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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


▲ファイト1発百鬼夜行▼


------<オープニング>--------------------------------------

■2005/04/×× AM01:37:21
 投稿者:怪奇大好き男子高校生A
 タイトル:存在した!? 魑魅魍魎!
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 はじめまして、こんばんはっ!
 怪奇大好き男子高校生Aです!
 A君とでも呼んでください!
 それはさておき、大スクープです。
 僕はギリギリで東京の山のある地域に住んでるんですが、
 ここでは昔から月の夜になると化け物が出るという噂があります。
 なんだ噂か、と思うかもしれませんが僕は見たことがあるんです!
 しかも日本の妖怪や外国の怪物まで種類は問いません。
 もし良ければ来てください。
 詳細は↓のアドレスへメールを送ってくれれば説明します。
 DanshiA@×××.ne.jp
 なるべく急ぎでお願いしますm(_ _)m
 では、また!

 ゴーストネットOFFの掲示板にそんな書きこみがあったのは3日前のことだった。いつものようにいつもの如く、瀬名・雫はインターネットカフェでパソコンにパスワードを入力し、管理ページへ入った。大人気の投稿コーナーには数え切れない書きこみが並んでいる。
 瞳を輝かせて時間の古いものから順にチェックをしていった。そして半分を終えた頃には肩を落としている。明らかに嘘の情報だと思えるようなのばかりだったのだ。いまや解明されてしまっている都市伝説なども混ざっていて、なんの知識もなければそれなりに楽しめるかもしれないが、雫には物足りないものだった。
 ドキドキでワクワクする情報が欲しい、と願ってマウスを操作する。手が止まった。タイトルからして胡散臭い書きこみだ。しかしなぜか気になってしまった。長年の勘だろうか。わざわざ嘘臭いものを書きこむというのも逆に信憑性を感じさせる。
「本当ですよ、僕が保障します。もしなにも現れなかったらサイトの管理でもなんでもやります。どうですか?」
 後日、話を聞くため適当なレストランで会うと怪奇大好き男子高校生Aはそう言った。頭はボサボサの黒髪で黒縁のメガネをかけていていかにもオタクっぽい青年だ。なぜか自信満々で、終始「来てください、ぜひお友達と来てください」と言っていた。
 果たして信じていいものかどうかと考える。本当の話ならば大スクープどころではない。人気は健在だが、ややマンネリしてきたゴーストネットOFFの目玉コンテンツとして写真を掲載するのもいい。もしかしたらサイトだけではおさまらずに歴史的大発見として世界のニュースにもなるかもしれない。あっという間に有名人だ。
 想像を繰り広げると夢が広がる。
「絶対に行くよ☆」
 気がつくとそう応えていた。
 青年は嬉しそうに笑う。
「本当ですか! それじゃあ、強い友達をつれてきてくださいね、万が一に襲われたら大変ですから」
「はいよ〜、了解っ♪ 強い人なら一杯知ってるよ☆」
 二つ返事で了承し、今度の日曜日に東京の隅の方へ行くことになったのだった。

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★夜崎・刀真Side
 一定のテンポでシートが揺れ、耳朶に響く。窓外には民家より畑が目立った。最寄りの駅から1時間、同じ東京だとは思えないぐらい田舎っぽさが濃くなってきている。緑がない地球が大変だ、という環境破壊に対する訴えも説得力がない。自然はあるところにはあるらしい。浅く腰かけ、全体重を乗せんばかりに背もたれへ寄りかかった夜崎・刀真はそんなことをボーッと考えていた。
「なんだって偶の休みにこんなことしてんだ、俺は」
 呟きは電車の騒音に掻き消されて誰も聞いていない。そもそも誰にも話しかけていない。今日はバイト先のシフトが埋まっていてゆっくりできると思ったら人里離れた村へ向けて連行されているのだからぼやきたくもなる。
 乗りこんだ車両には数人しかいなかった。好き好んで都会の中心部を離れる者はいないということだろう。隣には無理矢理に自分をここまで引っ張ってきた龍神・瑠宇が足をブラブラとさせて座っている。楽しげだ。対面には依頼主兼案内役のA、仲介役の瀬名・雫、そして仁科・星花という少女。他に小型モニターが1台あった。無表情なササキビ・クミノが映っている。彼女には障壁という制御不能な能力があり、一般人への配慮だという。不便な者もいたものだ。
「夜崎さんは魑魅魍魎といえばどんなのを思い浮かべます?」
 黒縁メガネを光らせたAが問いかけてくる。益になりそうもないことに日常なら無視をするところだがひたすら電車に揺られているよりはマシだ。そうだな、と考える。
「人に害なす妖怪、特に僵屍など中国方面の者だな」
「ああ、昔流行ったやつですね。もしかしたらいるかもしれません。なんせ種々様々いましたからね」
 青年はニヤニヤと笑ってメモを取りだした。オタクという人種を一般論で判断してはならない。例え意味のない行動であっても彼にしては重要なのだ。きっとおそらくたぶん。深く関わって同類と思われてはかなわない。そんな情報を敢えてなにに使うのか訊かないでおくことにした。
 しかし今回の事件は気にかかる点がある。和・洋・中の怪物が揃って夜を横行するなど到底あり得ぬ現象だ。食文化とはわけが違う。なにかが作用しているとしか思えなかった。面倒事はごめんだ。明日は朝にシフトが入っている、あまり体力を損なうことはしたくない。護衛役も他にいるのは好都合だった。適当に済ませて適当に帰ろう。
 瑠宇が、ねぇねぇ、と服の裾を引っ張った。
「トーマ、お菓子食べようよ〜」
「もう食べるのか? まぁ構わないが、あとで食べたくなってもせがむなよ」
「ダイジョーブだも〜ん、カイジューさんの分も残しとくも〜ん」
 はいはい、と相づちして衣服に忍ばせた布の包みを出した。こういう時、暗器使いという特技があるのは生きる上で有利だと思う。こんもりといびつに膨らんだ包みを渡した。嬉しそうに受け取る彼女は現場に怪獣がいると信じて疑わない。そんなものが存在していたら世の摂理に反するだろう。言っても聞いてくれないのが彼女だ。
「わぁ、美味しそうだよ〜。はい、トーマにもおすそわけ〜」
 包みのヒモを解き、中身を何枚か摘んでいる。普通のもの、チョコチップのもの、一口サイズのものなどがあるクッキーだ。裾分けもなにも自分で作ったものだった。細かいツッコミを入れても無駄だと分かっているので黙って貰う。
「星花も食べる〜?」
「え、いいんですか? 実はいい匂いがするなぁって思ってたんです」
「どーぞどーぞ、えんりょなく〜♪」
 渡す、というより、こぼす、という表現が近い感じにクッキーを与えている。続けてAや雫にもこぼした。物をあげる行為に夢中になっているのはいいが、自分の分がないとわめきだすのではないかと内心気が気でない。
「クミノも食べる〜?」
「いりません、甘い物は苦手ですから」
「そっかぁ、美味しいのにざんね〜ん。じゃあ瑠宇が食べよーっと」
 モニター越しのクミノは瑠宇がクッキーを口へ放りこむ姿を目にして眉根を少し寄せた。余程嫌いと見える。どちらにしてもこの状態では渡すに渡せない。欲しい、と言ったら瑠宇はどうするもりだったのだろうか。想像し、やめる。窓を抜け出て届ける図が容易に浮かんでしまったのだ。
 クッキーを頬張り満足を表情に出した瑠宇を横目に刀真もクッキーをかじってみる。ほんのりとした甘みが口内に広がって溶けていった。


