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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


実体のない通り魔〜桜舞う〜

-hajimari-

 瀬名雫は日課の投稿記事確認をしていた。
 そこは、インターネットカフェ。部屋の奥のぽつんとあるパソコンが雫の特等席なのだ。
「えっと……」
 マウスをクリックしながら、投稿内容を読む雫の顔は、これ以上ない程の笑みが浮かんでいた。
「これも楽しそう。ええ、こんなのがあるの、すごい」
 内容1つ1つに感嘆の声をあげると、ワクワクしてしょうがないといわんばかりに瞳を輝かせた。
 が、雫の視線がある記事での所で止まった。
「……」

 タイトル:調べて下さい

 記事:私の通う高校では、実体のない通り魔という噂が広まっています。
     ある時間、特定の場所で、突然斬りつけられるのですが、通り魔の姿を見た者は誰もいないのです。
     それは、学校だけではなく、近所でも噂になっています。
     どうか、原因がなんなのか調べて下さい。

     午後2時
     ○×公園東口付近

「実体のない通り魔?」
 雫の顔がニヤリと綻んだ。
「それ、私に行かせてもらいないですか?」
 突如背後から声をかけられ、ビクリと身を震わせながらその声の主を見た。
「なんだ、桜さんかぁ」
 びっくりしたなぁと呟きながら胸をなで下ろすと、くるりと椅子を動かし桜に向き直った。
「桜さん、この記事に興味湧いたの?」
「ええ、少し気になることがありまして……」
 そう言うと、何か考え込むように視線を伏せ、細く長い指で顎先をさわった。
「そうですね……何名か手助けして下さる方を募ってもらえませんか?」

-kaoawase-

 雫の呼びかけで集まった4人は、なぜか駅前の広場にいた。
 雫より指定された場所がそこなのだ。
 澄み渡った青い空に、燦々と降り注ぐ太陽。5月に入ったばかりだというのに、夏を思わせる暑さである。
 辛うじて湿度が低いことに感謝するばかりなのだが……。
 とりあえず建物の影に非難すると、誰ともなく顔を見合わせた。 
 「考古学者の瀬崎耀司といいます」
 痺れを切らしたように名乗った。
 その隣にいた日本人形のような美女が、やんわりと微笑むと「高柳月子です」と告げた。
 向かいに立つ男性が「高峯燎だ」と告げると、その足下に丸まっていた青黒い毛並みを持つ、犬とも狼とも判断の付かない獣が大きくあくびをした。
 ゆっくりと立ち上がると、漆黒の瞳を妖しげに輝かせた。次の瞬間、それは少年に姿を変えていた。
「俺は黒主。宜しく」
 獣が人に変化した――そんな異様な事態を目の当たりにしたにも関わらず、皆「宜しく、宜しく」と笑顔で挨拶を交わしている。
 そういった状態に慣れている人達なのだから、こういう依頼に対処出来るのだけれど、はたから見れば奇妙である。
 そんな4人をしばらく見つめていた桜が、ゆっくり輪の中に歩み寄った。
「初めまして。本来なら私が1人で遂行しなければならないものを、皆さまの御助力をお借りする形となりまして、申し訳ございません」
 ゴーストネットOFFにくる依頼は毎日何十件と投稿されている。
 だから、それなりに面識や興味をもった者が、協力して調査追跡、時には解決するのだ。1人でしなければいけない依頼などない。1人が無理なら協力してくれる者を集めればいいのだから。
 それなのに、桜はまるで自分に責任がある調査のようないい方をしている。
 何か腑に落ちない感じを覚えたのか、燎は桜に言葉をかけようとした。
 が、隣にいた耀司が彼の発言を止めた。
 燎は不満げに耀司を睨め付けたが、色を違えた瞳が有無を言わさぬ威圧感に溢れていて、開きかけた口を閉じた。
「年功序列ってことで、あんたにゆずってやるよ」
 燎は大きく伸びをすると、建物の壁に半身を預けた。
「何か隠し持っているネタでもあるのかしら」
 耀司の様子をひんやりと見つめていた月子が、探るように尋ねた。
「なんか匂うな」
 月子に同調するように、黒主も頷いた。
「実はここへ来る前に調べ物をしてきてね」
 隠しネタをひっぱる必要もないのか、あっさり白状すると、古びた鞄からファイルされた資料を取り出した。
 それを見ていた月子の瞳がふと半眼に伏せられた。
「考古学者というのは用意周到なのね。でも……考古学者にしては妙な気配を纏っていますけど」
 冷ややかに言い放つが、耀司とは初対面である。なので彼を嫌っている訳ではない。ただ、月子の性格上というか、無意識で物言いがきつくなるようだ。
「おやおや、そういうあなたも、妙なモノが背後に見えるが?」
 ニコニコと笑みを称えているはずが、色を違えた瞳がそれを皮肉っぽく変えていた。
 そんな2人を見つめていた燎は「俺は何も持っていないぞ」と言いつつも、楽しそうに行く末を見守っている。
 燎と同じように傍観者を決め込んだ黒主も、彼の隣に立ち「蛇と狐って相性悪いのか?」と独り言のようにぼやいた。
「蛇といえばマングースじゃねえのか?」
 黒主の独り言に答えるように、燎は首を傾げた。
「蛇の天敵は鳥らしいですよ」
 そんな2人に桜が遠慮がちに口を挟んだ。
「へーそうなのか。桜は物知りだなぁ」
 豪快に笑うと、燎は桜の頭に大きな手を置き髪をかき混ぜた。
「どうでもいいけど、2人の言い合い終わっているみたいだけど?」
 黒主が燎の脇腹を突っつきながら、2人を指さした。
 何やら真剣な表情で会話している。
「喧嘩するほど仲がいいってか」
「その前にさっきのって喧嘩じゃなかったんじゃない」
 燎と黒主は互いに顔を見合わせ、肩を竦めた。

