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神の剣 異聞 Invisible Blade ３ 天薙撫子編
あれから友情を深め、退魔行も２人で行う事が多くなる織田義明と衣蒼未刀。
義明は未刀に剣と神秘を教えていた。
彼は知識を徐々に物にしていく。
あなたも未刀の変わる姿が楽しく思えた。
最も、あなたの場合、複雑な心境なのは確かであろう。
ある日、２人は大きな仕事に出掛ける。まずは下見だ。
どうも、おかしなマンションがあるらしい。死人の山を見つけたと通報が入ったのにも、駆けつければ、そんなことは全くなかった。
警察では全くわからないようになったため、長谷家に“仕事”が来る。其れを通じて、義明達が仕事を受け持つ形になった。
故に、建築家でもないが、下調べで一度訪れる。義明。
「異様な気分になる」
未刀が呟く。
「固有異界か？ 超越するための儀式なのだろうな」
「超越……こんな能力をもって何を得たいのだろう？」
「何、霊長の魂の高みを目指すなど、魔術師を筆頭に神秘使いにとって基本的なことだ」
「そうか……」
お互い、まずは間取りを調べた後、本業準備の為に一度戻る。
“気配”がする。
「魔術師か……三滝を思い出す」
義明はごちた。
「三滝？」
「ああ、前にかなり戦った死者の魔法使いさ」
――あの神の子に封門の剣士か……。
――嬉しいぞ……織田義明、衣蒼未刀……そして……
“気配”は喜んでいた。
〈撫子〉
話しを聞いて天薙撫子は、その建物の設計図をはじめとした関係書類を集め、自宅にて調べ始めていた。退魔の血筋である故か、その資料を〈特権〉で入手可能だそうだ。
「これは、建物自体に陣を張っているしか考えられませんね。其れに中に入らなければ普通のマンションとしか見えないのも、かなり巧い仕組みです」
と、呟く。
そう、１階ロビーは、極普通である。
居住区がある２〜１３階がどう見ても太極図なのだ。
一定時刻になると、開閉先が変わるエレベーターと、隔離されたように仕切られている左右の居住区。 架空名義の巧妙さがわかった。設計等建設時には何も無かった様だし、事件発覚はその死体の山を見た人物のモノしかない。
「急いで合流しないと、胸騒ぎがします」
彼女は、巫女服に襷がけをし、神斬を持ち、様斬鋼糸と呪符、護符を有るだけ持って、義明達と合流するため急いだ。
〈合流〉
「撫子！？」
義明と未刀は下見が終え、無傷で戻ってきているところで撫子と鉢合わせた。
「だ、大丈夫ですか？ 義明君、未刀様！」
息を切らして撫子は心配する。
「ああ、一応ロビーだけを見てきただけだから、域なり襲っては来なかったよ」
「よ、よかった。義明君のことだからそのまま突っ走るんじゃないかと」
「そんなコトするか？」
義明が苦笑する。
「いやするね。剣を教えて貰っているときそう感じた。壁があったら力ずくで突き破るタイプと思った」
未刀、間髪入れず義明の言ったことを否定する。
「そうなんです。未刀様。義明君はいつも全部で……」
と、撫子は溜息混じりで愚痴り始める。
「む、下見なんだ。こっちからしかけることもないし。それに閉塞感やら“アイツ”の気配で息が詰まって……」
文句を言う義明。
なにか分が悪い義明。
撫子は義明の“アイツ”という言葉が気になり、話を戻す事にする。
「此方でも調べました。だから、そちらの情報と照合しませんか？ それと」
「「なに？」」
「お二人ともご無事で良かったです」
「「……」」
撫子の笑顔で、赤面する未刀に、少し遠くを見て照れくさくしている義明だった。
近くの公園で少し話をする。
「と、なると、気配は」
「ああ、撫子が言っている通り、三滝のモノだった」
「三滝尚恭か……」
それぞれ口にする。
三滝尚恭。かつて、義明の魂を狙い、神に昇ろうとした屍術師。次元を越えて、戻ってきた魔技である。
未刀は本人にあってはいないが、義明や撫子、茜からその魔技のことを聞いている。
既に魂もなく、何故この世に現存するのか？ 其れが謎であった。
現象化と言うモノがあるのだが、其れなのかわからない。魂が無くても思念体となるのはわかるのだが……現象化はそう言ったものではないらしい。そもそも、現象化は理論的に説明できるほどした確定した“モノ”ではないのだ……。
