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<東京怪談・PCゲームノベル>


神の剣 吸血通り魔事件2 影法師

 謎の影法師と遭遇し、それが何を目的にしているのか未だ謎に包まれている。
「一体奴の目的は?」
 という、事を残し、それぞれが行動に出る。
 ディテクター、鬼鮫はすでにどこかに去っていった。

〈1/序〉
 御柳紅麗が織田義明に、
「俺は一度茜の家にいくわ」
 と、言った。
 義明が何か言おうとしたとき、
「なに、戦闘に特化したのが2人いても大して情報収集できないだろ?」
 と、爽やかに笑う紅麗。
「ああ、茜の方に蓮也が居る。あの二人を護ってやってくれ」
「任された」
 と、紅麗は去っていった。

 聖武威は、
「義明って言うんだな?」
「はい、そうですけど」
「此処であったのも何かの縁、最後まで付き合う」
 すこし、機嫌が悪そうに言っているが、義明に対してではなさそうだ。
「大丈夫なのですか?」
「なに、俺はこういった“事柄”に対応出来ない者じゃねえ」
 と、笑う武威。
 彼が義明に手を差し出した。握手を求めているのだろう。
 義明は武威の手を握る。
「手助けお願いします」
「ああ」
 そこで、
「義明君」
「どうした撫子?」
 義明の恋人、天薙撫子が声をかけたので義明は彼女の顔をみる。
「暫く、ネットで関係ある事を調べてみます」
 と、天薙撫子が言った。
「とはいっても、サイトではデタラメ……って何時の間にネット覚えたの?!」
 目を丸くする義明。
「義明君の家でこっそり……」
 すこし頬を赤らめクスリと笑って答える撫子。
「まあ、そう言うことなら良しか……撫子のルートは特別だろうから」
 義明は溜息をつく。

 そこで、1人去っていこうとする皇茉夕良。
「どこにいくんだい?」
 と、残った3人が止めた。
「私も事件を調べるために……私なりの調査をしようと思って。あ、分かったとき聖さんにお伝えするわ」
 と、答える。
 武威と義明は顔を見合わせて止める理由が無いし、嘘も付いていない。
「危険となったら、この笛を使って」
 と、義明が投げてよこした良くある笛をわたした。
「これは?」
「その笛を吹いたら、大体位置を掴んで、俺が“跳ぶ”から」
「ありがとう」
「……それと、色々あったけど」
 義明が頬を指で掻きながら、
「……久しぶり。結局この道に足つっこむんだね」
「ええ、久しぶり。其れが縁なのかもね」
 茉夕良は笑って闇の中に去っていった。
 その後、撫子は少しフグ面になっているところ、義明は“違う違う”と苦笑している。


 この時間を少し巻き戻しての長谷神社。
 布団からいきなり御影蓮也が飛び起きた。
「主軸が動いた! ダミーの迷宮が徐々に消えて、いてー」
「びっくりしたあ」
 と、女の子と彼は額を抑えて痛がっている。
「な、なんだ? この痛さは……石頭か?」
「女の子にそんな言い方ないんじゃない?」
 つまり、長谷茜が調査疲れで蓮也の様子を見るために顔を覗いた瞬間、頭を強く当ててしまったらしい。
「あ、す、すまない」
 と、布団に入れてくれたのかと、感謝と少し恥ずかしい気分になっている蓮也18歳。
 茜の方は、既に巫女服で色々腰に符や、退魔刀を持っている。
「おれは、“糸”の解れ具合で動いて、義明と合流する」
「そっか」
「なんだ? 残念そうな顔して」
 と、首を傾げる蓮也。
「私の臨時のナイト様が居なくなるなんて」
「騎士って何処にいるんだよ。それに、お前なら……ぐはぁ!」
 ハリセン一閃。もしかすると鬼鮫の居合いより早い。
「い、いきなりだすな……その業」
「ふーんだ」
 拗ねて明後日の方向を向く茜。
「ああ、それと、お前を守ってくれる奴が入れ違いで来る」
 顔面に真っ赤に跡を付けたまま真剣に言う蓮也。あまり迫力がないのは仕方ない事だが。
「?」
「色ボケだ」
「うん、わかった。からかっておくよ」
「おいおい」
 苦笑する蓮也だった。
――人のことは言えないんだがねぇ。


