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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


だって『こどもの日』だから…

1.
「お兄さん、クール小包が届いています」

 玄関でなにやら対応していた草間零は小さな小包を抱き、兄・草間武彦の元へとその小包を運んできた。
「誰からだ? まさか、無記名とか言わないよな?」
 クライアントへの報告書を作っていた草間武彦は一旦その手を止め、零を見据えた。
 たまに逆恨みで剃刀レターよりも恐ろしい物を送ってくる輩もいる。
「いえ、無記名ではありませんが…。…もっと怖いかも…」
 ぽつりと言った零の顔は不安を隠しきれない。
「? 誰からだ?? 何を送ってきたんだ??」
 そう言った草間に、零は答えた。

「『全国草間武彦ファンの会』から『柏餅』が届いています」

 『全国草間武彦ファンの会』とは。
 草間武彦のファンクラブらしく、時々色々な物を送ってくる団体である。
 しかし、いまだかつてその贈り物が騒動の原因にならなかったことはないという奇妙な団体である。

「…柏餅? 本当に柏餅か? 正真正銘?」
「はい、そう書いてあります」
 零は、ゴソゴソと包みを開けた。
 中からは見目麗しく美味しそうな柏餅が現れた。
「…ん。今回は本当らしいな。どれ」
 そう言って恐る恐ると草間は柏餅を口に放り込んだ。
「あ、待ってください。メッセージがあります」
 零は、小包の中に入っていたメッセージを読み上げ始めた。

「えーっと。
 『こどもの日ですから、たまには子供に戻って羽を伸ばしてくださいませ』 …ですって…」

 そして顔を上げた零の前には、一回り以上小さくなった草間武彦がいたのだった…。


2.
  ――― 同時刻、都内道路上の車中。

「あ、ねぇ。あそこのビルの前で止めてくれない?」
 降って湧いたように思い立ち、大和鮎(やまとあゆ)は隣で運転していた従兄弟の大和嗣史(やまとしふみ)にそう言った。
 鮎の指差したビルまであまり距離がなかったため、嗣史は慌ててブレーキを踏んだ。
「もうちょっと早く言えよ。車は急に止まれないんだぞ?」
「うん。でも、止めれたからOKじゃない。ちょっと草間さんとこに寄って行こうと思って」
 嗣史の言葉を意にも介さず、鮎は車を下りながらそう言った。
「草間? あぁ、おまえが最近世話になってるっていう探偵か」
「…違うったら。アタシが世話になってるんじゃなくて、あたしが世話してるの」
 あくまでも笑顔で反論する鮎に、嗣史は「はいはい」と答えた。
 鮎のこういったわがままな発言はいつものことだった。
 だから3割ぐらいを引いて話を聞くことが嗣史は身についていた。
「じゃあ、俺はここで待っていればいいのか?」
「待ってるの退屈でしょ。車置いて事務所に来たら? 草間さん、紹介してあげるから」
 嗣史の返事を待たず、鮎は草間興信所へと歩き出した。
「…路駐しかないじゃないか」
 幸いこの辺りはあまり人通りが多くないようだ。

