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<東京怪談・PCゲームノベル>


IF 〜田中君の恋人2〜


 桜舞う中、裕介が来ているのは鎌倉。
 二人の事情が重なり、今年の花見は樟葉の実家で行われる事になった。
 広い敷地内は当然の事だが貸し切りで、咲き乱れている桜を独占状態である。
「凄いですね……」
 真に感嘆の言葉を述べるので在れば、それしか出ないのだ。
 整えられた庭も、桜の咲き具合や天気も実に良いタイミングで……本当に見事だとしか言いようがなかったのである。
 もちろん多少は天気や咲き具合を考慮していたとはいえ、泊まりがけである事や遠出している事を考えればなかなか無いタイミングだ。
「凄くお花日日和ね」
「日頃の行いが良いせいかと」
「冗談が上手ね」
 クスクスと笑う。
 細かく尋ねる事は墓穴を掘りそうなので控えておく事にした。
「冗談よ」
 もっとも僅かに表に出たらしく、ポンと肩を叩いてくれた。
「ここら辺でいいと思うわ」
「そうですね」
 手頃な位置にシートを広げ、樟葉が用意したお重を用意して支度は完了。
「はい、桜も良いけどお弁当もね」
「美味しそうですね、いただきます」
 二人でちょうど食べやすそうな量が、彩り良く詰め込まれている。
「桜のデザートも用意してきたから、ゆっくり食べましょうね」
「楽しみです」
 御飯物から手を付け、焼き物や煮物を取り分けて食べ始める。
「美味しい?」
「それはもう、とても」
 お茶を飲む裕介に、樟葉は食べやすい大きさの煮物を取り微笑みかけた。
「はい、あーん」
「先輩……」
 人目がないとはいえ、それをするのは流石に照れる。
「食べてくれないのかなー?」
 完全にからかっている口調に、二、三度目を瞬かせてから……裕介はパクリとそれを口に運んだ。
「いい子いい子」
「………」
 こうすればからかい返せるとは……甘かったようである。
 やっぱり相手の方が一枚上手のようだった。