〈2/破〉
 武威のスポーツカーでは3人以上を載せられないため、一度普通の車を調達することになるが、
「さて、どうしたものか。そんなに車はないんだけどな」
「わたくしの家にワゴンタイプならあります」
 と、撫子が言った。
「其れは助かる。しかし此処からどうやっていく?」
「俺は、場所を知っているから撫子、先に武威さんと共に家に向かってくれ」
「わかりました」
 と、合流先を撫子の家にして義明は後から付いてくると言う。
「大丈夫なのか?」
「だいじょうぶです。彼なら」
 と、撫子は言った。
極力警察に捕まらない速度で走って行く武威の愛車。
 丁度その時、義明から携帯が鳴る。
「蓮也か?」
[ああ、今どこだ?]
「戦いの跡地。俺は今から徒歩で撫子の家に向かう」
[そうか、そこで落ち合おう。茜は紅麗が引き受けると“糸”でわかったし]
「ああ。アイツもそう言っていたからな。撫子の家で」
[OK]
 電話を切り、義明は紅い満月を眺めながら、その場を風のように去っていった。

 紅麗が長谷神社に着いたのはもう夜明けであった。
「つかれたぁ」
 と、へとへとになっている紅麗。
 心労の方が大きいだろう。
「お疲れ様」
 茜が、ねぎらってスポーツドリンクとタオルを持ってきてくれた。
「さんきゅ」
 一気に飲み干して、汗を拭う。
「風呂も沸かしているから、勝手に使って良いよ」
「何か済まないな」
「匂いがプンプンするし……、汗だくじゃ気持ち悪いでしょ? 急ぐ仕事でも、休憩は必要」
「確かにそうだな。言葉に甘えるよ」
 紅麗は、ここで、何かしら冗句を言ってハリセンが来るか茜にからかわれるかは勘弁だし、正直つかれているので休憩はしたかったのだ。
「一寸詳しいことは休んでからに言うから……。風呂借りるなー」
 と、紅麗は感謝して茜の家にあがっていった。


 茉夕良は一度家に戻り、充分睡眠を取った。朝起きるとしっかり食事を摂って、術的なものをウェストポーチにしまい、これらを使い、今の状況を打破すると考えた。
「まず、コマやメッセンジャーが、死ぬ前に力を吸収するらしいから」
 と、部屋を聖別してから、精神をトランス状態にする。
 屍術関係でも占術は仕える。それにより、敵の居場所を突き止めること。そして、大体の情報を得て、皆に伝えることなのだ。独りで居るのは集中してこの念視を行いたかったのである。
 其れは時間のかかるものだ。自分が霊から聞いたこと、IO2や義明から聞いた事全てが正しいわけではないし、実際このコマの増殖はダミーなのかも知れないのだ。それにニュースでは一応被害者がいると言うことで情報操作していることだが、此処までの状態(つまりコマが25体以上も存在)を抑えるほどIO2や警察は強くないはず。何処かでぼろが出ているだろう。
――これは丸一日かかりそうね……。
 昼にも“相手”が動くというのか定かではないが、影法師が現れれば、其れを巧く追いかけられるだろうと茉夕良は思った。


 ひとまず、義明と武威、蓮也は、撫子の家でひとまず休憩をとる。徹夜状態での行動は今後ミスが生じるからだ。そして改めて自己紹介などをして、今後の作戦を武威と蓮也、義明で練る。
「まず、コマを見つけて後を追うしかないな。そして其れを尾行して敵の本拠を見つけ出す」
 武威が言う。
「其れには異論はないね。あとはうまく……武威さんの能力と……」
 義明が蓮也を見る。
「上手く、宿命を結びつけて中心を見つけるかだよな。大きな儀式場だし探すのには手間がかかるだろうけど……」
「ああ」
 2人は頷く
「ところで、撫子さんは?」
 蓮也が義明に訊いた。
「私室で、ネット格闘中だよ。流石に“天薙”関係の情報は極秘モノが多いことと……」
 と、義明が喋り続けようとしたとき。
「義明くーん。変なエラーが出たんですけどー」
 と、大声で撫子の声がする。
「これだ。未だ始めたばかりなので、一寸恥ずかしいらしい」
 と、肩をすくめる義明だった。
 撫子のネットからの情報を持ってしても影法師に近づく真実を見つけることは出来なかった。蓮也のこの地域全体に儀式的価値があるという事、紅の月に何かあるという情報が有力で、武威と蓮也の追跡コンビネーションにかかっている。
「吸血種ということだから、まずは……夜を待つか」
 と、武威は言う。
 他に此処で何が出来るわけでもない。
 精々、護符や簡易装備の整えを義明達がするだけだ。
「紅麗の方にも、この事はメールで話した方が良いな」
 義明が紅麗にメールを打った。
 撫子は未だ、ネットで紅の月を調べるという。

