コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


闇に降る雨



「元服?」
きょとんと。
武田・幻之丞 (たけだ・げんのじょう)はそう告げた父親の顔を見つめた。
「お誕生祝い、ではなくてですか?父上。」
聞き返すのも、当然だ。
確かに武田家は古い武家の家系にある。表立って公表するでも無いが、先祖は武田勝頼の血を引く仏僧だと言われていた。幻之丞の住まうその広い屋敷の一角に、それを示す武具や旗印、書状なども確かに保管されている。それは、事実だが。
「…そんな風習、未だに残ってたのですね。」
一体、いつの時代の話だろう。くすくすと、玉を転がすような柔らかい響きで、幻之丞は笑った。
幻之丞の笑みに合わせ、和装の袖の胡蝶がゆらゆらと舞う。黒地に金糸と紫であしらったその柄は、しっとりとした華やかさで幻之丞の身を飾っていた。
丁度、母親とともに茶席へと招かれた帰りだった。
その折の庭園の見事さを、母親と語らい合っている所へ、父親の唐突な一言だ。笑い出すのも無理無かった。
だが。
父は笑み一つこぼさずに、幻之丞を見据えた。そのまなざしに思わず笑みを引っ込めると、幻之丞は不思議そうに父親の顔を覗き込む。無言で、父は古い書状らしきものを幻之丞に手渡した。古びたその書状を、幻之丞は手元に広げる。かなり年代を経たものだと知れるのに、和紙は少しも痛んだところが無かった。相当大事に保管されていたにちがいなかった。
「…祝詞?」
書き付けられた筆跡に、幻之丞はその柳眉を寄せる。
流麗な筆遣いで記されたそれは、確かに祝詞の一つだった。しかし、…先祖が僧侶であるというのに、神とはどういった訳だ。
念仏を唱えるならともかく、一体誰に対して祝詞をあげるというのだろう。
大体今までだって、仏を拝んでも、神を祀る事など無かったではないか。
父親は、それについて、…何も答えなかった。
ただ一言、こう告げた。
「…明日までに、これを覚えておきなさい。」
「明日、迄にですか?」
いくら何でも、気が早すぎじゃないのかしら。幻之丞はそう思ったが、あえて口には出さなかった。承知したと言う意思表示に、三つ指をついてゆっくりお辞儀する。それからその祝詞の書き付けを懐に差し入れると、父の側を離れた。意味の分からない事だらけだが、父は何も答えてくれそうにない。とにかく明日になって見れば分かる事なのでしょうと、そう思うことにして置く。
「………」
ふと。
長い渡り廊下を歩く途中で、幻之丞は立ち止まった。
誰かに呼ばれた気がする。庭に目をやるが、猫の子一匹いない。…まただ、と幻之丞は溜息をついた。この頃、よくこんな事がある。誰もいないと言うのに、…誰かが、自分を呼んでいるような。
ぼんやりと見遣る庭は、何故だろう暗い障気で澱んで見えて。
…どうかしている、と、幻之丞は緩く頭を振った。




「まだ、早いのではありませんか。」
幻之丞が、その場を去り。
立ちつくす父親の背後に、寄り添うようにその妻の声が届いた。
「あの子は、まだほんの十三歳です。何も負えず、何も知りません。」
「…分かっている、だが、」
低く絞り出すようなその声に、混じるのは苦悶の色だった。
「この家の結界では、もう幻之丞の気を押さえる事は出来ないのだ。」
本当は。
本当は仏を拝む必要のない一族が、あえて仏教を信仰しなければならなかった理由。
それは何もかも、…いつか来るこの日を、一日でも遅らせる為だった。
武田という、武家の血と仏門の祖を持つ氏(うじ)。同時にもう一つ、この家には人の知らない姓がある。
『黄泉(こうせん)』という、その名。人よりも神に、神よりも荒御霊に近いその血の起源は、遙か神代へとさかのぼる。
その名にまつろう言い伝えを、父親はその口に乗せてみる。
自分達一族は。
根の国を統べ、黄泉のケガレで天を満たすために産み落とされた荒(すさ)ぶ血の一族だった。
だが我らは、この世を人の為に残すことを選んでしまった。そうして、人の中で生きることを選んだ。それから数千年、この血に神の験(しるし)が現れる事も無く。
我ら一族は、この世とあの世の境を見守る者として、人の姿のままこの世に存在し続けた。
だが、…黄泉津大神(イザナミ)は、あの世とこの世の入り口を封じた、我ら一族を許すまい。
