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<東京怪談・PCゲームノベル>


崩壊の第三夜/獣たちの啼く夜 sideβ

オープニング

 最近、身体が痛い。
 激痛ってほどでもなく、ズキズキと疼くような痛み。
 だから、生梨覇や海斗に言う事もなかった。
 だけど、その痛みに気がついた時に言っておくべきだったのかもしれない。
 痛みが激しくなっていくにつれて、失われていくのは自分自身。
 この痛みを感じなくなったとき、あたしは―……。


 ※※崩壊の第三夜/獣達の啼く夜sideβ※※


「どうかしたのか?」
 腕を押さえながら蹲る優に海斗が話しかける。
「…う、うん。大丈夫。海斗も怪我してるんだから大人しく寝てなくちゃ…」
 心配してくれる海斗を安心させるように優は笑って見せるが、それは無理やりに作った笑顔だと一目瞭然だった。
「どうかしたの?」
 今まで台所にいた生梨覇が食べ物を持ってやってくる。
 その手には簡単に食べられるものが持たれている。
「あぁ、何か具合が悪そうだなって…」
 海斗の言葉に生梨覇も優の顔を覗きこみ「本当だ」と呟く。
「具合が悪いんなら寝てなさい」
「いい、大丈夫…だから…」
 そう言い張る優だが、顔色も段々と悪くなってきていて、呼吸も荒い。
 風邪かな?と生梨覇が額に触れようとした瞬間、優の目が見開いた。

「触るなっ!!!」

 牙を剥き出しにして、優が威嚇をしながら叫んだ。
 優の突然の異変に海斗も生梨覇も驚きで互いの顔を見合わせた。
「…優?」
 話しかけてもハァ、ハァ、と荒い呼吸を繰り返すだけ。
「……おい、あれ」
 海斗が生梨覇を肘で小突きながら小さく呟く。
「何?」
「優の額、見てみろよ。何かおかしい…」
 海斗の言葉に生梨覇が目を凝らして優の額に目をやる。
「…あ…れ、何?」
 何?その言葉しか出なかった。
 なぜなら―…優の額には何か機械のようなものが埋め込まれていたからだ。
 そういえば、最近…優は額を押さえている事が多かった。
「…研究所で埋め込まれたものかしら…」
「そうとしか、考えられないよな。優の様子を見るからに精神操作をさせる効果か埋め込んだ獣の遺伝子に何らかの影響を与えるものか…また或いはその両方か」
「…嫌な事、言うわね」
 生梨覇が乾いた笑みを浮かべながら呟く。

その時に帰ってきた貴方はどう対処する?




視点⇒谷戸・和真


「ねぇ、和真。菊花はこれが欲しい」
 デパートに優や菊花の日用品を買いに来て、菊花があるものを見て足を止めた。
 菊花の手に持たれているのは、子供…それも女の子に人気がある女の子が変身して戦うというアニメのグッズ。
「…はぁ…」
 和真は溜め息を漏らしつつも菊花が持っているグッズを取り、かごへと放り込んだ。デパートに入ったときから菊花は色々なものを「欲しい」と言って持ってくる。そのほとんどは優のための薬や玩具などで、子供に弱い和真は断る事ができずに、かごの中身は増えていくばかりだった。
「ねぇ、和真」
 クイ、と和真のシャツの裾を掴みながら菊花が小さく呟いた。
「今度は何が欲しいんだ?」
 また何かを見つけたのかと和真は気だるげに菊花へと視線を移した。
「…早く帰った方がいいよ。菊花、嫌な予感がする」
 そう呟く菊花の瞳は子供とは思えないほど、冷たく、そして静かな瞳だった。人間以外の遺伝子を組み込まれた優や菊花、同類の危機を感じ取る何かが菊花にはあるのかもしれないと考えた和真は早々に清算を済ませて、自宅への路を急いだ。