-onryou-

 『実体のない通り魔』が出ると噂されている、○×公園東口付近では、過去事件、事故は起こっていなかった。
 過去の何らかの事件、事故に関連した"何か"かという推測は出来なくなった。
 また、『実体のない通り魔』あるいは『○×公園』をインターネットで検索してみると、数百件ヒットした。
 その殆どが、その事件は『都市伝説』であると結論づけている。
 しかし、『自分はそこで通り魔に傷つけられた』という書き込みもあることから、『都市伝説』と一概に決めつけられない。
 そこで実際○×公園で何らかの事故に遭遇した人物の統計を取ってみる。
 まず、噂されるようになったのはつい最近のことである。
 最初の噂が半年前、そして今日に至るまで数十件報告されている。
 場所は○×公園東口から数メートル先にある老木の側で、老木を通り過ぎようとした瞬間背に痛みが走ったというのが共通の証言である。
 そして、報告された、数十件の全てが10代の女性である。
 事件の発生時間は午後2時。被害者は皆口を揃えて言う。
 最後に、怪我の程度であるが、髪をざっくり切られると共に、背の皮もざっくりと切られていた。
 正し、命に別状はない。
 通り魔に遭遇した女性は、痛みと恐怖で悲鳴を上げる、すると、公園内にいた誰か、あるいは近所の誰かが気付き駆けつけ病院に搬送される――しかし、駆けつけた誰もが『通り魔』というものを見ていない。数十件の中では、事件当日、女性を視界に捉えていたという目撃者もいる。が、「女性が突然悲鳴をあげた」と報告されているだけで、結局誰の仕業なのか解らず、警察でも迷宮入り事件となっているのだ。
 誰も『通り魔』を見ていない――そこから、『実体のない通り魔』という噂が広まったと推測される。

