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<東京怪談・PCゲームノベル>


『成金人間を退治せよ!?』



「ここが『TUBONE』だね。うーん、和と洋が散りばめられていて、なかなかいい店だね〜」
 桐生・暁 (きりゅう・あき)は店に到着し、店の外見を見つめていた。
 知り合いの西野 皐月(にしの さつき)からヘルプが入ったのは3日前の事。皐月曰く、暁君はいつもフレンドリーだし人当たりはいいし、顔がイケてるからこういう依頼は得意でしょ、とかいう、やや一方的なメールが携帯に入ったのだが、女の子達が困っているという話を聞き、これは助けてあげないといけないなと、今日ここへやってきたのであった。
 町を歩けば皆が振り向く美しい姿。髪を金色に染めて耳にカフスをしているものだから、まわりからは軽いヤツ、と思われがちだが、時々真面目な現実主義者の面も見せる。普段は楽しい事が好きで、面白そうな事にはすぐ飛びつく暁の奥に隠された、もうひとつの暁の顔を知る者は少ない。
 暁は皐月に言われた通り、店の裏口にまわり、そこにあるスタッフ用の入り口から中に入った。暁は今回、新人アルバイトとして店へ入る事にしたのだ。
「こんにちわーっ!今日からここで働かせてもらう事になった、桐生・暁でーす!なーんてっ♪」
 スタッフオンリーと書かれた扉をノックし開きながら、暁は明るい笑顔を浮かべて言う。
「あ、暁君来たっ!!」
 まず目に入ったのが、知り合いである皐月であった。すでに店の制服に着替えており、暁が来るのを待っていたのだろう。そして、皐月の横に淡い海緑色の長い髪の優美な女性が座っていた。
「皐月ちゃん、お待たせ♪そちらの女性はどちら様かな?」
「私は皇・茉夕良(すめらぎ・まゆら)と申しますの。こちらの喫茶店には、私の高校のクラスメートが出入りしておりまして、彼女達から苦情を聞きましたの。それで私、今回こちらへ来させて頂きましたわ。どうぞ、よろしくお願いいたしますわね」
 年齢は暁とそんなには変わらないだろうが、その落ち着いた雰囲気のせいか大人びて見える。
「そっかー、とっても綺麗なお嬢さんだね。俺は桐生・暁って言うんだ。こちらこそよろしくっ♪」
 茉夕良の声には、高雅な雰囲気さえある。暁は茉夕良に笑って見せると、今度は皐月へと視線を移した。
「それでさ、その問題の人はどうしてるのかな?」
「すでに来てるわよ。早番で先に来ている子達が、店に出て対応をしているわ。あの人を何とかするなら今のうちね。ほら、まだ開店したばかりだし今日は平日だから、この時間帯なら他のお客さんも少ないしね」
「おそらく、そのようなすいている時間帯を狙っていらしているのでしょうね。我侭も独り占め出来ますし」
 皐月に続けて、茉夕良が言う。
「私聞きましたの。不快な客がいるのに店のものが対応しないので困っている、と。客に親切に接するのは当然の事だと思います。ですが、このような接客の仕事では、ある程度のところまでで線を引いておかないと、お互いになあなあになってしまうと思いますし」
 茉夕良が淡々と話す。その表情は常に落ち着いており、決して感情的になる事はない。その言葉だけ聞いていると、とても自分と同じぐらいの年齢とは感じないと、暁は思っていた。
「一人のスタッフがやれる事には限度がありますから、どこかに偏ると他の事まで手をかけられなくなってしまいます。その中で、その事ばかりに手を焼いて、他の客をおろそかにしてしまうのはどうかと。その客にも問題はありますけど、対処できてないスタッフに、プロとしての自覚が無いと呆れていますの」
「ひゃー、厳しいお言葉だね!」
 茉夕良の言葉に、暁は驚きの表情を浮かべた。だが、茉夕良の言う事も一理あると感じた。
「そうね、茉夕良さんの言う通り、こちらの態度がきちんとしてないから、あの人がどんどん調子に乗るのかもしれないわ。スタッフをなめているって言ったら乱暴な言い方になるけど、厳しいところは、決して相手になめられないようにするって聞いた事あるし」
 皐月は壁にかけてある時計を眺めた。
「そろそろ、あたしの勤務時間が始まるわ。暁君は、あたしと一緒に店へ出ましょう。茉夕良さんはどうする?」
「そうですね、私は他の客という事で、神野という人の近くに座っています。何かあったら、対処するつもりです。では、先に行きますね」
 茉夕良は座席から立ち上がると、しずしずと入り口の扉を開けて、部屋から出ていった。おそらく、一度外へ出て、表から入るつもりなのだろう。すでに店は営業しているから、客のフリをするなら、店の奥から巣姿を現したら不自然だと思われると、茉夕良が気を使ったのかもしれない。
「ビシっと言われちゃったね、皐月ちゃん」
 店の制服である、ブルーのエプロンをかけながら、暁が呟いた。
「でもあれは正論だと思うわ。確かに、そればかりに構ってしまっているところもあるしね。他のお客さんからすれば、あの人だけ特別扱いしているように見えるかもしれないもの」
 ふうっと、皐月が小さく長い息をついた。
「だけどさ、その神野さんって人、お金あって暇って理由だけで、ここへ入り浸っているわけでもないと思うんだよね〜」
「え、それってどういう意味?」
 きょとんとした顔で、皐月が暁を見つめる。
「心が寂しい人ってさ、必要以上に誰かにくっついてきたり、意地張ったりするんじゃないかと思うんだよね〜」
 いつもとは違う、真面目な表情で暁が言う。
「店のオーナーさんと仲良しなのもあると思うけど、ここの可愛い女の子達が相手にしてくれる、ここにくれば誰かに構ってもらえるって思ってるんじゃないかなって」
「そういうものかしら?」
 皐月の問いかけに、暁は再びいつもの明るい表情を取り戻して答えた。
「とにかく、俺、神野さんと話してくるからv可愛い女の子の為なら、俺頑張っちゃうよ〜♪」



