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<東京怪談・PCゲームノベル>


【夢紡樹】−ユメウタツムギ−


------<迷子?>------------------------

 とてとてと楽しげな足取りで一人の少年が桜並木を歩く。
 その足取りはしっかりとしていて、何処にも迷いなど感じられなかった。
 しかし少年はほわわん、とした笑顔でとんでもない事を口走る。
「ここ‥‥どこかなぁ‥‥」
 どうやら桜を追って歩いてきている間に迷ってしまった様なのだが、本人に危機感はない。
 さらさらとした銀色の髪を風が撫でると、少年は桜を仰ぎ見る。
 そして桜の花びらが散ってくるのを見て楽しげに手を大きく伸ばした。
「お花見したいなぁ‥‥お弁当とか持っていったら‥‥楽しいよねぇ」
 その光景を思い浮かべたのか少年は幸せそうな笑みを浮かべる。

 その時、少年は目の前に続く桜並木を歩いていく青年の姿を発見した。
 金色の長い髪を一つに結わえた青年は、先ほどの少年と同じように落ちてくる花びらに向かって微笑みながら手を差し伸べている。
 それを見た少年は、その青年の元へとパタパタと走り出し、歩き出した青年の服を掴んだ。
「えっ?」
 驚き振り返った青年は下から笑顔で青年を振り仰いでいる少年と目が合う。
「お兄さんも‥‥お花見したい?」
 青年は驚いた表情をしながらも、少年に頷いてみせる。
「そうですね。お花見にはとても良い季節ですね」
 少年はその答えを聞いて嬉しそうに笑顔を見せた。
「あのね、俺くりゅーあきらって言うんだよぉ」
「俺はエドガーです。あきらさんはどちらから来たんですか?」
 んー、と自分が来た道を振り返りエドガーにあきらが告げた言葉に、エドガーは再度目を丸くする。
「あっちかなぁ。桜を追って来てたらここにいたからぁ‥‥」
「迷子‥‥ですか?」
「そうなのかなぁ?」
 どうだろぉ‥‥と呟いたあきらの腹が、ぐーっ、と音を立てる。
 それにエドガーは微笑み、あきらに提案する。
「家の住所は分かりますよね。それでは後で家までお送りしますよ。まずは腹ごしらえなんてしていきませんか。俺、喫茶店で働いてるんです」
 ご馳走しますよ、とエドガーが柔らかな表情を浮かべるとあきらは大きく頷いた。
「いいのぉ? ありがとう。お腹空いてたんだぁ」
 わーい、と無邪気に喜ぶ姿にエドガーは微笑む。
 少女にも見えなくもない容貌を持ったあきらは、するり、とエドガーの腕に腕を絡めエドガーが導くままに歩きだす。
 そして歩きながらあきらは再び桜を見上げた。
 よっぽど桜が好きなのだろうか、とエドガーがあきらに尋ねる。
「あきらさんは桜が好きですか?」
「綺麗だから好きだよぉ」
「そうですか。でも本当に綺麗ですよね」
 二人は桜並木を歩き、エドガーが勤めるという喫茶店へと向かった。


