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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


占いルーレット


■オープニング■


 白王社月刊アトラス編集部の会議用テーブルの上に小さな古びたルーレットが置かれた。
「編集長、これどうしたんですか?」
 ちょっと三下君と呼ばれてルーレットを持ち込んだ碇麗香に三下忠雄はそう尋ねた。
 中央にある木製のつまみを回すと小さな音を立てながら廻る。
 よくカジノなどにあるルーレットや人生ゲームについているサイコロ代わりのあれと同じような構造のようだ。
 違うのは数字は漢数字で一〜十まで順番に並んでいるかと思えば十の次は百、千、万と続いている。
「なんだか変わったルーレットですねぇ」
とのんきに覗き込んでいる三下に、
「三下君、あなたちょっとこの玉を投げ入れなさい」
麗香は真っ赤な1.5p程度の玉を手渡しルーレットを回した。
 三下は言われるままルーレットに玉を投げ入れた。
 カンカンと何度か弾かれた後、カラカラ言いながら回転してその玉は1つの数字に収まった。
「1ですね」
「1……1ね」
 するとルーレットのフレーム部分にいつの間にか文字が浮かび上がる。

『九死に一生を得る』

「編集長……これ、って……」
 その文字を指差す三下に、
「よく当たるらしいのよねぇ、このルーレット。体験レポート期待してるわよ」
と言うと麗香は艶然とした微笑を浮かべて三下の肩を軽く叩いた。
「多分死なないとは思うけど『万が一』ってこともあるかもしれないけれど、ね」


■■■■■


「あっ、ちーちゃん!」
 学校帰りに見つけた見知った顔に、凡河内絢音(おおしこうち・あやね)は交差点の向こうに居る相手に向かって叫びながら左右に大きく手を振る。
 ブンブンと音が聞こえてきそうな勢いの手に釣られて月見里千里(やまなし・ちさと)が振り返した手の動きも心なしか大きくなった。
「あやねん、学校帰り?」
 学校帰りらしくお互い制服姿なのだが2人の制服は異なっている。つまり、学校は違うという事だ。だが、いろいろ縁合ってお互い愛称で呼び合う位に仲は良いらしい。
「うん。あ、ちーちゃん、この後どこか行く予定とかある? 無かったら、せっかくだしケーキとか食べに行かない?」
というと、絢音はケーキバイキングのチケットを見せる。せっかくも何も1人でも食べに行く気は満々だったのだが、やっぱりバイキングなら1人よりも友達と一緒の方が良かった。絢音にとっては色々な理由で。
 千里も、絢音の異常なまでの甘いものに対する食べっぷりは知っていたが、まぁ、たまにはいいか……と思い頷いた。ここしばらく、気落ち気味だからたまにはケーキバイキングというのもいいだろう。
「おっけ。でもその前にちょっとアトラス編集部に寄って行きたいんだけど……」
「それくらい付き合うよー」
 そうして2人は白王社の月刊アトラス編集部へと顔を出した。
「碇さーん、この前借りてた本を返しに来たんだけど―――」
と千里が編集部のドアを開くと、三下がいつものように血の気の引いた顔をしてひどく何かを警戒したように身体を小さく丸めていた。
「お邪魔しまーす」
 千里に続いて編集部に入ってきた絢音だったが中を覗こうとしてバランスを崩しバランスを崩した拍子に絢音の鞄から今日の英語の授業に使った辞書が飛び出す。
 それは真っ直ぐに空を切って飛んで行き―――ゴンという鈍い音とともに三下の額に分厚い辞書の角がヒットした。
「やっぱりこれって、“九”のうちの一つなんでしょうか?」
「でもあれは9回死にそうな目にあうっていう意味ではなかったと思いますけど」
 三下が額を抱え込んでいるすぐ側で桐嶋秋良(きりしま・あきら)とセレスティ・カーニンガム(せれるてぃ・かーにんがむ)が興味深そうにテーブルを覗き込んでいる。
「何、それ?」
 千里がテーブルの中央を覗き込むと、そこには古ぼけた木製のルーレットが置かれている。
「すごく良く当たるらしいんですよこのルーレットの占い」
 秋良占い師という職業だけあって、興味津々といった様子だ。
 ふぅん、と頷いた千里は隣に居る絢音の視線が微妙にルーレットからずれていることに気付き視線の先を追った。
「あぁ、たくさん作りすぎたと言っていたので持ってきたものですがどうぞ?」
 絢音の視線を釘付けにしていたのはセレスティが持参したビスケットだったらしい。
「え、そんなつもりじゃないんですけど……でも、じゃあ折角だしちょっとだけ」
 あんなに凝視しておいてそんなつもりも何もないだろうと思いつつも、幸せそうな顔でビスケットを味わった後、コーヒーまで頂いてようやく人心地ついたらしい絢音もようやくルーレットに興味を持ったらしい。
「で、皆さんはやってみたんですか?」
と、尋ねるとセレスティと秋良は首を振る。
「いえ、一応結果を待ってからと思いまして」
「結果?」
 何の?―――と尋ねるより先に、
「ただいま」
と言う声がして現れた女性が居た。
「あ、シュラインさん」
 シュライン・エマ(しゅらいん・えま)がメモを片手に現れた。『ただいま』と言ったという事はどこか出先から戻ってきたと言うことだろう。
「あら、また増えたのね」
 最初にシュラインが麗香から電話を貰った時はルーレットのそばに居たのは三下だけだったのだが、麗香に入手先などを聞いているうちにまずセレスティが手土産持参で現れたのを始めに、戻ってみればさらに3人も増えていたのだから無理もないだろう。
「どうでしたか?」
 以前の所有者やこのルーレットを試した経験のある人たちの情報を集めてきたシュラインに秋良はそう尋ねた。
「まぁ、そこそこの的中率ではあるみたいなんだけどただそのうちの1人は“千”に入って“一攫千金”と出たんですって」
ここに、とシュラインが文字が浮き出してくるルーレットの枠のあたりをそっと擦る。
「そしたら、本当に宝くじに当たったらしいわ」
 2、3日後に出先で買った宝くじが見事当たりであったらしい。
「しかもなんと1等3億円よ」
 一瞬顔を見合わせた千里と絢音が叫んだ。
「やりたい!」