「これが、僕が持っているネタの全てでね」
 そういうと、耀司は手にしていたファイルを鞄に押し込んだ。
「結局、その『通り魔』の正体は解らないのね」
 月子の言葉に耀司は頷く。
「妖怪とかそういう類じゃねえの?」
 燎が、雫から依頼を受けた時に思った推測を口出す。
「妖怪か。強ければ強い程いいな。そうしたら俺が喰ってやる」
 少年の姿のままの黒主は屈託のない笑みを浮かべている。
「そういえば桜さん、何か思い当たる節でもあるのじゃない? 雫さんから聞いたわよ」
 月子が少し離れた所にいた桜に声をかけた。
「……」
「そうだ、さっきもこの依頼に関して妙に責任を感じていたよな」
 燎も自己紹介時の桜のことを思い出して問いつめるような視線を向けた。
「桜っ、何か知っているのか」
 黒主が声を弾ませ笑顔で尋ねた。
「皆で寄ってたかって問いつめたら、彼女も答えるに答えられないだろ」
 腕を組み、頭を少し傾けたまま苦笑すると、耀司は桜に近付いた。
「話したくなければ話さなくてもいい」
 耀司にすれば、優しく告げたつもりであったが、元より鋭すぎる眼光は、そのまま桜に注がれた。
 その眼力を前にして、桜は当然のごとく萎縮しワナワナと体を震わせた。
「てか、瀬崎さん眼力強すぎ」
 苦笑する燎。とはいえ、彼の眼孔も十分鋭い。だから――
「高峯君に言われたくないなあ」
 耀司に言い換えされる。
「女子高生を威圧してどうするのよ。もう少し優しい眼差しは出来ないの?」
 と、月子が2人を叱咤するが、自分の瞳もどちらかと言えばきつい印象を与えることを思い出し、ハッとして口をつぐんだ。
「揃いも揃ってなんなんだ」
 思わず黒主がそんなことを漏らす。
「クスクス」
 桜の笑いが漏れた。
「皆さん、ちょっと怖い印象とか与えますけど、本当はとてもお優しい方ばかりなのですね」
 柔らかく微笑むと、大きな瞳が楽しそうに輝いた。
 すると、皆一様に顔を見合わせ、照れくさそうにした。
 何かが吹っ切れたのか、桜はスッと姿勢を正し、「お話します」と静かな声で告げた。

 彼女の一族は古来より、封印された怨霊を鎮め、護っているのだという。
 封印してあるとはいえ、ちょっとしたきっかけでそれは封印を破り外へ飛び出す。なので、神聖な場所に封じたそれは、未来永劫甦らないように護らなければならないのだという。それが彼女の家系の宿命なのだという。
 封印された怨霊は幾つもあるのだという。が、半年ほど前、ちょっとした事件をきっかけに封印した怨霊の一部が甦ってしまったのだという。
 今日に至るまで、甦った怨霊を見つけては封印し直しているのだが、まだ見つかっていない怨霊が幾つもあるというのだ。
 桜は、ゴーストネットOFFの書き込みを見た瞬間、封印すべき怨霊の仕業ではないかという直感が働いたのだという。
 そして、耀司のネタを聞きその直感は確信に変わったというのだ。
 10代の女性の髪を切る――それは、封印する前の怨霊の行動と同じなのだという。

「ということは、『通り魔』とは、怨霊だというのね」
 月子の言葉に桜は頷いた。
「なんで怨霊化しちまったんだ?」
 燎の問いに、桜も首を振った。
「そこまで詳しくは私も解りません」
「兎に角、現場に行ってみる必要があるよな」
 燎の言葉に皆頷いた。
 