いつか、強い血の力を持った一族の長が産まれるだろう。荒(すさ)ぶ血の王、『スサノヲ』は、その強さ故に人の世界に隠れた我ら一族の居所を、黄泉津大神に知らしめてしまうに違いない。
人とも神ともつかぬ存在になった一族の王は、その血をもって全ての敵を打ち倒し食らい尽くし完全なる死へと導くだろう。
「……のろわしい、話だ。」
それでも、ただ手をこまねいてその日を恐れおびえていたわけではなかった。少しでもその血の発動を押さえるために、一族は様々な手を打ってきた。仏に仕えたのもその為だ。神とは異なる系列の呪で、強く血を縛ってしまおうとそう考えた結果だったのだ。
なのに。
「水蛭子(ひるこ)で産まれて来たが故」
幻之丞、は、不完全な性でその生を受けた。神話で言われる、水蛭子のように。
水蛭子…不完全な存在であるが故に、葦舟で黄泉へと流されし者。
だが人として不完全であるが故に、…神として完全であるその肉体を、…持って生まれ落ちてしまった。
「あれは強すぎるのだ、…ただの人で有り続けるには。」
やがて、幻之丞の気配を察して黄泉より兵が差し向けられよう。
「…私とお前では、…もうあの子を守ってやれないだろう。…ならば、」
ゆっくりと、天を仰ぐ。
「…自らの手で生き延びる、…その術を与えてやる事が、我らに出来る全てではないか。」
ひっそりと瞬き始めた星の儚さに、彼は息を詰めた。


翌日。
母の用意した袴と烏帽子を身につけ、幻之丞は父親の前にあった。
対座する父より、杯が差し出される。受け取って口にする酒は、まだ子供の幻之丞には少しも美味しいと感じられなかった。それでも一息で飲み干すと、杯をぬぐって父親に返す。頷き返した父親は、幻之丞の前に一振りの太刀を差し出した。
「………これは、」
「今日からお前のものだ。無銘だが、銘を帯びたものでもこれほどの逸品にはお目にかかれない筈だ。…きっと、お前の手となり、守りとなり、牙となるだろう。」
目にした途端、きん、と耳の奧がしびれるような感覚があった。
幻之丞は両手で刀を受け取った。反りの浅い幾分細身の刀身に、黒塗りの鍔が似つかわしかった。ずしりと手にかかるその重さは、確かに鋼の重量だった。真剣であるのは間違いない。しかも。
ずらりと、刀を抜いてみる。
梨子地肌は、最高峰と言われる粟田口一派のものに似ている。刃文は直刃基調、かます切先の切っ先が珍しい。なにより、その吸い寄せられるような神気。
並の太刀ではないと、それだけで分かった。
「……そんなものを、いただいて良いのですか?…父上。」
魅入られるようにその切っ先に目を落としながら、幻之丞はそう口にした。
手にしているだけで心逸るこの刀を、自分のものに出来るのはとても嬉しい。でも、本当に貰って良いものなのだろうか。そう思ったから、素直にそれを父に伝えてみたのだ。
父親の答えは、こんなものだった。
「…これはお前のものだ。…お前の手にあってこそ、意味を成すものだ。」
そう告げる父の顔は、何故か酷く曇って見えた。



そうして。
その日は、唐突に来た。
いつも通りの、朝ではあった。いつもと違ったのは、朝から気分が悪かった事くらいだった。。本当は学校に行きたく無かったけれど、それでも重い体を起こして幻之丞は学校へと向かう。
すぐに、始業の鐘が鳴る。ふうと息をついて、重い頭で教科書を広げる。そのうち良くなるだろうと、自分にそう言い聞かせてみる。
だが、…授業が始まってからも体調は思わしくなかった。
何度も息をつく幻之丞を見かねて、クラスメイトが保健室へ行った方が良いと言ってくれた。大丈夫、と微笑み返して我慢し続ける方を選んだ。
訳もなく、とても、気持ち悪い。
暑いわけでもないのに、背中にうっすらと汗を掻いている。辛そうに頭を揺らしながら、幻之丞は突っ伏した机からその上半身を起こす。
「…なんだろう、…この、変な、感じ…」
とにかく授業が終わるのだけを、待って。
最後の英語の授業が終わると、幻之丞は帰り支度を始めた。
クラスメイトが担任に連絡してくれたらしく、掃除をさぼって帰っても良いと言われたのだ。
さすがに掃除まで我慢する気になれず、幻之丞はその言葉を素直に受け、クラスメイトに手を振って皆より先に教室を出た。また明日ね、と友達が手を振り返した。
また明日、が、来ると信じて疑わなかった。その瞬間まで。
夕暮れ時の街を、家へと走る。