■■■■■


 勢い良く手を上げた2人をシュラインは少し困ったような顔で見た。
「でもね、ちーちゃん、絢音ちゃん。まだこのタロットが完全に安全と決まったわけではないのよ。三下君の出した目の結果もわかっていないし……確かに、回した事のある人の1人が文字通り宝くじに当たったというのは事実だけれど、悪い結果が出ないとは限らないのだし」
 シュラインの言うことはもっともだろう。
 もしかすると占いというより呪術の小道具に近い物である可能性もあるのだ。それを確認する前に2人に回させるというのは諸手を上げて賛成しかねた。
「三下君。もう1度回してみてくれない?出来れば今度はなるべく任意の数字の場所へ入れられないかしら?」
 しかし、三下は、
「そんなの無理ですよぉ」
と首を横に振る。
「やっぱりそうよねぇ」
と、シュラインは更に困った顔をした。
 
 しかし、そんなシュラインにルーレットと玉を丹念に調べていたセレスティが微笑む。
「それでは私が最初に振ってみましょう。ルーレットも何度かやったことがありますから」
 果たしてそれは回す方だったのかと聞く前にセレスティは止めるまもなくルーレットを回してすぐに玉を投げ入れる。
 カラカラカラカラカラ―――息を呑むシュライン、千里、絢音、秋良、三下の前で徐々にルーレットの速度がおちていく。
「“三”ですね」
 セレスティだけが特に気負った様子もないような口調でじっとフレームを見ていた。その目は明らかに楽しんでいるようだ。
 そして、じわじわと文字が浮かび上がってきた。
「“二度あることは三度ある”ですって」
 真っ先に気づいたシュラインがそう読み上げてメモをする。
「2度、ね……」
 セレスティは少し考えるような仕草をした。
「三下くん!」
 黙々と仕事をしていた三下を麗香が呼びつける。
「な、なんでしょう?」
 ビクビクと麗香の元に歩いていった三下の目の前に突きつけられる原稿。
 それは三下が書いたものだった。
「没!」
 麗香は一言だけそういうと三下の前でその原稿を真っ二つに引き裂いた。
「へ、編集長ぉぉぉ」
 泣き崩れる三下の肩にセレスティは手を置いた。
「三下君、それ何度目の没ですか?」
 情け容赦のない事実確認をするセレスティ。
 その意図には全く気付かずに三下は震える指をセレスティの目の前に突きつけた。
 指はきっちり3本。
「また、当たったようですね」
とセレスティはにっこりと微笑んだ。セレスティは能力で自分の投げたルーレットの目の結果を瞬時に三下に回してしまっていたのだ。
「まぁ、こんな風に回してしまう事も出来ますから」
 そこでようやく、セレスティが試しに自分の能力で占いの結果を他人に回す事が出来るのかを“実験”したことが他の面々にもわかった。
「セレスティさん、酷いですよぉ」
 三下は半泣きの顔でセレスティにそう訴えたが、
「大丈夫ですよ。もし何かあったとしても三下君はいつも不幸ですから今更一つくらい増えた所で変わりませんよ」
と笑顔を向ける。
「そ、そうでしょうか?」
 良く聞くと相当ひどい事を言われているのだがその典雅な笑顔に上手く誤魔化されている事に三下は全く気付いていない。
 上手く三下を誤魔化したところで、
「占いですから、すぐに結果が現れるとは限らないでしょう?」
とセレスティはシュラインに微笑む。
「それに、今までは特に何も考えずに振っていたんですが……占う事を決めて振ったほうがこれが本当に占いであるのか呪術の類であるのか判るはずですよね?」
 シュラインは大きくため息をついて、
「わかりました」
と両手を小さく挙げて降参の意を期待に満ちた目を自分に向けている千里と絢音にして見せた。


