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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


来たれ! ライトレンジャー



勝利を彩る虹を渡り
ライトレンジャー今日もゆく!
走れ! 輝く七色を胸に
光る笑顔を守るため




「ライトレンジャーを探して欲しいんです」
 目の前に座る、光と名乗った幼い少年は、迷いのない口調でそう言い切る。これ以上ないほど眉間をしかめた草間は、表情に困った末思わず胸の煙草を取り出そうとし――慌ててその手を引っ込めた。
 小さな子供の前でプカプカ煙草を吸うなど、ハードボイルドの名に劣る。
「……で? ライトレンジャーってのはなんなんだ」
「日曜日の朝やってる5人組の戦隊です。怪人をばったばったとやっつける強い人たちです!」

 ……しまった。やっぱりお子様なんて事務所の中に入れるんじゃなかった。

 
 草間の内心を聞いたかどうか少年はわずかに首をかしげ、草間の顔を覗き込んだ。
「やっぱり、だめですか?」
「いや、だめとかそういうんじゃない。あ、えーと、じゃあとりあえず……」
「ぼくのお父さん、怪人にやられちゃったんです」
 体よく追い返そうとした草間のことを敏感に察知したらしい。彼の言葉を遮り、光少年はそう言った。
「お母さん、あれからずっとずっと泣いてます。……ぼく、仇を取りたいんです。でもぼくだけじゃ敵わないから、ライトレンジャーと一緒になって、お父さんをあんなにしたヤツをやっつけるんだ……!」
「……怪人に?」

 光の目はまっすぐで、嘘を並べたてているようには見えなかった。
 もっと詳しく話を聞くべきかもしれないが、これ以上の深入りはやっかいな事に巻き込まれそうな気もする。
 草間が迷っていると、さっさと光は立ち上がった。
「……やっぱりいいです」
「あ? お、おい」
「大人に頼ろうと思ったぼくが間違いだったんだ。お父さんの仇はぼく一人で取ります。……お邪魔しました」




●来たれ! ライトレンジャー


「きゃ」
 彼女が草間興信所のドアを開けようとしたと同時に、突然中から扉が開け放たれ、一人の少年が飛び出してくる。
 彼女――シュライン・エマは、抱えていた買い物袋を落としそうになるところをすんでのところでこらえた。転げそうになっていたりんごを危機一髪でキャッチする。
「シュラインさん? ……え?! お、おいそこのガキ! どこいくんだ?」
「悠宇くん危ないわ! 荷物が!」
 彼女に付き合った買い物帰りで、ちょうどシュラインの後ろに立っていた羽角悠宇と初瀬日和も、突然のことに目を白黒させるばかり。
「おっと。さすが少年、足が速いですねぇ」
 唯一のんびりした口調だったのはシオン・レ・ハイで――腕にあるのはどうやってバランスをとっているのだろう、と首をひねるほどの大荷物だ――感心したように走り去る少年の後姿にそう漏らし、悠宇に「なにのん気なこと言ってんだよ!」とツッコまれる始末。

「武彦さん? 何かあったの?」
「シュライン、ちょうどいい所に帰ってきてくれた!」
 興信所の中を覗き込んだシュラインは、いかにもホッとした様子の草間と目が合う。
「頼む、あの子供捕まえておいてくれ。事情は後だ!」
「……よく分からないけど、分かったわ」
 一見かみ合っていないように聞こえる会話も、当事者たちにはそれで充分だったのだろう。頷きあう二人に、シオン・レ・ハイがぴゅぅ、と小さく口笛を吹いた。

 決断を下すと、シュラインの行動は早い。
「ごめん、これよろしくね」とシュラインは荷物を後ろにいた悠宇に押し付け、彼女は曲がり角の向こうに消えていく少年を追いかけ走り出す。
 アスファルトに響くパンプスのヒールの音が勇ましい。
「シュラインさん、私も行きます!」
 その後を追い、共に日和も身をひるがえす。
「お、おい日和!」
 そんな彼女の行動に、荷物を押し付けられた悠宇も走り出そうとした……が、その彼の行く手を阻んだのは、もはやどうやって抱えたらよいのか悩んでしまう、山のような荷物。
「はい。それじゃあ悠宇さん、私の分もヨロシク」
「お、おいコラ、ちょっと!」
 ちゃっかり荷物を悠宇に押し付け、にっこりと笑うシオン・レ・ハイ。
と、すぐに真剣な顔になりその身を翻すと、彼女たちの後を追う――いや、追おうとした。


