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神の剣 異聞 Invisible Blade 3 麗龍公主編
あれから友情を深め、退魔行も2人で行う事が多くなる織田義明と衣蒼未刀。
義明は未刀に剣と神秘を教えていた。
彼は知識を徐々に物にしていく。
あなたも未刀の変わる姿が楽しく思えた(半分嫉妬の場合あるが)。
ある日、2人は大きな仕事に出掛ける。まずは下見だ。
どうも、おかしなマンションがあるらしい。死人の山を見つけたと通報が入ったのにも、駆けつければ、そんなことは全くなかった。
警察では全くわからないようになったため、長谷家に“仕事”が来る。其れを通じて、義明達が仕事を受け持つ形になった。
故に、建築家でもないが、下調べで一度訪れる。義明。
「異様な気分になる」
未刀が呟く。
「固有異界か? 超越するための儀式なのだろうな」
「超越……こんな能力をもって何を得たいのだろう?」
「何、霊長の魂の高みを目指すなど、魔術師を筆頭に神秘使いにとって基本的なことだ」
「そうか……」
お互い、まずは間取りを調べた後、本業準備の為に一度戻る。
“気配”がする。
「魔術師か……三滝を思い出す」
義明はごちた。
「三滝?」
「ああ、前にかなり戦った死者の魔法使いさ」
――あの神の子に封門の剣士か……。
――嬉しいぞ……織田義明、衣蒼未刀……そして……
“気配”は喜んでいた。
〈公主〉
数日前。
「義明や未刀の2人なら問題ないのじゃが」
と、麗龍公主がお茶を飲みながら義明の家で義明と未刀を見て喋っている。
2人も見取り図などをみて、仕事の準備をしている。その休憩にお茶を飲んでいるのだ。
「大丈夫だ、龍華心配すること無い」
「どうしたのですか?公主さん」
「うむ、私も何か手伝うことないかの?」
その言葉で未刀はお茶を吹きだした。
「うわ、きたねぇ」
「なんじゃ? なんじゃ?」
「龍華! じょ、冗談にも……」
と、何か言いかけて止める未刀。
「いや、彼女、本気だから。何故吹き出す?」
義明が顔を覗いてみると、
真っ赤にしている。
「はぁ、何て言うか……、公主さん。彼、公主さんが危険なところに行かせたくないようです」
「ほほう♪」
「だ、誰が、そ、そんな事を……い、言ったんだよ……。義明……」
どもり始める未刀。
顔に書いています。
もう逆らえません。色々突けばぼろが出るでしょう。
その可愛さから、公主が、
「かわいいのう♪ うれしいのう♪ それに私のことを心配してくれるとは♪」
「わぁ! 人前で抱きつくのは止めてくれぇ!」
公主は、未刀を抱きしめて頬ずりするほど喜んでいた。
「で、じゃれ合うのは其れぐらいにして、私も本当にお主等を手伝いたい」
「其れは喜んで」
義明は頷く。
見取り図を見れば、仙人で良く見る事があろう太極図に似ているのだ。其れを使うという建造物に興味を持つだろうし、そこが事件になっているのなら、尚更だ。
「結界がどのようにして動いているのか、調べる所を私はフォローするが、いいかの?」
「助力感謝します。しかし」
「しかし、なんじゃ?」
「未刀がそのままだと窒息か恥ずかしくて天昇してしまいます」
真面目に会話しているのだが、すっかり未刀の頭を胸に抱く事が気持ちよかったので、すっかり忘れていた模様。
「おう、済まぬ。未刀」
未刀は顔面赤らめて、風呂にのぼせたように目を回していた。
〈下見のつもりが〉
中に入る前に、公主が義明に、
「あやつの気配を感じるな」
「……ええ」
と、話していた。
「既に弟子が刈り取ったはずなのじゃが? お主は見たであろう?」
「しっかり見ました。その後気を失いましたが」
「未だ完全ではなかったからのう。義明は。間違って魂を狩っているわけでもないと聞くし」
公主も考えている。
「……思念体と元から魂はないからのう」
また考え込んでいる。
「あのさ、龍華……義明」
未刀が2人を呼ぶ。
「?」
「アイツって、先ほど言っていた“三滝尚恭”ってやつのことか?」
「ああ、屍術師にして忌屍者の厄介なヤツだった」
義明が答える。
「しかし気配は虚ろじゃな」
マンション全体を見ながら、感じ取る公主。
「おそらく、あの力を受け継いだ者がコレを造ったのだろうよ」
「しかし、三滝は弟子を取らなかったはず……部下、否、コマは集めていたけど」
「ふむなら、余計に謎じゃ」
