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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


夜の手鞠唄


*オープニング

朝食を終えて互いにくつろいでいた時間に、新聞を読んでいた草間・零が口を開いた。
「まぁ、公園の犬の石像がいなくなったんですって」
「犬の石像が?」
「そう。あ、あとそこにある女の子の像からは鞠がなくなっているそうですよ」
「鞠だけが、か?」
「ええ。そうみたいです」
不可思議な内容に、顔をしかめた草間・武彦に、零は話を続ける。
「公園を造る時に両方とも一緒に…造られたみたいです。鞠を持った女の子の像も、犬の像も、人々から親しまれていたらしいですよ」
原因がわからず公園の管理者は困っている…と記事を読む零の声を聞きながら、草間は煙草に火をつける。
「人々から大切にされて…魂でも宿って自分で動いていったんでしょうか?」
首を傾げてそう言う零に、草間は気のなさそうな様子で「ああそうなのかもな」と煙を吐き出した。
そして、吐き出した煙が消えていった頃に玄関のブザーが鳴った。
「あ、はい」
零は新聞を畳んで立ち上がり、玄関に向かう。
「お待たせしました」と言って扉を開けると、零の目線の下にちんまりと幼い少女が立っていた。
おかっぱ頭に赤の着物姿という、現在では珍しい格好をした少女は、真ん丸い目をぱちくりとさせて零を見上げている。
「えぇと、ご依頼、ですか?」
そう問い掛けた零に対し、少女はこっくりと頷いた。
「同じ公園に居る犬に、鞠を取られてしまったの。それを取り返すのを手伝ってほしいの」


***


 「依頼人はツクモ神の少女ですか…」
 学校帰りにバイト探しをしにきた海原・みなもは零から話を聞き、そう呟いた。
 「同じ公園の犬…の像が、鞠を取っていったんですね」
 穏やかな調子でマリオン・バーガンディが言った。
 「仲良くなりたかったのかもね。んー…犬は鞠を取っていったとき、どんな様子だった?」
 シュライン・エマの問い掛けに、少女は小首を傾げて考え込んだ。
 「…よくは覚えてないけど…一回こっちを振り返ったと思う…」
 これで参考になるだろうか。少々不安な様子でこちらを窺う少女に、シュラインは優しく微笑む。
 「ありがとう。わかったわ」
 「一度振り返った…ということは、追いかけてきてほしかったのかもしれませんね」
 そう言うみなもに、他の二人と零も頷いた。
 「鞠がないと落ち着かないの…」
 しょんぼりと肩を落とす少女に、みなもが少女の視線に合わせてしゃがんで話す。
 「大丈夫。あたしたち頑張りますから。鞠も戻ってきますよ」
 にっこりと笑うみなもにつられるように少女も微かに笑みを浮かべた。
 「…んーと、じゃぁ今から公園に行って犬を探す?…といってもまだ人がいるでしょうけど」
 公園に立つ像と同じ格好の少女が公園付近をうろうろしているのは、目立つかもしれない。そう思って言ったシュラインに、少女は言う。
 「あ、あのね…犬を探すのは、夜でもいい?今でも動けるのは動けるんだけど、夜のほうが動きやすいの」
 「私は構いませんよ」
 そう言ったマリオンに続き、みなもとシュラインも答える。
 「ええ、私もいいですよ。お夕飯の準備をしてから、公園に行きますね」
 「夜、ね。わかったわ。じゃぁ九時頃に公園に集合、でいいかしら?」
 シュラインの提案に二人は頷いた。少女もこっくりと首を縦に振ると、ソファから立ち上がり、ちょこんと頭を下げてから去って行った。

*夜の公園にて

陽が落ちて、すっかり辺りが暗くなった時間。
三人は少女の元へと集まり、犬が通っていたような跡を辿っていた。
「そういえば、あなたは名前はないの?」
 歩きながらシュラインが少女に聞くと、彼女はうん、と頷いた。
 「ふーんそうなのね…じゃぁ、コマリちゃんって呼んでもいいかしら?」
 「コマリ?」
 少女は目をぱちくりとさせてその名を言ったあとにこりと笑い、
 「うん、いいよ」
 と言った。
 「あ、犬さんに名前はありますか?」
 みなもが問いに少女は「テツ」と答えた。
 「前にそう呼ばれてたと思う」
 「テツさん、ですか」
 「探すときに、呼んでみましょうかね」


