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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


神の剣 異聞 Invisible Blade 3 綾和泉匡乃編

 あれから友情を深め、退魔行も2人で行う事が多くなる織田義明と衣蒼未刀。
 義明は未刀に剣と神秘を教えていた。
 彼は知識を徐々に物にしていく。
 あなたも未刀の変わる姿が楽しく思えた。

 ある日、2人は大きな仕事に出掛ける。まずは下見だ。
 どうも、おかしなマンションがあるらしい。死人の山を見つけたと通報が入ったのにも、駆けつければ、そんなことは全くなかった。
 警察では全くわからないようになったため、長谷家に“仕事”が来る。其れを通じて、義明達が仕事を受け持つ形になった。
 故に、建築家でもないが、下調べで一度訪れる義明達。
「異様な気分になる」
 未刀が呟く。
「固有異界か? 超越するための儀式なのだろうな」
「超越……こんな能力をもって何を得たいのだろう?」
「何、霊長の魂の高みを目指すなど、魔術師を筆頭に神秘使いにとって基本的なことだ」
「そうか……」
 お互い、まずは間取りを調べた後、本業準備の為に一度戻る。
 “気配”がする。
「魔術師か……三滝を思い出す」
 義明はごちた。
「三滝?」
「ああ、前にかなり戦った死者の魔法使いさ」
 
――あの神の子に封門の剣士か……。
――嬉しいぞ……織田義明、衣蒼未刀……そして……
 
 “気配”は喜んでいた。


〈いきなり携帯〉
 携帯が鳴った。
 つい最近の人気アーティストの歌になっており驚く2人。
「だれの?」
「俺はそう言うのは入れない」
「僕だって……」
「しかし鳴っているのは君のだよ」
「あ」
 確かに未刀の胸ポケットから音が鳴っている。
「匡乃……また僕の携帯を弄って」
 渋々、未刀は携帯を持った。
「もしもし 匡乃?」
[あ、やっとつながりましたか〜]
 声の主は、未刀の保護者である綾和泉匡乃。
 保護者というのは建前で、純粋無垢な未刀を玩具にする極悪非道な面を持つ。
 近頃義明にもその手が回っていそうで恐ろしい存在だ。
「何の様だよ? こっちは今……」
[簡単な下見をするって言うことでしょう? 良いから戻ってきなさい。下見はじっくりしてからです]
 心配しているのは確かだが、何となく人をからかっているようにしか聞こえない未刀。
「む、どうする」
「後で後悔するより、匡乃さんの言った事は正しい。まだ見落としている情報があるかも」
 肩をすくめる義明。
「分かった。で僕達はどうすれば?」
[そのまま僕の所に戻ってくればいいですよ]
 と、言って勝手に切った。
「まったく……、僕だって……もう子供じゃ」
 溜息をつく、未刀。
「いま、この中を歩いても、あまり収穫がないのもあるだろうし……戻ろう」
「ああ」
 と、円形のマンションから去っていく2人であった。


〈鬼講師〉
「いきなり、中を捜索というのは無謀ですよ?」
 と、匡乃がニコニコ2人に話しかけている。
 義明と未刀は返す言葉が無く、説教を訊いている。
 自分の非を認めているのだろう。
 からかうことは其処までにして、
「いま、元教え子が不動産やあのマンションの設計関係の資料をあらかた集めてきてくれていますから」
「「うわ、人使い荒い!」」
 義明と未刀が声を揃えて言う。
 匡乃の教え子は、彼の性格を知り尽くしているのか、渋々データで送ってきてくれている。未だファンも居るらしく、資料の他にお菓子まで持ってくる教え子もいる。
 全く持って、匡乃の性格は掴めない。
 真実の性格を知ったらと、未刀は思うだろう。
 多分一部は知っているだろうが……。