-tatakai-

 まるで何かを暗示するかのように、青い空が一転し、うす灰色の空へと変わる。
 それほど大きくはないが、開放的な公園は、清掃が行き届いており、隅にある砂場付近には若い母親と幼い子供達が楽しそうに遊んでいる。
 その奥には、時計が設置されていて、針は1時半を指していた。
「2時まで30分。さて、どうやって正体を突き止めるかだな」
 木の陰に置かれたベンチに腰掛けると、耀司は隣のブランコで立ち漕ぎをしている燎に視線を向けた。
「ま、時間にあの場所にいれば、望まずして現れるんじゃねえの」
 燎は、真っ直ぐ前を見つめ、公園入口の向こうを指した。
「ということは……10代の女性……」
 耀司と燎は、同時に月子を見た。
「……」
 無言で顔を見合わせると、乾いた笑いを浮かべ、桜へ懇願するような瞳を向けた。
「ちょっとお待ちなさい。二人して、今のはなに?」
 思わず月子が2人に詰め寄る。
「年相応ってことだよ」
 黒主が、そっと月子を慰めるが、腑に落ちない様相のまま、なんとか今後の計画が話し合われた。
「2時になったら、あの場所を桜が通るとして……どうやって桜を守るかだよな」
 なんでも、今の桜には敵と対峙した時に攻撃するあるいは防御する術がないのだという。
 必然的にここにいる4人が桜を守らなければならない。
「だったら、俺が犬の姿で桜の側にいればいいだろ?」
 黒主の提案に、皆が頷いた。
「確かに、人がいると警戒されそうだが、犬程度なら歯牙にもかけないだろう」
「じゃあ私たちは、少し離れた所に三方に散らばって隠れていることにしましょう」


 1時59分

 桜は生唾を飲み込むと、犬に変化した黒主と共に、公園東口から出て老木のある方へと向かった。
 黒主は、桜の側をつかず離れず、野良犬のようなフリをし、妖力を完全に消し去っている。
 公園入口付近には高峯燎が、老木付近の公園内には瀬崎耀司が、通りの影に高柳月子が、それぞれ身をひそめ、気付かれないように気配を消している。

 2時00分

 桜が老木の脇を通る。
 ふわっと、冷気がその頬を撫でた。
 黒主が警戒気味に耳を立てる。
 周囲に散らばる3名に緊張が走る。
 ざっと強い風が吹いた。
 それと同時に、桜の背にひやりとした感覚が当たる。
 
 ガウッ

 が、黒主が身を呈して桜を守った為、桜の髪がほんのひと房切れただけに留まった。
 ざわりと周囲の気配が異様なそれに変貌する。
 薄暗い空は、彼らの周囲だけ暗黒へと変わりつつあった。
「ありがとう」
 桜がよろめきながら黒主に礼を言うと、そのまま地面に倒れ込みそうになる。
「おっと」
 そこへ燎が現れ桜を抱き留めた。
「大丈夫か?」
 そう言うと、桜を少し離れた安全な所に休ませた。
 一方老木の周囲では――
「なんとも禍々しい姿だろうか」
 耀司が、その姿を見極めるかのように瞳を細め、ぺろりと唇を舐める。
「なんだ、イタチじゃねえのか」
 つまらなそうに呟くと、燎は懐に手を忍ばせる。
『俺、腹減ったな。こいつ食べていいか』
 誰にともなく告げる黒主に、月子が制止の声を上げる。
「相手が怨霊だとしても、なぜこのようなことをするのか、ちゃんと確かめないといけないわ。私に任せてください」
 少しつり上がった瞳を半眼に伏せると、口の中でモゴモゴと言葉を発した。
 月子の体がゆらりと揺れ、ガクリと項垂れる。
 彼らの目の前の、実体を持たぬそれがカッと眼を見開いたように見えた。
 とはいえ、そこにあるのは黒い霧のような不変的なもので、ある種の力があるものでしか、漠然としたそれを見ることは出来ない。
 月子の瞳に、すっと白い影が浮かぶ。
『なぜ……お前達……邪魔……する』
 すると、彼女の口から低く、いつもの彼女のものとは明らかに違う声が発せられた。
「……憑依したか」
 耀司が確認するかのように呟くと、色の違えた瞳を細め月子に憑依したそれを冷ややかに見つめた。
 その隣で、燎が軽く口笛を吹くと、興味深げな表情を露わにした。
 そして、黒主が犬の姿のまま、威嚇するようにうなり声をあげている。
『ワシ……縛り付けて……』
「私はあなたに体を貸してあげているのよ。文句ばかり言わないで、恨み辛みを吐露しなさい」
 表情さえもきついそれに豹変していた月子の顔が、一瞬元のそれに戻り、声音さえ微かに掠れているもののいつものそれをとなんら変わらないものになっていた。
『お前は……う……うるさい……』
 かと思うと、すぐに憑依した表情に変わり、声音が低くなる。
「1人芝居だな」
 ぽつりと耀司が漏らした。
「いやあ、見事な能力だ」
 燎は楽しそうに呟き、黒主はうなり声をあげている。
 それは、明らかに『腹が減った。食いたい』と言っていて、その言葉は直接皆の脳へ送られてくる。
「まあ、待てって」
 燎は黒主をなだめると、月子の動向を見守った。