「では、尚更３人で立ち向かわなければなりませんね」
撫子の言葉に２人は頷く。
武装を確認してから、３人はまたあのマンションに向かった。
〈生きている塔〉
この塔は生きている。
万物を示す図は多くあり、その中の１つ。それはシンプル且つ、力は強かった。
――太極図――
陰陽、男女のほか生死など相反し隣接するものの図式。
それが、この塔にいくつもの相反する光景が作り上げられている。
根には、その中心となるべく、贄が、１４階には其れを集める祭壇がある。
気配は其れが満ちてきたと感じた。
残るは、鍵となる神の子と封門の子が……
〈関係〉
「誰なのか検討が付かないな」
「ええ、誰が作ったのでしょうね。架空名義で」
義明と撫子が話をしている。
未刀はその名義や難しい事についてちんぷんかんぷんだった。
単純に、主は様々なところを騙して今の変な建物を建てたと言うぐらいで十分じゃないのかと口を挟みたかったが、撫子と義明の真剣さに止めている。
其れは建前で、
――撫子と義明の仲の良さがとてもまぶしく感じていたのだ。
「ヤッパリ仲が良いな」
と、ぽつり、本音をもらす。
「え？ え？ そそんなこと……有ります」
未刀の言葉に赤面し、耳まで赤くなる撫子。
「うん、恋人同士というのはそう言う……っいた」
尻をつまむ撫子に止められる義明の発言。
その、反応が楽しくて未刀は吹き出した。
「な、何がおかしいのですか！？」
「何でもない」
「うむ……痛かったけど何でもないって未刀が言っているんだ。あまり気にするな」
笑いを必死に止めようとする未刀と義明。
「もう！ しりませんからね！」
ぷいっと仕事が優先ですよと言わんばかりに、ズカズカ目的地に向かう撫子だった。
「茜とは違うな」
「そうだよ。撫子は元気で素敵なおねえさん。しかし、茜はイノシシそのものだから」
「そうだったよ、すっかり忘れていた」
笑う２人。
そんなこと、茜が聞いたら２人ともハリセンで叩かれることを覚悟して言っている。
〈中〉
マンションのロビーに足を踏み入れた３人。
「はやり、アイツの気配がする」
「前に比べると弱いですね……」
「三滝……魂なしで動く存在か」
それぞれが口にしてすすむ。
今は、死の時間だ。
静寂しかない。死のエネルギーがこの狭い世界を渦巻いているであろう。動いているのは撫子、未刀、義明だ。
３人はエレベーターの前に、この“死”の空間に在ってはいけないモノを目にした。
ゆらゆらと揺れる影。
僅かな光しか灯らないこの空間でハッキリと影はある。立体感こそ無いが、そこに“在る”。
「何者ですか？」
撫子が構え、妖斬鋼糸をいつでも広げられるよう、影に声をかけた。
『神の子が２人もいるとは、驚きだ』
「……ここまで混沌とした世界なら……そうですね……。私も覚醒した身です……。魂の超越は……作為的、人工的に成すものではありません」
気配に気圧されないよう撫子は答える。
『なにをいうか……天薙。神さえも斬るという者が』
撫子は２人を庇っている。
神の子であり、抑止の一にもなる義明と、大切な友でありかけがえのない「何か」である未刀。２人に万が一のことを避けなければならない。影自身は、三滝の気配を持っている。微弱であるが、それがあの時の戦いを思い起こさせる。
未刀は話しだけを聞いているだけなので、どれ程のモノか分からないこともある。しかし、未刀もすでに、“Invisible Blade”をいつでも出せるよう構えているのがわかる。修練のたまものだろう。
しかし、義明だけ……何も構えていないのだ。
――気圧されているのでしょうか？ それとも？
撫子は不安になる。
『どうした？ かかってこないのか？』
影が挑発する。
義明は全く動いていない。
「義明君、どうしたのですか？」
『私のことが心底怖いのだろう。まだ神の力を使いこなせないと見た』
あざ笑う影。
「義明！」
義明を揺らす未刀。
反応はない、ただ彼に汗がにじみ出ているのだ。
影は、義明の異変に満足しているようだ。いっそこのまま赤子の首を捻るように殺せるかもしれないと思うほどに。弱いと思っている。
「撫子、義明を頼む！」
未刀は駆けだした。
――影の行動を察知したのだ。
影も動いた。
〈覚醒〉
非実体と戦うに、３人中未刀が長けているだろう。何より衣蒼は、非実体である霊を斬り封印することに特化した家系だ。未刀の“未だ見ぬ刀”は他の物体を傷つけることはない。