★龍神・瑠宇Side
 バリボリボリバリ。
 鷲掴んでは口一杯に含んでアゴを元気に動かす。ほのかな香ばしさと歯応えが天国へ昇る気分にさせてくれた。文字通り、幸せを噛み締める瑠宇の顔は自然にほころぶ。今日は刀真だけではなくみんなもいてピクニックに来ているかのようだった。美味しさと楽しさが融合して幸せとなる。
「じゃあ龍神さんは魑魅魍魎ってどんなイメージがあります?」
「カイジュー! 瑠宇ね、カイジューさんにクッキーあげるんだ、いいでしょ〜♪」
 カイジュー、という応えは意外だったのか、質問をしたAが僅かにたじろいだ。いたかなー、と苦笑いをする。いるのだ。誰がなんと言おうといる。いるものはいる。大きくて強くて火を吐く怪獣を想像して更に頬が緩んだ。
「着いたらトーマに手伝ってもらってカイジューさん探すんだよ♪ おっきーからいたらすぐ見つかるよね。仲良くなれるといーなー♪」
「いるといいですね、怪獣さん」
 星花の微笑みに、うん、と笑い返して肯く。手足がウズウズした。早く怪獣と会いたい遊びたい欲求が体を跳ねさせる。会ったらクッキーをあげて、それからなにをしよう。そーだ、と思いつく。背中に乗って散歩をするのがいい。山の大木を薙ぎ倒し踏み倒し火を噴いて悪い怪獣を倒すのだ。
「まだかなまだかな〜♪」
「おとなしくしとけ。電車で暴れる奴は怪獣に会えないぞ」
 刀真に注意され、はーい、と返事する。
「窓の外は見ててもいいよね?」
 彼が承諾するのを確認してシートへ膝立ちになる。畑と山に囲まれた景色が横へ流れていた。テレビで見たことがある、こういう場所に怪獣はいる。あの山と山の間、いまにも怪獣が顔を出しそうだ。
 半分がなくなってもまだ結構な量の残ったクッキーの包みをしっかりと持って瑠宇は呟く。
「もうすぐだから待っててね〜♪」


★仁科・星花Side
「美味しいです! これ、本当に夜崎さんが作ったんですか?」
「大したもんじゃない、誰でもできる」
「私も料理が趣味なんですけど、こんな美味しく作れないです。良ければ今度教えてください」
「機会があったらな」
 無愛想な刀真に、はい、と返事をして手元のクッキーをまじまじと見つめる。チェス盤を思わせる形状のそれを半ばまでかじって食べた。甘い風味が喉を通っていく。初めの印象は不機嫌そうで恐い感じがしたのに意外だった。こんなに美味しい物を作れる人に悪い人はいない。
 それにしてもどうすれば上手く作れるのだろう。焼き加減か、隠し味があるのか、はたまたバターをこねる段階に秘密があるのか。クッキーの作り方を頭でシミュレーションさせる。俗に言うイメトレだ。バターをこうやって、とあたかもそこにボールや泡立て器があるかのように手を動かす。
「仁科さんは魑魅魍魎ってどんなだと思います?」
「へ? あ、はい、えっとそうですね」
 突如Aに問われ、ハッと我に返ってあたふたとしてしまう。恥ずかしいところを見られて頬が熱くなっていった。ここは野宿をしている場所ではないのだ。意識を電車内へ戻して考える。
「私は、いかにも怨霊〜って感じの鎧武者を連想しますね」
「鎧武者、いいッスねぇ。刀で襲ってくるんですよね」
 Aは不気味な笑みをしてメモにペンを走らせた。なにがいいのだろう。首を傾げ、訊いてみようとも思ったが、彼はブツブツと独り言をして忙しそうだったのでやめた。
 本当に魑魅魍魎は出現するのだろうか。ただの妄想に付き合わされているのならばそれはそれで事なきを得るのでいいとは思う。周辺に原因を作っている者がいたら迷惑をかけないようにしてもらう。なにはともあれ行ってみなくては分からないことが多すぎた。
 半分に欠けたクッキーを口に入れ、星花は窓の外へ視線をやった。