「アウッチッ!!」
「え?! ……し、シュラインさん! シオンさんがバナナの皮にすべって転んでます!」
「もう! 肝心な時に相変わらずなんだから! あんなのほっといて、行くわよ日和ちゃん!」
「は、はい!」



     ■□■
     
     
     
「捕まえた!」
 いくらすばしっこい子供とはいえ、普段から(怪奇の類で)鍛えているシュラインたちには敵わないらしい。捕り物劇の末捉えられた少年は、シュラインの腕の中でなおもじたばたと暴れた。
「離せよ!」
「いーえ、離しません」
 でも、私たちにちゃんと説明してくれたら離してあげる。そうシュラインが言うと、ぴたりと少年は動きを止めた。
「お名前、は?」
 少年の前にしゃがみこみ、ふわりと笑った日和がそう問う。少年は困ったように頬を赤らめた後「……ひかる」と小さく呟いた。
「君、悠宇くんがここにいなくてよかったわね。……まあそれより。光君、どうして興信所にいたの? 武彦さんに何か頼みに来たのかしら」
「……あんなへっぽこ探偵、頼ったぼくが間違いだったよ!」
「あらあら、へっぽこ? 武彦さんもいなくてよかったわ」
 笑うシュライン。光少年をあしらう態度は慣れたものだ。
「あのね、光くん」
 日和が光と目線を合わせたまま、落ち着いた口調で問いかける。
「私たちは、あなたのことを助けてあげたいの。よければ、お話聞かせてくれないかしら」
 ――何か困ったことがあったから、草間さんのところまで来たんでしょう? 
 そう問う日和の言葉に、少年はうなずくでもなくただ黙り込んでいる。
 唇をへの字に曲げ、瞳をわずかに潤ませて、悔しそうに地面を睨んでいた光――と、視線を上げて表情をぱっと明るいものに変えた。
「ママ!」

 二人が慌ててその視線を追うと、そこには一人の女性が驚いたような顔をして立っていた。
 シュラインの腕から逃れた光は、そのままその女性に駆け寄っていく。そしてその膝辺りに抱きつくと、スカートに濡れた頬を押し付けた。
「どうしたの光? ……あの方たちは?」
「お母様、ですか?」
 いまだ戸惑った表情の彼女に、シュラインはつとめて穏やかに微笑んで見せた。
「私たちは探偵事務所のものです。よろしければ、お話を聞かせていただけませんか」
 
 
 

「そうですか、光が一人で……」
 二人は光少年の家に案内されていた。家は新築で、通されたリビングは住人の人柄を思わせるようなかわいい雑貨に囲まれていた――が、やや雑然としていて、どこか投げやりな様子が伺える。
 窓から指す日の光は充分なのに、どこか暗く感じるのはなぜだろう。

 片側に日和、その向かいに光とその母という組み合わせでソファに対面で座り、日和は少年の母に自分たちの身分の紹介と事情の説明を簡単にしていた。
と、そこへ席を外していたシュラインが戻ってくる。振り向く日和の前で、ぱちんと携帯を閉じてみせた。
「武彦さんに事情を聞いてきたわ。……武彦さんたら、早く来てねって言ったのに『そっちはお前たちでなんとかしてくれ』ですって、もう」
「シュラインさん……でも、それだけ信頼されてるってことですよ」
 日和の言葉に一瞬虚を突かれたような表情をちらり見せたシュラインだが、その笑顔は揺るがない。
「分かってるわ。もちろん日和ちゃんのこともよ?」
「……はい」
 片目をぱちりと日和に閉じて見せたシュラインは、すぐに視線を親子へと向ける。
「ごめんなさい。それでお母様、先ほども申し上げましたが、私たちは光君のお力になりたいんです」
 そして、シュラインはじっと光を見つめる。

「ねぇ光君。例えばね、このまま敵の所へ行って、反対に怪我をしたらお母様が余計心配するでしょう? だからね、今は一人で敵討ちよりも、私たちと一緒に一緒に策を練りましょう?」
「でも……ライトレンジャーが」
 少年の言葉を否定しないように、あくまでも穏やかにシュラインは語りかける。
「ライトレンジャーは地球の平和を脅かす敵から私たちを守るので忙しいんじゃないかしら。だからね、私達で知恵を働かせて何とかしましょう、ね?」


 と、何事かを考え込んでいた少年の母が顔をあげ、傍らの光少年の頭を優しく撫でた。
「光。お願いがあるんだけど」
「なに、ママ?」
「パパが好きだったユリの花、また買ってきてほしいの」
「……うん、分かった。また一本だけでいい?」
「ええ」
 少年は頷き、そして折り目正しくシュラインと日和に向かって頭を下げてから、部屋をぱたぱたと出て行く。