影を袈裟に斬る。
「む！」
手応えがあった。
「なかなかやる！ 衣蒼め！」
影はそのまま壁にしみこむように消える。
しかし……未刀は自分の影を突き刺す。
「ぎゃあ！」
未刀の影には真っ黒い血、らしきモノがにじみでた。
「卑怯な手を使う輩の手法など、一番知っている……」
衣蒼は既に落ちぶれた退魔。その間に暗殺を生業とする分家が存在しているのだ。
今は、背けていた昔の自分とは違うのだ
――守るべき人がいる。戦うべき相手がいる。自分の出生に誇りを持って生きていく。
彼を動かしているのはそれだ。
――守るんだ。
影と未刀の戦いは未刀が有利に見えた。
「義明君！ 義明君」
撫子は義明を揺さぶる。
「まさか、何か……」
と、術でもかけられたのかと思って探知するが、全く違う。
神格発動しなくても副産物として、精神関係に完全耐性を持つのだ。幻術や精神操作程度、影斬がかかるわけがない。
「……み、みた……」
あ、そうか……と撫子は思った。
彼は影の気配が“三滝尚恭”と確信したときに、過去の忌まわしい記憶が蘇り、信じられないと言う事、心の奥で重傷を負った恐怖で動けなかったのだ。
宿敵・天敵同士だった存在の復活がどれだけ恐怖か……彼女にもわかる。
「義明君、大丈夫です。落ち着いて下さい」
彼女は妖斬鋼糸で結界を張り、愛する人を抱き寄せる。
「今は未刀様が、あなたのために戦ってくれています。仲間として親友として」
「……な、なでしこ？ み、みたきが……なぜ？」
未だ震えている義明。
「大丈夫です。いつものあなたに戻れば、わかりますよ」
今の自分では、義明に優しく話しかけることが最善だと思ったのだ。
未刀はもう、人間の限界で動いている。
影は壁から、黒い魔法の弾を放って距離を取ろうとするが、未刀は簡単に躱わし受け流し、弾く。
『……』
「何がおかしい？」
『所詮 人の子か。奥の手を使えば……』
壁には弾丸の後しかない。
「逃げてばかりじゃなにも……な！」
『そう言うことだ』
未刀の足に、何かが掴む。
『影をその穿たれた穴から召喚した。この塔は私のだ。壁に様々なモノを住まわせても問題在るまい』
「くっ！」
未刀は、影を斬る。
『ほう、非実体を簡単に……』
ならば物体はどうかと？ 影は……人ぐらいの大きさの石人形を呼び出した。
「なめるなぁ！」
未刀は鋼糸で石人形を絡め取り、一気に刀で切り伏せたのだ。
『……！！』
不利と思ったのか影は、ロビーから逃げる。
「くそ、逃がすか……！」
撫子と義明が心配だが……、追わなければならない。どうするか迷ったが、すぐに行動に移る。
「待っていろ。片付けてくる！」
未刀はエレベーターに乗り込んだ。
「まって！」
撫子の声は聞こえなかった。
――影は囮なのだよ……。
そう、影なら幾つでも作れるし、この塔は自分の世界。なら……
この塔全て私という事なのだ……
影の大きな力が、撫子の結界を突き破り……２人をのみもうとしていた……
「させない！」
撫子は、義明を庇い、天位覚醒する！
彼女を中心に光が爆発した。
そして、彼女が守った人物は“目を覚ました”。
〈装填抑止〉
――光の巫女か！
影は驚いた。
未だ不完全であると、“叡智”が教えてくれたというのに、もう覚醒できるとはと驚いている。
それ以上に恐怖している。
なぜなら
３対の翼を羽ばたかせる撫子より、その隣で今まで恐怖で凍り付いた義明が、全ての影を斬ると言わんばかりの殺気と威圧感を発散しているのだ。
「済まなかった、撫子。私はどうかしていた」
「ご無事で何よりです……義明君」
「今は影斬だよ」
「え？」
その言葉で撫子は気付く。
――抑止として働いている……と
「未刀は今、１４階に向かおうとしている。本体はそこにいないし、もとから此処にいるのは」
「わかっております。影斬。三滝の気配は……ですね」
「未刀を頼む。一歩手前まで進んでいる。器が未だ完全じゃない」
「はい。影斬もお気を付けて」
と、撫子はそのまま羽ばたいて、義明、いや、影斬から離れた。
『影斬……そうか！ 影を斬る光の御子！』
「もう、おしゃべりは良い。三滝現象化に憑依された愚かな魔技」
いつの間にか抜刀している水晶をもち、一瞬にして消えた。
『な？』
何が起こったのか影にはわからない。
――解、影消滅
影から何者かが生まれ出てきた。
