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<東京怪談・PCゲームノベル>


Calling 〜小噺・演目〜



 ばったり。
 鷹邑琥珀は軽く目を見開く。
 目の前の少年はむっ、と顔をしかめた。
 琥珀は内心苦笑してしまう。
(ンな顔しなくても……)
「えーっと……久しぶり」
 にへらと笑顔を浮かべる琥珀を、舌打ちしそうなほど露骨な表情で見てくる――遠逆和彦。
「遠逆さん、だったよな。元気だったか?」
「…………今の俺が元気に見えないなら、鷹邑さんは相当目が悪い」
(……相変わらず口が悪いなぁ……)
 そう思いつつ、琥珀は苦笑する。
「じゃあ元気なんだな」
「……状態は良好だ」
「前の時も思ってたんだけどさ、遠逆さんって渋いよな、色々」
 その言葉に和彦は目を見開き、ますます眉間に皺を寄せた。
「しぶい……? 俺には渋みなどない……」
「渋みって……しぶ柿じゃないんだから……」
「…………鷹邑さん、そういえばあんた、大学生だったな?」
 ふと気づいたように和彦が訊いてくる。
 初めて会って二人でラーメンを食べに行った時、琥珀は自分が大学生だと和彦に説明したのだ。
「大学に通いつつ、退魔師をして小遣い稼ぎやってんだよ」
 笑顔でそう言ったのを、彼は憶えていたようだ。
 ちょっと嬉しくなって琥珀は「ああ」と頷く。
「なんだよ。遠逆さん、どっかの大学に進学でもするのか? 俺じゃあんまり相談に乗れないかもしれないけど、現役として手助けは少しできるぞ」
「進学? そんなことに興味はない」
「…………遠逆さんは、確かに強く生きていけそうだよなぁ」
「おい。なんだか馬鹿にしたような響きを感じたぞ……」
 ぴくぴくと和彦のこめかみが痙攣した。
 確かに琥珀の言う通り、和彦が爽やか大学生になることなど……想像するほうが難しいだろう。
 そこらへんにいる若者のように青春を謳歌するタイプではない。むしろ、容赦なく断罪する闇の世界の死神のほうがイメージしやすい。
(サラリーマンな遠逆さんとかは、全然想像つかないし……)
 そう考える琥珀の思考を、和彦が中断させた。
「それで、ここ最近は暇なのか?」
「暇っていうか……まあ、俺も大学には慣れてるほどに行ってるし」
「では、暇なんだな?」
「……どうしてそんなに念を押すかな」
 不思議そうにする琥珀に、和彦はずいっと何かを差し出してくる。それを見遣り、琥珀は受け取る。
 紙の束だ。
(なんだ……? 台本?)
「演劇に参加する気はあるか?」
 和彦の言葉に琥珀は台本から視線を外す。
「演劇? なんか面白そうだな」
「そうか。参加する意志があるのか」
 無表情で頷く和彦。
「では、鷹邑さんは参加決定ということで」
「えっ、ちょ……?」
「俺が助っ人を頼まれたその劇に、もう一人必要なんだ」
「え……???」



「へぇー、『アラジンと魔法のランプ』ね。あ、これって子供向けのアニメ映画のアレに近いな」
「???」
「観たことないのか……?」
 琥珀は心配になった。
(も、もしかして……遠逆さんて知らないのか? これってそこそこ有名だと思ったんだが……)
 一瞬。
 闇夜の江戸の町に、世直しの侍が存在する。月の浮かぶ闇の深い夜、彼は刀をすらりと抜いて現れる。
(……そっちのほうがイメージが近い、かも)
 辻斬りも似合うかもしれない。
 そう考えてしまった。和彦は侍や武士のほうが似合いそうだ。
「で、俺はジンか。ランプの精だな」
「???」
 眉をひそめる和彦の様子に、琥珀は不審そうにする。
「そ、そうだ。遠逆さんが好きなお話とかって?」
「…………どうしてそんなことを訊く?」
「ほら。話題話題」
 笑顔で誤魔化す琥珀を見遣り、和彦は「ふむ」と呟く。
「好きな話か……簡潔なものがいいな。だが、特に、というのはない……」
「ないのか?」
「うーん……里見八犬伝とかはどうだろう?」
「さっ……? えらく渋いところにいったな。まあ漫画化されてるし、映画にもなってる有名なのだけど……」
「いや。タイトルを言ってみただけだ。詳しい内容は知らない」
 さらりと言われて琥珀は座っているベンチから落ちそうになった。
「妖怪退治の話だろ、要するに」
「省略しすぎだろ、それじゃ」
 これはかなり心配だ。
 だがそちらのほうが和彦は得意だろう。
(遠逆さんって、刀振り回して敵をばっさばっさ斬っていくのがすっごく似合うからなぁ)
 和彦は首を傾げる。
「ところで『アラジンと魔法のランプ』はどういう話なんだ?」
「アラジンっていう正直な若者の話なんだけど、魔法のランプがあって、そのランプを三回こすると中から願いを叶える魔人が出てくるんだ」
「…………」
 笑顔で説明する琥珀の前で、和彦は無言になってしまった。
 あれ? と琥珀は笑顔で固まる。
「ランプ? ランプというのはあれか。暗闇を照らすあれだな。あんなものを三回こすって出てくるのか……。小さな魔人なんだな」
「…………」
 待て待て。なんか話が噛みあってないぞ。
「ランプって、こういう形だけど」
 手で形を作る琥珀。和彦は疑問符を浮かべた。
「なんだそれは。やかんの凹んだものか?」
「…………もしかして、遠逆さんの想像したのはコッチ?」
 琥珀が何かを吊るすようなポーズをとる。
「洞窟で使う……これ?」
「それがランプだろうが」
 …………ランプはランプでも、そのランプではない。
 そう思う琥珀だったが、言わないほうがいいだろうと笑って誤魔化した。
「でも、憧れるよな。三回でもいいから願いが叶えばって」
「そうか?」
 不思議そうな和彦を見遣る琥珀。どうにも彼は普通と感覚が多少ズレているようだ。
「願いはないのか? 遠逆さんは」
「願い? そうだな……呪いが解けること、かな」
 微笑して言う和彦に、琥珀はハッ、とする。
 そしてバシ! と彼の背中を叩いた。
 痛みに驚く和彦に、琥珀は己の胸をどーんと叩く。
「その願い、叶えられるって! 俺が保証する!」
 和彦が目を細めた。
「…………あんた、なんだその自信は」