★ササキビ・クミノSide
 う、と吐き気がして思わずモニターから目を背ける。みんな一様にクッキーを食していて胸の辺りがムカムカとしてきた。甘い物のどこが美味しいのだろう。口にしつこく甘ったるさが残るし、ダルダルとした味は気分まで滅入らせる。食べる者の気が知れなかった。好き嫌いとはそういうものだ。
「ササキビさんはどうです? 魑魅魍魎のイメージ」
 Aがモニター越しに話しかけてくる。一応は依頼主で年上だ、応えないでおくわけにもいかない。しぶしぶとモニターを見て、表情が強張る。あろうことかクッキーを食べながらAは応答を待ち受けていた。
「石燕やヴィー、パッと思い浮かぶのはそういう――」
 我慢の限界が来て言葉も途中に首を横へ向けた。依頼主だからといってなにをしてもいいという権利はないはずだ、横暴だ。クッキー消滅後に訴えてやろうと思った。
「石燕とヴィー?」
 視界の端にいるAは黒目を左上へ向けて考えこんでいる。説明が足りなかったのかもしれない。どうでもいい。イメージなど話しても話さなくても同じだ。自分にとっての危機が去ってくれるのをひたすらに願った。
「ところで、なんでササキビさんは外にいるんですか?」
 彼の言う通り、クミノは電車の屋根に片膝をついてしゃがんでいた。理由は簡単だ。
「死にたければ私もそっちに行きますけど」
「えっ!?」
 ようやくクッキーを食べ終わったらしい彼へ振り返る。Aはひどく驚いたようで顔を青ざめさせた。殺しに来る、とでも思ったのだろうか。そういえば彼には障壁について話していなかった気がする。今回の配慮は雫や他の同行者のためだ、敵戦力を知る前に体力などを削ってしまっては自分のマイナスにもなる。
 というより、A自身が信用するに値しない。外見を基準にするのは誤りになりかねないと分かってはいるがあまりにも危険な薫りがする。しかし雫の意志を止められるはずもない。彼と居合わせた場所にモニターででもいいから同席していれば状況は変わっていただろう。こうなってはどうしようもなかった。
 クミノは立ち上がって遠くを見る。風に流された長い黒髪を手で押さえた。駅というには寂しい作りの目的地が見える。到着までにかかる時間は10分もなさそうだ。山に覆う空は夕暮れに滲み始めていた。


★夜崎・刀真Side
 Aの家は思っていたよりも大きかった。特別に金持ちなのではなく、周りの家も同じ感じだ。土地が安いのだろう。大袈裟な門をくぐって一行はA家に入った。
「ササキビはどうしたんだ?」
「聞きこみしてくるって言ってたよー」
 雫が家の中を眺めて応える。確かに全員で家に留まっている必要もない。そうか、と言ってAに続いて階段を上がった。木造りで一足ごとに小気味良い軋みが鳴る。足裏へのレスポンスを優しく感じた。
 上がった先には狭い廊下があり、襖が並んでいた。その1つを引いてAが開ける。自分の部屋なのだろう、招き入れられた。畳の独特な匂いが香っている。まるで旅館に来たような感じがした。改めてなんでここに来ているのか考えさせられる。
 第一に和・洋・中を問わない資料の山が場違いな気にさせた。部屋には本棚と机があってあとは書籍などが並べられていたり積み上げられたりしている。
「これに僵屍載ってますよ」
 頼んでもいないのにAが手渡してきたのは世界怪奇伝説図鑑だった。興味はない。それよりAの指が目に入った。人差し指に絆創膏を巻いていたのだ。視線に気づいたらしい彼は、あ、と言って苦笑した。
「実はささくれだった木に引っかけたんですよ」
 これもまた勝手なことを教えてくる。そうか、としか言えなかった。魑魅魍魎が出るという時間まで不毛なやりとりをしなければいけないのかと思うと気怠さに制される。他のメンバーはなにをやっているのかと見渡せばそれぞれ本をあさって珍しそうにしていた。
「トーマこれ見て、カイジュー」
「そうだな、怪獣だな」
 瑠宇がどこかから見つけてきた図鑑を広げている。嘆息して適当に応えてやると嬉しそうにAのところへ持っていった。
「こーゆーのいるー?」
 いるわけがない。だから当然、Aの応えも決まっている。
「あ、これならいたよ、うん、いたと思う」
 おい、と心の中で思った。彼もまた適当に合わせているのだろうか。じゃーこれはー、とページをめくる少女へ親切丁寧に解説している。人は見かけに寄らない、子供をあやす才能に長けているようだ。彼女は任せて部屋を出ることにした。仕事熱心というわけではなく、ただ単に間がもたない。
「どこか行くんですか?」
「ああ、ちょっと周辺の事情を調べてくる」
「じゃあ、私も行きます」
 星花が本を閉じて綺麗に棚へ戻すとついてきた。その後ろを感づいたらしい瑠宇がしっかりついてくる。怪獣話に区切りをつけても図鑑を手放しはしないようだ、我が物のように小脇に抱えていた。帰りに買ってくれって言うんじゃないだろうな、と心配しつつA家を脱出する。
 家の裏側は山になっていて高い木が生い茂っていた。聞いた話ではAが人外の者を目撃したのはこの裏山だ。なにか手掛かりがあるかもしれない。星花がついてきているので形だけでも探索のフリをしていよう。折れた枝や落ちた葉のある地面を踏み締めて登っていく。
 霊気の残滓は感じられなかった。多くの妖怪などが通っていれば少しぐらいは察知できてもいいはずだが米粒ほども痕跡がない。デマの可能性が高まっていく。
「夜崎さん、あそこになにかありますよ」
「なんだ、あれ」
「おうちだよ〜♪ 早く行こ〜!」
 瑠宇が言うように木々の間から建物が見える。家というよりは小屋に近かった。浮遊して真っ先に向かう瑠宇を追う。
 木造の壁と屋根で構成され、窓は1つもない小屋だった。ドアに鍵はついていない、ノブがあっさりと回った。中は湿気っぽくてホコリの匂いが充満している。特になにもなかった。あるのは2・3積み重ねられたダンボールのみだ。物置に使っているのだろう、勝手に覗かない方が良さそうだった。
「別の場所を見てみるか」