 紅麗は、メールを受け取ると。真剣な顔つきになる。
「やっぱり、手がかりは少ないか」
 舌打ちする紅麗。
「真実は未だ見えないのね。影法師のことと、月だけか……」
 巫女服姿に帯刀している茜は考え込む。
「何か分かるか? 影とか変なものとか?」
 紅麗は茜に訊いた。
「撫子さんみたいにウチは大きな“組織”じゃないからなぁ。その分、細々としたのは知っているけど」
「そうか、組織が大きくなるとアリが入る隙間が出来るから一寸したことでも伝承は残せるんだ」
「そう言う事ね。其れに私は“時空魔技(クロノマンサー)”だから」
 茜は自分のことを魔技と言う。
「其れが関係あるのか?」
「多少の時間流や過去に何があったなどを魔法、魔術で見定める事を得意とした魔技。流石に今の技量では時間道路に長時間入るとか、タイムスリップは出来ないけどね……」
 苦笑する茜。
「こっちでも、時間魔術で検索して調べてみるから……」
「わかっている。なにかこっちに来たとき守ってやるよ」
 斬魂刀を自分の手元に戻してニヤリと笑う紅麗だった。


 そして、夜。
 茉夕良の瞑想は、在る場所で“コマ”を見つけ出す。
「ここから、自転車で……むりだわ」
 武器を大型楽器ケースにしまい込んで、彼女は家を出た。
 まだ、力の量が違うので“食事”はしていないだろう。
 同時に蓮也の“糸”がある場所に“コマ”が動き始めたことをしる。
 茉夕良のことは蓮也は知らないために、彼女に関わる糸は見えていない。
「急ごう」
「まかせろ! 皆乗れ!」
 ワゴンに乗り込む蓮也と撫子、そして義明。
「シートはレース用が良いんだが、贅沢は言ってられねぇ! 飛ばすぞ!」
 と、彼の目つきは今までより変わっている。
 ワゴンは“コマ”を追うためかなりのスピードでとばす。
 しかしそのドライビングテクニックは息を飲むものだ。
「ヒョッとしてライセンス持ち?」
 ナビを務める蓮也が武威に訊く。
「言わなかったか? 日本でフォーミュラー・ニッポン(旧名・F3000)のレーサーさ」
「おお、それは! って、こっち右だ」
「おう」
 見事なコーナリングを見せる武威。
 撫子はまだネットと格闘していたのだが、流石に車の中でパソコンを弄るのは車酔いしかねないので止めた。
「街中でジェットコースターに乗っているみたいですね」
 と、揺れに堪えている彼女が苦笑する。
 紅の月について、今確実ではないこと……長谷家と協力して探すしかないのだろうかと思う撫子だった。


