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<東京怪談・PCゲームノベル>


消えゆく世界、残り少ない平凡な一日


 終わりという言葉に、どんな感情を抱くのが普通なのだろうか?

 寂しい?
 辛い?
 怖い?

 いやいや、そうではない。少なくとも、舜・蘇鼓という存在にとっては。



「やーーーーーーー…っと終わるか!」
 蘇鼓は、背伸びをしながら開口一番大きく叫んだ。彼の前にあるのは、一つのテレビ。こんな世界であっても、マスメディアというものはその情報を正確に、特には誇張したりもしながら伝えていた。
 それを見ながら、言う言葉は、
「あー疲れたー! ホンットもうお疲れって感じだな」
 しみじみと、そんな変なことを当たり前のように彼は言った。



 まぁ彼がそんな風に言うのも、それはそれで普通のことなのだ。
 終わりとはゴール。それが彼の考え方。

 そもそも、普通の存在ではない彼は、あまりに長い生を過ごしてきた。
 棲家から動けない父に、ありとあらゆる事象や知識を送り続ける日々。
 まぁ、人間のような短いサイクルの中でそういうことをするのなら、それもまたいい。しかし、紀元前から存在する彼にとっては、この上なく長いものだった。

 長いっていうのは、ただそれだけで退屈なんだ。
 なら、どうしたらいい?
 なら、終わらせてしまえばいい。それが無理なら、終わってしまえばいい。

「おい見ろよギル、あの国が吹っ飛んじまったってよ」
 画面を見ながら、ケケケッと蘇鼓が笑う。
「おーいおい、おいちゃんは悲しいねぇ。たーくさんたーくさん死んじゃっただろうに…俺が殺っちまいたかったなー」
「お前そりゃ悲しむところが違うだろ」
 嘘泣きしながらジェスチャー混じりに言うギルフォードに、蘇鼓は裏手ツッコミを入れた。
 常人からすれば常軌を逸したその会話に、しかし二人は大笑い。
 あぁ、もはや彼らに善悪のことなどどうでもよかった。そも、最初から彼らに善悪などというものはない。
 快楽だけを追求する愉快犯。ただただ楽しければそれでいいのだから。
 まぁ、人間が勝手に決め付けた善悪などというものが、彼らを縛れる道理もないのだが。





* * *



 彼が歩けば、ジャラジャラと派手な音がする。
 無論それは、彼の服装が原因なのだが。
 派手な鋲が沢山ついた闇のような漆黒のレザーコートを素肌の上から纏い、下は赤のボンテージパンツにブーツで決める。明らかに趣味が悪い、というか悪趣味。
 この世界が、『いたって普通の世界』なら、きっと呼び止められて職務質問されそうな勢いだ。
 だがしかし、彼を呼び止めるものなどいない。いや、いるのにはいるのだが、それは暴力に狂った人間くらいのもので、結局そういう輩がどうなるかは言わずとも分かるだろう。

 今日も、彼らの目の前で堂々と犯罪(と前は言われていた行為)が行われていた。だがしかし、それと止めるものはいないし、彼らも止めはしない。
 そんなとき、ぷぎゅり、と何か潰れるような情けない音が響いた。
「…んあ?」
 隣を見れば、何時もそこにいる汗っかきのあいつがいない。いや、いないわけではないが、潰れていた。
 帝鴻、職業肉団子。喋ることも出来ずただのたのた動くことしか出来ない彼は、存在感もなく潰されていた。
「うおーい、大丈夫かー?」
 蘇鼓は、とりあえずその肉団子を手にとってみる。すると、帝鴻はプルプルと悲しそうに体を震わせた。
「…なんだ、もっと踏まれてぇの?」
 ちがーう!と声を大にして言いたくても、彼は喋ることは出来ない。あぁ哀れかな汗かき肉団子。
「よーしよし、分かった分かった。思う存分踏まれてこいやー!」
 帝鴻大投擲。そして聞こえる、ぷぎゅりぷぎゅりと小さな悲鳴(?)。
 そんな、穏やかな一日。…いや、どう考えても穏やかじゃないんですけどね。