-hyoui/tsukiko only/-

 強い意志で押さえ込まなければ、自分自身が相手に飲み込まれてしまいそうなになっていた。
 そう、相手の力が思ったより強力だったのだ。
 月子は「少しやっかいだ」と心の中で思っていた。
 それでも、辛うじて自分の意識を保ち、相手を押さえ込むことが出来るのは、自分を守護している狐の妖力が勝っているからだ。
 改めて守護霊に感謝すると、意識を集中するために、半眼伏せた。

-onryou2-
 
『憎い……憎い……憎い』
 月子の口からそんな言葉が漏れた。
「……何が?」
 それに問いかける。
『おなご……憎い……憎い』
「何をされたの?」
『憎い……憎い』
 が、それはそれ以上答えることなく、同じ言葉を繰り返していた。
「男と女のもつれは、時に人を鬼に変えてしまうからな」
 他人事のように呟くと、耀司は片手に何度か握り拳を作った。
「あっ」
 月子が苦しそうに顔を歪め、体をくの字に折り曲げた。
「……瀬崎さん」
 険しい表情で耀司を睨み付けると、月子は非難じみた視線を向けた。
「おや、これは余計なことをしてしまったかな」
 苦笑を浮かべる耀司の表情に、満悦の色が浮かんでいる。
『お前味見しやだなっ』
 黒主が叫ぶと、何度か飛び上がりながら自分も食べたいと駄々をこねている。
「いやあ、つい」
 つい、で憑依状態の怨霊を喰らうなどと暴挙を起こすものだろうか。明らかに意識してのことなのだ。
 他者の介入により、月子の体からそれが抜け出た。
 モクモクと変異する煙のような物体――怨霊は怒りの気配を纏っていた。
 力の一部を耀司に削り取られたことにより、我を忘れたかのように怒りを露わにしだした。
 が、怒りの矛先は、一番弱い者――少し離れた所にいた桜に向けられた。
 怨霊は、すっとそこから姿を消すと瞬時に桜の前に姿を現した。
「きゃっ」
 誰もが「間に合わない」そう思っていた。
 しかし、ただ1人だけ怨霊の速度に追いついた人物がいた。
 燎である。
 怨霊より先に、桜を抱きかかえると、銀製のタガーを怨霊向けて放った。
 それは霊気を帯びていた為、怨霊を怯ませることが出来た。
 すかさず、怨霊の背後から耀司が腕を伸ばし、それを押さえつけた。
 強化された腕は、怨霊でさえも素手で掴むことが出来るのだ。
 それに合わせ、黒主が怨霊に飛びかかると、鋭く尖った牙を突き立てた。
 怨霊から、耳をつんざくような悲鳴が上がる。
 異能を持ち合わせた者達により、その存在を消されようとしていたのだ。
「待って」
 が、桜が彼らの行動を制した。
「だめ、消さないで」
 困惑する彼らを余所に、桜は自分を守ってくれている燎を押しのけスッと立ち上がると、今にも喰らってしまいそうな黒主に懇願する瞳を向けた。
『喰らったらだめか?』
「お願い」
 しばらくの沈黙ののち、黒主は怨霊から飛び退いた。
「瀬崎さん、そのまま押さえていてもらえませんか? だたし、これ以上食べないでください」
 しっかり釘をさされた耀司は、軽く肩を竦め、怨霊を押さえるだけに留めた。
「もう一度、封印しなければなりません」
「また封印して同じようなことが起こったらどうするの? いっそのこと、このまま……」
 月子の問いかけに、桜は首を振った。
「封印しなければダメなのです。どうしても……」
 理由を聞こうとしたが、桜は決してそれを明らかにはしなかった。
 一種の「家庭の事情」というやつであろう。
「解ったわ。さ、封印を」
 その言葉に促されるように、桜は片手に収まる大きさの水晶をどこからか取り出し、両手で頭上高く持ち上げた。