義明と公主は考え込んでいる。
「封印ではなく、完全滅消か?」
未刀はまた訊いた。
「わからない。三滝の得た神秘は謎が多い。幻想世界の魔術やこの世界の一般的魔術を持っている。その数がどれぐらいか皆目見当が付かないのだ」
「む……何でもあり、なわけか」
3人は沈黙する。
「此処で話していても始まらない。入ろう」
義明が中に入っていった。
いきなり入ったとき、気味の悪い閉塞感を覚える3人。
「む、気の流れが外界と隔離されておるな」
「そうですね」
3人はロビーを歩く。
中は暗く、照明も天井からかろうじて床を照らすぐらいである。よく、ここに人が住めるものだと思った。
「龍華なにかわかるか?」
未刀が公主に訊ねる。
「魂の牢獄じゃ」
と、憎しみを込めて答えた。
それは、自然摂理を無視したこの建造物と創造者に対してだった。
「
「む、コレは完全に建物からなる結界じゃ、ただ、力の渦は上に向かっておる。私は構築上、中央のエレベーターが怪しいと睨んでいたのじゃが」
公主が考え、
「コレを植物とすればどうなると思う? 義明、未刀」
「植物?」
「地から栄養をとるのが普通。光合成は葉っぱがなければならない」
「その循環をこれらが成しているとしたら……」
「地下のようじゃ。あとの儀式などは……私にはわからぬ。目的も見当が付かぬ」
首を振る公主。
「私は、地下にある魂をあるべき所に逝かせることを考えるが、義明と未刀はどうするか?」
と、2人に訊いた。
「僕は……まずコレを建てた者を倒したい。結界を解呪する事について、公主にとって容易いことだろうけど、僕と義明では……」
未刀は首を振った。
天空剣の解呪法だと、かなり力を使う可能性があるのだ。
「一緒にいた方がいいし、この塔を建てた者を確認したい」
義明の意見だ。
「もっともな事じゃ。魂には悪いが、暫く……」
公主がエレベーターに向かって行こうとしたとき、
「なぜ……おぬしがいる?」
立ち止まった。
目の前には影が佇んでいる。
義明も既に水晶を抜刀していた。
「三滝……」
――その影は揺らいでいる。その気配が2人にあの時の恐怖を思い起こさせるのだ
「龍華、危ない!」
不意を打たれた公主に“何か”が襲いかかってくるところ、未刀が庇って斬った。
「……未刀、すまぬ」
彼女は我に返って、構える。
「現象化なのか? 義明?」
「そうだ……。しかもとびっきり厄介な者が現象化した」
と、歯ぎしりする義明。
「倒したが、意志か何かが、空気や環境に漂い何かになすものになった、思念体に似て思念体では無い“存在”なのか? 現象化とは?」
公主は、斬魂刀を抜刀し、影を見据える。
『何を言っている。私は“世界”から叡智を授かったのだ』
影が喋った。
――その声は、義明と公主が知っている者ではなかった。
〈この先に在るもの〉
『お主達のことはよく知っているよ。神の子、封門の剣士、仙女。世界の叡智が教えてくれた』
と、影は影独特に壁に映っているような形で動き始める。
「三滝の現象化を世界の叡智と言うのは筋違いだ」
義明は、水晶を何故か納刀、構えながら話し始める。
現象化とは、意志や念が残った思念体の次段階か、もしくは魂と精神の域を越えて、空気のように世界を漂うだけの気まぐれな“事象が起こらないと存在しない”ものと謎が多い類である。
今現象化したモノは、紛れもなく三滝尚恭なのだ。しかし話をしているのは三滝尚恭ではない。
「三流魔技に気まぐれで取り憑いただけか? 現象というのはよくわからん。魂が無くて存在するとは……」
「そうだと思う。あれだけは未だ説明が付かないと、義明達は言っている……」
公主と未刀は警戒を解かず、義明と影の会話を聞いている。
「何故に、このような塔を造った!」
『魂の超越というのは知っておろう。神の子』
「そう簡単になれない。魂の進化は実際、創造する“世界”が決めるものだ。神とてその“権利”が無ければ蘇生奇跡も不可能だ!」
『しかしこの世は混沌としている。私はこの構築を造るまでの課程に挫折していた。しかし、朝起きれば、全てを理解したよ。爽やかだった。こうして身を影となるのも、魂の保護が目的よ。未完成の柱である影斬、お主に倒されてもまだ生き残れるし、影は光が在ればその裏にあるものだ』
影は不気味に笑った。
「っち……そこまでお見通しかよ」
公主と未刀、もちろん義明はわかっている。
確かに、未完全の影斬や未刀の“見えない刀”、公主の斬魂刀をもっても影を完全に倒せない。