■■■■■


 許可も出たところでやる気満々になっている千里と絢音とは違った意味で俄然やる気になったのが秋良だった。
「占い師の血が騒ぐわ」
 秋良は手持ちの鞄からタロットカードを出した。
「とりあえず大アルカナでいいかしら」
と言うとそして丹念な手つきでカードを軽くきる。
「どっちが当たるか、競争しましょうよ」
「あ、それ面白そうね。じゃ、どっちが先にやるか勝負、あやねん!」
「望む所よ!」
 そういうが早いか千里と絢音はその場でじゃんけんを始める。
 何度か相こを繰り返した結果―――
「やった!」
 そう言ってガッツポーズをしたのは千里だった。
 先に秋良に言われて千里は何度かカードを切って秋良に渡した。
 ルーレットの前に立つ千里の顔を見て絢音ははっと息を呑む。
 ずっと明るく振舞っていた千里が思いつめたような真剣な瞳をしていたからだ。
 占う事は決まっていた。
 今は事情があって離れている彼を千里は強く心の中で思い描き、ルーレットを回す。
 そして、運命の玉を投げ入れた。
 真っ赤な玉は何度か弾かれて飛び上がり、コロコロと転がって1箇所に落ちる。
 全員が黙って見つめる中で徐々に速度を落とす。
「“一”……」
 そして、浮かび上がった文字は“一失一得”という言葉だった。
「秋良さんっ、秋良さんの占いは?」
 絢音は焦ったように秋良を振り返った。
「しっ」
 それを制止するシュライン。
 カードをゆっくりと捲る秋良。
「これは千里さんの過去、現在、未来を示しているのだけれど―――」
 3枚のカード。
「過去の位置には“恋人(THE LOVERS)”の正位置、現在は“塔(THE TOWER)”の正位置……未来は“運命の輪(WHEEL of FORTUNE)”の正位置ね」
「どういう意味ですか?」
 絢音の問いに秋良は少し悩みながら言葉を選ぶようにゆっくりと説明しだした、
「千里さん……もしかして、恋人とのトラブルの最中なんじゃない?」
 絢音は無言で頷いた。
「近い未来何か転機が訪れるはずよ、その恋人との事なのかそれとも何か別のことなのか」
 聞いていたはずであるのに、身動きしない千里を不審に思ったシュラインが、小さく千里の名前を呼んだ。
「ちーちゃん?」
 しかしやはり反応はない。
 そして、次の瞬間。千里の身体は崩れ落ちるように倒れた。


