解しているような子なら案外親も口を出さないのかもしれないけれどね」
と、苦笑した。
「しかし、金持ちの小僧の恋愛の手助けか……。子供の恋愛にまで親が手を出すとはな。他人の恋路に踏み込むのも気が引けるが依頼とあっては仕方ない、か」
 慶悟はそれに軽く目を通すと呆れたような口調でその紙を戻す。
 今のところ、草間興信所に持ち込まれた依頼にしては怪奇的な匂いは感じられない。
「ま、この程度の調査なら得に問題もなさそうだし、精々2人回せば充分なんだが」
と、草間は一同を見回す。
「天使の卵の件もあるからな。他人事だが係わった以上は見届けなければ面白――」
「真名神君」
「――もとい、寝覚めが悪いしな」
 シュラインに睨まれて慶悟は口を手のひらで覆い隠して訂正する。
「まぁ、基本的なところで相手は学生のようだから尾行と夜遊びの加減とか交友関係なんかの張り込みでしょ、それに周囲の人からの聞き込みなんかよね」
 あいにくと言うか幸いと言うか、他にも依頼が入っている。危険がともなわなそうな依頼だからこそ草間もマナトに押し付けたのだろうが、いくらなんでも素人にいきなり素行調査をしろというのも無理がある。更に言うならなんといってもマナトは現在『子持ち』であるわけだし。
「取りあえず、助言とか差し入れとか……出来る限りのサポートはするから大丈夫よマナト君」
と、シュラインがぽんとマナトの肩を軽く叩く。
「名前なんかがわかっているんだし、尾行や聞き込みを中心とした現地班と書類調査や個人情報調査会社なんかに問い合わせる室内班に分けた方が効率はいいと思うけど?」
 そういったみたまに、
「ふ〜ん。んじゃ早速そのオネーサンと話ししなきゃだね。彼女の周りの人にも彼女の評判を聞くわけでしょ」
と、暁は少し考え込んで、零に赤ん坊を渡した。
 そして、徐に、マナトと慶悟の腕を掴み、
「よっし、じゃ俺達とー草間さんで彼女の知り合いの人一緒にナンパしにいこ!」
と言うが早いか興信所を飛び出そうとした。
「全く仕方ないな」
 口ではそういいながら渋々といった風を装って後に続いていこうとした草間の首根っこをシュラインが掴んだ。
「身も心も懐も寒い人は外に行かないで大人しく室内調査班に決まってるでしょ」
 そう言ったシュラインの顔は笑顔だったが、目の奥は笑っていなかったのは言うまでもない。


■■■■■


「女の子ナンパに行くのに、なんで海原さんも一緒なんですか?」
 大学校門正面にある喫茶店の窓際のテーブルを占領している中にみたまの顔を見てマナトが首を傾げる。しかし、マナト以上に首を傾げていたのはこの店の店員だろう。何せ、そのテーブルに座っているのは金髪の高校生と、どこにでもいるような大学生、夜の商売が似合いそうな金髪にスーツ姿の男性、そして赤ん坊を抱いた金髪の女性という約1名を覗けばやたらと目を引く組み合わせだったからだ。
「あたしは別にナンパに興味があるわけじゃなくて、あそこから出てくるっていう例の女の子の尾行をしようと思ってね」
と、みたまは悪びれる様子もなくそう言う。
 本当なら現地調査のほうは暁、慶悟、マナトと3人もいるのだからそのまま任せて書類調査などに当たっても良かったのだがそう言った調査は赤ん坊と一緒に残っているシュライン1人に任せても充分だろうと判断したからだ。
 まぁ、もっとも性格的に室内での調査よりは屋外での調査の方が向いていると言うのが1番の理由ではあるのだが。
「ま、いいんじゃない? どうせ待ってるのは一緒なんだし」
そういう暁に、
「出てきたぞ」
慶悟がそう言って指差す先、女子大生数人のグループを指差した。
 みたまは手元の写真と出てきた女子大生の1人を見比べて確認する。
「間違いないようね。じゃ、あたしは尾行しに行くから頑張ってナンパしてね」
 テーブルの上に千円札を1枚置いてみたまはナンパ調査組みに手を振るとさっさと店を出て行こうとして、ふと足を止めた。
「あ、忘れてたわ。マナト――はい」
「―――って、え?」
 思わず受け取ってしまったマナトはそれを手に驚きの声をあげる。
「だって、そのこあなたの子なんだから」
 そう、みたまがマナトに手渡したのはずっと抱いていた赤ん坊であった。
 これから調査を兼ねたナンパなのかナンパを兼ねた調査なのか――微妙な所は置いておくとして、とにかく女子大生に声をかけようというのに赤ん坊連れではそんな面子に入れるはずもない。
「マナトー、なぁにやってるんだよ」
 暁は明らかにマナトの失態を不服そうな顔で見る。
「まぁ、仕方ないだろう」
 慶悟はというとみたまが赤ん坊を連れて一緒に来た時点で大体予想がついていたのか、諦めろとばかりにマナトの肩に手を置いた。
「取りあえず、俺達2人で行って来るから、お前は興信所に戻ってあっちの調査の手伝いでもしてることだな」
と言うと、暁を連れて先に出て行く。
「え、ちょっと待って下さい」
 取りあえず、慌ててマナトが後を追いかけると暁が早速その女子大生のグループに声をかけている。
「そこの綺麗なオネーサン達、ちょっと聞きたい事あるんだけどいいかな?」
 明るく且つ軽く声を掛けられて振り向いた彼女達の目に映った2人は両方金髪で一瞬躊躇う。しかも聞きたい事があるといわれて少し戸惑うがそれを補って余りある容姿にそれは瞬時に吹き飛ぶ。
「普通に成功してる……」
 その光景に呆然としていたマナトの肩がぽんと叩かれる。
 振り向くとそこにはぎこちない笑みを浮かべた先ほどの喫茶店の店員がいた。
「あぁ、お金!」
 そう、慶悟と暁の分のコーヒー代まで最後に残ったマナトが支払う事になってしまったと言う事に―――