 暖かな日差しの中、二人きりの花見の時間はのんびりと過ぎていく。
 作ってもらったお弁当はどれも好きな物ばかりで、気づけばきれいに空になっていた。
「ごちそうさまでした」
「どういたしまして、作った甲斐があったわ」
 空になったお重を片づけ、今度は別の鞄を真ん中へと持ってくる。
「それは?」
「新しく作った服よ、ぜひ見て欲しくって」
 お重の入ってた物よりも一回り大きい鞄の蓋を開き、中へと手を入れ取りだしたのは一着の服だった。
「試着するから、感想聞かせて欲しいの」
 柔らかいパステルカラーのブラウスを軽く前に当て、裕介に微笑みかける。
「もちろん」
 同じく微笑み返してから過ぎったのは、ここが外で着替えをどうするかという事。
 いくら彼女の実家の敷地内で人気がないとはいえ、外で着替えをさせる訳にも行かない。
「一度戻りますか?」
「それなら大丈夫」
 鞄の中に手をてれ、取りだしたのは一枚の大きな布。
「………」
 無言で見守る裕介の前で、樟葉は肩から布をかぶりパッと取り去ってみせる。
 すると先ほどまで着ていた服ではなく、鞄から取りだしたブラウスへと早変わりしていた。
「流石ですね」
「どっちに対しての褒め言葉?」
 人に着せ替えるよりは多少簡単だとは言え、やはり早着替えはなかなかに難しいのである。
 特に、背中当たりにチャックやボタンが付いている場合は尚更だ。
「両方ですよ、その特技と……新しい服がとてもよく似合ってる事に対してですよ」
「ありがとう」
 クスクスと笑い、次にと鞄の中からスルリとロング丈のワンピースを取り出す。
「………」
「?」
「いえ、どれぐらい入っているのかなと思いまして」
 改めて繰り返す。
 その鞄はお重より少し大きい程度の大きさなのである。
「秘密、言ったら面白くないでしょう」
「そうですね」
 微妙に露点がずらされた気がしないでもないのだが、そこは気にしないでおこう。
「少し時期が早いけれど」
 これからの時期にちょうど良いだろう薄目の素材、胸の下にある切り返し。
 肩からはおるタイプのストール。
 この二つが合わさる事で体のラインを描くようになぞり、大人っぽさとかわいらしさを一度に引き出している。
「今年は早くから暑くなりそうだから」
「確かに流行ってきてますよね、薄手の素材」
「少し派手目の花柄もよ、中の生地を大人しめにしておいて、明るくて春らしいのを合わせようと思ったの」
「凄くいいと」
「良かった、じゃあ……」
 次々と取りだした服を着替え、二人で話し合い検討を重ねていく。
「やっぱり人気なのはチュニックやキャミソールとと薄手のカーディガンの組み合わせなのよ」
「セットにした時にアレンジがききますからね」
「それもあるけど日差しがキツい時に一枚在ると凄く便利なの」
 シートの上に並べた服から似合いそうなのを選んでは、それに着替えてみせる。
 立体的な構造の物であるのだから平面にして並べるよりも、実際に着てみた方がずっと色々な事が解るのだ。
「裾の所もう少し絞れそうですよね」
「体型によるけど、あんまり長くなってたりすると見栄えが良くないのよ。いっそ逆に長くして花みたいにアレンジするのも楽しそう。だったら素材は紐よりもリボンの方が良さそうね」
 色々試着し、ある程度試着し終えた所でメモをパタリと閉じる。
「さてと……」
 まだ何かあるとばかりの表情に、次はどうするのかを見守る裕介ににっこりと樟葉が微笑む。
「………」
 まさか―――。
 何かしら予感が通り過ぎるその直後。
 スルリと鞄から取りだしたのはメイド服。
「やっぱり……」
 小さく呟く。
「何か言った?」
「いえ、何でもないですよ」
 苦笑しそうな表情を何とか何時も通りの笑顔まで持っていく。
「そう」
 満足げに頷いてから、スカートをなできれいにシワを伸ばしてメイド服を愛でて微笑む。
 内心思ったのは、桜を見ているよりも幸せそうだったと言う事だ。
「本当に好きなんですね」
「もちろんよ」
 服に関してはこの上ない程に情熱を傾ける樟葉は、色々な服の中でも特にメイド服が好きな女性なのである。
 メイド服を手に持ち、これまでと同じようにさっと早着替えをして見せた。
 彼女のサイズぴったりに作られたメイド服は、一件シンプルながら細部にとくにこだわった仕様になっている。
 濃紺と黒の中間のような色合いの下地に真っ白なエプロン。
 そのエプロンの装飾の細部が非常にこっているのだ、縁取りに使われたフリルは一によって微妙に大きさが違う。
「全部同じサイズも整っててきれいなんだけど、やっぱり肩の辺りは少し大きめの方が良いし、カーブした所もサイズを変えた方がきれいに見えると思うの」
「……なるほど」
 頷く裕介に、エプロンのすそを軽く捲り縫い目を見せる。
 手作業なのだろう、裏の縫い目も丁寧な上に、刺繍のようなデザイン風で非常にこっているのだ。
「凄いですね……」
「ふふ、見えない所にこそこだわるべきなのよ」
 エプロンを直し、くるりと一回転してみせる。
「丈にも気を遣ってるのよ」
 くるぶし辺りの長すぎず短すぎないスカート。
「やっぱりメイド服ってこのぐらいの長さがちょうど良いと思うの」
 くるぶしだと長すぎて、慣れていなければ動きづらいと言う事。
 秋葉原にある喫茶店のメイドは丈が短すぎるそうだ。
 そこの辺りには多少同意する。
「確かにそうですよね」
「そうでしょう、邪道よ、服としてはかわいいと思うけれど。ウエイトレスであってメイドとは違うわ。スカートのすそと靴下の感覚は数センチに抑えるべきだと思うの」
 一度頷いただけで、これより延々と話し続ける事になってしまったのは……まあご愛敬。



 一時間程度語り尽くしてから、ようやく満足したらしい。
「何時も話し聞いてくれてありがとう」
「嬉しそうに話してるの見ると嬉しいですから」
 大切な人が幸せそうにしているのはとても幸せな事だ。
 それが、何よりの理由。
「ありがとう」
 軽く手をこまねく樟葉に、裕介は軽く体を移動させて距離を縮める。
「このまま、お花見の続きも悪くないわよね」
 そっと差しだした掌に、ふわりと舞い落ちる桜の花びら。
「そうですね」
「キレイ………」
 肩にかかる心地の良い重みは、裕介の肩へと樟葉が寄りかかったからだ。
 こんな時間も悪くない。
 色々と着替えて疲れたのか、それとも陽気の所為か……ウトウトとし始めた樟葉を起こさないようにそっと髪を撫でる。
 二人きりの花見の時間は、日が暮れるまでの間……ゆっくりと過ぎていった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1098/田中裕介/男性/18歳/孤児院のお手伝い兼何でも屋】

→もし付き合っていた先輩が死ななかったら

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■         ライター通信          ■
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※注 パラレル設定です。
   本編とは関係ありません。
   くれぐれもこのノベルでイメージを固めたり
   こういう事があったんだなんて思わないようお願いします。

続編があったとはこっそり驚いています。
甘くなるようにしてみましたが、喜んでいただけたら幸いです。