★ササキビ・クミノSide
 村、といっても言葉の響きよりは広大だった。大部分は畑で占められているが、民家の数もそれなりに多い。Aが魑魅魍魎を見たという地点を中心に探ることにした。もし物の怪が存在するのならば近所の人間も見ているはずだ。まずは情報の真偽を確かめなくてはならない。
 ガラスの張られた戸をノックすると間もなくして老いた男が腰を曲げて出てきた。
「ここら辺で化け物を見ませんでしたか? または噂を聞いてませんか?」
「化け物〜? お嬢ちゃん、年寄りをからかうもんじゃねぇよ。そんなもんがいたら腰抜かしちまわぁ」
 質問の形式を変えても同じ、知らない、と言われた。障壁の影響も考えて早々に家を離れる。やはり魑魅魍魎というのはAの虚言かもしれない。周りに趣味を理解してくれる者がいなくて注目されたいがために辺境の地まで呼び寄せた、と考えれば納得がいく。引っかかるのはあの自信に満ちた態度だ。
 念のためもう何軒か回ってみることにした。
 知らない、なにかの勧誘かい、アンタどこから来なすった、嬢ちゃんアメいらんかね、知らない、あらヤダ化け物なんていたらこの村も栄えるわよ、うちの大根は日本一だ、知らない、知らない、知らない――。
 どの家を尋ねても応答は変わらない。99.999パーセントはAの嘘と決めた方が良さそうだ。あの自信がなければ100パーセントになっている。
 夕暮れも終わりへと近づいていた。電灯が光って舗装されていない地面を照らす。夕闇に家の明かりがあちこちでぼんやりと灯りだした。近くの家から味噌汁の塩辛さが匂ってくる。最後にあの1軒だけ尋ねてみよう、と歩を進めた。
 出てきたのは妖怪――ではない。シワが深く多い老婆だ。簡単に事情を説明して質問を投げかける。
「あぁ? なぁんだって〜? あたしゃ加藤さんじゃねぇでよ」
 どうやら耳が遠いようだ。再びなるべく大きい声で明確に簡潔に問う。言いながら、あまり期待はできなさそうだ、と思っていた。あとは早々に切り上げてAを問い詰めるしかない。
 しかし老婆は、それなら知ってるよ、とあっさり言った。踵を返そうとしていた足を元に戻して再三問うと彼女は何度も肯いた。
「本当だ、あたしゃこの目で見たんさ。なんといったか、ほら、そう、のっぺら坊やぬりかべだ。それが山を歩いとったんじゃ」
「お母さん、またその話をしてるの? 漫画じゃあるまいしいるわけないでしょ。――ホントどーもすみませんねぇ」
 奥から出てきた家主の妻らしきエプロンの女が苦笑いをしている。頭を指差して、ボケが始まっている、ということを示唆した。
 民家をあとにしてクミノは考えていた。ボケているだけなのか、それとも本当に目撃したのか。Aの嘘だという確率がやや下がっていく。耳が遠いのは事実でも口振りはハッキリとしていた。あとはなにが起こるかだ。
 クミノは暗くなった道で警戒を強めていった。