 その後姿を無言で見送った3人。再び口火を切ったのは、少年の母が最初だった。
「……ごめんなさい、これから先の話は、まだあの子に聞かせたくないんです」
 と、彼女は立ち上がり、二人を促した。
 そして光少年が出て行ったドアとは反対方向の部屋のドアを開ける。
 
 
 そこは和室だった。障子をくぐりぬけ、午後のあたたかな光が部屋を満たしている。
 新しいイグサの匂い。真新しい緑色を踏みしめ、部屋の隅へと歩み寄り――果たしてそこにあったのは、やはり新しい仏壇だった。
 一輪挿しのユリが揺れている。ほのかに香る白檀の匂いが、つい先ほどまで線香が点っていたことを示していた。
「あの子は……まだこの意味が分からないのです。いえ、分からないままにして、説明しようとしない私も……同じく本当には分かっていないのかもしれませんが」

 言葉を失う二人に、彼女は儚げに笑いかけた。
「あの人は突然逝ってしまいました。……撮影中の事故、だったんです。誰が悪いわけではありません。だけど、まだ結婚したばかりで、あの子もまだあんなに小さいのに、どうして」
「……お母様……」
 日和がそっとその肩に触れると、途端彼女ははらはらと涙をこぼした。
「あの人は……ええそうです、あの人はライトレンジャーだったんです。
新進のアクション俳優でした。初めての大役に、それは嬉しそうにあの子に言ってたんです。『パパはライトレンジャーなんだぞ、困った時はライトレンジャーを呼べな!』って。
それで……事故で大怪我をして、あの人がそのままいなくなって……だけどあの子は、まだ理解出来ないみたいなんです。私が泣いてばかりいるから、それでライトレンジャーを呼んで来る! って、毎日そればかりで……」


 そのまま、彼女は日和の胸で泣き崩れる。
 静かに目線を交し合った日和とシュラインだったが、しかし、彼女にかける言葉はお互い浮かばないままだった。



     ■□■



 一本のユリを握り締め、家路へと急ぐ光。
 見上げた空はいつの間にか曇っていた。ゴロゴロと雷らしき音が聞こえる。夕立かもしれない、と少年は力をこめて地面を蹴り続ける。
 ――カミナリ、ママ嫌いだから。ぼくがいなくて、寂しくてまた泣いちゃうかもしれない。

「勝利を彩る虹を渡り、ライトレンジャー今日もゆく! 走れ! 輝く七色を胸に、光る笑顔を守るため!」
 心細さをかき消すように、光は大声でライトレンジャーのテーマソングを歌う。
 細かい意味は分からないけれど、歌詞に自分の名前が出てくるので、光はこの曲が好きだった。虹をバックにライトレンジャーがポーズを取るラストカットは、カッコ良くて何度も何度も真似をした。
 すると必ず父親がやってきて言うのだ。「光、お前ももう一人前のライトレンジャーだな」と。
 ――ライトレンジャー、ママを助けてよ……。
 
 
 その時だった。
 目前の道を、炎がなぎ払った。むっと沸き起こる熱波に、光は思わず弾かれそうになる。
 触れていないのに熱い。ゴオオ、と何かが唸るような音。弾ける閃光、そして圧迫感。
天をなめるかのように、高く立ち上る炎。そして、そこから立ち上がったのは、二本の角を持つ異形の怪物だった。
「か……怪人だ……!」
 いつかのライトレンジャーにやっつけられていた、怪人の姿が光の脳裏をよぎる。
目前に立ち、赤い瞳で光をギロリと睨んだその怪物は、それに似ている様でまた全く違うようにも見えた。
 怪物が口を開く。息を吸う。その喉の奥で渦巻く炎の塊。
 また炎を吐かれる! そう思ったけれど、光の身体は強張って動かなかった。
「……こわ、い……らいと、ライトレンジャー……」
 怪物が、カッと口を開いた。
「助けて、ライトレンジャー!」


 目をつむり、叫んだ瞬間。
 光の身体が何かに抱きかかえられた。そのわずかなタイムラグの後に、彼のいた場所が再び炎でなぎ払われる。
「大丈夫か?!」
 
 そろりと目を開けた光少年が見たのは……ライトレンジャーではなく、おかしな頭をした3人組だった。
「悪をやっつけ、正義を救う! アフロンジャー・パープル!!」
「天に使わされし光の使者! アフロンジャー・シルバーです!!」
「……聖なるてんしぃ、ここに……さんじょー……あふろんじゃ……ううぅ、なんで俺がこんな格好を」