ゆるりと幻之丞は空を見上げた。ぼんやりと薄闇に包まれた世界に、まだ淡い月がかかっている。低い空にあるその三日月は、何の色を映したのか妙に赤い。ぶるりと身震いするような禍々しさが、月の光に混じってこの世界全体に広がっているような気がする。
おかしな事を考えるのは、きっと気分が悪いから。
そう自分に告げて、幻之丞は走る。父と母が待つ、我が家に向かって。
この曲がり角を曲がれば、屋敷の大きな門が見える。門が見えたら、後はまっすぐ進むだけ。
小さくそう言いながら、いつもの曲がり角を、いつものように曲がる。
瞬間。
幻之丞は、立ちつくした。
ああ、…分かった。
禍々しいのは、月光じゃなかったんだ。
凍り付いた脚を叱咤すると、幻之丞は疾走した。手に持っていたバッグも放り出し、早鐘のように打ち続ける不安な心を抱えたまま、門を目指して疾駆する。夕闇に乗って流れ出る不快な匂い。一体これは。
「…父上、母上、今戻りましたっ…」
門に立つ。満ちてくる気配。
禍々しいのは、この、家だ。
この家のあちらこちらから、…今まで感じたことの無い障気が、絶え間なく立ち上って来ているのだ。
ごくりと、幻之丞は息をのんだ。
何が、起ころうとしているのだろう。
「………っ…?」
呼ぶ声がする。その声に導かれるように、幻之丞は庭を目指す。あの声だ。誰もいない深い場所から、自分を呼ぶ地鳴りのような声。
『冥界を穿つ矛、全てを食らい尽くす破壊の主、荒ぶ者の王、素戔嗚尊(スサノヲ)』
それは、私の名前じゃない。
幻之丞は、心の中でそう叫んだ。
素戔嗚尊なんて名前じゃない、私の名は、武田幻之丞。
何度もそう繰り返しながら。
幻之丞は、…それが自分だと、…感じていた。
いや、解っていた。
記憶ではなかった。血が、その名を覚えている。
『素戔嗚尊、我は決して許すまい。我とともに黄泉を治めると、そう言いながら我を裏切った、我が愛しい息子のお前を。』
ざら、と五感がざわめいた。
ばたんと障子が開く。険しく顔を歪めた父と母の姿が其処にあった。父の手に握られた抜き身の太刀に、幻之丞はぎょっとする。
その耳を、父親の声が打った。
「刀を取ってきなさい、すぐにだ!」
意味が分からなかった。だが体は反応した。靴のまま、軒から板間へ飛び上がる。ふわりと長い髪が風を切った。父の横を通り抜け、自室へと行こうと庭に背を向けた、その時だった。
何かが、開いた。
言うならあの世とこの世、別の名で言うなら黄泉路への入り口、そんなものがぱっかりと口を開いて、突然姿を現す。庭に開いたその穴の先は暗黒だった。その暗闇の向こうから、えもいわれぬ腐臭が漂って来て。
「…何、これ!?」
ごうと、響き渡る足音、足音、足音。
数えることなど出来なかった。人の形すら成して無い、腐り膿み骨がむき出しになった化け物の足音が、闇の底からとどろいてくる。
その化け物の眼前に。
「幻之丞っ」
両手を広げて、母親が立ち塞がった。化け物の腕が母にかかる。着物が裂かれ牙が刀が向けられても、母は退く事すらしなかった。腐り落ちたその口がばくりと開いて、母の白い肩に食らいつく。
「母上!?」
「行きなさい幻之丞、刀を取るのです。私達が『黄泉軍(ヨモツイクサ)』を押さえていられるのは、僅かな間だけなのだから、」
「でも母上!」
「行きなさいっ」
厳しく叫んだ母親の目線が、幻之丞を見た。
その顔がふわりと優しく微笑む。声をあげる間もなかった。
爪が。
黄泉の兵のその爪が、斜めからその顔を切り裂いた。
避けたその部分に化け物は次々と飛びかかると、その牙でぐしゃりと骨をかみ砕く。喰っているのだ。母を。
「幻之丞!」
響き渡る父の声に、幻之丞は我に返った。
はじかれたように幻之丞は自室へと駆け込んだ。枕元に飾ってるその太刀を、鞘のまま手にして廊下へと飛び出る。
「ちっ!」
目の前に感じる気配を、一刀のもとに切り伏せて。
が、と踏みしめた脚で黄泉軍の足下を払う。崩れたその体を真上から真っすぐ貫き通す。同時に右足をその脇の一人に向かって蹴りつけた。血煙が飛んだ。頭から足先まで己を朱に染め上げて、幻之丞は刀を振りかざす。
「父上!」
斬り合いながら、父親を呼ぶ。
「何処ですか、父上!」
血刀を振りながら、幻之丞は庭へと舞い戻った。
その途端、目にした光景に愕然とする。
「父上!」
