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<東京怪談・PCゲームノベル>


IF 〜人魚 メイド マーメイド〜


 西暦2XXX年。
 人とは自らと異なる物を認めないもの。
 かつては数多く存在していた異能者……特異な能力を持った人や、人でない何かを認めようとはしなかった。
 何も特異な力を持たない物は恐れたのかも知れない。
 支配し、虐げられる事を。
 だが数では遥かに勝り、科学の力を発展させてしまった人々は考え、実行に移してしまったのだ。
 あれらは人ではない。
 我らの方が勝っている。
 虐げ、支配しようと。

 これは、そんな愚かな世界の話。



 高かい場所にある、丸い机を囲んでの会議。
 初期のそれは話し合いの場であったのかも知れないが、現在では権力とエゴにまみれたただの自慢を語るだけの場所になっていた。
 今日は何人捕まえたか。
 異能者に取り付けた、新しい機械の取り付けが上手くいった事。
 捕らえたコレクションが反抗的で、なかなかに楽しめそうだとも。
 まるで物を愛でて楽しむような口調だが、扱われているコレクションとやらの正体は人であり、生きている命であるのにこの言いぐさ。
 どちらか本当に人か解らない会話を責める物はいない。
 ここでは、それが当たり前の事なのだから。
 いずれも誰かが何かを言った後には必ず絵に描いたように笑う事はとても機械的で、社交辞令か様式美のようになっている。
 彼らまたは彼女達は面白い事が好きで堪らない。
 次は何をしようか、どんな遊びをしようかと何時も考えている。
 だからこそ彼らまたは彼女たちは何時も何かを話し合っているのだ。
 ああしよう。
 またはこうしようと。
 一人が思いつきでこういった。

 “人魚とメイドでマーメイドってどうだろう”
 “いいと思う” 
“Myメイドって事で”
“ではその線で”

 こんな冗談にした所で笑えないような話ですら、げらげらと笑いだす。
 科学という力を振りかざした世界は、思いつきで牙をむくのだ。



 人魚狩りの始まり。
 沢山の人魚達が捕まり、薬品や機械で従順なメイドにされて売られるというブームが来たのだ。
 追いかけられ、逃げ続ける。
 繰り返す追いかけっこは、何時だって機械が勝利する事が決定されていた。
 地上には居場所はなくなり、太陽の光は見れなくなって久しい。
 一緒に逃げた仲間達はいつの間にか数が減っていった。
 捕らえられたり、殺されてしまったり……あるいははぐれたのがその理由。
 今、みなもはたった一人だった。
 助けてすら言えない。
 仲間もいないし、声すら出す事は出来なかったのだ。
 岩陰に隠れ、小さく体を縮める。
 光すら差さない深海の中、助けは来ない。
 あれほど自由であった水が酷く重いのは、何かをされたせいだ。
 混ざり物の水は酷く扱いづらい。
「―――!」
 ギシリと体が軋み、体中が締め付けられ声にならない悲鳴を上げた。
 味方であったはずの水すらも牙をむく。
「……た、たすけ」
 ギリギリまで見開いた目に、強い光を当てられ視界が真っ白に染まる。
 すべては悪魔よりも恐ろしい科学の力。
 伸びてきたアームがみなもの体をつかみ取る前に、意識は途絶えた。



 体中を切り裂き、触れ回る機械の手。
 中身を作り替えられていくのは情報として伝達された。
 書き込まれていく記憶。
 人に逆らっては行けない事。
 従順である事。
 全身隅々にまで機械に支配される体。
 それはナノマシンで在るという。
 あるいは心すら支配する機械だと教えられた上で尚、従うように仕組まれた。
 作られたのは機械の人形。
 素直で従順な人魚のメイドの出来上がり。