*追いかけっこ

 重い石が擦っていったような跡を辿っていくと、低木がたくさん植えられている場所でそれは途切れていた。
 「この辺りにいるんでしょうか…」
 と、様子を窺っていると、植え込みから何かが動く音がガサガサ、と響いた。
 「テツさんでしょうか」
 「注意を引いてみましょう」
 シュラインはそう言うと、犬笛の声を模し、高く細い音が彼女の口から発せられた。すると再び植え込みで動く音がし、それはこちらへと近づいてきた。
 「テツ?」「テツさーん!」
 マリオンとみなもが呼びかけると、木の間からひょっこりと鞠をくわえた犬―テツが顔を出した。
 「あっいた!」
 思わず声をあげた少女のほうを見ると、テツはぎょっとした顔になり、植え込みから出ると一目散に駆け出した。
 「私が追いかけましょう」
 マリオンはそう言い、テツの走っていった方向を見定め、トン、と軽く足を一歩踏み出したかと思うと風景に溶け込むようにその場から姿を消した。マリオンは空間と空間を繋ぎ、そこを行き来する能力を持っていた。今その力を使い、テツがいるであろう場所へ先回りすべく向かったのだ。
 「私たちも行きましょう」
 「はい!」
 「コマリちゃん、無理はしなくていいからね」
 「うん、大丈夫」
 とてとてと一生懸命走っている様子ながら遅い少女に合わせて、二人もマリオンとテツの後を追った。

 全力疾走していたテツの前に、彼とは対照的に落ち着いた様子のマリオンが空間を渡って現れた。
 「はい、止まってくださいね」
 マリオンの突然の出現に驚き、テツは急ブレーキをかけて止まる際、口から鞠を落としてしまった。
 慌てるテツから、マリオンはひょいと鞠を取る。
 「あんまりいたずらすると、少女さんと仲よくなれないですよ」
 しゃがんでそう言ったマリオンの言葉がわかるかのように、テツは耳を垂らして大人しく座った。そんな様子のテツの頭を撫でてやっていると、少女と他の二人もこちらへとやってきた。

*みんな仲良く

 「一緒に遊びたかったの?」
 観念したのか、大人しく座っているテツに少女が問い掛けると、テツはしょんぼりと顔を俯かせてクーンと鳴いた。
 三人が考えたように、テツはただ少女と一緒に遊びたかっただけなのだ。
 公園と一緒に造られて以来、互いの姿は見えるものの、距離は遠かった。
なんとか一緒に遊びたい…そう思って昨日、少女の気を引くために鞠を取るという行動に出たのだが―少女の足の速さを考えずに鞠を取ったまま疾走してしまい、気づいて立ち止まって振り返っても当然少女の姿はなく。遊んで欲しかっただけで、少女に悪いことがしたかったのではないテツはすぐに謝ろうと思った。けれど、なんとなく動けずに。
 「謝るタイミングを逃して、出るに出られなくなって隠れた…ってとこかしらね」
 シュラインの言葉に小さくなったテツに少女は言う。
 「わからなくてごめんね?」
 少女の言葉にテツは勢いよく首を横に振り、その後「ごめんなさい」と言うように、鼻先を少女の手にちょんと当てた。微笑ましいその様に三人は顔を綻ばせた。
 「仲直りできて良かったですね♪」
 にっこりと笑うみなもにシュラインも微笑んで頷く。
 「それじゃ、一緒に遊ぼう」
 少女がそう言うと、いいの?と首を傾げてテツは少女を見上げた。
 「うん、一緒に遊ぼう」
 と少女は笑顔で頷いた。

 「楽しそうね」
 「そうですね」
 二人が遊ぶのを微笑ましく見つめる三人。それぞれの手にはマリオンが持ってきた缶の飲み物がある。和やかに飲み物を飲みつつ話していると、みなもはふと顔を曇らせ、こう言った。
 「でも…こうして仲良くなれたんだから…コマリちゃんとテツさんが近い場所にいられるといいんですけどね」
 「そうね…元々離れていたから寂しく思ったんだろうし…」
 「公園の管理者に掛け合ってみますか?」
 マリオンの提案に二人は「そうですね」「やってみましょう」と頷いた。
 「皆仲良く…幸せに、なれるといいですよね」
 優しい目で少女とテツを見つめるみなもに、シュラインとマリオンも同意するように微笑んで二人を見つめた。

 暫くしてから。もう大丈夫だろうと思った三人は帰ることにした。
 「そろそろ私たちは帰るけど…これからは二人で遊べるわね?」
 「うん!ありがとうお姉さんとお兄さん!」
 明るく笑って言うコマリの隣で、テツもわん!と一声吠えて尻尾を振った。

 翌日、事の子細を彼女たちから聞いた公園の管理者は、少女とテツを近くに置けるよう便宜を図る、と約束した。

 それから少女とテツは、二人で一緒に遊ぶようになった。
 夜にそこの公園を通ると、時折少女の手鞠唄と、楽しげにはしゃぐ犬の声が聞こえてくるという。


 終.

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【1252 / 海原・みなも / 女性 / 13歳 / 中学生 】
【4164 / マリオン・バーガンディ / 男性 / 275歳 / 元キュレーター・研究者・研究所所長 】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、初めまして。佳崎翠と申します。
今回はご参加くださり本当にありがとうございました!
お待たせして申し訳ございません;
優しい皆さんのおかげで少女とテツも仲よくなれました。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。