死んだ母を護るように倒れ伏した父親の肩に、鍵型に曲がった大刀が突き立てられている。今にも飛びかかろうとする兵達へと躍りかかると、幻之丞は袈裟懸けに切り下ろした。更にその返しで、左手のもう一人を斬りつける。だがその後ろからのびた切っ先が、幻之丞の頬をかすめた。
はあ、と、息を吐く。
きりがなかった。開いては無尽蔵に沸いて出る化け物の山だ。切っても切っても切っても、闇の向こうからそれは延々と走り出てくるのだ。
死ぬかも知れない。
初めて、そう思った。
「そんなの嫌だ!」
その思いを振り払うように、幻之丞は太刀を薙ぐ。既に手足のあちこちに刀傷が出来ていた。切れかけた息を必死に継いでも、ぜいぜいと肩が上下した。
ぐいと、手を引かれる。捕らえられたと、ぞっとして幻之丞は振り向いた。その体が浮き上がった。抱え上げたのは、さっきまで伏せていた父の腕だった。幻之丞を連れ、父親は走った。ぐしゃと胸の辺りで嫌な音がした。背後から飛んできた槍上のものが、父の背を貫いていた。それでも、幻之丞を部屋の一室に放り込むと、堅く部屋を閉める。
だが、こんな事をしても、大してしのげはしないだろう。
父はそれを知っている筈だ。それなのに。
重いながら父親を見遣る。幻之丞の前にがくりと膝をつくと、父親は背から槍を抜き取った。幻之丞は慌てて父の体を支える。その幻之丞の両肩に手をかけると、父親が低い声でこえ告げた。
「幻之丞、…よく、聞きなさい。」
「はい、…父上、」
はあ、と父が息をつく。その体から力が抜けるのを、必死で支えようとしていた。
まだ、幻之丞に言わねばならない事がある。
「あれはお前の糧だ。闇を食らい黄泉を食らい冥府を足下に敷いて、お前は生き延びる者なのだから。」
「それは、…どういう…」
「言わずとも解る。…お前のその血が、知っている。」
父親の言葉の意味は、少しも理解できなかった。
それなのに、知っている気がする。何もかも、分かっている気がする。何故。
父の手が、ゆっくりと伸びた。
「…これが、…私が、お前にしてやれる、最期の事だ。」
父親の手が、頬に触れた。その指が優しく血を拭うのを、黙って幻之丞は見つめていた。
そうして。
父が口にしたのは、あの祝詞だった。
元服の際に覚えろと言われた、あの祝詞だった。
その言葉を口にしながら、父親がまっすぐ幻之丞を見た。段々と声がかすれてゆくのに、唱えるのを止めずに。
頬をなでた指が、…額に触れる。
「ア………っ!?」
額が、熱い。
振れられた額が焼けるようだ。と、同時に、…額の奧に隠された何かが、無理矢理引きずり出されるような感覚。
「ウォオオオ……ッッ!!」
幻之丞は、咆哮した。
それを遠い意識の中で、聞いていた。
己の声ではもはや無かった。地の底から沸き上がるようなその声に、黄泉軍が動きを止めた。
信じられない程の乾き、信じられない程の、…飢え。
脚を巡る手を巡る心臓を巡る血の流れの全てが、たとえようもない程飢えていた。或いは灼熱の火に焼かれるように、或いは凍土に身をさらすように、或いは濁流に全てを押し流されるように、飢えは幻之丞を覆い尽くし、全身を駆け巡る。
『喰ラエ、喰ラエ、喰ラエ、喰ッテシマエ』
告げるのは誰だ。
『オ前ニ牙ヲ向ケル全テノ闇ヲ、飲ミ込ミ引キ千切リ切リ裂イテ、喰ライ尽クスガ良イ』
嘲るのは、誰だ。
己の咆哮に身を震わせながら、幻之丞は部屋から躍り出た。もはや人のスピードでは無かった。切っ先は触れたことすら気付かせずに兵達を穿った。飛び散った血の匂いに叫ぶ。開いた口から牙が伸びた。黄泉軍の喉笛に食らいついた。広がる闇の匂い。その匂いごと、鋭い牙で引きちぎる。
飛び、割き、弾き、そうして喰らう。
黄泉軍は恐れおののいた。その間を飛び荒び、幻之丞は吠える。
「アアアアァ……ッ!!」
ぐしゃり、ひしゃげる兵達の四肢。
惨劇を産んでいるのは、今や幻之丞の方だった。



……やがて。
しめやかに響く雨の音だけが、その庭を濡らしていた。
他に何一つ物音のしないその場所に立ち尽くしていたのは、か細く小さな子供だけだった。
濃く立ちこめる血の匂いを、柔らかい雨が押し流してゆく。だが流せない闇の暗さが、すぐにでも世界を押し包んでいて。
「…………」
何もかも放心してしまったように、幻之丞は立ち尽くしていた。
ふわりと、幻之丞が顔をあげる。
こびりついた血を、雨が流してゆく。
その下に覗く表情は、ひどくあどけなく幼くて。
天を仰ぐ幻之丞の顔を、泣き濡れるような雨の雫が、いつまでも伝い落ちていたのだった。