 菊花の予感、いや予想は見事に当たっていた。
 重い荷物を抱えて帰った自宅は悲惨なものになっていた。
 傷だらけの海斗の上に跨りながら今にも殺してしまいそうな殺気を放っている。生梨覇も止めようと優に触れるが、殴られて壁に叩きつけられていた。
「…優……?」
 和真が小さく優を呼ぶと、優はニィと下卑た笑みを浮かべながら海斗から離れてこちらへと歩いてくる。
 そして、優が近づいてくる時に額に何か異変を感じた。
「…海斗、生梨覇、生きてるだろうな…?頼むから俺の家で死ぬなよ」
 ぶっきらぼうに和真が言うと「はっ…」と鼻で笑う声が和真の耳に入ってきた。
「…誰が死ぬかよ。勝手に殺すな」
「…いたた…まったくよね」
 和真の言葉にムッとしたのか、海斗と生梨覇が傷む身体を押さえながら立ち上がる。
「……優、泣いてるよ…」
 菊花がポツリと呟いた言葉に三人は「え?」と聞き返す。
「…菊花には聞こえる。優、泣いてるよ」
 菊花が優をジッと見据えたまま、呟く。
「…なぁ。和真。俺はあの額の機械が怪しいと思うんだけど…」
 優から受けた肩の傷を押さえながら海斗が言う。
「私もそう思うわ、優が苦しむたびにあの額の機械が赤く光るのよね」
「…ウ、るさい!!黙れ!」
 三人の言葉を聞きながら、優が苦しげに叫び、そして襲い掛かってくる。
 その優の様子を見て、和真は後悔していた。優の異変は気がついていた。だけど本人が何も言わないから、気遣いながら様子を見ればいいか…と安直な考えを起こした自分に。
 だから、自分がどうなろうと優を助けてやりたいと思う。
「…一つだけ、方法がある」
 和真の低い声に海斗と生梨覇が勢いよく振り返った。
「ただし…自分でも成功するか分からない方法だ…。情けないが、この方法しか思いつかなかった」
 嫌な汗が和真の頬を伝う。
 その汗がどれほど切羽詰っているかを物語っていた。
「失敗したら、俺と生梨覇が優に謝ってやるよ」
「…あら、私は嫌よ。それに…和真、あんたは女子供は泣かせない主義なんでしょ?」
 クス、と生梨覇が笑みを浮かべながら呟いた。
「菊花からもおねがい…。優を助けて」
 頭を押さえながら苦しむ優を見つめながら菊花も弱々しく呟いた。
「…簡単に言いやがって」
 言葉は乱暴だが、何故か自信に満ち溢れた表情の和真が短く言葉を返した。
「とりあえず、別な部屋に行っててもらう。邪魔、だからな」
 その言葉に海斗、生梨覇、菊花の三人は隣の部屋へと足を向けた。菊花だけが心配そうにこちらを見ていたのが視界の隅に入ってきていた。
「さて、始めるか」
 和真の考えた方法、それは概念喰らいで機械の影響をなくさせた後に摘出させようと言う考えだった。
 だけど、和真は機械の概念を喰らったことはなく、外科技能も皆無だ。
「…成功するか、しないかじゃない。成功『させる』んだ」
 キッと表情を険しくして、苦しさのため呼吸を荒くする優を見つめた。
「…ま………け…て…」
「…え?」
「か、ず…ま………た、す、け、て……」
 自分に襲ってくる衝動に耐えながら、優が小さく呟いた。
「…任せろ…必ず、助けてやるから」
 和真はそう呟くと目を伏せて、一度大きく深呼吸をした。


 今まで機械相手に能力を使ったことはなかったので、成功するかどうかは心配だったが、意外と簡単に機械の影響をなくす事ができた。
 機械の概念を喰らいつくした後、優の額に埋まっていた機械はポロと自然に取れた。
「こんなもののせいで…」
 優が苦しんだのか、そう思うとその機械が憎たらしくなって和真は思い切り踏み潰した。
「…和真」
 機械を摘出した後、その場に倒れ込んだ優が消え入りそうな声で和真を呼んだ。
「どうした、具合は…?」
「うん、大丈夫…。ありがとう、和真」
 そう呟き、一度笑って見せると優は意識をなくした。
「…終わった、のかしら?」
 今まで騒がしかった部屋が静けさを取り戻した頃、生梨覇がこちらへとやってきた。
「…あぁ。終わった。何とか、な…」
 すぅ、と寝息をたてる優を抱きしめながら和真は小さく笑みを漏らした。


 この騒動が更なる悪夢を呼ぶ事に和真たちはまだ気がついていない…。
 和真、生梨覇、海斗、そして―…菊花。
 この四人の物語の結末はもう、すぐそこに…。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

4757/谷戸・和真/男性/19歳/古書店『誘蛾灯』店主 兼 祓い屋

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■         ライター通信          ■
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谷戸・和真様>

…まず最初にすみません!!!
ギリギリの納品になってしまいました!
あぁぁ…本当に申し訳ないです…。
この度は「崩壊の第三夜」に発注をかけてくださいまして、ありがとうございます。
sideβも三話目に入りましたが、いかがだったでしょうか?
少しでも楽しんでくださったら幸いです。
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^

            −瀬皇緋澄