「なるほど、やはり此処が」
「で、其処はどうするのです?」
「すっぱり解呪して機能を止めた方がいいですね」
「ふむ、これの解呪って匡乃は疲れるからね」
「面倒なことはしたくないですね。義明君が切り伏せればいいかと」
「滅多に使いたくないんだけど。解の中でも強力なのは」
 と、あーだ、こーだと、資料を持って会議する3人。

 分かったことと言えば、やはり前調べで義明達が知っている事〜つまり、塔自体が結界になり、其れが目立たない様にしている。居住区が太極図を表している。架空名義で人が住んでいることも多く実際済んでいる人数もたかが知れている。エレベーターがある時刻になると、扉が開く向きが変わるという妙なカラクリだ。
 更に分かったとこが、13階と14階の間に機械室があり、また地下駐車場に降りる地下エレベーターも普通のエレベーターの構築上おかしい事が分かった。微妙に長いのだ。
「ほら、大事なところが分かったでしょ?」
 勝ち誇る様にニコニコ笑う匡乃。
 義明、未刀、反論できず、
「参りました」
 2人は潔く頭を下げた。
 ともあれ、匡乃の携帯で彼らは無駄に下見をすることはなくて済んだのだ。


〈毒舌?〉
 義明は一度中に入り、何か仕掛けをおいてきた。
「また勝手なことを」
 と、言われそうだが、義明は予め匡乃に言っておいた。
――無想神格発動。それは、空の様に気配を無くす業。絶対視認探査防御なのだ。しかし時間が制限されている。
「では、参りますか」
 あまり乗り気でない匡乃がサクサク進む。
「楽しんでいるのか、面倒なのかどっちなんだろう?」
 未刀は首を傾げた。
「どっちでもじゃない?」
 未刀の肩に手を置く義明が言った。

 ロビーに立つ3人。
「流石に、これは……」
 匡乃はこの建物が結界を成していることを知って覚悟し入ったものの、独特の閉塞感には堪えられないようだ。
「さっさと済ましてしまいましょう」
 匡乃は目星のついた所に向かおうとする。
「仕切るな、匡乃」
 未刀がつっこむ。

 結界の中で最も歪で弱い場所……
 それは、地下駐車場とそれに通じるエレベーター。
「どうもおかしいのですよね」
 足で確認する匡乃。
 何時でも壊れそうな、危うい場所。
 建築的に歪であり、更に力を吸い上げる動脈の役割だと看破したのは、流石綾和泉家の能力者である。
「ここさえ、肝心の部分を壊せば……結界は停止すると思いますよ」
 簡単でしょ? と2人に微笑む匡乃。
 しかし、義明の表情で、うまく行きませんかと溜息をつく。

 エレベーターに影が蠢き、守らんと匡乃達を襲いかかる!
 未刀が、彼を担いで躱わし、義明が一刀の元に影を斬った。
――我が神秘の到達を邪魔するか綾和泉家
 ロビーから声がする。
「僕の事を知っているとは光栄ですね」
――退魔、神秘の出であれば知っておる
「なるほど」
――壊す輩にはまず死んで貰わなければな……とくに綾和泉……
 ロビーが闇に包まれる。
 前口上なしでいきなり実力行使ですか、と匡乃は思ったが、この暗闇の中では、自分自身も危うい。
 彼は考えた。
「義明君から聞きましたけど、何を持って高みを目指そうとするのですか?」
――言わずと知れたこと、全ての叡智を得るために……神秘使いなら其れが当たり前の
「愚かですね、人として生まれた以上、人として終わります。どのように高みを目指しても、自滅するだけですがね」
――平凡な人間はそうだ。しかし、我は世界から……
「では世界って何です? 宇宙とは? あなたの考えていることは、無駄なのです。勘違いなのですよ。真に力の使い道を知るものはこういう事をしませんね」
――ほざくが良い。綾和泉。お前の力を奪えば、衣蒼も神の子も……
 と、無駄だと思いながら、影と会話している匡乃。
 ああ、コレは狂っている。狂っている相手に価値観など無い、とキッパリ諦めた。