------<夢の卵>------------------------

 喫茶店へと辿り着いた二人は、ピンクのツインテールを揺らしたリリィに迎えられる。
「おかえりーって、エドガーその子は?」
 首を傾げたリリィにエドガーは、あちらの席に、と窓際の空いてる席へ案内する様に告げる。
「エドガーのお客様?」
「はい」
「分かった。それじゃこちらへドウゾ」
 リリィはあきらを席まで案内し、メニューを渡す。
「こちらからお好きなものを好きなだけ選んで下さいな」
「美味しそうだねぇ」
「本当に美味しいんだけどね。エドガーは料理の腕だけは良いの」
 パチリ、とリリィがあきらにウインクをしてみせる。
「そうなんだぁ‥‥どれにしよぅ‥‥えっと‥‥お勧めってどれかなぁ‥」
 悩みに悩んだあきらはリリィに助け船を求める。この従業員ならばどれが一番お勧めか分かるだろうと。
「んーとね、コレとコレとコレ‥‥」
「それとこちらも今の季節はお勧めですね」
「マスターっ!」
 すっ、と伸びた手はあきらの目の前の商品を指す。
 不思議そうにあきらはリリィからマスターと呼ばれた青年を見つめた。黒い布で目隠しをした青年は手にはバスケットを抱えている。
「私はこの店の店長の貘と申します」
 軽く一礼し貘と名乗った青年は口元に笑みを浮かべてあきらを見ていた。しかし目隠しをしているのだから実際に見えているのかは分からない。
 それ以上深く考える事はせずに、あきらは暫く迷った後、貘の指した一品とリリィの指した一品を頼む事にした。
「はーい、それじゃもう少しお待ちくださーい」
 リリィはエドガーに注文を伝えにふわりと短いスカートをはためかせて駆けていく。
 残されたあきらに貘がバスケットを差し出した。
「エディのお友達だとお聞きしましたので、ぜひこちらをプレゼントさせて頂こうと思いまして。こちらは夢の卵と申しまして、見たい夢が見られる卵になります」
「‥‥見たいものが見れるたまごぉ?」
 あきらはバスケットの中身を覗くが、普通に見る卵となんら変わりはないように見えた。真っ白の掌にぴったりと収まる位のにわとりの卵と同じ様だ。
 しかし貘は更に続ける。
「今、ご覧になりたい夢がありますか? もしあるのならば、それを念じながら卵を選んで下さい。この中には悪夢も派手なアクションを見せる卵も全て混ざって入ってますが、そのお客様にあった卵が手元に行く様になっているんですよ」
 面白いねぇ、と告げたあきらは心の中で一つの事を思いながら、卵の入ったバスケットに手を突っ込んだ。
「それじゃぁ、これにするぅ」
 そう言ってあきらが卵を取り出すと、貘はにこりと微笑んだ。
「それはプレゼントです。先ほど思った事を強く念じればその夢が見られる事でしょう。どうぞごゆっくり」
 会釈をして去っていく貘の後ろ姿を見つめながら、あきらは手の中の卵をころころと転がす。
「夢の卵かぁ‥‥‥お父さんに‥‥会いたいなぁ‥‥俺‥‥お父さんの夢を見たいな。俺は覚えてないし、本当の‥‥お父さんが出てきても‥‥困る。でも‥‥“お父さん”って存在、憧れるんだぁ‥‥一緒に‥お花見‥‥」
 こてん、とそのままあきらはテーブルの上に突っ伏してしまう。
「あれ? 寝ちゃってる!」
 それを見ていたリリィが慌てて膝掛けとショールを持ち出して、あきらにかけてやった。
 その手際の良さで、こうやって寝てしまう客があきらが初めてではないのが分かる。
「エドガー、作るの中止。さっきの子夢の中」
「貘ですね。全く‥‥誰にでも夢の卵をあげないで下さいって‥‥」
「なによ、マスターに意見する気? いいじゃない、見たい夢が見られるんだし」
「それはそうですけど‥‥あきらさん、お腹空かせてたのに‥‥」
「後で一杯食べさせてあげれば良いでしょー。‥‥あ、イラッシャイマセ〜」
 扉を開ける音が聞こえ、リリィは慌ただしく去っていく。
 エドガーは、仕方ありませんね、と苦笑しながら、あきらが起きたらすぐに出せる様に準備だけは整えておく事にしたのだった。


------<夢の中>------------------------

「ここ、どこぉ?」
 あきらはきょろきょろと辺りを見渡しながら声を上げる。
 初めは一面真っ白の世界だった。
 なんにもない。
 しかし、そこに道が出来、段々と色づいてきた。
 あきらは面白いものを見る様に目を輝かせる。
 目の前で作り上げられる世界。
 それはあきらの目に特別なものに映った。

 出来上がったそこは、先ほど喫茶店に来る前にあきらが辿ってきた桜並木にそっくりだった。
 桜で出来たアーチを見上げれば、その隙間から見える青空。
 それはとても綺麗で、桜の花と空の色のコントラストが綺麗だった。
「俺‥‥また迷子なのぉ? えっと‥‥もしかしたら夢?」
 きっと夢なのだろう、とあきらは思う。
 先ほどと同じ光景で一人きり。
 寂しくはなかったはずだった。
 しかし今は寂しい。何もないゼロから作られた世界だと知っているから。
 この世界には誰も居ない。

「お父さん‥‥居ないのかな‥‥本当のお父さんじゃなくて良いから‥‥」
 その時、あきらは先ほどこの道で桜を見上げていたエドガーの事を思い出す。
「エドガーさん、お父さんになってくれないかなぁ‥‥」
 ぽつり、と呟くと目の前にエドガーが現れた。
 あきらと視線を合わせる様に屈んだエドガーが、にっこりと微笑む。
「良いですよ。あきらさんのお父さんになっても」
「ほんとぉ? それなら、あのね‥‥」
「なんですか?」
 優しく尋ねられてあきらは甘える様に告げる。
「お花見‥‥したいんだぁ。お弁当持って、お話‥‥するの」
「いいですね。それでは先にお弁当を作りに行きましょう。お重に詰めてシートを敷いて桜の下で一緒にご飯を食べましょうね」
「うん」
 花の綻ぶ様な表情を浮かべるあきらは本当に幸せそうだ。