 まぁそんな馬鹿な毎日は、彼にとっては普通のこと。
 そんな日々の中で、最近彼の考える時間が増えていた。
「……」
 まだ何かを奪い合い殺しあう人間たちを、彼はボーっと見つめながら思考に耽っていた。

 この世界が終わると言われ始めたのはつい最近。原因は、よくは分からない。
 しかし、彼にはなんとなしに分かった。あぁ、世界が終わりそうだと。
 最近の世界が糞ったれな世界だったのは、彼もよく知っている。別に今更滅ぶだなんだと言われたところで不思議にも思わない。
 ただただ自分たちの快楽のために奪い、壊し。そうして出来た、砂上の楼閣。
 本当なら、この世界の肥やしとなるはずのものは流されず、流されていくのは作り出された毒。
 今更になって声高にそんなことを叫んでも、既に何十年前から行われてきた行為は消えることはない。
 滅んで当然なのだ、この世界は。人間が全てを壊してしまったのだから。

 それはいい、それはいい。
 しかし、彼はこの世界に違和感を感じていた。

 多分、それは彼が初めてあの少女を目にしたときからだろう。
 何処の馬の骨とも知れないようなやつらが祭り上げ始めた一人の少女。その長すぎる生の経験がなくとも、彼女が普通の存在ではないということは容易に理解できた。
 確かに、彼女ならば『本物』だろう。きっと、この世界もそうだ。
 だがしかし、この違和感はなんだろう?
 違和感だと分かるのに理解できない。それは、あまりに不思議で気持ちの悪い感覚。
「…まだ何かあるのかね?」
 彼はボソッと呟いた。ギルフォードはどうやら誰かを殺しに行ったのか、何時の間にか隣にはいなかった。肉団子帝鴻も未だにあちらで踏み続けられている。
 彼の呟きに、答えるものはいない。
「まぁそれならそれでいいけどよ」
 あぁ、それでいい。
 生きすぎた彼に、終焉をもたらしてくれないのなら、こちらからもたらしてやればいい。
「“この世界”にはもう飽きてんだから」
 終わらないのならば、自らが終わらせるだけ。
 ケケケッ、とまた彼は暗く笑った。



「なーに楽しそうに笑ってんだー?」
 気付けば、ギルフォードが帰ってきていた。返り血にその身を染めて。
 しかし彼はそんなことを気に留めることはない。何時ものことなのだ。
「何でもねーよ。ギルこそ何処行ってたんだ?」
 聞かずとも分かるはずなのに、彼は問う。ギルフォードのその答えが楽しみなのだ。
「何処って、そこら辺?
 ボクちゃんが歩いてると、なんか皆が怖がってボクちゃん殺そうとしたから、怖いから殺しちゃった…」
 おー怖い怖い、などと体を震わせるギルフォード。
「そりゃてめぇが一方的に殺したんだろうがー」
「あぁん、蘇鼓ちゃんてば酷い! ボクちゃんそんなに酷くないもん!」
 オーバーなリアクションをとるギルフォード、そこにやっと戻ってきた帝鴻がいた。そして、ぷぎゅり。
「「…あん?」」
 二人して下を見てみれば、またそこで潰れる汗っかきな肉団子。あぁ、彼は永遠にこんな役回りなのか。

「…なぁ。こいつってばおいしそうじゃね?」
 そんな肉団子をツンツンしながら、ギルフォードが何かとんでもないことを呟く。
「あー…どうなんだろうな。俺味見したことねぇや」
 そして、親友(のはず)の蘇鼓もそれに何となしに同意しやがった。思わず身の危険を察して飛びのく(と言いながらのそのそとしか動けていないが)帝鴻。
 そんな肉団子に、二人は一斉にその眼を向けた。何処となしか、二人ともニヤっとしているような…?
「なぁ、この際だから味見してみねぇ…?」
「いいねぇ、どうせ少しくらいならすぐに再生するだろうから」
 肉団子帝鴻、人生(?)のかかった大ピンチ。何かジリジリと近寄ってくる二人のあまりの怖さに、彼は思いっきり逃げ出した。
「あはは〜待てよこいつぅ」
「そうだよ帝鴻君、君と僕たちの仲じゃないかー」
 そんな肉団子を追いかける二人、何故か顔は少女漫画風にきらきらだった。
 そして、辺りには悲鳴(と思われるもの)が響いた。