「まだ“義明”は未熟だった。三滝の恐怖を克服するのに時間を要するか……。しかし、彼が私に“切り替えた”事が、運の尽きだ、この塔の魔技」
「ひ、ひいいい！」
装填抑止の威圧に恐れる魔技。既に彼に魔力も何もない。
「此処の仕組みを全て教えて貰おう……」
１３階で、未刀と偽りの影が戦っている。
『む、本体がやられたか……』
「？」
影は思案しているが攻撃は止めない。
「いい加減くたばれ！」
的確に斬撃を繰り返す未刀。
「未刀様！」
しかし、撫子の登場で、影の異変に気が付いた。
「撫子！？ 義明は？」
「大丈夫です！」
薄れている。
撫子は光を発しているため、良く見えるのだ。
影の姿が消えかけている。
『我は囮よ』
「なに……じゃあ？」
構え直す。
『無用。我は所詮囮の影だ。影斬に睨まれた本体は無力。我は消えゆく影、そして幻よ』
と、言い残し、影は黒い砂のようにかき消えた。
「……くう」
未刀は、疲労で足をぐらつかせる。
「心配在りません。ただ、暫く筋肉痛で悩まされると思います」
「うう、やはり、足を踏み入れたのか……」
と、未刀は呟いた。
「では、最後の仕事に取りかかりましょう」
覚醒を解いた撫子は、未刀の傷を応急手当し、１４階に向かう。
一方、影斬は、魔技を縛り付け、もう一つの中心部である魔法動力炉を破壊した。
コレで事件が終わった。
〈それから〉
影斬から義明に戻った、彼はのんびりと自分の家でお茶を飲んでいる。
ベッドには地獄の筋肉痛で呻いている未刀に、看病している撫子がいた。
「すまなかった、２人とも」
「いや、お前があそこまで……いたたた……怖いモノが……あったのが驚きだった」
「わたくしもです」
「俺も未熟だ。しかし、２人のおかげでなんとか……」
と、反省会というか、そんな感じで話し合っている。
「もう過ぎたことです。なので、気を落とさないで下さい。義明君」
子供を安心させるように優しく声をかける撫子。
「ああ」
と、義明の話題はひとまず終わった。
「この筋肉痛は何時まで？」
「……俺が体験したので、１ヶ月？」
「おいおい……」
「え？３ヶ月じゃありませんでした？」
「なに！？」
時間感覚がずれているのか、いや、筋肉痛を結構体験している２人なのだが、実感が持てない。
なにぶん、治ったとおもったらまた覚醒して筋肉痛の繰り返しの生活を送っているのだ。参考にならない。
「せんせーだとしってそうだけど、もし聞いたら」
「『くだらないことを聞くな』と苦笑されそうですわ」
「だから〜。正確な……いててて」
僕をからかっているのか？ と言う目で見るので……
「霊力の枯渇だから、しっかり寝て、しっかり美味いモノ食えば結構治りが早い。幸い覚醒一歩手前だから、そうとも限らないよ。３日で何とか動ける」
「早く言ってくれ……」
と、安心したのか未刀はすぐに眠った。
「未刀様が起きましたら、美味しいご飯を用意します」
「楽しみにしているよ。そしていつもありがとう、撫子」
「いえ、わたくしとあなたはいつも共にいるのですから」
義明の照れくさそうな顔に微笑む撫子がいた。
「さて、買い出しの手伝いをして下さいます？」
「もちろんだ」
と、義明と撫子は出かけていった。
未刀の大好物なお菓子はどうしようかなど話し合って……。
あの事件の発端は、あの魔技であったが、結局は三滝尚恭の現象化がわかる。しかし、何時何処で三滝現象化が起こるのか、その原因は何かわからない……。
４話に続く
■登場人物
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】
【NPC 織田・義昭／影斬 18 男 天空剣士／装填抑止】
【NPC 衣蒼・未刀 17 男 妖怪退治屋（家業離反）】
■ライター通信
滝照直樹です。
『神の剣 異聞 Invisible Blade ３』に参加して下さりありがとうございます。
かなり成長し、一寸好戦的というのかなぁという未刀君と、いきなり使い物にならなくなってから使い物になりすぎた義明、そして２人を思う撫子さんを書いていて楽しかったです。
４話はフリープレイングです。２人に対しての気持ちを書いて下さると、更に関係結果に影響します。
では、４話で……。
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