影の本体を倒せても、本来元凶である“三滝”に影や光、または善悪など関係がないのだ。
しかし、所詮2〜3流の魔技。良く喋る。
――気まぐれで憑依しても肝心の三滝自身の意志がないのか……
公主は思った。
まず何を成すべきか未刀も考えた。
知識の増幅に酔いしれて、此処まで隠してこの異界を造った事は良いだろう。しかし結局は抑止という世界現象に発見され、装填抑止を動かした。
装填抑止が義明他ならない。
しかし、この影は義明を装填抑止と認識していない。
未だ切り替えていない義明。
それは、時間稼ぎなのだ。
未刀は一気に階段まで走る。
公主は、彼に加護の仙術をかけたのち……エレベーターに走った。
『ほう、時間かせ……』
影はその早さに気付いたが、
――目の前にいる義明が影斬になったとき
――恐怖で動けなくなった
「お前が望む、魂の昇華というのを目に前で示そうか……?」
未刀は、一気に14階まで駆け上がる。
公主は地階の幻術結界を発見し、解呪。魂の牢獄の中に入る。
――未刀、はじめるぞ……本来は
――龍華、行くぞ
公主は、魂の牢獄であるプールを使い、全霊力を未刀のいる14階まで送る。
未刀は、封門を開き、そのエネルギーを吸い取っていった。
「くるか? 影?」
『……』
影と、影斬が14階まで向かう。
そこで、丁度儀式が一歩手前まで完了していた。
義明と同じように青白くオーラを纏い、封門を開いている未刀、
地階にいても、公主の気配は未刀と共にいる。
『な? 何をする気だ?』
「簡単だ、超越するための穴を開けてやっているんだ。有り難く思え」
『な? なに?』
影は身じろぎする。既にわかっていてやっていたはずではないのか?
「良いか?」
未刀は影斬に訊いた。
影斬は頷き、彼は水晶を抜刀し、
「お前が欲しかったモノ。そして、お前に取り憑いた三滝も欲しかったものだ……」
――影斬は天魔断絶で未刀の封門を斬った。
“何か”が溢れ、14階は真っ白になった。
〈あと〉
マンションには何も実害はなく、そこには……
すやすや眠っている義明に、未刀だった。
いや、未刀だけはどうしても苦しんでいる。
「地獄に筋肉痛かのう?」
公主は未刀を一寸と指で突いてみる。
「い、痛い!」
「いたいか? そうか? ここもか?」
「や、やめてくれ……き、い、痛いんだよ」
「そんなことを言われても、神格覚醒した時の地獄の筋肉痛は私とて治せないのじゃ。義明もそれでよく苦しんでいたのじゃよ。“おーばーわーく”とかいうやつじゃ」
「ううう」
と、呑気に会話している。
影であった魔技は完全に姿を露わになり、その無能さをさらけ出している。鋼糸により絡め取られており、何か薄ら笑いをし続けているだけだ。
公主は、此処に登るまでにすでに魂の牢獄から魂を解き放っている。
この怪奇な塔は無くなるだろう。
ただ、この階で起こった事は知るよしもないが、何をしたかはわかっている。
――人間が絶対踏み込んではならないところを直に見せただけなのだ。
結局、この狂った魔技は知識を手に入れたのは良いが、全て三滝現象化の借り物。それを完全にモノに出来なかったのである。
「ゆっくり休がよい」
と、義明の携帯を拝借し、手慣れぬ手つきで弄る。
「未刀」
「龍華? なんだ?」
「この、“けいたい”の使い方を教えてくれぬか?」
「……弟子に教えてもらえよ……下界に降りたときに」
流石仙人、時間感覚のズレからか、最新鋭科学機器にはとんと音痴だった。
4話に続く
■登場人物
【1913 麗龍・公主 400 女 催命仙姑】
【NPC 織田・義昭/影斬 18 男 天空剣士/装填抑止】
【NPC 衣蒼・未刀 17 男 妖怪退治屋(家離反)】
■ライター通信
滝照直樹です。
『神の剣 異聞 Invisible Blade 3』に参加して下さりありがとうございます。
さて、戦闘と言うより、力の差を歴然と見せつけたお話しになりましたが、いかがでしたでしょうか?
未刀君、神格に踏み入れてしまいましたので、また色々遊ぶ事も出来そうですが……。
4話はフリープレイングになります。ここで、義明と未刀の公主さんの友情関係がわかります。彼らに対しての心情も書いて頂けると、奥深くなるかも知れません。
では、今回はこの辺で。
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