★仁科・星花Side
 なんの虫だろう、星花は儚げに鳴く音色へ耳を傾けて思った。秋ではないので鈴虫とは違うだろう。綺麗な響きであることを感想にして山を巡回する。後ろにはデジカメを手にした雫がいた。月明かりと懐中電灯の光だけが頼りの道で周囲を観察している。
 他のメンバーはそれぞれ違う場所を担当していた。今回のことはどう考えてもおかしい。雫の警護も兼ねて原因の究明もすることにしたのだ。なにかを感知したらすぐに連絡できるようにしている。戻ってきたクミノに通信機器を渡されていた。もっとも彼女は数分と留まらないでどこかへ行ってしまった。
 静かだ。
 2人分の足音と踏みつけた小枝の折れる音、それと衣服へたまにこすれる枝葉のざわめき。空を仰げば見事な月、それも満月だ。雲の支配を免れた星がきらめいて自己主張をしている。都会のど真ん中ではまず視覚できない光景だ。
「!?」
 脇の方にある草木が部分的に揺れた。風ではない、触れてもいない。1度ではなく、2度3度と強く震える。咄嗟に光を当てて唇をつぐんだ。数歩分の距離をとって正体を待つ。雫もさすがに緊張しているようで凝視していた。どんな者が現れるのだろう。全身の筋肉が緊張する。
 一際大きく枝がしなった。影が跳び出る。自分か雫か両方か、きゃっ、という声が漏れた。互いの体がいつの間にかくっついている。赤い瞳が光った。
 強張りを先に解いたのは雫だ。
「あれれ? もしや、これって」
「ウサギさん?」
 ピョン、と跳ねた。灰色の毛をまとったウサギだ。口元をモニョモニョと動かしてこちらを見ている。雫が、可愛い〜、と言って微笑んだ。心から安堵して息を吐く。いくらなんでもそう簡単には出現しないだろう。可愛らしいウサギを恐がっていたかと思うと笑えてきた。アハハハと笑い合う。
「え?」
 笑い声を中断した。再び茂みが揺れ動いたのだ。今度もウサギか、もしくはキツネか猫か犬か、それとも――。雫と顔を見合わせて、まさかね、という表情をする。
 月光を反射した輝きが一閃した。斜めに振り下りた線に沿って枝ごと落下する。赤い瞳。ウサギのものとは似ても似つかない邪悪な蠢きを伴った双眸だ。暗い顔――正しくは「無」の中で2つの眼が煌々と見据えてくる。
 鎧武者だ。
「すごい、本当に出たよ〜!」
 カメラのフラッシュが瞬く。そんなことをしている場合ではないと星花は肌で感じていた。武者が歩んだのと同時に雫の手を掴んで山を駆け下りる。鋭く風を切る音が後方で起こった。
 追ってきている。鎧のパーツ同士がぶつかる響きを耳にしながら通信機器を口へ持っていく。
「仁科です! 出ました、鎧兜の武者に追われてます! とにかく体勢を整えられる場所まで逃げようと思います、以上!」
 通信機器を通じて誰かがなにかを言っている。聞いている余裕はなかった。少しずつ双方の間が短くなっている。このままでは山を下りる前に追いつかれてしまうだろう。星花は急ブレーキをかけて雫と一緒に茂みへ身を投じた。腰を屈め、裏をかいて登っていく。
 しゃがみ、できるだけ息を殺した。見つからないのを祈る。やり過ごして山を下りるのが無難だ、雫をいつまで庇えるかも分からない。鼓動がうるさかった。相手に聞こえてしまいそうだ。
 足音がする。鎧の重々しい響き。こちらの姿を探している。下りずに登っているのを感づいたのだろうか。来ないで、と手を合わせて願った。
 止まる。ちょうど2人の目の前だ。茂みを見上げる。重なる葉の本当に小さな隙間からあの眼が見下ろしていた。雫を抱くようにして横へ跳ぶ。足元の土が穿たれた。冷ややかな刀が地面に突き刺さっている。
 即座に立って雫を背で庇った。逃げてばかりではダメだ。反抗しないで殺されるより、立ち向かって殺される方がいい。やすやすと殺されるつもりもない。
 刀が振り上がる。見よう見まねのできる自分の能力で太刀筋は見切っていた。下手に避けるより間合いを詰めるのが正解だ。ゼロ距離まで接近する。肩で柄を受けた。腰の入らない打撃と同じだ、ダメージはほとんどない。
 腰で拳を構える。拳銃でいうトリガーを引いた。体の捻りを限界のところへ持っていき、瞬間的に発射させる。
 鈍い感触が腕を伝った。クリティカルヒットだ。敵へ衝撃を与えて転倒させる。
 静寂が返ってきた。
 振り返り、雫のもとまで行く。
「行きましょう、ここは危ないです」
 しかし雫は目を見開いて立ち尽くしていた。手がゆっくりと上げられる。立てられた人差し指が一方を指していた。背筋を冷たい気配が撫でる。
 全く意に介していない動作で鎧武者が立ち上がった。鎧の上からではあまり効果がなかったようだ。逃げよう、逃げて援護をしてもらおう。
 雫の手を取った。だが彼女は動かない。
「あ」
 ウサギが敵との間に着地した。なにも知らないで鼻を動かしている。マズイのは鎧武者がそれに気づいたことだ。刀を照準している。非情かもしれないが、逃げるチャンスだった。雫の手を引く。
「瀬名さん、早く行きましょう」
「でも、でも可哀想だよ」
「それより自分の命を大事にしてください。瀬名さんが死んだら沢山の人が悲しみますよ」
 引きずるようにして雫を歩かせて先を行かせる。
 後ろを見れば高々と刀が持ち上がるところだった。危険を察知したらしいウサギが跳ねる。移動したのは微々たる距離だ。刀を握った手が容赦なく下りた。心臓が痛いぐらい大きく鼓動を打つ。
 ウサギだって同じだ。
 地を背後へ蹴りつけて跳ぶ。星花の瞳が茶から赤へと色を変えていた。飛躍的に上がった身体能力が鎧武者との間を一瞬にして埋める。片手で刃を受ける。皮膚には到達していない。中間に光のコーティングを生んでいた。足元をウサギが逃げていく。
 視界の端で見届け、空いた手を突き出した。手刀を覆う刃状の光が鎧を貫通して背に抜ける。武者は声も音もなく停止した。ゆっくりと腕を引き抜く。
 刀が落ちた。次に鎧と兜が地面に転がる。中身はない、攻撃と同時に消滅したのだろう。やがて武具すらも消えてなくなった。
 雫がへたりこんでいる。星花もそれにならって腰をつき、微笑んだのだった。