 一方、ディテクターと鬼鮫は縁があるのか、コマ狩りを始めて、合流していた。
「何体殺った?」
「数えねぇ。貴様こそ毎日吸う煙草の数なんか数えてねぇだろ?」
「おなじもんか……」
 背中合わせで
「くそ、まるで俺たちは罠にはまったみたいだな」
 鬼鮫がコマを斬り飛ばしていく。
「同感だ」
 “紅”が吠える。
 おそらく、影法師とその核たるモノがこの二つの抑止を抑え込もうとしているか、利用しようとしている。其れを多少知るのは精々ディテクターぐらいであろう。
 やはりコマの数と人間のキャパでは堪えきれなくなる、ディテクターと鬼鮫。
「こんなところで死ぬことはねぇと思うが……歳はとりたくねぇな。ディテクター」
「全くだ、隠居すればいいんじゃねぇ?」
「うるせえ。道開くから援護しろ!」
 と、良いながら確実に“コマ”を排除していく。いったん逃げるのが優先だ。
 鬼鮫が刀で切り刻もうとする瞬間。
「「!!」」
 IO2の2人は身をかがめた。
 辺り一面が水浸しになったかのように見えたとたん。光でコマが灰にもならず、浄化されていく。
「小僧の光?」
「いや違うな」
「はしって!」
 光の先に少女の声がする。
「あの時の女の子か……」
 ディテクターは煙草が濡れてないか確認して立ち上がった。
 その先には、
 少女が振るうには大きめの西洋剣を掲げていた皇茉夕良だった。
「此処に沢山“コマ”があると分かったので来てみたんですが……あぶなかったですね」
「まあ、其処のオヤジが歳だからな」
 ディテクターは煙草をふかす。
「探知が出来るのか? 嬢ちゃん」
 ガンマンを睨みながら、鬼鮫が訊く。
 茉夕良は頷いた。
「もう一点……此処から少し5〜6分先にコマが活動しているようです」
 と、伝えたとたん……。
「いくか」
 と、IO2はかけだした。
「ま、待って下さい! 私も」
 と、茉夕良は追いかけた。



 長谷神社で茜の瞑想が終わる。
「……やはり、コレだったのかな?」
「どうだった?」
 時間道路から戻った茜は汗ばんでいた。
「未だ確証は掴めないんだけど……多分撫子さんの方も何か分かっているんじゃないかなって……あまり役に立つ時間軸を覗けなかった……」
「いや、それより……俺がいて助かったと思って欲しい」
「え?」
 紅麗の様子がおかしかった。
 かなり血まみれになり、命に関わる呪いを受けた目を封じる眼帯を何とか結び直しているほどボロボロで躰はかなり疲弊している。
 長谷神社の庭から出た茜に寒気が走った。
 コマではなく、悪鬼の類が周りを囲んでいたようで、長谷平八郎と紅麗、そして静香で神社とその継承者を守ってくれていたらしい。相手を全て浄化している。
「全体を見渡せるようじゃ。あの敵は……強い。」
 同じく満身創痍の父親。
「静香!」
「分かりました」
 急いで茜は静香と同調し、治癒を開始する。
「ここは、俺たちで何とかしないと……皆の避難場所を壊されちゃいけねぇ」
 治癒を受けてすっかり元気になった紅麗が言った。
「本当は……義明の所に向かいたいけどな」
 と、呟く紅麗だった。


 車を飛ばす武威の前に、人がふらついて道路を渡ろうとする。
「うお!」
 急ブレーキをかけた武威。距離感覚的にはギリギリのタイミング。
「あぶねぇじゃないか! ……おい! 聞いているのか?!」
 と、人に怒鳴るも、返事がない。
 人には怪我はない。が、目が虚ろで、はっきりいって
――生きている死体だ……。
「あれだ!!」
 と、蓮也と義明が叫ぶ。
「何?! あ、あれか!」
 武威は前もって猟犬座をセットしていた魔法銃で、そのまま“人”に向けて撃った。
 しかし、目標には実害はなく、その人はそのまま、ぼうっとして道路を横切っていった。

 しかし、魂やエネルギーと言った“モノ”に黒い犬がつきまとっている。
「これで良し! あと……」
 と、魔法銃をホルスターに入れ、追跡能力を自分に完全付与する。
 ワゴンを何処か安全な場所において尾行するとき……
 義明が、携帯のメールを見て真っ青になる。
「どうした?」
 武威と蓮也が聞く。
「長谷神社が狙われた……茜たちは無事だが……」
「……」
「紅麗が守ってくれた。借りが出来てしまったな……。急ごう、相手は」
「全体を見渡せるほどなのですね。義明君」
 心を支える撫子。そっと義明の手を握った。
 少しでも、義明がこの事で重荷にならないために……と。
「紅麗っていうヤツがいるなら、あまり心配しない方がいい。“中心”というか影法師探そうぜ」
 と、武威が言う。
 漂う命を追う猟犬座の犬は、こっちだと武威を誘うのだった。