  きっとどこかに邪魔にならないような場所があるはずだ。

 嗣史はそう思い、車を移動させることにした…。
 

3.
 少し離れたところに『草間興信所来客用駐車場』と書かれた看板を見つけ、嗣史は車をその看板の示す先へと走らせた。
 …確かに、それはあった。

  まさか、ただの空き地だとは思わなかった。

 しかも結構遠い場所だったので、嗣史は草間興信所まで歩くことを余儀なくされた。
 先ほど車で通った道を今度は反対に歩いていく。

  これが俺じゃなくて鮎だったら、完全に迷ってるな。

 そんなことを思いながら、草間興信所のビルへと入った。
 興信所の扉を開けると、不可思議な風景が目に飛び込んできた。
 鮎と話す少女はまだ10代だろうか、とても幼く見える。
 それに、その事務所内にいたのは鮎とその少女を除けば全て小学校低学年と思われる子供たちである。
 さすがに不審に思って、嗣史は鮎に話しかけた。
「鮎、今日は草間探偵はいないのか? というか、この子供たちは…?」
 怪訝な顔の嗣史に、鮎はにっこりと笑った。
「ちょっと席外してるらしいから、柏餅でも食べて待っててくださいって」
 そういって、鮎は嗣史に柏餅を1つとって差し出した。
 嗣史は少し首を傾げたが、「あぁ」と納得して受け取った。
「今日は端午の節句だったな」
 ずいぶん昔の行事のことに感じたが、それは自分が大人になったからだと思った。

 嗣史は、受け取った柏餅を一口食べた。

「やった!」
 鮎が思わずそう叫んだ。
 嗣史は嫌な予感がした。
 そして、それは正しい予感だったと思い知らされた。

 嗣史の体はみるみるうちに小さくなり、遂に嗣史は子供の姿になってしまった。

「うわ! 懐かしい。本当に子供に戻ってる♪」
 嗣史の変化に鮎は大満足で、喜びを隠せないようだ。
「鮎。俺だからいいけどお前他所様にこんなことするんじゃないぞ」
 何かを仕掛けられることも昔からの鮎の悪い癖だ。
 すっかり慣れっこになってしまった嗣史は、ただ、呆れという諦めの境地にいた。
「そうそう。嗣史って昔っからそういう口調だったのよね〜」
 キャッキャと喜ぶ鮎に、嗣史はそっとため息をついた…。


4.
 嗣史の説教もウマの耳に念仏とばかりに聞き飛ばしている鮎の元に、小さな少女がやってきた。
 鮎はご機嫌なままで嗣史を紹介することにした。

「あ、シュラインさん。こっちあたしの従兄弟で大和嗣史(やまとしふみ)ていうんです。…柏餅食べさせたから、子供になっちゃったてますけど、れっきとした大人です」
 どうやらこの少女も柏餅を食べた1人らしい。
 シュライン・エマという名は後で鮎から教えられた。
 にこりと紹介した鮎に、紹介された嗣史が一礼して挨拶した。
「初めまして。いつも鮎がご迷惑をおかけしております」
 子供の姿でそう言われ、鮎はツンとそっぽを向いた。
「迷惑なんかかけてないわよ。むしろ、あたしは役に立ってるんだから」
 先ほどと同じ問答をまた繰り返す。
「そういう考えが子供なんだ。まったく…」
 子供に戻った自分に子供と言われた鮎。
 傍から見たらおかしな2人だろうな…と嗣史は思った。

「おーい! シュライン、出来たぞーーー!!」

 草間からお呼びがかかり、嗣史と鮎もそちらへと移動した。
「みろ! カブトがあるんなら剣も必要だ! これぞ日本男児!」
 草間が新聞紙で作ったカブトを被り、手に新聞紙を丸めて作ったらしき棒状のものを持っている。
 これが鮎の言う草間探偵らしいが、疑問の念を振り払えない。
 どこから見ても普通の子供のようじゃないか。
 …と、うしろからトントンと肩を叩かれた。
「すいません。あの…こんなことに巻き込んで申し訳ないです。あの柏餅は食べると子供に戻ってしまうという柏餅なんです…」
 鮎と先ほどまで喋っていた少女が、嗣史に平謝りした。
「俺は鮎のこういう悪戯には慣れますから。あぁ、1つお聞きしたいんですが、この柏餅には副作用なんてあるんでしょうか?」
 冷静にそう聞いた嗣史に零はうーんと考え込んだ。
「一応、今日いっぱいは作用が続くと書いてありましたが…副作用までは…」
「…そうですか。ひとまず、この状態が今日中で終わることが判っただけでも幸いです」
 嗣史が微笑むと、少女は1枚の名刺を出した。
「あの、これ兄の名刺ですが。何かあったらお知らせください。あ、私は妹の草間零と申します」
 ぺこりと頭を下げた零。