★龍神・瑠宇Side
「だからな、そんなものがいるわけないだろ」
「Aはいるって言ってたもん」
「断じて一言も言ってなかったが」
 刀真が苦笑混じりの溜め息をついた。
 瑠宇は信じていた。怪獣は絶対にいる。決して自分の願望や妄想ではない、根拠がある。家を出る際にAが耳打ちをしてきたのだ。怪獣絶対いるよ、とそう言っていた。だから刀真が知らないのも仕方がない。ふふん、と高い位置から笑んでみせる。
 怪訝そうな表情をする彼は止まって茂みの方を懐中電灯で照らした。
「それより仁科の方でなにかあったらしい。結構切羽詰まってたからな、急いだ方が良さそうだ」
 枝を掻き分けて歩んでいく。つい数分前まではあくびをしていた彼だが、星花の危機込めた声で事態の変化を感じ取ったようだ。先に立って道なき道を進んでいる。
 瑠宇も周りを窺って怪獣の姿を探した。左――山の上の方へ視線を移動する。再度、前方へ向けかけたところでなにかの影を捉えた。止まるこちらに気づいた刀真が遅れて戻ってくる。
「どうした?」
「分かんない。小さいからカイジューさんじゃなさそーだけど」
 影は上下しながら徐々に近づいてきているようだった。人のようであって人でない。普通に歩いていて影があのように動くはずがなかった。その姿が月に照らされる。
「おいおい、勘弁してくれ。無駄な労力は使いたくないんだがな」
 瞬時に衣服から青龍刀が飛び出た。刀真は柄を握り締めて相手を見据える。
 両腕を前にし、脚を揃えて跳ねる影は中国方面の服を着ていた。帽子までかぶっている。表情はなく、無言でこちらへ向かってきた。
 途端、強く飛び跳ねる。宙を舞う相手が月と重なった。眩しさに目を薄める。
 衝撃が横からやってきた。刀真だ。彼に抱えられて跳んでいる。着地した敵の爪がさっきまで背後にあった木を抉るのが見えた。一般人には不可能な所業だ。
「なんの冗談だ、これは」
「知ってる人?」
「僵屍だ、お前も少しは知ってるだろ」
 きょんしー、という響きが中国にいた当時の記憶を甦らせる。未練や恨みなどの想いが放置された死者を悪霊として復活させた者だ。古くは道士が大量の死体を遠く離れた故郷へ効率的に運ぶための手段として用いられていたとも言われている。
 目の前の僵屍に行動を制御するための札は貼られていなかった。彼にあるのは凶暴さのみだ。死後硬直した直立の姿勢で跳びかかってくる。
 刀真が武器で受け止めた。敵は鋭く頑丈な爪で押している。力が拮抗して互いの得物が震えた。斬りつけるようにして刀真は跳び退く。地に足がついた瞬間には青龍刀を掲げて肉薄していた。爪が刃を弾く。
 刀を片手に持ち替えた。服の袖から小型の武器が射出される。クナイが連続して僵屍の腹部に突き刺さった。彼の体は振動に揺れる。刃先が深々と腐肉に吸いこまれた。
「なっ!?」
 刀真が横薙ぎの腕に払い飛ばされる。軽々と体が浮き、大木に当たって落ちた。やはり屍相手に普通の攻撃は効果がないようだ。幸い刀真は自分から後ろへ跳んでいてダメージを軽減している。面倒臭そうに立ち上がり、武器を構え直した。
「くそ、僵屍なんてまともに扱ったことないぞ、俺」
「トーマ、瑠宇手伝う〜?」
 霊的合一をすれば自らの霊力を彼に貸し与えることができる。問いかけに刀真は応えなかった。視線を僵屍へ――否、その後ろへ向けて目をこすっている。彼にしては珍しい驚きの表情をしていた。瑠宇も視線の先を追って顔を向ける。
 自然に笑みがこぼれる。視界が電気を灯したように明るく輝いた。