「綺麗なお嬢さん方、いらっしゃいませ〜♪」
 早速暁は、店のテーブル拭きを始めた。掃除をしながら、暁は店に来た客に笑顔を振り撒いていた。
「ええ、それはわかってますから、後にしてくださいますか?」
 後ろの方で、女性のややぶしつけな声が聞こえた。
「そんな冷たくしないでよ、今すいてるし、いいだろう?」
「あれが神野さんかな」
 暁の視界に、立派なスーツを着た男性がニヤニヤしながら座っているのが見えた。吉野、というネームプレートをつけた、髪を茶色に染めている女の子が、不機嫌そうな顔をして水を注いでいる。
「隣りに座ってさ、色々話そうよ。何か食べたいのある?リクエストして、ご馳走してあげるから」
 そう言って神野は、真っ黒なサイフを取り出した。暁の位置からはそれがどこのメーカーのサイフかはわからなかったが、中に札がぎっちり入っているのだけは確認出来た。
「うわぁ、本当に金持ちなんだぁ」
「仕事中なので。他にもお客様いますし」
 吉野は神野の言葉をさえぎって、ひとまず厨房へと下がっていった。
「しょうがないな。お、皐月ちゃーん、来たんだね、おはよー!」
「おはようございます」
 皐月は笑顔こそ保っていたものの、どこかうんざりしたような表情が見え隠れしていた。
「あのさ、コーヒーお代わりしたいんだけど。それでさ、お金を渡すから、ちょっとそばのコンビニまで行ってくれない?携帯電話の電池切れちゃって、充電パックを。仕事の電話入ってくるかもしれないから、頼むよ」
「自分で行って下さいよ、これから混むかもしれないし」
 皐月が言い返すと、神野がまた笑って答える。
「いーじゃない、コンビニは目と鼻の先なんだから…あ、凌子ちゃん、ちょっと充電パック買ってきてくれない?」
 そばを取った、市毛、と書かれたネームプレートつけた少女に、神野は話し掛ける。
「え?あ、はい…」
「ついでに、ぼくのパンツも買ってきてくれないかな。汚れちゃったんだよね」
「パンツもですか?」
 顔が少し赤くなった市毛が、神野から金を受け取ろうとした時、暁はその間に割って入った。
「オニーサン、そんな事言ったら女の子は逃げちゃうよ〜?せっかく格好いいんだから、もっと紳士で行かなきゃ!」
 にっこりと笑顔で、暁が神野に話し掛けた。
「いらっしゃいませー、初めまして。俺は桐生・暁。新人アルバイトでーす。よろしくねっ♪」
「新人?ここはついに男の子も入れるようになったのか」
 その表情からして、神野は暁には興味がない、と心で思っているに違いない。
「ささ、キミは別のお仕事!」
 市毛を神野から話すと、暁は神野のすぐ横に立った。
「へえ、企業の社長さんだって聞いたけど、身なりも凄いね。それ全部一流ブランドのだよね?凄いなー」
 暁がそう言うと、神野は少し嬉しそうな顔を見せた。
「これはまだたいした事ないよ。ぼくの家には、限定30着のコートがあるんだ、そのブランドで30着しか作らないんだけど、それが30万ぐらいかな。暖かくなったから、今は着てないけど」
「ブランド品ってさ、高いけど壊れたら修理してくれるところがいいよねー。スーツの色、神野さんによく似合ってるよー?神野さんっていくつ?」
「ん、35だが」
「そっかー。やっぱり落ち着いて見えるね。俺の父さん生きてたら、神野さんと同じぐらいの歳になるんだなあ」
 一瞬だけ悲しそうな顔を見せた暁であったが、すぐに明るさを取り戻した。神野と背中合わせになる席に、茉夕良が座って静かに紅茶を飲んでいる。
「だから余計に惜しいな。そんな立派な格好してるんだからさ、もうちょっと考えて女の子に接しなきゃ♪」
 テーブルの上におかれているケーキの写真に視線を落とし、暁は後ろにいる茉夕良に声をかけた。
「君可愛いねっ!コレ新作ケーキなんだけど注文してみない?可愛い物は、君みたいな可愛いコに食べられるのを望んでいるよw」
「新作ケーキですの?では、頂きましょうか」
 茉夕良は少し考えていたようだったが、ケーキを注文した。
「ほら、こんな感じなら女の子も神野さんに笑顔を返してくれると思うなあ」
「別にそこまでしなくてもいいと思うけどね。ぼくは女の子がそばでしゃべってくれれば、それで満足なんだけど」
「んー、そういうものじゃあないと思うなあ」
 神野が煙たそうな顔をしたので、暁は少し真面目な顔をして答えた。
「じゃあ、アンタがしてた事、俺がそっくり返したげようか?」
 考えてこんでいた顔から、急に妖しげな笑みに変え暁は、そばを通りかかった皐月に声をかける。
「やあ、皐月ちゃん!今日も元気そうだね!ところで今日は夜暇?それなら一緒に遊びにいこうよ、夜が明けるまで遊ぼう♪」
「ふざけるのはやめて下さい、神野さん」
 暁の考えを読み取ったのか、皐月もにやりと笑って返事をする。
「あ、市毛さん。ちょっとお金渡すから、近くのコンビニまで買い物に言ってきてくれない?ついでに、ぼくの痔の薬も買ってきて欲しいなあ」
「そんな薬使ってないぞ」
 不機嫌そうに、神野が呟いた。
「吉野さん、隣りに座ってってよ、いちゃいちゃらぶらぶして、皆に仲良しなところ見せようよ、マイハニー」
 オーバーリアクション+αな演技だが、暁は自分から見た神野を演じた。
「そんな事までやってないぞ」
「んー、でもね、人によってはそう感じると思うな」
 暁は神野に擦り寄ると、優しく答えた。
「俺、他人の気持ちを考えられる人が好きw」
「こら、何をそんなにくっついて。キミはアルバイトだろう、そんな事を」
 しかし、暁は神野にぎゅっと包み込むように抱きついた。
「寂しいんだよね?そういう時はぎゅってしてあげる。そうすると、ちょっとだけ紛らわせる事が出来るんだよ。ね?」
 優しいく、かつ妖しい笑みで神野を包み込む暁。神野が少しだけ笑顔を見せた。
「何だか暖かな気分だな。暁君、君は不思議な子だ」
「そっかなー?俺、別に普通だよ?」
「せっかくだ、何か食べるかい?これで好きな物でも食べるといい」
 暁の前に、一万円札を置く神野に、暁は笑顔で言葉を返した。
「何となく、人の優しさに触れたような気がするよ。もうちょっと、人の事を考えないといけないのかもしれないな」
「ありがとうー、神野さん!店の女の子達だって、神野さんを嫌っているわけじゃないと思うな。もうちょっと頑張って人の心を解れば、神野さんは人に好かれる人になるよv」
 これで好印象得られたら、甘い物を貢がせてみようかなーと思いつつ、暁は神野に優しく笑いかけた。
「今日は仕事もあるし、これで帰る事にしよう。暁君、君とはまた話がしたいものだ」
 そう言って、神野は店から出て行った。暁は神野を見送ると、もらった金でこの店の甘い物を全部制覇する為、帰りに客として店に入り、注文表に書いてある甘味を片っ端から頼んでいた。
 せっかくだからと、茉夕良や皐月達と一緒に暁はケーキやプティングを食べたが、その後に茉夕良は店に残って、正社員の赤井を交えて、何やら話をしていたようであった。暁は先に店から出てきたので、何を話していたかはわからないが、店のスタッフの態度とか、他の客への気配りとか、そんな内容のようだった。
「人の気持ちを考えるのって難しいけど、それが出来る人は好かれるんだよねえ♪」
 土産にチョコクッキーの詰め合わせまで買い、暁は家へと帰るのであった。(終)