 千里が目を開けると自分を覗き込んでいる何人かの顔が見えた。
「あ、れ?」
 身体を起すと、千里はいつの間にかソファの上に横たえられている。
「良かったー」
 絢音、シュライン、秋良、セレスティが口々に安堵の言葉を漏らす。
「大丈夫?気分は悪くない?」
 心配そうに問いかけるシュラインに、千里は、
「全然。それどころかなんだかすごくすっきりしてる」
と千里は答えた。
 何故だろう。こんなにすっきりした気持ちで目覚めるのがひどく久しぶりの気がする。
「もしかして私の占いの結果がショックだった?」
「秋良さんの占い?」
 秋良にそう言われたが千里はきょとんとした顔をしていた。
「あたし、何を占ってもらったんだっけ、あやねん」
 突然話しを振られて絢音が困った顔をする。
「や、判んないよ。だってちーちゃんなんにも言わなかったし―――ただ、多分、彼氏の事を占ったんだろうなって言うのは……」
 触れてはいけない事のような気がして言葉を濁す絢音の肩を千里は突然叩いて、
「やっだー、あやねんてば冗談ばっかり」
と笑い出した。
「え? 冗談って?」
 千里の様子が可笑しい事にその時ようやく気付いた。
「“一失一得”ってもしかしたら」
 そう呟いたセレスティにむかって頷いたシュライン。
「ねぇ、ちーちゃん。秋良さんの占いはね、恋人とのトラブルの最中って出たんだけど」
「やだなぁ、シュラインさんまで冗談言って。だって知ってるでしょ、あたし彼氏なんて居ないって!今も昔も」
 千里は笑いながらはっきりとそう言い切った。昔も今も彼氏なんて居ないと。
 シュラインと千里の会話を黙って聞いていた絢音はとっさにセレスティを振り返る。
「千里さん振ったルーレットは“一失一得”何かを失うかわりに何かを得る。つまり……」
 失ったのは彼との記憶。
 千里を憚ってセレスティの口がそう動いたことに絢音は気づいた。
「うーん。やっぱりすぐに結果は出ないのかなぁ。ほら、次はあやねんやってみて。あ、秋良さんも!」
 千里に手を引かれて絢音と秋良もそれぞれルーレットを回した。
 絢音は“八”の目に入り“八分目”という言葉が浮かび上がり、秋良は“百”の目に入り“百発百中”という言葉が浮かび上がった。
「まぁ、結果がすぐに出るかどうかは判らないから、1週間後にまた集まるって事でいいかしら?」
とのシュラインの言葉に異を唱える者はなく、その日は解散となった。


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 1週間後。
 再びアトラス編集部で待っていたのは頭と腕に包帯、片足にはギプスをして松葉杖をついている三下だった。
 どうやら、先日ダンプカーに轢かれかけたらしい。
「まさに“九死に一生を得る”を体験しちゃったのね」
 シュラインの台詞に麗香は無言で笑みを浮かべてた。
「それで、どうだったのかしら、この前の結果は?」
と麗香は結果報告を促す。
「的中したのは三下君の他は、絢音ちゃんくらいかしら。秋良さんの“百発百中”はすぐに結果が出るって感じではないみたいだし。ちーちゃんは思い出は消えてたみたいだけれど結局思い出しちゃったみたいだから100%当たっていたのかどうかは微妙だし」
 ふぅん、と、麗香は幾分か不満げな口調でシュラインの報告を聞く。
「ただ、ひとつ気になっている結果があるのよね。ねぇ、麗香さん。麗香さんの結果がどうだったのか聞きたいんだけど?」
とシュラインはにっこりと笑顔を浮かべながら麗香の顔を直視した。
「え!? 編集長もやったんですか?」
 驚いた声をあげた三下をひと睨みした麗香は、
「内緒よ」
とシュラインに答えた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

【1883 / セレスティ・カーニンガム / 男 / 725歳 / 財閥総帥・占い師・水霊使い】

【0165 / 月見里・千里 / 女 / 16歳 / 女子高校生】

【3852 / 凡河内・絢音 / 女 / 17歳 / 高校生】

【2981 / 桐嶋・秋良 / 女 / 21歳 / 占い師】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、遠野藍子です。大変お待たせいたしました。過去最高に遅くなりました。申し訳ありません(平伏)
 ものすごく悩んだ結果こんな感じのお話しになりました。1番占いたい事を具体的に書いていただいたプレイングを中心に書いていった結果……です。
 一応、シュラインさん以外は全員1度は回してみると言う事になっていたのでルーレットを実際に試していただいています。すぐに当たった人、まだはっきりと当たっているか判らない方と結果はやはり三者三様です。
 まぁ、占いなんてのは当たるも八卦当たらぬも八卦って言いますからね―――とか言いつつ、実は友達何人かが最近良くあたる占い師さんに占ってもらったらしいのですが、結果を聞くのが恐くて行けないチキンがココに(苦笑)
 それでは、また機会がありましたらよろしくお願いいたします。