 一瞬、そこに満開の桜がうす桃色の花びらを降らしている風景が浮かび上がった。
 実際そこには桜など咲いていない。ただの幻影である。
 淡い花びらに誘われるかのように黒い怨霊はその色を薄め、虹色に輝く光に吸い込まれるようにその身を任せた。

 封印されたことにより、無色透明だった水晶は、その内側を禍々しい色に変色させていた。
 水晶の中で、怨霊が生きているかのように、禍々しい色はゆらゆらと揺れている。
「これで封印されたの?」
 月子がそれに触れようとした。
 キィン
 耳の奥を刺激する嫌な音と共に、水晶が銀色の光を放った。
「済みません。これは霊力を持つ者を拒絶するように作られているのです」
「なるほど」
 耀司は頷くと、不快感を露わにした。
「多分、これの周囲にいてもいい気がしないと思います……」
 そう言うと、桜はそれを持っていた鞄に押し込めた。
 いつの間にか、公園一帯に立ち込めていた暗雲が去り、真っ青な空が姿を現した。
「これで、もうここで『実体のない通り魔』だなんて噂、消えるわね」
 月子の言葉に、桜も頷いた。
「皆さんのおかげです。ありがとうございました」
「まるで、桜が投稿したみたいだな」
 燎が苦笑を浮かべる。
「……あ、そうですね。そっか……ははは。でも、皆さんのお陰で一族の不祥事を大事にすることなく解決できたのですから……だから、本当に助かりました」
 改めて深々とお辞儀をした。

-syuen/tsukiko only/-

 なんとか事件も解決し、それぞれ帰路につこうとしていた。
「ねえ、桜さん」
 月子が桜を呼び止めた。
「はい?」
 首を傾げる桜に、月子はニッコリと微笑み手招きをした。
「よかったらお茶でもしていかない?」
「え? え?」
 突然の申し出に戸惑う桜。
「実はね、あなたの異能にちょっと関心があるのよ」
 自分が勤めている和菓子屋は喫茶もやっているからそこでゆっくりお話でもしましょうというのだ。
「……はい!」
 嬉しそうに頷く桜に、月子も微笑んだ。
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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[4487/瀬崎・耀司/男性/38歳/考古学者]
[3822/高柳・月子/女性/26歳/和菓子屋の店員]
[4584/高峯・燎/男性/23歳/銀職人・ショップオーナー]
[5246/ー・黒主/男性/100歳/喰らう者]

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■         ライター通信          ■
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 初めまして&こんにちは。
 ライターの時丸仙花です。
 今回は、ゴーストネットOFFの依頼にご参加頂きありがとうございます。

 私事ではありますが、楽しく書かせてもらいました。
 ただ、私なりに各PCを解釈して書かせてもらったので、PLサマ方の思い描く設定と違ってしまっているかも……という懸念を持ちつつも、ま、いっかと楽観しつつも……。
 そんなこんなで(汗)明らかに設定と違うだろってツッコミがございましたら、遠慮なくおっしゃって下さい。
 修正させて頂きます。

 また、ご縁がございましたら、皆さまの活躍するお話を書かせて頂きたいなと思っておりますので、宜しくお願いします。
 
 時丸 仙花