◆◇◆ 登場人物 ◆◇◆

【4782/桐生・暁/男性/17歳/高校生アルバイター、トランスのギター担当】
【4788/皇・茉夕良/女性/16歳/ヴィルトゥオーソ・ヴァイオリニスト】
【NPC/西野・皐月/女性/17歳/高校生】

◆◇◆ ライター通信 ◆◇◆

 桐生・暁様

 こんにちわ!新人ライターの朝霧青海です。シナリオへの参加、有難うございます!
 いつも暁君のセリフは楽しんで書いております。前向きで明るいセリフは書いていて楽しいです。その中に、暁君の深いところにある別の面をちらっと出してみたり。
 今回は成金の男性をどうにかして迷惑掛けないようにするというお話ですが、実はこの男性にはモデルがいたりします(笑)ここまでぶしつけではないですが(笑)
 物語の展開上、プレイングにはないのですが、暁君を皐月の知り合いと言う事にさせて頂きました。その方が物語に絡め安かったのもありまして、行動やセリフ、どうもっていけば暁君らしくなるかな、と思いながら執筆しました。
 また、このシナリオは登場人物の視点別となっておりますので、そちらも納品されましたら、茉夕良さんからの視線でもお楽しみ頂ければと思います(笑)

 それでは、今回はどうも有り難うございました!!