「未刀! 匡乃さんを守れ!」
「わかった」
 と、闇の中を照らし出す若い剣士が、駆ける。
「現象化?」
 匡乃は首を傾げる。
――無駄だ!
 影が魔力を放った。
「あぶない!」
 未刀は透明剣で魔力を切り払う。
「ありがとう未刀君。現象化というのは?」
「生きてもなければ魂もない、空気みたいな存在らしい。義明も説明が付かないとか言っている。しかもとびっきり厄介なのが現象化しているって……」
「それは?」
「三滝尚恭。義明を襲った魔法使いだって」
 其れを聞いた匡乃はやはり、“其れは狂っている”と本当の意味で理解した。
「何を言っても無駄だったのですか」
 と、溜息をついた。

 しかし、その会話が無駄だったわけではない。

 すでに義明が忍び、ある点に立っていることがよく分かる。
 この塔の弱点であるエレベーター。
 匡乃も魅せられる、きらめく透明の刃。
 未刀の様に“真空”でなくしっかり“存在”している日本刀。されどそれは、義明の心を顕したもの。
 神格具現剣・水晶を持った義明が……。
「時間稼ぎの会話ありがとうございます」
 と、匡乃に礼を言って、

 神の剣を振り下ろした。


〈それから〉
 マンションは外見上無傷であるが、あるべき姿に戻す光により、その機能は失われた。
 影の絶叫を聞いたのは、14階。
 其処まで向かうと、痩せ細った男倒れている。
「コレが犯人?」
「そうだね、完全に息絶えている。現象化の知識量に結局堪えきれなかったんだ」
 未刀と義明が確認する。
「あっけなかったですね。しっかり調べるとこううまく行くのですよ」
 匡乃はニコニコ2人に言う。
「勉強になりました」
「たまたまだよ」
 同時に言っているが、意見は別の義明に未刀だった。


 事後処理は長谷家がしてくれるらしく、休憩してからどうしようかと言うことになった。
 匡乃は、
「お仕事お疲れ様。何処か食べに行きますか?」
 と聞いてきた。
「あまり、賑やかな場所は好きじゃない。其れに服がボロボロだ」
 と、未刀は拗ねている。
 匡乃はふと思ったのか財布を確認すると、少し考えて、電話する。
――時間にして、まだ大丈夫か?
「あ、僕だ。3人分追加で作ってくれないか? ああ、友だちも連れてきたいから」
「誰にかけているんです?」
 と、義明が訊いた。
「妹だよ」
「ああ、なるほどっ」
 納得した模様の義明。
 首を傾げる未刀。
 つまり、匡乃の財布はカード以外なかったようだ。
 それに、疲れたところで、外食というのも好きではない。肉親との団らんが恋しくなる。例え、あまり仲が良くなくても、だ。
「さて、いきますか。ゆっくり出来るかも知れませんよ」
 と、匡乃はサクサク進む。
 義明は匡乃の妹さんの料理を楽しみにしてニコニコしているが、未刀は未だ分かっていない。
 その、2人の表情が面白くて思わず宵の空を見上げ笑う匡乃だった。


4話に続く

■登場人物
【1537 綾和泉・匡乃 27 男 予備校講師】

【NPC 織田・義昭 18 男 神聖都学園高校生・天空剣士】
【NPC 衣蒼・未刀 17 男 妖怪退治屋(家離反)】

■ライター通信
 滝照直樹です。
 『神の剣 異聞 Invisible Blade 3』に参加して下さりありがとうございます。
 価値観を壊すというプレイングがどうもうまく言ってない感じなので狂った魔技との時間稼ぎになってしまいましたが……。言葉での論破描写は未熟なようです。
 4話は未刀くんと義明との最終話です。2人に対しての気持ちを書き添えて頂けると、助かります。

 では、またの機会に。