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<東京怪談・PCゲームノベル>


【夢紡樹】−ユメウタツムギ− 三の夢


------<ティータイム>------------------------

 久しぶりにウィンドーショッピングを楽しんだ海原みなもは、手にたくさんの袋を抱えていた。
 つい、店頭に可愛らしいアクセサリーや服などを見つけてしまい、ふらりと中に入ってしまったのがいけなかった。
 お姉様に似合うかもしれません、と小さく呟いていたのを聞きつけた店員が、あれやこれやと次々とみなもに商品を見せ始める。
 そしてその話を聞いている間に、みなもは本当にそれが姉に似合う様な気がして購入してしまったのだった。
 その手の方法で何件か。
 流石に手にした荷物の多さにみなもは怖くなり、街から逃げる様に帰ってきたのだった。

「ちょっと買いすぎました‥‥」

 ふぅ、と溜息を吐きつつふと思い出した様に、何度か通っている喫茶店を思い出す。
 一息つくには丁度良いかもしれない、とみなもは喫茶店へと足を向けた。
 喫茶店へと向かう道は花が咲き乱れ、みなもの目を楽しませる。
 疲弊感漂っていたみなもの表情がほんの少しだけ和らいだ様に見えた。

 カラン、と何時もと同じ音が店内に響くと、ピンクのツインテールを揺らしてウェイトレスのリリィがやってきた。

「いらっしゃいませー。あ、今日はお買い物?」

 みなもの手荷物を眺めてリリィが尋ねると、みなもは小さく頷いて恥ずかしそうに笑う。

「ちょっと買いすぎてしまったんですけどね」
「そういう時ってあるある! でもね、アタシも衝動買いしちゃう方なんだけど、後で買わないで後悔するよりはいいと思うの」
「そうでしょうか‥‥」
「うん、だって悔しくなっちゃうもん。それにそれが誰かへのプレゼントとかだったら、笑顔が見れるから良いかなーって思うし」

 みなもは姉の笑顔を思い浮かべてみる。それと引き替えだったらこの大荷物も無駄な買い物ではないかもしれない。リリィに頷いて見せながら、みなもはいつもと同じ席に座りいつもと同じように尋ねる。

「そうかもしれません。えっと‥‥今日のオススメってありますか?」
「今日のオススメはー‥‥和菓子食べれるならそれをオススメしちゃう」
「和菓子ですか? 食べられます」
「本当? それじゃ、お抹茶セットで良い?」
「はい」

 少々お待ち下さい、と笑顔を浮かべたリリィはカウンターへと走っていく。
 相変わらずの雰囲気を持つ店内は人形などで溢れている。
 手元の可愛らしい人形を手にとって眺めていると、頼んだ品が運ばれてきた。

「おまちどーさまー」

 目の前に置かれたのは涼しげな寒天で作られたお菓子だった。
 周りを水に見立てた寒天の中に、色とりどりの細工が成されている。中で泳いでいるのは金魚だろうか。
 食べるのが勿体ない様な品だった。
 点てられた抹茶も良い香りを放っている。

「凄いです‥‥食べるのが勿体ない位」
「ふふー。でしょ? ちょっと早い様な気もするけど夏を先取りな気分でドウゾ♪」
「いただきます」

 みなもはその美味しそうにその和菓子を頬張り、抹茶を口に運ぶ。
 抹茶の苦みが和菓子の上品な甘さで緩和され、丁度良い甘味を口の中に残す。
 満面の笑みでそれを平らげたみなもは、代金を払いながらこれまたいつもと同じように夢の卵を買う。
 いくら貘がタダでよいですよ、と言ってもみなもは申し訳なく思っているのかお金を払うと言って聞かない。
 苦笑しながら貘は代金を受け取り、みなもにバスケットを差し出した。
 みなもは特に選ばずに、ひょいと一個の卵を貰うと夢紡樹を後にした。


------<夢の中で>------------------------

 もう慣れたものだった。
 夢の卵を枕元に置き、みなもはシャワーを浴びてパジャマを纏うとベッドに転がる。
 うつぶせになって足をパタパタとさせながら夢の卵を見つめて。

「今日は選ばないで買ってきてしまったけれど、どんな夢を見るんでしょう‥‥‥」

 楽しみです、と呟いてみなもは瞳を閉じる。
 ゆっくりと睡魔に誘われるままに、みなもは夢へと落ちていった。



 あれ?、とみなもは声を上げたつもりだった。
 しかし聞こえてくるのは、モー、という牛の鳴き声だけ。
 何度声をあげようと、その度に牛の鳴き声が聞こえてくる。
 どうやらみなもは『牛』になっている様だった。
 気付いてみれば四足歩行で牧場内をのんびりと歩いていた。
 青々とした牧草が足下には生え、ふと空を見上げてみれば抜ける様な青空が広がっている。しかし辺りはどこまでも緑の平原が続いているだけで、今がどの時代で場所なのかは見当もつかなかった。
 これは自分が牛だからということもあるのだろうか、とみなもは思う。
 思考が上手くまとまらなかった。
 はぁ、と軽い溜息を吐くみなも。
 夢の中なのだから、牛の生活を楽しむのは悪くないかもしれない、とみなもはその状況を楽しむ事にしたのだった。