「鷹邑さんの役のほうが、いいかもしれない」
「えっ! ちょ、冗談だろ!?」
「交換しないか?」
「嫌だ!」
 きっぱり断る琥珀の前で、彼はむっとして腕組みをする。
「俺は脇役向きだと思うんだが……」
「いやいや、主役向きだって。そのカオ」
「カオ?」
 怪訝そうにする和彦。
「遠逆さんってさ、自分の顔見ないの?」
「いや……見るが」
「いやあ、こうやってまじまじと見るとさ、着付けしたくなる顔だよな」
「…………はあ?」
「いい男って褒めてんだよ、俺。着物似合いそうな、色男ってこと」
 彼らの目の前では、練習が行われている。
 琥珀と和彦の出番はまだだ。
「そうだ。この公演終わったら、遊びに行かないか?」
「遊ぶ? いや、そんな暇はないな」
「そっか。残念」
 肩をすくめる琥珀であった。

 台本を眺める琥珀の前では、和彦が演じている。
 なんとも……。
(うわぁ。セリフ完璧なのに、動きがすごく……)
 わざとらしい……というか。
 そう、下手なのだ。
(ぎこちない……慣れてないのが丸わかりだ……)
 しかも、アラジンにはあまり向いていないかもしれない。
(正直者ってカオじゃないよな、あの仏頂面は……)
 牛若丸やってるほうがお似合いかも。
 想像して「ぶっ」と吹き出して笑う琥珀。
(似合う! 似合いすぎっ!)



 公演の日だ。彼らの劇を楽しみにしているのは子供たち。
「遠逆さん、今日はガンバロウな!」
「さてなあ」
「って! なんでやる気をそぐような答え方するんだよ!
 とにかく、引き受けたからには完璧に演じてみせろよ?」
「……練習したんだ。当然だろ」

 ランプを手に入れた和彦は、その汚いランプを綺麗にしようとして三回以上こすってしまう。
 舞台の上が、赤色や青色の光であふれる。
 派手な音とともに登場したのは琥珀だ。
 驚く和彦の前で、琥珀は大げさに演じる。
「今度はあんたがオイラのご主人かい? いいだろう! なんでも願いを三つ叶えてやる! ただし、三つだけだ! 金持ちだろうが、綺麗な娘さんだろうが、なんでもいいっ! さあ願いをどうぞ!」
 笑顔で言う琥珀を前にして、和彦は疑わしそうに見ていた。
「なんでも願いだって? そんなこと、誰が信じるものか!」
「おっと強情なご主人だね! それとも何も願いがないのかい?」
 くるくると和彦の周囲を回りながら、茶化すように言う琥珀。
 困る和彦は、かなり演技が板についている。あの下手っぴな時と比べて雲泥の差だ。
(まあ、遠逆さんって頼まれたら真面目にやるタイプっぽいし)
「さあ! 一つ目の願いを!」
 琥珀の大きな声が、体育館に響いた。



 無事に終了して、琥珀は和彦と帰路についていた。
 またいつもの無表情に戻っている和彦を横目で見遣り、琥珀はうーんと内心唸る。
(切り替えが早いというか……)
「あ、そうだ。俺のケータイ番号教えておく」
「……は?」
 不機嫌そうに訊き返す和彦を琥珀は気にしない。気にしてもしょうがないし、和彦は今はそんなに琥珀を邪険にしていないのだ。
「えっと……メルアドも教えたほうがいいかな」
「携帯? なんだそれは」
「え? なんだそれはって……」
「携帯とは、身に着けて運ぶという意味だろう? 番号を運んでどうする?」
「…………」
 唖然とする琥珀は、携帯電話を取り出して尋ねた。
「えっとさ、コレ、持ってない?」
「なんだ。携帯電話か」
「そう……ケータイ、ね」
「……そういう略の仕方は好きじゃないな」
 意味を理解した和彦はそう言う。
「だいたい、携帯電話など俺は持ってないぞ」
「…………うん。そんな気はしてた……。じゃあ家の電話は?」
「自宅か? 遠逆家に電話してきても、繋げてもらえないぞ」
 しーん……。
 琥珀は肩を落とす。
「うん……そっちも、そんな気はしてたって」
 和彦に、自分の携帯電話の番号を書いた紙を渡して、なんとか笑顔を向けた。
「気軽にかけてくれていいからさ。美味いラーメン屋見つけたら、教えようと思ってたんだけど……ケータイないなら無理か」
「…………」
 もらった紙を見遣り、呆れたような表情を浮かべる和彦。
「もうほとんどの麺の店はチェックしてるぞ。今さら教えてくれなくてもいいんだが」
「…………そ、そっかぁ」
 苦い笑いしか、出なかった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【4787/鷹邑・琥珀(たかむら・こはく)/男/21/大学生・退魔師】

NPC
【遠逆・和彦(とおさか・かずひこ)/男/17/高校生+退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 二度目のご参加ありがとうございます、鷹邑様。ライターのともやいずみです。
 少しは仲が進展したような……感じになっています。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!