〈3/急〉
 後をたどる全員。
 都会の脇道は、迷路と同じだ。猟犬座の犬に導かれて、しっかり足下に気をつけ歩く。
 そこで、先日に見たことのある……紅い月が天を照らしていた。
「ビンゴだな」
 武威が呟く。
 そして、銃に望遠鏡座のカードを魔法銃に読み込み遠くを見てみる。イザとなればライフルにもなるように射手座を忍ばせておく。
「……あれが“中心”のようだ」
 蓮也が言う。
「誰か来る」
「!?」
 義明の言葉で2人は身構える。
 角から、見知った顔が突如現れ構えている。
「……」
 沈黙。
「なんだ、神の剣のガキに天薙の嬢ちゃんか……あと……なんか神秘の使い手か……」
 つまらなそうに鬼鮫が武器の鞘を右手に持つ。
 柄を後ろにむけて、刀の鞘を右手に持つのは“攻撃しない”合図でもある(流派によって異なるだろうが)。
 此処からの抜刀は流石の鬼鮫も無理があるのだ。抑止圧力もない。
「お互いまたであったようだな。義明」
「義明くん、武威さん、撫子さん……」
 引き金から指を離したディテクターと、剣をペンダントに戻した茉夕良。
 その場の雰囲気は少しだけ緩む。しかし、本来の敵に対しての“緊張”“警戒”は怠っていない。
「此処でであったってことは……アレをみたんですね」
 義明は上を指す。


 紅い月。
 本来ならあり得ない存在。


「所謂、現象化の一種ってところでしょうか」
 撫子が皆に言う。
 偽りの姿であるが、それが影斬としての能力を持つ義明に“偽りでありながら、本物に見える”というなら、それは矛盾存在として“現象化”と呼んでいる。
「ああ、あれは象徴を映像化だけの偽り。しかし強力に存在している。アレは生きているんだ」
「生きている!?」
 その言葉に驚いた
「あの時、まだ幻影状態だったが……」
 義明が喋り始める。
「もしかして……ヤッパリ何かの復活? 影法師はその守護者?」
 茉夕良は訊く
 義明は其処までは分からないと首を振った。
「影法師はこの先にいる……ってわけじゃないな……」
 武威は猟犬座から大体の位置を掴む。
 どう見ても、追跡した“エネルギー”は遠近感が掴めず、結局はあの紅い月に辿るのだ。
 おそらく、
「空中というなら、跳んでいけるヤツしかいけないじゃないか」
「そうでもないかもしれません……」
 撫子が皆の先頭に立ち……
「我、念じる。全てを見出す龍の力を分け与えよ」
 と、唱える。
「義明くん、蓮也様、そして茉夕良様手を」
 と、言う。
 屍術が多少使える茉夕良。運命を糸で見る蓮也。
 そして、闇や影、幻影から真実を見抜く義明。
 3人の“属性”と撫子の全てを見る“龍晶眼”はさらにより強化される。


――見えました。 此処から角を100m先に
――影法師がいます。


 その言葉で、武威は射手座をホルスターのまま読み込ませ、鬼鮫、ディテクターと駆け出す。
「一般人が出しゃばっていいのか?」
 鬼鮫が訊いたが、
「そんなことは一度も言っていないぜ。しかし、この騒動を傍観する気は全くない」
 武威は不敵な笑いをする。
「かってにしろ」
 レースのために鍛え抜かれた肉体を持つ武威。
 既に修羅場をくぐり抜けているIO2の2人。

