コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


あちこちどーちゅーき〜燕〜


 燕が飛んでいる
 あいつは何処に行くのだろう?
 ついていこう
 遙か南から渡ってきたあいつ
 どこに巣を作るのだろう?
 この雑多な街にあいつらはやってきている
 五月晴れの青空に飛ぶあいつ

 もうそんな季節
 俺は相変わらず、街から街へ歩いてまわる
 燕は地球を縦断してここに来ている
 俺もいつか
 日本を出てみてみたい
 果てしない世界をみたい


 そう あいつが水平線を眺めてここに来る様に……



 俺はのんびり、燕の巣をみている。
 とあるニュータウンの駅前、そう言う名前が付いているのは行動経済成長の時からだから本当にニュータウンではないな。俺より年上だろう。
 其処のセンタービルにアイツが巣を作っている。
 正確には、去年に作られていた巣を補強していると言う感じだ。かなり賢い。
 この近辺に来る燕は皆、昔の巣の後を見つけると再利用するらしい。
 全員にそうなのかしらないけど。

 来たときに季節を感じさせる。
 雛の鳴き声と空を滑る様に飛んで餌を与える。
 雛を育て巣立った後いつの間にか居なくなる。
 遠い国に行ったり来たり。

 俺もいつかコイツ等みたいに日本を出て世界をみたいな、と思う。
 その前に語学の勉強だけどな。

 駅ビルの関係者らしい男の人が、赤いポールと新聞紙をもってきて、燕の巣の真下に敷いた。
 ああ、なるほど。
 糞害対策か
 美観は損ねるかもしれないが、上を見れば納得する。
 燕の可愛さで、真下のポールと新聞紙何て関係がなくなるものさ。
 共生出来ている証だな。
 もっとも、鳩やらカラスにもその共生を考えなきゃいけないんだろうけど……。
 あいつらからすれば差別だとかいいそうだが。

 俺が追いかけていた燕は既に見失っている。
 印象が強かった。
 とても黒い翼に、深紅の点。
 何かあったのか、足輪を付けていた。
 たしか、アレだろうか?
 観察記録するためのものっぽい。
 それにしても、かなり高価なモノだった気もする。
 何か指輪を連想するような……。


 パンとジュースを買って昼食を摂ると、鳩が寄って集って来る。
 無視していると勝手に膝の上に乗って奪おうとする鳩。
 なんちゅうやつだ。
 人を怖がらないようになったからか、図々しい。
 野生としての自覚はないのかと思った。
 そう言う状態にした人間(こっち)の責任でもあるんだろうけどね。

 鳩と格闘してから、立ち上がると……


 居た。
 追いかけていた燕。

 こっちを見ている様に思えるのは気のせいだろうか?
――ついてこい?
 アイツは飛んだ。
 付いていった。
 このベッドタウンは山を切り崩した場所なだけに勾配がきつい道。
 鍛えているから問題ないけど。


 たどり着いたところは開発地区になっていなかったらしい林が多い場所だった。
 そこに神社がある。
 燕はそこで消えた。
 そのかわり、その神社の境内に女性が立っていた。
 漆黒の服装、そして、見たことのある指輪をしている。

「まえから、追いかけてきたのね」
 彼女は笑う。
「まさか? 変化?」
 何となく察しが付いてしまった。
 彼女は頷く。
「人から言えばそうなのかな? すでに私は燕から変化になって、此処が好きなだけ。でも、誰も気が付かなかったな……。あなたが最初」
「最初?」



 彼女は笑うと遠くをみて話し始めた。
「昔に、私は此処の神主さんに救われたの。足輪を付けて貰って、いつでも分かる様にまでして貰った。最初は分からなかったけどね。でも、何故かその人に会いたくてここに来る様になっちゃった」
 其れがかなり昔のことだと思う。
 多少神秘をしる俺からでも、物品に術が施される火ぐらいは分かる。
 しかし、その指輪 〜燕の時は足輪〜 に一切術はかけられていない。
「好きだったんだ」
「そう。その人はもう居ないけど、私はこの季節になれば必ずここに戻って来るの」
 彼女は言った。
「付いてこいと言ってきたのは?」
「少し話がしたかったの。似ているから」
 彼女は恩人に再会したときの懐かしそうな、そんな笑顔で俺に言った。

 暫く彼女と話をしていた。
 俺は各地の体験。
 彼女は縦断旅行の体験。
 笑ったり、怖がったり……
 彼女は、
「とても楽しいね……嬉しいわ」
 と、途中よく分からないことを言った。
「ずっと旅を続けてね」
 彼女は俺にそう言った。


 時間が経つのをわすれて、気が付くと夜になっていた。
「あ、眠ってしまった」
 うっかり、眠ってしまったらしい。
 彼女はいない。
 しかし、そこに残されていたのは
 彼女の本来の姿の亡骸と指輪だった。
「そうか……」
 俺はそれ以上何も言わなかった。
 人の言葉では言ってはいけない気がして……。

 彼女の墓をつくり、その場所を去っていった。




 俺の持ち物が増えた。
 彼女が残した、指輪。
 少し金銭価値がある様に見える品だけど……。
 それ以上に、彼女の想いが篭もった……。

 つまり、道連れなんだ。


 End