★ササキビ・クミノSide
 枝に立ち、周囲の動きを監視している。上空20メートルの位置でクミノは光学迷彩により不可視化していた。障気を利用してメンバーのだいたいの場所は分かっている。
 どうやら老婆の言っていたことは真実だったようだ。地上で情報が混乱していた。各地で戦闘が起こっているらしい。噂の魑魅魍魎に違いなかった。状況が悪化しないうちに駆けつけた方が良さそうだ。
 Aの気配がした。彼は単独行動ではなく家に待機させている、山にいるのはおかしい。障気を集中させてクミノは視点をそちらへ持っていった。
 小屋が見える。その外で青年はニヤニヤと笑っていた。手におさまるなにかを持っているようだ。それを見ては楽しげな表情をする。ただでさえ怪しいのにあれでは変質者も同然だ。
「ササキビです。依頼主が中腹にある小屋で不審な動きをしています」
 Aへの回線は切って通信機器へ話しかける。
 雑音が入って応答があった。
『それどころじゃない、どうなってんだこれは』
 刀真の声はそれっきり途切れる。訊いても無駄に終わった。
 状況がいま一つ掴めなかった。いったいなにが起こっているのだろう。
 自分の目で確かめた方が早そうだ。枝に掴まって高い木を下りていく。
 着地。
 すぐ様に跳んだ。岩ほどもありそうな巨大な拳が地面へめりこむ。立ちはだかっているのは大男だった。大きな頭部にボルトを挿しこんでいる。額には手術あとのような縫った痕跡があった。巨躯が打ち震えて低い雄叫びをする。
 フランケンシュタイン、それが俗称だった。本来は彼を造った科学者の名だ。実物するはずがない者だった。なぜならば彼は小説に登場する空想の人造人間に過ぎない。しかし現実にここで存在している。
 混乱の意が読めた。このような化け物が出現すればどんなに身体能力に長けていても戸惑う。
 クミノは体勢を低くして駆けた。まともに付き合っていられない。
 豪腕が放たれた。斜め前へ動いて躱し、滑走。敵の膝に跳び乗る。勢いよく蹴り、顎を爪先で跳ね上げた。更に胸元を踏み台にして高く跳び上がる。
 よろめくフランケンシュタインに空中で手の平を向けた。障気を1点集中させていく。銀に輝く空間が目標に到達した。力を込める。
 爆。
 周辺の木々もろとも爆発が起こり、地面に小さなクレーターを形作る。フランケンシュタインの肉片が飛散した。頭がコロコロと転がって木に当たる。そして、どういうことか彼の姿は血液1雫も残らず掻き消えた。もちろん肉の断片もない。
 騒ぎが聞こえる。クミノは感慨のない表情でそちらへ視点を移動させていった。


★夜崎・刀真Side
 目を疑う、それしかなかった。バイトへ差し支えることを懸念して出し渋っていた力を放出させて一気に決着をつけてやろうかと思っていたその場にファンタジーが現れた。僵屍の後ろ、草むらを踏みつけて重量感ある濃緑色の図体を進行させている。
「カイジューさん、みーけっ!」
 瑠宇が飛びついて首に腕を絡める。怪獣、と言うには大分小振りだった。体長はせいぜい大人の背ぐらいだ。ただし形状はそのもので、鼻の頭に角が生えている。アンギャー、と吼えた。
「行っけぇ〜! 悪い僵屍を倒せ〜!」
 ちゃっかり背中に乗った瑠宇が敵を指差す。驚いたことに怪獣は彼女に従って歩を進めだした。
 僵屍の方もやる気で食ってかかる。2つの体がぶつかり合った。牙の生えた口が僵屍の肩に食らいつく。お返しとばかりに怪獣も噛みつかれて悲痛な声を発した。
 たまらずといったように弾き飛ばす。僵屍の方は軽く跳び退ってあまり被害はないようだ。怪獣は一吼えすると1歩2歩と進んで大きな口を開けた。
 火が喉奥を出て噴きつける。ちょっとした火炎放射器だ。弱点の炎に僵屍は小刻みに跳ねて悶える。しかし、いかんせん火力が弱い。僵屍が捨て身で跳びかかって突進する。
「カイジューさん!」
 爪が喉に刺さった。体を左右に振って怪獣は苦しむ。瑠宇も振り落とされそうになり、空中に浮遊した。やや怒った顔をしている。なにを思ったか彼女は僵屍の背後に回って腰を掴んだ。
「カイジューさん、イジメちゃダメ〜!」
 小柄な体からは想像もつかない膂力で彼を持ち上げる。バーベルを上げるが如く頭上へやった。風を巻き起こすほどの勢いで投げつける。僵屍は樹木に胴体をぶつけて鈍い響きを立てた。おそらく複雑骨折をしただろう。
 怪獣はお前だろ、と笑って刀真は落下した僵屍を見下ろす。青龍刀を振り上げ、下ろした。
 衣服ごと消失する。怪獣の方は瑠宇が早速クッキーをあげていた。
「念のため調べておくか」
 怪異現象でないのはだいたい想像がつく。刀真は改めて刀を構えて僵屍の消えたあたりに当てた。絶儀の発動。物理法則外の力が発動する際に生じる歪みを感知する。腕を伝って脳へ送られてくる感触はやはり怪異現象とは違うものだ。妖怪どころか怪獣まで出現するのは妙としか言いようがない。
「だとすると、残るは――」
 クミノの言っていたことを思い出す。小屋のあった方角へ視線を向けた。