 たどり着いた先に、影法師がいた。
「其処までだ!」
 3人は各々の武器を構え、影法師に叫ぶ。
「1日でたどり着いたか。しかし、我を倒しても意味はない」
「何?」
「しかし、抑止にその男の持つ魔法銃があれば……更なる我の神、吸血神は舞い降りるであろう」
「吸血神だと! ふざけるな!」
 武威が魔法銃で撃った。
 ディテクターも鬼鮫の踏み込みを援護するかのように紅を撃つ。
 影法師に実際当たっているのかは分からない。ただ、身じろぎしていることは確かだ。
「完全に殺すな! 鬼鮫」
「峰打ちなんて何年もやってねぇよ! 怪物相手にはな!」
 居合い一閃で影を峰打ち(?)で殴る鬼鮫。
 影は、そのまま地面を転がる。
「!? 危ない!」
 武威が鬼鮫に向かって撃った。
「?」
 鬼鮫はすぐにかがみ込み、銃弾を避ける。
 何かが弾けた。
 もう一つの影法師が現れ、鬼鮫を取り込もうとしていたのだ。
 予め、アンドロメダ座を読み込ませ、危険察知の鎖を広げていた武威である。
――なかなかやる。
 影は笑っている。

 龍晶眼で見た3人が追いついた。
 詰めである。
「影法師、復活を止める方法を訊かせて貰おう」
 武威が魔法銃を突きつけ、間合いを縮め尋ねる。
「無理だ……既に起動式は動いている」
 影は笑っている。
「何?」


――我が死ぬときがその時だ。力を自らに受けた故にな……

 灰になって、紅い月に力が送り込まれる瞬間
「そうはさせません!」
「させないわ!」
 と、撫子が神斬を、茉夕良がカタリナを抜刀し、浄化しようとする。
 しかし、紅い月からの波動が彼女達を吹き飛ばした。
「きゃあ!」
「これほどまで! 成長しているのか!」
 運斬を覚醒させ、運命を斬ろうと試みる蓮也も糸の太さに歯が立たない。
――言ったであろう? 血を流しあえ。それが我が望みと!
 影は笑っている。

 しかし、蓮也はすこし“糸”をズラして、
 抑止反動で吐血する。腕が折れる感覚がする。
「義明! 紅麗!」
 と叫んだ。

 紅い月とその影の間に……


 影斬が水晶を、紅麗が斬魂刀を振りかぶって……


 影が送るエネルギーと影自体の魂の糸を切り伏せたのだ。

 蓮也が無理矢理、義明と“御柳紅麗がこの場所にいる”という運命をねじ曲げたのだ。
 義明は、何かあるとおもったのか、待機してどこかにいたらしい。

 一瞬大きな爆発が起こる。
 暴走するエネルギーを抑え込むため運命の糸で操る蓮也。そして、武威が、羊飼い、ヘビ使いといった“何かを服従、使役”する星座で完全に抑制する。


「無茶しすぎた」
 腕を押さえる蓮也。
 急いで撫子が駆け寄って怪我の具合を看ている。
「真実はわかったが……神の復活とは……吸血神とはいったい?」
 その場にいる者は同じ事を呟いていた。

 紅い月はそのまま遙か上空に留まっている。距離感は掴めないが確かに存在している。

「あ、おれ、きえる? ああ、そうか。また、長谷神社で……」
 紅麗はそのまま長谷神社に消えていく。
 何となく、自分の状況が分かったらしい。
 無理な運命のねじ曲げだったために、存在時間が短いのだ。

「今度はアレを どうやって倒すかだよな……」
 義明は影斬から戻り、呟いた。


 吸血神の復活は確実らしい。
 これからどうすべきか……紅い月を見て、考えた。
 その紅い月は、赤子の胎動に似ているようで気持ちが悪いものだった。


3話に続く



■登場人物
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】
【1703 御柳・紅麗 16 男 不良高校生&死神【護魂十三隊一番隊副長】】
【2276 御影・蓮也 18 男 大学生 概念操者】
【4464 聖・武威 24 男 レーサー/よろず屋】
【4788 皇・茉夕良 16 女 ヴィルトゥオーソ・ヴァイオリニスト】

■ライター通信
 滝照直樹です
 検索探知能力を持つ方が多いため、さてどうやって情報をと言うのに悩みましたが、なんとか纏めることが出来ました。
 星座調べとその意味合い(に近いもの)を調べるのは一寸しんどかったです。
 今回、話が長い分、久しぶり(?)に神格ハリセンを出してしまいました。犠牲者の蓮也さんご苦労様でした。

 3話に続きます。その時ご縁があれば宜しくお願いします。