  鮎にもこの子ぐらいの気を回して欲しいもんなんだが…。
  …ま、いきなりそうなられても驚くか。

 などと、嗣史は考えていた。
 
 パコーンと音がした。
 嗣史と零が振り向くと、どうやら草間がもう1人の少年・梅・海鷹(めい・はいいん)に叩かれたらしかった。
「不意打ちとは卑怯だぞ! 正々堂々と勝負しろ!」
「勝負に正々も堂々もあるものか! これで私の2勝だ!」
 わははっと高笑いする海鷹。
 話が全く見えないが、どうやら先ほどからこの2人は勝負していたらしい。
「ち、やってられるか!」
 そう言うと、草間はふてくされてソファにドカッと腰掛けた。
「大体俺は大人だぞ? なんでこんな子供じみたことを…」
 そういってタバコを吸おうとした草間に鮎がすばやく動いた。
「坊や、煙草は駄目でしょ?」
 にっこりと笑った鮎が、タバコを手に持っていた。
「だって子供がタバコなんてよくないでしょ。自覚ある? 草間さん、今は子供なのよ?」
 嗣史は、少し意地悪をしたくなった。

「で、おまえはその子供の運転する車に乗って出かける途中じゃなかったのか?」

 鮎がハッと振り返った。
 嗣史の言葉で、とんでもない事実を思い出したようだ。
 だが、すぐに鮎はにっこりと笑って言った。
「そうだった。忘れてたわ。早く行かなきゃいけなかったのよね」
 そう言うと、鮎は嗣史を引きずりつつ「おじゃましました〜」と草間興信所をあとにした。

 どうやら、彼女は嗣史が運転できないということよりも、行き先が別にあった事のほうが重大らしかった…。


5.
「で、どうするんだ? おまえ運転できないだろう?」
 車を前にした鮎に、嗣史にそう問った。
 鮎は黙り込んでしまった。

  ようやく事の重大さに気がついたのか…。

 だが、鮎はそんなコトでへこたれるような女ではない。
 にっこりと営業スマイルで嗣史にこう言った。

「嗣史ってば子供の頃と顔変わらないもん。免許証提示しても、絶対大丈夫だと思うのよね。だ・か・ら…」
 鮎は一旦言葉を切り、嗣史をまっすぐに笑顔で見据えた。

「頑張って運転してね?」

 その笑顔は、どれだけ財布の紐が固いお客でも思わず買い物してしまうくらい強烈な笑顔だった。
 嗣史ははぁっとため息をつくと運転席に座った。
 いつでも嗣史は鮎のわがままに付き合う覚悟はできていた。
 …お説教付きで。

「大体、鮎は本当に計画性がなさ過ぎるんだよ。ほら見ろ。興信所によったから遅刻寸前じゃないか」
「間に合っちゃえば文句言われないから大丈夫よ! あたし、運はいいの♪」
「本当に、そういうこと言うのは俺だけにしとけよ」

 車中、そんなコトを言いながら2人は本来の目的地へと向かい、車を走らせていったのだった…。



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■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

4971 / 大和・嗣史 / 男 / 25 / 飲食店オーナー

3580 / 大和・鮎 / 女 / 21 / OL

3935 / 梅・海鷹 / 男 / 44 / 獣医


■□     ライター通信      □■
大和嗣史様

初めまして、とーいと申します。
この度は「だって『こどもの日』だから…」へのご参加ありがとうございました。
今回はご参加いただいたうちの3名様に子供化していただきました。
戻った年代としましては10歳前後…と設定させていただいております。
子供っぽさが強く出たPCさまを描写させていただいておりますので、普段の皆様とは少々違う事をご了承ください。
鮎様との掛け合い、とても楽しく拝見しました。
子供の頃から苦労させられてきたのかなぁ? 等と考えつつ、書かせていただきました。
色々と気の回る方のようでしたので、楽しく書かせていただきました。
ありがとうございました。
それでは、またお会いできることを楽しみにしております。