 完成した新しい人魚のメイドは、とてもきれいだと高値で取り引きされた。
 理由はそれだけではない。
 僅かながら心を残し、操っているのだと解らせたのも、機械に作り替えた事知らせたのもすべては……蝕まれる心を楽しむため。
 こんな事はおかしい。
「おはようございます、ご主人様」
 スカートの両端を持ち、深々と頭を下げる。
 望んではいない行動を体が取ってしまうのだ。
「おはよう、みなも」
「朝食が出来ております」
 指示された言葉を告げるみなものアゴを持って顔を上げさせ、ニッと笑う。
「何故そんな目を?」
「何の事でしょうか?」
 表情すらも自由にはならない。
 頬の動きすら支配され、ご主人様に向かって微笑みかける。
 ちぐはぐな心と体。
 その微妙な違和感すらも、相手は楽しんでいるのだ。
「楽しいね、みなもは」
「ありがとうございます、ご主人様」
 誰か助けて。
 声は誰にも届かない。
 矛盾だらけの世界が、次第にすべてを蝕んでいく。
 いっそすべて機械に支配されてしまったのであれば……どんなに楽だろう。
 駄目だ行けない。
 流されてはならないと解っても、そう思う事が次第に増えていった。
 命じられた事はどんなに酷い事でもしてしまう。
 ひざまずく事も、恭しく手を取る事も……何一つ自由になる事など無い。
 心があるというのに、道具としてしか扱われる事はないのだ。
 生きた人形。
 珍しい物。
 ご主人様の気分次第で新しい機械を取り付けられ、あるいは外され、気が乗るまでうち捨てられる。
「そろそろ新しいのに変えようか?」
 恐ろしい事を言って笑う。
 何時気まぐれで壊されてしまうのだろうか。
「ご主人様?」
 何も解らないような表情で、首を僅かに傾げる仕草すら仕組まれたものだ。
 そんなみなもを見て、薄く笑う。
「どう思う、みなも?」
「ご主人様?」
 手を取り指先を強く噛みしめる。
 滲んだ血は、既にみなもの物ではない。
「答えないのなら壊してしまおう」
 指先から滴る赤い何かを舐め取りながら、白い手に赤をぬり広げるようにして撫でる。
 怖くなった、きっと……殺されてしまうと。
 とても恐ろしいのに、口からでるのは正反対の言葉。
「ご主人様がそう望まれるのであれば」
 命令は、絶対なのだ。
 何一つ逆らえない。
 心が蝕まれていく。
「本当に?」
「もちろんです、ご主人様」
 笑みが酷く歪む。
「……っ」
 一瞬後に彼は腹を抱えて笑い出した。
「はっ、あはははは、あっははははははは!!!」
 椅子から転がり落ち、床の上で足をばたつかせてひとしきり笑い続けてからようやく座り直し、まなじりに溜まった涙を拭い笑いかける。
「かわいいね……みなもは。嘘だよ、捨てたりしない。もっと遊ぼう」
「はい、ご主人様」
 ああ……この人は、なんて可哀相な人なのだろう。
 スカートのすそを軽く持ち上げ、恭しく頭を下げた。



「みなも、みなも。今日は泳ぎに行こう。きれいな尻尾で泳いでおくれ」
 ご主人様はそう言ってはよくみなもを潰れかかった水族館へと連れ出した。
 借り切ったのだという水槽に放り込み、まるで歌劇でか何かを見るかのようにみなもが水にたゆたい泳ぐ姿を楽しむのである。
「もっとゆっくり泳いでよみなも」
「はい、ご主人様」
「もっと早く」
「はい、ご主人様」
「ゆっくとり回って」
 僅かに仰ぎ見れて空は、かつて逃げていた時にあれほど望んでいた太陽の光であるはずなのに……今は何の感情も沸かなくなっている。
 水の中から見える光はとてもきれいなものであったはずだったのに。
 かけらのように残る意識すら、水の中に解けてしまえけばどんなに楽だろう。
「みなもの友達を入れるのはどうだろう、他の人魚や、熱帯魚とかはさぞかしきれいだろうね」
「ご主人様の仰せの通りに」
「嘘だよ、みなもは僕だけの物だ」
 水槽にすがりつき、笑う。嗤う。微笑う。


 引きずられるように連れまわされる事もまた、日常的な事だった。
 リードで繋がれ、散歩と称して見せびらかしに行く。
 それは、この為の準備。
「今度は何処を新しくしようか、もっと真珠のような肌に張り替えるのも良いね。目を入れ替えるのは……勿体ないから色々と入れ替えられるようにするのもいいかも知れない。その時は髪と揃いになるようにしよう」
 彼は同意を求めていない、だから言葉を返す事は出来なかった。
 体に入り込んだ機械は、そんな事すら出来るようになっている。
「新しい人魚が手に入ったそうだよ、みなもの友達かも知れない。友人が手に入れたそうだから、折角だ、体の一部を取り替えて遊ぼう。ねぇ、みなも」
「はい、ご主人様」
 延々と続くかに思われた狂気の日々は突如として終わりを告げた。
 新しいブームが来た事によって。
「良いねぇ、犬耳」
 ご主人様は首輪をを付けた犬耳少女達に囲まれて、とても楽しそうにしている。
 僅かに開いたクローゼットの中から、みなもはその光景を見続けた。
 次に、声をかけられるのを待ち続けながら……。



「みなも、みなも。おはよう、みなも」
「はい、ご主人様」




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1252/海原・みなも/女性/13/中学生】

 →機械人形の人魚のメイドにされてしまったら

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■         ライター通信          ■
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※注 パラレル設定です。
   本編とは関係ありません。
   くれぐれもこのノベルでイメージを固めたり
   こういう事があったんだなんて思わないようお願いします。


かなりの勢いでブラックな内容になってしまったような気がしますが。
如何でしたでしょうか?
楽しんでいただけたら幸いです。
発注ありがとうございました。