「もう、仕方ないわね」
 シュラインに事の顛末を報告すると、溜息を吐きつつ苦笑いを浮かべシュラインはそう言ってマナトを見た。
「帰ってきたらあの2人にはちゃんと私から言っておくから。あぁ、マナト君も今度からそういう時はちゃんと領収証を貰ってきてね」
 経理も兼ねている身としては頭の痛い話しだったが、これくらいなら必要経費に加えることも出来るだろうとシュラインはマナトが立て替えた分を取りあえず自分の財布の中から返してやった。
 一体誰がいつの間に用意したのか、マナトは赤ん坊を抱っこしたりおんぶしたりするのに使うベビースリングなるものを着用させられ赤ん坊を抱っこした状態でシュラインの仕事を手伝っている。
「でも丁度良かったわ。マナト君が帰ってきてくれて」
「なんですか?」
「実はね、さっき真名神くんから電話があったんだけどちょっと彼女の話しを聞きに行って欲しい所があるんだけど」
「え、でもこれでですか?」
 これと言ってマナトは赤ん坊を抱いた状態の自分の姿を指す。
「大丈夫よ。子連れだと不便に思うかもしれないけれどこれから行ってもらう場所なら子供連れで行って貰った方がいい場所だから」

 シュラインに背中を押される形でマナトが指示された場所へ赴くと、そこには一足早く慶悟と暁が来ていた。
「マナト、すっかり子連れ調査員が板について」
と暁がマナトの姿を見てけらけらと笑う。
「まぁ、ここに関して言うなら俺達より子連れのマナトの方が適任だろう」
 そう言って慶悟が指差したのは、『若葉孤児院』という看板が控えめに掲げられてある施設だった。
「どうやら彼女、時々ここに来て手伝ってるらしいんだよね」
 彼女の友人達から情報を得たはいいが女子大生達に効果を発揮した見た目はここでは場違い以外の何物でもない自覚があったため応援を頼んだのだと慶悟が続けた。
「と言うわけで、ここは任せた」
 マナトはごくりとひとつ息を飲み込むと、ゆっくりと1歩足を踏み出した。