★仁科・星花Side
 油断は禁物だ、雫を1人にはできない。情報を聞いて下りかけていた山を登っている。その小屋を見つけるのは簡単だった。日の出ているうちに刀真や瑠宇と共に1度来ているからだ。
 辿り着いたのは小屋の横側だった。人の気配がする。ドアのある正面の方をソッと覗き見てみた。Aがいる、手元のなにかを見て溜め息をついている。
「あー、またやられた。もっと強い奴が良かったかな。次はヤマタノオロチでも出してみようか、でもあの怪獣と大して変わらなさそうだしなぁ。情報の不足イコール発生した奴の力ってのが結構難しい」
 なにしてるんですか、と声をかける。彼は至極驚いた様子で目を丸くした。慌てて持っていた物を背中へ隠す。星花にはしっかりと見えていた。いびつな形状の小さな鏡だ。
「なんでここが?」
『私が監視をしていました』
 星花の通信機器を経由してクミノの声が出た。近くに来ているようだ。Aは辺りを忙しなく見回した。彼女を見つけるのは不可能だろう。代わりに暗闇を刀真が歩いてきた。後ろには小型の怪獣らしき生物に乗った瑠宇がいる。これでメンバー全員が揃った。
 星花が詰め寄る。
「さぁ、どういうことなのか説明してください」
「してもらおうか、こっちは休み潰してきてるんだからな」
『ことと場合によっては24時間を障壁内で過ごしてもらいます』
 逃げ場はない。
 腰を下ろすAが力の抜けた観念の表情をして鏡を見せた。
「これ、『化け鏡』っていうんですよ。月の夜、特に満月の日に自分の血を垂らすと想像した生物を実体化させることができる。見ての通り、妖怪、怨霊、怪獣なんでもあり。とはいっても、想像する情報量が少なかったり、具体的に姿形を思い描けないと使えないんですけどね。だからササキビさんに聞いたものはいまいち想像できなくて出現させられなかったんです」
 絆創膏を巻いた指は鏡へ血液を与えるための傷だったらしい。
「でもなんで私達と対面させたんですか? 死ぬかと思ったんですよ?」
「闘わせてみたかったんですよ。ゲームと同じ、対戦です」
 青年は口の片端をニヤリと吊り上げて笑った。自己中心的な話だ。
 空の明かりが消えた。月が雲に隠れたようだ。少女の、ひゃっ、という声がする。瑠宇が尻餅をついていた。先程までいた怪獣が消えている。彼女はキョロキョロと探し、いなくなったと分かるとしょんぼりと肩を落とした。地面にクッキーが散らばっている。それを哀しげな目をして瑠宇は拾い集めていった。
「おっと、タイムオーバーだ。皆さん、ご協力ありがとうございました。なかなか楽しめましたよ。後日、ささやかなお礼として依頼料金を払わせてもらいますね、お疲れ様でした」
 お辞儀をするA。
 納得がいかなかった。
 星花は青年の傍へつかつかと歩いていき、睨みつける。彼が、なんですか、という困った顔で後退った。
 手を振り上げてやる。目を瞑った隙にAの持っていた鏡を奪い取った。え、と困惑している。
「これ、龍神さんにあげてもいいですよね」
「え、いや、いいですけど」
 随分とあっさりしていた。怪しい。道具としては価値のある物だろう。そんな物をそう簡単に手放すようには思えない。
 Aがチラッと小屋へ視線をやるのを見逃さなかった。頭の中で合致する。慌てる青年をどけてドアを開け、小屋の中にあるダンボールを見た。中には予想していた物がいくつも入っていた。化け鏡だらけだ。
「なんでこんなに?」
「先祖が専門の職人だったらしいんです。たまたま蔵で見つけて、それで――」
「全部没収します」
「えぇ!?」
 すがるように腕を伸ばす彼の肩を小さな手が叩く。振り返った場には雫がいた。彼女はイタズラっ子のような含みのある微笑をしたのだった。


★瀬名・雫Side
「没収した化け鏡は調査員全員に配布された、と。よし、これで更新完了〜♪」
 画面の切り替わるゴーストネットOFFを目にして大きく背伸びする。体の筋がリラックスされて気持ちがいい。あとは飲み物があれば最高だ。
 パンパンと手を叩く。
「Aくーん、ジュース持ってきて〜☆」
「あ、はい、ただちに!」
 Aがインターネットカフェを駆け回る。あのあとお仕置きとして彼には働いてもらっていた。気が済んだら化け鏡を1つ返すという約束になっている。パソコンの横に置いたそれを雫は眺めた。形以外は普通の鏡として使える人騒がせな物だ。
 本物の化け物を激写することはできなかったが、それなりに収穫はあったと言える。
 トレーにコップを載せた彼を見た。しばらくは怪奇現象関係の調査にも力を注げそうだ。
「よーし、どんどんいくよ〜♪」
 張り切る雫はパソコンへ向き直り、マウスを操作した。


<了>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【4425/夜崎・刀真(やざき・とうま)/男性/180歳/尸解仙(フリーター?)】

【4431/龍神・瑠宇(りゅうじん・るう)/女性/320歳/守護龍(居候?)】

【5020/仁科・星花(にしな・せいか)/女性/16歳/高校生兼巫女】

【1166/ササキビ・クミノ(ささきび・くみの)/女性/13歳/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。】


<※発注順>

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■         ライター通信          ■
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「ファイト1発百鬼夜行」へのご参加、ありがとうございます!

一番初めに魑魅魍魎へ遭遇していただきました^^

冒頭の電車内であたふたしてもらいましたが、

ちょっとボケっぷりが足らなかったでしょうか。

後半はシリアスなシーンが続いたので書く機会がありませんでした^^;

そこがやや心残りな面ではあります。

いかがでしたでしょうか〜。

少しでも楽しんでいただければ幸いです。

またの機会がありましたら、ぜひご参加ください。

それでは、よろしくお願い致します♪