 お仲一杯幸せ一杯。蘇鼓とギルフォードは二人仲良くお腹をさすっていた。
 帝鴻は…まぁ、きっと今頃何処かで一人泣いてるのさ、うん。
「意外に美味かったなー」
「おう、あれならまた食べてぇな」
 彼らが何を食ったのかはお察しください。





* * *



 そして、日が暮れ月がのぼっていく。今日も、何事もなかったように世界は一日を終えた。
 まだ、終わりは来ない。確かに気配はあるのだけれど、されど何時かは分からない。

 あれから、世界の闇を照らし続ける人工的な光は激減した。おかげで空に輝く星がよく分かる。
 しかし、二人はそんな詩的な人物ではない。普通の人間なら感動を覚えるそれにも退屈を感じていた。
「なー」
「あん?」
 その日寝床にしていた巨木の枝から、ギルフォードがぶら下がりながら蘇鼓を呼び、彼もすぐにそれに答えた。
「あのよーあの…なんつったっけ、あのチビ女。最近よく見るじゃね?」
「チビ女?」
 そして少し考えて、あぁと彼は手を叩く。
「あの…俺も名前忘れちまったけど、あのどこぞの馬鹿どもが騒いでるあれだろ?」
「そうそうそいつ。あれってばよー地球の化身だとか何とか言ってんじゃん?」
「おう、それが?」
 不思議そうな蘇鼓に、ニヤーと厭らしい笑いをギルフォードは浮かべた。
「殺してみたくねぇ?
 地球の化身だとか言ってるけどよ、なら殺したらこの世界どうなっちまうんだろうなーと俺ちゃんは思っちゃったわけよ」
 それは、蘇鼓が考えもしなかったこと。それは確かにどうなる?
「でもよ、それやって、本当に地球滅んじまったらどうすんのてめぇは?」
「なーに言ってやがるよ、俺ちゃんが死ぬわっきゃねーだろー?」
 ゲラゲラ笑うギルフォードに、蘇鼓もケケケッと笑った。
「てめぇは死んじまうってばよ。まぁでも楽しそうだなそれも、色々しんどそうだけどなー」
「バーカ、それが楽しいんじゃねぇかよー」
「ま、そりゃそーだ」
 そして、また二人して笑った。常軌を逸していても、それが彼らの楽しみなのだから。

「さって、それじゃいっちょやりますかー?」
「俺ちゃんの手が殺したい殺したいって寂しがってるからなー」
「言ってろバーカ」
 そして二人は駆け始めた。その後を、のたのたと肉団子も追いかけていく。
 目標は地球を体現したようなあの少女。何処にいるかは、分からない。
 それでも彼らは駆けて行く、ただ楽しみのためだけに。
 世界を敵に回して、悪餓鬼二人と一匹が今日も行く。



 終わってないなら、楽しみなんて幾らでもあるんだからよ。





<END>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3678/舜・蘇鼓(しゅん・すぅこ)/男/999歳/道端の弾き語り/中国妖怪】

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■         ライター通信          ■
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 どうも初めまして、へっぽこライターEEEです、今回は発注ありがとうございました。



 ギルフォードとの悪餓鬼コンビということで、こんな感じにしてみました。きっと二人はどんなことにでも笑ってるんだろうなぁと想像しつつ。
 実はギルフォードは個人的にかなり大好きなやつなので、書けたことが嬉しかったりします(笑
 世界が終わった後のことは…どうなるんでしょうか?(をい

 それでは今回はこのあたりで。ありがとうございました。