 牛舎の中に他の牛と共に押し込められたみなもは、与えられる草を口にする。
 人間の自分だったら食べられないであろう食べ物は、牛である自分にはとても美味しかった。
 一度飲み込み人間ならそれで終わりの筈だ。
 しかし、牛は反芻動物。
 胃から再び草は口の中に戻され、もう一度咀嚼することになる。
 初めての反芻体験にみなもは泣きそうになる。胃から迫り上がるなんともいえない感覚は一生忘れる事は出来ないのではないかとさえ思った。

 そんな経験もしたが、楽しい事もたくさんあった。
 緑の草原を風を切って駆け抜け、気持ちよさを感じる。空からは春の柔らかな日差しが、そよ風が吹き抜ける度に草が緑の波を作る。それを目で追うのも楽しかった。
 そして疲れたらのんびりと昼寝をする。
 ぽかぽかとした日差しの中の昼寝は格別だった。
 たまに苦い薬の様なものを飲まされたりもするが、なんだろうと思いつつもそれを吐き出すようなことはしない。身体を思っての事なのだろうと勝手に解釈をする。結構牛の舌というものは敏感に出来ているのかもしれない。

 みなもはそれなりに楽しんで生活を送っていたが、恥ずかしさを覚える事が一つだけあった。
 それは乳搾りに他ならない。
 手慣れた手つきで行われる毎日の乳搾り。
 リズミカルに搾られ、痛かったり乳の出る感覚が気持ちよかったりと複雑な心境をみなもに与える。
 牛なのだから牛乳として乳を搾られて当たり前だとは思うものの、その乳を誰かが口にすると考えただけで更に頬が火照る様な気がしてくる。
 美味しいと思って貰えるなら良いけれど、と思いつつ、みなもは毎日痛い位に張る乳を恥ずかしいと思いながらも乳を搾られ続けた。

 そんなある日の事だった。
 他の牛たちと共にトラックに乗せられ、みなもたちは何処かに連れて行かれる。
 顔を伸ばしてトラックの隙間から外を眺めても、何も分からなかった。トラックの中にも混乱の思いが渦巻く。
 他の牛たちも何処に連れて行かれるのか分からない様だった。
 やがてトラックが動きを止め、人間は牛たちを暗くて狭い場所へと追い立てる。
 逆らおうとしても無駄だった。
 皆その中へと押し込まれてしまうと順番に機械にかけられる。何が起こったのかみなもには分からなかった。
 目の前が真っ赤に染まる。
 恐怖の声を上げる事も許されず、首筋を半分切られ一匹目の牛が機械から投げ出された。
 それを人間が片足をワイヤーに引っ掛け吊るし上げる。首から血を流してもまだ牛は生きていた。
 恐怖に見開かれた目が真っ直ぐにみなもを見つめる。
 みなもは恐怖に耐えきれずに悲鳴を上げた。
 他の牛たちも今から身に起きる事に気づき、悲鳴を上げ始める。しかし人間達は気にもとめずに淡々と作業を進めていく。
 辺り一面吹き出した血でべったりと赤く染まっていた。
 恐怖の渦巻く赤の部屋。
 逃げる事すら許されず、そこからみなもが助かる術はない。
 だんだんと牛の数が減っていき、ついにみなもの番が来た。
 逃げまどうみなもを取り押さえ、みなもを機械へと押し込む。
 絶対にイヤ、とみなもは強く思うがぐるんと回転する機械。
 牛であるみなもの視界が赤に染まった。


------<夢の後で>------------------------
 
 はぁはぁ、と肩で息をしてみなもは目を覚ました。
 脂汗が頬を伝い、全身汗でびっしょりだった。
 みなもはゆっくりと喉元に手を当てる。
 そして手を眺めて血が流れていない事を確認し、ほっとした溜息を吐いた。
 首に当てられた刃の感触を生々しく覚えている。
 あの冷たい感触は忘れられない。
 牛であった自分はどうなってしまったのだろうか。
 その続きを考えたくなくて、みなもは首をぶんぶんと左右に振った。
 とりあえずこの汗を流して、先ほどの血にまみれた夢も全て洗い流してしまおう、とみなもは立ち上がる。
 まだ夢の余韻なのか足下がふらついていたが、みなもはゆっくりとバスルームへと向かったのだった。

「お姉様に明日プレゼントを渡しに行きましょう‥‥」

 姉の笑顔を見たらこの恐怖は消えるかもしれない、と思いながら。
 
 

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■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

●1252/海原・みなも/女性 /13歳/中学生


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■□■ライター通信■□■
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こんにちは。夕凪沙久夜です。
3回目の夢の卵への挑戦、ありがとうございます。 (礼)

仰られる通り、乳牛が食用になることは無いと思うのですが、プレイング通りに表記させて頂きました。
今回は悪夢の様でしたが、如何でしたでしょうか。
趣味趣向に任せるとの事でしたが、今回はちょっとソフトな表現にしておきました。書ききってしまうと何処までも行ってしまいそうだったので。(苦笑)
少しでも楽しんで頂けると良いのですけれど。

これからもみなもさんのご活躍も楽しみにしております。
ありがとうございました。