 あきらはエドガーと手を繋ぎ、桜の美しい公園を通り過ぎて夢紡樹へとやってきた。
 しかしその喫茶店には誰も居らず、エドガーとあきらの二人だけ。
 エドガーはてきぱきと料理を作り、重箱の中にそれらを彩りも鮮やかに詰めていく。
「すごい綺麗だねぇ」
「見た目も美味しさの一つなんですよ」
「へぇ‥‥」
 感心した様に頷いたあきらだったが、エドガーに目の前にだし巻き卵を差し出されきょとんとする。
「味見して貰えますか? はい、あーん」
 くすぐったい様な感情が心に沸き上がる。
 あきらは笑顔でそのだし巻き卵に齧り付いた。
 口の中にふんわりと味が広がる。
「美味しい」
「良かった」
 二人は微笑みあって、全ての料理を詰め終わった重箱と魔法瓶を持って先ほどの公園へと向かったのだった。

「すごーい。貸し切りだよぉ」
「本当ですね」
 見渡す限りの桜並木。
 そこにシートを敷いて二人は重箱を広げる。
 太陽の温かさも丁度良く、そよ風も心地よい位だ。
 たまに吹き抜ける風が桜の花びらを散らし、それを楽しそうに目で追うあきら。
「ほらほら、零しますよ」
「平気なのぉ。お父さんもこれ食べて」
「はい、いただきます」
 エドガーがあきらに差し出されたたこさんウィンナーをぱくりと食べる。
「美味しいよねぇ」
「あきらさんと食べるから美味しいですよ。それにこうやってお花見してると本当に楽しいですし」
「お腹一杯になったら寝ちゃうかもだけど‥‥起こして‥‥ね? お父さん‥‥」
「はい。あきらさんが桜の花びらに埋もれてしまう前に起こしますよ」
「それじゃぁ駄目ぇ。俺、眠り姫になっちゃうよぉ」
「冗談です。でも俺も一緒になって寝てしまうかも」
 エドガーが笑うとそれにつられてあきらも笑う。
「それもいいかもねぇ」
「そうですね」
 まったりとしたお花見を楽しむ二人は、桜の木の下で柔らかな笑みを浮かべていた。


------<夢から覚めて>------------------------

「ん‥‥」
 あきらは目を擦りながら眠りから覚めた。
 それに気付いたエドガーが隣に立つ。
「おはようございます」
「あ、お父さん‥‥じゃなくて、エドガーさんだぁ」
「‥‥? あきらさんのお父さんに似てますか?」
「ううん、違うのぉ。でもエドガーさんはお父さんなのぉ」
 あきらは夢の中でエドガーが起こしてくれると言っていたのをうけて、目覚めていた時に隣にいたエドガーをそのままお父さんと呼んでしまったのだ。
 しかしエドガーもそれ以上は詮索せずに、そうですか、と楽しげな笑みを浮かべている。
 案外、夢の中で自分がお父さんと呼ばれていたのだと気付いているのかもしれない。
「夢の中でたくさんお料理食べたのぉ。でも‥‥やっぱり目が覚めたら‥‥お腹空いてるみたい」
 ぐー、と鳴るお腹をさするあきら。
 エドガーは、ちょっと待ってて下さいね、とカウンターに戻り何かを取るとあきらの目の前にそれらを並べた。
「あっ‥‥」
 あきらは小さく声をあげる。
 目の前に並べられたのは、夢の中で見た重箱のミニチュア版だった。
「貘が勧めた重箱セット、写真ついてなかったから分からなかったでしょうけど、こういうものだったんですよ」
「すごぉい。これね、夢の中で見たのと同じなのぉ」
「本当ですか?」
「うん。あのね、すごく美味しかったのぉ。二回もこれ食べれるんだぁ‥‥」
「たくさん食べて下さいね」
「いただきまーす」
 大きく頷いたあきらは目の前の重箱に瞳を輝かせながら箸をつけたのだった。



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■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

●5201/九竜・啓/男性/17歳/高校生&陰陽師

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■□■ライター通信■□■
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初めまして。こんにちは、夕凪沙久夜です。
お花見は如何でしたでしょうか?
当方のエドガー、お父さんになれているのか不安ではありますが、楽しんで頂ければ幸いです。
ほわわんとした感じを出せていたらよいのですけれど。

また機会がありましたらどうぞよろしくお願い致します。
ありがとうございました。