 パープルたる源とシルバーたるシオン……その後ろで情けなく涙ぐんでいるのは、勇ましく光少年を炎から助けたまではいいものの、ふと我に返って肩を落としているレッドたる草間だ。
「武彦さん! もっとしっかりセリフ言いなさい!」
 離れたところからは、監督然したシュラインが檄を飛ばしている。
「おい未来、もういいぞ」
 その後ろにいた悠宇が傍らの未来に一つ頷く。未来はそれに頷きかえし、ぱん、と一つ手を叩いて見せた。
 と、渦巻いていた炎が見る見るうちに収まって行き、異形の怪物が姿を霞ませていく。
「オレの使い魔をこんなことに使ってくれるなんてな。おい悠宇、貸しは高いぜ」
「そういうことは草間さんに言ってくれ」


 ―― 合流した一行が話し合い、練った策はこうだ。
 つまり、自分たちでライトレンジャーと怪人を演じ、光の目の前で怪人をやっつけたらいいのではないか、と。いつの間にかライトレンジャーがアフロンジャーになっていたが、それはまあ愛嬌というものだろう。



「お母様、大丈夫ですか?」
 一行の最後尾で事態を見守っていた光の母が、日和の問いかけにはっと我に返る。
「あ、あの……」
「私たちのことはいいですから。光くんのところへ行ってあげて下さい」
 日和がそう笑うと、彼女は慌てて光少年のもとへ走っていく。
「光!」
「……ま、ママ!」

 涙ぐんだ光少年が、助けてくれたアフロンジャーレッドにしっかり蹴りをいれてから母親に駆け寄る。
 ひしと抱き合った親子の感動の場面――と、少年が言った。
「ごめんねママ、ぼくが守って上げられなくて」
「え?」
「ライトレンジャーは来てくれなかったけど、今度からはパパの代わりにぼくがママを守るから」
「光……」
「パパ、もういないんでしょう? ……よく分からないけど、パパはライトレンジャーだから忙しいんだよね。だから、ママのことはぼくが守るよ!」


 再び抱き合った親子の上空。立ち込めていた雲が晴れ、7色の虹の橋が天空を渡っていく。
「……パパはね、いなくなったんじゃないの。私たちをちゃんと見守っててくれてるわ。ほら光。空に虹がかかってるでしょう?」
「ホントだ! ライトレンジャーの勝利の証だね!」




「……そうなのか?」
 悠宇がそっと傍らの日和に話しかけると、手を組み、じっと祈るような仕草をしていた日和が顔を上げた。
そして悠宇にいたずらっぽく笑いかける。
「悠宇くん、ライトレンジャーのテーマソング、知らないの?」
「……お前、よくそんなの知ってるな。それで『虹』か」
なんてね、とちろりと舌を出す日和。
「私も、さっきお母様に教えていただいたんだけど」

 日和が再び祈り始めると……彼女の力で、上空の虹がいっそうはっきりと輝きはじめる。
それを見上げた一同の中で、その歌を一番最初に歌いだしたのは、さて誰だったのだろう――

 


勝利を彩る虹を渡り
ライトレンジャー今日もゆく!
走れ! 輝く七色を胸に
光る笑顔を守るため





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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【1108 / 本郷源 / ほんごう・みなと / 女 / 6歳 / オーナー 小学生 獣人】
【0086 / シュライン・エマ / しゅらいん・えま / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【3525 / 羽角悠宇 / はすみ・ゆう / 男 / 16歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【3356 / シオン・レ・ハイ / しおん・れ・はい / 男 / 42歳 / びんぼーにん(食住)+α】
【3524 / 初瀬日和 / はつせ・ひより / 女 / 16歳 / 高校生】
【5017 / 来琉鳩未来 / くるはと・みらい / 男 / 24歳 / ラーメン職人と悪魔召喚師】

(受注順)



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          ライター通信           
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こんにちは、つなみです。この度は発注くださり、誠にありがとうございました。

さて、いかがでしたでしょうか! 今回は戦隊モノ? と思わせて(笑)結局はいつものお話のようになった気がします。
シュラインさん、いつもありがとうございます。いつもさすが! と唸ってしまうプレイング、今回も出来る限り繁栄させていただいたつもりですが、さていかがでしたでしょうか?
どちらかというと、今回は草間さんと夫婦漫才的なやり取りが多かったかもしれません(笑)気に入ってくださるとウレシイです。

大変お待たせして申し訳ありませんでした。
今後とも精進していきますので、もし機会がありましたらぜひご参加ください。
あと、感想などありましたらぜひお寄せくださいね。励みにさせていただきます。


それでは、つなみでした。