■■■■■


 3人が戻るとみたまもすでに戻ってきていた。
「お帰りなさい」
とシュライン。
「ナンパの首尾はどうだった?」
と言うみたま。
 そして、その向かいには見たことのない少年が座っていた。
「あー、彼はだなぁ。今回の件の依頼人の……息子さんだ」
 草間がそう彼を紹介した。
「あー、例のボンボンか!」
 止めるまもなく暁がそう大声で言ってしまった。
 いかにも育ちの良さそうなその少年は見たところまだ高校生位に見える。
 暁の一言でびくっと肩を揺らし、益々萎縮してしまったようだ。
 しかし、意を決したような表情で顔を上げた彼はソファから立ち上がり3人に向かって、
「本当にすみませんでしたっ」
と、深々と頭を下げた。
 事態がいまいち飲み込めずに居る3人を適当に空いている席に促したシュラインが噛み砕いて説明し始めた。
 みたまが彼女を尾行していた時に挙動不審な少年を見かけて詰問したところ彼が件の息子である事がわかったのだという。そこで、みたまが彼をそのままここに連れてきて、彼の両親がこっそり彼女の素行調査を依頼しているという事を説明したのだという。
「本当に、僕が一方的に憧れているだけでなのに。親にはさっき電話しました。もちろん、こちらの都合でご迷惑をおかけしたので請求いただければそれはしっかりとお支払いさせていただきます」
 どうも思っていたよりは随分と『まともな』ボンボンだったらしい。
「まぁ、今回の調査は中止ということね」
「ふーん。なーんだ。あ、でもせっかくだし彼女の情報教えてやろうか?」
と暁は彼に持ちかける。
「え……っと、あの……」
 先ほどまでとは打って変わってあせった顔で彼は口ごもる。
「暁君」
 シュラインが諌めるように言うと、
「とりあえず彼の親に渡す必要のなくなった情報だけどさ、せっかくだし。それに彼女今のところ特定の相手とかは居ないみたいだったからついでにくっつけちゃえば良い恋愛に関わった事でこの子にも良い結果に繋がるんだから一石二鳥じゃん!」
と暁は名案を思いついたとばかりにそう言った。
「でも―――」
「でもじゃなくってさー」
 はっきりしない彼を更に暁はけしかける。
「いくら彼女の氏素性を知ったところで、本人が己の心の内を彼女に対して伝える気がなければ始まらない事だ」
 無駄だからやめておけと、慶悟は暁を止めた。ただ、
「踏み込めないのなら決心がつくまで悩めばいい。ただ、いい女は往々にして他の男も狙っている筈だ。時間を置くのは得策とは言えないがな」
と、彼に対して付け足す事は忘れなかったが。
 ずっと、その様子を聞いていたマナトが不意に口を出した。
「俺、さっき彼女に会ってきたんですけど。俺がコイツの世話で手間取ってたら彼女嫌な顔ひとつしないで手伝ってくれて……多分ああいう人って早々いないと思う。だから逃しちゃダメなんじゃないかな」
「……」
 彼はしばらく考え込んだ後に、
「失礼します」
と言うと興信所を出て行った。
「どうするんだろう、彼」
 マナトはそう呟いたが、
「思い立ったが吉日と言うからな。今日出来ない事が明日急に出来るわけもないって事に気付いたんじゃないか」
と慶悟が答える。
「だって。なー、お前はどう思う?」
 そう言って暁が赤ん坊の顔を覗きこみ頬をつつく。
「随分とご機嫌みたいね」
 頬をつつかれてにこっと笑顔を浮かべる赤ん坊を見てシュラインがそう言った。


■■■■■


「皆さん。見てください!」
 後日、急にマナトから連絡があり、シュライン、暁、慶悟、みたまの4人は草間興信所に集まっていた。
 そこでその声とともに見せられたのは、ヨチヨチと歩く子供。年齢で言うと1歳半くらいになる幼子だった。
「それはもしかしてアレか?」
「はい」
 慶悟が問うとマナトがはっきりと頷いた。
 今朝起きたら大きくなっていたらしい。
「ってことは、この間の彼の件は上手くいったってこと?」
「みたいね」
 暁の台詞にシュラインが同意した。
「まぁ、これで当初の目的の『手っ取り早く成長させる』っていう目的は果たせたというわけか」
 慶悟は良かったなとマナトの肩を軽く叩いた。
 だが、そこに、
「良くない」
と断言する声がした。声の主はみたまだった。
「マナト、あんた名前付けたの?」
「えーっと……それが、まだ―――」
 マナトはそう言って頭を掻いた。
 途端にみたまの雷が落ちる。
「まぁまぁ、落ち着いて。せっかく成長したんだしホントにそろそろつけてあげた方がいいわよね」
 シュラインが間を取り持ってとりあえずマナトは胸を撫で下ろした。
「名前名前……マナト君の子供だからコナトとか?」
 とりあえず思いつきのままにシュラインが口にする。
「あの、誤解が生まれるのでそれはちょっと」
「じゃあさ。天からの授かりものだから天授とかどう?でもちょっと名前っぽくないかな」
と暁が案を出す。
「まぁ、とりあえず誤解だろうがなんだろうがお前が保護者にかわりはないんだから。さっさと決めてやればどうだ?」
と、草間はああでもないこうでもないと頭を捻っている一同を見て呆れたような声でそう言った。

 論議する事1時間―――結果赤ん坊は3ヵ月目にしてようやく『アイセ』という名を与えられた。
 愛で成長するからアイセだという由来らしい。

「今日からお前の名前はアイセだからな」
 マナトの言葉の意味がわかるのか判らないのか、とりあえず見た目だけは成長した『天使の卵』はこくりと頷いた。 
 

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

【4782 / 桐生・暁 / 男 / 17歳 / 高校生アルバイター、トランスのギター担当】

【0389 / 真名神・慶悟 / 男 / 20歳 / 陰陽師】

【1685 / 海原・みたま / 女 / 22歳 / 奥さん 兼 主婦 兼 傭兵】

【NPC 佐倉マナト / 男 / 19歳 / 大学生】

【NPC アイセ / 不明 / 1歳くらい(外見) / 天使の卵】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、遠野藍子です。大変お待たせいたしました。異界第2話目です。
 前回から引き続きご参加の方、今回初参加の方、ありがとうございました。
 今回は子連れ調査員デビュー話となっています。
 取りあえずアレは少しだけ成長しました。そして、ようやく名前が付きました。
 今回はそれがメインだったので話の内容としては少し起伏が少なくなっています。次回はもう少しはっちゃけた内容になる……ハズです。多分。
 それでは、また機会がありましたらよろしくお願いいたします。